説明

キャブ支持構造

【課題】機体転倒時のキャブに大きな荷重が作用したときに防振マウントやマウント取付部の破損を確実に防止できるキャブ支持構造を提供する。
【解決手段】キャブ4を搭載する旋回フレーム2に、サポート梁材11を固定し、サポート梁材11の横断面中心にストッパ23を配置してサポート梁材11の横断面オフセット位置にマウント取付部12を設ける。マウント取付部12に、キャブ4の下部を弾力的に支持する防振マウント16を取付け、サポート梁材11の横断面中心部の下側にクリアランスを介して配置したストッパ23を、キャブ4の下部に取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振マウントによるキャブ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示される作業機械は油圧ショベル1であり、運転時に発生する振動が旋回フレーム2から、この旋回フレーム2上に作業装置3とともに搭載されたキャブ4へ伝達することを低減するために、図5に示されるように、旋回フレーム2上のサポート梁材5にマウント取付部6を設け、このマウント取付部6に設置された防振マウント(図示せず)を介してキャブ4を弾力的に支持するキャブ支持構造が一般的である。
【0003】
通常運転時のキャブ荷重は防振マウントにより支持するが、機体転倒時などにキャブ4の側面に作用する大きな荷重に対して防振マウントだけでは支持できず、キャブ4に大きな荷重が加わると、防振マウントやマウント取付部6の破損などにより、キャブ4が旋回フレーム2から離脱するおそれがある。
【0004】
このため、傾斜地で作業をする作業機械には、機体転倒時にキャブ内のオペレータを保護する転倒時乗員保護構造(Roll Over Protective Structure)が要求される。
【0005】
この転倒時乗員保護構造としては、旋回フレームのキャブ支持部とキャブのベース枠体との間に、上記の防振マウントとともに、旋回フレームに対するキャブの転倒を規制する転倒規制装置が、緩衝用隙間を介して設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1に記載された転倒規制装置は、旋回フレームに固定されたサポート梁材の横断面中心部にマウント取付部が設けられ、このマウント取付部に取付けられた防振マウントによりキャブの下部が弾力的に支持されるとともに、横断面オフセット位置に、キャブの下部に取付けられたストッパボルトがクリアランスを介して設けられている。
【特許文献1】特開2005−344394号公報(第13頁、図2および図13)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サポート梁材の横断面オフセット位置に配置されたストッパボルトでは、機体転倒時のキャブに大きな荷重が作用したときに、キャブからストッパボルトを介してサポート梁材に、サポート梁材の横断面中心部からのオフセット量に応じた捩れ荷重が作用して、サポート梁材の捩れ変形により局所応力が発生して同部が破損し、ストッパボルトの係止機能低下により防振マウントやマウント取付部が破損するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、機体転倒時のキャブに大きな荷重が作用したときに防振マウントやマウント取付部の破損を確実に防止できるキャブ支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、キャブが搭載される機体フレームと、機体フレームに固定されたサポート梁材と、サポート梁材の横断面オフセット位置に設けられたマウント取付部と、マウント取付部に取付けられキャブの下部を弾力的に支持する防振マウントと、サポート梁材の横断面中心部の下側にクリアランスを介して配置されキャブの下部に取付けられたストッパとを具備したことを特徴とするキャブ支持構造である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のキャブ支持構造における防振マウントが、キャブの4隅部に対応して4箇所に設置され、ストッパは、4箇所に配置された防振マウントのうち少なくとも後部外側に位置する防振マウントの近傍に設置されたものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のキャブ支持構造におけるマウント取付部が、断面中心部にストッパを配置したサポート梁材からオフセットして片持構造で設けられ、転倒時などの過荷重が負荷したときにストッパから伝達される荷重により変形するサポート梁材の変形に応じて変位可能としたものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれか記載のキャブ支持構造におけるストッパを、防振マウントが元に戻らない変形領域でサポート梁材とストッパとの間のクリアランスが0となるように初期のクリアランス調整を行なうものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された発明によれば、機体転倒時などでキャブに大きな荷重が作用した際に、防振マウントだけでは支持できない荷重をストッパと防振マウントの両方で分散して支持することにより、防振マウントやマウント取付部の破損を防止でき、防振マウントの破断によるキャブの離脱を防止できるとともに、機体転倒時のキャブに作用する大きな荷重を支持するストッパは、十分な剛性が確保できるサポート梁材の横断面中心部に配置したので、ストッパからサポート梁材に荷重が作用する際にサポート梁材の横断面中心部からのオフセット量に応じて作用する捩れ荷重を低減でき、サポート梁材の捩れ変形による局所応力が発生して同部が破損しストッパ機能が低下することを防止して、防振マウントやマウント取付部の破損を確実に防止できるともに、最小限の補強や板厚アップで十分な強度を確保できる。
【0014】
請求項2に記載された発明によれば、キャブの4隅部に対応して4箇所に設置された防振マウントは、機体転倒時に後部外側に位置する防振マウントが最も衝撃を受け易いので、ストッパは、4箇所の防振マウントのうち少なくとも転倒時の大きな荷重を保持できる剛性を確保可能な後部外側に位置する防振マウントの近傍に設けることが、転倒時乗員保護構造に有効であるとともに、ストッパの設置数を最少に抑制することもできる。
【0015】
請求項3に記載された発明によれば、転倒時などの過大な負荷が作用してストッパから伝達される荷重によりサポート梁材が変形すると、マウント取付部はサポート梁材の変形に追従して変位することから、防振マウントとマウント取付部が破損することを防止でき、さらに、防振マウントとマウント取付部の破損防止により、転倒時などの過大な荷重を防振マウントとストッパとで分散して支持することができる。
【0016】
請求項4に記載された発明によれば、防振マウントが元に戻らない変形領域でストッパのクリアランスが0となりサポート梁材と接触するように初期のクリアランス調整を行なうことで、防振マウントの破断を防止し、過大な荷重が負荷したときはストッパと防振マウントとにより荷重を分散して支持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1および図2に示されるように、キャブ4が搭載される機体フレームとしての旋回フレーム2には、作業装置3(図4)を搭載するための取付ブラケット10が溶接などにより固定されているとともに、キャブ4を搭載するためのサポート梁材11が溶接などにより固定され、サポート梁材11にてキャブ4の4隅部に対応する4箇所にマウント取付部12が設けられ、各マウント取付部12に取付穴13がそれぞれ開口されている。
【0019】
図2に示されるように、後側の2つのマウント取付部12は、サポート梁材11の横断面オフセット位置に片持構造で設けられ、サポート梁材11の変形に応じて変位可能とする。これに対し、後部外側に位置するマウント取付部12の近傍では、サポート梁材11の横断面中心部にストッパ設置用のボルト挿入穴14が設けられている。このボルト挿入穴14の上側には穴開き補強板15が溶接されている。
【0020】
そして、図1に示されるように、4隅部のマウント取付部12の取付穴13に、キャブ4の下部を弾力的に支持する防振マウント16が取付けられている。防振マウント16は、図3に示されるように取付フランジ17によってマウント本体18がサポート梁材11の上面に固定され、マウント本体18により弾力的に保持されてマウント本体18から突出されたネジ軸19が、フロアプレート21を通してキャブ4の下部フレーム4fに挿入され、この下部フレーム4fはネジ軸19と螺合するナット22により締着されている。
【0021】
図3に示されるように、サポート梁材11の横断面中心部の下側に、キャブ4の下部フレーム4fに取付けられるストッパ23が配置されている。このストッパ23は、キャブ4の下部フレーム4fに溶接されたスペーサ24にネジ25により取付けられている。これにより、大きな荷重を支持するストッパ23は、十分な剛性が確保できるサポート梁材11の横断面中心部に配置されている。
【0022】
機体転倒時などに過大な横荷重が負荷したときには、機体フレームには剛性バランスに応じて各部に荷重が分散する。図2に示されるキャブ支持構造においては、剛性が高い後方マウントが位置するサポート梁材11に伝達する荷重が最大となることから、ストッパ23は、外側の後方マウント近傍に設置する。
【0023】
図2および図3に示されるように、ストッパ23とともに設けられたマウント取付部12は、サポート梁材11から後方へオフセットして片持ち構造部26に設けられている。このため、機体転倒時などの過大な荷重が負荷したときには、ストッパ23による支持荷重が、防振マウント16による支持荷重よりも大きくなるように設定する(剛性バランスによりストッパ負荷がマウント負荷より大となる)。これにより、過大な荷重が作用しても、その荷重はストッパ23で支持され、ストッパ23で係止された後はマウント取付部12が変形しない。
【0024】
図3に示されるように、サポート梁材11の横断面中心部の下側に、クリアランス27を介して、キャブ4の下部に取付けられたストッパ23が配置されている。このストッパ23は、防振マウント16が元に戻らない変形領域でサポート梁材11とストッパ23との間のクリアランス27が0となり、サポート梁材11と接触するように初期段階でのクリアランス調整を行なうことで、最適位置に設定する。
【0025】
なお、図1に示された防振マウント16およびストッパ23は、キャブ4と一体化されるフロアプレート21に取付けてもよいが、キャブ4の下部フレーム4fに直接取付ける方が望ましい。
【0026】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0027】
機体転倒時などでキャブ4に大きな荷重が作用した際は、その荷重をストッパ23と接触するサポート梁材11の横断面中心部で係止する。これにより、防振マウント16が塑性変形しても破断しない程度でストッパ23によりキャブ4を係止するので、防振マウント16の破断によるキャブ4の離脱を防止する。
【0028】
ストッパ23の位置がサポート梁材11の横断面中心部から離れる場合は、サポート梁材11にはオフセット量に応じて捩れ荷重が作用するが、サポート梁材11の横断面中心部にストッパ23を配置することにより、このストッパ23を介してサポート梁材11に作用する捩れ荷重を低減できる。
【0029】
捩れ荷重を低減することにより、サポート梁材11やサポート溶接部に作用する局所的な応力を低減できる。この局所的な応力を低減できるので、最小限の補強や板厚アップを行なうだけで十分なサポート梁材11の強度を確保できるとともに、サポート梁材11の破損によるキャブ4の離脱を防止できる。
【0030】
大きな荷重が負荷するとマウント取付部12はサポート梁材11の変位・変形に合わせて移動するので、防振マウント16に作用する無理な力を軽減でき、防振マウント16の破断とマウント取付部12の破損も防止できる。すなわち、構造的にマウント取付部12はサポート梁材11に従属しており、サポート梁材11の変位・変形に合わせて移動するので、リリーフ機能が働く。
【0031】
防振マウント16の破断とマウント取付部12の破損を防止できるので、ストッパ23と防振マウント16の両方で荷重を分散して支持できる。そして、荷重をストッパ23だけで支持する場合よりも、分散して支持する方が構造的にも有利である。同様に、防振マウント16も荷重を分散支持するので、ストッパ23に作用する荷重を軽減でき、ストッパ23の強度設計にも有利な構造である。
【0032】
このように、機体転倒時などでキャブ4に大きな荷重が作用した際に、防振マウント16だけでは支持できない荷重をストッパ23と防振マウント16の両方で分散して支持することにより、防振マウント16やマウント取付部12の破損を防止でき、防振マウント16の破断によるキャブ4の離脱を防止できるとともに、機体転倒時のキャブ4に作用する大きな荷重を支持するストッパ23は、十分な剛性が確保できるサポート梁材11の横断面中心部に配置したので、ストッパ23からサポート梁材11に荷重が作用する際にサポート梁材11の横断面中心部からのオフセット量に応じて作用する捩れ荷重を低減でき、サポート梁材11の捩れ変形による局所応力の発生および同部の破損によるストッパ機能低下を防止して、防振マウント16やマウント取付部12の破損を確実に防止できるともに、最小限の補強や板厚アップで十分な強度を確保できる。
【0033】
キャブ4の4隅部に対応して4箇所に設置された防振マウント16は、機体転倒時に後部外側に位置する防振マウント16が最も衝撃を受け易いので、ストッパ23は、4箇所の防振マウント16のうち少なくとも転倒時の大きな荷重を保持できる剛性を確保可能な後部外側に位置する防振マウント16の近傍に設けることが、転倒時乗員保護構造に有効であるとともに、ストッパ23の設置数を最少に抑制することもできる。
【0034】
機体転倒時などの過大な負荷が作用したときには、ストッパ23のクリアランス27が0となり、ストッパ23から伝達される荷重によりサポート梁材11が変形する。このとき、マウント取付部12はサポート梁材11の変形に追従して変位可能であることから、防振マウント16とマウント取付部12が破損することを防止できる(防振マウント16は一定の変位を超えると破断する)。さらに、防振マウント16とマウント取付部12の破損を防止することにより、機体転倒時などの過大な荷重を防振マウント16とストッパ23とで分散して支持することができる。
【0035】
すなわち、ストッパ23が設置されているサポート梁材11に従属した構造でマウント取付部12が設けられているので、過大な荷重が負荷したときには、サポート梁材11の変形に応じて、防振マウント16が移動することで防振マウント16に作用する過大な負荷を軽減して、防振マウント16の破断とマウント取付部12の破損を防止できる。
【0036】
防振マウント16が元に戻らない変形領域でストッパ23のクリアランス27が0となりサポート梁材11と接触するように初期のクリアランス調整を行なうことで、防振マウント16の破断を防止し、過大な荷重が負荷したときは防振マウント16とストッパ23とにより荷重を分散して支持できる。
【0037】
本発明は、旋回型の油圧ショベルだけでなく、非旋回型の機体フレームに防振マウントを介してキャブを搭載した他の作業機械にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るキャブ支持構造の一実施の形態を示す分解斜視図である。
【図2】同上支持構造に係る旋回フレームの斜視図である。
【図3】同上支持構造の断面図である。
【図4】油圧ショベルの側面図である。
【図5】従来のキャブ支持構造に係る旋回フレームの斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
2 機体フレームとしての旋回フレーム
4 キャブ
11 サポート梁材
12 マウント取付部
16 防振マウント
23 ストッパ
27 クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブが搭載される機体フレームと、
機体フレームに固定されたサポート梁材と、
サポート梁材の横断面オフセット位置に設けられたマウント取付部と、
マウント取付部に取付けられキャブの下部を弾力的に支持する防振マウントと、
サポート梁材の横断面中心部の下側にクリアランスを介して配置されキャブの下部に取付けられたストッパと
を具備したことを特徴とするキャブ支持構造。
【請求項2】
防振マウントは、
キャブの4隅部に対応して4箇所に設置され、
ストッパは、
4箇所に配置された防振マウントのうち少なくとも後部外側に位置する防振マウントの近傍に設置された
ことを特徴とする請求項1記載のキャブ支持構造。
【請求項3】
マウント取付部は、
サポート梁材の横断面オフセット位置に片持構造で設けられ、サポート梁材の変形に応じて変位可能である
ことを特徴とする請求項1または2記載のキャブ支持構造。
【請求項4】
ストッパは、
防振マウントが元に戻らない変形領域でサポート梁材とストッパとの間のクリアランスが0となるように初期のクリアランス調整を行なう
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のキャブ支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−42761(P2010−42761A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208619(P2008−208619)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】