説明

ガス窒化炉およびガス軟窒化炉

【課題】処理ガスの流出による固化物の発生を未然に防止できる新規なガス窒化炉およびガス軟窒化炉の提供。
【解決手段】被処理物Sを窒化処理する加熱室10と前記被処理物Sの前後処理を行う前後処理室20との間に、前記被処理物Sを通過および待機させる待機室30を備えたガス窒化炉100であって、前記待機室30に、当該待機室30内を所定温度以上に加熱する加熱手段38と、当該待機室30内のガスを排気する排気手段L3とを備える。これによって待機室30へ流出してきた処理ガスが固化することなくそのまま排出されるため、処理ガスの流出による固化物の発生による処理炉全体の処理効率の低下を未然に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製機械部品などの被処理物をバッチ式にガス窒化処理するためのガス窒化炉およびガス軟窒化炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械金属部品などの表面硬化処理法の1つである窒化処理のうち、窒素ガス(N)雰囲気中にアンモニア(NH)ガスと炭酸(CO)ガスを所定の割合で添加したガスを原料ガスとして用いたガス軟窒化処理は、炭素の存在によって窒素の拡散が促進されることから、NHのみによる窒化などに比べて優れた耐摩耗性・耐焼付性・耐疲労性などを発揮することが知られている。
【0003】
このようなガス軟窒化処理などを行うための熱処理装置(炉)としては、従来から様々な構成のものが提案されている。例えば、以下の特許文献1には、被熱物を加熱処理するための加熱室に冷却室とパージ室を付設し、この被熱物を昇降台によってこれら冷却室とパージ室間を移動させることでバッチ式に処理するようにしたものが開示されている。また、以下の特許文献2には、加熱室間と冷却室間に搬送機構を備えることで効率的な処理を行うようにしたものなどが開示されている。
【特許文献1】特開平7−90361号公報
【特許文献2】特開2003−183728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したように処理ガスとして窒素ガス(N)にアンモニア(NH)ガスと炭酸(CO)ガスを混合したガスなどを用いた場合、これらのガスが反応して炭酸アンモニウム((NHCO)などのアンモニア化合物のガスが生成する。
また、被処理物の表面を活性化させるなどの目的で適宜硝酸アンモニウム(NHNO)や塩化アンモニウム(NHCl)などを上述のガスに加えて処理する場合もこれらアンモニア化合物ガスを生ずる。
そして、これが加熱室から搬出入室などに流れ出て冷却されることで固化(気体→固体)し、搬出入室などに粉状となって堆積する。
そのため、このような現象が発生した場合には、堆積した固化物を除去するために炉を一旦停止してその除去作業や清掃作業を行わなければならず、処理炉全体の処理効率の低下を招くといった問題がある。
そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は、処理ガスの流出による固化物の発生を未然に防止できる新規なガス窒化炉およびガス軟窒化炉を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために請求項1の発明は、
被処理物を窒化処理する加熱室と前記被処理物の前後処理を行う前後処理室との間に、前記被処理物を待機させる待機室を備えたガス窒化炉であって、前記待機室に、当該待機室内を所定温度以上に加熱する加熱手段と、当該待機室内のガスを排気する排気手段とを備えたことを特徴とするガス窒化炉である。
また、請求項2のガス窒化炉は、
前記加熱手段は、前記待機室内を少なくともアンモニア化合物の固化温度よりも高い温度に加熱することを特徴とするガス窒化炉である。
また、請求項3のガス軟窒化炉は、
被処理物を窒化処理する加熱室と前記被処理物の前後処理を行う前後処理室との間に、前記被処理物を通過および待機させる待機室を備えたガス軟窒化炉であって、前記待機室に、当該待機室内を炭酸アンモニウム((NHCO)ガスの固化温度以上に加熱する加熱手段と、当該待機室内の炭酸アンモニウム((NHCO)ガスを排気する排気手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のガス窒化炉およびガス軟窒化炉によれば、加熱室に隣接する待機室に加熱手段を設けたことから、その待機室内を所定温度、具体的には、少なくとも炭酸アンモニウム((NHCO)などのアンモニア化合物の固化温度よりも高い温度以上に加熱することができる。
これによって、加熱室から待機室に炭酸アンモニウム((NHCO)などのアンモニア化合物のガスが流出してきてもこのガスが固化して固化物となって待機室内に堆積するようなことがなくなるため、処理炉全体の処理効率の低下を未然に防止できる。
また、さらにこの待機室に排気手段を備えたことから、待機室に流出してきたガスをこの排気手段によって安全に排気することができるため、有害なガスがこの待機室から外部に漏れ出すようなこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面を参照しながら詳述する。
(構成)
図1は本発明に係るガス軟窒化炉100の実施の一形態を示したものである。
図示するように、このガス軟窒化炉100は、機械金属部品などの被処理物Sをガス軟窒化処理する加熱室10と、被処理物Sの前後処理を行う真空パージ兼冷却室(前後処理室)20と、これら加熱室10と真空パージ兼冷却室20との間に位置する待機室30と、これら加熱室10、真空パージ兼冷却室20、待機室30における一連の処理を制御する制御部40とから主に構成されている。
【0008】
先ず、真空パージ兼冷却室20は、密閉可能な出入口22,23を備えた処理室本体21に、被処理物Sを水平搬送するローラコンベア24と、このハウジング21内を冷却する熱交換器25と、この処理室本体21内の雰囲気を攪拌する攪拌ファン26と、この処理室本体1内を真空パージする真空パージラインL1などを主に備えたものであり、被処理物Sを加熱室10側に搬出入すると共に、この被処理物Sの搬出入に際して必要な前後処理を実施するようになっている。
【0009】
具体的に説明すると、被処理物Sを加熱室10で処理する前には、この被処理物Sを一旦この真空パージ兼冷却室20に収容した後、その出入口22,23を昇降式の開閉蓋22a、23aによって密閉した状態で真空パージラインL1によって所定時間真空パージして酸素などの不純物を除去するようになっている。
この真空パージラインL1には、真空ポンプP1とサージタンク50と分解炉60などが順に付設されており、真空ポンプP1によって真空パージ兼冷却室20内のガス(空気やアンモニアガスなど)を強制的に抜き出してサージタンク50に一旦貯めると共に、このサージタンク50に貯められた有害なアンモニアガスを分解炉60によって窒素と水素に分解して燃焼排気するようになっている。なお、この分解炉60にはNi触媒が充填されており、比較的低温でもアンモニアを効率良く分解処理できる構造となっている。
【0010】
一方、この被処理物Sを加熱室10で処理した後は、再びこの被処理物Sを真空パージ兼冷却室20に戻し、同じく昇降式の開閉蓋22a、23aによって密閉した状態で熱交換器25に冷却水などの冷媒を流しながら攪拌ファン26を駆動してその雰囲気を攪拌させることで、この被処理物Sを例えば約100℃乃至室温付近まで冷却するようになっている。
【0011】
なお、この真空パージ兼冷却室20の出入口22,23を開閉する開閉蓋22a、23aは、それぞれエアーシリンダ機構22b、23bによって昇降動すると共に、リンク機構22c、23cによって出入口22,23を密閉できるようになっている。また、このローラコンベア24には、図示しない駆動モータが備えられており、被処理物Sを出入口22,23方向に搬送できるようになっている。
また、この被処理物Sは、通常、例えばギヤーやシャフト、リング、プレートなどといった小さな機械金属部品(バラ物)が殆どであるため、サイズなどが規格化された搬送用のトレー(図示せず)上に複数上下多段に載置されてトレー単位で各室間を搬送されてバッチ式に各処理がなされるようになっている。
【0012】
次に、加熱室10は、耐火物で構成された加熱室本体11に、被処理物Sを搬出入する搬出入口12と、被処理物Sを水平搬送するローラコンベア13と、ラジアントヒータなどからなる複数の加熱器14と、この加熱室10内の雰囲気を攪拌する攪拌ファン15と、原料ガスを供給する原料ガス供給ラインL2などを備えたものである。
【0013】
そして、加熱室本体11内に被処理物Sを搬入した後、その搬出入口12を開閉蓋12aによって閉じてからその内部に原料ガス供給ラインL2からNとNHとCOの混合ガスなどの原料ガスを供給すると共にその雰囲気を攪拌ファン15によって攪拌しながら加熱器14によってその雰囲気を例えば400〜600℃×1.5〜2時間程度均一に加熱にすることで被処理物Sをガス軟窒化処理するようになっている。
【0014】
なお、加熱室本体11の搬出入口12の開閉蓋12aも耐火物で構成されていると共に、エアーシリンダ機構12bによって昇降動して搬出入口12を開閉するようになっている。
次に、待機室30は、この加熱室10と真空パージ兼冷却室20間を連通するように位置する待機室本体31と、この待機室本体31内を昇降する昇降機構32と、この待機室本体31内を加熱すべく電熱線などからなる加熱手段38と、この待機室本体31内のガスを排気する排気ライン(排気手段)L3とを主に備えた構成となっている。
【0015】
この昇降機構32は、被処理物Sを搬送する矩形状の昇降台33と、この矩形状の昇降台33を垂直方向に昇降動する昇降用シリンダ34およびシリンダロッド35とから構成されている。
この昇降台33の底部および上部は、それぞれローラコンベア36、37で構成されており、図示するようにこの昇降台33が昇降することで加熱室10側のローラコンベア13と真空パージ兼冷却室20側のローラコンベア24に対してそれぞれ同じ高さに位置し、これらいずれか一方のローラコンベア36、37によってローラコンベア13とローラコンベア24間を同じレベルで接続するようになっている。
【0016】
すなわち、図中実線に示すようにこの昇降台33が降下したときは、その上部のローラコンベア36がローラコンベア13とローラコンベア24間に位置してこれらを水平に接続し、また、図中破線に示すようにこの昇降台33が上昇したときは、その下部のローラコンベア37がローラコンベア13とローラコンベア24間に位置してこれらを水平に接続するようになっている。
【0017】
一方、加熱手段38は、通常運転時において待機室本体31内で最も温度が低くなる部分、すなわち図示するように真空パージ兼冷却室20側に近い待機室本体31内底部付近に設けられており、その待機室30内を常時所定温度以上、具体的には、窒素ガス、アンモニアガス、炭酸ガスのみによる場合は、炭酸アンモニウム((NHCO)の固化温度である約60℃よりも高い温度(80〜90℃程度)に、また、硝酸アンモニウム(NHNO)や塩化アンモニウム(NHCl)などを添加した場合にはさらに高い温度(150〜250℃程度)に加熱するようになっている。
【0018】
他方、排気ライン(排気手段)L3は、分解炉60に接続し、待機室本体31内に流れ込んだアンモニアやアンモニア化合物のガスを分解し燃焼して排気するようになっている。
次に、制御部40は、図示しない制御パネルを備えた制御盤内に所定の制御回路や制御用シーケンサなどを収容した制御機構であり、オペレータによる被処理物Sの処理温度や処理時間の調整、および前述した各室10,20,30の各部の機能や動作を所定のシーケンスなどに沿って制御するようになっている。
【0019】
(作用および効果)
このような構成をした本発明のガス軟窒化炉100にあっては、加熱室10での被処理物Sのガス軟窒化処理が終了したならば、この加熱室10の搬出入口12を開いて待機室30に取り出し、さらにこの待機室30を通過させて真空パージ兼冷却室20側に搬送し、ここで冷却処理されることになる。
この加熱室10に窒素ガス、アンモニアガス、炭酸ガスおよび必要に応じて硝酸アンモニウム(NHNO)などが供給されると、加熱室10内で発生した炭酸アンモニウム((NHCO)や硝酸アンモニウム(NHNO)などのアンモニア化合物のガスが待機室30内に流れ出てくることになる。
しかしながら、前述したようにこの待機室30内は、加熱手段38によって常時これらのアンモニア化合物の固化温度よりも高い温度に加熱しているため、これらアンモニア化合物がこの待機室30内で固化するようなことはない。
【0020】
図2は、この待機室30内の各部の温度分布(上下箇所平均値)を示したものである。
図示するように、本発明のような加熱手段38を備えていない従来例(図中破線)にあっては、加熱室10側の温度が最も高く、真空パージ兼冷却室20側にいくにしたがってその温度が低くなっている。これは、前述したように加熱室10側では高温でのガス軟窒化処理が行われるのに対し、真空パージ兼冷却室20側では熱交換器25による冷却処理が行われるからである。
【0021】
従って、従来例ではその待機室30の中央部あたりから真空パージ兼冷却室20側の温度がアンモニア化合物の固化温度(約60℃)を下回ってしまい、流出してきたアンモニア化合物が固化してこの待機室30内に堆積してしまう結果となっていた。
これに対し、本発明では、待機室30内で最も温度が低くなる箇所(パージ兼冷却室20)を電熱線などの加熱手段38によって常時加熱するようにしたことから、図中実線に示すようにその待機室30内の温度がいずれの箇所でもアンモニア化合物の固化温度を超えることになる。
【0022】
これによって、この待機室30内に流出してきたアンモニア化合物が固化して昇降台33に付着したり、待機室30の底部に堆積するといった不都合を未然に防止することができる。
また、さらに本発明はこの待機室30に排気手段(排気ラインL3)を備えたことから、固化せず待機室30に滞留しているアンモニア化合物のガスを排気ラインL3から迅速に排気して分解炉60に送って分解処理することができ、有害がガスがこの待機室30から外部に漏れ出すこともない。
【0023】
このように本発明のガス軟窒化炉100にあっては、待機室30に流出してきたガスの固化を未然に防止できることから、固化物による不都合や固化物の除去・清掃作業が不要となり、ガス軟窒化炉の信頼性および稼働効率を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、ガス軟窒化処理を実施するガス軟窒化炉100を例に説明したが、その他の各種ガス窒化炉などにも同様に適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るガス(軟)窒化炉100の実施一形態を示す断面図である。
【図2】待機室内の各部の温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
100…ガス(軟)窒化炉
10…加熱室
20…真空パージ兼冷却室(前後処理室)
30…待機室
38…加熱手段
40…制御部
L1…真空パージライン
L2…原料ガス供給ライン
L3…排気ライン(排気手段)
S…被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を窒化処理する加熱室と前記被処理物の前後処理を行う前後処理室との間に、前記被処理物を通過および待機させる待機室を備えたガス窒化炉であって、
前記待機室に、当該待機室内を所定温度以上に加熱する加熱手段と、当該待機室内のガスを排気する排気手段とを備えたことを特徴とするガス窒化炉。
【請求項2】
請求項1に記載のガス窒化炉において、
前記加熱手段は、前記待機室内を少なくともアンモニア化合物の固化温度よりも高い温度に加熱することを特徴とするガス窒化炉。
【請求項3】
被処理物を窒化処理する加熱室と前記被処理物の前後処理を行う前後処理室との間に、前記被処理物を通過および待機させる待機室を備えたガス軟窒化炉であって、
前記待機室に、当該待機室内を炭酸アンモニウム((NHCO)ガスの固化温度以上に加熱する加熱手段と、当該待機室内の炭酸アンモニウム((NHCO)ガスを排気する排気手段とを備えたことを特徴とするガス軟窒化炉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−186140(P2009−186140A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29018(P2008−29018)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(391024205)オリエンタルエンヂニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】