ガラスの回収方法および回収装置
【課題】廃薄型パネルから、少ない労力とエネルギーにてガラスを再利用することが可能であるとともに、液晶、透明導電膜中のインジウムなどの電極材料を回収することが可能である方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】廃液晶表示装置からガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、ガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含むガラスの回収方法、ならびにそのための装置。
【解決手段】廃液晶表示装置からガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、ガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含むガラスの回収方法、ならびにそのための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃薄型パネルからガラスを回収する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会における生産・消費活動全般について一般廃棄物や産業廃棄物が増加し、不法投棄や埋立地逼迫などの地球環境問題が注目を集め、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済システムから資源循環型経済システムへの転換が社会的に重要な課題となってきている。
【0003】
前記のような状況を受け、たとえば、2001年4月より家電リサイクル法が施行された。家電リサイクル法においては、2007年4月現在において、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電4品目のリサイクルが義務付けられ、また、それぞれの製品の再商品化率については、エアコン60%以上、テレビ55%以上、冷蔵庫50%以上、洗濯機50%以上の法定基準値が定められている。
【0004】
これら家電4品目においては、関係者の鋭意努力のもと、法律施行当初に比べリサイクルが格段に進んでいる。テレビにおいては、CRT(Cathode Ray Tube)のガラスを切断して電子銃や蛍光体を除去した後、ガラスカレットとして元のCRT用ガラスに再生使用するリサイクル技術が既に実用化されている。
【0005】
ところで、近年、表示部品として液晶パネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELパネル、電解放出型ディスプレイパネルなどの薄型パネルを搭載した薄型テレビの需要が、省電力、省スペース、軽量かつデジタル放送の受像に適するといった特性から、近年の地球環境問題への関心の高まり、ならびにテレビ放送のデジタル化と相俟って、急激に増加している。特に、大型の薄型パネルを搭載した大画面薄型テレビの需要が劇的に拡大している。これに伴い、薄型テレビの廃棄量も今後急激に増加していくことが予想され、リサイクル活動などの環境活動において、リサイクル性向上などの要求が高くなってきている。
【0006】
現在、薄型テレビのパネル(薄型パネル)は、比較的新しい製品であること、また、廃棄物の量としては少ないこともあり、廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストなどと共に、埋立処理あるいは焼却処理されている。
【0007】
液晶パネルなどの薄型パネルのリサイクルにおいて考慮すべき点は、ガラス、インジウム、液晶などの材料の再生である。薄型パネルの基材は、主にガラス基板が用いられている。ガラスは製品重量の大半を占めるため、リサイクル率向上の観点からも再資源化が望ましく、再度同一製品のガラス原料として再生するなど高品位なリサイクルを行うことがより望ましい。また、基材には透明導電膜としてITO(Indium Tin Oxide)などのインジウム化合物が加工されているものがある。インジウムは希少金属であり、昨今の薄型パネル市場拡大も影響し価格が高騰してきており、回収、リサイクルが模索されている。また、2枚のガラス基板間に封入された液晶は非常に高価な材料であり回収再利用する声がある。加えて、液晶はその毒性が問題にならないほど小さいことが分かってはいるが、自然には非常に分解しにくい材料であるため、高収率で回収し、環境中への拡散をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0008】
上述の観点から、薄型パネル中のガラス、インジウムおよび液晶の回収、リサイクルは非常に意義深いものであるが課題も多い。たとえばガラスの同一材料への再生においては大きく2点の課題が挙げられる。1点目は不純物の完全な除去、2点目はガラスの分別である。
【0009】
前者においては、ガラス基板上に形成された電極材料やカラーフィルタ、配向膜、また、ガラス基板間に封入された液晶材料など、ガラス以外の成分は完全に除去する必要がある。特に、ガラス基板に直接付着している電極材料は、ガラスとの付着力が強固であり、かつ、薄型パネルとしての信頼性の観点から、タンタル、チタンなどの耐腐食性の高い金属を使用しているため、酸溶解などの手段により除去するのは容易ではない。
【0010】
後者は、薄型パネルのガラスには、有害物質である三酸化二ヒ素(亜ヒ酸)を含有しているものがあり、このような亜ヒ酸を含有するガラスは、リサイクルに供さず、安全に処理することが望まれている。現在は、ガラス製品への亜ヒ酸の含有は、法律などにより規制されていないが、将来的に規制される可能性があり、亜ヒ酸を含有するガラスは選別し、リサイクルに供さず、安全に処理することが望ましい。また、亜ヒ酸を含有しないガラスについても、組成の異なるガラスは特性が変わるために分別する必要があり、製造メーカの異なるガラスは勿論のこと、同一メーカでもグレードの異なるガラスは分別する必要がある。
【0011】
一方、インジウムについては回収方法が種々検討されてきているが、廃棄された薄型パネルからのインジウム回収は経済性が伴わず、製造工程で発生する使用済みターゲットや装置、冶具に付着したITO残渣を回収するに留まっている。また、薄型パネルには、電極に銀を使用しているものがあり、電極材料を回収することが望ましい。また、薄型パネルに使用されている液晶の量は微量であるため、少ない労力とエネルギーで液晶を高純度で劣化を伴わずに回収し再利用することが望ましい。
【0012】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネルや家電製品および情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルの処理方法として、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し、珪石の代替材料として処理する方法が一部で実施されている(たとえば、特開2000−84531号公報(特許文献1)を参照。)。しかし、上述した特許文献1に開示された方法では、液晶パネルは、ガラス成分がスラグとなりセメント材料として再利用されるのみでガラス材料としては再利用されない。液晶などの有機物は炉内で完全燃焼され、二酸化炭素や水素などに分解される。また、特許文献1に開示された方法では、透明導電膜に含まれるインジウムもリサイクルされていない。
【0013】
また液晶パネルに用いられているガラスを回収する方法として、たとえば特開2005−292394号公報(特許文献2)には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸などの強酸溶液を用いてガラス表面に付着している金属薄膜などの無機成分を除去する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献2に開示された方法では、強酸を使用するため、発生する廃液の処理に多大な労力とエネルギーを必要とする。
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2005−292394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
液晶パネルなどの薄型パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、薄型パネルの廃棄物(廃薄型パネル)も、数・量ともに急激に増大すると予想される。
【0015】
従来は、適切な薄型パネルの処理方法が確立されておらず、CRT(Cathode Ray Tube)その他の家電製品や部品と比較して技術確立などが遅れているのが実情である。したがって、今後、廃薄型パネルの増加に備えた処理方法の確立が早急に要求される。
【0016】
薄型パネルの重量の大半を占めるガラスは、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、酸などを使用することのない、環境負荷の低い方法で再生利用することが望ましい。また、薄型パネルのガラス基板には、有害物質である亜ヒ酸を含有しているものがあり、再生利用する際には、亜ヒ酸を含有するガラス基板は、亜ヒ酸を含有しないガラス基板と選別し、リサイクルに供さず、安全な処理を施すことが望まれている。さらに、複雑な設備を用いたり廃液処理に多大な労力およびエネルギーを必要とすることなく、液晶およびインジウムを薄型パネルから高純度、高収率で回収することのできる処理方法は未だ提案されていない。また、電極に銀などの希少金属を使用している薄型パネルもあり、電極に使用されている金属材料を回収することが望まれている。
【0017】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、廃薄型パネルから、少ない労力とエネルギーにてガラスを再利用することが可能であるとともに、液晶、透明導電膜中のインジウムなどの電極材料を回収することが可能である方法およびそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、廃薄型パネルからガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明のガラスの回収方法における電極材料除去工程は、分離されたガラス基板表面に研磨剤粒子を吹きつけることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離する工程であることが好ましい。この場合、塩酸を用いて、研磨剤粒子を分離した後の電極材料を含む研磨屑からインジウムを回収することが好ましく、さらに、イオン交換樹脂を用いてインジウムを回収することがより好ましい。
【0020】
本発明はまた、上述した本発明のガラスの回収方法を行うための装置であって、廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備えるガラスの回収装置についても提供する。
【0021】
本発明のガラスの回収装置における電極材料除去装置は、圧縮空気供給装置とサイクロン式分離装置とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガラスの回収方法によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができ、また、少ない労力とエネルギーを用いて、かつ、安全に、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムなどの電極材料を回収することができ、さらにガラスカレット(ガラス片)も再利用することができる。したがって、殆ど廃棄物を排出しない経済的な薄型パネルのガラスの回収が可能となる。
【0023】
また本発明は、上述した本発明のガラスの回収方法を好適に行うためのガラスの回収装置についても提供する。このような本発明のガラスの回収装置によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明のガラスの回収方法の好ましい一例を模式的に示すフローチャートである。本発明のガラスの回収方法は、薄型パネルの廃棄物(廃薄型パネル)からガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程(ステップS3)と、分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程(ステップS6)とを基本的に含む。このような本発明のガラスの回収方法によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。またこのような本発明のガラスの回収方法によれば、少ない労力とエネルギーを用いて、かつ、安全に、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムおよび電極材料を回収することができ、さらにガラスカレット(ガラス片)も再利用することができる。したがって、殆ど廃棄物を排出しない経済的な薄型パネルのガラスの回収が可能となる。
【0025】
前記各工程の具体的説明に先立ち、本発明に供される薄型パネルの典型的な構造について、まずは説明する。図2は、本発明に供される典型的な一例の薄型パネル1を模式的に示す断面図である。本発明には、従来公知の適宜の構造の薄型パネルを特に制限されることなく供することができる。図2には、一例として、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた薄型パネル(液晶パネル)1を示しているが、本発明には、TN(Twisted Nematic)液晶パネル、STN(Super Twisted Nematic)液晶パネルなどのデューティ液晶パネルも勿論適用可能である。また、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELパネルも適用可能である。
【0026】
図2に示す例の薄型パネル1は、たとえば、対向配置された厚み0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚み4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、厚み0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。さらに、薄型パネルの周縁部には、液晶駆動用のドライバーICが接続され、周縁部の外側がベゼル・プラスチックで覆われている(図示せず)。
【0027】
ここで、図3は、図2に示した例の薄型パネル1のカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。典型的な薄型パネル1では、図3に示すように、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。カラーフィルタ6は有機物を主体とした材料からなる。反射防止膜7は炭素を主成分とした薄膜などからなる。透明導電膜8はインジウムなどを含む薄膜からなる。配向膜9はポリイミドなどの有機物からなる。
【0028】
また図4は、図2に示した例の薄型パネル1のTFT側ガラス基板2bおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。典型的な薄型パネル1では、図4に示すように、TFT側ガラス基板2bの内面側に、画素電極10、バス電極11、絶縁膜12、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。透明導電膜8は、インジウムなどを含む薄膜からなる。画素電極10およびバス電極11はタンタル、モリブデン、アルミニウム、チタンなどの金属を主成分とする薄膜からなる。前記カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12の膜厚は、前記2枚のガラス基板2a,2bの厚みと比較して、十分に薄い。
【0029】
以下、本発明のガラスの回収方法における各工程について、図2に示した例の薄型パネル1の廃棄物(廃薄型パネル)を解体する場合を例に挙げて詳細に説明する。図1には、本発明のガラスの回収方法の好ましい一例として、〔1〕亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、〔2〕偏光板剥離工程(ステップS2)と、〔3〕ガラス基板分離工程(ステップS3)と、〔4〕ガラス品種選別工程(ステップS4)と、〔5〕液晶回収工程(ステップS5)、〔6〕電極材料除去工程(ステップS6)と、〔7〕金属回収工程(ステップS7)と、〔8〕ガラス回収工程(ステップS8)とを含む場合が例示されている。上述したように本発明のガラスの回収方法は、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、ガラス基板分離工程(ステップS3)と、電極材料除去工程(ステップS6)とを含んでいればよく、図1に示した手順には限定されず、一部が省略されていても順序が入れ替わっていてもよく、また本発明の効果を阻害しない範囲で適宜の他のステップが追加されていてもよいが、図1に示す手順にて行われることが好ましい。以下、図1に示す各ステップについて詳細に説明する。
【0030】
〔1〕亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程
まず、廃薄型パネルに用いられているガラス基板が、亜ヒ酸を含有するか否かを選別する(ステップS1)。なお、図1のフローチャートでは、この亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)を最初に行う場合を例示しているが、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程は後述するガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、ガラス基板分離工程(ステップS3)の前、ガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよいが、後述の亜ヒ酸の安全な処理の観点から、最初に行うのが好ましい。また、後述するように、ガラス品種選別工程(ステップS4)より前に行うのが好ましい。
【0031】
一般的に、薄型パネルに用いられるガラス基板としては、Al2O3とB2O3を含む無アルカリガラスが使用され、SiO2、Al2O3、B2O3を含有している。また、その他の酸化物として、BaO、CaO、MgO、SrOを含むものがある。また、消泡剤として亜ヒ酸(三酸化二ヒ素:As2O3)または三酸化アンチモン(Sb2O3)が使用されているものがある。このうち、特に亜ヒ酸は、人体に対して強い毒性を持ち、飲み込むと生命に危険を及ぼすことが知られている。亜ヒ酸による症状としては、発癌性や消化管、心臓、骨格筋、呼吸器の障害を引き起こすことが知られている。人体に対する毒性の観点から、亜ヒ酸を含有するガラス基板はガラス製品などへ再生利用せずに、安全な処理を施すことが好ましい。そのため、亜ヒ酸を含有するガラス基板は、できるだけ早い段階で選別し、安全な処理を施すことが好ましい。
【0032】
薄型パネルの中には、貼り合わされた2枚のガラス基板2a,2bのどちらか一方が亜ヒ酸を含有し、もう一方は亜ヒ酸を含有しない場合がある。この場合も、ガラス基板を分離する工程(後述するステップS3)などにおいて、亜ヒ酸を含有する方のガラス基板から亜ヒ酸が飛散し、作業に従事する者の健康を害する虞があるため、2枚を1組として、亜ヒ酸含有ガラス基板として選別し、安全な処理を施すことが望ましい。
【0033】
亜ヒ酸含有ガラス基板の選別方法としては、上述した人体に対する毒性の観点から、まず、亜ヒ酸を含有するガラス基板と亜ヒ酸を含有しないガラス基板とに選別する。選別した亜ヒ酸含有ガラス基板は、分別回収し、亜ヒ酸を安全に処理する。たとえば、そのまま、非鉄精錬所などの脱ヒ素設備を有する施設で、亜ヒ酸成分を取り除きヒ素を安全に回収する。また、たとえば、鉛精錬所などでヒ素製品の製造原料として利用することができる。いずれも、亜ヒ酸の環境中への拡散などを防ぐことができ、安全な処理が可能となる。また、亜ヒ酸を含有しないガラス基板は、後述するガラス品種選別工程に供され、資源としてリサイクルされる。これにより、有害物質である亜ヒ酸を安全に処理しつつ、亜ヒ酸を含有しないガラス基板については、資源として有効に利用することが可能となる。
【0034】
亜ヒ酸含有ガラス基板を選別する具体的方法としては、たとえば、蛍光X線による組成分析が挙げられる。ガラス基板にX線を照射すると、当該ガラス基板が亜ヒ酸を含有する場合には、ヒ素元素特有の性質を有するX線(特性X線)が発せられる。このX線を検出することで、ガラス基板が亜ヒ酸を含有するか否かを判断することが可能となる。また、ヒ素の特性X線強度から、たとえば検量線法、ファンダメンタルパラメータ法などの公知の方法によりヒ素含有濃度を導出することができる。ガラス基板が亜ヒ酸を含有しているか否かは、たとえば、導出されたヒ素含有濃度がたとえば10ppm以上であれば、当該ガラス基板が亜ヒ酸を含有しているものと判断することができる。
【0035】
ここで、図5は、ガラス基板の蛍光X線分析結果を示すグラフであり、図5(a)は亜ヒ酸を含有しないガラス基板A、図5(b)は亜ヒ酸を含有しない、ガラス基板Aとは別のガラス基板B、図5(c)は亜ヒ酸を含有するガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果をそれぞれ示している。図5(c)から、ガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果、ヒ素の特性X線に該当するエネルギーのX線がカウントされており、ガラス基板Cには、亜ヒ酸が含まれていることが分かる。また図5(a)、(b)から、ガラス基板A、Bについての蛍光X線分析の結果では、ヒ素の特性X線に該当するエネルギーのX線はカウントされておらず、ガラス基板A、Bには亜ヒ酸が含まれていないことが分かる。
【0036】
前記蛍光X線分析は、図2に示した例のように薄型パネル1が偏光板5を有する場合は、表面に偏光板5を有する状態のままで、偏光板5上からガラス基板2a,2b上にX線を照射し、分析するのが望ましい。偏光板5は、通常、厚みが0.2〜0.4mm程度であり、たとえば、30keV以上のエネルギーのX線を照射した場合、X線は偏光板5を透過するため、ガラス基板2a,2bの蛍光X線分析は可能である。また偏光板5は、通常、プラスチック材料からなり、炭素、酸素などが含まれるが、これら軽元素から発生する特性X線のエネルギーは、ヒ素から発生する特性X線のエネルギーと比較し、非常に小さいため、亜ヒ酸の検出の阻害要因とはならない。そのため、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別のための蛍光X線分析は、偏光板5を有する状態の薄型パネル1にX線を照射し、分析することが可能である。これによって、偏光板を有する状態で亜ヒ酸の含有を選別し、亜ヒ酸含有ガラス基板については上述のように安全な処理を施すことができるため、亜ヒ酸含有ガラス基板が後述する偏光板剥離工程(ステップS2)に供されることはなくなり、偏光板を剥離する際におけるガラス基板の破損により、亜ヒ酸が人体に取り込まれるのを防ぐことが可能となる。
【0037】
また、当該工程においては、ガラスの露出した部分、たとえば、ドライバーICの接続部近辺にX線を照射して、蛍光X線分析を行うようにしてもよい。ドライバーICは、通常、ガラス基板上に形成された配線に導電性の接着剤を使用して接続されており、この接続部は、偏光板で覆われずにガラス基板が露出している。したがって、ドライバーIC周辺はガラス基板に直接X線を照射することができ、発せられる特性X線を高感度で検出することが可能である。しかしながら、亜ヒ酸を検出するための通常の蛍光X線分析に対しては、偏光板上からでも分析は可能なため、必ずしもガラス基板に直接X線を照射する必要はない。
【0038】
前記蛍光X線分析の際、照射するX線エネルギーは30keV以上とすることが望ましい。薄型パネル1は、通常、0.4〜0.7mmの2枚のガラス基板が貼り合わされ、その表面に0.2〜0.4mmの偏光板が貼り付けられた構造をしており、したがって厚みは、1.2〜2.2mmである。30keV以上のX線を照射した場合、X線は薄型パネルを透過する。そのため、蛍光X線の組成分析としては、貼り合わされた2枚のガラス基板を同時に分析することになる。したがって、2枚のガラス基板のうちどちらか一方が亜ヒ酸を含む場合は、ヒ素元素が検出される。上述したように、2枚のガラス基板のうち一方が亜ヒ酸を含む場合も、リサイクルのための処理をすると、作業中にガラス基板の切削屑、研磨屑などのガラス成分が飛散し、人体に取り込まれる虞があるため、リサイクルのための処理を施すことなく安全にヒ素を処理するようにすることが好ましい。30keV以上のエネルギーを有するX線を照射することで、貼り合わされた2枚のガラス基板の両方が亜ヒ酸を含むものと貼り合わされた2枚のガラス基板のうちどちらか一方が亜ヒ酸を含むものとの両者を一度の蛍光X線分析で選別できるため、効率的なリサイクルが可能となる。
【0039】
なお、X線は薄型パネルを容易に透過するため、蛍光X線分析の際のX線の照射は、カラーフィルタ側ガラス基板2a側、TFT側ガラス基板2b側のどちらからでもよい。
【0040】
また、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別に用いる蛍光X線として、エネルギー分散型の蛍光X線を使用することが好ましい。エネルギー分散型蛍光X線分析では、発せられた特性X線をX線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、ガラス基板にどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)することができる。そのため、波長分散型蛍光X線分析と比較して、高速の組成分析が可能となる。これにより、短時間で効率的なガラス基板の選別が可能となる。
【0041】
また本発明においては、蛍光X線分析は、大気中で行うことが望ましい。蛍光X線分析を大気中で行った場合、低エネルギーのX線は空気により吸収されるため、特性X線のエネルギーが低い軽元素の検出感度は低くなる。しかしながら、ヒ素元素から発生した特性X線は空気による吸収の影響が殆どないため、亜ヒ酸の検出に関しては大気中で行うことが可能である。大気中で蛍光X線分析を行うことで、真空中で行う場合とは異なり排気のための時間が不要なため、分析の効率が向上する。
【0042】
また、亜ヒ酸含有ガラスの選別のための蛍光X線分析の際の薄型パネル上のX線照射面積は、1cm2以上とすることが望ましい。X線の照射時間は1秒から60秒であることが望ましい。
【0043】
ここで、図6は、本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る蛍光X線分析装置40,40’を概念的に示す図である。図6には、たとえば、X線発生装置41と、蛍光X線管42と、半導体検出器43と、計数・演算装置44と、記録表示装置45と、搬送手段46(図6(a))または搬送手段46’(図6(b))とを基本的に備える、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置40,40’が示されている。なお、図示していないが、本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程には、X線単色化素子、X線保安機構を備えた蛍光X線分析装置がより好適に用いられ得る。
【0044】
蛍光X線による組成分析は、薄型パネル1を搬送手段46,46’上に載置したままの状態で分析を行うインライン方式を採用することが好ましい。この場合、薄型パネル1を搬送手段46,46’上に搬送し、X線照射ポイントに来た時点で、搬送を停止し、薄型パネル1を静止状態にする。蛍光X線を使用した場合の組成分析は、1秒から60秒で可能であるので、搬送装置46,46’上に薄型パネル1を載置した状態でX線を照射し、組成分析を行うことができる。これにより、バッチ方式で分析する場合と比較して、蛍光X線分析を行うために薄型パネル1を移載する工程を省略できるため、処理効率が向上する。
【0045】
X線の照射は、図6(a)に示す例のように、搬送装置46上に薄型パネル1を載置した状態でX線を上方から照射するようにしてもよいし、図6(b)に示す例のように、搬送装置46’上に薄型パネル1を載置した状態でX線を下方から照射するようにしてもよい。図6(a)に示す例のように上方からX線を照射する場合、搬送装置46の材料までX線が到達し、当該搬送装置46の材料の形成元素まで検出してしまう場合がある。そのため、搬送装置46を形成するローラ、ベルトなどの材質としては、金属元素を含有しないポリプロピレンなどのプラスチック材料を使用するのが望ましい。搬送装置46に金属元素を含有しない材料を用いることにより、亜ヒ酸検出への影響を防ぐことができる。また、図6(b)に示す例のように、下方からX線を照射する場合、X線が薄型パネルを透過し、薄型パネル1上の空間に達しても空気以外の影響を受けることがないため、分析精度の向上を図ることができる。
【0046】
また、図7は、本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る他の例の蛍光X線分析装置40’’を概念的に示す図である。本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程では、図7に示すような蛍光X線分析装置40’’を用いて、搬送装置46’’による搬送を停止せず、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43を同じ速度で移動させることで、分析することもできる。これにより、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43の相対的な位置は固定されているので、搬送を止めずに分析箇所を固定したまま蛍光X線分析を行うことができ、蛍光X線管、半導体検出器、搬送装置の位置が変わり分析箇所が移動することによる分析精度の低下を防ぐことができる。また、図7に示す例のように搬送しながら蛍光X線分析を行うことで、処理効率の向上が図れる。
【0047】
また、本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程では、携帯型の蛍光X線分析装置を用いて蛍光X線分析を行うようにしてもよい。携帯型蛍光X線分析装置も、図6(a)または図6(b)に示したような、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45、搬送装置46または搬送装置46’を基本的に備える。携帯型蛍光X線分析装置は、作業に従事する者によるハンドキャリーが可能であり、装置を目的試料に移動させ、X線を照射することが可能である。携帯型の蛍光X線分析装置を使用した場合は、搬送装置上にある薄型パネルに対して、特定の位置に限らず、X線を照射することが可能となる。分析の方法としては、薄型パネルのガラス基板に、偏光板上からX線を照射する。携帯型の蛍光X線分析装置を用いて蛍光X線分析を行う場合にも、上述したように、大気中で蛍光X線分析を行うのが好ましい。
【0048】
なお、ガラスの化学組成を品種ごとに予め調べておき、蛍光X線分析の測定値と比較して全く一致する場合には、2枚のガラス基板が同一品種のガラス基板であることになる。この場合、亜ヒ酸の含有の有無と同時に、ガラス基板のガラス品種を選別することも可能となる。この場合には、亜ヒ酸を含有しないガラス基板について、後述するガラス品種選別工程(ステップS4)を省略することも可能である。
【0049】
また、たとえば、薄型パネル1にガラス基板の亜ヒ酸の有無についての表示を設けることによって、亜ヒ酸含有ガラス基板を選別するようにしてもよい。ここで図8は、亜ヒ酸有無の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。図8には、図2に示した例の薄型パネル1の斜視図を示している。たとえば図8に示すように、ガラス基板2a,2bの少なくとも一方(図8に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2a)に、亜ヒ酸有無表示51を設ける。亜ヒ酸有無表示51は、亜ヒ酸の有無に関する情報を印刷したシールなどを貼着したり、または文字・記号・バーコードなどの印刷もしくは刻印、または表面加工によってガラス基板に設けることが可能である。この亜ヒ酸有無表示51を識別することで、ガラス基板の亜ヒ酸の有無を短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0050】
〔2〕偏光板剥離工程
図2に示したように、各ガラス基板2a,2bの外面側に偏光板5が貼着された薄型パネル1の場合には、偏光板5を剥離する工程を含むことが好ましい(ステップS2)。なお、図1のフローチャートでは、この偏光板剥離工程(ステップS2)を亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)とガラス基板分離工程(ステップS3)との間に行う場合を例示しているが、偏光板剥離工程は後述するガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、ガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよい。また、偏光板を有しない薄型パネルの場合には、この偏光板剥離工程を省略しても勿論よい。
【0051】
偏光板5の剥離は、機械的な手法によって行うことができる。機械的な手法によって偏光板5を剥離することで、液晶回収前に当該偏光板剥離工程を行った場合(たとえば、上述のようにガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前に行う場合)であっても、液晶を加熱処理しないため、加熱処理による液晶の変質を防止でき、液晶を高品質な状態で回収することが可能となる。偏光板5の剥離は、たとえば手作業で行ってもよく、また市販の偏光板剥離装置を用いるようにしてもよい。
【0052】
〔3〕ガラス基板分離工程
次に、貼り合わされたガラス基板2a,2bを、2枚に分離する(ステップS3)。分離方法としては、たとえばシール樹脂体3を加熱する方法、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断する方法などが挙げられる。ガラス基板2a,2bを分離すると、ガラス基板2a,2bの隙間に封入されていた液晶層4が表面に露出する。
【0053】
シール樹脂体3を加熱して分離する方法では、シール樹脂体3を加熱し、シール樹脂体3の強度を低下させることにより分離する。上述したように、ガラス基板2a,2bは、通常、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。シール樹脂体3としては、通常、エポキシ系樹脂などが用いられ、加熱することでシール樹脂体3の強度を低下させることができる。シール樹脂体3の加熱温度としては、シール樹脂体3の形成材料に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、たとえばエポキシ系樹脂のシール樹脂体3の場合には、300℃以上が望ましく、400℃以上がより望ましい。加熱の方法としては、たとえば、ランプ加熱、赤外線加熱、ヒートプレスなどが挙げられる。加熱によりシール樹脂体3の強度を低下させることで、手作業で容易にガラス基板2a,2bを分離することが可能となる。
【0054】
また、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断することによってガラス基板2a,2bを分離する場合には、ガラス基板2a,2bの内側の四辺を切断することで、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すようにすればよい。ガラス基板2a,2bの切断には、たとえばガラスカッター、ダイヤモンドソー、スクライバーなどを用いることができる。
【0055】
また、ガラス基板の分離と同時に、薄型パネルに接続されているドライバーICを取り外す。ドライバーICは、通常、薄型パネルの周縁部に、導電性の接着剤を用いて、接続されている。取り外しの方法としては、手作業で、ドライバーICを引き剥がす。導電性の接着剤の接着力は弱いため、外力を加えることにより接続部を容易に引き剥がすことができる。また、カッターナイフのような刃物で接続部を切断することもできる。取り外したドライバーICは、非鉄精錬所などで適切な処理を施すことで、含有される金属を回収することができる。ドライバーICは、手作業で容易に取り外すことが可能なため、このドライバーICの取り外しは、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれの工程で行ってもよい。また、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断することによってガラス基板2a,2bを分離する場合には、ドライバーICも同時に取り外される。
【0056】
〔4〕ガラス品種選別工程
薄型パネルに用いられるガラス基板2a,2bは、ガラスメーカによって、あるいはガラス品種、品番などによって組成が異なる。したがって、回収したガラス基板2a,2bをたとえばガラス基板用の材料として再利用するためには、多種多様なガラス基板を品種別に選別することが必要となる。また、回収したガラス基板2a,2bをたとえば一般ガラス用の材料として再利用する場合にも、ある程度、ガラス基板2a,2bを品種別に選別することが要求される場合がある。後述のガラス回収工程で、異なった品種のガラス基板が混在したままガラスとして再生利用する場合には、このガラス品種選別工程は省略することができる。
【0057】
ガラス品種の選別は、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離した後、それぞれのガラス基板について行う。これは、カラーフィルタ側ガラス基板2aとTFT側ガラス基板2bのガラス品種が異なる場合があるためである。
【0058】
なお、図1のフローチャートでは、このガラス品種選別工程(ステップS4)をガラス基板分離工程(ステップS3)と液晶回収工程(ステップS5)との間に行う場合を例示しているが、ガラス品種選別工程はガラス基板分離工程(ステップS3)と後述するガラス回収工程(ステップS8)との間のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよい。なお、ガラス品種選別工程は、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)より後に行うことが好ましい。亜ヒ酸含有ガラス基板は、リサイクルに供することができないため、亜ヒ酸を含有しないガラス基板のみについて品種別の選別を行った方が効率がよいためである。なお、上述したように亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程で、亜ヒ酸含有の有無と同時にガラスの品種が選別されている場合には、ガラス品種選別工程は省略することができる。
【0059】
ガラス基板の品種別の選別には、たとえば、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と同様、蛍光X線による組成分析を用いることができる。上述のように、薄型パネル用のガラス基板は、無アルカリガラスが使用され、SiO2、Al2O3、B2O3を含有している。また、その他の酸化物として、BaO、SrO、CaO、MgOを含むものがある。これら含有物の組成を分析することにより、ガラス基板を品種別に選別することが可能である。たとえば、ガラス基板の組成を蛍光X線により分析し、ガラス基板の品種ごとの化学組成を予め調べておき、それらの値とガラス基板の測定値を比較することにより、ガラス基板の品種を同定・選別することができる。またガラス基板の品種の同定・選別は、ガラスの品種ごとの特徴から、一部の元素にかかる測定値のみを比較することによっても可能である。
【0060】
上述した図5には、ガラス基板の蛍光X線分析結果を示しているが、図5(a)に示されたガラス基板AについてはBaの特性X線に該当するエネルギーのX線がカウントされているのに対し、図5(b)に示されたガラス基板BについてはBaの特性X線に該当するエネルギーのX線は殆ど検出されていない。以上の結果から、ガラス基板の品種の同定・選別は、ガラス基板の品種ごとの特徴から、一部の元素にかかる蛍光X線の測定値を比較することによって可能であることが分かる。
【0061】
ガラス品種の選別に用いる蛍光X線も、エネルギー分散型の蛍光X線を使用することが好ましい。エネルギー分散型の蛍光X線を用いた蛍光X線分析では、発せられた特性X線をX線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、ガラス基板にどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)する。そのため、エネルギー分散型の蛍光X線を用いることにより、一度の多元素の分析が可能となり、短時間で効率的なガラスの選別が可能となる。
【0062】
なお、本発明におけるガラス品種選別工程の際の蛍光X線分析は、大気中で行うことが望ましい。上述したように、蛍光X線分析を大気中で行った場合、低エネルギーのX線は空気により吸収されるため、特性X線のエネルギーが低い軽元素の検出感度は低くなる一方で、Ba、Srなどの元素から発せられる特性X線は、空気による吸収の影響が殆どないため、これらの元素に着目すれば、大気中でガラス基板の品種別の選別を行うことが可能であるためである。大気中で蛍光X線分析を行うことで、真空中で蛍光X線分析を行う場合と比較して、排気のための時間が不要であるため、分析の効率が向上する。
【0063】
また、ガラス基板の品種別の選別のための蛍光X線分析の際の薄型パネル上のX線照射面積は、1cm2以上とすることが望ましい。X線の照射時間は1秒から60秒であることが望ましい。
【0064】
上述の亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と同様、蛍光X線分析は、搬送装置上でインライン方式で行うことができる。この場合、たとえば図6に示したように薄型パネル1を搬送装置46または搬送装置46’上に載置して搬送し、X線照射ポイントに来た時点で、搬送を停止し、薄型パネル1を静止状態にして蛍光X線分析を行うようにする。また、図7に示した例にように、搬送を停止せず、蛍光X線管42、半導体検出器43、搬送装置46’’を同じ速度で移動することにより、分析することもできる。
【0065】
またX線の照射は、図6に示したように、搬送装置46,46’上に薄型パネル1を載置した状態で、上方(図6(a))、下方(図6(b))のいずれからであってもよい。上述したように、搬送装置46の上方からX線を照射する場合(図6(a))には、搬送装置46の材料までX線が到達し、当該搬送装置46の材料の形成元素まで検出する場合があるため、搬送装置46を形成するローラ、ベルトなどの材質としてはポリプロピレンなどの金属元素を含有しないプラスチック材料を使用するのが望ましい。これによりガラス基板の組成分析への影響を防ぐことができる。また、図6(b)に示した例のように搬送装置46’の下方からX線を照射した場合には、X線は薄型パネルを透過しても空気以外の影響を受けることがないため、分析精度の向上を図ることができる。
【0066】
また、ガラス品種選別工程でも、携帯型の蛍光X線分析装置を使用した蛍光X線分析を行ってよい。上述したように、携帯型蛍光X線分析装置も、図6に示したような、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45、搬送装置46または搬送装置46’を基本的に備える。分析の方法としては、薄型パネルのガラス基板に、偏光板上からX線を照射する。この際、上述したように、大気中で蛍光X線分析を行うのが好ましい。
【0067】
また、薄型パネルのガラス基板を品種別を選別する方法として、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板の選別方法と同様に、薄型パネルにガラス品種の表示を設けることによって行うことができる。たとえば、図8における亜ヒ酸有無表示51の代わりにガラス品種表示として、ガラス品種についての情報を印刷したシールなどを貼着したり、または文字・記号・バーコードなどの印刷もしくは刻印、または表面加工によってガラス基板に設けることが可能である。ガラス品種表示は、ガラスメーカ、ガラス品種などの情報が表示されているのが好ましい。このガラス品種表示を識別することで、ガラス基板を種類(品種)別に短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0068】
〔5〕液晶回収工程
次に、上述のようにして分離されたガラス基板2a,2b上に露出する液晶を回収する(ステップS5)。ここで、図9は、本発明における液晶回収工程に好適に採用され得る、液晶の回収方法の一例を模式的に示す図である。液晶は、たとえば、ガラス基板2a,2bの表面を液晶回収用のスクレーパ61を用いてスクレーピングすることによって回収することができる(図9には、カラーフィルタ側ガラス基板2a側の液晶を回収する場合を示している。)。液晶回収用のスクレーパ61としては、ガラス基板2a,2b上に形成されている配向膜9よりも柔らかいポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成されたスクレーパを好適に用いることができる。また、ゴム製のスキージを用いることにより、配向膜9を削り取らずに液晶のみを回収することができる。また、液晶を有しない薄型パネルの場合には、この液晶回収工程を削除しても勿論よい。
【0069】
〔6〕電極材料除去工程
次に、ガラス基板2a,2bの内面側に形成されたカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12などの電極材料を含む薄膜(カラーフィルタ側ガラス基板2aの側では、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9などの薄膜、TFT側ガラス基板2bの側では、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12などの薄膜)をガラス基板から剥離して除去し、金属およびガラス基板を回収する(ステップS6)。
【0070】
上述した薄膜を剥離する方法としては、たとえば、サンドブラストを用いることができる。サンドブラストを採用する場合、研磨剤粒子をガラス基板2a,2bに勢いよく吹き付けて、上述した電極材料を含む薄膜をそれぞれ除去する。ここで、図10は、本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る薄膜の除去方法の一例を模式的に示す図である。なお、図10は、カラーフィルタ側ガラス基板2aの例を示している。図10に示すように、カラーフィルタ側ガラス基板2aに研磨剤粒子をブラストガン71により吹き付けると、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に形成されているカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9を全て除去することができる。また、カラーフィルタ側ガラス基板2aと同様にブラストガン71によりTFT側ガラス基板2bに研磨剤粒子を勢いよく吹き付けることで、TFT側ガラス基板2bの内面側に形成された透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12を除去することができる。研磨剤粒子としては、アルミナ、炭化ケイ素(SiC)などのセラミクスを用いることができる。研磨剤粒子の粒径は、50〜500μmの範囲内であることが好ましいが、この限りではない。
【0071】
サンドブラストによりカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2bの内面側から除去された薄膜を含む研磨屑は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と、サンドブラストに用いた研磨剤粒子との混合物として回収される。ブラストした際にガラス表面をガラスごと削り取るため、前記金属含有粉末は、微小なガラス片を含むが、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)で亜ヒ酸を含有するガラス基板は既に除かれているため、作業に従事する者の人体に対する悪影響は、防止されている。この混合物から、まず、分級によって研磨剤粒子を分離する。分離した研磨剤粒子は、サンドブラストに再使用することができる。
【0072】
本発明のガラスの回収方法では、研磨剤粒子を分離するための分級に、サイクロン式分離装置を用いることが好ましい。ここで、薄型パネルに用いられるガラス基板の比重は、通常、2.3〜2.6である。それに対し、たとえば研磨剤粒子にアルミナを使用した場合、アルミナの比重は3.97であり、またSiCを使用した場合、SiCの比重は3〜3.2である。上述のように、金属含有粉末は、微小なガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着したままの状態であるため、サイクロン式分離装置を用いてガラスと研磨剤粒子とを分離することにより、比重差によって、金属、有機物、金属酸化物はガラスとともに研磨剤粒子と分離される。
【0073】
図11は、本発明における電極材料除去工程に好適に用いられるサイクロン式分離装置80を模式的に示す図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は断面図である。図11に示すように、粉末導入口81から導入された粉末を含む気流は、装置内面の側面に沿って旋回しながら下方へと流れ、装置下部の円錐部で加速される。加速された気流は、装置下端に達し反転上昇する。上昇した気流は、中央部を同一方向に旋回し、排出口82から排出される。このとき、比重の大きい研磨剤粒子は、遠心力によって分離され、側面に沿って落下し、沈降する。沈降した研磨剤粒子は、排出口82から排出される。比重の小さい液晶ガラスを主成分とする金属含有粉末は、気流とともに上昇し、排気口83から排出される。また、研磨剤粒子のうち、ブラストの際に破損し、サイズが小さくなったもの(研磨剤微粒子)も気流とともに上昇し、排気口から排出される。
【0074】
上述したサイクロン式分離装置80の排出口82から排出された、研磨剤粒子を分離した後の研磨屑(金属含有粉末、研磨剤微粒子を含む混合物)を含む気流は、集塵装置により、分離回収されることが好ましい。集塵装置としては、たとえば、スクラバーを用いることができる。図12は、本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るスクラバー84を模式的に示す断面図である。スクラバー84を用いた金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収では、まず、金属含有粉末および研磨剤微粒子を含んだ気体を気体導入口85から導入する。液体導入口86からは、塩酸を導入する。塩酸の液滴により、気体中の粉末、粒子は捕集され、液体とともに下降する。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口87から排出される。このように、本発明のガラスの回収方法においては、研磨剤粒子を分離した後の研磨屑から塩酸を用いてインジウムを回収することが、好ましい。これにより、アルミナなどの研磨剤を溶解せずに、インジウムを溶解できるため、希少金属であるインジウムの選択的回収が可能になるという利点がある。また、後述の金属回収工程においてイオン交換樹脂を使用したインジウムの濃縮が可能になるという利点もある。
【0075】
図12に示す例のように、スクラバー84は、液体が気体排出口87から排出されるのを防止するためのデミスター88、捕集効率を上げるための充填剤89を備えることが好ましい。金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集と同時に、塩酸の液滴が、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物に接触した際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子からインジウムなどの金属が塩酸中に溶解する。塩酸中に溶解する金属としては、たとえば、透明導電膜に使用されているインジウムおよびスズ、バス電極に使用されているアルミニウムなどが挙げられる。インジウムが溶けた塩酸溶液(インジウム含有塩酸)は、従来公知の濾過、比重差分離などの手法を用いて固液分離される。後述する金属回収工程にて、インジウム含有塩酸から、インジウムなどの金属を回収する。
【0076】
また、本発明における電極材料除去工程に用いられる集塵装置は、バグフィルタであってもよい。図13には、本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るバグフィルタ90を模式的に示す断面図である。バグフィルタ90を用いた金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収では、まず、気体導入口91から導入された金属含有粉末および研磨剤微粒子を含んだ気流は、ろ材92を通過する際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子がバグに付着し、ろ過される。ろ材92の素材としては、耐湿、耐熱性の合成繊維やガラス繊維を用いることができる。ろ材92に堆積した金属含有粉末および研磨剤微粒子は、振動により、下方へ落下させる。落下した金属含有粉末および研磨剤微粒子は、ホッパー93に堆積する。また、気流の向きを反転するか、気流を停止することにより、下方へ落下させることもできる。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口94から排出される。
【0077】
上述したバグフィルタ(図13)などの集塵装置を用いて回収された金属含有粉末および研磨剤微粒子は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されている金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムなどを含む金属酸化物などからなる金属含有粉末と研磨剤粒子が破損した研磨剤微粒子から構成されている。この金属含有粉末から、後述する金属回収工程でインジウムなどの金属を回収する。また、サンドブラストにより、表面に付着した薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、後述のガラス回収工程(ステップS8)でガラスへとリサイクルされる。
【0078】
さらに、本発明における電極材料除去工程では、回転研磨を用いて、液晶を除去した後のガラス基板2a,2bの内面側に形成された電極材料を含む薄膜を除去するようにしてもよい。回転研磨では、回転する金属ブラシまたは研磨パッドによりガラス基板2a,2b上の付着物を研磨する。研磨パッドとしては、表面にダイヤモンド砥粒を保持したダイヤモンドパッド、ダイヤモンド砥石などを用いることができる。ここで、図14は、本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る回転研磨処理を模式的に示す図である。図14は、カラーフィルタ側ガラス基板2aに回転研磨処理を施す場合を示している。図14に示すように、研磨パッド95によりカラーフィルタ側ガラス基板2aに回転研磨処理を施すと、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に形成されているカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9を全て除去することができる。また、カラーフィルタ側ガラス基板2aと同様に、研磨パッド95による回転研磨によりTFT側ガラス基板2bの内面側に形成された透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12を除去することができる。
【0079】
回転研磨により、ガラスフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2bの内面側から除去される電極材料を含む薄膜は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などを含む研磨屑として回収される。なお、研磨屑は、回転研磨した際にガラス基板表面をガラスごと削り取るため、微小なガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態である。このような研磨屑から、後述する金属回収工程にてインジウムなどの金属を回収できる。また、回転研磨により、表面に付着した電極材料を含む薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、後述のガラス回収工程(ステップS8)でガラスへとリサイクルされる。
【0080】
〔7〕金属回収工程
上述のように、電極材料除去工程において、インジウム含有塩酸(サンドブラスト処理の後、スクラバー84を用いた処理を施した場合)、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物(サンドブラスト処理の後、バグフィルタ90を用いた処理を施した場合)、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑(回転研磨処理を施した場合)が得られる。これらはいずれもインジウムを含有するものであり、当該金属回収工程でインジウムが分離・回収される(ステップS7)。
【0081】
インジウム含有塩酸からインジウムを分離回収する方法としては、たとえば、硫化物法、水酸化物法、置換析出法、溶媒抽出法、電解採取法を用いることができる。本発明においては、イオン交換樹脂を用いて、インジウム含有塩酸からインジウムを分離・回収することが、好ましい。インジウムイオンおよびスズイオンは1mol/L以上の塩化物イオンの存在下で塩化物錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びるため、塩酸酸性水溶液中でイオン交換樹脂、特に陰イオン交換樹脂、さらに好ましくは強塩基性の陰イオン交換樹脂と接触させた場合、イオン交換樹脂に吸着される。このようにイオン交換樹脂を用いることで、エネルギーを使用せず、廃棄物を殆ど排出しないという利点がある。
【0082】
イオン交換樹脂を用いてインジウム含有塩酸からインジウムを分離・回収する場合、塩酸中の塩化物イオン濃度を1〜6mol/L、より好ましくは2〜4mol/Lに調製することによって特異的に溶液中のインジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂に吸着させることが可能である。塩化物イオン濃度が1mol/L未満である場合は、インジウムおよびスズは塩化物イオン錯体を形成しないためイオン交換樹脂に吸着せず、6mol/Lより高い場合は、陰イオン交換樹脂に吸着される塩化物イオンが多くなり、インジウムおよびスズの吸着が阻害される。したがって、塩化物イオン濃度が1〜6mol/Lのとき、インジウムおよびスズが陰イオン交換樹脂に吸着される。
【0083】
図15は、本発明における金属回収工程において、イオン交換樹脂を用いてインジウムを分離・回収するための装置を模式的に示す図である。図15に示されるように、まず、イオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)を充填したカラム97に、送液ポンプ96を用いて、インジウム含有塩酸を通液し、インジウム含有塩酸と陰イオン交換樹脂とを接触させる。これにより、陰イオン交換樹脂にインジウムおよびスズが吸着する。アルミニウムは、塩酸中で錯体を形成せず負の電荷を帯びないため、イオン交換樹脂には吸着されない。カラム97を通過した塩酸は、金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集を行うための上述したスクラバー(図12)に再利用することができる。
【0084】
続いて、カラム97に水を通液し、インジウムおよびスズを吸着した状態の陰イオン交換樹脂に水を接触させると、イオン交換樹脂表面の塩酸の濃度が低下し、インジウムおよびスズのクロロ錯体が破壊する。こうして、陰イオン交換樹脂とのイオン結合力が低下するため、インジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂から離脱することができ、インジウム・スズ濃縮溶液が得られる。
【0085】
回収されたインジウム・スズ濃縮溶液は、たとえば、まず、スズ沈殿槽98において、pH2〜4程度に調製し、水酸化スズを沈殿させ固液分離し、インジウム濃縮液を得る。次に、インジウム沈殿槽99において、インジウム濃縮液をpH4〜6に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離する。このようにして、たとえば遠心分離によって水酸化インジウムを分離後、水素還元により、金属インジウムを分離回収することができる。得られた金属インジウムは、電解精錬などにより精製され、高純度の金属インジウムとして再生利用することができる。また、たとえば、水酸化インジウムをろ過、洗浄後、乾燥、焼成することにより、酸化インジウムを得、この酸化インジウムを酸化スズと混合し、成形、焼成することによって、ITOターゲットとして再利用することもできる。
【0086】
上述したpHの調整には、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物塩を用いることができる。中でも、中和反応速度が速い、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。なお、pHの調整には、たとえば市販のガラス電極を有するpH計などを用いてモニターしながら行うことが好ましい。
【0087】
また、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物(サンドブラスト処理の後、バグフィルタ90を用いた処理を施した場合)、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑(回転研磨処理を施した場合)からインジウムを回収する場合には、たとえば、上述した混合物または研磨屑を酸性の溶液(たとえば、塩酸など)に浸漬し、インジウムを溶解させればよい。この場合、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑の量は、ガラスの重量に対して、重量が非常に小さい。また、粒径が小さいため、インジウムの溶解速度は速く、インジウムを溶解するための酸は、薄型パネルから直接溶解する場合と比較して少なくてよく、廃液処理などの環境負荷が小さくなる。その後、上述したイオン交換樹脂を用いた方法により、インジウムを回収することができる。
【0088】
なお、上述したいずれの場合であっても、電極材料が銀を含む場合には、上述したようにインジウムを溶解させて回収した後の残渣を、シアン化アルカリ溶液に浸漬することで銀を溶出させ、亜鉛板あるいは亜鉛粉末などを添加し、置換析出法により銀粉末として回収すればよい。
【0089】
〔8〕ガラス回収工程
次に、表面の付着物が除去されたガラス基板2a,2bからガラスを回収する(ステップS8)。回収の方法としては、たとえば、表面の付着物が除去されたガラス基板を薄型パネルの製造工程へ投入する方法、あるいは、ガラス基板2a,2bを破砕し、ガラスメーカで同一用途に再生する方法、珪石代替材料やタイル材料として再資源化する方法などが挙げられる。
【0090】
ガラス基板2a,2bを破砕し、リサイクルする具体的方法について以下に説明する。まず、ガラス基板2a,2bの破砕を行う。図1に示す手順の場合には、ガラス基板2a,2bは、上述したガラス品種選別工程(ステップS4)において既にガラス品種別に選別されているため、単一の品種のガラス基板ごとに破砕すればよい。ガラス基板2a,2bの破砕には、市販の各種方式の破砕機を使用することができ、用いる破砕機の種類は特に限定されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機が好ましい。2軸剪断方式の破砕機は、サイズの揃った破砕物が得られやすいこと、微粉末の発生比率が小さく、破砕物をガラスカレットとして最終的に再利用しやすいことなどの利点も有している。破砕のサイズは自由であるが、15mm以下が好ましい。
【0091】
回収されたガラスカレットは、単一の品種のガラスであり、かつ、ガラス基板用の原料ガラスと代わらない化学組成を有している。それ故、ガラスカレットを原料ガラスに添加混合することにより、または、原料ガラスに置き換えて、再使用(マテリアルリサイクル)することができる。再使用する際には、たとえば、ガラスカレットを原料ガラスと共に溶融炉で溶融させればよい。さらに、回収されたガラスカレットは、たとえば、一般ガラス用の材料として再使用することもできる。なお、ガラス基板2a,2bは、ガラスカレットの状態で回収されることで、その保管、運搬および再処理に必要なスペースを小さくすることができ、かつ、保管作業および運搬作業を容易に行うことができるという利点もある。このように本発明のガラスの回収方法では、殆ど廃棄物を排出することなく、液晶、および透明導電膜中のインジウムを回収でき、ガラスについても再利用することができる。以上のような本発明の方法によって回収された液晶、金属およびガラスは、各種材料として再利用することができる。
【0092】
本発明はまた、上述した本発明のガラスの回収方法を行うための装置(回収装置)についても提供するものである。本発明の回収装置は、廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備えることを特徴とする。このような本発明の回収装置によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。
【0093】
ここで、図16は、本発明の好ましい一例のガラス回収装置101を模式的に示す図である。図16に示す例の回収装置101は、搬送装置102と、インライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103と、偏光板剥離装置104と、ガラス基板分離装置105と、液晶回収装置106と、薄膜剥離および金属回収装置107とを基本的に備える。このような回収装置101を用いて、上述した本発明のガラスの回収方法(たとえば図1に示した例のステップS1からステップS8までの工程)を行うことで、各工程を同時並行して処理することができ、ガラス回収作業の効率化を図ることができる。以下、図16に示す例の回収装置101を用いて、図1に示した手順にて本発明のガラスの回収方法を行う場合を例に挙げて詳細に説明する。
【0094】
まず、偏光板5を有する状態での薄型パネル1(たとえば図2に示した例)を搬送装置102上に設置し、インライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103を用いて、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別を行う(ステップS1)。この蛍光X線分析装置103は、図6に示したように、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45および搬送装置46,46’を基本的に備えるものが用いられる。図6に示したように、X線は、搬送装置に薄型パネルを載置した状態で上方から照射するようにしてもよく(図6(a))、下方から照射するようにしてもよい(図6(b))。また、図16に示す例のインライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103は、図7に示したように、搬送を停止せず、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43を同時に同じ速度で移動させる機構を備えていてもよい。この場合には、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43の相対的な位置は固定されているので、搬送を止めずに分析箇所を固定したまま蛍光X線を分析することができる。
【0095】
なお、蛍光X線分析装置103として、エネルギー分散型の蛍光X線を用いた蛍光X線分析を行い得る装置を用いる場合には、短時間で亜ヒ酸含有ガラス基板の選別と、亜ヒ酸非含有ガラス基板の品種選別を効率的に行うことができるという利点がある。蛍光X線分析装置103により選別された亜ヒ酸含有ガラス基板は、搬送装置102上から回収される。たとえば、回収した亜ヒ酸含有ガラス基板は、コンテナなどに保管し、ヒ素を安全に処理できる設備を有する施設、たとえば、非鉄精錬所などで安全な処理が施され、ヒ素製品の原料として使用することができる。
【0096】
次に、亜ヒ酸を含有していないガラス基板を備える薄型パネルは、搬送装置102により偏光板剥離装置104へと搬送される。偏光板剥離装置104は、機械的に偏光板を剥離するもので、たとえば偏光板を巻き取ってガラス基板から除去する(ステップS2)。
【0097】
次に、偏光板が剥離された薄型パネルは、搬送装置102によりガラス基板分離装置105へと搬送される。そこで、貼り合わされた2枚のガラス基板が分離される(ステップS3)。ガラス基板分離装置105は、たとえばガラスカッターを備え、薄型パネル周縁部のシール材の内側四辺を切断し、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すことで、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離し得るように実現される。
【0098】
また、ガラス基板分離装置105は、薄型パネル周縁部を加熱するヒータ(たとえばハロゲンランプ、赤外線加熱装置など)を備えたものとすることもできる。この場合、ガラス基板分離装置105により薄型パネル周縁部を加熱し、シール樹脂体の強度を低下させ、貼り合わされたガラス基板を手作業で容易に分離することができる。
【0099】
分離されたガラス基板は、たとえばインライン方式の蛍光X線分析装置によりガラス品種別に選別される(ステップS4)。このガラス品種選別のための蛍光X線分析装置は、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別に用いたものと同一の構造のものを用いることができる。なお、蛍光X線分析装置は、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程、ガラス品種選別工程でそれぞれ専用の装置を用いずに、図16に示すように1台のインライン方式の蛍光X線分析装置103を両方の工程に使用することができる。
【0100】
ガラス品種別に選別されたガラス基板は、搬送装置102により液晶回収装置106へ搬送される。液晶回収装置106は、たとえば図9に示した例のようにポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成されたスクレーパ61を備えるように実現された装置を用いることが好ましい。このような液晶回収装置106によって、スクレーバ61により液晶を掻きとることで、液晶のみを効率的に回収することができる(ステップS5)。
【0101】
次に、薄型パネルのガラス基板の表面に付着している電極材料を含む薄膜を剥離して除去し(ステップS6)、金属を回収する(ステップS7)。ここで、図17は、図16に示す例の回収装置101における電極材料除去および金属回収装置107の好ましい一例を模式的に示す図である。本発明の回収装置において、電極材料を除去するための装置(電極材料除去装置)は、圧縮空気供給装置と、サイクロン式分離装置とを備えることが好ましい。これによって、研磨剤を吹き付けることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、比重差によって、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離することが可能になるためである。図17には、サンドブラストのブラストガン71(上述)と、サイクロン式分離装置80(上述)と、スクラバー84(上述)と、圧縮空気供給装置111と、ステージ112と、ファン113と、圧縮空気供給ホース114と、金属含有粉末および研磨剤粒子排出ホース115と、金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース116と、ガス排出ホース117と、インジウム含有塩酸送液ホース118と、塩酸送液ホース119と、金属分離回収装置120とを備えるように実現された場合の電極材料除去および金属回収装置107を示している。
【0102】
図17に示したような電極材料除去および金属回収装置107を用い、まず、ステージ112上に、液晶を回収した後のガラス基板を載置し、図10に示したように、ブラストガン71により研磨剤粒子を吹き付ける。この際、ブラストガン71には、サイクロン式分離装置80から研磨剤粒子が供給され、圧縮空気供給装置111から高圧空気が供給され、圧縮空気により研磨剤粒子がガラス基板表面に吹き付けられる。これによって、ガラス基板表面からガラス基板材料、金属、有機物、金属酸化物が研磨される。ガラス基板表面から削り取られたガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と、サンドブラストに用いた研磨剤粒子との混合物は、金属含有粉末および研磨剤排出ホース115を通ってサイクロン式分離装置80へ運ばれる。サイクロン式分離装置80としては、図11に示した構造の装置を好適に用いることができ、当該サイクロン式分離装置80により研磨剤粒子は分離される。分離された研磨剤粒子はサンドブラストに再利用することができる。
【0103】
ガラス基板表面から削り取られたガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウム、スズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と研磨剤粒子が破損したサイズが小さくなった研磨剤微粒子の混合物は、サイクロン式分離装置80の排気口から排出され、金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース116を通り、スクラバー84へと運ばれる。図12に示した構造のスクラバー84を用いた場合、金属含有粉末および研磨剤微粒子を含む気体は気体導入口85から導入され、液体導入口86から導入された塩酸の液滴により、気体中の粉末、粒子は捕集され、液体とともに下降する。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口87から排出される。スクラバー84は、図12に示したように、液体が気体排出口87から排出されるのを防止するためのデミスター88、捕集効率を上げるための充填剤89を備えることが好ましい。金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集と同時に、塩酸の液滴が、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物に接触した際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子からインジウムなどの金属が塩酸中に溶解する。インジウムが溶けた塩酸溶液は、固液分離し、粉末とインジウム含有塩酸に分離する。このようにして、インジウム含有塩酸が得られる。
【0104】
回収されたインジウム含有塩酸は、インジウム含有塩酸送液ホース118を通して、金属分離回収装置120に送液される。金属分離回収装置120にて、上述した金属回収工程(ステップS7)を行うことで、インジウムが回収される。金属分離回収装置120は、たとえば図15に示した例のように、イオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)を充填したカラム97に、送液ポンプ96を用いて、インジウム含有塩酸を通液し、インジウム含有塩酸と陰イオン交換樹脂を接触させ、陰イオン交換樹脂にインジウムおよびスズが吸着させることで、インジウムを回収し得るように実現される。カラムを通過した塩酸は、塩酸送液ホース119を通して、スクラバー84に送られ、スクラバー84で金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集に再利用することができる。
【0105】
続いて、カラム97に、送液ポンプ96を用いて水を通液し、インジウムおよびスズを吸着した状態の陰イオン交換樹脂に水を接触させると、イオン交換樹脂表面の塩酸の濃度が低下し、インジウムおよびスズのクロロ錯体が破壊する。こうして、陰イオン交換樹脂とのイオン結合力が低下するため、インジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂から離脱することができ、インジウム・スズ濃縮溶液が得られる。回収されたインジウム・スズ濃縮溶液は、たとえば、まず、スズ沈殿槽98において、pH2〜4程度に調製し、水酸化スズを沈殿させ固液分離し、インジウム濃縮液を得る。次に、インジウム沈殿槽99において、インジウム濃縮液をpH4〜6に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離する。このようにして、希少金属であるインジウムが、水酸化インジウムとして回収される。
【0106】
また、本発明の回収装置101における金属回収装置120は、硫化物法、水酸化物法、置換析出法、溶媒抽出法、電解採取法を利用してインジウムを分離回収するように実現されたものであっても勿論よい。
【0107】
金属回収装置120で得られた水酸化インジウムなどは、水素還元により、金属インジウムを分離回収することができる。金属インジウムは、上述のように、電解精錬などにより精製され、高純度の金属インジウムとして再生利用することができる。また、ITOターゲットとして再利用することもできる。
【0108】
金属回収装置120により、表面に付着した電極材料を含む薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、上述したガラス回収工程(ステップS8)に供され、リサイクルされる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のガラスの回収方法の好ましい一例を模式的に示すフローチャートである。
【図2】本発明に供される典型的な一例の薄型パネル1を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した例の薄型パネル1のカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。
【図4】図2に示した例の薄型パネル1のTFT側ガラス基板2bおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。
【図5】ガラス基板の蛍光X線分析結果を示すグラフであり、図5(a)は亜ヒ酸を含有しないガラス基板A、図5(b)は亜ヒ酸を含有しない、ガラス基板Aとは別のガラス基板B、図5(c)は亜ヒ酸を含有するガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果をそれぞれ示している。
【図6】本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る一例の蛍光X線分析装置40,40’を概念的に示す図である。
【図7】本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る他の例の蛍光X線分析装置40’’を概念的に示す図である。
【図8】亜ヒ酸有無の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明における液晶回収工程に好適に採用され得る、液晶の回収方法の一例を模式的に示す図である。
【図10】本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る薄膜の除去方法の一例を模式的に示す図である。
【図11】本発明における電極材料除去工程に好適に用いられるサイクロン式分離装置80を模式的に示す図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は断面図である。
【図12】本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るスクラバー84を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るバグフィルタ90を模式的に示す断面図である。
【図14】本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る回転研磨処理を模式的に示す図である。
【図15】本発明における金属回収工程において、イオン交換樹脂を用いてインジウムを分離・回収するための装置を模式的に示す図である。
【図16】本発明の好ましい一例のガラス回収装置101を模式的に示す図である。
【図17】図16に示す例の回収装置101における電極材料除去および金属回収装置107の好ましい一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 薄型パネル、2a カラーフィルタ側ガラス基板、2b TFT側ガラス基板、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板、6 カラーフィルタ、7 反射防止膜、8 透明導電膜、9 配向膜、10 画素電極、11 バス電極、12 絶縁膜、40,40’,40’’ 蛍光X線分析装置、41 X線発生装置、42 蛍光X線管、43 半導体検出器、44 係数・演算装置、45 記録表示装置、46,46’ 搬送手段、51 亜ヒ酸有無表示、61 スクレーパ、71 ブラストガン、80 サイクロン式分離装置、81 粉末導入口、82 排出口、83 排気口、84 スクラバー、85 気体導入口、86 液体導入口、87 気体排出口、88 デミスター、89 充填剤、90 バグフィルタ、91 気体導入口、92 ろ材、93 ホッパー、94 気体排出口、95
研磨パッド、96 送液ポンプ、97 カラム、98 スズ沈殿槽、99 インジウム沈殿槽、101 ガラスの回収装置、102 搬送装置、103 蛍光X線分析装置、104 偏光板剥離装置、105 ガラス基板分離装置、106 液晶回収装置、107 電極材料除去および金属回収装置、111 圧縮空気供給装置、112 ステージ、113 ファン、114 圧縮空気供給ホース、115 金属含有粉末および研磨剤粒子排出ホース、116 金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース、117 ガス排出ホース、118 インジウム含有塩酸送液ホース、119 塩酸送液ホース、120 金属分離回収装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃薄型パネルからガラスを回収する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会における生産・消費活動全般について一般廃棄物や産業廃棄物が増加し、不法投棄や埋立地逼迫などの地球環境問題が注目を集め、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済システムから資源循環型経済システムへの転換が社会的に重要な課題となってきている。
【0003】
前記のような状況を受け、たとえば、2001年4月より家電リサイクル法が施行された。家電リサイクル法においては、2007年4月現在において、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電4品目のリサイクルが義務付けられ、また、それぞれの製品の再商品化率については、エアコン60%以上、テレビ55%以上、冷蔵庫50%以上、洗濯機50%以上の法定基準値が定められている。
【0004】
これら家電4品目においては、関係者の鋭意努力のもと、法律施行当初に比べリサイクルが格段に進んでいる。テレビにおいては、CRT(Cathode Ray Tube)のガラスを切断して電子銃や蛍光体を除去した後、ガラスカレットとして元のCRT用ガラスに再生使用するリサイクル技術が既に実用化されている。
【0005】
ところで、近年、表示部品として液晶パネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELパネル、電解放出型ディスプレイパネルなどの薄型パネルを搭載した薄型テレビの需要が、省電力、省スペース、軽量かつデジタル放送の受像に適するといった特性から、近年の地球環境問題への関心の高まり、ならびにテレビ放送のデジタル化と相俟って、急激に増加している。特に、大型の薄型パネルを搭載した大画面薄型テレビの需要が劇的に拡大している。これに伴い、薄型テレビの廃棄量も今後急激に増加していくことが予想され、リサイクル活動などの環境活動において、リサイクル性向上などの要求が高くなってきている。
【0006】
現在、薄型テレビのパネル(薄型パネル)は、比較的新しい製品であること、また、廃棄物の量としては少ないこともあり、廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストなどと共に、埋立処理あるいは焼却処理されている。
【0007】
液晶パネルなどの薄型パネルのリサイクルにおいて考慮すべき点は、ガラス、インジウム、液晶などの材料の再生である。薄型パネルの基材は、主にガラス基板が用いられている。ガラスは製品重量の大半を占めるため、リサイクル率向上の観点からも再資源化が望ましく、再度同一製品のガラス原料として再生するなど高品位なリサイクルを行うことがより望ましい。また、基材には透明導電膜としてITO(Indium Tin Oxide)などのインジウム化合物が加工されているものがある。インジウムは希少金属であり、昨今の薄型パネル市場拡大も影響し価格が高騰してきており、回収、リサイクルが模索されている。また、2枚のガラス基板間に封入された液晶は非常に高価な材料であり回収再利用する声がある。加えて、液晶はその毒性が問題にならないほど小さいことが分かってはいるが、自然には非常に分解しにくい材料であるため、高収率で回収し、環境中への拡散をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0008】
上述の観点から、薄型パネル中のガラス、インジウムおよび液晶の回収、リサイクルは非常に意義深いものであるが課題も多い。たとえばガラスの同一材料への再生においては大きく2点の課題が挙げられる。1点目は不純物の完全な除去、2点目はガラスの分別である。
【0009】
前者においては、ガラス基板上に形成された電極材料やカラーフィルタ、配向膜、また、ガラス基板間に封入された液晶材料など、ガラス以外の成分は完全に除去する必要がある。特に、ガラス基板に直接付着している電極材料は、ガラスとの付着力が強固であり、かつ、薄型パネルとしての信頼性の観点から、タンタル、チタンなどの耐腐食性の高い金属を使用しているため、酸溶解などの手段により除去するのは容易ではない。
【0010】
後者は、薄型パネルのガラスには、有害物質である三酸化二ヒ素(亜ヒ酸)を含有しているものがあり、このような亜ヒ酸を含有するガラスは、リサイクルに供さず、安全に処理することが望まれている。現在は、ガラス製品への亜ヒ酸の含有は、法律などにより規制されていないが、将来的に規制される可能性があり、亜ヒ酸を含有するガラスは選別し、リサイクルに供さず、安全に処理することが望ましい。また、亜ヒ酸を含有しないガラスについても、組成の異なるガラスは特性が変わるために分別する必要があり、製造メーカの異なるガラスは勿論のこと、同一メーカでもグレードの異なるガラスは分別する必要がある。
【0011】
一方、インジウムについては回収方法が種々検討されてきているが、廃棄された薄型パネルからのインジウム回収は経済性が伴わず、製造工程で発生する使用済みターゲットや装置、冶具に付着したITO残渣を回収するに留まっている。また、薄型パネルには、電極に銀を使用しているものがあり、電極材料を回収することが望ましい。また、薄型パネルに使用されている液晶の量は微量であるため、少ない労力とエネルギーで液晶を高純度で劣化を伴わずに回収し再利用することが望ましい。
【0012】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネルや家電製品および情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルの処理方法として、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し、珪石の代替材料として処理する方法が一部で実施されている(たとえば、特開2000−84531号公報(特許文献1)を参照。)。しかし、上述した特許文献1に開示された方法では、液晶パネルは、ガラス成分がスラグとなりセメント材料として再利用されるのみでガラス材料としては再利用されない。液晶などの有機物は炉内で完全燃焼され、二酸化炭素や水素などに分解される。また、特許文献1に開示された方法では、透明導電膜に含まれるインジウムもリサイクルされていない。
【0013】
また液晶パネルに用いられているガラスを回収する方法として、たとえば特開2005−292394号公報(特許文献2)には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸などの強酸溶液を用いてガラス表面に付着している金属薄膜などの無機成分を除去する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献2に開示された方法では、強酸を使用するため、発生する廃液の処理に多大な労力とエネルギーを必要とする。
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2005−292394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
液晶パネルなどの薄型パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、薄型パネルの廃棄物(廃薄型パネル)も、数・量ともに急激に増大すると予想される。
【0015】
従来は、適切な薄型パネルの処理方法が確立されておらず、CRT(Cathode Ray Tube)その他の家電製品や部品と比較して技術確立などが遅れているのが実情である。したがって、今後、廃薄型パネルの増加に備えた処理方法の確立が早急に要求される。
【0016】
薄型パネルの重量の大半を占めるガラスは、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、酸などを使用することのない、環境負荷の低い方法で再生利用することが望ましい。また、薄型パネルのガラス基板には、有害物質である亜ヒ酸を含有しているものがあり、再生利用する際には、亜ヒ酸を含有するガラス基板は、亜ヒ酸を含有しないガラス基板と選別し、リサイクルに供さず、安全な処理を施すことが望まれている。さらに、複雑な設備を用いたり廃液処理に多大な労力およびエネルギーを必要とすることなく、液晶およびインジウムを薄型パネルから高純度、高収率で回収することのできる処理方法は未だ提案されていない。また、電極に銀などの希少金属を使用している薄型パネルもあり、電極に使用されている金属材料を回収することが望まれている。
【0017】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、廃薄型パネルから、少ない労力とエネルギーにてガラスを再利用することが可能であるとともに、液晶、透明導電膜中のインジウムなどの電極材料を回収することが可能である方法およびそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、廃薄型パネルからガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明のガラスの回収方法における電極材料除去工程は、分離されたガラス基板表面に研磨剤粒子を吹きつけることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離する工程であることが好ましい。この場合、塩酸を用いて、研磨剤粒子を分離した後の電極材料を含む研磨屑からインジウムを回収することが好ましく、さらに、イオン交換樹脂を用いてインジウムを回収することがより好ましい。
【0020】
本発明はまた、上述した本発明のガラスの回収方法を行うための装置であって、廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備えるガラスの回収装置についても提供する。
【0021】
本発明のガラスの回収装置における電極材料除去装置は、圧縮空気供給装置とサイクロン式分離装置とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガラスの回収方法によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができ、また、少ない労力とエネルギーを用いて、かつ、安全に、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムなどの電極材料を回収することができ、さらにガラスカレット(ガラス片)も再利用することができる。したがって、殆ど廃棄物を排出しない経済的な薄型パネルのガラスの回収が可能となる。
【0023】
また本発明は、上述した本発明のガラスの回収方法を好適に行うためのガラスの回収装置についても提供する。このような本発明のガラスの回収装置によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明のガラスの回収方法の好ましい一例を模式的に示すフローチャートである。本発明のガラスの回収方法は、薄型パネルの廃棄物(廃薄型パネル)からガラスを回収するための方法であって、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程(ステップS3)と、分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程(ステップS6)とを基本的に含む。このような本発明のガラスの回収方法によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。またこのような本発明のガラスの回収方法によれば、少ない労力とエネルギーを用いて、かつ、安全に、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムおよび電極材料を回収することができ、さらにガラスカレット(ガラス片)も再利用することができる。したがって、殆ど廃棄物を排出しない経済的な薄型パネルのガラスの回収が可能となる。
【0025】
前記各工程の具体的説明に先立ち、本発明に供される薄型パネルの典型的な構造について、まずは説明する。図2は、本発明に供される典型的な一例の薄型パネル1を模式的に示す断面図である。本発明には、従来公知の適宜の構造の薄型パネルを特に制限されることなく供することができる。図2には、一例として、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた薄型パネル(液晶パネル)1を示しているが、本発明には、TN(Twisted Nematic)液晶パネル、STN(Super Twisted Nematic)液晶パネルなどのデューティ液晶パネルも勿論適用可能である。また、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELパネルも適用可能である。
【0026】
図2に示す例の薄型パネル1は、たとえば、対向配置された厚み0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚み4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、厚み0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。さらに、薄型パネルの周縁部には、液晶駆動用のドライバーICが接続され、周縁部の外側がベゼル・プラスチックで覆われている(図示せず)。
【0027】
ここで、図3は、図2に示した例の薄型パネル1のカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。典型的な薄型パネル1では、図3に示すように、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。カラーフィルタ6は有機物を主体とした材料からなる。反射防止膜7は炭素を主成分とした薄膜などからなる。透明導電膜8はインジウムなどを含む薄膜からなる。配向膜9はポリイミドなどの有機物からなる。
【0028】
また図4は、図2に示した例の薄型パネル1のTFT側ガラス基板2bおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。典型的な薄型パネル1では、図4に示すように、TFT側ガラス基板2bの内面側に、画素電極10、バス電極11、絶縁膜12、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。透明導電膜8は、インジウムなどを含む薄膜からなる。画素電極10およびバス電極11はタンタル、モリブデン、アルミニウム、チタンなどの金属を主成分とする薄膜からなる。前記カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12の膜厚は、前記2枚のガラス基板2a,2bの厚みと比較して、十分に薄い。
【0029】
以下、本発明のガラスの回収方法における各工程について、図2に示した例の薄型パネル1の廃棄物(廃薄型パネル)を解体する場合を例に挙げて詳細に説明する。図1には、本発明のガラスの回収方法の好ましい一例として、〔1〕亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、〔2〕偏光板剥離工程(ステップS2)と、〔3〕ガラス基板分離工程(ステップS3)と、〔4〕ガラス品種選別工程(ステップS4)と、〔5〕液晶回収工程(ステップS5)、〔6〕電極材料除去工程(ステップS6)と、〔7〕金属回収工程(ステップS7)と、〔8〕ガラス回収工程(ステップS8)とを含む場合が例示されている。上述したように本発明のガラスの回収方法は、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と、ガラス基板分離工程(ステップS3)と、電極材料除去工程(ステップS6)とを含んでいればよく、図1に示した手順には限定されず、一部が省略されていても順序が入れ替わっていてもよく、また本発明の効果を阻害しない範囲で適宜の他のステップが追加されていてもよいが、図1に示す手順にて行われることが好ましい。以下、図1に示す各ステップについて詳細に説明する。
【0030】
〔1〕亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程
まず、廃薄型パネルに用いられているガラス基板が、亜ヒ酸を含有するか否かを選別する(ステップS1)。なお、図1のフローチャートでは、この亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)を最初に行う場合を例示しているが、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程は後述するガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、ガラス基板分離工程(ステップS3)の前、ガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよいが、後述の亜ヒ酸の安全な処理の観点から、最初に行うのが好ましい。また、後述するように、ガラス品種選別工程(ステップS4)より前に行うのが好ましい。
【0031】
一般的に、薄型パネルに用いられるガラス基板としては、Al2O3とB2O3を含む無アルカリガラスが使用され、SiO2、Al2O3、B2O3を含有している。また、その他の酸化物として、BaO、CaO、MgO、SrOを含むものがある。また、消泡剤として亜ヒ酸(三酸化二ヒ素:As2O3)または三酸化アンチモン(Sb2O3)が使用されているものがある。このうち、特に亜ヒ酸は、人体に対して強い毒性を持ち、飲み込むと生命に危険を及ぼすことが知られている。亜ヒ酸による症状としては、発癌性や消化管、心臓、骨格筋、呼吸器の障害を引き起こすことが知られている。人体に対する毒性の観点から、亜ヒ酸を含有するガラス基板はガラス製品などへ再生利用せずに、安全な処理を施すことが好ましい。そのため、亜ヒ酸を含有するガラス基板は、できるだけ早い段階で選別し、安全な処理を施すことが好ましい。
【0032】
薄型パネルの中には、貼り合わされた2枚のガラス基板2a,2bのどちらか一方が亜ヒ酸を含有し、もう一方は亜ヒ酸を含有しない場合がある。この場合も、ガラス基板を分離する工程(後述するステップS3)などにおいて、亜ヒ酸を含有する方のガラス基板から亜ヒ酸が飛散し、作業に従事する者の健康を害する虞があるため、2枚を1組として、亜ヒ酸含有ガラス基板として選別し、安全な処理を施すことが望ましい。
【0033】
亜ヒ酸含有ガラス基板の選別方法としては、上述した人体に対する毒性の観点から、まず、亜ヒ酸を含有するガラス基板と亜ヒ酸を含有しないガラス基板とに選別する。選別した亜ヒ酸含有ガラス基板は、分別回収し、亜ヒ酸を安全に処理する。たとえば、そのまま、非鉄精錬所などの脱ヒ素設備を有する施設で、亜ヒ酸成分を取り除きヒ素を安全に回収する。また、たとえば、鉛精錬所などでヒ素製品の製造原料として利用することができる。いずれも、亜ヒ酸の環境中への拡散などを防ぐことができ、安全な処理が可能となる。また、亜ヒ酸を含有しないガラス基板は、後述するガラス品種選別工程に供され、資源としてリサイクルされる。これにより、有害物質である亜ヒ酸を安全に処理しつつ、亜ヒ酸を含有しないガラス基板については、資源として有効に利用することが可能となる。
【0034】
亜ヒ酸含有ガラス基板を選別する具体的方法としては、たとえば、蛍光X線による組成分析が挙げられる。ガラス基板にX線を照射すると、当該ガラス基板が亜ヒ酸を含有する場合には、ヒ素元素特有の性質を有するX線(特性X線)が発せられる。このX線を検出することで、ガラス基板が亜ヒ酸を含有するか否かを判断することが可能となる。また、ヒ素の特性X線強度から、たとえば検量線法、ファンダメンタルパラメータ法などの公知の方法によりヒ素含有濃度を導出することができる。ガラス基板が亜ヒ酸を含有しているか否かは、たとえば、導出されたヒ素含有濃度がたとえば10ppm以上であれば、当該ガラス基板が亜ヒ酸を含有しているものと判断することができる。
【0035】
ここで、図5は、ガラス基板の蛍光X線分析結果を示すグラフであり、図5(a)は亜ヒ酸を含有しないガラス基板A、図5(b)は亜ヒ酸を含有しない、ガラス基板Aとは別のガラス基板B、図5(c)は亜ヒ酸を含有するガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果をそれぞれ示している。図5(c)から、ガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果、ヒ素の特性X線に該当するエネルギーのX線がカウントされており、ガラス基板Cには、亜ヒ酸が含まれていることが分かる。また図5(a)、(b)から、ガラス基板A、Bについての蛍光X線分析の結果では、ヒ素の特性X線に該当するエネルギーのX線はカウントされておらず、ガラス基板A、Bには亜ヒ酸が含まれていないことが分かる。
【0036】
前記蛍光X線分析は、図2に示した例のように薄型パネル1が偏光板5を有する場合は、表面に偏光板5を有する状態のままで、偏光板5上からガラス基板2a,2b上にX線を照射し、分析するのが望ましい。偏光板5は、通常、厚みが0.2〜0.4mm程度であり、たとえば、30keV以上のエネルギーのX線を照射した場合、X線は偏光板5を透過するため、ガラス基板2a,2bの蛍光X線分析は可能である。また偏光板5は、通常、プラスチック材料からなり、炭素、酸素などが含まれるが、これら軽元素から発生する特性X線のエネルギーは、ヒ素から発生する特性X線のエネルギーと比較し、非常に小さいため、亜ヒ酸の検出の阻害要因とはならない。そのため、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別のための蛍光X線分析は、偏光板5を有する状態の薄型パネル1にX線を照射し、分析することが可能である。これによって、偏光板を有する状態で亜ヒ酸の含有を選別し、亜ヒ酸含有ガラス基板については上述のように安全な処理を施すことができるため、亜ヒ酸含有ガラス基板が後述する偏光板剥離工程(ステップS2)に供されることはなくなり、偏光板を剥離する際におけるガラス基板の破損により、亜ヒ酸が人体に取り込まれるのを防ぐことが可能となる。
【0037】
また、当該工程においては、ガラスの露出した部分、たとえば、ドライバーICの接続部近辺にX線を照射して、蛍光X線分析を行うようにしてもよい。ドライバーICは、通常、ガラス基板上に形成された配線に導電性の接着剤を使用して接続されており、この接続部は、偏光板で覆われずにガラス基板が露出している。したがって、ドライバーIC周辺はガラス基板に直接X線を照射することができ、発せられる特性X線を高感度で検出することが可能である。しかしながら、亜ヒ酸を検出するための通常の蛍光X線分析に対しては、偏光板上からでも分析は可能なため、必ずしもガラス基板に直接X線を照射する必要はない。
【0038】
前記蛍光X線分析の際、照射するX線エネルギーは30keV以上とすることが望ましい。薄型パネル1は、通常、0.4〜0.7mmの2枚のガラス基板が貼り合わされ、その表面に0.2〜0.4mmの偏光板が貼り付けられた構造をしており、したがって厚みは、1.2〜2.2mmである。30keV以上のX線を照射した場合、X線は薄型パネルを透過する。そのため、蛍光X線の組成分析としては、貼り合わされた2枚のガラス基板を同時に分析することになる。したがって、2枚のガラス基板のうちどちらか一方が亜ヒ酸を含む場合は、ヒ素元素が検出される。上述したように、2枚のガラス基板のうち一方が亜ヒ酸を含む場合も、リサイクルのための処理をすると、作業中にガラス基板の切削屑、研磨屑などのガラス成分が飛散し、人体に取り込まれる虞があるため、リサイクルのための処理を施すことなく安全にヒ素を処理するようにすることが好ましい。30keV以上のエネルギーを有するX線を照射することで、貼り合わされた2枚のガラス基板の両方が亜ヒ酸を含むものと貼り合わされた2枚のガラス基板のうちどちらか一方が亜ヒ酸を含むものとの両者を一度の蛍光X線分析で選別できるため、効率的なリサイクルが可能となる。
【0039】
なお、X線は薄型パネルを容易に透過するため、蛍光X線分析の際のX線の照射は、カラーフィルタ側ガラス基板2a側、TFT側ガラス基板2b側のどちらからでもよい。
【0040】
また、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別に用いる蛍光X線として、エネルギー分散型の蛍光X線を使用することが好ましい。エネルギー分散型蛍光X線分析では、発せられた特性X線をX線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、ガラス基板にどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)することができる。そのため、波長分散型蛍光X線分析と比較して、高速の組成分析が可能となる。これにより、短時間で効率的なガラス基板の選別が可能となる。
【0041】
また本発明においては、蛍光X線分析は、大気中で行うことが望ましい。蛍光X線分析を大気中で行った場合、低エネルギーのX線は空気により吸収されるため、特性X線のエネルギーが低い軽元素の検出感度は低くなる。しかしながら、ヒ素元素から発生した特性X線は空気による吸収の影響が殆どないため、亜ヒ酸の検出に関しては大気中で行うことが可能である。大気中で蛍光X線分析を行うことで、真空中で行う場合とは異なり排気のための時間が不要なため、分析の効率が向上する。
【0042】
また、亜ヒ酸含有ガラスの選別のための蛍光X線分析の際の薄型パネル上のX線照射面積は、1cm2以上とすることが望ましい。X線の照射時間は1秒から60秒であることが望ましい。
【0043】
ここで、図6は、本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る蛍光X線分析装置40,40’を概念的に示す図である。図6には、たとえば、X線発生装置41と、蛍光X線管42と、半導体検出器43と、計数・演算装置44と、記録表示装置45と、搬送手段46(図6(a))または搬送手段46’(図6(b))とを基本的に備える、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置40,40’が示されている。なお、図示していないが、本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程には、X線単色化素子、X線保安機構を備えた蛍光X線分析装置がより好適に用いられ得る。
【0044】
蛍光X線による組成分析は、薄型パネル1を搬送手段46,46’上に載置したままの状態で分析を行うインライン方式を採用することが好ましい。この場合、薄型パネル1を搬送手段46,46’上に搬送し、X線照射ポイントに来た時点で、搬送を停止し、薄型パネル1を静止状態にする。蛍光X線を使用した場合の組成分析は、1秒から60秒で可能であるので、搬送装置46,46’上に薄型パネル1を載置した状態でX線を照射し、組成分析を行うことができる。これにより、バッチ方式で分析する場合と比較して、蛍光X線分析を行うために薄型パネル1を移載する工程を省略できるため、処理効率が向上する。
【0045】
X線の照射は、図6(a)に示す例のように、搬送装置46上に薄型パネル1を載置した状態でX線を上方から照射するようにしてもよいし、図6(b)に示す例のように、搬送装置46’上に薄型パネル1を載置した状態でX線を下方から照射するようにしてもよい。図6(a)に示す例のように上方からX線を照射する場合、搬送装置46の材料までX線が到達し、当該搬送装置46の材料の形成元素まで検出してしまう場合がある。そのため、搬送装置46を形成するローラ、ベルトなどの材質としては、金属元素を含有しないポリプロピレンなどのプラスチック材料を使用するのが望ましい。搬送装置46に金属元素を含有しない材料を用いることにより、亜ヒ酸検出への影響を防ぐことができる。また、図6(b)に示す例のように、下方からX線を照射する場合、X線が薄型パネルを透過し、薄型パネル1上の空間に達しても空気以外の影響を受けることがないため、分析精度の向上を図ることができる。
【0046】
また、図7は、本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る他の例の蛍光X線分析装置40’’を概念的に示す図である。本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程では、図7に示すような蛍光X線分析装置40’’を用いて、搬送装置46’’による搬送を停止せず、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43を同じ速度で移動させることで、分析することもできる。これにより、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43の相対的な位置は固定されているので、搬送を止めずに分析箇所を固定したまま蛍光X線分析を行うことができ、蛍光X線管、半導体検出器、搬送装置の位置が変わり分析箇所が移動することによる分析精度の低下を防ぐことができる。また、図7に示す例のように搬送しながら蛍光X線分析を行うことで、処理効率の向上が図れる。
【0047】
また、本発明における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程では、携帯型の蛍光X線分析装置を用いて蛍光X線分析を行うようにしてもよい。携帯型蛍光X線分析装置も、図6(a)または図6(b)に示したような、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45、搬送装置46または搬送装置46’を基本的に備える。携帯型蛍光X線分析装置は、作業に従事する者によるハンドキャリーが可能であり、装置を目的試料に移動させ、X線を照射することが可能である。携帯型の蛍光X線分析装置を使用した場合は、搬送装置上にある薄型パネルに対して、特定の位置に限らず、X線を照射することが可能となる。分析の方法としては、薄型パネルのガラス基板に、偏光板上からX線を照射する。携帯型の蛍光X線分析装置を用いて蛍光X線分析を行う場合にも、上述したように、大気中で蛍光X線分析を行うのが好ましい。
【0048】
なお、ガラスの化学組成を品種ごとに予め調べておき、蛍光X線分析の測定値と比較して全く一致する場合には、2枚のガラス基板が同一品種のガラス基板であることになる。この場合、亜ヒ酸の含有の有無と同時に、ガラス基板のガラス品種を選別することも可能となる。この場合には、亜ヒ酸を含有しないガラス基板について、後述するガラス品種選別工程(ステップS4)を省略することも可能である。
【0049】
また、たとえば、薄型パネル1にガラス基板の亜ヒ酸の有無についての表示を設けることによって、亜ヒ酸含有ガラス基板を選別するようにしてもよい。ここで図8は、亜ヒ酸有無の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。図8には、図2に示した例の薄型パネル1の斜視図を示している。たとえば図8に示すように、ガラス基板2a,2bの少なくとも一方(図8に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2a)に、亜ヒ酸有無表示51を設ける。亜ヒ酸有無表示51は、亜ヒ酸の有無に関する情報を印刷したシールなどを貼着したり、または文字・記号・バーコードなどの印刷もしくは刻印、または表面加工によってガラス基板に設けることが可能である。この亜ヒ酸有無表示51を識別することで、ガラス基板の亜ヒ酸の有無を短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0050】
〔2〕偏光板剥離工程
図2に示したように、各ガラス基板2a,2bの外面側に偏光板5が貼着された薄型パネル1の場合には、偏光板5を剥離する工程を含むことが好ましい(ステップS2)。なお、図1のフローチャートでは、この偏光板剥離工程(ステップS2)を亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)とガラス基板分離工程(ステップS3)との間に行う場合を例示しているが、偏光板剥離工程は後述するガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、ガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよい。また、偏光板を有しない薄型パネルの場合には、この偏光板剥離工程を省略しても勿論よい。
【0051】
偏光板5の剥離は、機械的な手法によって行うことができる。機械的な手法によって偏光板5を剥離することで、液晶回収前に当該偏光板剥離工程を行った場合(たとえば、上述のようにガラス品種選別工程(ステップS4)の前、液晶回収工程(ステップS5)の前に行う場合)であっても、液晶を加熱処理しないため、加熱処理による液晶の変質を防止でき、液晶を高品質な状態で回収することが可能となる。偏光板5の剥離は、たとえば手作業で行ってもよく、また市販の偏光板剥離装置を用いるようにしてもよい。
【0052】
〔3〕ガラス基板分離工程
次に、貼り合わされたガラス基板2a,2bを、2枚に分離する(ステップS3)。分離方法としては、たとえばシール樹脂体3を加熱する方法、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断する方法などが挙げられる。ガラス基板2a,2bを分離すると、ガラス基板2a,2bの隙間に封入されていた液晶層4が表面に露出する。
【0053】
シール樹脂体3を加熱して分離する方法では、シール樹脂体3を加熱し、シール樹脂体3の強度を低下させることにより分離する。上述したように、ガラス基板2a,2bは、通常、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。シール樹脂体3としては、通常、エポキシ系樹脂などが用いられ、加熱することでシール樹脂体3の強度を低下させることができる。シール樹脂体3の加熱温度としては、シール樹脂体3の形成材料に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、たとえばエポキシ系樹脂のシール樹脂体3の場合には、300℃以上が望ましく、400℃以上がより望ましい。加熱の方法としては、たとえば、ランプ加熱、赤外線加熱、ヒートプレスなどが挙げられる。加熱によりシール樹脂体3の強度を低下させることで、手作業で容易にガラス基板2a,2bを分離することが可能となる。
【0054】
また、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断することによってガラス基板2a,2bを分離する場合には、ガラス基板2a,2bの内側の四辺を切断することで、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すようにすればよい。ガラス基板2a,2bの切断には、たとえばガラスカッター、ダイヤモンドソー、スクライバーなどを用いることができる。
【0055】
また、ガラス基板の分離と同時に、薄型パネルに接続されているドライバーICを取り外す。ドライバーICは、通常、薄型パネルの周縁部に、導電性の接着剤を用いて、接続されている。取り外しの方法としては、手作業で、ドライバーICを引き剥がす。導電性の接着剤の接着力は弱いため、外力を加えることにより接続部を容易に引き剥がすことができる。また、カッターナイフのような刃物で接続部を切断することもできる。取り外したドライバーICは、非鉄精錬所などで適切な処理を施すことで、含有される金属を回収することができる。ドライバーICは、手作業で容易に取り外すことが可能なため、このドライバーICの取り外しは、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれの工程で行ってもよい。また、ガラス基板2a,2bの周縁部を切断することによってガラス基板2a,2bを分離する場合には、ドライバーICも同時に取り外される。
【0056】
〔4〕ガラス品種選別工程
薄型パネルに用いられるガラス基板2a,2bは、ガラスメーカによって、あるいはガラス品種、品番などによって組成が異なる。したがって、回収したガラス基板2a,2bをたとえばガラス基板用の材料として再利用するためには、多種多様なガラス基板を品種別に選別することが必要となる。また、回収したガラス基板2a,2bをたとえば一般ガラス用の材料として再利用する場合にも、ある程度、ガラス基板2a,2bを品種別に選別することが要求される場合がある。後述のガラス回収工程で、異なった品種のガラス基板が混在したままガラスとして再生利用する場合には、このガラス品種選別工程は省略することができる。
【0057】
ガラス品種の選別は、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離した後、それぞれのガラス基板について行う。これは、カラーフィルタ側ガラス基板2aとTFT側ガラス基板2bのガラス品種が異なる場合があるためである。
【0058】
なお、図1のフローチャートでは、このガラス品種選別工程(ステップS4)をガラス基板分離工程(ステップS3)と液晶回収工程(ステップS5)との間に行う場合を例示しているが、ガラス品種選別工程はガラス基板分離工程(ステップS3)と後述するガラス回収工程(ステップS8)との間のいずれかのステップで行えばよく、この順序に限定されるものではない。たとえば、電極材料除去工程(ステップS6)の前、金属回収工程(ステップS7)の前、ガラス回収工程(ステップS8)の前のいずれかに行うようにしてもよい。なお、ガラス品種選別工程は、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)より後に行うことが好ましい。亜ヒ酸含有ガラス基板は、リサイクルに供することができないため、亜ヒ酸を含有しないガラス基板のみについて品種別の選別を行った方が効率がよいためである。なお、上述したように亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程で、亜ヒ酸含有の有無と同時にガラスの品種が選別されている場合には、ガラス品種選別工程は省略することができる。
【0059】
ガラス基板の品種別の選別には、たとえば、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と同様、蛍光X線による組成分析を用いることができる。上述のように、薄型パネル用のガラス基板は、無アルカリガラスが使用され、SiO2、Al2O3、B2O3を含有している。また、その他の酸化物として、BaO、SrO、CaO、MgOを含むものがある。これら含有物の組成を分析することにより、ガラス基板を品種別に選別することが可能である。たとえば、ガラス基板の組成を蛍光X線により分析し、ガラス基板の品種ごとの化学組成を予め調べておき、それらの値とガラス基板の測定値を比較することにより、ガラス基板の品種を同定・選別することができる。またガラス基板の品種の同定・選別は、ガラスの品種ごとの特徴から、一部の元素にかかる測定値のみを比較することによっても可能である。
【0060】
上述した図5には、ガラス基板の蛍光X線分析結果を示しているが、図5(a)に示されたガラス基板AについてはBaの特性X線に該当するエネルギーのX線がカウントされているのに対し、図5(b)に示されたガラス基板BについてはBaの特性X線に該当するエネルギーのX線は殆ど検出されていない。以上の結果から、ガラス基板の品種の同定・選別は、ガラス基板の品種ごとの特徴から、一部の元素にかかる蛍光X線の測定値を比較することによって可能であることが分かる。
【0061】
ガラス品種の選別に用いる蛍光X線も、エネルギー分散型の蛍光X線を使用することが好ましい。エネルギー分散型の蛍光X線を用いた蛍光X線分析では、発せられた特性X線をX線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、ガラス基板にどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)する。そのため、エネルギー分散型の蛍光X線を用いることにより、一度の多元素の分析が可能となり、短時間で効率的なガラスの選別が可能となる。
【0062】
なお、本発明におけるガラス品種選別工程の際の蛍光X線分析は、大気中で行うことが望ましい。上述したように、蛍光X線分析を大気中で行った場合、低エネルギーのX線は空気により吸収されるため、特性X線のエネルギーが低い軽元素の検出感度は低くなる一方で、Ba、Srなどの元素から発せられる特性X線は、空気による吸収の影響が殆どないため、これらの元素に着目すれば、大気中でガラス基板の品種別の選別を行うことが可能であるためである。大気中で蛍光X線分析を行うことで、真空中で蛍光X線分析を行う場合と比較して、排気のための時間が不要であるため、分析の効率が向上する。
【0063】
また、ガラス基板の品種別の選別のための蛍光X線分析の際の薄型パネル上のX線照射面積は、1cm2以上とすることが望ましい。X線の照射時間は1秒から60秒であることが望ましい。
【0064】
上述の亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)と同様、蛍光X線分析は、搬送装置上でインライン方式で行うことができる。この場合、たとえば図6に示したように薄型パネル1を搬送装置46または搬送装置46’上に載置して搬送し、X線照射ポイントに来た時点で、搬送を停止し、薄型パネル1を静止状態にして蛍光X線分析を行うようにする。また、図7に示した例にように、搬送を停止せず、蛍光X線管42、半導体検出器43、搬送装置46’’を同じ速度で移動することにより、分析することもできる。
【0065】
またX線の照射は、図6に示したように、搬送装置46,46’上に薄型パネル1を載置した状態で、上方(図6(a))、下方(図6(b))のいずれからであってもよい。上述したように、搬送装置46の上方からX線を照射する場合(図6(a))には、搬送装置46の材料までX線が到達し、当該搬送装置46の材料の形成元素まで検出する場合があるため、搬送装置46を形成するローラ、ベルトなどの材質としてはポリプロピレンなどの金属元素を含有しないプラスチック材料を使用するのが望ましい。これによりガラス基板の組成分析への影響を防ぐことができる。また、図6(b)に示した例のように搬送装置46’の下方からX線を照射した場合には、X線は薄型パネルを透過しても空気以外の影響を受けることがないため、分析精度の向上を図ることができる。
【0066】
また、ガラス品種選別工程でも、携帯型の蛍光X線分析装置を使用した蛍光X線分析を行ってよい。上述したように、携帯型蛍光X線分析装置も、図6に示したような、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45、搬送装置46または搬送装置46’を基本的に備える。分析の方法としては、薄型パネルのガラス基板に、偏光板上からX線を照射する。この際、上述したように、大気中で蛍光X線分析を行うのが好ましい。
【0067】
また、薄型パネルのガラス基板を品種別を選別する方法として、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板の選別方法と同様に、薄型パネルにガラス品種の表示を設けることによって行うことができる。たとえば、図8における亜ヒ酸有無表示51の代わりにガラス品種表示として、ガラス品種についての情報を印刷したシールなどを貼着したり、または文字・記号・バーコードなどの印刷もしくは刻印、または表面加工によってガラス基板に設けることが可能である。ガラス品種表示は、ガラスメーカ、ガラス品種などの情報が表示されているのが好ましい。このガラス品種表示を識別することで、ガラス基板を種類(品種)別に短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0068】
〔5〕液晶回収工程
次に、上述のようにして分離されたガラス基板2a,2b上に露出する液晶を回収する(ステップS5)。ここで、図9は、本発明における液晶回収工程に好適に採用され得る、液晶の回収方法の一例を模式的に示す図である。液晶は、たとえば、ガラス基板2a,2bの表面を液晶回収用のスクレーパ61を用いてスクレーピングすることによって回収することができる(図9には、カラーフィルタ側ガラス基板2a側の液晶を回収する場合を示している。)。液晶回収用のスクレーパ61としては、ガラス基板2a,2b上に形成されている配向膜9よりも柔らかいポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成されたスクレーパを好適に用いることができる。また、ゴム製のスキージを用いることにより、配向膜9を削り取らずに液晶のみを回収することができる。また、液晶を有しない薄型パネルの場合には、この液晶回収工程を削除しても勿論よい。
【0069】
〔6〕電極材料除去工程
次に、ガラス基板2a,2bの内面側に形成されたカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12などの電極材料を含む薄膜(カラーフィルタ側ガラス基板2aの側では、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9などの薄膜、TFT側ガラス基板2bの側では、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12などの薄膜)をガラス基板から剥離して除去し、金属およびガラス基板を回収する(ステップS6)。
【0070】
上述した薄膜を剥離する方法としては、たとえば、サンドブラストを用いることができる。サンドブラストを採用する場合、研磨剤粒子をガラス基板2a,2bに勢いよく吹き付けて、上述した電極材料を含む薄膜をそれぞれ除去する。ここで、図10は、本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る薄膜の除去方法の一例を模式的に示す図である。なお、図10は、カラーフィルタ側ガラス基板2aの例を示している。図10に示すように、カラーフィルタ側ガラス基板2aに研磨剤粒子をブラストガン71により吹き付けると、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に形成されているカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9を全て除去することができる。また、カラーフィルタ側ガラス基板2aと同様にブラストガン71によりTFT側ガラス基板2bに研磨剤粒子を勢いよく吹き付けることで、TFT側ガラス基板2bの内面側に形成された透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12を除去することができる。研磨剤粒子としては、アルミナ、炭化ケイ素(SiC)などのセラミクスを用いることができる。研磨剤粒子の粒径は、50〜500μmの範囲内であることが好ましいが、この限りではない。
【0071】
サンドブラストによりカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2bの内面側から除去された薄膜を含む研磨屑は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と、サンドブラストに用いた研磨剤粒子との混合物として回収される。ブラストした際にガラス表面をガラスごと削り取るため、前記金属含有粉末は、微小なガラス片を含むが、亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程(ステップS1)で亜ヒ酸を含有するガラス基板は既に除かれているため、作業に従事する者の人体に対する悪影響は、防止されている。この混合物から、まず、分級によって研磨剤粒子を分離する。分離した研磨剤粒子は、サンドブラストに再使用することができる。
【0072】
本発明のガラスの回収方法では、研磨剤粒子を分離するための分級に、サイクロン式分離装置を用いることが好ましい。ここで、薄型パネルに用いられるガラス基板の比重は、通常、2.3〜2.6である。それに対し、たとえば研磨剤粒子にアルミナを使用した場合、アルミナの比重は3.97であり、またSiCを使用した場合、SiCの比重は3〜3.2である。上述のように、金属含有粉末は、微小なガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着したままの状態であるため、サイクロン式分離装置を用いてガラスと研磨剤粒子とを分離することにより、比重差によって、金属、有機物、金属酸化物はガラスとともに研磨剤粒子と分離される。
【0073】
図11は、本発明における電極材料除去工程に好適に用いられるサイクロン式分離装置80を模式的に示す図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は断面図である。図11に示すように、粉末導入口81から導入された粉末を含む気流は、装置内面の側面に沿って旋回しながら下方へと流れ、装置下部の円錐部で加速される。加速された気流は、装置下端に達し反転上昇する。上昇した気流は、中央部を同一方向に旋回し、排出口82から排出される。このとき、比重の大きい研磨剤粒子は、遠心力によって分離され、側面に沿って落下し、沈降する。沈降した研磨剤粒子は、排出口82から排出される。比重の小さい液晶ガラスを主成分とする金属含有粉末は、気流とともに上昇し、排気口83から排出される。また、研磨剤粒子のうち、ブラストの際に破損し、サイズが小さくなったもの(研磨剤微粒子)も気流とともに上昇し、排気口から排出される。
【0074】
上述したサイクロン式分離装置80の排出口82から排出された、研磨剤粒子を分離した後の研磨屑(金属含有粉末、研磨剤微粒子を含む混合物)を含む気流は、集塵装置により、分離回収されることが好ましい。集塵装置としては、たとえば、スクラバーを用いることができる。図12は、本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るスクラバー84を模式的に示す断面図である。スクラバー84を用いた金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収では、まず、金属含有粉末および研磨剤微粒子を含んだ気体を気体導入口85から導入する。液体導入口86からは、塩酸を導入する。塩酸の液滴により、気体中の粉末、粒子は捕集され、液体とともに下降する。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口87から排出される。このように、本発明のガラスの回収方法においては、研磨剤粒子を分離した後の研磨屑から塩酸を用いてインジウムを回収することが、好ましい。これにより、アルミナなどの研磨剤を溶解せずに、インジウムを溶解できるため、希少金属であるインジウムの選択的回収が可能になるという利点がある。また、後述の金属回収工程においてイオン交換樹脂を使用したインジウムの濃縮が可能になるという利点もある。
【0075】
図12に示す例のように、スクラバー84は、液体が気体排出口87から排出されるのを防止するためのデミスター88、捕集効率を上げるための充填剤89を備えることが好ましい。金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集と同時に、塩酸の液滴が、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物に接触した際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子からインジウムなどの金属が塩酸中に溶解する。塩酸中に溶解する金属としては、たとえば、透明導電膜に使用されているインジウムおよびスズ、バス電極に使用されているアルミニウムなどが挙げられる。インジウムが溶けた塩酸溶液(インジウム含有塩酸)は、従来公知の濾過、比重差分離などの手法を用いて固液分離される。後述する金属回収工程にて、インジウム含有塩酸から、インジウムなどの金属を回収する。
【0076】
また、本発明における電極材料除去工程に用いられる集塵装置は、バグフィルタであってもよい。図13には、本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るバグフィルタ90を模式的に示す断面図である。バグフィルタ90を用いた金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収では、まず、気体導入口91から導入された金属含有粉末および研磨剤微粒子を含んだ気流は、ろ材92を通過する際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子がバグに付着し、ろ過される。ろ材92の素材としては、耐湿、耐熱性の合成繊維やガラス繊維を用いることができる。ろ材92に堆積した金属含有粉末および研磨剤微粒子は、振動により、下方へ落下させる。落下した金属含有粉末および研磨剤微粒子は、ホッパー93に堆積する。また、気流の向きを反転するか、気流を停止することにより、下方へ落下させることもできる。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口94から排出される。
【0077】
上述したバグフィルタ(図13)などの集塵装置を用いて回収された金属含有粉末および研磨剤微粒子は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されている金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムなどを含む金属酸化物などからなる金属含有粉末と研磨剤粒子が破損した研磨剤微粒子から構成されている。この金属含有粉末から、後述する金属回収工程でインジウムなどの金属を回収する。また、サンドブラストにより、表面に付着した薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、後述のガラス回収工程(ステップS8)でガラスへとリサイクルされる。
【0078】
さらに、本発明における電極材料除去工程では、回転研磨を用いて、液晶を除去した後のガラス基板2a,2bの内面側に形成された電極材料を含む薄膜を除去するようにしてもよい。回転研磨では、回転する金属ブラシまたは研磨パッドによりガラス基板2a,2b上の付着物を研磨する。研磨パッドとしては、表面にダイヤモンド砥粒を保持したダイヤモンドパッド、ダイヤモンド砥石などを用いることができる。ここで、図14は、本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る回転研磨処理を模式的に示す図である。図14は、カラーフィルタ側ガラス基板2aに回転研磨処理を施す場合を示している。図14に示すように、研磨パッド95によりカラーフィルタ側ガラス基板2aに回転研磨処理を施すと、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に形成されているカラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9を全て除去することができる。また、カラーフィルタ側ガラス基板2aと同様に、研磨パッド95による回転研磨によりTFT側ガラス基板2bの内面側に形成された透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12を除去することができる。
【0079】
回転研磨により、ガラスフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2bの内面側から除去される電極材料を含む薄膜は、ガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などを含む研磨屑として回収される。なお、研磨屑は、回転研磨した際にガラス基板表面をガラスごと削り取るため、微小なガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態である。このような研磨屑から、後述する金属回収工程にてインジウムなどの金属を回収できる。また、回転研磨により、表面に付着した電極材料を含む薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、後述のガラス回収工程(ステップS8)でガラスへとリサイクルされる。
【0080】
〔7〕金属回収工程
上述のように、電極材料除去工程において、インジウム含有塩酸(サンドブラスト処理の後、スクラバー84を用いた処理を施した場合)、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物(サンドブラスト処理の後、バグフィルタ90を用いた処理を施した場合)、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑(回転研磨処理を施した場合)が得られる。これらはいずれもインジウムを含有するものであり、当該金属回収工程でインジウムが分離・回収される(ステップS7)。
【0081】
インジウム含有塩酸からインジウムを分離回収する方法としては、たとえば、硫化物法、水酸化物法、置換析出法、溶媒抽出法、電解採取法を用いることができる。本発明においては、イオン交換樹脂を用いて、インジウム含有塩酸からインジウムを分離・回収することが、好ましい。インジウムイオンおよびスズイオンは1mol/L以上の塩化物イオンの存在下で塩化物錯イオンを形成し、マイナスの電荷を帯びるため、塩酸酸性水溶液中でイオン交換樹脂、特に陰イオン交換樹脂、さらに好ましくは強塩基性の陰イオン交換樹脂と接触させた場合、イオン交換樹脂に吸着される。このようにイオン交換樹脂を用いることで、エネルギーを使用せず、廃棄物を殆ど排出しないという利点がある。
【0082】
イオン交換樹脂を用いてインジウム含有塩酸からインジウムを分離・回収する場合、塩酸中の塩化物イオン濃度を1〜6mol/L、より好ましくは2〜4mol/Lに調製することによって特異的に溶液中のインジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂に吸着させることが可能である。塩化物イオン濃度が1mol/L未満である場合は、インジウムおよびスズは塩化物イオン錯体を形成しないためイオン交換樹脂に吸着せず、6mol/Lより高い場合は、陰イオン交換樹脂に吸着される塩化物イオンが多くなり、インジウムおよびスズの吸着が阻害される。したがって、塩化物イオン濃度が1〜6mol/Lのとき、インジウムおよびスズが陰イオン交換樹脂に吸着される。
【0083】
図15は、本発明における金属回収工程において、イオン交換樹脂を用いてインジウムを分離・回収するための装置を模式的に示す図である。図15に示されるように、まず、イオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)を充填したカラム97に、送液ポンプ96を用いて、インジウム含有塩酸を通液し、インジウム含有塩酸と陰イオン交換樹脂とを接触させる。これにより、陰イオン交換樹脂にインジウムおよびスズが吸着する。アルミニウムは、塩酸中で錯体を形成せず負の電荷を帯びないため、イオン交換樹脂には吸着されない。カラム97を通過した塩酸は、金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集を行うための上述したスクラバー(図12)に再利用することができる。
【0084】
続いて、カラム97に水を通液し、インジウムおよびスズを吸着した状態の陰イオン交換樹脂に水を接触させると、イオン交換樹脂表面の塩酸の濃度が低下し、インジウムおよびスズのクロロ錯体が破壊する。こうして、陰イオン交換樹脂とのイオン結合力が低下するため、インジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂から離脱することができ、インジウム・スズ濃縮溶液が得られる。
【0085】
回収されたインジウム・スズ濃縮溶液は、たとえば、まず、スズ沈殿槽98において、pH2〜4程度に調製し、水酸化スズを沈殿させ固液分離し、インジウム濃縮液を得る。次に、インジウム沈殿槽99において、インジウム濃縮液をpH4〜6に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離する。このようにして、たとえば遠心分離によって水酸化インジウムを分離後、水素還元により、金属インジウムを分離回収することができる。得られた金属インジウムは、電解精錬などにより精製され、高純度の金属インジウムとして再生利用することができる。また、たとえば、水酸化インジウムをろ過、洗浄後、乾燥、焼成することにより、酸化インジウムを得、この酸化インジウムを酸化スズと混合し、成形、焼成することによって、ITOターゲットとして再利用することもできる。
【0086】
上述したpHの調整には、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物塩を用いることができる。中でも、中和反応速度が速い、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。なお、pHの調整には、たとえば市販のガラス電極を有するpH計などを用いてモニターしながら行うことが好ましい。
【0087】
また、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物(サンドブラスト処理の後、バグフィルタ90を用いた処理を施した場合)、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑(回転研磨処理を施した場合)からインジウムを回収する場合には、たとえば、上述した混合物または研磨屑を酸性の溶液(たとえば、塩酸など)に浸漬し、インジウムを溶解させればよい。この場合、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物、または、ガラスに金属や有機物、金属酸化物が付着した状態の研磨屑の量は、ガラスの重量に対して、重量が非常に小さい。また、粒径が小さいため、インジウムの溶解速度は速く、インジウムを溶解するための酸は、薄型パネルから直接溶解する場合と比較して少なくてよく、廃液処理などの環境負荷が小さくなる。その後、上述したイオン交換樹脂を用いた方法により、インジウムを回収することができる。
【0088】
なお、上述したいずれの場合であっても、電極材料が銀を含む場合には、上述したようにインジウムを溶解させて回収した後の残渣を、シアン化アルカリ溶液に浸漬することで銀を溶出させ、亜鉛板あるいは亜鉛粉末などを添加し、置換析出法により銀粉末として回収すればよい。
【0089】
〔8〕ガラス回収工程
次に、表面の付着物が除去されたガラス基板2a,2bからガラスを回収する(ステップS8)。回収の方法としては、たとえば、表面の付着物が除去されたガラス基板を薄型パネルの製造工程へ投入する方法、あるいは、ガラス基板2a,2bを破砕し、ガラスメーカで同一用途に再生する方法、珪石代替材料やタイル材料として再資源化する方法などが挙げられる。
【0090】
ガラス基板2a,2bを破砕し、リサイクルする具体的方法について以下に説明する。まず、ガラス基板2a,2bの破砕を行う。図1に示す手順の場合には、ガラス基板2a,2bは、上述したガラス品種選別工程(ステップS4)において既にガラス品種別に選別されているため、単一の品種のガラス基板ごとに破砕すればよい。ガラス基板2a,2bの破砕には、市販の各種方式の破砕機を使用することができ、用いる破砕機の種類は特に限定されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機が好ましい。2軸剪断方式の破砕機は、サイズの揃った破砕物が得られやすいこと、微粉末の発生比率が小さく、破砕物をガラスカレットとして最終的に再利用しやすいことなどの利点も有している。破砕のサイズは自由であるが、15mm以下が好ましい。
【0091】
回収されたガラスカレットは、単一の品種のガラスであり、かつ、ガラス基板用の原料ガラスと代わらない化学組成を有している。それ故、ガラスカレットを原料ガラスに添加混合することにより、または、原料ガラスに置き換えて、再使用(マテリアルリサイクル)することができる。再使用する際には、たとえば、ガラスカレットを原料ガラスと共に溶融炉で溶融させればよい。さらに、回収されたガラスカレットは、たとえば、一般ガラス用の材料として再使用することもできる。なお、ガラス基板2a,2bは、ガラスカレットの状態で回収されることで、その保管、運搬および再処理に必要なスペースを小さくすることができ、かつ、保管作業および運搬作業を容易に行うことができるという利点もある。このように本発明のガラスの回収方法では、殆ど廃棄物を排出することなく、液晶、および透明導電膜中のインジウムを回収でき、ガラスについても再利用することができる。以上のような本発明の方法によって回収された液晶、金属およびガラスは、各種材料として再利用することができる。
【0092】
本発明はまた、上述した本発明のガラスの回収方法を行うための装置(回収装置)についても提供するものである。本発明の回収装置は、廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備えることを特徴とする。このような本発明の回収装置によれば、薄型パネルのガラス基板に亜ヒ酸が含有される場合に、当該亜ヒ酸を含有するガラス基板を安全に処理することができる。
【0093】
ここで、図16は、本発明の好ましい一例のガラス回収装置101を模式的に示す図である。図16に示す例の回収装置101は、搬送装置102と、インライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103と、偏光板剥離装置104と、ガラス基板分離装置105と、液晶回収装置106と、薄膜剥離および金属回収装置107とを基本的に備える。このような回収装置101を用いて、上述した本発明のガラスの回収方法(たとえば図1に示した例のステップS1からステップS8までの工程)を行うことで、各工程を同時並行して処理することができ、ガラス回収作業の効率化を図ることができる。以下、図16に示す例の回収装置101を用いて、図1に示した手順にて本発明のガラスの回収方法を行う場合を例に挙げて詳細に説明する。
【0094】
まず、偏光板5を有する状態での薄型パネル1(たとえば図2に示した例)を搬送装置102上に設置し、インライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103を用いて、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別を行う(ステップS1)。この蛍光X線分析装置103は、図6に示したように、X線発生装置41、蛍光X線管42、半導体検出器43、係数・演算装置44、記録表示装置45および搬送装置46,46’を基本的に備えるものが用いられる。図6に示したように、X線は、搬送装置に薄型パネルを載置した状態で上方から照射するようにしてもよく(図6(a))、下方から照射するようにしてもよい(図6(b))。また、図16に示す例のインライン方式のエネルギー分散型蛍光X線分析装置103は、図7に示したように、搬送を停止せず、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43を同時に同じ速度で移動させる機構を備えていてもよい。この場合には、薄型パネル1、蛍光X線管42、半導体検出器43の相対的な位置は固定されているので、搬送を止めずに分析箇所を固定したまま蛍光X線を分析することができる。
【0095】
なお、蛍光X線分析装置103として、エネルギー分散型の蛍光X線を用いた蛍光X線分析を行い得る装置を用いる場合には、短時間で亜ヒ酸含有ガラス基板の選別と、亜ヒ酸非含有ガラス基板の品種選別を効率的に行うことができるという利点がある。蛍光X線分析装置103により選別された亜ヒ酸含有ガラス基板は、搬送装置102上から回収される。たとえば、回収した亜ヒ酸含有ガラス基板は、コンテナなどに保管し、ヒ素を安全に処理できる設備を有する施設、たとえば、非鉄精錬所などで安全な処理が施され、ヒ素製品の原料として使用することができる。
【0096】
次に、亜ヒ酸を含有していないガラス基板を備える薄型パネルは、搬送装置102により偏光板剥離装置104へと搬送される。偏光板剥離装置104は、機械的に偏光板を剥離するもので、たとえば偏光板を巻き取ってガラス基板から除去する(ステップS2)。
【0097】
次に、偏光板が剥離された薄型パネルは、搬送装置102によりガラス基板分離装置105へと搬送される。そこで、貼り合わされた2枚のガラス基板が分離される(ステップS3)。ガラス基板分離装置105は、たとえばガラスカッターを備え、薄型パネル周縁部のシール材の内側四辺を切断し、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すことで、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離し得るように実現される。
【0098】
また、ガラス基板分離装置105は、薄型パネル周縁部を加熱するヒータ(たとえばハロゲンランプ、赤外線加熱装置など)を備えたものとすることもできる。この場合、ガラス基板分離装置105により薄型パネル周縁部を加熱し、シール樹脂体の強度を低下させ、貼り合わされたガラス基板を手作業で容易に分離することができる。
【0099】
分離されたガラス基板は、たとえばインライン方式の蛍光X線分析装置によりガラス品種別に選別される(ステップS4)。このガラス品種選別のための蛍光X線分析装置は、亜ヒ酸含有ガラス基板の選別に用いたものと同一の構造のものを用いることができる。なお、蛍光X線分析装置は、上述した亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程、ガラス品種選別工程でそれぞれ専用の装置を用いずに、図16に示すように1台のインライン方式の蛍光X線分析装置103を両方の工程に使用することができる。
【0100】
ガラス品種別に選別されたガラス基板は、搬送装置102により液晶回収装置106へ搬送される。液晶回収装置106は、たとえば図9に示した例のようにポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成されたスクレーパ61を備えるように実現された装置を用いることが好ましい。このような液晶回収装置106によって、スクレーバ61により液晶を掻きとることで、液晶のみを効率的に回収することができる(ステップS5)。
【0101】
次に、薄型パネルのガラス基板の表面に付着している電極材料を含む薄膜を剥離して除去し(ステップS6)、金属を回収する(ステップS7)。ここで、図17は、図16に示す例の回収装置101における電極材料除去および金属回収装置107の好ましい一例を模式的に示す図である。本発明の回収装置において、電極材料を除去するための装置(電極材料除去装置)は、圧縮空気供給装置と、サイクロン式分離装置とを備えることが好ましい。これによって、研磨剤を吹き付けることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、比重差によって、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離することが可能になるためである。図17には、サンドブラストのブラストガン71(上述)と、サイクロン式分離装置80(上述)と、スクラバー84(上述)と、圧縮空気供給装置111と、ステージ112と、ファン113と、圧縮空気供給ホース114と、金属含有粉末および研磨剤粒子排出ホース115と、金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース116と、ガス排出ホース117と、インジウム含有塩酸送液ホース118と、塩酸送液ホース119と、金属分離回収装置120とを備えるように実現された場合の電極材料除去および金属回収装置107を示している。
【0102】
図17に示したような電極材料除去および金属回収装置107を用い、まず、ステージ112上に、液晶を回収した後のガラス基板を載置し、図10に示したように、ブラストガン71により研磨剤粒子を吹き付ける。この際、ブラストガン71には、サイクロン式分離装置80から研磨剤粒子が供給され、圧縮空気供給装置111から高圧空気が供給され、圧縮空気により研磨剤粒子がガラス基板表面に吹き付けられる。これによって、ガラス基板表面からガラス基板材料、金属、有機物、金属酸化物が研磨される。ガラス基板表面から削り取られたガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウムやスズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と、サンドブラストに用いた研磨剤粒子との混合物は、金属含有粉末および研磨剤排出ホース115を通ってサイクロン式分離装置80へ運ばれる。サイクロン式分離装置80としては、図11に示した構造の装置を好適に用いることができ、当該サイクロン式分離装置80により研磨剤粒子は分離される。分離された研磨剤粒子はサンドブラストに再利用することができる。
【0103】
ガラス基板表面から削り取られたガラス基板材料と、TFTの電極材料に使用されているアルミニウムなどの金属と、カラーフィルタなどに使用されている有機物と、希少金属であるインジウム、スズなどを含む金属酸化物粉末などからなる金属含有粉末と研磨剤粒子が破損したサイズが小さくなった研磨剤微粒子の混合物は、サイクロン式分離装置80の排気口から排出され、金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース116を通り、スクラバー84へと運ばれる。図12に示した構造のスクラバー84を用いた場合、金属含有粉末および研磨剤微粒子を含む気体は気体導入口85から導入され、液体導入口86から導入された塩酸の液滴により、気体中の粉末、粒子は捕集され、液体とともに下降する。金属含有粉末および研磨剤微粒子が除去されたガスは気体排出口87から排出される。スクラバー84は、図12に示したように、液体が気体排出口87から排出されるのを防止するためのデミスター88、捕集効率を上げるための充填剤89を備えることが好ましい。金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集と同時に、塩酸の液滴が、金属含有粉末および研磨剤微粒子の混合物に接触した際に、金属含有粉末および研磨剤微粒子からインジウムなどの金属が塩酸中に溶解する。インジウムが溶けた塩酸溶液は、固液分離し、粉末とインジウム含有塩酸に分離する。このようにして、インジウム含有塩酸が得られる。
【0104】
回収されたインジウム含有塩酸は、インジウム含有塩酸送液ホース118を通して、金属分離回収装置120に送液される。金属分離回収装置120にて、上述した金属回収工程(ステップS7)を行うことで、インジウムが回収される。金属分離回収装置120は、たとえば図15に示した例のように、イオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)を充填したカラム97に、送液ポンプ96を用いて、インジウム含有塩酸を通液し、インジウム含有塩酸と陰イオン交換樹脂を接触させ、陰イオン交換樹脂にインジウムおよびスズが吸着させることで、インジウムを回収し得るように実現される。カラムを通過した塩酸は、塩酸送液ホース119を通して、スクラバー84に送られ、スクラバー84で金属含有粉末および研磨剤微粒子の捕集に再利用することができる。
【0105】
続いて、カラム97に、送液ポンプ96を用いて水を通液し、インジウムおよびスズを吸着した状態の陰イオン交換樹脂に水を接触させると、イオン交換樹脂表面の塩酸の濃度が低下し、インジウムおよびスズのクロロ錯体が破壊する。こうして、陰イオン交換樹脂とのイオン結合力が低下するため、インジウムおよびスズを陰イオン交換樹脂から離脱することができ、インジウム・スズ濃縮溶液が得られる。回収されたインジウム・スズ濃縮溶液は、たとえば、まず、スズ沈殿槽98において、pH2〜4程度に調製し、水酸化スズを沈殿させ固液分離し、インジウム濃縮液を得る。次に、インジウム沈殿槽99において、インジウム濃縮液をpH4〜6に調整することにより水酸化インジウムを沈殿させ、固液分離する。このようにして、希少金属であるインジウムが、水酸化インジウムとして回収される。
【0106】
また、本発明の回収装置101における金属回収装置120は、硫化物法、水酸化物法、置換析出法、溶媒抽出法、電解採取法を利用してインジウムを分離回収するように実現されたものであっても勿論よい。
【0107】
金属回収装置120で得られた水酸化インジウムなどは、水素還元により、金属インジウムを分離回収することができる。金属インジウムは、上述のように、電解精錬などにより精製され、高純度の金属インジウムとして再生利用することができる。また、ITOターゲットとして再利用することもできる。
【0108】
金属回収装置120により、表面に付着した電極材料を含む薄膜が除去されたガラス基板2a,2bは、上述したガラス回収工程(ステップS8)に供され、リサイクルされる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のガラスの回収方法の好ましい一例を模式的に示すフローチャートである。
【図2】本発明に供される典型的な一例の薄型パネル1を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した例の薄型パネル1のカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。
【図4】図2に示した例の薄型パネル1のTFT側ガラス基板2bおよびその周辺を一部拡大して示す断面図である。
【図5】ガラス基板の蛍光X線分析結果を示すグラフであり、図5(a)は亜ヒ酸を含有しないガラス基板A、図5(b)は亜ヒ酸を含有しない、ガラス基板Aとは別のガラス基板B、図5(c)は亜ヒ酸を含有するガラス基板Cについての蛍光X線分析の結果をそれぞれ示している。
【図6】本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る一例の蛍光X線分析装置40,40’を概念的に示す図である。
【図7】本発明のガラス回収方法における亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程に好適に用いられ得る他の例の蛍光X線分析装置40’’を概念的に示す図である。
【図8】亜ヒ酸有無の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明における液晶回収工程に好適に採用され得る、液晶の回収方法の一例を模式的に示す図である。
【図10】本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る薄膜の除去方法の一例を模式的に示す図である。
【図11】本発明における電極材料除去工程に好適に用いられるサイクロン式分離装置80を模式的に示す図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は断面図である。
【図12】本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るスクラバー84を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明における電極材料除去工程の際の金属含有粉末および研磨剤微粒子の分離回収に好適に用いられ得るバグフィルタ90を模式的に示す断面図である。
【図14】本発明における電極材料除去工程に好適に採用され得る回転研磨処理を模式的に示す図である。
【図15】本発明における金属回収工程において、イオン交換樹脂を用いてインジウムを分離・回収するための装置を模式的に示す図である。
【図16】本発明の好ましい一例のガラス回収装置101を模式的に示す図である。
【図17】図16に示す例の回収装置101における電極材料除去および金属回収装置107の好ましい一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 薄型パネル、2a カラーフィルタ側ガラス基板、2b TFT側ガラス基板、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板、6 カラーフィルタ、7 反射防止膜、8 透明導電膜、9 配向膜、10 画素電極、11 バス電極、12 絶縁膜、40,40’,40’’ 蛍光X線分析装置、41 X線発生装置、42 蛍光X線管、43 半導体検出器、44 係数・演算装置、45 記録表示装置、46,46’ 搬送手段、51 亜ヒ酸有無表示、61 スクレーパ、71 ブラストガン、80 サイクロン式分離装置、81 粉末導入口、82 排出口、83 排気口、84 スクラバー、85 気体導入口、86 液体導入口、87 気体排出口、88 デミスター、89 充填剤、90 バグフィルタ、91 気体導入口、92 ろ材、93 ホッパー、94 気体排出口、95
研磨パッド、96 送液ポンプ、97 カラム、98 スズ沈殿槽、99 インジウム沈殿槽、101 ガラスの回収装置、102 搬送装置、103 蛍光X線分析装置、104 偏光板剥離装置、105 ガラス基板分離装置、106 液晶回収装置、107 電極材料除去および金属回収装置、111 圧縮空気供給装置、112 ステージ、113 ファン、114 圧縮空気供給ホース、115 金属含有粉末および研磨剤粒子排出ホース、116 金属含有粉末および研磨剤微粒子排出ホース、117 ガス排出ホース、118 インジウム含有塩酸送液ホース、119 塩酸送液ホース、120 金属分離回収装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃薄型パネルからガラスを回収するための方法であって、
亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、
貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、
分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含む、ガラスの回収方法。
【請求項2】
電極材料除去工程が、分離されたガラス基板表面に研磨剤粒子を吹きつけることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離する工程である、請求項1に記載のガラスの回収方法。
【請求項3】
塩酸を用いて、研磨剤粒子を分離した後の電極材料を含む研磨屑からインジウムを回収する、請求項2に記載のガラスの回収方法。
【請求項4】
さらにイオン交換樹脂を用いてインジウムを回収する、請求項3に記載のガラスの回収方法。
【請求項5】
請求項1に記載されたガラスの回収方法を行うための装置であって、
廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、
亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、
貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、
分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備える、ガラスの回収装置。
【請求項6】
前記電極材料除去装置は、圧縮空気供給装置とサイクロン式分離装置とを備える、請求項5に記載のガラスの回収装置。
【請求項1】
廃薄型パネルからガラスを回収するための方法であって、
亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別する亜ヒ酸含有ガラス基板選別工程と、
貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、
分離されたガラス基板表面に付着した電極材料を除去する電極材料除去工程とを含む、ガラスの回収方法。
【請求項2】
電極材料除去工程が、分離されたガラス基板表面に研磨剤粒子を吹きつけることによりガラス基板表面に付着した電極材料を研磨屑として除去した後、サイクロン式分離装置を用いて、研磨屑から研磨剤粒子と電極材料とを分離する工程である、請求項1に記載のガラスの回収方法。
【請求項3】
塩酸を用いて、研磨剤粒子を分離した後の電極材料を含む研磨屑からインジウムを回収する、請求項2に記載のガラスの回収方法。
【請求項4】
さらにイオン交換樹脂を用いてインジウムを回収する、請求項3に記載のガラスの回収方法。
【請求項5】
請求項1に記載されたガラスの回収方法を行うための装置であって、
廃薄型パネルを搬送するための搬送装置と、
亜ヒ酸を含有するガラス基板を選別するための蛍光X線分析装置と、
貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するためのガラス基板分離装置と、
分離されたガラス基板表面の電極材料を除去するための電極材料除去装置とを備える、ガラスの回収装置。
【請求項6】
前記電極材料除去装置は、圧縮空気供給装置とサイクロン式分離装置とを備える、請求項5に記載のガラスの回収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−56438(P2009−56438A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227952(P2007−227952)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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