説明

ガス検知素子

【課題】、環境温度による影響を受け難いガス検知素子を提供する。
【解決手段】被検知ガスと接触自在に設けられたガス感応部12を備え、自己加熱可能なガス検知素子1であって、ガス拡散性と少なくともガス感応部12が到達する温度に対する耐熱性とを有する保温部材13で、ガス感応部12を被覆してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検知ガスと接触自在に設けられたガス感応部を備え、自己加熱可能なガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自己加熱可能な、所謂自己加熱型のガス検知素子としては、接触燃焼式ガス検知素子、半導体式ガス検知素子、固体電解質式ガス検知素子等が知られている。
例えば、接触燃焼式ガス検知素子は、アルミナ等の金属酸化物焼結体に白金等の貴金属触媒を担持したガス感応部としての燃焼触媒部を、白金等の貴金属線に設けてあり、燃焼触媒部において検知対象となる被検知ガスを貴金属触媒と接触・燃焼させることで、燃焼の際に生じる温度変化を貴金属線の抵抗値の変化として検出する。被検知ガスの燃焼熱は被検知ガスの濃度に比例し、貴金属線の抵抗値は燃焼熱に比例するため、被検知ガスの燃焼による貴金属線の抵抗の変化値を測定することによって被検知ガスの濃度を測定することができる。
【0003】
このような接触燃焼式ガス検知素子は、例えば、燃料電池からの水素の漏れを検知する水素ガスセンサとして、水素燃料電池自動車(FCV)に採用されている。FCVは、ユーザーが燃料電池システムを起動させようと操作すると、まず水素ガスセンサが起動して水素の濃度を検知し、水素の漏れがないことを確認した後、燃料電池システムが起動する。このため、FCVでは、ユーザーが燃料電池システムを起動させようと操作してから実際に起動するまでにはタイムラグが発生することになり、このタイムラグを短くするために水素ガスセンサが起動してから水素を検知可能になるまでの時間を短縮することが求められる。近年では、FCVは−30℃のような低温の環境下においても使用できるようになり、これに伴い、水素ガスセンサにおいても、−30℃において使用可能、特にその環境下で水素を検知可能となるまでの時間が短いものが求められている。
【0004】
尚、本発明における従来技術となる接触燃焼式ガス検知素子等の自己加熱型のガス検知素子は、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来の接触燃焼式ガス検知素子では、上述の通り、被検知ガスの燃焼に伴う温度変化を検出するものであるため、環境温度の影響を受け易かった。通常、接触燃焼式ガス検知素子を用いたガスセンサにおいては、温度補償素子を設けて環境温度の影響を少なくしているが、−20℃〜−30℃のような低温下では、ガス検知素子の温度が不安定となり検知精度に影響が出るという問題があった。
また、その他の自己加熱型のガス検知素子についても、ガス検知素子の温度は環境温度によって影響を受けるため、同様の問題が生じていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、環境温度による影響を受け難いガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知素子の特徴構成は、被検知ガスと接触自在に設けられたガス感応部を備え、自己加熱可能なガス検知素子であって、ガス拡散性と少なくとも前記ガス感応部が到達する温度に対する耐熱性とを有する保温部材で、前記ガス感応部を被覆した点にある。
【0008】
本構成のように、ガス感応部を保温部材で被覆することにより、ガス検知素子を設置している環境の温度のガス感応部への影響を低減することができ、自己加熱による温度を維持することができる。
また、保温部材はガス拡散性を有しており、被検知ガスは保温部材を介してガス感応部に到達できるため、保温部材をガス感応部の近傍に設けることができ、保温効果が高まる。
さらに、保温部材は、少なくともガス感応部が到達する温度に対する耐熱性を有しているため、ガス感応部の近傍に設けても熱分解等によって悪影響を及ぼすことが無い。
したがって、本構成によれば、環境温度に関わらず、被検知ガスに対する検知精度を維持することができる。
【0009】
本発明に係るガス検知素子において、前記ガス感応部は貴金属線に設けることが好ましい。
本構成のように、貴金属線にガス感応部を設けた、所謂ビーズ型のものに対して、保温部材を被覆することにより、特に効果が高まる。
【0010】
本発明に係るガス検知素子において、前記保温部材は無機繊維からなる不織布であることが好ましい。
本構成によれば、良好な耐熱性とガス拡散性を有する保温部材を実現できる。
【0011】
本発明に係るガス検知素子は、前記ガス感応部において前記被検知ガスを燃焼させることにより、当該燃焼に伴う温度変化を検出するものであることが好ましい。
本構成のような、ガス感応部において被検知ガスを燃焼させて、その温度変化を検出する接触燃焼式ガス検知素子に対しては、特に保温部材による効果が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るガス検知素子を用いたガスセンサの一実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、ガス検知素子として接触燃焼式ガス検知素子を例示するが、本発明はこれに限られるものではない。その他のガス検知素子として、熱線型半導体式ガス検知素子、固体電解質式ガス検知素子等、従来公知の自己加熱型のガス検知素子が挙げられる。
【0013】
本実施形態に係るガスセンサは、図3に示すように、被検知ガスを燃焼させて検知する接触燃焼式ガス検知素子1と、環境の変化等、被検知ガスの燃焼以外の温度変化に基づく、接触燃焼式ガス検知素子1の抵抗値の変化を補正する温度補償素子10と、固定抵抗R1,R2とをブリッジ回路に組み込んで構成してある。ブリッジ回路は、電源Eによって常時約90〜120mAの電流を供給し、接触ガス検知素子1を被検知ガスが接触燃焼し易い温度に保持してある。
【0014】
接触燃焼式ガス検知素子1と温度補償素子10とは、抵抗値が等しくなるように設定してある。このため、被検知ガスが存在しない場合には、ブリッジ回路は平衡状態となり、センサ出力Vは生じない。一方、被検知ガスが存在すると、その燃焼によって接触燃焼式ガス検知素子1の温度が上昇して抵抗値が大きくなるため、ブリッジ回路の平衡がくずれ、センサ出力Vが生じる。このセンサ出力Vは被検知ガスの濃度に比例するため、このガスセンサにより空気中の被検知ガスの濃度を測定することができる。
【0015】
接触燃焼式ガス検知素子1は、図2に示すように、コイル状の貴金属線11に、被検知ガスを燃焼させる燃焼触媒部12をガス感応部として被検知ガスと接触自在に設けてある。貴金属線11の両端は、図1に示すように、それぞれのニッケルピン2と連結させることにより、センサ基台3に取付けてあり、貴金属線の抵抗値はニッケルピンを介して測定可能にしてある。センサ基台3には、ガスが流通可能な通気口41を備える円筒形状のハウジング4が取付けてある。ハウジング4の内部には保温部材13が充填してあり、燃焼触媒部12は保温部材13で被覆された状態になっている。
【0016】
燃焼触媒部12は、触媒担体に貴金属触媒を担持してある。貴金属触媒としては、白金、パラジウム、白金とパラジウム等が使用でき、特に限定されない。触媒担体は、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカアルミナ等の金属酸化物にセリア、ランタン等の希土類金属酸化物を担持した焼結体を好ましく適用することができる。金属酸化物としてアルミナ及びアルミナシリカの少なくともいずれか一方を用いる場合には、作製する触媒担体の細孔径を小さく、比表面積を大きくすることができるため、触媒担体に貴金属触媒を高分散させることができ、好ましい。もちろん、触媒担体はセリア等の希土類金属酸化物焼結体を主成分とすることもできる。
【0017】
燃焼触媒部12は、略球形であることが好ましい。燃焼触媒部12が略球形であれば、燃焼触媒部12の表面における温度変化が貴金属線11に均等に伝わるため、貴金属線11の抵抗値は安定し易く、初期安定時間をより短くすることができる。
【0018】
また、燃焼触媒部12は、特に限定されないが、例えば、見掛け容積が0.014mm3以下となるように設ける。見掛け容積とは、内部の貴金属線11や燃焼触媒部12の細孔等を含んだ容積である。このような見掛け容積が小さい燃焼触媒部12を備える接触燃焼式ガス検知素子1は、燃焼触媒部12の付近の温度等が貴金属線11に伝わり易くなり、また燃焼触媒部12の全体の温度も安定し易くなるため好ましい。
【0019】
貴金属線11は、材質、線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の接触燃焼式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されないが、本実施形態においては、燃焼触媒部12の見掛け容積を小さくするため、線径、コイル径を小さくする方が好ましく、例えば、線径10μm、コイル内径50μm、コイル巻数6ターン程度のものを使用する。貴金属線11の材質としては白金等を適用でき、特に限定されないが、例えば、白金にロジウムを8〜10%含有させた白金ロジウムは硬く、コイル内径が小さいコイル状に加工し易いため好ましい。
【0020】
保温部材13は、無機繊維からなる不織布で形成してある。無機繊維としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ等のセラミックス繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が使用でき、燃焼触媒部12が到達し得る温度に応じ、少なくともその温度に対して耐熱性を有するものを適宜選択すればよい。もちろん、無機繊維に限定されるものでなく、耐熱性を有するものであれば、他の材料も好ましく使用することができる。不織布は、内部に十分な空気を保持する保温機能を有すると共に、内部の空間が一方側から他方側へ連通しており一方側から近づいてきたガスを他方側へ拡散させるガス拡散性を有するため、本発明における保温材13として好ましく適用することができる。不織布の密度は、例えば0.01〜0.5g/cm3となるように設定することができるが、特に限定されない。すなわち、不織布の密度は、少なくとも被検知ガスと被検知ガスを燃焼させる酸素ガスとが拡散して燃焼触媒部12に到達できるように、適宜設定すればよい。このような保温部材13を燃焼触媒部12に設けることにより、環境温度の変動による燃焼触媒部12への影響を低減でき、燃焼触媒部12の自己加熱による温度を維持することができる。このため、被検知ガスの燃焼による温度変化を検出し易くなり、被検知ガスに対する検知精度を維持することができる。尚、本実施形態では、保温部材13は、燃焼触媒部12を被覆すると共に、ハウジング4の内部全体に充填した場合を例示したが、特に限定されず、例えば、燃焼触媒部12の近傍のみに設けることもできる。また、保温部材13が燃焼触媒部12を被覆するとは、燃焼触媒部12と保温部材13とが接触しているか否かに関わらず、燃焼触媒部12の周囲に存在していることを意味する。保温部材13は、保温性とガス拡散性を有するものであれば、不織布の形態に限定されるものではなく、例えば、織物、編物等を積層したものや、連通孔を有する多孔質材等を好ましく適用できる。連通孔を有する多孔質材としては、例えば、セラミックス製等、耐熱性を有する無機材料の多孔質材が好ましく適用できる。
【0021】
温度補償素子10は、接触燃焼式ガス検知素子1の抵抗の変化値を補正するものであるため、接触燃焼式ガス検知素子1と温度特性が同一であることが好ましい。このため、本実施形態においては、接触燃焼式ガス検知素子1と同一の貴金属線に、貴金属触媒を担持しないことのみが異なる担体を同一の見掛け容積になるように設け、保温部材で同様に被覆してある。
【0022】
尚、その他の接触燃焼式ガス検知素子1を備えたガスセンサの構成、機能については、従来公知のガスセンサと同様である。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明に係るガス検知素子として、図1,2に示す接触燃焼式ガス検知素子1を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
従来公知の方法により、貴金属線11としての白金にロジウムを10wt%含有させたコイル状の白金ロジウム線(線径10μm、コイル内径50μm、コイル巻数6ターン)に、アルミナに対してセリアを2mol%担持した触媒担体に貴金属触媒として白金触媒を10wt%担持した燃焼触媒部12を、素子径が0.3mm程度の略球形となるように設け、白金ロジウム線の両端を、それぞれニッケルピン2に接続した。次いで、図4に示すように、燃焼触媒部12にアルミナ繊維の不織布からなる保温部材13を被せ、その上からハウジング4を取り付け、本発明に係る接触燃焼式ガス検知素子1を作製した。尚、この時の保温部材13の充填密度は0.14g/cm3とした。
同様の方法により、接触燃焼式ガス検知素子1とは貴金属触媒を設けないことのみが異なる温度補償素子10を作製し、接触燃焼式ガス検知素子1と共に、図3に示すブリッジ回路に組み込んでガスセンサを作製した。
また、比較例として、実施例1の接触燃焼式ガス検知素子1及び温度補償素子10とは、それぞれ保温部材13を設けないことのみが異なるガスセンサを作製した。
【0025】
このように作製したガスセンサについて、印加電圧1.6Vで、周囲の温度が−30℃〜100℃の時の水素のガス濃度に対するガス感度特性を調べた。その結果、保温部材13を設けたガスセンサでは、図5に示すように、周囲の環境温度による影響がなく、−30℃〜100℃において、水素感度が維持できることが分かった。これに対し、保温部材13を設けていないガスセンサでは、図6に示すように、水素が25%LEL以上の場合では、0℃以下になると感度が低下することが分かった。
【0026】
(実施例2)
実施例1及び比較例で使用したガスセンサに加え、図7に示すように、実施例1の接触燃焼式ガス検知素子1及び温度補償素子10とは保温部材13の充填密度のみが異なるガスセンサ(保温部材13の充填密度:0.01g/cm3)を作製し、それぞれのガスセンサについて20℃と−30℃とにおける水素に対する応答性を調べた。その結果、保温部材13を設けていないガスセンサでは、図10に示すように、−30℃におけるセンサ出力が低下したのに対し、保温部材13(充填密度:0.14g/cm3)を設けたガスセンサでは、図8に示すように、20℃と−30℃とでセンサ出力にほとんど変化がなかった。また、保温部材13の充填密度を低くしたガスセンサ(充填密度:0.01g/cm3)であっても、図9に示すように、保温部材13を設けない場合に比べて、−30℃におけるセンサ出力への影響を小さくできることが分かった。
【0027】
燃焼触媒部12に保温部材13を設けたガスセンサは、−30℃においても水素感度を良好に維持することができるため、例えば、FCVの水素漏れを検知するガスセンサとして好ましく適用することができる。
【0028】
また、−30℃で水素感度が低下した、保温部材13を設けていないガスセンサについて、接触燃焼式ガス検知素子のハウジング4を取り外し、燃焼触媒部12を調べたところ、図11に示すように、燃焼触媒部12の周りに氷が発生していることが分かった。これは、燃焼触媒部12での水素の燃焼によって発生した水蒸気が周囲の環境により冷やされて凍ったためであると考えられる。このため、本発明に係るガス検知素子は、可燃性ガスを燃焼させて検知する場合等、ガス検知の際に水(水蒸気)が発生する場合に特に有効であることが分かった。
【0029】
〔別の実施形態〕
上記の実施形態においては、本発明を、接触燃焼式ガス検知素子に適用した例について説明したが、これに限らず、半導体式ガス検知素子、固体電解質式ガス検知素子等、自己加熱型のガス検知素子に適用することができる。この場合においても、環境温度の変動による影響を低減することができ、自己加熱した温度を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るガス検知素子は、燃料電池自動車の水素漏れを検知する水素ガスセンサ等、ガスを検知する各種ガスセンサに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る接触燃焼式ガス検知素子の概略図
【図2】本実施形態に係る接触燃焼式ガス検知素子の燃焼触媒部の概略図
【図3】本実施形態に係るガスセンサの構成図
【図4】接触燃焼式ガス検知素子の構成を示す写真
【図5】−30℃〜100℃における水素に対するガス感度特性を示すグラフ
【図6】−30℃〜100℃における水素に対するガス感度特性を示すグラフ
【図7】接触燃焼式ガス検知素子の構成を示す写真
【図8】−30℃及び20℃における水素に対する応答性を示すグラフ
【図9】−30℃及び20℃における水素に対する応答性を示すグラフ
【図10】−30℃及び20℃における水素に対する応答性を示すグラフ
【図11】保温部材を設けていない接触燃焼式ガス検知素子の応答性試験後の写真
【符号の説明】
【0032】
1 接触燃焼式ガス検知素子(ガス検知素子)
10 温度補償素子
11 貴金属線
12 燃焼触媒部(ガス感応部)
13 保温部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガスと接触自在に設けられたガス感応部を備え、自己加熱可能なガス検知素子であって、
ガス拡散性と少なくとも前記ガス感応部が到達する温度に対する耐熱性とを有する保温部材で、前記ガス感応部を被覆してあるガス検知素子。
【請求項2】
前記ガス感応部は、貴金属線に設けてある請求項1に記載のガス検知素子。
【請求項3】
前記保温部材は、無機繊維からなる不織布である請求項1または2に記載のガス検知素子。
【請求項4】
前記ガス感応部において前記被検知ガスを燃焼させることにより、当該燃焼に伴う温度変化を検出する請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス検知素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図7】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−145295(P2010−145295A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324488(P2008−324488)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】