説明

ガラスライニング機器の補修方法

【課題】
ガラスライニング機器の補修に際して、補修部分の接着性に優れ、長期間の使用に耐えられること、また、ガラスライニング層の欠損などにより母材が減肉されてしまった部分の補修の際に、母材の機械的強度を回復させ、かつ補修時に母材の減肉部分周辺にあるガラスライニング層に亀裂を生じさせない補修方法を提供することである。
【解決手段】
ガラスライニング機器のガラス欠損またはガラスが欠損したことにより母材が減肉してしまった部分の補修において、補修部分の近傍に断熱材を設けると共に、断熱材の外周部分のガラスライニングの表面温度を60℃以下に維持しながら、補修部分に耐腐食性のある金属を溶射または溶接することを特徴とするガラスライニング機器の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性付与または付着(汚れ)防止のためにガラスライニングされた機器の、ガラスライニングの欠損および該欠損が生じたために減肉された母材を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸やアルカリなど腐食性を有する化学物質と接触、または合成ゴムなどの接着性のある化学物質との接触する反応器、貯槽タンク、配管などにおいては、接触面をガラスライニング層とすることにより、腐食防止または付着(汚れ)防止を図っている。
【0003】
しかしながら、ガラスライニングと母材との膨張係数の差、ガラスライニング面の掃除の際に傷を付けてしまうなどにより、ガラスライニング面に亀裂や欠損などが生じる。この亀裂や欠損部分から化学物質が侵入し、耐腐食性を有しない母材を侵食してしまう。これにより、化学物質への金属の混入、機械的強度を保持すべき母材の減肉化が進行し、機器そのものの更新を余儀なくされる。また、亀裂や欠損部分に合成ゴムなどが付着し、汚れとなって、熱伝導性の低下や配管詰まりなどの問題も生じる。
【0004】
このため、ガラスライニングの欠損部分の補修方法として、フッ素系樹脂やエポキシ樹脂による保護層を形成する方法(特開昭63−262481(特許文献1)、特開昭63−265845(特許文献2))、金属化合物や、無機質粉末と光励起触媒からなるゲルゾル補修材を塗布、硬化させる方法(特開平3−274289(特許文献3)、特開平5−9753(特許文献4)、特開平5−117877(特許文献5)、特開平6−87616(特許文献6)、特開平7−48144(特許文献7))、ガラスを融着させる方法(特開平6−264266(特許文献8)、特開2002−69670(特許文献9))、破損部に金属スパッタリングの後、無電解メッキ溶射にて金属層を設ける方法(特開11−12764(特許文献10))などが提案されている。
【0005】
上述の樹脂保護層形成、ゲルゾル補修方法、ガラス融着方法では母材と補修部分の十分な接着力が得られず、時間経過にて補修部分が剥がれ落ちるといった問題がある。金などの貴金属をスパッタリング後、メッキまたは溶射による金属層設置などの補修方法は、反応槽や貯槽タンク内といった現場での作業において、作業性に劣る。また、作業時に破損部分からその周辺部分に亀裂が拡大するといった問題があった。
【0006】
これらの方法は破損または欠損したガラスライニング層に関する補修方法であり、母材が減肉している部分にも対応可能である。しかしながら、母材が減肉したことによる機械的強度の低下の回復までは行うことが出来ないという問題があった。そして、母材の減肉部を補修する方法として、金属溶射または溶接を行うことが考えられるが、減肉部周囲の正常なガラスライニング層の部分が溶射または溶接の際に発生する熱により、破損してしまうという問題がある。前述の問題から金属溶射または溶接時の温度を低く行うことで、ガラスライニング層の破損を抑えることが可能であるが、溶射または溶接部に低温割れが発生し、母材の機械的強度が十分に回復できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−262481号公報
【0008】
【特許文献2】特開昭63−265845号公報
【0009】
【特許文献3】特開平3−274289号公報
【0010】
【特許文献4】特開平5−9753号公報
【0011】
【特許文献5】特開平5−117877号公報
【0012】
【特許文献6】特開平6−87616号公報
【0013】
【特許文献7】特開平7−48144号公報
【0014】
【特許文献8】特開平6−264266号公報
【0015】
【特許文献9】特開2002−69670号公報
【0016】
【特許文献10】特開11−12764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ガラスライニング機器のガラスライニング層の補修に際して、補修部分の接着性に優れていること、また、ガラスライニング層の欠損などにより母材が減肉されてしまった部分の補修の際に、母材の機械的強度を回復させ、かつ補修時に母材の減肉部分周辺にあるガラスライニング層に亀裂を生じさせない補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、周囲のガラスライニング層を可能な限り破損させることなく、また母材が減肉してしまった部分の機械的強度を回復させつつ、母材との接着性に優れたガラスライニング層の補修を行うための方法を鋭意研究した結果、ガラスライニング破損部周辺に断熱材を設けると共に、断熱材の外周辺部のガラスライニング層の温度を管理しながら、該破損部分に耐腐食性に優れる金属を溶射または溶接することにより、該破損部周辺のガラスライニングに新たな破損を生じさせることなく、補修する方法を見出し、本発明に到達した。
【0019】
即ち、本発明は、ガラスライニング機器のガラスライニングの欠損部分の補修において、補修部分の周辺に断熱材を設けると共に、断熱材の外周辺部のガラスライニングの温度を60℃以下に維持しながら、該補修部分に耐腐食性のある金属を溶射または溶接する補修方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明で規定する補修方法でガラスライニング機器の補修を行うことで、補修部分の接着力に優れるだけでなく、長期間の使用に耐えることが出来、さらに母材が減肉してしまった場合でも機械的強度を回復することが可能であり、補修時に破損部分周辺のガラスライニングの亀裂拡大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】試験板の補修前の断面図である。
【図2】試験板の補修中の断面図である。
【図3】試験板の補修後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳しく説明する
本発明で対象とするガラスライニング機器とは、耐腐食性に劣る、もしくは合成ゴムなどの接着性のある化学物質と接触する可能性のある、母材表面上にガラスを融着させている反応槽や配管、貯槽タンクなどである。そのガラスライニングの厚みは機器本体の大きさ、用途などによって異なるが、概ね1.0〜3.0mmでガラス粒子の塗布と焼成の繰り返しの作業にて形成される。
【0023】
本発明では、補修対象部分を金属溶射または溶接する時に発生する熱を、補修対象部分近傍以外のガラスに伝えない、または熱伝導を遮断するために、断熱材を設置する。断熱材は金属溶射または溶接による熱を補修外周辺部へ伝わらないよう遮断または低減する機能を有するものである。具体的な断熱材としては、二酸化ケイ素を主成分とする物質である。例えば、二酸化ケイ素を主成分に有機、無機物を配合・混練した物質である。その形態(液状、粉末、クリーム状など)に何ら制限はないが、補修対象部分の近傍に塗布するため、クリーム状が最適である。補修対象部分の近傍とはガラスライニングの破損部と非破損部の境目のことを意味する。
【0024】
使用される断熱材の量は、補修対象部分の大きさ、溶射・溶接作業の時間、断熱材を設置した外周辺の管理すべき温度により、適宜調節することが出来る。
【0025】
本発明の補修方法においては、補修対象部分の近傍に断熱材を塗布し、その断熱材の外周部分のガラスライニングの表面温度を60℃以下となるように制御することが重要である。ガラスライニングの表面温度を60℃以下に制御する方法としては、断熱材を設ける場所、量並びに溶射または溶接時間の調整などが挙げられる。好ましくは55℃以下であり、より好ましくは50℃以下にすることである。ガラスライニング表面の温度は、公知の温度測定装置で測定、管理することが出来る。また、ガラスライニングの表面温度を測定する箇所は断熱材の外側部分から5cm以内であること必要であるが、ガラスライニングへ出来るだけ熱が加わらない方がよいことを考えると、2cm以内であることがより好ましい。
【0026】
ガラスライニングの欠損により母材が薬品により侵され、減肉している部分は少なくとも元の肉厚まで回復させるべく、耐腐食性のある金属を溶射または溶接による肉盛りを行うことで、ガラスライニング機器自身の強度を回復させることが出来る。ガラスライニングに亀裂などが生じ、母材である金属の減肉まで至っていない箇所でも、そのまま放置しているといずれは亀裂に沿って腐食性物質が母材を侵食し、減肉を起こすのでガラスライニングを剥ぎ取り、母材を露出させた後、耐腐食性のある金属を溶射または溶接することで母材が減肉することを予防することができる。耐腐食性のある金属としてはステンレス鋼が挙げられる。
【0027】
耐腐食性のある金属の溶射または溶接方法としては、従来より公知の溶射、溶接方法を適用することが出来る。
【0028】
肉盛りによる補修を行った場合でも、ガラスライニングと肉盛り部分には若干の隙間が生じる。このような隙間を無くすための方法として、公知の樹脂などを用いた補修が挙げられる。前記の補修を行うことで、ガラスライニングと補修部分の隙間が無くなり、反応槽などがより長期間の使用に耐えられるようになる。
【0029】
以下、本発明であるガラスライニング機器の補修方法に関して、図面に沿って説明する。
【実施例】
【0030】
材質がSB490B(JIS規格)である平板の母材1に、公知のガラスライニング処理を施して試験板を作製した(母材1の厚み30mm、ガラスライニング2の厚み2mm)。試験板のガラスライニング2を一部剥ぎ取り、母材1を削ることで直径60mm×深さ7mmの母材減肉部4を作製した(図1)。耐腐食性のある金属5を溶接する前に、ガラスライニング2を保護する断熱材6として、二酸化ケイ素を主成分としたクリーム状物質(商品名クールミット、アウス株式会社製)を用いた。断熱材6をガラスライニング破損部3の近傍に幅40mm、高さ20mmとなるように盛り付けを行った。
【0031】
断熱材6を盛り付け後、耐腐食性のある金属5(溶接棒)としてCr23%、Ni14%のステンレス鋼(商品名TGS−309、株式会社神戸製鋼所製)を用い、公知のTIG溶接法にて母材減肉部4に、ガラスライニング2の高さと同じくらいの高さになるまで溶接を行った(図2)。ただし、溶接を行う際には断熱材6の外側部分である、温度測定箇所7(断熱材外周部から2cm離れた場所)のガラスライニング2の表面温度が60℃を上回ることがないように、非接触式の温度計で監視を行った。
【0032】
溶接後、溶接部分の上面の研磨を行い、平滑な面を作成した。ガラスライニング2と溶接部分との間にある空間8は公知の補修剤9を用いて空間を無くすことで、より耐腐食性を高くした補修を行うことができる。本実施例では補修剤9としてセラミック、金属、カーボンなどの粉末と高分子樹脂を特殊配合したペースト(商品名スーパーメタル、ベルゾナ社製)を用いて空間8を埋める補修を行った(図3)。このような補修を行うことで補修部分と補修周辺部分が均一な面となり、両者の空間8もなくなったので、より長期間の使用に耐えることができるようになる。
【0033】
溶射後、超音波探傷器(オリンパス(株)社製 商品名EPOCHIV)を用い、溶射部分に欠陥がないか確認したが、強度に問題となるような傷は見られなかった。
【0034】
なお、上記実施例においては、ガラスライニング機器の母材が減肉してしまった場合について述べているが、母材が露出していない程度のガラスライニングの破損についても、今後母材が侵される可能性が高いため、破損部のガラスライニングを剥ぎ取り、露出した母材部分に、本発明の方法で補修を行うことも効果的である。
【比較例】
【0035】
母材減肉部を溶射する際に、断熱材を用いない以外は実施例と同様の方法で補修を行った。その結果、溶射の際に発生した熱により、補修部周辺のガラスライニングが破損してしまったため、本発明の目的を達成することが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明を用いた補修を行うことで、補修部分の接着力に優れるだけでなく、母材が減肉してしまった場合でも機械的強度を回復することが可能であり、さらに、補修時に破損部分周辺のガラスライニングの亀裂拡大を防止することができる。その結果、本発明の方法で補修を行ったガラスライニング機器は補修後でも長期間の使用に耐えることができる。
【符号の説明】
【0037】
1:試験板の母材
2:ガラスライニング
3:ガラスライニングが破損または欠損した部分
4:ガラスライニングの欠損により、母材が減肉してしまった部分
5:耐腐食性に優れる金属
6:断熱材
7:温度測定箇所
8:ガラスライニングと溶接部分との間にある空間
9:補修剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスライニング機器のガラス欠損およびガラスが欠損したことにより母材が減肉してしまった部分の補修において、補修部分の近傍に断熱材を設けると共に、断熱材の外周部分のガラスライニングの表面温度を60℃以下に維持しながら、補修部分に耐腐食性のある金属を溶射または溶接することを特徴とするガラスライニング機器の補修方法。
【請求項2】
断熱材が二酸化ケイ素を主成分とするクリーム状物質である、請求項1に記載のガラスライニング機器の補修方法。
【請求項3】
ガラスライニング機器を構成する母材が中炭素鋼であり、耐腐食性のある金属がステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガラスライニング機器の補修方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132574(P2011−132574A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293907(P2009−293907)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】