ガス組成測定器
【課題】手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができるガス組成測定器を提供する。
【解決手段】呼気中の対象ガスの濃度を推定して呼気の組成を測定する測定処理を繰り返し行う呼気組成測定器100を提供する。呼気組成測定器100は、呼気に曝露される位置に設けられ、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサである測定用センサ106と、測定用センサ106を校正するための第1〜第3の校正係数を記憶する記憶部110と、時間を計るタイマ109と、CPU105とを有する。CPU105は、二回目以降の測定処理の各々において、測定用センサ106の出力値と、第1〜第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた演算により、呼気中の対象ガスの濃度を推定する。
【解決手段】呼気中の対象ガスの濃度を推定して呼気の組成を測定する測定処理を繰り返し行う呼気組成測定器100を提供する。呼気組成測定器100は、呼気に曝露される位置に設けられ、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサである測定用センサ106と、測定用センサ106を校正するための第1〜第3の校正係数を記憶する記憶部110と、時間を計るタイマ109と、CPU105とを有する。CPU105は、二回目以降の測定処理の各々において、測定用センサ106の出力値と、第1〜第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた演算により、呼気中の対象ガスの濃度を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス組成測定器は、曝露雰囲気中の特定のガスに感応するガスセンサを有する。ガスセンサの一種に、曝露雰囲気中の特定のガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有する半導体ガスセンサがある。半導体ガスセンサの感ガス体(半導体)の組成は、感知対象となる特定のガス(以降、「対象ガス」と呼ぶ)に応じて定められる。
【0003】
ガス組成測定器としては、呼気を被測定ガスとする呼気組成測定器を例示可能である(特許文献1〜5参照)。呼気組成測定器内の半導体ガスセンサは、呼気に対する応答として、感ガス体の電気抵抗値に応じた値を出力する。呼気組成測定器は、その半導体ガスセンサの検量線が求められてから出荷され、使用者の指示を受けて開始する各測定処理において、ゼロ点調整を行い、その後、その検量線と使用者の呼気に対する半導体ガスセンサの出力値とに基づいて、呼気中の対象ガスの濃度の推定を推定する。
【0004】
半導体ガスセンサの検量線は、その出力値とガスの濃度との対応関係を示す直線であり、ゼロ点調整後のスパン校正によって求められる。ゼロ点調整では、半導体ガスセンサを対象ガスの濃度が0%のガスに曝露し、そのときの出力値を検出する。つまり、ゼロ点調整では、検量線のゼロ点が調整される。スパン校正では、半導体ガスセンサを対象ガスの濃度が特定の値(例えば90%)の校正ガスに曝露し、そのときの出力値を検出する。つまり、ゼロ点調整後のスパン校正によって、検量線のゼロ点および傾き、すなわち検量線を求めることができる。
【0005】
毎回の測定時にゼロ点調整を行う場合、上記の推定において、ゼロ点を考慮せずに済む。つまり、半導体ガスセンサの出力値をx、検量線の傾きに応じたスパン係数(定数)をkとしたとき、推定濃度(D)は、D=k・xで表される。
【特許文献1】特開2006−98058号公報(段落0002)
【特許文献2】特開2000−304715号公報
【特許文献3】特開2000−341375号公報
【特許文献4】特開昭64−35368号(特開平01−35368号)公報
【特許文献5】特開2003−79601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体ガスセンサは劣化し、その感度が経時変化する。この変化を吸収するためには、検量線のゼロ点および傾きを適時校正する必要がある。従来の呼気組成測定器では、毎回の測定時に、ゼロ点調整は行われるが、傾きの校正は行われない。このため、半導体ガスセンサの劣化量に応じて測定精度が低下してしまう。もちろん、毎回の測定時にスパン校正を行う形態とすれば、この問題を解決可能であるが、専門家でない一般人にとって、スパン校正に必須の校正ガスの入手は容易ではない。そもそも、専門家であっても、スパン校正には手間がかかる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができるガス組成測定器を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器において、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、特定のガスである対象ガスに感応して値を出力する第1の半導体ガスセンサと、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、前記第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数を記憶し、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数を予め記憶する記憶部と、時間を計る計時部と、基準時点から現時点までの一連の期間を測定可能期間とし、前記測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間を測定期間とし、他の一連の期間を非測定期間としたとき、二回目以降の測定処理の各々において、前記第1の半導体ガスセンサの出力値と、前記記憶部に記憶されている前記第1の校正係数および前記第2の校正係数と、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、環境ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する濃度推定部と、を有することを特徴とするガス組成測定器を提供する。
被測定ガスとは、その組成がガス組成測定器に測定されるガスである。代表的な被測定ガスは、呼気である。環境ガスとは、ガス組成測定器が使用される環境(空間)に充満しているガスであり、代表的には、空気等の大気である。基準時点は、測定可能期間が開始する時点であり、例えば、第1の校正係数が記憶部に記憶された時点である。半導体ガスセンサは、曝露雰囲気中の特定のガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体で形成された感ガス体を有するガスセンサである。
上記のガス組成測定器では、各測定期間における被測定ガス中の対象ガスの濃度の推定に、第1の半導体ガスセンサの出力値と、第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数とが用いられる。つまり、上記の推定に、従来と同様の値が用いられる。
また、半導体ガスセンサは対象ガスに曝露されると大きく劣化するが、上記のガス組成測定器では、上記の推定に、更に、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数と、第1の半導体ガスセンサが被測定ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。また、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、上記のガス組成測定器では、上記の推定に、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、第1の半導体ガスセンサが環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、上記の推定は、測定期間における第1の半導体ガスセンサの劣化と、非測定期間における第1の半導体ガスセンサの劣化とを考慮して行われる。
よって、上記のガス組成測定器によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、上記のガス組成測定器では、第1の校正係数を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、上記のガス組成測定器によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
以上の説明から明らかなように、上記のガス組成測定器は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0009】
ところで、半導体ガスセンサの劣化の速度は、曝露時間のみならず、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度にも依存する。したがって、測定精度の低下の抑制の観点からは、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度を一定値と仮定して第1の演算を行う形態よりも、過去の測定濃度を用いて第1の演算を行う形態の方が好ましい。そこで、上記のガス組成測定器において、前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
【0010】
第1の演算としては様々なものを採用可能である。例えば、前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される、ようにしてもよい。この形態のガス組成測定器によれば、式(1)で表される第1の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【数4】
【0011】
ところで、第3の校正係数は、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた係数であるが、環境ガスの組成は、ガス組成測定器の保管環境によって相違し得る。例えば、ガス組成測定器を梱包する梱包材が相違すると、環境ガスの組成も相違し得る。環境ガスの組成が異なると、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度も相違し得る。
そこで、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる形態であるか否かに関わらず、上記のガス組成測定器において、前記記憶部は前記第3の校正係数を予め記憶し、前記濃度推定部は、前記第1の演算に、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を用い、予め定められた時刻に一つの測定期間を開始させる自動開始部と、前記一つの測定期間において前記濃度推定部に推定された濃度に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を更新する更新部とを有する、ようにしてもよい。
この形態のガス組成測定器によれば、その出荷に際し、環境ガスとして空気を想定して第3の校正係数が定められ、この第3の校正係数が記憶部に記憶された後に、出荷のための梱包が行われ、その後、梱包された状態で予め定められた時刻を迎えたとすると、その状態で測定が行われる。この測定により濃度推定部に推定される濃度は、梱包材の影響を受けたものとなる。そして、この濃度に基づいて、記憶部に記憶された第3の校正係数が更新される。よって、以降の測定処理において、梱包材の悪影響による測定誤差が低減される。
【0012】
また、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる形態であるか否かに関わらず、上記のガス組成測定器において、前記対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が前記第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致する第2の半導体ガスセンサを有し、前記濃度推定部は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値を用いた第2の演算によって前記第3の校正係数を算出し、算出した前記第3の校正係数を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
この形態のガス組成測定器によれば、測定期間において、被測定ガスに第1の半導体ガスセンサを曝露させる一方、第2の半導体ガスセンサを曝露させない、ということが可能となる。この場合、第2の半導体ガスセンサの劣化に関与するガスは環境ガスのみとなるから、第2の半導体ガスセンサの出力値を用いて、実際の環境ガスによる第2の半導体ガスセンサの劣化速度を算出することができる。また、このガス組成測定器では、第2の半導体ガスセンサの検量線は第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致するから、実際の環境ガスによる第2の半導体ガスセンサの劣化速度は、実際の環境ガスによる第1の半導体ガスセンサの劣化速度に略一致すると予想される。つまり、このガス組成測定器によれば、実際の環境ガスに応じた第3の校正係数を算出可能であるから、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる。
【0013】
さらに、第2の半導体ガスセンサを有するガス組成測定器において、測定精度の低下の抑制の観点から、前記濃度推定部が、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
【0014】
第2の半導体ガスセンサを有し、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いるガス組成測定器においては、前記第1の演算および前記第2の演算として、様々なものを採用可能である。例えば、前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、上記の式(1)で表され、前記第2の演算は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy1、前記基準時点の前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy0、前記第1の校正係数をk1、前記第3の校正係数をk3、基準時点からの経過時間をtとしたとき、式(2)で表されてもよい。
【数5】
この形態のガス組成測定器によれば、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係るガス組成測定器は、いずれも、呼気(被測定ガス)中の対象ガスの濃度を推定して呼気の組成を測定する測定処理を繰り返し行う呼気組成測定器であり、ゼロ点調整後のスパン校正を経て製造され、製造直後に梱包材で梱包され、梱包された状態で出荷され、その使用者に使用および保管されるものであり、半導体ガスセンサを有する。
【0016】
「対象ガス」は、半導体ガスセンサの感知対象となる特定のガスであり、呼気組成測定器の用途に応じて適宜に定められる。例えば、呼気中のアルコール濃度を測定する用途では、エチルアルコールガス等のアルコールガスが対象ガスとなり、口臭の臭度を測定する用途では、メチルメルカプタンガス等の臭度に関連するガスが対象ガスとなる。呼気組成測定器について「使用」とは、使用者が呼気組成測定器に測定処理を行わせることをいう。
【0017】
各呼気組成測定器では、その製造完了時点(基準時点(t0))から現時点までの一連の期間が、測定を行うことが可能な期間、すなわち「測定可能期間」となる。以降の説明では、測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間をそれぞれ「測定期間」と呼び、他の一連の期間をそれぞれ「非測定期間」と呼ぶ。各測定期間では、検量線のゼロ点調整および傾きの校正が行われる。基準時点(t0)は、後述の第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点でもある。
【0018】
図1は、測定可能期間と測定期間と非測定期間との関係を示す図である。ただし、この図に示す一〜三番目の非測定期間の長さ(Tb1〜Tb3)および一〜二番目の測定期間の長さ(Ta1〜Ta2)は一例に過ぎない。この図に示すように、各呼気組成測定器では、測定可能期間において、非測定期間と測定期間が交互に現れる。
【0019】
<1.第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100は、式(1)で表される第1の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、一つの半導体ガスセンサを有する。
【0020】
<1−1.構成>
図2および図3は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100の外観を示す斜視図である。図2には正面側、図3には裏面側の外観が示されている。図4は、呼気組成測定器100の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器100は、その使用者の片手に把持される中空の筐体101と、筐体101に設けられた各部とを有する。
【0021】
筐体101の表面には、使用者の呼気が吹き込まれる吹込口103が設けられている。吹込口103は、筐体101内の空洞に繋がっている。筐体101内には、使用者の指示を入力するための入力部102、各種の情報を表示する表示部104、各種の処理を行うCPU(Central Processing Unit)105、半導体ガスセンサである測定用センサ(第1の半導体ガスセンサ)106、A/D変換器107、測定用センサ106のヒートクリーニングを行うヒーター108、タイマ(計時部)109および書き込まれた情報を電子データの形態で記憶(保持)する記憶部110が設けられている。
【0022】
入力部102は、具体的には、筐体101の表面に露出している操作ボタンを備え、その操作内容に応じた信号を出力する操作部である。CPU105は、入力部102の出力信号を受けることにより、入力部102を用いて入力された指示を受け取る。表示部104は、具体的には、筐体101の表面に露出している表示面を有する液晶ディスプレイである。CPU105は、表示部104に対して、情報に応じた信号を供給することにより、この情報を表示させる。
【0023】
測定用センサ106は、対象ガスに感応する半導体ガスセンサであり、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有し、感ガス体の電気抵抗値に応じた値をアナログ信号の形態で出力する。
【0024】
A/D変換器107は、測定用センサ106の出力信号をA/D変換して出力する。CPU105は、A/D変換器107の出力信号を受けることにより、測定用センサ106の出力値を受け取る。ヒーター108は、測定用センサ106の感ガス体に近接して配置され、CPU105の制御に従って発熱し、これによって感ガス体を加熱して還元する。すなわち、ヒーター108は、CPU105の制御に従って測定用センサ106のヒートクリーニングを行う。
【0025】
タイマ109は、電源を有し、基準時点(t0)から現時点までの経過時間(t)を計る。前述のように、基準時点(t0)は、第1の校正係数(k1)が記憶部110に記憶される時点である。第1の校正係数(k1)は、測定用センサ106を校正するための係数であって、測定用センサ106の検量線の傾きに応じた定数であり、基準時点(t0)以前にゼロ点調整後のスパン校正により求められ、基準時点(t0)で記憶部110に記憶される。
【0026】
図4の記憶部110は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性メモリを有する。記憶部110に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。CPU105は、記憶部110に値を書き込み、記憶部110から値を読み出し、記憶部110に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器100の主電源(タイマ109の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部110に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、このプログラムを用いて行われる。
【0027】
記憶部110に記憶される値には、第1〜第3の校正係数(k1〜k3)が含まれる。第2の校正係数(k2)および第3の校正係数(k3)は、いずれも、測定用センサ106を校正するための係数である。第2の校正係数(k2)は、呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた定数であり、予め求められ、基準時点(t0)以前に記憶部110に記憶される。第3の校正係数(k3)は、後述の環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた定数であり、予め求められ、基準時点(t0)以前に記憶部110に記憶される。第2の校正係数(k2)および第3の校正係数(k3)は、例えば、測定用センサ106と同様な半導体ガスセンサを用いた加速試験により求められる。
【0028】
CPU105は、毎回の測定時に、すなわち測定期間毎に、測定用センサ106についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、測定用センサ106の出力値(x)と、記憶部110に記憶されている第1〜第3の校正係数(k1〜k3)と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さと、前回以前の測定処理において推定した濃度とを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。
【0029】
<1−2.第1の演算>
第1の演算は、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、n番目の測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される。なお、式(1)において、n<2の場合、m<2となり、右辺の括弧内は実質的にk1のみになる。
【0030】
式(1)の右辺は、スパン係数と測定用センサ106の出力値(x)との積である。この積を濃度Dnとしてよいのは、測定期間毎にゼロ点調整が行われるからである。スパン係数は、第1〜第3の項の和である。第1の項は、第1の校正係数(k1)である。第1の校正係数(k1)は、具体的には、測定用センサ106の検量線の傾きの逆数である。例えば、測定用センサ106について、図5に示すように、ガスの濃度の軸に対する角度がθ1の検量線L3が求められたと仮定すると、k1=1/tanθ1となる。従来ならば、第1の校正係数(k1)がそのままスパン係数として用いられる。
【0031】
図6は、測定用センサ106の劣化の特性(測定用センサ106の感度の経時変化の特性)の一例を示す図である。この図の特性線L1で表されるように、測定用センサ106は時とともに劣化(高感度化)する。測定用センサ106が劣化した場合、測定精度を維持するためには、劣化量に応じて検量線を校正する必要がある。
【0032】
図7は、測定用センサ106の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。この図には、検量線L3と、校正後の検量線に相当する仮想線L4〜L5とが示されている。仮想線L4はt=t2のときのものであり、仮想線L5はt=tpのときのものである。ただし、pは3以上の自然数であり、t0<t2<tpである。この図に示すように、理想的には、t=t2のときには仮想線L4で示される校正が行われ、t=tpのときには仮想線L5で示される校正が行われるようにすべきである。
【0033】
検量線の校正としては、そのゼロ点の校正と、その傾きの校正がある。呼気組成測定器100では、測定期間毎にゼロ点調整が行われ、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)はゼロ点調整後の値となるから、第1の演算で達成すべきは、図8に示すように、検量線の傾きの校正(第1の校正係数(k1)の校正)、すなわちスパン係数の補正のみである。この補正のために、第2の項および第3の項が存在している。つまり、第2の項および第3の項は、いずれもスパン係数の補正項である。
【0034】
スパン係数の理想的な補正量は、測定用センサ106の劣化量(感度の変化量)に応じて異なる。図6から明らかなように、校正時点での測定用センサ106の劣化量は、終了した各期間における劣化量の和となり、各期間の劣化量は、その期間の長さとその期間における劣化速度に依存する。劣化速度は、特性線L1の傾きである。例えば、図6の一部R1の拡大図である図9に示すように、1番目の非測定期間における時間軸に対する特性線L1の角度をθ2とし、1番目の測定期間における時間軸に対する特性線L1の角度をθ3とした場合、1番目の非測定期間における劣化速度はtanθ2、1番目の測定期間における劣化速度はtanθ3で表される。
【0035】
測定用センサ106の劣化速度は、曝露雰囲気の組成に依存する。したがって、測定期間にあっては測定期間毎に相違し得る一方、非測定期間にあっては全ての非測定期間に共通となる。例えば、二番目以降の測定期間における劣化速度がtanθ3になるとは限らない一方、非測定期間における劣化速度は全ての非測定期間に共通してtanθ2となる。このように、測定用センサ106の劣化の傾向は、測定期間と非測定期間とで大きく異なる。これが、測定期間用の第2の項および非測定期間用の第3の項が存在する理由である。
【0036】
第2の項は、第2の校正係数(k2)と、1番目からn−1番目の測定期間についての、測定期間の長さと当該測定期間において推定された濃度との積和との積である。第2の校正係数(k2)は、具体的には、測定期間における単位濃度あたりの特性線L1の傾きである。したがって、上記の積和に第2の校正係数(k2)を掛ければ、測定期間における測定用センサ106の劣化の影響を低減するための、スパン係数の理想的な補正量が得られる。
【0037】
第3の項は、第3の校正係数(k3)と、1番目からm−1番目の非測定期間の長さの和との積である。第3の校正係数(k3)は、具体的には、非測定期間における特性線L1の傾き(tanθ2)である。したがって、上記の和に第3の校正係数(k3)を掛ければ、非測定期間における測定用センサ106の劣化の影響を低減するための、スパン係数の理想的な補正量を得ることができる。
【0038】
<1−3.まとめ>
上述したように、呼気組成測定器100では、各測定期間における呼気中の対象ガスの濃度(D)の推定に、測定用センサ106の出力値(x)と、測定用センサ106の出力値(x)とガスの濃度(D)との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数(k1)とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定に、従来と同様の値が用いられる。また、上述したように呼気組成測定器100では、濃度(D)の推定に、更に、対象ガスを含む呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第2の校正係数(k2)と、測定用センサ106が呼気に曝露されただろう時間とが用いられる。また、上述したように、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、呼気組成測定器100では、濃度(D)の推定に、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第3の校正係数(k3)と、測定用センサ106が環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定は、測定期間における測定用センサ106の劣化と、非測定期間における測定用センサ106の劣化とを考慮して行われる。よって、呼気組成測定器100によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、呼気組成測定器100では、第1の校正係数(k1)を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、呼気組成測定器100によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
以上の説明から明らかなように、呼気組成測定器100は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0039】
また、呼気組成測定器100では、CPU105が、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる。このことは、測定精度の低下の抑制に寄与する。また、呼気組成測定器100によれば、式(1)で表される第1の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0040】
<2.第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200は、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、二つの半導体ガスセンサを有する。
【0041】
<2−1.構成>
図10および図11は、それぞれ、本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200の外観を示す斜視図である。図10には正面側、図11には裏面側の外観が示されている。図12は、呼気組成測定器200の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器200は、その使用者の片手に把持される中空の筐体201と、筐体201に設けられた各部とを有する。
【0042】
筐体201の裏面には、環境ガスのみが流入する流入口203が設けられている。流入口203は、筐体201内の空洞に繋がっているが、吹込口103には繋がっていない。筐体201内には、入力部102、表示部104、CPU105、測定用センサ106、A/D変換器107およびタイマ109が設けられている。また、筐体201内には、ダミーセンサ(第2の半導体ガスセンサ)206、A/D変換器207、ヒーター208および記憶部210を有する。
【0043】
ダミーセンサ206は、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、呼気に曝露されない位置に設けられ、その検量線は、測定用センサ106の検量線と略一致している。つまり、ダミーセンサ206は、対象ガスに感応する半導体ガスセンサであり、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有し、感ガス体の電気抵抗値に応じた値をアナログ信号の形態で出力する。
【0044】
A/D変換器207は、ダミーセンサ206の出力信号をA/D変換して出力する。CPU105は、A/D変換器207の出力信号を受けることにより、ダミーセンサ206の出力値を受け取る。ヒーター208は、測定用センサ106およびダミーセンサ206の感ガス体に近接して配置され、CPU105の制御に従って発熱し、これによって感ガス体を加熱して還元する。すなわち、ヒーター108は、CPU105の制御に従って測定用センサ106およびダミーセンサ206のヒートクリーニングを行う。
【0045】
記憶部210は、EEPROM等の書き換え可能な不揮発性メモリを有し、書き込まれた情報を電子データの形態で記憶(保持)する。記憶部110に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。CPU105は、記憶部210に値を書き込み、記憶部210から値を読み出し、記憶部210に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器200の主電源(タイマ109の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部210に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、このプログラムを用いて行われる。
【0046】
記憶部210に記憶される値には、第1および第2の校正係数(k1およびk2)と基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)とが含まれる。第1の校正係数(k1)は、基準時点(t0)以前にゼロ点調整後のスパン校正により求められ、基準時点(t0)で記憶部110に記憶される。基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)は、基準時点(t0)において測定され、記憶部110に記憶される。
【0047】
CPU105は、毎回の測定時に、すなわち測定期間毎に、測定用センサ106およびダミーセンサ206についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)およびダミーセンサ206の出力値(y1)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。また、CPU105は、各測定処理において、ダミーセンサ206の出力値(y1)、基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)、第1の校正係数(k1)および基準時点(t0)からの経過時間(t)を用いた第2の演算によって第3の校正係数(k3)を算出し、算出した校正係数(k3)を第1の演算に用いる。
【0048】
<2−2.第2の演算>
第2の演算は、ダミーセンサ206の出力値をy1、基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値をy0、第1の校正係数をk1、第3の校正係数をk3、基準時点(t0)からの経過時間をt、としたとき、式(2)で表される。以降、式(2)について説明する。
【0049】
図13は、測定用センサ106およびダミーセンサ206の劣化の特性(測定用センサ106およびダミーセンサ206の感度の経時変化の特性)の一例を示す図である。ダミーセンサ206は、非測定期間はもとより、測定期間においても、被測定ガスに曝露されないから、その劣化特性を示す特性線L6は、直線状となる。つまり、ダミーセンサ206は、時とともに線形に劣化(高感度化)する。
【0050】
一方、ダミーセンサ206の検量線は、測定用センサ106の検量線と略一致するから、同一のガスに同一の時間だけ曝露された場合の両センサの劣化の程度は略一致すると考えられる。つまり、第1〜第3の校正係数(k1〜k3)は、ダミーセンサ206および測定用センサ106に共通すると考えられる。したがって、ダミーセンサ206を校正するための第3の校正係数(k3)を求めれば、これを、測定用センサ106を校正するための第3の校正係数(k3)として用いることができる。
【0051】
図14は、ダミーセンサ206の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。この図には、図5の検量線L3と略一致する検量線L7と、校正後の検量線に相当する仮想線L8とが示されている。仮想線L8はt=tqのときのものである。この図に示すように、理想的には、t=t0のときには検量線L7で示される校正が行われ、t=tqのときには仮想線L8で示される校正が行われるようにすべきである。
【0052】
ダミーセンサ206は、環境ガスのみに曝露され続けるから、ダミーセンサ206の出力値(y)に対応する濃度(Dy(t))は、基準時点(t0)からの経過時間(t)、その時点でのダミーセンサ206の出力値(y)、第1の校正係数(k1)および第3の校正係数(k3)を用いた第3の演算により求められる。第3の演算は、式(3)で表される。
【数6】
【0053】
図14に示すように、t=tqのときの濃度(Dy(t))は、t=t0のときの濃度(Dy(t))と一致すべきであるから、式(4)が成立する。t0=0であるから、式(4)を整理することにより、式(2)が得られる。
【数7】
【0054】
<2−3.まとめ>
呼気組成測定器200では、各測定期間における呼気中の対象ガスの濃度(D)の推定に、測定用センサ106の出力値(x)と、測定用センサ106の出力値(x)とガスの濃度(D)との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数(k1)とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定に、従来と同様の値が用いられる。また、上述したように呼気組成測定器200では、濃度(D)の推定に、更に、対象ガスを含む呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第2の校正係数(k2)と、測定用センサ106が呼気に曝露されただろう時間とが用いられる。また、上述したように、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、呼気組成測定器200では、濃度(D)の推定に、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第3の校正係数(k3)と、測定用センサ106が環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定は、測定期間における測定用センサ106の劣化と、非測定期間における測定用センサ106の劣化とを考慮して行われる。よって、呼気組成測定器200によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、呼気組成測定器200では、第1の校正係数(k1)を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、呼気組成測定器200によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
よって、以上の説明から明らかなように、呼気組成測定器200は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0055】
ところで、第3の校正係数(k3)は、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた係数であるが、環境ガスの組成は、呼気組成測定器200の保管環境によって相違し得る。例えば、呼気組成測定器200を梱包する梱包材が相違すると、環境ガスの組成も相違し得る。環境ガスの組成が異なると、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度も相違し得る。
【0056】
これに対し、呼気組成測定器200は、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が測定用センサ106の検量線と略一致するダミーセンサ206を有し、そのCPU105は、ダミーセンサ206の出力値(y)を用いた第2の演算によって第3の校正係数(k3)を算出し、算出した第3の校正係数(k3)を第1の演算に用いる。
【0057】
したがって、呼気組成測定器200によれば、測定期間において、被測定ガスに測定用センサ106を曝露させる一方、ダミーセンサ206を曝露させない、ということが可能となる。この場合、ダミーセンサ206の劣化に関与するガスは環境ガスのみとなるから、ダミーセンサ206の出力値(y)を用いて、実際の環境ガスによるダミーセンサ206の劣化速度を算出することができる。また、呼気組成測定器200では、ダミーセンサ206の検量線は測定用センサ106の検量線と略一致するから、実際の環境ガスによるダミーセンサ206の劣化速度は、実際の環境ガスによる測定用センサ106の劣化速度に略一致すると予想される。つまり、呼気組成測定器200によれば、実際の環境ガスに応じた第3の校正係数(k3)を算出可能であるから、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる。
【0058】
また、呼気組成測定器200では、CPU105が、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる。このことは、測定精度の低下の抑制に寄与する。また、呼気組成測定器200によれば、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0059】
<3.第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る呼気組成測定器300は、式(1)で表される第1の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、一つの半導体ガスセンサを有する点で呼気組成測定器100と共通する。一方、呼気組成測定器300は、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる点で、呼気組成測定器300と相違する。
【0060】
<3−1.構成>
図15は、呼気組成測定器300の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器300が呼気組成測定器100と異なる点は、記憶部110およびタイマ109に代えて記憶部310およびタイマ309を有する点のみである。記憶部310は、EEPROM等の書き換え可能な不揮発性メモリを有する。記憶部310に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。記憶部310に記憶される各種の値には、記憶部110に記憶される各種の値が含まれる。タイマ309は、タイマ109の機能に加えて、予め定められた事前測定時刻(tr)が近づくと、呼気組成測定器300の主電源を投入する機能を有する。事前測定時刻(tr)は、基準時点(t0)よりも後の時刻であり、呼気組成測定器300の使用が開始される時点よりも前の時刻である。
【0061】
CPU105は、記憶部310に値を書き込み、記憶部310から値を読み出し、記憶部310に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器300の主電源(タイマ309の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部310に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、読み出したプログラムを用いて行われる。
【0062】
CPU105は、二回目以降の測定処理(二番目以降の測定期間)毎に、測定用センサ106についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105において、二回目以降の測定処理において、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。
【0063】
また、CPU105は、行おうとしている測定処理が一回目の測定処理の場合には、事前測定時刻(tr)に、この測定処理を開始し、この測定処理によって推定された濃度に基づいて、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)を更新する。つまり、CPU105は、自動開始部および更新部として機能する。以降、一回目の測定処理を「事前測定処理」と呼ぶ。なお、CPU105は、事前測定処理が終了すると、その旨を示す値を記憶部310に記憶させる。この値は、行おうとしている測定処理が一回目の測定処理であるか否かの判定に用いられる。
【0064】
<3−2.事前測定処理>
記憶部310に最初に記憶される第3の校正係数(k3)は、環境ガスが大気のみを含むものと仮定して求められる。しかし、現実には、大気のみならず、呼気組成測定器300の梱包材からの揮発ガスも、環境ガスに含まれる。この点に鑑みて設けられた処理が事前測定処理であり、二回目以降の測定処理(二番目以降の測定期間)において梱包材の影響を考慮した濃度の推定を可能とすることを目的としている。
【0065】
事前測定処理では、まず、タイマ309が、事前測定時刻(tr)が近づくと、呼気組成測定器100の主電源を投入する。すると、CPU105が、事前測定時刻(tr)に一回目の測定処理を開始し、これにより推定された濃度である実測濃度(Dr)に基づいて、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)を更新し、一回目の測定処理が終了すると、その旨を示す値を記憶部310に記憶させ、呼気組成測定器300の主電源を切る。
【0066】
より詳しくは、CPU105は、実測濃度(Dr)を第1の演算により再推定したならば基準濃度(Ds)に一致するように、第3の校正係数(k3)を更新する。基準濃度(Ds)は、呼気組成測定器300が梱包されないまま事前測定時刻(tr)を迎え、この時刻において、ゼロ点調整を行うことなく測定が行われた場合に、第1の演算により推定されるだろう濃度であり、予め記憶部310に記憶されている。
【0067】
<3−3.まとめ>
上述したように、事前測定時刻(tr)は、基準時点(t0)よりも後の時刻であり、呼気組成測定器300の使用が開始される時点よりも前の時刻であるから、呼気組成測定器300は、梱包された状態で事前測定時刻(tr)を迎えることになる。したがって、事前測定時刻(tr)に開始された測定処理は、呼気組成測定器300が梱包された状態で行われ、その測定期間において推定された実測濃度(Dr)は、梱包材の影響を受けたものとなる。よって、上記の更新により、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)は、梱包材の影響を考慮したものとなり、以降の測定処理において、梱包材の悪影響による測定誤差が低減される。また、呼気組成測定器300には、測定期間毎に第3の校正係数を求める形態に比較して処理が簡素となる、という利点がある。
【0068】
<4.変形例>
本発明は、その発明特定事項で特定される範囲において、以下の変形例をも含む。
上述した各実施の形態では、前回以前の測定処理において推定した濃度を用いた演算を第1の演算としたが、これを変形し、前回以前の測定処理において推定した濃度を用いない演算を第1の演算としてもよい。例えば、前回以前の測定処理において推定した濃度とは異なる濃度(例えば一定値)を用いるようにしてもよいし、如何なる濃度も用いないようにしてもよい。
【0069】
上述した各実施の形態では、(1)式で表される演算を第1の演算として採用したため、確実に、測定用センサ106の劣化による測定精度の低下を抑制することができるが、これを変形し、他の式で表される演算を第1の演算として採用してもよい。例えば、(1)式の右辺の括弧内の第2の項におけるDi−1を固定値としてもよい。この場合でも、適切な固定値を定めることにより、十分に高い測定精度を得ることができる。これと同様に、上述した第2の実施の形態では、(2)式で表される演算を第2の演算として採用したため、確実に、測定用センサ106の劣化による測定精度の低下を抑制することができるが、これを変形し、他の式で表される演算を第2の演算として採用してもよい。
【0070】
上述した各実施の形態では、呼気組成測定器の製造完了時点(詳しくは第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点)を基準時点(t0)としているが、これを変形し、第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点以前の任意の時点を基準時点としてもよい。例えば、第1の校正係数(k1)が求められた時点を基準時点としてもよい。したがって、タイマ109やタイマ309に代えて、リアルタイムクロックやその他の計時部を採用することも可能である。
【0071】
上述した各実施の形態では、使用者の指示を入力するための入力部として、操作ボタンを備えた入力部102を採用しているが、これを変形し、操作ボタン以外の操作子を備え、その操作内容に応じた信号を出力する操作部や、使用者の挙動を検出し、検出結果に応じた信号を出力するセンサ、その他の入力部を採用してもよい。また、上述した各実施の形態では、各種の情報を表示する表示部として、液晶ディスプレイを採用しているが、これを変形し、液晶ディスプレイ以外の表示装置や、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子、その他の表示部を採用してもよい。
【0072】
上述した各実施の形態では、推定された濃度を用いて被測定ガスの組成を報知する報知部として、組成を表示する表示部を採用しているが、これを変形し、表示部以外の報知部を採用してもよいし、報知しないようにしてもよい。前者の例としては、組成を音声出力する形態が挙げられる。後者の例としては、組成を内部または外部の記憶部に記憶させる形態や、組成を外部へ送信する形態が挙げられる。
【0073】
上述した各実施の形態では、測定可能期間において非測定期間と測定期間が交互に現れる形態の呼気組成測定器を例示したが、これを変形し、測定期間の直後に次の測定期間が続くことを許容する形態としてもよい。また、上述した各実施の形態では、ガス組成測定器として呼気組成測定器を例示したが、これを変形し、呼気以外のガスの組成を測定するガス組成測定器としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の各実施の形態における測定可能期間と測定期間と非測定期間との関係を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100の外観(正面側)を示す斜視図である。
【図3】呼気組成測定器100の外観(裏面側)を示す斜視図である。
【図4】呼気組成測定器100の電気的な構成を示すブロック図である。
【図5】呼気組成測定器100の測定用センサ106の検量線の一例を示す図である。
【図6】測定用センサ106の劣化の特性の一例を示す図である。
【図7】測定用センサ106の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。
【図8】呼気組成測定器100において、第1の演算で達成すべきことを説明するための図である。
【図9】図6の一部R1の拡大図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200の外観(正面側)を示す斜視図である。
【図11】呼気組成測定器200の外観(裏面側)を示す斜視図である。
【図12】呼気組成測定器200の電気的な構成を示すブロック図である。
【図13】呼気組成測定器200の測定用センサ106およびダミーセンサ206の劣化の特性の一例を示す図である。
【図14】ダミーセンサ206の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。
【図15】呼気組成測定器300の電気的な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0075】
100,200,300…呼気組成測定器、101,201…筐体、102…入力部、103…吹込口、104…表示部、105…CPU、106…測定用センサ、107,207…A/D変換器、108,208…ヒーター、109,309…タイマ、110,210,310…記憶部、203…流入口、206…ダミーセンサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス組成測定器は、曝露雰囲気中の特定のガスに感応するガスセンサを有する。ガスセンサの一種に、曝露雰囲気中の特定のガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有する半導体ガスセンサがある。半導体ガスセンサの感ガス体(半導体)の組成は、感知対象となる特定のガス(以降、「対象ガス」と呼ぶ)に応じて定められる。
【0003】
ガス組成測定器としては、呼気を被測定ガスとする呼気組成測定器を例示可能である(特許文献1〜5参照)。呼気組成測定器内の半導体ガスセンサは、呼気に対する応答として、感ガス体の電気抵抗値に応じた値を出力する。呼気組成測定器は、その半導体ガスセンサの検量線が求められてから出荷され、使用者の指示を受けて開始する各測定処理において、ゼロ点調整を行い、その後、その検量線と使用者の呼気に対する半導体ガスセンサの出力値とに基づいて、呼気中の対象ガスの濃度の推定を推定する。
【0004】
半導体ガスセンサの検量線は、その出力値とガスの濃度との対応関係を示す直線であり、ゼロ点調整後のスパン校正によって求められる。ゼロ点調整では、半導体ガスセンサを対象ガスの濃度が0%のガスに曝露し、そのときの出力値を検出する。つまり、ゼロ点調整では、検量線のゼロ点が調整される。スパン校正では、半導体ガスセンサを対象ガスの濃度が特定の値(例えば90%)の校正ガスに曝露し、そのときの出力値を検出する。つまり、ゼロ点調整後のスパン校正によって、検量線のゼロ点および傾き、すなわち検量線を求めることができる。
【0005】
毎回の測定時にゼロ点調整を行う場合、上記の推定において、ゼロ点を考慮せずに済む。つまり、半導体ガスセンサの出力値をx、検量線の傾きに応じたスパン係数(定数)をkとしたとき、推定濃度(D)は、D=k・xで表される。
【特許文献1】特開2006−98058号公報(段落0002)
【特許文献2】特開2000−304715号公報
【特許文献3】特開2000−341375号公報
【特許文献4】特開昭64−35368号(特開平01−35368号)公報
【特許文献5】特開2003−79601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体ガスセンサは劣化し、その感度が経時変化する。この変化を吸収するためには、検量線のゼロ点および傾きを適時校正する必要がある。従来の呼気組成測定器では、毎回の測定時に、ゼロ点調整は行われるが、傾きの校正は行われない。このため、半導体ガスセンサの劣化量に応じて測定精度が低下してしまう。もちろん、毎回の測定時にスパン校正を行う形態とすれば、この問題を解決可能であるが、専門家でない一般人にとって、スパン校正に必須の校正ガスの入手は容易ではない。そもそも、専門家であっても、スパン校正には手間がかかる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができるガス組成測定器を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器において、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、特定のガスである対象ガスに感応して値を出力する第1の半導体ガスセンサと、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、前記第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数を記憶し、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数を予め記憶する記憶部と、時間を計る計時部と、基準時点から現時点までの一連の期間を測定可能期間とし、前記測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間を測定期間とし、他の一連の期間を非測定期間としたとき、二回目以降の測定処理の各々において、前記第1の半導体ガスセンサの出力値と、前記記憶部に記憶されている前記第1の校正係数および前記第2の校正係数と、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、環境ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する濃度推定部と、を有することを特徴とするガス組成測定器を提供する。
被測定ガスとは、その組成がガス組成測定器に測定されるガスである。代表的な被測定ガスは、呼気である。環境ガスとは、ガス組成測定器が使用される環境(空間)に充満しているガスであり、代表的には、空気等の大気である。基準時点は、測定可能期間が開始する時点であり、例えば、第1の校正係数が記憶部に記憶された時点である。半導体ガスセンサは、曝露雰囲気中の特定のガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体で形成された感ガス体を有するガスセンサである。
上記のガス組成測定器では、各測定期間における被測定ガス中の対象ガスの濃度の推定に、第1の半導体ガスセンサの出力値と、第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数とが用いられる。つまり、上記の推定に、従来と同様の値が用いられる。
また、半導体ガスセンサは対象ガスに曝露されると大きく劣化するが、上記のガス組成測定器では、上記の推定に、更に、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数と、第1の半導体ガスセンサが被測定ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。また、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、上記のガス組成測定器では、上記の推定に、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、第1の半導体ガスセンサが環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、上記の推定は、測定期間における第1の半導体ガスセンサの劣化と、非測定期間における第1の半導体ガスセンサの劣化とを考慮して行われる。
よって、上記のガス組成測定器によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、上記のガス組成測定器では、第1の校正係数を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、上記のガス組成測定器によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
以上の説明から明らかなように、上記のガス組成測定器は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0009】
ところで、半導体ガスセンサの劣化の速度は、曝露時間のみならず、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度にも依存する。したがって、測定精度の低下の抑制の観点からは、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度を一定値と仮定して第1の演算を行う形態よりも、過去の測定濃度を用いて第1の演算を行う形態の方が好ましい。そこで、上記のガス組成測定器において、前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
【0010】
第1の演算としては様々なものを採用可能である。例えば、前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される、ようにしてもよい。この形態のガス組成測定器によれば、式(1)で表される第1の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【数4】
【0011】
ところで、第3の校正係数は、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた係数であるが、環境ガスの組成は、ガス組成測定器の保管環境によって相違し得る。例えば、ガス組成測定器を梱包する梱包材が相違すると、環境ガスの組成も相違し得る。環境ガスの組成が異なると、環境ガスへの曝露による第1の半導体ガスセンサの劣化の速度も相違し得る。
そこで、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる形態であるか否かに関わらず、上記のガス組成測定器において、前記記憶部は前記第3の校正係数を予め記憶し、前記濃度推定部は、前記第1の演算に、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を用い、予め定められた時刻に一つの測定期間を開始させる自動開始部と、前記一つの測定期間において前記濃度推定部に推定された濃度に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を更新する更新部とを有する、ようにしてもよい。
この形態のガス組成測定器によれば、その出荷に際し、環境ガスとして空気を想定して第3の校正係数が定められ、この第3の校正係数が記憶部に記憶された後に、出荷のための梱包が行われ、その後、梱包された状態で予め定められた時刻を迎えたとすると、その状態で測定が行われる。この測定により濃度推定部に推定される濃度は、梱包材の影響を受けたものとなる。そして、この濃度に基づいて、記憶部に記憶された第3の校正係数が更新される。よって、以降の測定処理において、梱包材の悪影響による測定誤差が低減される。
【0012】
また、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる形態であるか否かに関わらず、上記のガス組成測定器において、前記対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が前記第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致する第2の半導体ガスセンサを有し、前記濃度推定部は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値を用いた第2の演算によって前記第3の校正係数を算出し、算出した前記第3の校正係数を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
この形態のガス組成測定器によれば、測定期間において、被測定ガスに第1の半導体ガスセンサを曝露させる一方、第2の半導体ガスセンサを曝露させない、ということが可能となる。この場合、第2の半導体ガスセンサの劣化に関与するガスは環境ガスのみとなるから、第2の半導体ガスセンサの出力値を用いて、実際の環境ガスによる第2の半導体ガスセンサの劣化速度を算出することができる。また、このガス組成測定器では、第2の半導体ガスセンサの検量線は第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致するから、実際の環境ガスによる第2の半導体ガスセンサの劣化速度は、実際の環境ガスによる第1の半導体ガスセンサの劣化速度に略一致すると予想される。つまり、このガス組成測定器によれば、実際の環境ガスに応じた第3の校正係数を算出可能であるから、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる。
【0013】
さらに、第2の半導体ガスセンサを有するガス組成測定器において、測定精度の低下の抑制の観点から、前記濃度推定部が、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、ようにしてもよい。
【0014】
第2の半導体ガスセンサを有し、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いるガス組成測定器においては、前記第1の演算および前記第2の演算として、様々なものを採用可能である。例えば、前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、上記の式(1)で表され、前記第2の演算は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy1、前記基準時点の前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy0、前記第1の校正係数をk1、前記第3の校正係数をk3、基準時点からの経過時間をtとしたとき、式(2)で表されてもよい。
【数5】
この形態のガス組成測定器によれば、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係るガス組成測定器は、いずれも、呼気(被測定ガス)中の対象ガスの濃度を推定して呼気の組成を測定する測定処理を繰り返し行う呼気組成測定器であり、ゼロ点調整後のスパン校正を経て製造され、製造直後に梱包材で梱包され、梱包された状態で出荷され、その使用者に使用および保管されるものであり、半導体ガスセンサを有する。
【0016】
「対象ガス」は、半導体ガスセンサの感知対象となる特定のガスであり、呼気組成測定器の用途に応じて適宜に定められる。例えば、呼気中のアルコール濃度を測定する用途では、エチルアルコールガス等のアルコールガスが対象ガスとなり、口臭の臭度を測定する用途では、メチルメルカプタンガス等の臭度に関連するガスが対象ガスとなる。呼気組成測定器について「使用」とは、使用者が呼気組成測定器に測定処理を行わせることをいう。
【0017】
各呼気組成測定器では、その製造完了時点(基準時点(t0))から現時点までの一連の期間が、測定を行うことが可能な期間、すなわち「測定可能期間」となる。以降の説明では、測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間をそれぞれ「測定期間」と呼び、他の一連の期間をそれぞれ「非測定期間」と呼ぶ。各測定期間では、検量線のゼロ点調整および傾きの校正が行われる。基準時点(t0)は、後述の第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点でもある。
【0018】
図1は、測定可能期間と測定期間と非測定期間との関係を示す図である。ただし、この図に示す一〜三番目の非測定期間の長さ(Tb1〜Tb3)および一〜二番目の測定期間の長さ(Ta1〜Ta2)は一例に過ぎない。この図に示すように、各呼気組成測定器では、測定可能期間において、非測定期間と測定期間が交互に現れる。
【0019】
<1.第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100は、式(1)で表される第1の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、一つの半導体ガスセンサを有する。
【0020】
<1−1.構成>
図2および図3は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100の外観を示す斜視図である。図2には正面側、図3には裏面側の外観が示されている。図4は、呼気組成測定器100の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器100は、その使用者の片手に把持される中空の筐体101と、筐体101に設けられた各部とを有する。
【0021】
筐体101の表面には、使用者の呼気が吹き込まれる吹込口103が設けられている。吹込口103は、筐体101内の空洞に繋がっている。筐体101内には、使用者の指示を入力するための入力部102、各種の情報を表示する表示部104、各種の処理を行うCPU(Central Processing Unit)105、半導体ガスセンサである測定用センサ(第1の半導体ガスセンサ)106、A/D変換器107、測定用センサ106のヒートクリーニングを行うヒーター108、タイマ(計時部)109および書き込まれた情報を電子データの形態で記憶(保持)する記憶部110が設けられている。
【0022】
入力部102は、具体的には、筐体101の表面に露出している操作ボタンを備え、その操作内容に応じた信号を出力する操作部である。CPU105は、入力部102の出力信号を受けることにより、入力部102を用いて入力された指示を受け取る。表示部104は、具体的には、筐体101の表面に露出している表示面を有する液晶ディスプレイである。CPU105は、表示部104に対して、情報に応じた信号を供給することにより、この情報を表示させる。
【0023】
測定用センサ106は、対象ガスに感応する半導体ガスセンサであり、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有し、感ガス体の電気抵抗値に応じた値をアナログ信号の形態で出力する。
【0024】
A/D変換器107は、測定用センサ106の出力信号をA/D変換して出力する。CPU105は、A/D変換器107の出力信号を受けることにより、測定用センサ106の出力値を受け取る。ヒーター108は、測定用センサ106の感ガス体に近接して配置され、CPU105の制御に従って発熱し、これによって感ガス体を加熱して還元する。すなわち、ヒーター108は、CPU105の制御に従って測定用センサ106のヒートクリーニングを行う。
【0025】
タイマ109は、電源を有し、基準時点(t0)から現時点までの経過時間(t)を計る。前述のように、基準時点(t0)は、第1の校正係数(k1)が記憶部110に記憶される時点である。第1の校正係数(k1)は、測定用センサ106を校正するための係数であって、測定用センサ106の検量線の傾きに応じた定数であり、基準時点(t0)以前にゼロ点調整後のスパン校正により求められ、基準時点(t0)で記憶部110に記憶される。
【0026】
図4の記憶部110は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性メモリを有する。記憶部110に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。CPU105は、記憶部110に値を書き込み、記憶部110から値を読み出し、記憶部110に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器100の主電源(タイマ109の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部110に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、このプログラムを用いて行われる。
【0027】
記憶部110に記憶される値には、第1〜第3の校正係数(k1〜k3)が含まれる。第2の校正係数(k2)および第3の校正係数(k3)は、いずれも、測定用センサ106を校正するための係数である。第2の校正係数(k2)は、呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた定数であり、予め求められ、基準時点(t0)以前に記憶部110に記憶される。第3の校正係数(k3)は、後述の環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた定数であり、予め求められ、基準時点(t0)以前に記憶部110に記憶される。第2の校正係数(k2)および第3の校正係数(k3)は、例えば、測定用センサ106と同様な半導体ガスセンサを用いた加速試験により求められる。
【0028】
CPU105は、毎回の測定時に、すなわち測定期間毎に、測定用センサ106についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、測定用センサ106の出力値(x)と、記憶部110に記憶されている第1〜第3の校正係数(k1〜k3)と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さと、前回以前の測定処理において推定した濃度とを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。
【0029】
<1−2.第1の演算>
第1の演算は、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、n番目の測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される。なお、式(1)において、n<2の場合、m<2となり、右辺の括弧内は実質的にk1のみになる。
【0030】
式(1)の右辺は、スパン係数と測定用センサ106の出力値(x)との積である。この積を濃度Dnとしてよいのは、測定期間毎にゼロ点調整が行われるからである。スパン係数は、第1〜第3の項の和である。第1の項は、第1の校正係数(k1)である。第1の校正係数(k1)は、具体的には、測定用センサ106の検量線の傾きの逆数である。例えば、測定用センサ106について、図5に示すように、ガスの濃度の軸に対する角度がθ1の検量線L3が求められたと仮定すると、k1=1/tanθ1となる。従来ならば、第1の校正係数(k1)がそのままスパン係数として用いられる。
【0031】
図6は、測定用センサ106の劣化の特性(測定用センサ106の感度の経時変化の特性)の一例を示す図である。この図の特性線L1で表されるように、測定用センサ106は時とともに劣化(高感度化)する。測定用センサ106が劣化した場合、測定精度を維持するためには、劣化量に応じて検量線を校正する必要がある。
【0032】
図7は、測定用センサ106の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。この図には、検量線L3と、校正後の検量線に相当する仮想線L4〜L5とが示されている。仮想線L4はt=t2のときのものであり、仮想線L5はt=tpのときのものである。ただし、pは3以上の自然数であり、t0<t2<tpである。この図に示すように、理想的には、t=t2のときには仮想線L4で示される校正が行われ、t=tpのときには仮想線L5で示される校正が行われるようにすべきである。
【0033】
検量線の校正としては、そのゼロ点の校正と、その傾きの校正がある。呼気組成測定器100では、測定期間毎にゼロ点調整が行われ、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)はゼロ点調整後の値となるから、第1の演算で達成すべきは、図8に示すように、検量線の傾きの校正(第1の校正係数(k1)の校正)、すなわちスパン係数の補正のみである。この補正のために、第2の項および第3の項が存在している。つまり、第2の項および第3の項は、いずれもスパン係数の補正項である。
【0034】
スパン係数の理想的な補正量は、測定用センサ106の劣化量(感度の変化量)に応じて異なる。図6から明らかなように、校正時点での測定用センサ106の劣化量は、終了した各期間における劣化量の和となり、各期間の劣化量は、その期間の長さとその期間における劣化速度に依存する。劣化速度は、特性線L1の傾きである。例えば、図6の一部R1の拡大図である図9に示すように、1番目の非測定期間における時間軸に対する特性線L1の角度をθ2とし、1番目の測定期間における時間軸に対する特性線L1の角度をθ3とした場合、1番目の非測定期間における劣化速度はtanθ2、1番目の測定期間における劣化速度はtanθ3で表される。
【0035】
測定用センサ106の劣化速度は、曝露雰囲気の組成に依存する。したがって、測定期間にあっては測定期間毎に相違し得る一方、非測定期間にあっては全ての非測定期間に共通となる。例えば、二番目以降の測定期間における劣化速度がtanθ3になるとは限らない一方、非測定期間における劣化速度は全ての非測定期間に共通してtanθ2となる。このように、測定用センサ106の劣化の傾向は、測定期間と非測定期間とで大きく異なる。これが、測定期間用の第2の項および非測定期間用の第3の項が存在する理由である。
【0036】
第2の項は、第2の校正係数(k2)と、1番目からn−1番目の測定期間についての、測定期間の長さと当該測定期間において推定された濃度との積和との積である。第2の校正係数(k2)は、具体的には、測定期間における単位濃度あたりの特性線L1の傾きである。したがって、上記の積和に第2の校正係数(k2)を掛ければ、測定期間における測定用センサ106の劣化の影響を低減するための、スパン係数の理想的な補正量が得られる。
【0037】
第3の項は、第3の校正係数(k3)と、1番目からm−1番目の非測定期間の長さの和との積である。第3の校正係数(k3)は、具体的には、非測定期間における特性線L1の傾き(tanθ2)である。したがって、上記の和に第3の校正係数(k3)を掛ければ、非測定期間における測定用センサ106の劣化の影響を低減するための、スパン係数の理想的な補正量を得ることができる。
【0038】
<1−3.まとめ>
上述したように、呼気組成測定器100では、各測定期間における呼気中の対象ガスの濃度(D)の推定に、測定用センサ106の出力値(x)と、測定用センサ106の出力値(x)とガスの濃度(D)との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数(k1)とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定に、従来と同様の値が用いられる。また、上述したように呼気組成測定器100では、濃度(D)の推定に、更に、対象ガスを含む呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第2の校正係数(k2)と、測定用センサ106が呼気に曝露されただろう時間とが用いられる。また、上述したように、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、呼気組成測定器100では、濃度(D)の推定に、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第3の校正係数(k3)と、測定用センサ106が環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定は、測定期間における測定用センサ106の劣化と、非測定期間における測定用センサ106の劣化とを考慮して行われる。よって、呼気組成測定器100によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、呼気組成測定器100では、第1の校正係数(k1)を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、呼気組成測定器100によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
以上の説明から明らかなように、呼気組成測定器100は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0039】
また、呼気組成測定器100では、CPU105が、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる。このことは、測定精度の低下の抑制に寄与する。また、呼気組成測定器100によれば、式(1)で表される第1の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0040】
<2.第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200は、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、二つの半導体ガスセンサを有する。
【0041】
<2−1.構成>
図10および図11は、それぞれ、本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200の外観を示す斜視図である。図10には正面側、図11には裏面側の外観が示されている。図12は、呼気組成測定器200の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器200は、その使用者の片手に把持される中空の筐体201と、筐体201に設けられた各部とを有する。
【0042】
筐体201の裏面には、環境ガスのみが流入する流入口203が設けられている。流入口203は、筐体201内の空洞に繋がっているが、吹込口103には繋がっていない。筐体201内には、入力部102、表示部104、CPU105、測定用センサ106、A/D変換器107およびタイマ109が設けられている。また、筐体201内には、ダミーセンサ(第2の半導体ガスセンサ)206、A/D変換器207、ヒーター208および記憶部210を有する。
【0043】
ダミーセンサ206は、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、呼気に曝露されない位置に設けられ、その検量線は、測定用センサ106の検量線と略一致している。つまり、ダミーセンサ206は、対象ガスに感応する半導体ガスセンサであり、被測定ガスに曝露される位置に設けられ、曝露雰囲気中の対象ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する半導体(例えば、酸化第二錫(SnO2)等の金属酸化物を成分とした半導体)で形成された感ガス体を有し、感ガス体の電気抵抗値に応じた値をアナログ信号の形態で出力する。
【0044】
A/D変換器207は、ダミーセンサ206の出力信号をA/D変換して出力する。CPU105は、A/D変換器207の出力信号を受けることにより、ダミーセンサ206の出力値を受け取る。ヒーター208は、測定用センサ106およびダミーセンサ206の感ガス体に近接して配置され、CPU105の制御に従って発熱し、これによって感ガス体を加熱して還元する。すなわち、ヒーター108は、CPU105の制御に従って測定用センサ106およびダミーセンサ206のヒートクリーニングを行う。
【0045】
記憶部210は、EEPROM等の書き換え可能な不揮発性メモリを有し、書き込まれた情報を電子データの形態で記憶(保持)する。記憶部110に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。CPU105は、記憶部210に値を書き込み、記憶部210から値を読み出し、記憶部210に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器200の主電源(タイマ109の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部210に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、このプログラムを用いて行われる。
【0046】
記憶部210に記憶される値には、第1および第2の校正係数(k1およびk2)と基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)とが含まれる。第1の校正係数(k1)は、基準時点(t0)以前にゼロ点調整後のスパン校正により求められ、基準時点(t0)で記憶部110に記憶される。基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)は、基準時点(t0)において測定され、記憶部110に記憶される。
【0047】
CPU105は、毎回の測定時に、すなわち測定期間毎に、測定用センサ106およびダミーセンサ206についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)およびダミーセンサ206の出力値(y1)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。また、CPU105は、各測定処理において、ダミーセンサ206の出力値(y1)、基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値(y0)、第1の校正係数(k1)および基準時点(t0)からの経過時間(t)を用いた第2の演算によって第3の校正係数(k3)を算出し、算出した校正係数(k3)を第1の演算に用いる。
【0048】
<2−2.第2の演算>
第2の演算は、ダミーセンサ206の出力値をy1、基準時点(t0)のダミーセンサ206の出力値をy0、第1の校正係数をk1、第3の校正係数をk3、基準時点(t0)からの経過時間をt、としたとき、式(2)で表される。以降、式(2)について説明する。
【0049】
図13は、測定用センサ106およびダミーセンサ206の劣化の特性(測定用センサ106およびダミーセンサ206の感度の経時変化の特性)の一例を示す図である。ダミーセンサ206は、非測定期間はもとより、測定期間においても、被測定ガスに曝露されないから、その劣化特性を示す特性線L6は、直線状となる。つまり、ダミーセンサ206は、時とともに線形に劣化(高感度化)する。
【0050】
一方、ダミーセンサ206の検量線は、測定用センサ106の検量線と略一致するから、同一のガスに同一の時間だけ曝露された場合の両センサの劣化の程度は略一致すると考えられる。つまり、第1〜第3の校正係数(k1〜k3)は、ダミーセンサ206および測定用センサ106に共通すると考えられる。したがって、ダミーセンサ206を校正するための第3の校正係数(k3)を求めれば、これを、測定用センサ106を校正するための第3の校正係数(k3)として用いることができる。
【0051】
図14は、ダミーセンサ206の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。この図には、図5の検量線L3と略一致する検量線L7と、校正後の検量線に相当する仮想線L8とが示されている。仮想線L8はt=tqのときのものである。この図に示すように、理想的には、t=t0のときには検量線L7で示される校正が行われ、t=tqのときには仮想線L8で示される校正が行われるようにすべきである。
【0052】
ダミーセンサ206は、環境ガスのみに曝露され続けるから、ダミーセンサ206の出力値(y)に対応する濃度(Dy(t))は、基準時点(t0)からの経過時間(t)、その時点でのダミーセンサ206の出力値(y)、第1の校正係数(k1)および第3の校正係数(k3)を用いた第3の演算により求められる。第3の演算は、式(3)で表される。
【数6】
【0053】
図14に示すように、t=tqのときの濃度(Dy(t))は、t=t0のときの濃度(Dy(t))と一致すべきであるから、式(4)が成立する。t0=0であるから、式(4)を整理することにより、式(2)が得られる。
【数7】
【0054】
<2−3.まとめ>
呼気組成測定器200では、各測定期間における呼気中の対象ガスの濃度(D)の推定に、測定用センサ106の出力値(x)と、測定用センサ106の出力値(x)とガスの濃度(D)との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数(k1)とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定に、従来と同様の値が用いられる。また、上述したように呼気組成測定器200では、濃度(D)の推定に、更に、対象ガスを含む呼気への曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第2の校正係数(k2)と、測定用センサ106が呼気に曝露されただろう時間とが用いられる。また、上述したように、半導体ガスセンサは対象ガス以外のガスに曝露されても劣化するが、呼気組成測定器200では、濃度(D)の推定に、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた第3の校正係数(k3)と、測定用センサ106が環境ガスに曝露されただろう時間とが用いられる。つまり、濃度(D)の推定は、測定期間における測定用センサ106の劣化と、非測定期間における測定用センサ106の劣化とを考慮して行われる。よって、呼気組成測定器200によれば、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
一方、呼気組成測定器200では、第1の校正係数(k1)を測定可能期間にわたって固定とすることができる。つまり、測定の度にスパン校正を行う必要は無い。したがって、呼気組成測定器200によれば、使用者は、手軽に測定を行うことができる。
よって、以上の説明から明らかなように、呼気組成測定器200は、手軽に使用可能であって、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0055】
ところで、第3の校正係数(k3)は、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度に応じた係数であるが、環境ガスの組成は、呼気組成測定器200の保管環境によって相違し得る。例えば、呼気組成測定器200を梱包する梱包材が相違すると、環境ガスの組成も相違し得る。環境ガスの組成が異なると、環境ガスへの曝露による測定用センサ106の劣化の速度も相違し得る。
【0056】
これに対し、呼気組成測定器200は、対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が測定用センサ106の検量線と略一致するダミーセンサ206を有し、そのCPU105は、ダミーセンサ206の出力値(y)を用いた第2の演算によって第3の校正係数(k3)を算出し、算出した第3の校正係数(k3)を第1の演算に用いる。
【0057】
したがって、呼気組成測定器200によれば、測定期間において、被測定ガスに測定用センサ106を曝露させる一方、ダミーセンサ206を曝露させない、ということが可能となる。この場合、ダミーセンサ206の劣化に関与するガスは環境ガスのみとなるから、ダミーセンサ206の出力値(y)を用いて、実際の環境ガスによるダミーセンサ206の劣化速度を算出することができる。また、呼気組成測定器200では、ダミーセンサ206の検量線は測定用センサ106の検量線と略一致するから、実際の環境ガスによるダミーセンサ206の劣化速度は、実際の環境ガスによる測定用センサ106の劣化速度に略一致すると予想される。つまり、呼気組成測定器200によれば、実際の環境ガスに応じた第3の校正係数(k3)を算出可能であるから、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる。
【0058】
また、呼気組成測定器200では、CPU105が、前回以前の測定処理において推定した濃度を第1の演算に用いる。このことは、測定精度の低下の抑制に寄与する。また、呼気組成測定器200によれば、式(1)で表される第1の演算および式(2)で表される第2の演算により濃度が推定されるから、確実に、半導体ガスセンサの劣化による測定精度の低下を抑制することができる。
【0059】
<3.第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る呼気組成測定器300は、式(1)で表される第1の演算によって呼気中の対象ガスの濃度を推定するものであり、一つの半導体ガスセンサを有する点で呼気組成測定器100と共通する。一方、呼気組成測定器300は、梱包材の悪影響による測定誤差を大幅に低減することができる点で、呼気組成測定器300と相違する。
【0060】
<3−1.構成>
図15は、呼気組成測定器300の電気的な構成を示すブロック図である。呼気組成測定器300が呼気組成測定器100と異なる点は、記憶部110およびタイマ109に代えて記憶部310およびタイマ309を有する点のみである。記憶部310は、EEPROM等の書き換え可能な不揮発性メモリを有する。記憶部310に記憶される情報には、CPU105に実行されるプログラムや各種の値が含まれる。記憶部310に記憶される各種の値には、記憶部110に記憶される各種の値が含まれる。タイマ309は、タイマ109の機能に加えて、予め定められた事前測定時刻(tr)が近づくと、呼気組成測定器300の主電源を投入する機能を有する。事前測定時刻(tr)は、基準時点(t0)よりも後の時刻であり、呼気組成測定器300の使用が開始される時点よりも前の時刻である。
【0061】
CPU105は、記憶部310に値を書き込み、記憶部310から値を読み出し、記憶部310に記憶されている値を更新する。呼気組成測定器300の主電源(タイマ309の電源とは別の電源)が投入されると、CPU105は、記憶部310に記憶されているプログラムを読み出して実行する。この処理を除くと、CPU105が行う全ての処理は、読み出したプログラムを用いて行われる。
【0062】
CPU105は、二回目以降の測定処理(二番目以降の測定期間)毎に、測定用センサ106についてゼロ点調整を行う。したがって、CPU105において、二回目以降の測定処理において、CPU105における測定用センサ106の出力値(x)は、ゼロ点調整後の値となる。また、CPU105は、各測定処理において、第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する。すなわち、CPU105は、濃度推定部として機能する。
【0063】
また、CPU105は、行おうとしている測定処理が一回目の測定処理の場合には、事前測定時刻(tr)に、この測定処理を開始し、この測定処理によって推定された濃度に基づいて、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)を更新する。つまり、CPU105は、自動開始部および更新部として機能する。以降、一回目の測定処理を「事前測定処理」と呼ぶ。なお、CPU105は、事前測定処理が終了すると、その旨を示す値を記憶部310に記憶させる。この値は、行おうとしている測定処理が一回目の測定処理であるか否かの判定に用いられる。
【0064】
<3−2.事前測定処理>
記憶部310に最初に記憶される第3の校正係数(k3)は、環境ガスが大気のみを含むものと仮定して求められる。しかし、現実には、大気のみならず、呼気組成測定器300の梱包材からの揮発ガスも、環境ガスに含まれる。この点に鑑みて設けられた処理が事前測定処理であり、二回目以降の測定処理(二番目以降の測定期間)において梱包材の影響を考慮した濃度の推定を可能とすることを目的としている。
【0065】
事前測定処理では、まず、タイマ309が、事前測定時刻(tr)が近づくと、呼気組成測定器100の主電源を投入する。すると、CPU105が、事前測定時刻(tr)に一回目の測定処理を開始し、これにより推定された濃度である実測濃度(Dr)に基づいて、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)を更新し、一回目の測定処理が終了すると、その旨を示す値を記憶部310に記憶させ、呼気組成測定器300の主電源を切る。
【0066】
より詳しくは、CPU105は、実測濃度(Dr)を第1の演算により再推定したならば基準濃度(Ds)に一致するように、第3の校正係数(k3)を更新する。基準濃度(Ds)は、呼気組成測定器300が梱包されないまま事前測定時刻(tr)を迎え、この時刻において、ゼロ点調整を行うことなく測定が行われた場合に、第1の演算により推定されるだろう濃度であり、予め記憶部310に記憶されている。
【0067】
<3−3.まとめ>
上述したように、事前測定時刻(tr)は、基準時点(t0)よりも後の時刻であり、呼気組成測定器300の使用が開始される時点よりも前の時刻であるから、呼気組成測定器300は、梱包された状態で事前測定時刻(tr)を迎えることになる。したがって、事前測定時刻(tr)に開始された測定処理は、呼気組成測定器300が梱包された状態で行われ、その測定期間において推定された実測濃度(Dr)は、梱包材の影響を受けたものとなる。よって、上記の更新により、記憶部310に記憶されている第3の校正係数(k3)は、梱包材の影響を考慮したものとなり、以降の測定処理において、梱包材の悪影響による測定誤差が低減される。また、呼気組成測定器300には、測定期間毎に第3の校正係数を求める形態に比較して処理が簡素となる、という利点がある。
【0068】
<4.変形例>
本発明は、その発明特定事項で特定される範囲において、以下の変形例をも含む。
上述した各実施の形態では、前回以前の測定処理において推定した濃度を用いた演算を第1の演算としたが、これを変形し、前回以前の測定処理において推定した濃度を用いない演算を第1の演算としてもよい。例えば、前回以前の測定処理において推定した濃度とは異なる濃度(例えば一定値)を用いるようにしてもよいし、如何なる濃度も用いないようにしてもよい。
【0069】
上述した各実施の形態では、(1)式で表される演算を第1の演算として採用したため、確実に、測定用センサ106の劣化による測定精度の低下を抑制することができるが、これを変形し、他の式で表される演算を第1の演算として採用してもよい。例えば、(1)式の右辺の括弧内の第2の項におけるDi−1を固定値としてもよい。この場合でも、適切な固定値を定めることにより、十分に高い測定精度を得ることができる。これと同様に、上述した第2の実施の形態では、(2)式で表される演算を第2の演算として採用したため、確実に、測定用センサ106の劣化による測定精度の低下を抑制することができるが、これを変形し、他の式で表される演算を第2の演算として採用してもよい。
【0070】
上述した各実施の形態では、呼気組成測定器の製造完了時点(詳しくは第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点)を基準時点(t0)としているが、これを変形し、第1の校正係数(k1)が記憶部に記憶される時点以前の任意の時点を基準時点としてもよい。例えば、第1の校正係数(k1)が求められた時点を基準時点としてもよい。したがって、タイマ109やタイマ309に代えて、リアルタイムクロックやその他の計時部を採用することも可能である。
【0071】
上述した各実施の形態では、使用者の指示を入力するための入力部として、操作ボタンを備えた入力部102を採用しているが、これを変形し、操作ボタン以外の操作子を備え、その操作内容に応じた信号を出力する操作部や、使用者の挙動を検出し、検出結果に応じた信号を出力するセンサ、その他の入力部を採用してもよい。また、上述した各実施の形態では、各種の情報を表示する表示部として、液晶ディスプレイを採用しているが、これを変形し、液晶ディスプレイ以外の表示装置や、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子、その他の表示部を採用してもよい。
【0072】
上述した各実施の形態では、推定された濃度を用いて被測定ガスの組成を報知する報知部として、組成を表示する表示部を採用しているが、これを変形し、表示部以外の報知部を採用してもよいし、報知しないようにしてもよい。前者の例としては、組成を音声出力する形態が挙げられる。後者の例としては、組成を内部または外部の記憶部に記憶させる形態や、組成を外部へ送信する形態が挙げられる。
【0073】
上述した各実施の形態では、測定可能期間において非測定期間と測定期間が交互に現れる形態の呼気組成測定器を例示したが、これを変形し、測定期間の直後に次の測定期間が続くことを許容する形態としてもよい。また、上述した各実施の形態では、ガス組成測定器として呼気組成測定器を例示したが、これを変形し、呼気以外のガスの組成を測定するガス組成測定器としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の各実施の形態における測定可能期間と測定期間と非測定期間との関係を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る呼気組成測定器100の外観(正面側)を示す斜視図である。
【図3】呼気組成測定器100の外観(裏面側)を示す斜視図である。
【図4】呼気組成測定器100の電気的な構成を示すブロック図である。
【図5】呼気組成測定器100の測定用センサ106の検量線の一例を示す図である。
【図6】測定用センサ106の劣化の特性の一例を示す図である。
【図7】測定用センサ106の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。
【図8】呼気組成測定器100において、第1の演算で達成すべきことを説明するための図である。
【図9】図6の一部R1の拡大図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る呼気組成測定器200の外観(正面側)を示す斜視図である。
【図11】呼気組成測定器200の外観(裏面側)を示す斜視図である。
【図12】呼気組成測定器200の電気的な構成を示すブロック図である。
【図13】呼気組成測定器200の測定用センサ106およびダミーセンサ206の劣化の特性の一例を示す図である。
【図14】ダミーセンサ206の検量線の理想的な校正イメージを示す図である。
【図15】呼気組成測定器300の電気的な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0075】
100,200,300…呼気組成測定器、101,201…筐体、102…入力部、103…吹込口、104…表示部、105…CPU、106…測定用センサ、107,207…A/D変換器、108,208…ヒーター、109,309…タイマ、110,210,310…記憶部、203…流入口、206…ダミーセンサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器において、
被測定ガスに曝露される位置に設けられ、特定のガスである対象ガスに感応して値を出力する第1の半導体ガスセンサと、
前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、前記第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数を記憶し、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数を予め記憶する記憶部と、
時間を計る計時部と、
基準時点から現時点までの一連の期間を測定可能期間とし、前記測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間を測定期間とし、他の一連の期間を非測定期間としたとき、二回目以降の測定処理の各々において、前記第1の半導体ガスセンサの出力値と、前記記憶部に記憶されている前記第1の校正係数および前記第2の校正係数と、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、環境ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する濃度推定部と、
を有することを特徴とするガス組成測定器。
【請求項2】
前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項3】
前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される、
ことを特徴とする請求項2に記載のガス組成測定器。
【数1】
【請求項4】
前記記憶部は前記第3の校正係数を予め記憶し、
前記濃度推定部は、前記第1の演算に、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を用い、
予め定められた時刻に一つの測定期間を開始させる自動開始部と、
前記一つの測定期間において前記濃度推定部に推定された濃度に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を更新する更新部とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項5】
前記対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が前記第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致する第2の半導体ガスセンサを有し、
前記濃度推定部は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値を用いた第2の演算によって前記第3の校正係数を算出し、算出した前記第3の校正係数を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項6】
前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項5に記載のガス組成測定器。
【請求項7】
前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表され、
前記第2の演算は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy1、前記基準時点の前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy0、前記第1の校正係数をk1、前記第3の校正係数をk3、基準時点からの経過時間をtとしたとき、式(2)で表される、
ことを特徴とする請求項6に記載のガス組成測定器。
【数2】
【数3】
【請求項1】
被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定して被測定ガスの組成を測定する測定処理を繰り返し行うガス組成測定器において、
被測定ガスに曝露される位置に設けられ、特定のガスである対象ガスに感応して値を出力する第1の半導体ガスセンサと、
前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、前記第1の半導体ガスセンサの出力値とガスの濃度との対応関係を示す検量線の傾きに応じた第1の校正係数を記憶し、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、対象ガスを含む被測定ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第2の校正係数を予め記憶する記憶部と、
時間を計る計時部と、
基準時点から現時点までの一連の期間を測定可能期間とし、前記測定可能期間のうち、測定処理の開始から終了までの一連の期間を測定期間とし、他の一連の期間を非測定期間としたとき、二回目以降の測定処理の各々において、前記第1の半導体ガスセンサの出力値と、前記記憶部に記憶されている前記第1の校正係数および前記第2の校正係数と、前記第1の半導体ガスセンサを校正するための係数であって、環境ガスへの曝露による前記第1の半導体ガスセンサの劣化の速度に応じた第3の校正係数と、前回以前の測定処理に係る測定期間の長さと、今回の測定処理の開始以前に終了している非測定期間の長さとを用いた第1の演算によって、被測定ガス中の対象ガスの濃度を推定する濃度推定部と、
を有することを特徴とするガス組成測定器。
【請求項2】
前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項3】
前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表される、
ことを特徴とする請求項2に記載のガス組成測定器。
【数1】
【請求項4】
前記記憶部は前記第3の校正係数を予め記憶し、
前記濃度推定部は、前記第1の演算に、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を用い、
予め定められた時刻に一つの測定期間を開始させる自動開始部と、
前記一つの測定期間において前記濃度推定部に推定された濃度に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記第3の校正係数を更新する更新部とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項5】
前記対象ガスに感応して値を出力する半導体ガスセンサであって、被測定ガスに曝露されない位置に設けられ、その検量線が前記第1の半導体ガスセンサの検量線と略一致する第2の半導体ガスセンサを有し、
前記濃度推定部は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値を用いた第2の演算によって前記第3の校正係数を算出し、算出した前記第3の校正係数を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス組成測定器。
【請求項6】
前記濃度推定部は、前記前回以前の測定処理において推定した濃度を前記第1の演算に用いる、
ことを特徴とする請求項5に記載のガス組成測定器。
【請求項7】
前記第1の演算は、前記第1の半導体ガスセンサの出力値をx、前記第1の校正係数をk1、前記第2の校正係数をk2、前記第3の校正係数をk3、今回の測定処理に係る測定期間の順番をn、i−1番目の測定期間おいて推定された濃度をDi−1、i−1番目の測定期間の長さをTai−1、n番目の測定期間に続く非測定期間の順番をm、j−1番目の非測定期間の長さをTbj−1、今回の測定処理に係る測定期間において推定される濃度をDnとしたとき、式(1)で表され、
前記第2の演算は、前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy1、前記基準時点の前記第2の半導体ガスセンサの出力値をy0、前記第1の校正係数をk1、前記第3の校正係数をk3、基準時点からの経過時間をtとしたとき、式(2)で表される、
ことを特徴とする請求項6に記載のガス組成測定器。
【数2】
【数3】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
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【図10】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−281514(P2008−281514A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127963(P2007−127963)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】
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