説明

ガス状の媒体を圧縮する方法ならびに装置

【課題】ガス状の媒体、特に水素または天然ガスを圧縮する方法であって、ガス状の媒体は、水による完全な飽和状態までの含水量を有することができ、ガス状の媒体は、液体が満たされた少なくとも1つのピストンで単段または多段式に圧縮される方法を改良して、公知の欠点を解消する。
【解決手段】液体として、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されないイオン液体、および/または低い蒸気圧の、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されない液体を用い、圧縮された媒体(2,5,8)を水分離器(D1,D2,D3,…)にかける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状の媒体、特に水素または天然ガスを圧縮する方法ならびに装置に関する。ガス状の媒体は、水による完全な飽和状態までの含水量を有することができ、ガス状の媒体は、液体が満たされた少なくとも1つのピストンで単段または多段式に圧縮される。
【背景技術】
【0002】
上述のガス状の媒体を圧縮する方法ならびに装置は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004046316号明細書において公知である。その方法もしくは装置では、ガス状の媒体の圧縮は、液柱により行われる。液体として、とりわけ、圧縮されるべき媒体と混合せず、圧縮された媒体から残分なく分離できるので、いわゆるイオン液体が有利であることが実証されている。上述の方法は、とりわけその生産、処理または天然の産出に基づいて水で汚染された、もしくは汚染されている任意のガス状の媒体を圧縮するためにも用いられる。
【0003】
イオン液体は、融点が100℃〜−90℃にある低融点の有機塩であり、公知のイオン液体の多くは既に室温で液体状態にある。従来慣用の分子液体とは異なり、イオン液体は、完全にイオン化されていて、したがって新たな特異の性質を示している。イオン液体は、アニオンおよび/またはカチオンの構造の変化、ならびにこれらの構造の組み合わせの変化により、その性質を、所定の技術課題に比較的良好に適合させることができる。さらに、従来慣用の分子液体に対して、イオン液体は、測定可能な蒸気圧を占めていない、という利点を有している。その意味するところによれば、イオン液体は、分解温度に達しない限り、高真空下でも僅かに蒸発することもない。その結果、イオン液体は大気中に達することがないので、不燃性で環境に優しい性質を有するものと云える。加えて、イオン液体は、高い熱安定性を有している。多くの場合、分解温度は400℃を上回る。イオン液体では、密度および他の液体との混合特性は、イオンの選択により影響を及ぼすか、もしくは調節することができる。さらにイオン液体は、導電性であり、これにより危険が生じる要因となり得る帯電を防止することができる、という利点を有している。
【0004】
本発明による方法ならびに装置は、特にガス状の水素または天然ガスを圧縮する際に用いられる。その際、圧縮されるべき水素がたとえば電解によるその生産方式に基づいて必然的に水を含有する、という問題が生じる。水は、従来公知のイオン液体を侵して破壊するので、従来公知のイオン液体と接触してはならず、したがって水は、従来では、実際の圧縮が行われるまえに、完全に除去する必要がある。そのような理由から、従来では、水を分離するための比較的複雑な装置もしくはシステムが設けられている。電解により酸素が生産される場合には、たとえば分子ふるいフィルタが用いられる。分子ふるいフィルタは、周期的に加熱する必要があるので、エネルギを必要とし、しかも有益な水素の一部を消費する。水素の一部は、分子ふるいを再生するためのパージガスとして用いられる。したがって要求される水素の分離に基づいて、水素の生産が割高になる。さらにこのような装置には所定の保守が行われるので、これにより水素の生産がさらに割高になる。同様の問題は、別の媒体、供給するために圧縮する必要があるたとえば天然ガスを圧縮する場合にも該当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004046316号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冒頭で述べた、ガス状の媒体を圧縮する方法ならびに装置を改良して、上述の欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するための本発明の方法によれば、液体として、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されて破壊されることのないイオン液体、および/または低い蒸気圧の、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されない液体を用い、圧縮された媒体を水分離にかける。
【0008】
この課題を解決するための本発明の装置によれば、少なくとも1つの圧縮器段を備え、圧縮器段において、液体として、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されないイオン液体、および/または低い蒸気圧の、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されない液体が用いられ、1つまたは複数の圧縮器段の下流側に配置された少なくとも1つの水分離装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核心は、特別なイオン液体による単段または多段式の圧縮と、圧縮のあとで行われる水分離との組み合わせにある。従来の圧縮のまえに行われる水分離が省略され、したがって水分離に伴う欠点が存在しない。圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されず、水により損傷もしくは破壊されないイオン液体は、原則的に以前から公知であるが、イオン液体に関連する潜在的な可能性は、現在まで知られず利用されなかった。
【0010】
本発明によるガス状の媒体を圧縮する方法ならびに装置の別の好適な態様は、従属請求項の対象であり、その特徴によれば、
−各圧縮段の下流側で、圧縮された媒体は、水分離にかけられ、
−圧縮された媒体は、水分離に供給されるまえに冷却され、
−イオン液体として、EMIMメシレート、好適には添加物を含むEMIMメシレート、または1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドが用いられ、かつ/または、
−低い蒸気圧の液体として、低い蒸気圧のサーモオイルまたはパーフルオロポリエーテルが用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電解器ならびに圧縮ユニットを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図示の実施の形態に基づいて、本発明によるガス状の媒体を圧縮する方法ならびに装置を詳説する。
【0013】
図1には、電解器Eならびに圧縮ユニットを概略的に示している。圧縮ユニットは、3つの圧縮器段V1,V2,V3から成る。電解器Eにおいて生産される水素は、約8体積パーセントの水分を有している。水素流は、管路1を介して、準備処理されずに直に第1の圧縮器段V1に供給され、そこで第1の中間圧に圧縮される。図1に示すような多段式の圧縮の場合、1つまたは複数の中間圧は、実質的に到達されるべき最終圧ならびに圧縮されるべき量により設定される。
【0014】
準備されて水から解放された水素流の圧縮とは異なり、圧縮器段V1における圧縮は、水もしくは水蒸気を一緒に圧縮する必要があるので、比較的高いエネルギ消費を要求する。しかし、このような比較的高いエネルギ消費は、従来用いられた洗浄システムもしくは分離システムで生じる損失を考慮すると不都合とは云えず、得られる利点により補償されるものである。
【0015】
第1の圧縮器段V1において圧縮された水素流は、管路2を介して取り出され、第1の熱交換器E1において、適切な冷媒、好適には水により冷却され、第1の(高圧)分離器D1に供給される。分離器D1の上部で、管路3を介して、実質的に水から解放された水素流が取り出され、第2の圧縮器段V2に供給される間、分離器D1において凝縮された水は、管路4を介して取り出される。
【0016】
第2の圧縮器段V2において圧縮された水素流5は、下流側に配置された第2の熱交換器E2において冷却され、第2の(高圧)分離器D2に供給される。第2の分離器D2において発生する水は、管路7を介して排出される。管路6を介して、第2の分離器D2から取り出された水素部分は、第3の圧縮器段V3に供給され、そこで所望の最終圧に圧縮される。ここで言及しておくと、本発明による方法は、圧縮器段の選択数とは無関係に実施可能である。管路8を介して、所望の最終圧に圧縮された水素流は、第3の圧縮器段V3から取り出され、下流側に配置された第3の熱交換器E3において冷却され、第3の(高圧)分離器D3に供給される。
【0017】
同様に、分離器D3において発生する水は、管路10を介して取り出され、集合管路11(集合管路11には追加的に上流側の両方の分離器D1,D2から水部分4,7が供給される)を介して、場合によっては設けられる中間貯蔵容器Sに供給される。中間貯蔵容器Sは、水流を均等化するために用いられ、水流は、管路12を介して、新たに電解器Eに供給される。この水は脱塩化されているので、直に電解器Eに戻すことができ、したがって電解器Eの水準備処理に関して節約された構成が得られる。
【0018】
第3の熱交換器E3の上部で、管路9を介して、圧縮された水素流が取り出され、他の利用箇所に供給される。水素流9の残留水分は、要求された制限値を下回る。水素流9の水濃度は、1つまたは複数の冷媒の温度および/または実現された圧縮器段の圧力段比に関して調節可能である。圧縮されるべき媒体の水の濃度は、本発明による方法では、各圧縮器段の圧縮比に関して直線的に変化する。
【0019】
イオン液体を用いて圧縮を行う単段もしくは多段式の圧縮器の使用により、圧縮器弁を破損せずに、液体状態で水を搬送することもできる。従来の乾式運転では、弁は、液体搬送不能に設計されている。これらの弁は乾式に作動するので、水と接触すると基本潤滑が失われるか、もしくは弁材料が水により攻撃(腐食)される。イオン液体の使用では、弁が常時イオン液体により潤滑されるか、もしくは永続的にイオン液体で湿潤されることにより水と直に接触することから保護され、したがってそのような欠点が生じることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の媒体、特に水素または天然ガスを圧縮する方法であって、ガス状の媒体は、水による完全な飽和状態までの含水量を有することができ、ガス状の媒体は、液体が満たされた少なくとも1つのピストンで単段または多段式に圧縮される方法において、前記液体として、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されないイオン液体、および/または低い蒸気圧の、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されない液体を用い、圧縮された媒体(2,5,8)を水分離(D1,D2,D3,…)にかけることを特徴とする、ガス状の媒体を圧縮する方法。
【請求項2】
各圧縮器段(V1,V2,V3,…)の下流側で、圧縮された媒体(2,5,8)を水分離(D1,D2,D3,…)にかける、請求項1記載の方法。
【請求項3】
圧縮された媒体(2,5,8)を、水分離(D1,D2,D3,…)に供給するまえに冷却する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
イオン液体として、EMIMメシレート、好適には添加物を含むEMIMメシレート、または1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを用いる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
低い蒸気圧の液体として、低い蒸気圧のサーモオイルまたはパーフルオロポリエーテルを用いる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ガス状の媒体、特に水素または天然ガスを圧縮する装置であって、ガス状の媒体は、水による完全な飽和状態までの含水量を有することができ、ガス状の媒体は、液体が満たされた少なくとも1つのピストンで単段または多段式に圧縮されるものにおいて、少なくとも1つの圧縮器段(V1,V2,V3,…)を備え、該圧縮器段(V1,V2,V3,…)において、前記液体として、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されないイオン液体、および/または低い蒸気圧の、圧縮されるべき媒体中に含まれている水により侵されない液体が用いられ、1つまたは複数の圧縮器段(V1,V2,V3,…)の下流側に配置された少なくとも1つの水分離装置(D1,D2,D3,…)を備えることを特徴とする、ガス状の媒体を圧縮する装置。
【請求項7】
1つまたは複数の水分離装置(D1,D2,D3,…)の上流側に冷却装置(E1,E2,E3,…)が配置されている、請求項6記載の装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−241717(P2012−241717A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110815(P2012−110815)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシャフト (106)
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, D−80331 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】