説明

ガラス板切断方法およびガラス板切断装置

【課題】ガラス板の切断部に形状不良を生じさせることなく、ガラス板を溶断により切断する。
【解決手段】ガラス基板Gの切断部Cにアシストガスを噴射しながら、切断部CにレーザビームLBを照射し、切断部Cを境界としてガラス基板Gを製品部Gaと非製品部Gbとに溶断分離するガラス板切断装置であって、ガラス基板Gの上方空間において、切断部Cの上方位置から切断部Cに向かって真下にセンターアシストガスA2を噴射するセンターアシストガス噴射ノズル5と、センターアシストガスA2よりも強い噴射圧で、製品部Gaとなる側の上方位置から切断部Cに向かって斜め下方にサイドアシストガスA1を噴射するサイドアシストガス噴射ノズル4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板を溶断する切断技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板を切断する方法としては、ガラス板の表面にダイヤモンドカッタなどでスクライブ線を形成した後、そのスクライブ線に曲げ応力を作用させて割断する方法(曲げ応力による割断)が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、上記の曲げ応力を利用した切断方法の場合、切断面にクラックが形成され易く、そのクラックを起点としてガラス板が破損するという問題が生じるおそれがあった。そこで、上記の曲げ応力を利用した切断方法に代えて、レーザビームをガラス板の切断部に照射し、その照射熱によって切断部を溶融して切断する、いわゆる溶断が採用される場合もある。
【0004】
この種の溶断による切断方法では、切断部の真上から略鉛直下方に向かってレーザビームと共に噴射されるセンターアシストガスによって、レーザの照射熱で切断部に生じる溶融物を吹き飛ばしながら、ガラス基板の切断(溶断)を行うのが通例とされている。
【0005】
この場合、センターアシストガスにより飛散させた溶融物が、ドロスと称される異物となってガラス板に付着することがあり、ガラス板の製品価値を低下させる要因となっている。そこで、溶断による切断方法においては、このような異物の付着を防止する対策が種々講じられている。
【0006】
例えば、特許文献1は、ガラス板の切断に関するものではないが、セラミックスや金属の溶断時に生じるドロスの付着を防止するために、次のような切断方法を開示している。すなわち、同文献には、被加工物の切断部の真上に配置された加工ノズルから略鉛直下方に向かってアシストガス(上記のセンターアシストガスに相当)を噴射すると共に、被加工物の切断部の表裏両面に対して、補助ノズルからアシストガスとは異なったガスを、被加工物の製品となる側からそれぞれ吹き付けると共に、被加工物の切断部の真下において吸引ノズルで吸引を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−141764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガラス板を溶断する場合、レーザビームの照射熱でガラス板の切断部を溶融させるため、ガラス板の切断部近傍は軟化状態となる。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、加工ノズルから噴射されるアシストガスの噴射圧を、補助ノズルから噴射されるガスの噴射圧よりも大きく設定しているため、仮にガラス板Gの切断に適用した場合には次のような問題が生じ得る。
【0010】
すなわち、加工ノズルから噴射されるアシストガスの噴射圧が大き過ぎると、その噴射圧によって溶融状態のガラス板の切断部近傍が下方に強く押圧されてしまう。その結果、図12に示すように、溶融状態にあるガラス板Gの切断部C近傍が垂れ下がって、切断部C(厳密には製品部Gaの切断端面Ga1及び非製品部Gbの切断端面Gb1の近傍)に形状不良が生じ得る。
【0011】
ガラス板の場合、このように切断部に形状不良が生じると、製品品位の低下を招くばかりでなく、破損などの大きな問題を招くことになる。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑み、製品となるガラス板の切断端面に形状不良を生じさせることなく、ガラス板を溶断により切断することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために創案された第1の発明は、ガラス板の切断部にアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断方法であって、前記アシストガスは、前記ガラス板の上方空間において、前記切断部の上方位置から前記切断部に向かって真下に噴射されるセンターアシストガスと、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方に噴射されるサイドアシストガスとを含み、前記サイドアシストガスの噴射圧が、前記センターアシストガスの噴射圧よりも強いことに特徴づけられる。
【0014】
このような方法によれば、センターアシストガスの噴射圧が相対的に弱められるので、主としてサイドアシストガスによって、溶断時に生じる切断部の溶融異物(ドロス等)を吹き飛ばすことになる。このサイドアシストガスは、製品部となる側の上方位置から切断部に向かって斜め下方に噴射されることから、センターアシストガスに比べて、溶融状態にあるガラス板の切断部近傍を下方に押圧する力は弱い。そのため、溶融状態にあるガラス板の切断部の垂れ下がりを防止することができる。そして、このように切断部の垂れ下がりを防止した状態で、サイドアシストガスによって切断部に生じる溶融異物は非製品部となる側に優先的に飛散するため、製品部の切断端面に溶融異物が溜まり難くなる。したがって、製品部の切断端面の形状を略円弧状の良好な形状に維持することが可能となる。
【0015】
上記の課題を解決するために創案された第2の発明は、ガラス板の切断部にアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断方法であって、前記アシストガスは、前記ガラス板の上方空間において、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方に噴射されるサイドアシストガスのみを含むことに特徴づけられる。
【0016】
このような方法によれば、ガラス板の上方空間において、第1の発明のように、切断位置の上方位置から切断部に向かって真下に噴射されるセンターアシストガスが存在せず、サイドアシストのみで、溶断時に生じる切断部の異物(ドロス等)を吹き飛ばすことになる。このサイドアシストガスは、製品部となる側の上方位置から切断部に向かって斜め下方に噴射されることから、センターアシストガスに比べて、溶融状態にあるガラス板の切断部近傍を下方に押圧する力は弱い。そのため、溶融状態にあるガラス板の切断部の垂れ下がりを防止することができる。そして、このように切断部の垂れ下がりを防止した状態で、サイドアシストガスによって切断部に生じる異物は非製品部となる側に優先的に飛散するため、製品部の切断端面に異物が溜まり難くなる。したがって、製品部の切断端面の形状を略円弧状の良好な形状に維持することが可能となる。
【0017】
上記の方法において、前記サイドアシストガスが、前記ガラス板の上面に対して25°〜60°の傾斜角をもって噴射されることが好ましい。
【0018】
すなわち、ガラス板の上面に対するサイドアシストガスの傾斜角が25°未満であると、サイドアシストガスがガラス板に浅く入射し過ぎて、切断部にサイドアシストガスを効率よく供給できないという問題が生じるおそれがある。一方、ガラス板の上面に対するサイドアシストガスの傾斜角が60°を超えると、サイドアシストガスがガラス板に深く入射し過ぎて、切断部近傍を下方に押圧する力が大きくなるおそれがある。したがって、サイドアシストガスの傾斜角は上記数値範囲内であることが好ましく、この範囲であれば、サイドアシストガスを切断部に効率よく供給しつつ、サイドアシストガスが切断部近傍を下方に押圧する力を適切に抑えることができる。
【0019】
上記の方法において、前記アシストガスは、前記ガラス板の下方空間において、前記製品部となる側の下方位置から前記切断部に向かって斜め上方に噴射される補助サイドアシストガスを含むことが好ましい。
【0020】
このようにすれば、ガラス板の下方からも切断部に生じた異物を、非製品部となる側に効率よく吹き飛ばすことが可能となる。また、ガラス板の下面にサイドアシストガスが作用することから、ガラス板の切断部近傍を下方から支持する効果も期待でき、切断部近傍の垂れ下がり防止に寄与するものと考えられる。
【0021】
上記の方法において、前記レーザビームを、前記ガラス板に対してデフォーカスで照射してもよい。
【0022】
このようにすれば、レーザビームのエネルギー密度が、切断部に対応する位置で小さくなることから、照射位置周辺におけるエネルギーの変化量も小さくなる。そのため、ガラス板の反りや振動などによって、照射位置が多少変動したとしても、切断部に加わる照射熱が変化し難く、ほぼ同条件で溶断を実行することが可能となる。
【0023】
上記の課題を解決するために創案された第3の発明は、ガラス板の切断部にアシストガス噴射手段からアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビーム照射手段からレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断装置であって、前記アシストガス噴射手段が、前記ガラス板の上方空間において、前記切断部の上方位置から前記切断部に向かって真下にセンターアシストガスを噴射するセンターアシストガス噴射手段と、前記センターアシストガスよりも強い噴射圧で、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方にサイドアシストガスを噴射するサイドアシストガス噴射手段とを有することに特徴づけられる。
【0024】
このような構成によれば、既に述べた第1の発明と同様の作用効果を享受することができる。
【0025】
上記の課題を解決するために創案された第4の発明は、ガラス板の切断部にアシストガス噴射手段からアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビーム照射手段からレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断装置であって、前記アシストガス噴射手段は、前記ガラス板の上方空間において、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方にサイドアシストガスを噴射するサイドアシストガス噴射手段のみを有することに特徴づけられる。
【0026】
このような構成によれば、既に述べた第2の発明と同様の作用効果を享受することができる。
【0027】
上記の構成において、前記アシストガス噴射手段は、前記ガラス板の下方空間において、前記製品部となる側の下方位置から前記切断部に向かって斜め上方に補助サイドアシストガスを噴射する補助サイドアシストガス噴射手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のような第1〜4の発明によれば、溶融状態にある切断部近傍が噴射されるガスによって下方に押圧される力を抑えることができるので、ガラス板の製品部の切断端面に形状不良を生じさせることなく、ガラス板を溶断により切断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断側面である。
【図2】第1実施形態に係るガラス板切断装置を示す平面図である。
【図3】図2のX−X断面図である。
【図4】第1実施形態に係るガラス板切断装置で溶断された直後のガラス基板の状態を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断面図である。
【図9】第5実施形態に係るガラス板切断装置の第2吸引ノズルを示す斜視図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るガラス板切断装置を示す縦断面図である。
【図11】本発明の溶断対象となるガラス板の他の一例を示す図である。
【図12】従来の溶断による切断方法をガラス板に適用した場合に生じる問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下では、ガラス板は、厚み500μm以下のフラットパネルディスプレイ用のガラス基板とするが、勿論これに限定されるものではない。例えば、太陽電池用、有機EL照明用、タッチパネル用、デジタルサイネージ用等、種々の分野に利用される薄板ガラス基板や、その有機樹脂との積層体などに適用が可能である。なお、薄板ガラスの厚みは、300μm以下であることが好ましい。
【0031】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るガラス板切断装置1は、平置き姿勢のガラス基板Gを下方から支持する支持ステージ2と、この支持ステージ2に支持されたガラス基板Gを溶断分離するレーザビーム照射器3とを備えている。
【0032】
支持ステージ2は、ステージ本体21と、ステージ本体21の上面に沿って移動するコンベア22とを備えている。ガラス基板Gは、コンベア22の移動により切断予定線CLに沿った搬送方向下流側(図中の矢印A方向)に搬送される。このとき、ステージ本体21は、コンベア22をガイドする役割を果たす。なお、コンベア22には図示しない多数の通気孔が形成されており、この通気孔を介してガラス基板Gをコンベア22上に吸着保持しながら搬送するようになっている。勿論、ガラス基板Gを吸着せずに、コンベアによってガラス基板Gの幅方向端部を表裏両側から挟持して搬送するなど、他の搬送方法を採用してもよい。
【0033】
ステージ本体21及びコンベア22は、図2に示すように、ガラス基板Gの幅方向に間隔を置いて2つに分離されており、ガラス基板Gの切断予定線CLの下方位置に非支持空間Sを有している。この非支持空間Sでは、ガラス基板Gの下面と支持ステージ2が接触しておらず、ガラス基板Gの下面が非支持空間Sに対して露出している。
【0034】
レーザビーム照射器3は、図3に示すように、レーザビームLBを伝搬させる内部空間を有し、この空間内にレンズ31を備えている。この実施形態では、レンズ31で集光されたレーザビームLBは、微焦点に集光してガラス基板Gの上面に焦点位置FPを合わせた状態で、切断部(レーザビームLBを照射して溶断を行なっている部分)Cに照射される。そして、このレーザビームLBの照射熱によって切断予定線CLに沿ってガラス基板Gを溶断し、製品となる製品部Gaと、廃棄等され製品とならない非製品部Gbとに分離する。なお、レーザビームLBの焦点位置FPは、ガラス基板Gの厚み方向中間位置であってもよい。また、レーザビームLBの焦点位置FPをガラス基板Gの上方に設定し、レーザビームLBをデフォーカスした状態で切断部Cに照射するようにしてもよい。
【0035】
更に、ガラス板切断装置1は、製品部Gaとなる側の上方位置から切断部Cに向かって斜め下方にサイドアシストガスA1を噴射するサイドアシストガス噴射ノズル4を備えている。このサイドアシストガスA1は、ドロスなどの溶融異物を非製品部Gb側へ吹き飛ばす役割を果たす。
【0036】
以上のように構成されたガラス板切断装置1の動作を説明する。
【0037】
図1及び図2に示すように、支持ステージ2のコンベア22によってガラス基板Gを搬送し、搬送経路上に静止状態で配置されたレーザビーム照射器3から照射されるレーザビームLBをガラス基板Gの切断予定線CLに沿って走査する。
【0038】
そして、このようにレーザビームLBを照射しながら、図3に示すように、ガラス基板Gの製品部Gaとなる側の上方位置に配置されたサイドアシストガス噴射ノズル4からガラス基板Gの切断予定線CL上に位置する切断部Cに向かって斜め下方にサイドアシストガスA1を噴射する。これにより、切断部Cから溶融異物が除去され、溶断が効率的に行なわれる。また、溶融異物が非製品部Gb側へ吹き飛ばされるので、製品部Gaに溶融異物が付着する事態を防止することができる。ここで、「溶融異物」は、ガラス基板Gの溶断時に発生するドロス等の異物を意味し、溶融状態にあるもの、固化状態にあるものの双方を含む。
【0039】
また、ガラス基板Gの上方空間において、ガラス基板Gに対してガスを噴射する手段は、サイドアシストガス噴射ノズル4のみである。そして、このサイドアシストガス噴射ノズル4は、ガラス基板Gの切断部Cに対してサイドアシストガスA1を斜めに噴射するので、ガラス基板Gの切断部Cに対して真上から略鉛直に噴射する場合(例えば、センターアシストガスを噴射する場合)に比べて、溶融状態にある切断部C近傍を下方に押圧する力は作用し難い。そのため、溶融状態にあるガラス基板Gの切断部C近傍の下方への垂れ下がりを防止することができる。そして、このように切断部Cの垂れ下がりを防止した状態で、サイドアシストガスA1によって切断部Cに生じる溶融異物は非製品部Gbとなる側に優先的に飛散するため、製品部Gaの切断端面Ga1に溶融異物が溜まり難くなる。したがって、図4に示すように、製品部Gaの切断端面Ga1の形状を略円弧状の良好な形状に維持することが可能となる。付言すれば、製品部Gaの切断端面Ga1は、火造り面で構成される。また、製品部Gaの切断端面Ga1の算術平均粗さRaは、例えば、0.3μm以下で、且つ、その粗さ曲線要素の平均長さRSmは、例えば、150μm以上となる。ここで、Raの下限値およびRSmの上限値について説明するならば、Raは限りなく零に近いことが望ましく、RSmは限りなく無限大に近いことが望ましい。しかしながら、実用上は加工設備等による限界があるため、Raの下限値やRSmの上限値を規定する意義は乏しい。そのため、上記では、Raの下限値とRSmの上限値を設けていない。なお、Ra及びRSmは、JIS 2001に基づくものとする。さらに、製品部Gaの切断端面Ga1の圧縮応力は、例えば、20MPa〜500MPaとなる。なお、非製品部Gbの切断端面Gb1には、サイドアシストガスA1によって吹き飛ばされた溶融異物(ドロスなど)が付着し、切断端面Gb1の形状が、略円弧状から逸脱する場合もある。
【0040】
更に、上記のようにガラス基板Gを溶断すれば、ガラス基板Gの切断部Cの一部が溶融除去され、製品部Gaの切断端面Ga1と、非製品部Gbの切断端面Gb1との間には隙間が形成される。そのため、この隙間の分だけ製品部Gaの切断端面Ga1と、非製品部Gbの切断端面Gb1とが離間しているので、切断端面Ga1,Gb1同士が接触して破損する事態を防止しつつ、製品部Gaと非製品部Gbとを円滑に分離できる。
【0041】
詳細には、図4に示すように、ガラス基板Gの厚みをaとし、溶断後における製品部Gaの切断端面Ga1と非製品部Gbの切断端面Gb1との間の最小隙間をbとした場合に、0.1≦b/a≦2なる関係を満足する最小隙間bを溶断により形成する。このようにすれば、製品部Gaの切断端面Ga1が、非製品部Gbと切断端面Gb1に接触して破損するという事態を確実に防止することができる。ここで、最小隙間bの大きさを調整する方法としては、(1)レーザビームLBの出力パワーを変更する、(2)ガラス基板Gに対するスポット径の大きさを変更する、(3)ガラス基板Gの表面(上面)に対するサイドアシストガスA1の仮想中心線L1の傾斜角α1(図3を参照)を変更する、(4)サイドアシストガスA1などのガラス基板Gに供給されるガスの噴射圧を変更する、(5)レーザビームのパルス幅やパターンを変更する、などの溶断条件の変更が挙がられる。
【0042】
レーザビームLB及びサイドアシストガスA1の諸条件は、以下の通りである。なお、レーザビームLB及びサイドアシストガスA1の諸条件は、勿論、これに限定されるものではない。
【0043】
レーザビームLBのスポット径は、図4の最小隙間bよりも小さく設定される。
【0044】
レーザビームLBの照射エネルギーは、ガラス基板Gの上面において、100〜100000[W/mm2]に設定される。
【0045】
サイドアシストガスA1の噴射圧は、0.01〜0.5[MPa]に設定される。
【0046】
サイドアシストガスA1の傾斜角α1は、25°〜60°、好ましくは30°〜50°、より好ましくは35°〜45°に設定される。なお、製品部Gaへの溶融異物の付着を防止する観点からは、サイドアシストガスA1の傾斜角α1は、15°〜45°に設定されることが好ましい。したがって、製品部Gaの切断端面Ga1の形状と製品部Gaへの溶融異物の付着とを考慮した場合には、サイドアシストガスA1の傾斜角α1は、25°〜45°に設定されることが好ましい。
【0047】
サイドアシストガスA1の指向方向は、切断部C近傍であればよい。例えば、図示例では、サイドアシストガスA1の仮想中心線L1が、切断部Cと交差するようにしているが、仮想中心線L1が、切断部Cよりも製品部Gaとなる側でガラス基板Gの上面や下面と交差するようにしてもよい。
【0048】
サイドアシストガスA1としては、例えば、酸素(又は空気)や、水蒸気・二酸化炭素・窒素・アルゴンなどの不活性ガスが用いられ、適所でこれらのガスを混合してもよい。また、サイドアシストガスA1は、熱風として噴射してもよい。
【0049】
(第2実施形態)
図5に示すように、本発明の第2実施形態に係るガラス板切断装置1は、第1実施形態に係るガラス板切断装置1の構成に、更に、センターアシストガス噴射ノズル5を付加したものである。以下、共通点についての説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0050】
センターアシストガス噴射ノズル5は、レーザビーム照射器3の先端部に接続されており、レーザビーム照射器3の内部空間(レンズ31よりも下方の空間)にセンターアシストガスA2を供給する。レーザビーム照射器3の内部空間に供給されたセンターアシストガスA2は、レーザビーム照射器3の先端からガラス基板Gの切断部Cに向かって真下に噴射される。すなわち、レーザビーム照射器3の先端からは、レーザビームLBが出射されると共に、センターアシストガスA2が噴射される。センターアシストガスA2は、ガラス基板Gを溶断する際に生じる溶融異物をガラス基板Gの切断部Cから除去する役割と、その溶融異物からレーザビーム照射器3のレンズ31等の光学部品を保護する役割、更には、レンズの熱を冷却する役割を果たす。
【0051】
そして、サイドアシストガスA1の噴射圧をP1、センターアシストガスA2の噴射圧をP2とした場合に、P2/P1は0〜2に設定される。詳細には、例えば、センターアシストガスA2の噴射圧は、0〜0.02[MPa]に設定され、サイドアシストガスA1の噴射圧は、0.01〜0.5[MPa]に設定される。そして、好ましくは、サイドアシストガスA1の噴射圧が、センターアシストガスA2の噴射圧よりも大きく設定される。例えば、P2/P1は、0.1〜0.5に設定される。この場合、センターアシストガスA2の噴射圧は、レーザビーム照射器3のレンズ31等の光学部品を溶融異物から保護できる程度の圧力に設定することが好ましい。
【0052】
このようにすれば、センターアシストガスA2の噴射圧が相対的に弱められることから、主として、サイドアシストガスA1によって切断部Cに生じる溶融異物を吹き飛ばすことになる。このサイドアシストガスA1は、製品部Gaとなる側の上方位置から切断部Cに向かって斜め下方に噴射されることから、センターアシストガスA2に比べて、溶融状態にあるガラス基板Gの切断部C近傍を下方に押圧する力は弱い。したがって、サイドアシストガスA1の噴射圧を、センターアシストガスA2の噴射圧よりも大きくすることで、溶融状態にあるガラス板Gの切断部Cの垂れ下がりを防止することができる。そして、このように切断部Cの垂れ下がりを防止した状態で、サイドアシストガスA1によって切断部Cに生じる溶融異物は非製品部Gbとなる側に優先的に飛散するため、製品部Gaの切断端面Ga1に溶融異物が溜まり難くなる。したがって、図4に示した場合と同様に、製品部Gaの切断端面Ga1の形状を略円弧状の良好な形状に維持することが可能となる。
【0053】
サイドアシストガスA1とセンターアシストガスA2は、同種のガスであってもよいし、異種のガスであってもよい。
【0054】
(第3実施形態)
図6に示すように、本発明の第3実施形態に係るガラス板切断装置1が、第1〜2実施形態に係るガラス板切断装置1と相違するところは、ガラス基板Gの下方空間に、補助サイドアシストガス噴射ノズル6を備えている点にある。以下、共通点についての説明は省略し、相違点についてのみ説明する。なお、図示例では、センターアシストガス噴射ノズル5を設けているが省略してもよい。
【0055】
補助サイドアシストガス噴射ノズル6は、ガラス基板Gの製品部Gaとなる側の下方位置に配置され、切断部Cに向かって斜め上方に補助サイドアシストガスA3を噴射する。
【0056】
更に、この実施形態では、製品部Ga側のステージ本体21の非支持空間Sに面する側面部21aが、上方が下方よりもガラス基板Gの切断部Cに接近するように傾斜したテーパ面をなしている。そして、このテーパ面をなす側面部21aによって、補助サイドアシストガス噴射ノズル6から噴射される補助サイドアシストガスA3を斜め上方に案内し、ガラス基板Gの切断部Cに供給するようになっている。なお、図示例では、非製品部Gb側のステージ本体21の非支持空間Sに面する側面部21aも、上方が下方よりもガラス基板Gの切断部Cに接近するように傾斜したテーパ面をなしている。勿論、製品部Ga側のステージ本体21の側面部21aのみをテーパ面としてもよい。
【0057】
以上のようにすれば、サイドアシストガスA1とサイドアシストガスA3によって、ガラス基板Gの切断部Cに生じた溶融異物を、非製品部Gbとなる側に効率よく吹き飛ばすことが可能となる。また、ガラス基板Gの下面に補助サイドアシストガスA3が作用することから、ガラス基板Gの切断部C近傍を下方から支持する効果も期待でき、切断部C近傍の垂れ下がり防止に寄与するものと考えられる。
【0058】
補助サイドアシストガスA3の噴射圧は、例えば、0.01〜0.5[MPa]に設定される。
【0059】
ガラス基板Gの裏面(下面)に対する補助サイドアシストガスA3の傾斜角α2は、15°〜70°、好ましくは20°〜60°、より好ましくは25°〜45°に設定される。
【0060】
補助サイドアシストガスA3の指向方向は、切断部C近傍であればよい。例えば、図示例では、補助サイドアシストガスA3の仮想中心線L2が、切断部Cと交差するようにしているが、仮想中心線L2が、切断部Cよりも製品部Gaとなる側でガラス基板Gの上面や下面と交差するようにしてもよい。
【0061】
補助サイドアシストガスA3は、サイドアシストガスA1と同種のガスであってもよいし、異種のガスであってもよい。
【0062】
なお、この第3実施形態では、サイドアシストガスA1と補助サイドアシストガスA3は、同時にガラス基板Gの切断部Cに噴射するようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、ガラス基板Gの切断部Cが貫通するまでは、サイドアシストガスA1で切断部Cの溶融異物を吹き飛ばし、ガラス基板Gの切断部Cが貫通した後は、サイドアシストガスA1を止めて、補助サイドアシストガスA3で切断部Cの溶融異物を吹き飛ばすようにしてもよい。
【0063】
(第4実施形態)
図7に示すように、本発明の第4実施形態に係るガラス板切断装置1が、第3実施形態に係るガラス板切断装置1と相違するところは、補助サイドアシストガスA3の供給方法にある。以下、共通点についての説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0064】
第4実施形態では、支持ステージ2のステージ本体21に、斜め上方に向かって延在し、一端が非支持空間Sに連通するガス流通路21bが形成されている。このガス流通路21bの他端には、補助サイドアシストガス噴射ノズル6の噴射口が接続されている。補助サイドアシストガス噴射ノズル6から噴射された補助サイドアシストガスA3を、ガス流通路21bを通じて斜め上方に誘導して非支持空間Sに開放し、ガラス基板Gの切断部Cに供給する。
【0065】
(第5実施形態)
図8に示すように、本発明の第5実施形態に係るガラス板切断装置1が、第3実施形態に係るガラス板切断装置1と相違するところは、溶断過程で生じる溶融異物を吸引する構成を備えている点にある。以下、共通点についての説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0066】
すなわち、非製品部Gbとなる側の上方位置に配置された第1吸引ノズル7と、非製品部Gbとなる側の下方位置に配置された第2吸引ノズル8とを備えている。
【0067】
第1吸引ノズル7は、その仮想中心線L3を切断部Cに指向させた状態で、サイドアシストガス噴射ノズル4と向かい合うように配置され、ガラス基板Gの上方空間の溶融異物を吸引する。ガラス基板Gの表面(上面)に対する第1吸引ノズル7の仮想中心線L3の傾斜角β1は、α1±15°以内、好ましくは、α1±10°以内、より好ましくはα1±5°以内の範囲に設定される。
【0068】
一方、第2吸引ノズル8は、その吸引口を上方に指向させた状態で、補助サイドアシストガス噴射ノズル6と向かい合うように配置されており、ガラス基板Gの下方空間、換言すれば、非支持空間Sの溶融異物を吸引する。ここで、第2吸引ノズル8を、切断部Cの真下から非製品部Gb側に偏倚させて配置しているのは、サイドアシストガスA1や補助サイドアシストガスA3によって、溶融異物が非支持空間S内において非製品部Gb側に吹き飛ばされながら下降するからである。
【0069】
そして、第1吸引ノズル7及び第2吸引ノズル8は、サイドアシストガスA1及び補助サイドアシストガスA3によって非製品部Gb側に吹き飛ばされた溶融異物を吸引する。このようにすれば、サイドアシストガスA1及び補助サイドアシストガスA3によって切断部Cから吹き飛ばした溶融異物が、周辺空間に浮遊して再び製品部Gaに付着するという事態を確実に防止することができる。
【0070】
なお、この第5実施形態では、第1吸引ノズル7と第2吸引ノズル8によって、同時に溶融異物を吸引するようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、ガラス基板Gの切断部Cが貫通するまでは、第1吸引ノズル7で溶融異物を吸引し、ガラス基板Gの切断部Cが貫通した後は、第2吸引ノズル8で溶融異物の溶融異物を吸引するようにしてもよい。また、第1吸引ノズル7を省略して、第2吸引ノズル8のみで溶融異物を吸引するようにしてもよい。
【0071】
ここで、ガラス基板Gの下方空間に配置された第2吸引ノズル8は、図9に示すように、ガラス基板Gの切断予定線CL方向に沿って長尺な吸引口81を有する。これは、ガラス基板Gの下方空間において、溶融異物が切断予定線CL方向に沿った広範囲に飛散する傾向があるためである。なお、レーザビーム照射器3等によるスペース上の制約がなければ、ガラス基板Gの上方空間に配置された第1吸引ノズル7も、切断予定線CLの延在方向に沿って長尺な吸引口を有するようにしてもよい。
【0072】
(第6実施形態)
勿論、図10に示すように、第4実施形態に係るガラス板切断装置1(図7を参照)に、第1吸引ノズル7および第2吸引ノズル8を配置してもよい。
【0073】
なお、本発明は、上記第1〜6実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0074】
例えば、ガラス基板Gをオーバーフローダウンドロー法などで成形した場合、図11に示すように、ガラス基板Gの幅方向中央部の厚みよりも、ガラス基板Gの幅方向両端部の厚みが相対的に分厚くなる。そして、幅方向中央部が製品部Gaとされ、幅方向両端部が非製品部(耳部と称される)Gbとされる。したがって、本発明に係る切断方法及び切断装置を、このようなガラス基板Gの非製品部Gbとなる耳部の除去に利用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 ガラス板切断装置
2 支持ステージ
21 ステージ本体
22 コンベア
3 レーザビーム照射器
31 レンズ
4 サイドアシストガス噴射ノズル
5 センターアシストガス噴射ノズル
6 補助サイドアシストガス噴射ノズル
7 第1吸引ノズル
8 第2吸引ノズル
A1 サイドアシストガス
A2 センターアシストガス
A3 補助サイドアシストガス
C 切断部
G ガラス基板
Ga 製品部
Ga1 切断端面
Gb 非製品部
Gb1 切断端面
LB レーザビーム
S 非支持空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の切断部にアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断方法であって、
前記アシストガスは、前記ガラス板の上方空間において、前記切断部の上方位置から前記切断部に向かって真下に噴射されるセンターアシストガスと、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方に噴射されるサイドアシストガスとを含み、
前記サイドアシストガスの噴射圧が、前記センターアシストガスの噴射圧よりも強いことを特徴とするガラス板切断方法。
【請求項2】
ガラス板の切断部にアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断方法であって、
前記アシストガスは、前記ガラス板の上方空間において、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方に噴射されるサイドアシストガスのみを含むことを特徴とするガラス板切断方法。
【請求項3】
前記サイドアシストガスが、前記ガラス板の上面に対して25°〜60°の傾斜角をもって噴射されることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板切断方法。
【請求項4】
前記アシストガスは、前記ガラス板の下方空間において、前記製品部となる側の下方位置から前記切断部に向かって斜め上方に噴射される補助サイドアシストガスを含むことを特徴と請求項1又は2に記載するガラス板切断方法。
【請求項5】
前記レーザビームが、前記ガラス板に対してデフォーカスで照射されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス板切断方法。
【請求項6】
ガラス板の切断部にアシストガス噴射手段からアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビーム照射手段からレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断装置であって、
前記アシストガス噴射手段が、前記ガラス板の上方空間において、前記切断部の上方位置から前記切断部に向かって真下にセンターアシストガスを噴射するセンターアシストガス噴射手段と、前記センターアシストガスよりも強い噴射圧で、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方にサイドアシストガスを噴射するサイドアシストガス噴射手段とを有することを特徴とするガラス板切断装置。
【請求項7】
ガラス板の切断部にアシストガス噴射手段からアシストガスを噴射しながら、前記切断部に向かってレーザビーム照射手段からレーザビームを照射し、前記切断部を境界として前記ガラス板を製品部と非製品部とに溶断分離するガラス板切断装置であって、
前記アシストガス噴射手段は、前記ガラス板の上方空間において、前記製品部となる側の上方位置から前記切断部に向かって斜め下方にサイドアシストガスを噴射するサイドアシストガス噴射手段のみを有することを特徴とするガラス板切断装置。
【請求項8】
前記アシストガス噴射手段は、前記ガラス板の下方空間において、前記製品部となる側の下方位置から前記切断部に向かって斜め上方に補助サイドアシストガスを噴射する補助サイドアシストガス噴射手段を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のガラス板切断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−63863(P2013−63863A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202141(P2011−202141)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】