説明

キノン化合物を含む有機半導体

【課題】湿式成膜法での薄膜の作製に適した有機半導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(QU−1)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体。


(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R6及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造をもつπ平面拡張型キノン化合物を含む有機半導体およびその製造方法に関する。また、本発明は、前記有機半導体を含む有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタ、及び有機電界発光素子に関する。また、本発明は、特定の構造をもつπ平面拡張型キノン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタスな情報社会を迎え、いつでもどこでも使用できる情報端末が求められている。そのため、フレキシブル、軽量で安価な電子素子が望まれているが、従来のシリコンのような無機材料を用いる電子素子では、これらの要望に十分に対応できていない。そこで、近年、これらの要望に対応可能な有機材料を半導体等として用いた電子素子の研究が活発になされている。p型有機半導体は、乾式成膜法で薄膜の作製が可能なペンタセンや湿式成膜法で薄膜の作製が可能なP3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))などが知られている。
【0003】
また、大気中での劣化の少ないなど優れた特性を示すn型有機半導体化合物ヘキサデカフルオロ銅フタロシアニン(F16CuPc)が知られているが、溶媒への溶解度が低く湿式成膜法での薄膜(本発明では、数nm〜数mm程度の厚さで、好ましくは数十nm〜数μm程度の厚さの膜をいう。)の作製には適さないという問題があった(例えば、非特許文献1又は2を参照。)。
【0004】
また、従来、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(以後、TCNQと略する)およびそれらの誘導体が知られている(例えば、非特許文献3又は4を参照。)。これらの化合物は、有機導電体や有機半導体としての特性を示すことが良く知られており、特に、TCNQは大気下で動作するN型有機半導体としての希少な例の1つである。
【0005】
下記化学式(#1)にTCNQの構造式を示すが、TCNQおよびその誘導体は下記化学式(#2)に示されるテトラシアノキノジメタン骨格を有しており、この骨格がTCNQおよびその誘導体の有機半導体としての特性をもたらしている。
【0006】
【化1】

【0007】
しかしながら、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンの蒸着膜は、キャリア移動度が低いため有機半導体としての特性が悪い上に塗布膜の半導体動作例も知られておらず、実用に耐える有機半導体材料では無いことも周知の事実である(例えば非特許文献5を参照)。
【0008】
また、溶液塗布法により有機半導体薄膜を作成する上での一般的な課題として、材料の結晶性の高さに加えて基板または下地層の上での溶液のハジキが伴う場合、薄膜状の有機膜が生成せず、均質な有機半導体薄膜が得られない問題点があった。
したがって、湿式法(塗布法など)での薄膜の作製により電子素子を製造することができる、n型有機半導体材料および均質な塗布膜作成法の開発が求められている。
【0009】
【非特許文献1】工藤一浩 監修「有機トランジスタの動作性向上技術〔材料開発 作製法 素子設計〕」技術情報協会(2003年刊)p.48〜49
【非特許文献2】「ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)」,Vol.16,p.4436−4451(2004)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,(1962),Vol.84,p.3370.
【非特許文献4】J.Org.Chem.,(1975),Vol.40,p.3101.
【非特許文献5】Synth.Met.,(1994),Vol.66,p.257.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、湿式成膜法での薄膜の作製に適した有機半導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
(1)下記一般式(QU−1)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R6及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
(2)前記一般式(QU−1)で表される化合物が下記一般式(QU−2)で表される化合物である、上記(1)項に記載の有機半導体。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R4及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
(3)下記一般式(QU−1’)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体。
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R2〜R7及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y5は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機半導体を含む電子素子。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機半導体を含む有機電界効果トランジスタ。
(6)大気中で動作する、上記(5)項に記載の有機電界効果トランジスタ。
(7)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機半導体を含む有機電界発光素子。
(8)大気中で動作する、上記(7)項に記載の有機電界発光素子。
(9)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機半導体を含む有機光電変換素子。
(10)大気中で動作する、上記(9)項に記載の有機光電変換素子。
(11)下記一般式(QU−3)で表される化合物の少なくとも一種を含む電子素子。
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
(12)下記一般式(QU−3)で表される化合物を含有する塗布液を塗布して有機半導体薄膜を製造する方法。
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
(13)下記一般式(M−1)で表される化合物が形成する薄膜を有する基板上に、前記塗布液を塗布することを特徴とする(12)項に記載の方法。
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、Arは置換または無置換の芳香族基を表し、MはSi(R201)(R202)(R203)を表す。R201〜R203はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。)
(14)下記一般式(SQ−1)で表される化合物。
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。また、Y11及びY12はそれぞれ独立して複素環である。)
(15)下記一般式(SQ−2a)又は(SQ−2b)で表される化合物。
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4及びR11〜R14はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
(16)下記一般式(SQ−3a)又は(SQ−3b)で表される化合物。
【0028】
【化10】

【0029】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
(17)上記(14)〜(16)のいずれか1項に記載の化合物を含む組成物。
(18)カルボニル化合物を含む液に対して、ルイス酸を溶媒で希釈した液を添加することを特徴とする、下記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造方法。
【0030】
【化11】

【0031】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。また、Y11及びY12はそれぞれ独立して複素環である。)
(19)前記一般式(SQ−1)で表される化合物が下記一般式(SQ−2a)又は(SQ−2b)で表される化合物である、上記(18)項に記載の製造方法。
【0032】
【化12】

【0033】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4及びR11〜R14はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
(20)前記一般式(SQ−1)で表される化合物が下記一般式(SQ−3a)または(SQ−3b)で表される化合物である、上記(18)項に記載の製造方法。
【0034】
【化13】

【0035】
(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
【発明の効果】
【0036】
本発明の有機半導体は、湿式での薄膜作製(溶液からの薄膜を作製)が可能であり、特にn型有機半導体として好ましい性質を有する。また、本発明の有機半導体は、各種の高性能な電子素子(電界効果トランジスタ(FET),光電変換素子等)に好ましく適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明に用いられるキノン化合物について説明する。
【0038】
【化14】

【0039】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【0040】
本発明において、前記一般式(QU−3)で表される化合物は、下記一般式(QU−1)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(QU−1)で表される化合物は、下記一般式(QU−2)で表される化合物であることが好ましい。
本発明の有機半導体は、下記一般式(QU−1)で表される化合物の少なくとも一種を含む。また、本発明の電子素子は、前記一般式(QU−3)で表される化合物の少なくとも一種を含む。
【0041】
【化15】

【0042】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R6及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【0043】
【化16】

【0044】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R4及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【0045】
前記一般式(QU−1)〜(QU−3)中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、基、または=SiR105106基を表す。好ましくは、=N(R101)基、=CR102103基である。
【0046】
前記一般式(QU−1)〜(QU−3)中、Y1〜Y4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。縮合環の場合、全部で5〜7つの環が縮合していることが好ましい。また、炭化水素環または複素環は、5又は6員環であることが好ましい。
そのような炭化水素環または複素環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、フェナジン環が挙げられる。好ましくは、ベンゼン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環である。
【0047】
本発明において、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)について、R1〜R4、R101〜R106で示される特定の部分を「基」と称した場合には、当該部分はR1〜R4、R101〜R106それ自体が置換されていなくてもよく、また、一種以上の(可能な最多数までの)別のさらに置換基で置換されていても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。つまり、本発明における化合物における置換基は、さらに置換されていてもよい。
【0048】
このようなR1〜R4、R101〜R106で示される置換基をWとすると、Wで示される置換基としては、いかなるものでも良く、特に制限は無いが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む。)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む。)、アルキニル基、アリール基、複素環基(ヘテロ環基といっても良い。)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH)2)、ホスファト基(−OPO(OH)2)、スルファト基(−OSO3H)、その他の公知の置換基が例として挙げられる。
【0049】
さらに詳しくは、置換基Wは、下記の(1)〜(48)等を表す。
(1)ハロゲン原子
例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子
【0050】
(2)アルキル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。それらは、(2−a)〜(2−e)なども包含するものである。
(2−a)アルキル基
好ましくは炭素数1〜30のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)
(2−b)シクロアルキル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)
(2−c)ビシクロアルキル基
好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基(例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)
(2−d)トリシクロアルキル基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のトリシクロアルキル基(例えば、1−アダマンチル)
(2−e)さらに環構造が多い多環シクロアルキル基
なお、以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)はこのような概念のアルキル基を表すが、さらにアルケニル基、アルキニル基も含むこととする。
【0051】
(3)アルケニル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、(3−a)〜(3−c)を包含するものである。
(3−a)アルケニル基
好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基(例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)
(3−b)シクロアルケニル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)
(3−c)ビシクロアルケニル基
置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基(例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)
【0052】
(4)アルキニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキニル基(例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)
【0053】
(5)アリール基
好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基(例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル、フェロセニル)
【0054】
(6)複素環基
好ましくは、5又は6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族の複素環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜50の5もしくは6員の芳香族の複素環基である。
(例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル。なお、1−メチル−2−ピリジニオ、1−メチル−2−キノリニオのようなカチオン性の複素環基でも良い)
【0055】
(7)シアノ基
(8)ヒドロキシル基
(9)ニトロ基
(10)カルボキシル基
【0056】
(11)アルコキシ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)
【0057】
(12)アリールオキシ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)
【0058】
(13)シリルオキシ基
好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)
【0059】
(14)ヘテロ環オキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)
【0060】
(15)アシルオキシ基
好ましくは、ホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)
【0061】
(16)カルバモイルオキシ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基(例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)
【0062】
(17)アルコキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基(例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)
【0063】
(18)アリールオキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基(例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)
【0064】
(19)アミノ基
好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアニリノ基(例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)
【0065】
(20)アンモニオ基
好ましくは、アンモニオ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキル、アリール、ヘテロ環が置換したアンモニオ基(例えば、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、ジフェニルメチルアンモニオ)
【0066】
(21)アシルアミノ基
好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基(例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)
【0067】
(22)アミノカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ(例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)
【0068】
(23)アルコキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ)
【0069】
(24)アリールオキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)
【0070】
(25)スルファモイルアミノ基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基(例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)
【0071】
(26)アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ(例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)
【0072】
(27)メルカプト基
(28)アルキルチオ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)
【0073】
(29)アリールチオ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ(例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)
【0074】
(30)ヘテロ環チオ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)
【0075】
(31)スルファモイル基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)
【0076】
(32)スルホ基
(33)アルキルもしくはアリールスルフィニル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)
【0077】
(34)アルキルもしくはアリールスルホニル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル
【0078】
(35)アシル基
好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4〜30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基(例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニル)
【0079】
(36)アリールオキシカルボニル基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)
【0080】
(37)アルコキシカルボニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)
【0081】
(38)カルバモイル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル(例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)
【0082】
(39)アリール又はヘテロ環アゾ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基(例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)
【0083】
(40)イミド基
好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド
【0084】
(41)ホスフィノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基(例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)
【0085】
(42)ホスフィニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基(例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)
【0086】
(43)ホスフィニルオキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基(例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)
【0087】
(44)ホスフィニルアミノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基(例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)
【0088】
(45)ホスフォ基
【0089】
(46)シリル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)
【0090】
(47)ヒドラジノ基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のヒドラジノ基(例えば、トリメチルヒドラジノ)
【0091】
(48)ウレイド基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のウレイド基(例えばN,N−ジメチルウレイド)
【0092】
また、二つの置換基Wが共同して環を形成することもできる。このような環としては芳香族、又は非芳香族の炭化水素環、又は複素環や、これらがさらに組み合わされて形成された多環縮合環が挙げられる。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、フェナジン環が挙げられる。
【0093】
上記の置換基Wの中で、水素原子を有するものは、これを取り去り更に上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、−CONHSO2−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SO2NHSO2−基(スルフォニルスルファモイル基)が挙げられる。
【0094】
より具体的には、アルキルカルボニルアミノスルホニル基(例えば、アセチルアミノスルホニル)、アリールカルボニルアミノスルホニル基(例えば、ベンゾイルアミノスルホニル基)、アルキルスルホニルアミノカルボニル基(例えば、メチルスルホニルアミノカルボニル)、アリールスルホニルアミノカルボニル基(例えば、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル)が挙げられる。
【0095】
また、本発明の新規化合物は、下記一般式(SQ−1)で表される化合物である。
【0096】
【化17】

【0097】
式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。また、Y11及びY12はそれぞれ独立して複素環である。
【0098】
本発明において、前記一般式(SQ−1)で表される化合物は、下記一般式(SQ−2a)又は(SQ−2b)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(SQ−3a)又は(SQ−3b)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0099】
【化18】

【0100】
【化19】

【0101】
前記一般式(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)中、R101〜R103並びにR1〜R4及びR11〜R14はそれぞれ、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)におけるR101〜R106及びR1〜R6と同義であり、好ましい範囲も同様である。Y11及びY12は、前記一般式(QU−3)におけるY1及びY2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0102】
7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)は、有機半導体としての性能は示すものの、分子間のπ電子系の重なりが小さいため電子が移動しにくく、半導体としての特性は高いものではなかった。これに対し、本発明に用いられる化合物の好ましい態様である、特定の構造の広いπ平面を持つTCNQ誘導体は、分子間のπ電子系の重なりが大きいためTCNQと比較して電子が分子間を移動しやすく、かつTCNQ同様に適度なエネルギーレベルを持つために特にn型半導体としての優れた特性を示す上に塗布による電子素子の製造が可能である。従来、これらの特性を全て満足するものはなかったが、本発明によりこれらを満足することが可能になった。
【0103】
以下に、本発明で使用される前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物の具体例を示す。ただし、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0104】
【化20】

【0105】
【化21】

【0106】
【化22】

【0107】
【化23】

【0108】
TCNQ誘導体の一般的な合成方法に関しては、有機合成化学協会誌,(1988),Vol.46,p.638.などに示されている。これを参照して、カルボニル化合物と電子求引性基を持つ活性メチレン化合物をルイス酸存在下で反応させることによりTCNQ誘導体を製造することができる。
しかし、本発明の前記一般式(SQ−1)で表される化合物は、上記手法を適用した手法では合成できなかった(例えば、Synth.Met.,(1994),Vol.66,p.257.、J.Org.Chem.,(1992),Vol.57,p.6192.等を参照。)。
これに対し、本発明は、これまで合成することが困難であった前記一般式(SQ−1)で表される化合物を製造する方法を提供する。
【0109】
以下に、本発明の前記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造方法について説明する。
まず、カルボニル化合物を溶媒に加えて液状する。次に、この液に対して、ルイス酸を溶媒で希釈した液を添加する。カルボニル化合物と反応させる電子求引性基を持つ活性メチレン化合物またはビス(トリメチルシリル)カルボジイミドを加える順番は反応溶液にルイス酸溶液を添加する前でも後でも良い。この手法により複雑な副反応を抑制することができ、前記一般式(SQ−1)で表される化合物を得ることができる。
【0110】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造に用いられるカルボニル化合物としては、下記一般式(QU−101)で表される化合物であれば特に限定されない。好ましくは、下記一般式(QU−102a)または(QU−102b)で表される化合物であり、より好ましくは、下記一般式(QU−103a)または(QU−103b)で表される化合物である。
【0111】
【化24】

【0112】
【化25】

【0113】
【化26】

【0114】
前記一般式(QU−101)、(QU−102a)、(QU−102b)、(QU−103a)及び(QU−103b)中、R1〜R4及びR11〜R14は、それぞれ前記一般式(QU−3)におけるR101〜R106と同義であり、好ましい範囲も同様である。Y11及びY12は、前記一般式(QU−3)におけるY3及びY4と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0115】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造に用いることができる電子求引性基を持つ活性メチレン化合物としては、例えば、下記一般式(a)で表される化合物であり、好ましくは、下記一般式(b)で表される化合物であり、より好ましくはマロノニトリルである。
【0116】
【化27】

【0117】
一般式(a)中、R102及びR103の少なくとも一方は、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基を表し、他方は水素原子または置換基を表す。置換基としては、前記の置換基Wが挙げられる。
【0118】
【化28】

【0119】
一般式(b)中、R102は、水素原子または置換基を表す。置換基としては、前記の置換基Wが挙げられる。
【0120】
カルボニル化合物と、電子求引性基を持つ活性メチレン化合物またはビス(トリメチルシリル)カルボジイミドとの混合比(モル比)は、好ましくは1:2〜1:50であり、より好ましくは1:2〜1:20である。
【0121】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造の際に、カルボニル化合物を希釈するのに用いることができる溶媒としては、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)、極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等)などが挙げられる。中でも、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、アミド系溶媒が好ましい。
【0122】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造に用いることができるルイス酸としては、例えば、B(R201)(R202)(R203)、Al(R204)(R205)(R206)、Ti(R207)(R208)(R209)(R210)、Zr(R211)(R212)(R213)(R214)である。ここで、R201〜R214は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換の炭素数1〜30の炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。好ましくは、Ti(R207)(R208)(R209)(R210)であり(ここで、R207〜R210は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換の炭素数1〜30の炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。)、より好ましくはTiCl4である。
【0123】
本反応で用いる、カルボニル化合物を希釈するのに用いる溶媒とカルボニル化合物との混合比は、特に制限は無いが、好ましくは溶媒1Lあたりカルボニル化合物0.1〜1000gであり、より好ましくは溶媒1Lあたりカルボニル化合物1〜500gであり、特に好ましくは溶媒1Lあたりカルボニル化合物10〜300gである。
【0124】
本反応で用いる、ルイス酸の希釈に用いる溶媒は、カルボニル化合物を希釈するのに用いる溶媒と同じであっても異なっていてもよく、使用できる溶媒の種類や好ましい溶媒の範囲はカルボニル化合物を希釈するのに用いる溶媒と同一である。
本反応で用いる、ルイス酸を溶媒で希釈して調製する液の濃度は、好ましくは質量濃度0.1〜1000g/Lであり、より好ましくは1〜500g/Lであり、特に好ましくは10〜300g/Lである。
【0125】
本発明では、カルボニル化合物を含む溶液に対して、ルイス酸を溶媒で希釈した液を添加して電子求引性基を持つ活性メチレン化合物またはビス(トリメチルシリル)カルボジイミドと反応させ、前記一般式(SQ−1)で表される化合物を製造する。
本反応におけるルイス酸を溶媒で希釈した液の添加量は、カルボニル化合物と、ルイス酸との混合比(モル比)が、好ましくは1:2〜1:50であり、より好ましくは1:2〜1:20である。
【0126】
反応温度は、溶媒の融点以上かつ沸点以下であれば特に限定されず、反応の際に加熱しても冷却してもよく、室温で反応を行ってもよい。また、収率向上のために、反応操作を繰り返し行っても良い。
反応時間は、好ましくは1分〜48時間であり、より好ましくは1時間〜12時間である。
【0127】
次に、下記一般式(QU−1’)で表される化合物について説明する。
【0128】
【化29】

【0129】
式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R2〜R7及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y5は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。
前記一般式(QU−1’)中、X1及びX2は、前記一般式(QU−3)におけるX1及びX2と同義であり、好ましい範囲も同様である。R2〜R7及びR101〜R106、それぞれ、前記一般式(QU−3)におけるR101〜R106と同義であり、好ましい範囲も同様である。Y5は、前記一般式(QU−3)におけるY3及びY4と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0130】
前記一般式(QU−1’)に該当する化合物およびその合成方法は、Bull.Chem.Soc.Jpn.,(1989),Vol.62,p.1626に記載されている。なお、前記一般式(QU−1’)で表される化合物は、有機半導体としての用途は知られていない。
【0131】
次に、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物を含む組成物について説明する。
【0132】
当該組成物は、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物の少なくとも1種と、必要に応じて適当な溶媒とを含有する。
【0133】
用いることができる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)、極性有機溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等)、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0134】
当該組成物における、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物の含有量は、好ましくは0.1〜80質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0135】
また、当該組成物には、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物が複数含有されていてもよく、各成分の含有量は、好ましくは0.1〜99.9質量%であり、より好ましくは20〜80質量%である。
【0136】
さらに、当該組成物に含まれる、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物のほかに含まれる好ましい化合物について記載する。
【0137】
例えば、有機半導体薄膜を形成する場合には、有機薄膜層に樹脂バインダーを用いることも可能である。有機薄膜層の樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁性ポリマーおよびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマーを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。この樹脂バインダーは使わない方が有機半導体の特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。この場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、有機半導体薄膜層中、好ましくは0.1〜10質量%で用いられる。
【0138】
また、前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物を他の有機半導体と混合して用いることもできる。この場合、用いる有機半導体化合物に特に制限は無いが、例えば、テトラセン、ペンタセン、ピレン、フラーレン等の縮合芳香族炭化水素、フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物、α−セキシチオフェン、ジアルキルセキシチオフェンなどのチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類、あるいは、チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環を合計4個以上連結したもの、アントラジチオフェン、α,α’−ビス(ジチエノチオフェン)等の縮合チオフェン及びその誘導体、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボンサンジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボンサンジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物、銅フタロシアニン、テトラベンゾポルフィリン及びその金属塩等の大環状化合物、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチアゾール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリフラン、ポリインドール系のポリマーやその共重合体などの共役系重合体などが挙げられる。この場合の前記一般式(QU−1)〜(QU−3)、(QU−1’)、(SQ−1)、(SQ−2a)、(SQ−2b)、(SQ−3a)、(SQ−3b)のいずれかで表される化合物の含有量は、特に制限はないが、有機半導体薄膜層中、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは20〜80質量%で用いられる。
【0139】
次に、本発明の有機半導体について説明する。
本発明の有機半導体は、前記一般式(QU−1)又は(QU−2)で表される化合物の少なくとも一種を含む。また、本発明の電子素子は、前記一般式(QU−3)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体、又は前記一般式(QU−1)又は(QU−2)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体を含む。
【0140】
前記一般式(QU−1)〜(QU−3)のいずれかで表される化合物は、TCNQのN型半導体特性を向上させるために、6員環が1つしか存在しないTCNQのπ電子系を拡張したものである。π電子系を拡張することでTCNQの電子的特性を保持したまま分子間相互作用の増大させることが可能となったため、キャリア移動度をさらに向上させて良好な特性を示すN型有機半導体を提供することが可能になった。
【0141】
本発明の有機半導体とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料と同様に、正孔をキャリアとして伝導するp型半導体と、電子をキャリアとして伝導するn型半導体がある。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。移動度は高い方がよく、10-7cm2/Vs以上であることが好ましく、10-6cm2/Vs以上であることがより好ましい。移動度は電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法により求めることができる。
【0142】
本発明の有機半導体は、各種の電子素子に好ましく適用することができ、特に、薄膜の層構造を有するエレクトロニクス要素を用いた素子に適用することが好ましい。このようなエレクトロニクス要素を用いた半導体電子素子としては、例えば、有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタ、有機電界発光素子、ガスセンサー、有機整流素子,有機インバーター,情報記録素子が挙げられる。有機光電変換素子は光センサー用途、エネルギー変換用途のいずれにも用いることができる。好ましくは有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタ、有機電界発光素子であり、さらに好ましくは有機光電変換素子、有機電界効果トランジスタであり、特に好ましくは有機電界効果トランジスタである。以下、これらのものの好ましい態様のうち代表的なものについて、図面を参照しながら詳しく説明するが、本発明はこれらの態様によって限定されるものではない。
【0143】
図1は本発明のエレクトロニクス要素を用いた有機電界効果トランジスタの構造を概略的に示す断面図である。図1のトランジスタは積層構造を基本構造として有するものであり、最下層に基板11(例えば、ポリエチレンナフトエート(PEN),ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなど)を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに該電極を覆い、かつ電極以外の部分で基板と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に有機半導体層14を設け、その上面の一部に二つの電極15aと15bとを隔離して配置している。電極12、電極15a及び電極15bの構成材料は、導電性を示すものであれば特に制限なく用いることができ、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、NiあるいはNdなどの金属材料やこれらの合金材料、あるいはカーボン材料、導電性高分子など、既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。なお、図1の構成はトップコンタクト型素子と呼ばれるが、電極15a及び15bが有機半導体層の下部にあるボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
【0144】
ゲート幅(チャンネル幅)W及びゲート長(チャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0145】
各層の厚さに特に制限はないが、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1〜0.5μmとすることが好ましく、そのために各層の厚さを10〜400nmとすることが好ましく、電極の厚さを10〜50nmとすることが好ましい。
【0146】
絶縁層を構成する材料としては、必要な絶縁効果が得られれば特に制限されないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料,アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。絶縁層13の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理した絶縁層を好ましく用いることができる。
【0147】
素子を大気や水分から遮断し、素子の保存性を高めるために、素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料などで封止しても良い。
【0148】
図2は、本発明のエレクトロニクス要素を用いた有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。図2の素子は積層構造を有するものであり、最下層に基板21(例えば、ポリエチレンナフトエート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなど)を配置し、その上面に電極層22を設け、さらにその上層としてp型有機半導体、及び/又はn型有機半導体を含む層23を設け、さらにその上面に電極層24を設けている。電極層22や24とp型有機半導体および/またはn型有機半導体を含む層23との間には、表面の平滑性を高めるバッファ層、ホールまたは電子の電極からの注入を促進するキャリア注入層、ホールまたは電子を阻止するキャリアブロック層などが含まれていても良い。
【0149】
電極層22として用いる材料は、可視光または赤外光を透過し、導電性を示すものであれば特に制限はない。可視光または赤外光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが最も好ましい。そのような材料としては、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの透明導電性酸化物が好ましく、プロセス適性や平滑性の観点からITOまたはIZOが特に好ましい。
【0150】
電極層24として用いる材料は、導電性を示すものであれば特に制限はないが、光利用効率を高める観点からは、光反射性の高い材料が好ましく、特に好ましいのはAl、Pt、W、Au、Ag、Ta、Cu、Cr、Mo、Ti、Ni、Pd、Znである。
【0151】
各層の厚さに特に制限はなく、好ましい素子全体の厚さ、各層の厚さ、電極層の厚さなどは、上述のトランジスタのものと同様である。
【0152】
素子の保存性を高めるためには、素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料などで封止し、素子を大気や水分から遮断することが好ましい。
【0153】
光電変換素子をエネルギー変換用途の太陽電池として用いる場合、太陽光を効率良く吸収しエネルギー変換効率を高めるために、600nm以上の長波長域まで、特に好ましくは700nm以上の近赤外領域まで光を吸収し光電変換する材料を用いることが好ましい。本発明の化合物は、600nm以上、及び/又は700nm以上の長波長域まで吸収を有し光電変換する点で好ましい。
【0154】
本発明のエレクトロニクス要素を用いた有機電界発光素子は一対の電極間に少なくとも一層の有機層を有する。本発明の素子は基板上に一対の電極(陰極と陽極)を有し、両電極の間に有機層を有する。素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0155】
本発明の素子は、有機層に本発明のエレクトロニクス要素を含有することを特徴とする。少なくとも一層の有機層の機能は、特に限定されないが、発光層の他に正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層、励起子ブロック層、保護層などであってもよい。また本発明の素子では、少なくとも一層の有機層のほかに、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層、励起子ブロック層、保護層などを有してもよい。またこれらの各層は、それぞれ他の機能を兼備していても良い。
【0156】
本発明における有機層の積層の態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。更に、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。尚、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0157】
<基板>
本発明で使用する基板としては、有機層から発せられる光を散乱又は減衰させない基板であることが好ましい。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料が挙げられる。
【0158】
例えば、基板としてガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合には、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
【0159】
基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。一般的には、基板の形状としては、板状であることが好ましい。基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。
【0160】
基板は、無色透明であっても、有色透明であってもよいが、有機発光層から発せられる光を散乱又は減衰等させることがない点で、無色透明であることが好ましい。
【0161】
<陽極>
陽極は、通常、有機層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
【0162】
陽極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの混合物が好適に挙げられる。陽極材料の具体例としては、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。この中で好ましいのは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが好ましい。
【0163】
陽極は、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、陽極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って、前記基板上に形成することができる。例えば、陽極の材料として、ITOを選択する場合には、陽極の形成は、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って行うことができる。
【0164】
本発明の有機電界発光素子において、陽極の形成位置としては特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、前記基板上に形成されるのが好ましい。この場合、陽極は、基板における一方の表面の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
【0165】
なお、陽極を形成する際のパターニングとしては、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0166】
陽極の厚みとしては、陽極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常、10nm〜50μm程度であり、50nm〜20μmが好ましい。
【0167】
陽極の抵抗値としては、103Ω/□以下が好ましく、102Ω/□以下がより好ましい。陽極が透明である場合は、無色透明であっても、有色透明であってもよい。透明陽極側から発光を取り出すためには、その透過率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0168】
<陰極>
陰極は、通常、有機層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
【0169】
陰極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。具体例としてはアルカリ金属(たとえば、Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
【0170】
これらの中でも、陰極を構成する材料としては、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
【0171】
アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0172】
陰極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、前記した陰極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って形成することができる。例えば、陰極の材料として、金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法等に従って行うことができる。
【0173】
陰極を形成するに際してのパターニングは、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0174】
本発明において、陰極形成位置は特に制限はなく、有機層上の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
【0175】
陰極の厚みは、陰極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μm程度であり、50nm〜1μmが好ましい。
【0176】
また、陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。なお、透明な陰極は、陰極の材料を1〜10nmの厚さに薄く成膜し、更にITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0177】
<有機層>
本発明における有機層について説明する。本発明の素子は、発光層を含む少なくとも一層の有機層を有しており、有機発光層以外の他の有機層としては、前述したごとく、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層等の各層が挙げられる。
【0178】
−発光層−
発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、又は電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
【0179】
本発明における発光層は、発光材料のみで構成されていても良く、ホスト材料と発光材料の混合層とした構成でも良い。発光材料は蛍光発光材料でも燐光発光材料であっても良く、ドーパントは一種であっても二種以上であっても良い。ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましい。ホスト材料は一種であっても二種以上であっても良く、例えば、電子輸送性のホスト材料とホール輸送性のホスト材料を混合した構成が挙げられる。さらに、発光層中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいても良い。発光層としては、発光材料として本発明の錯体を用いたものが好ましく、少なくとも一種のホスト材料と本発明の錯体により構成されていることがより好ましい。
【0180】
また、発光層は一層であっても二層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0181】
本発明に使用できる蛍光発光材料の例としては、例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、縮合芳香族化合物、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサジン誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の錯体やピロメテン誘導体の錯体に代表される各種錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン誘導体などの化合物等が挙げられる。
【0182】
また、本発明に使用できる燐光発光材料は、例えば、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体が挙げられる。
【0183】
遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金である。
【0184】
ランタノイド原子としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0185】
また、本発明における発光層に含有されるホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するもの及びアリールシラン骨格を有するものや、後述の正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層の項で例示されている材料が挙げられる。
【0186】
発光層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
【0187】
−正孔注入層、正孔輸送層−
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。正孔注入層、正孔輸送層は、具体的には、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、有機シラン誘導体、カーボン等を含有する層であることが好ましい。
【0188】
正孔注入層、正孔輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
正孔輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。また、正孔注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.5nm〜100nmであるのがより好ましく、1nm〜100nmであるのが更に好ましい。
【0189】
正孔注入層、正孔輸送層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0190】
−電子注入層、電子輸送層−
電子注入層、電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。電子注入層、電子輸送層は、本発明のエレクトロニクス要素以外には、具体的には、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする錯体に代表される各種錯体、有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0191】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々50nm以下であることが好ましい。
電子輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。また、電子注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.2nm〜100nmであるのがより好ましく、0.5nm〜50nmであるのが更に好ましい。
【0192】
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0193】
−正孔ブロック層−
正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陰極側で隣接する有機層として、正孔ブロック層を設けることができる。
【0194】
正孔ブロック層を構成する有機化合物の例としては、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
【0195】
正孔ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
【0196】
正孔ブロック層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0197】
本発明の素子は上述の点以外は、公知のものと同様な構成をとりうる。
本発明の素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
【0198】
前記有機半導体化合物を含む薄膜を形成する方法は、いかなる方法でも良いが、乾式成膜法あるいは湿式成膜法により成膜される。乾式成膜法の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法等の物理気相成長法あるいはプラズマ重合等の化学気相蒸着(CVD)法が挙げられる。湿式成膜法は、有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて薄膜化する方法である。塗布方法としては、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、Langmuir−Blodgett(LB)法等の通常の方法を用いることができ、スピンコート法およびインクジェット法を用いることが好ましい。
【0199】
本発明においては、湿式成膜法により成膜することが好ましい。本発明の有機半導体は、塗布法により、厚さ数mm〜数nm以下に形成できる。膜厚は、電子素子の種類などにより、特に制限はないが、好ましくは5nm〜50μm、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0200】
湿式成膜法を用いて有機半導体薄膜層を形成する場合、層を形成する材料あるいはその材料とバインダー樹脂を適当な有機溶媒および/または水に溶解、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。
【0201】
有機溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)、極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等)を用いることができる。
【0202】
前記塗布液中における本発明のキノン化合物の濃度は、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは0.5〜10質量%とすることにより、任意の厚さの膜を形成できる。
【0203】
有機薄膜層に樹脂バインダーを用いることも可能である。有機薄膜層の樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁性ポリマーおよびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマーを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。この樹脂バインダーは使わない方が有機半導体の特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。この場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、有機半導体薄膜層中、好ましくは0.1〜10質量%で用いられる。
【0204】
また、湿式成膜で薄膜を作製するためには、上記で挙げた溶媒等に材料が溶解することが必要であるが、単に溶解するだけでは不十分である。通常、乾式成膜法で薄膜を作製する材料でも、溶媒にある程度溶解させることができる。しかし、湿式成膜法では、材料を溶媒に溶解させて液膜にした後で、溶媒が蒸発して薄膜が形成する過程があり、湿式成膜法に適さない材料は結晶性が高いものが多いため、この過程で結晶化してしまい良好な薄膜を形成させることが困難である。
本発明の材料は、おおむね結晶化が起こりにくい優れた材料ではあるが、材料によっては、結晶性が高いために溶液のハジキの効果が顕著に現れるために有機薄膜の作製ができない化合物も含まれる。しかし、このような場合でも、下記一般式(M−1)で表される化合物からなる薄膜を有する基板上に塗布液を塗布することにより均質な有機半導体薄膜を作製することが可能である。
【0205】
【化30】

【0206】
(式中、Arは置換または無置換の芳香族基を表し、MはSi(R201)(R202)(R203)を表す。R201〜R203はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。)
【0207】
なお、電界効果型トランジスタにおいて、前記一般式(M−1)で表される化合物から形成される薄膜を絶縁層と有機半導体層との間に作製すると、トランジスタ特性が向上することが特開2007−258335号公報に示されているが、前記一般式(M−1)で表される化合物を用いることにより塗布膜の形成ができなかった化合物の塗布膜を作製できるようになることは示されていない。
【0208】
本手法により塗布膜が作成可能になる有機半導体化合物例を下記に示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0209】
【化31】

【0210】
また、本手法に用いることができる、基板表面にあらかじめ作成しておく薄膜用の材料は、前記一般式(M−1)で表される化合物であれば何でもよいが、好ましい例としては、Ar=フェニル基、トルイル基、キシリル基、メトキシフェニル基、n=0〜10、R201〜R203=Cl,Br,OH,炭素数1〜10の置換または無置換のアルコキシ基であり、より好ましくは、Ar=フェニル基、n=0〜2、R201〜R203=Cl,OMe,OEtである。
【0211】
前記一般式(M−1)で表される化合物から形成される薄膜は単分子層や分子の集合体であってもよいが、膜厚は10nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは単分子膜である。また、前記一般式(M−1)で表される化合物が薄膜を形成する際に化学反応を起こして別の化合物やポリマーに変化していても、基板表面と反応していても構わない。
【0212】
前記一般式(M−1)で表される化合物から形成される薄膜の作成方法は特に限定は無いが、基板表面を前記一般式(M−1)で表される化合物の蒸気に接触させる方法または前記一般式(M−1)で表される化合物の溶液に接触させる方法が好ましく、さらに好ましいのは前記一般式(M−1)で表される化合物の溶液に接触させる方法である。
【0213】
前記一般式(M−1)で表される化合物の溶液を用いる上記手法において、使用する溶媒についての限定は無いが、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)、極性有機溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等)、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)が好ましい。また、前記一般式(M−1)で表される化合物の溶液の濃度は特に限定は無いが、0.0001〜30%が好ましく、さらに好ましいのは0.001〜1%である。
【実施例】
【0214】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0215】
実施例1
<化合物(T−1)及び(T−2)を含む混合物の調製>
化合物(Q−1)及び(Q−2)の混合物1.60gとマロノニトリル3.03gとをCHCl3 50mlに加えた懸濁液を氷冷した。この溶液に、TiCl4 9.45mlをCHCl3 50mlに溶かした溶液を加えた後、ピリジン8.1mlを加え、3時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸100mlを加えてから有機溶媒を減圧留去し、固体分をろ別、水洗、乾燥した。この反応混合物に再度マロノニトリル3.03gとCHCl3 50mlを加えて得られた懸濁液を氷冷し、TiCl4 9.45mlをCHCl3 50mlに溶かした溶液を加えた後、ピリジン8.1mlを加え、3時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸100mlを加えてから有機溶媒を減圧留去し、固体分をろ別、水洗、乾燥した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)から再結晶することにより、化合物(T−1)及び(T−2)の混合物1.36gを得た。
1H NMR(CDCl3):δ7.82(d,5.4Hz,2H),8.24(d,5.4Hz,2H),8.75(d,1.8Hz,2H),8.97(s,2H).
IR(KBr):ν2228cm-1
【0216】
【化32】

【0217】
実施例2
<化合物(T−3)及び(T−4)を含む混合物の調製>
化合物(Q−3)及び(Q−4)の混合物0.52gとマロノニトリル0.73gとをCHCl3 12mlに加えた溶液を氷冷した。この溶液に、TiCl4 2.31mlをCHCl3 12mlに溶かした溶液を加えた後、ピリジン1.8mlを加え、4時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸20mlを加えてから有機溶媒を減圧留去し、酢酸エチル(EtOAc)で抽出した。固体分をろ別後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。この反応をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane:EtOAc=1:3)で精製することにより、化合物(T−3)及び(T−4)の混合物0.44gを得た。
1H NMR(CDCl3):δ0.97(t,J=7.4Hz,6H),1.38−1.52 (m,4H),1.72−1.82(m,4H),2.98(t,7.5Hz),7.21 (s,2H),8.47(s,2H),8.59(s,2H).
MALDI−TOFMS(neg):m/z 528([M]).
【0218】
【化33】

【0219】
実施例3
<化合物(T−5)及び(T−6)を含む混合物の調製>
化合物(Q−5)及び(Q−6)の混合物0.48gとマロノニトリル0.61gとをCHCl3 10mlに加えた溶液を氷冷した。この溶液に、TiCl4 1.87mlをCHCl3 10mlに溶かした溶液を加えた後、ピリジン1.4mlを加え、4時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸20mlを加えてから有機溶媒を減圧留去し、EtOAcで抽出した。固体分をろ別後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。この反応をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane:EtOAc=1:3)で生成することにより、化合物(T−5)及び(T−6)の混合物0.40gを得た。
1H NMR(CDCl3):δ0.945(t,J=7.8Hz,6H),1.26−1.45(m,12H),1.73−1.82(m,4H),2.97(t,J=7.5Hz,4H),7.21(s,2H),8.46(s,2H),8.59(s,2H).
MALDI−TOFMS(neg):m/z 584([M]).
【0220】
【化34】

【0221】
実施例4
<化合物(T−7)及び(T−8)を含む混合物の調製>
化合物(Q−7)及び(Q−8)の混合物0.48gとマロノニトリル0.61gとをCHCl3 10mlに加えた溶液を氷冷した。この溶液に、TiCl4 1.87gをCHCl3 10mlに溶かした溶液を加えた後、ピリジン1.4mlを加え、4時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸20mlを加えてから有機溶媒を減圧留去し、EtOAcで抽出した。固体分をろ別後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。この反応をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane:EtOAc=1:3)で生成することにより、化合物(T−7)及び(T−8)の混合物0.40gを得た。
1H NMR(CDCl3):δ0.87(t,J=6.6Hz,6H),1.2−1.5(m,36H),1.72−1.82(m,4H),2.97(t,7.5Hz),7.21(s,2H),8.47(s,2H),8.59(s,2H).
【0222】
【化35】

【0223】
実施例5
<化合物(B−1)及び(B−2)を含む混合物の調製>
化合物(Q−5)及び(Q−6)の混合物0.49gにCHCl3 10mlを加えた溶液を氷冷した。この溶液に、TiCl4 1.87gをCHCl3 10mlに溶かした溶液を加えた後、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド1.86gを加え、8時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸20mlを加えてから有機層を分離し、水層をEtOAcで抽出した。固体分をろ別後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。この反応混合物にCHCl3 10mlを加えて得られた溶液を氷冷し、TiCl4 1.87gをCHCl3 10mlに溶かした溶液を加えた後、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド1.86gを加え、8時間加熱還流した。放冷後、1M−塩酸20mlを加えてから有機層を分離し、水層をEtOAcで抽出した。固体分をろ別後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。この反応混合物をCH2Cl2−MeOHから再結晶することにより、化合物(B−1)及び(B−2)の混合物0.46gを得た。
1H NMR(CDCl3):δ0.91(t,J=7.0Hz,6H),1.3−1.5(m,12H),1.77−1.84(m,4H),3.00(t,J=7.5Hz,4H),7.28(s,2H),9.2(br s,4H).
【0224】
【化36】

【0225】
実施例6
図1に示した電界効果トランジスタ(FET)特性測定用基板(電極として金(ゲート幅100000μm、ゲート長100μm)、絶縁膜としてSiO2(膜厚200nm)を備えたボトムコンタクト構造の基板)をトルエン中で5分間超音波洗浄後、化合物(SI−1)の0.1%トルエン溶液に一晩浸し、トルエンで超音波洗浄して表面に薄膜を持つ基板を作製した。
【0226】
【化37】

【0227】
化合物(T−9)5mgにTHF 1mlを加え、不溶分をろ別して(T−9)の溶液を作製した。この溶液を上記基板上にキャストして作製した薄膜を顕微鏡観察したところ、金およびSiO2表面を均一に被覆した薄膜を得ることができた(図3を参照)。また、比較例として表面に薄膜を形成させていない基板を用いて同様の手法により作製した薄膜を顕微鏡観察したところ、溶液のハジキによりSiO2上には化合物(T−9)が存在しない不均一な薄膜しか得られなかった(図4を参照)。
なお、化合物(T−9)の代わりに(T−1)及び(T−2)を含む混合物を用いて上記と同様の手法で薄膜の作製を行っても、全く同様の結果を与えた。
【0228】
実施例7
<化合物(T−3)と(T−4)との異性体混合物の電界効果トランジスタ(FET)特性>
化合物(T−3)と(T−4)との異性体混合物5mgをCHCl3 1mlに溶解させ、この溶液を室温で電界効果トランジスタ(FET)特性測定用基板上にキャストすることで、厚さ1mm以下の厚みが均一なFET特性測定用試料を得た。FET特性測定用基板として、図1に示したものを使用した。電極として金(ゲート幅100000μm、ゲート長100μm)、絶縁膜としてSiO2(膜厚200nm)を備えたボトムコンタクト構造の基板を用いた。
さらに、比較試料としてTCNQのTHF溶液を用いた以外は、全く同様の方法で、厚さ1mm以下のFET特性測定用試料を作製した。
FET特性は半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4155C、商品名)を用いて常圧・窒素雰囲気下で測定した。
化合物(T−3)と(T−4)との異性体混合物は、n型半導体として良好な特性を示した。飽和領域から求めた移動度は、μ=3.9×10-6cm2/Vsで、閾値電圧はVth=56Vだった。比較試料のTCNQは、同様の測定条件でμ=9×10-9cm2/VsのFET特性しか示さなかった。
【0229】
実施例8
<化合物(T−5)と(T−6)との異性体混合物の電界効果トランジスタ(FET)特性>
化合物(T−5)と(T−6)との異性体混合物5mgをCHCl3 1mlに溶解させ、この溶液を室温で電界効果トランジスタ(FET)特性測定用基板上にキャストすることで、厚さ1mm以下の厚みが均一なFET特性測定用試料を得た。
さらに、実施例7と同様の方法でFET特性を測定したところ、化合物(T−5)と(T−6)との異性体混合物は、n型半導体として良好な特性を示した。飽和領域から求めた移動度は、μ=1.2×10-6cm2/Vsで、閾値電圧はVth=71Vだった。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明の有機電界効果トランジスタの構造を概略的に示す断面図である。
【図2】電解効果トランジスタ(FET)特性測定用基板を示す図である。
【図3】実施例6で作製した薄膜の顕微鏡写真である(本発明)。
【図4】実施例6で作製した薄膜の顕微鏡写真である(比較例)。
【符号の説明】
【0231】
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 有機物層(半導体有機物層)
15a、15b 電極
31 基板
32 電極
33 絶縁体層
34a、34b 電極
35 有機物層(半導体有機物層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(QU−1)で表される化合物の少なくとも一種を含む有機半導体。
【化1】

(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R6及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1は、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【請求項2】
前記一般式(QU−1)で表される化合物が下記一般式(QU−2)で表される化合物である、請求項1記載の有機半導体。
【化2】

(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R1〜R4及びR101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機半導体を含む電子素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の有機半導体を含む有機電界効果トランジスタ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の有機半導体を含む有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の有機半導体を含む有機光電変換素子。
【請求項7】
下記一般式(QU−3)で表される化合物の少なくとも一種を含む電子素子。
【化3】

(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【請求項8】
下記一般式(QU−3)で表される化合物を含有する塗布液を塗布して有機半導体薄膜を製造する方法。
【化4】

(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、=N(R101)基、=CR102103基、=P(R104)基、または=SiR105106基を表す。R101〜R106は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。また、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換または無置換の、縮合環を形成してもよい炭化水素環または複素環を表す。)
【請求項9】
下記一般式(M−1)で表される化合物が形成する薄膜を有する基板上に、前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【化5】

(式中、Arは置換または無置換の芳香族基を表し、MはSi(R201)(R202)(R203)を表す。R201〜R203はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。)
【請求項10】
下記一般式(SQ−1)で表される化合物。
【化6】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。また、Y11及びY12はそれぞれ独立して複素環である。)
【請求項11】
下記一般式(SQ−2a)又は(SQ−2b)で表される化合物。
【化7】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4及びR11〜R14はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
【請求項12】
下記一般式(SQ−3a)又は(SQ−3b)で表される化合物。
【化8】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の化合物を含む組成物。
【請求項14】
カルボニル化合物を含む液に対して、ルイス酸を溶媒で希釈した液を添加することを特徴とする、下記一般式(SQ−1)で表される化合物の製造方法。
【化9】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。また、Y11及びY12はそれぞれ独立して複素環である。)
【請求項15】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物が下記一般式(SQ−2a)又は(SQ−2b)で表される化合物である、請求項14に記載の製造方法。
【化10】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R1〜R4及びR11〜R14はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)
【請求項16】
前記一般式(SQ−1)で表される化合物が下記一般式(SQ−3a)又は(SQ−3b)で表される化合物である、請求項14に記載の製造方法。
【化11】

(式中、X11及びX12は、それぞれ独立して=N(R101)基または=CR102103基を表す。R101、およびR102とR103との少なくとも一方は、それぞれ独立してシアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、スルホ基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルフィニル基、置換または無置換のアルキル又はアリールスルホニル基、置換または無置換のフルオロアルキル又はフルオロアリール基であり、残りは水素原子または置換基である。また、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子または置換基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−200263(P2009−200263A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40596(P2008−40596)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】