説明

キャリア移動度がチューニングされた両極性電界効果トランジスタ

【課題】本発明は、簡便かつ安定した材質で製造することができ、さらに電気特性に優れFET特性を制御できる有機半導体を使用していることを特徴とする電界効果トランジスタ、及びそれを形成してなる半導体チップに関する。

【解決手段】本発明は、有機半導体層が、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体を含有してなる電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ及び、及び酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に当該電界効果トランジスタが形成されている半導体チップに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ安定した材質で製造することができ、さらに電気特性に優れFET特性を制御できる有機半導体を使用していることを特徴とする電界効果トランジスタに関する。より詳細には、本発明は、有機半導体層が、フラーレンが結合した分子が自己組織化して内壁表面及び外壁表面の両面に結合したフラーレンからなる層を有しフラーレンの被覆率を制御できるナノサイズ構造体を含む電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ、及びそれを形成してなる半導体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路を構成、作動するための電子部品としてトランジスタは必要不可欠であるが、現在主流となっているのはシリコンをベースとしたトランジスタであり、アモルファスシリコン又は多結晶シリコンを用いて作製されている。これらを成膜するプロセスは350℃程度又はそれ以上の高い温度で行われるので、使用可能な基板材料の種類が限られ、軽量な樹脂基板は耐熱温度が低いために使用できないという問題がある。従って低コスト化やプラスチックフィルム上への電子回路の作製や素子の駆動を目的として、有機分子や高分子を用いたトランジスタ作製に対する期待が高まっている。とりわけ、電子及びホールの両方を伝導キャリアとして誘起できる有機半導体材料は、p型及びn型トランジスタ両方を必要とする相補型インバーター回路や発光型トランジスタの実現に向けた有機エレクトロニクス分野において強く望まれている。有機トランジスタを作製するためには、できる限り結晶性のよい有機薄膜を作製する必要があり、薄膜の結晶性はトランジスタ特性、すなわちキャリアの移動度に密接に関係する。現在、有機トランジスタにおけるチャンネル層の作製法には、真空蒸着法と溶液プロセス(塗布法)の2種類が主流となっている。真空蒸着法のようなドライプロセスは、生産性が低い上にコストが高いので、工業的な観点からは好ましくない。有機半導体材料を用いる利点を活かすには、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などの簡便でかつコストの低い溶液プロセスを用いることが望ましい。しかしながら、トランジスタ特性は基板表面における分子の集合形態に大きく依存するため、キャリア移動に都合良い分子配列をいかに実現するかが重要な鍵になる。従来、溶液プロセスを用いた場合には、基板上での有機分子の自発的な結晶化あるいは、薄膜作製後に例えば、アニール処理を施すこと等による結晶性の向上というプロセスが必要であった。例えば、森らは有機半導体材料としてアルキル基で置換したヘキサベンゾコロネン薄膜を開示しているが、薄膜作製には真空蒸着法が必要であり、かつ、アニール処理を施すことも必要であり実用的ではなかった(特許文献1及び非特許文献1)。また、南方らは有機半導体材料として無置換のヘキサベンゾコロネン薄膜を提案しているが、この材料は溶解性に乏しいため、製膜法が真空蒸着法に限られ、実用的ではなかった(特許文献2)。更にMullenらは、アルキル基で置換したヘキサベンゾコロネン誘導体を用いて溶液プロセスで作製した薄膜を提案しているが、薄膜を形成させる基板表面をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で処理するために300℃の高温プロセスを要したり(非特許文献2)、ゾーンキャスティング法という特殊な装置を用いる配向方法を必要としたり(非特許文献3)、強力な磁場を必要としたり(非特許文献4)して生産性も悪く、実用的な方法ではなかった。これに対して本発明者らは、予め一次元のキャリア移動経路が明確に形成されている分子集合体をチャンネル層として用いる手法を検討し、分子が自己組織化的に集合して形成する超分子構造体に着目した。超分子構造体は、分子が溶液中で自発的に集合することにより特定のナノ構造体を形成するが、分子の種類により、ドット、ワイヤー、チューブ、コイルなど様々な構造様式をとる。構造体中において分子は規則的に配列することから、これらの構造体はナノメートルスケールの結晶と考えることが可能であり、このような超分子構造体を用いることにより、基板表面での結晶化というプロセスなしに薄膜素子を作製することができると期待される。
本発明者らはすでに、親水性置換基の先端部分にフラーレンを導入した両親媒性ヘキサベンゾコロネン(HBC)が、ある条件下で自己組織化的に集合して形成する超分子ナノチューブを用いた薄膜素子を報告している。この超分子ナノチューブはπ−スタッキング相互作用によりHBC平面がらせん状に配列しており、化学ドーピングにより容易に電荷キャリア(ホール)を形成して導電性を示すとともに、HBCが集積してできたナノチューブの壁の内外面を密に覆っているフラーレン部分が、ドーパントとして作用し、電子キャリアとしても作用する。その結果、上記の超分子ナノチューブは電荷輸送チャネルとしてp型伝導パスとn型伝導パスを同時に有することになり、これを用いて作製した薄膜素子が特別な結晶化処理を施さなくとも良好な両極性FET特性を発現することを見出し、既に報告している(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特開2006―100592号公報
【特許文献2】特開2004―158709号公報
【特許文献3】特開2005―150410号公報
【特許文献4】特願2008―52613号
【非特許文献1】T. Mori, H. Takeuchi, H. Fujikawa, J. Appl. Phys. 2005, 97, 066102
【非特許文献2】K. Mullen et. al. Advanced Materials 2003, 15, 495
【非特許文献3】K. Mullen et. al. Advanced Materials 2005, 17, 684
【非特許文献4】K. Mullen et. al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 16233
【非特許文献5】Y-P. Sun, G. E. Lawson, W. Huang, A. D. Wright, D. K. Moton Macromolecules 1999, 32, 8747-8752
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便かつ安定した材質で製造することができ、さらに電気特性に優れFET特性を制御できる有機半導体を使用していることを特徴とする電界効果トランジスタ及びそれを形成してなる半導体チップに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはすでに、親水性置換基の先端部分にフラーレンを導入した両親媒性ヘキサベンゾコロネン(HBC)が、ある条件下で自己組織化的に集合して形成する超分子ナノチューブを用いた薄膜素子を報告している。この超分子ナノチューブはπ−スタッキング相互作用によりHBC平面がらせん状に配列しており、化学ドーピングにより容易に電荷キャリア(ホール)を形成して導電性を示すとともに、HBCが集積してできたナノチューブの壁の内外面を密に覆っているフラーレン部分が、ドーパントとして作用し、電子キャリアとしても作用する。その結果、上記の超分子ナノチューブは電荷輸送チャネルとしてp型伝導パスとn型伝導パスを同時に有することになり、これを用いて作製した薄膜素子が特別な結晶化処理を施さなくとも良好な両極性FET特性を発現することを見出し、既に報告している(特許文献4)。
本発明らは更に研究を進め、フラーレンによる被覆率を調整することにより、電子移動度とホール移動度をチューニングすることに成功し、本発明に到達した。
カーボンナノチューブ膜トランジスタ上に蒸着によりフラーレンC60膜を形成する方法は提案されている(特許文献3)が、本発明のように、π−スタックしたHBCよりなる壁にフラーレンを共有結合により連結して、壁の内外表面を、被覆率を制御して覆った超分子ナノチューブよりなるトランジスタは知られていない。
即ち、本発明は、有機半導体層が、フラーレンが結合した分子が自己組織化して内壁表面及び外壁表面の両面に結合したフラーレンからなる層を有するナノサイズ構造体を含む電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ、及び酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に当該電界効果トランジスタが形成されている半導体チップに関する。
【0006】
本発明を、より詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)有機半導体層が、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体を含有してなる電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
(2)フラーレンが、金属を内包しているものである前記(1)に記載の電界効果トランジスタ。
(3)フラーレンが、C60フラーレンである前記(1)又は(2)に記載の電界効果トランジスタ。
(4)ナノサイズ構造体が、ナノチューブである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(5)フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(1)、
【0007】
【化6】

【0008】
[式中、Rはアルキル基を表し、R及びRはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子、アルキル基又は金属を内包していてもよいフラーレンCmを有する基を表し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方はフラーレンCmを有する基を有する(nは正の整数を表しmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数)。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、フラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)、
【0009】
【化7】

【0010】
[式中、Rはアルキル基を表し、RはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、nは正の整数を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(6)一般式(1)のR基が、次の式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基である前記(5)に記載の電界効果トランジスタ。
【0011】
【化8】

【0012】
(7)一般式(1)のR、及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である前記(5)又は(6)に記載の電界効果トランジスタ。
(8)一般式(1)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(4)
【0013】
【化9】

【0014】
で表される化合物である前記(5)〜(7)に記載の電界効果トランジスタ。
(9)一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)
【0015】
【化10】

【0016】
で表される化合物である請求項5〜8のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(10)フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が50%以上である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(11)金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が60〜90%である前記(1)〜(10)に記載の電界効果トランジスタ。
(12)電界効果トランジスタが、両極性電界効果トランジスタである前記(1)〜(11)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(13)電界効果トランジスタが、、ボトムゲート/トップコンタクト型の電界効果トランジスタである前記(1)〜(12)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(14)有機半導体層が、表面処理剤により表面処理された絶縁層に形成されたものである前記(1)〜(13)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(15)表面処理剤が、ヘキサメチルジシラザンである前記(14)に記載の電界効果トランジスタ。
(16)請求項1〜12のいずれかに記載の電界効果トランジスタが、酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に形成されているものである前記(1)〜(15)のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
(17)酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に請求項(1)〜(16)のいずれかに記載の電界効果トランジスタが形成されている半導体チップ。
【発明の効果】
【0017】
本発明において合成した分子は、ヘキサベンゾコロネン(HBC)の片側に2本の疎水性側鎖が、反対側に2本の親水性側鎖が修飾された双頭型構造を有し、2本の親水性側鎖のうち少なくとも一方の先端はフラーレンで置換されている。この分子が自己組織化したナノチューブは、電子供与体であるHBCがナノチューブの壁内にπスタックを形成して規則正しく整列し、電気の通り道となり得る一次元のチャネルを形成している。その表面を電子受容体であるフラーレンが被覆している。さらに、ドーパントとしてのフラーレンがナノチューブの外表面及び内表面に共有結合を介して強固に結合して壁の内外表面を密に覆っており、ホッピング伝導により電子の通り道となっている。その被覆率を変化させることでホッピング伝導を制御することができると同時に、フラーレンが嵩高いため被覆率の変化によるHBCの分子配列の変化で、ホールの移動度も制御することができる。かくして、本発明によれば、例えば相補型インバーター回路用のトランジスタとして所望の特性を有する両極性の有機半導体材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、有機半導体層が、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体を含有してなる電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ及び、及び酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に当該電界効果トランジスタが形成されている半導体チップに関する。
本発明の電界効果トランジスタ(FET)は、有機半導体層として、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる超分子ナノチューブを含む材料からなることを特徴とするものである。本発明の電界効果トランジスタ(FET)の有機半導体層の材料として使用される超分子ナノチューブは、ドーパントとしてのフラーレンが共有結合を介して結合し、ナノチューブの内外表面を被覆率を制御して覆ったものであり、このような材料は、本発明により初めて提供されたものである。
【0019】
本発明のフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、前記した一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0020】
前記一般式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは10〜30、より好ましくは10〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、好ましい具体例としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシルル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられ、これらは直鎖状、分枝状又は環状の何れであってもよい。また、炭素数が10以下のアルキル基の場合は、例えばt−ブチル基のような嵩高い基が好ましい。
【0021】
前記一般式(1)において、R及びRで表されるCOCHCH(OCHCH)nORにおけるRで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0022】
また前記一般式(1)において、R及びRで表されるCOCHCH(OCHCH)nORにおけるRで表されるフラーレンCmを有する基としてはポリエチレングリコール鎖の先端に結合できるものであれば特に制限はないが、カルボキシル基を有するフラーレンCmが合成の容易さから好適である。フラーレンCmにおけるmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数をとりうるが、30,60,70,76,78,80,82,84,86,88,90,92,94,96が好ましく、60が特に好ましい。また金属を内包するフラーレン類も用いることができる。nは任意の正の整数であるが、2以上の整数がより好ましい。R及びRで表されるCOCHCH(OCHCH)nORの好ましい具体例としては、例えば、
OCHCH(OCHCH)nOH、
OCHCH(OCHCH)nOCH
等が挙げられ、中でも、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOR、[Rは前記式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基]
等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これに限定されるものではない。
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物として最も好ましい化合物の例は前記した式(4)で表される。
【0024】
本発明のフラーレンを有する基を分子中に有しないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、前記した一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0025】
前記一般式(2)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは10〜30、より好ましくは10〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、好ましい具体例としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシルル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられ、これらは直鎖状、分枝状又は環状の何れであってもよい。また、炭素数が10以下のアルキル基の場合は、例えばt−ブチル基のような嵩高い基が好ましい。
【0026】
前記一般式(2)において、Rで表されるCOCHCH(OCHCHORにおけるRで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。nは任意の正の整数であるが、2以上の整数がより好ましい。
で表されるCOCHCH(OCHCH)nORの好ましい具体例としては、例えば、
OCHCH(OCHCH)nOH、
OCHCH(OCHCH)nOCH
等が挙げられ、中でも、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
【0027】
前記一般式(2)で表される化合物として最も好ましい化合物の例は前記式(5)で表される。
一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物の合計のモル数に対する一般式(1)化合物で表される化合物のモル分率は50%以上が好ましく、60〜90%がより好ましい(後述する実施例6、7及び8参照)。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
試薬は特に断らない限り、市販品をそのまま使用した。ジクロロメタン(CHCl)及びブロモベンゼンはアルゴン雰囲気下にカルシウムハイドライド(CaH)で乾燥し、使用前に蒸留した。H及び13CNMRはJEOL model NM-Excalibur500スペクトロメーターを用いて298°Kで、それぞれ500MHz及び125MHzで測定した。MALDI−TOF質量分析はApplied Biosystems BioSpectrometryTM Workstation model Voyager-DETM STRスペクトロメーターを用いて、ジスラノールをマトリックスとして測定した。電子スペクトルは温度制御機構付きJASCO model V-560 UV/VISスペクトロメーターを用いて光路長1cmの石英セルで測定した。赤外吸収スペクトルはJASCO model FT/IR-660Plusフーリエ変換赤外スベクトロメーターを用いて25℃で測定した。X線回折パターンはRigaku model RINT-2500回折計を用いてCuKαを線源として室温で測定した。走査型電子顕微鏡写真(SEM)はJEOL model JSM-6700F FE-SEMを用いて5KVで撮影した。透過型電子顕微鏡写真はPhilips model Tecnai F20電子顕微鏡を用い、Gatan slow scan CCDカメラで低線量状態下に測定した。メタノ[60]フラーレンカルボン酸(化合物8)は、Y−P.Sunらの方法(非特許引用文献5)により合成した。
【実施例1】
【0029】
化合物9(前記式(4)で表される化合物)の合成:
【0030】
合成ルート


【0031】
(1)化合物1の合成
トリエチレングリコール(20.00g,133.18mmol)をテトラヒドロフラン(THF,50ml)に溶解させ、水酸化ナトリウム(10ml,2.66M水溶液)を0℃で加え、30分攪拌した。この溶液に20mlのTHFに溶解させたp−トルエンスルフォニルクロライド(5.07g,26.62mmol)を滴下し1時間攪拌して室温まで昇温し、さらに9時間攪拌した。反応液を氷水に注ぎ、ジクロロメタン(CHCl)で抽出し、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、更に水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/メタノール(MeOH))により精製し、化合物1を無色油状物として得た(6.67g,収率82.24%)。
【0032】
(2)化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、化合物1(6.00g,19.71mmol)と4−ブロモ−4’−ヒドロキシビフェニル(4.46g,17.92mmol)を乾燥THF(100ml)に溶解させ、水酸化カリウム(2.01g,35.84mmol)を加えた後、19時間加熱還留させた。反応混合物を室温まで降温させた後、水を加え、CHClで抽出し、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、更に水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物2を白色個体として得た(4.80g,収率70%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.504 (d, J = 8.5Hz, 2H), 7.453 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
7.386 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.970 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
4.161 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.872 (t, J = 5.0 Hz, 2H),
3.700 (m, 6H), 3.611 (t, J = 4.0 Hz, 2H)
【0033】
(3)化合物3の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2を乾燥CHCl(35ml)に溶解させ、0℃まで冷却した。この溶液にピリジン(1.16ml,15.74mmol)を加え、無水酢酸(1.49ml,15.74mmol)を加えて1時間攪拌し、室温まで昇温し、さらに一晩攪拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で2回、ついで水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物3を白色個体として得た(3.37g,収率76%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.506 (d, J = 9.0Hz, 2H), 7.452 (d, J = 9.0Hz, 2H),
7.387 (d, J = 9.0Hz, 2H),6.963 (d, J = 9.0Hz, 2H),
4.211 (t, J = 5.0Hz, 2H),4.156 (t, J = 5.0Hz, 2H),
3.865 (t, J = 5.0Hz, 2H),3.696 (m, 6H),2.052 (s, 3H)
【0034】
(4)化合物4の合成
アルゴン雰囲気下、化合物3(3.24g,7.64mmol)とビス−トリフェニルフォスフォパラジウムジクロライド(0.27g,0.38mmol)、ヨウ化銅(0.14g,0.76mmol)を1,8−ジアゾビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)(35ml)と、ベンゼン(25ml)に溶解し、ベンゼン(25ml)に溶解した4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(2.06g,7.64mmol)を滴下し、60℃で一晩加熱攪拌した。室温まで降温後、反応混合物にCHClを加えて抽出し、飽和塩化アンモニウム水溶液にて洗浄、有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥した。デカンテーションにて硫酸ナトリウムを除去し、CHCl懸濁液から白色固体状の化合物4を濾取して得た(3.13g,収率60%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.567(d, J = 8.0Hz, 4H),7.526 (m, 8H),6.982 (d, J = 8.0Hz, 4H),
4.219 (t, J = 4.5Hz, 2H),4.168 (t, J = 4.5Hz, 4H),
3.873 (t, J = 5.0Hz, 4H),3.690 (m, 13H),3.539 (t, J = 5.0Hz, 2H),
3.366 (s, 3H),2.057 (s, 3H) ;
MALDI−TOF−MS: m/z:
4146として、計算値: [M]682.3;
実測値: 682.4.
【0035】
(5)化合物5の合成
アルゴン雰囲気下、化合物4(1.00g,1.46mmol)と2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(1.06g,1.46mmol)をジフェニルエーテル(4ml)に溶解し、350℃で 二日間加熱攪拌した。反応混合物を室温まで降温しシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)、さらに中圧液体クロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物5を白色個体として得た(1.47g,収率73%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.320 (d, J = 8.0Hz, 4H), 7.047 (d, J = 8.0Hz, 4H),6.830 (m, 18H),
6.662 (d, J = 8.0Hz, 4H),6.610 (d, J = 8.0Hz, 4H),
4.195 (t, J = 4.5Hz, 2H),4.090 (t, J = 4.5Hz, 4H),3.819 (m, 4H),
3.678 (m, 12H),3.515 (m, 2H),3.342 (s, 3H),2.321(t, J = 4.5 Hz, 4H),
2.037 (s, 3H),1.369 (m, 4H),1.236 (s, 32H),1.073 (b, 4H),
0.859 (t, J = 7.0Hz, 6H),
MALDI−TOF−MS: m/z
93115として、計算値: [M+H] 1375.8;
実測値: 1375.5.
【0036】
(6)化合物6の合成
化合物5(300mg,0.22mmol)をメタノール(20ml)とTHF(10ml)に溶解し、水酸化カリウム(002g,0.33 mmol)を水(1ml)に溶解させた溶液を加え、室温で1時間攪拌した。溶媒を留去後、残渣にCHClを加え水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去後し、化合物6を白色固体として得た(0.27g,収率93%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.320 (m, 4H),7.046 (d, J = 9.0 Hz, 4H),6.827 (m, 18H),
6.663 (d, J = 8.0 Hz, 4H),6.611 (d, J = 8.0 Hz, 4H),4.194 (m, 4H),
3.821 (m, 4H),3.647 (m, 14H),3.513 (t, J = 5.0 Hz, 2H),3.342 (s, 3H),
2.322 (t, J = 8.0 Hz, 4H),1.370 (m, 4H),1.236 (m, 32H),1.071 (b, 4H),
0.860 (t, J = 7.0 Hz, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
91113として、計算値: [M+H] : 1333.8;
実測値: 1333.8.
【0037】
(7)化合物7(HBC−TNF)の合成
化合物6(300mg,0.22mmol)を乾燥CHCl(100ml)に溶解し、溶液に乾燥アルゴンを10分間バブリングした後、MeNO(4ml)に溶解した塩化鉄(III)を徐々に加え、さらに25℃で1時間攪拌した。反応混合物を攪拌しながらメタノール(200ml)中に注ぎ込み、析出した固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO/hot THF)で精製した。さらにTHFから再結晶して化合物7を黄色粘脹固体として得た(140mg,収率62%)。
H−NMR(500MHz,THF−d,55℃)δ:
8.47 (s, 2H),8.38 (s, 2H),8.23-8.07 (br, 8H),7.73 (br, 4H),
7.37 (br, 2H),7.14 (br, 4H),4.30 (br, 4H),3.98(br, 4H),
3.79-3.61 (m, 16H),3.35 (s, 3H),2.88 (br, 4H),1.89 (br, 4H),
1.58-1.28 (br, 36H),0.85 (br, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
91100として、計算値: [M] 1320.74 ;
実測値: 1320.89.
【0038】
(8)化合物9の合成
アルゴン雰囲気下、化合物7(107mg,0.081mmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(62mg,0.30mmol)及びジメチルアミノピリジン(DMAP)(37mg,0.30mmol)を室温で乾燥CHCl−Bromobenzene混合溶媒(8ml)(V/V,3/1)に溶解し、メタノ[60]フラーレンカルボン酸(化合物8)(94mg,0.12mmol)を加えて生成した懸濁液を還流下に24時間反応させた。反応液を濾過して沈殿物を除去した後、濾液を塩酸(0.1N)、NaHCO飽和水溶液及びBrainで洗浄した。有機層を分離して、MgSOで乾燥した後、溶媒を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl3/CHOH,100/1,v/v)で精製し、更に、CHCl/THFから3回再沈殿で精製して化合物9を茶色固体として得た(100mg,収率59%)。
MALDI−TOF−MS: m/z:
153100として、計算値: [M] 2080.74 ;
実測値: 2080.88.
紫外可視吸収スペクトル測定で、365,395nmにヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に基づく吸収が観測された(図2)。
【実施例2】
【0039】
化合物13(前記式(5)で表される化合物)の合成:
【0040】
合成ルート

【0041】
(1)化合物2(4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニル)の合成
4−(4’−ブロモフェニル)フェノール(3.00g,0.012mol)と1−(4−トルエンスルホニル)トリエチレングリコールモノメチルエーテル(化合物1)(4.2g,0.0132mol,1.1当量)を最少量の無水N,N−ジメチルホルムアミド(〜30ml)に溶解し、無水炭酸カリウム(4g,3.3当量)を添加した。生成した懸濁液を撹拌しながら24時間加熱し反応させ、反応液を室温まで冷却した後、水(100ml)に注ぎ生成した白色沈殿を濾過した。濾別した白色沈殿はジクロロメタン(100ml)に溶解しNaSOで一晩乾燥した。NaSOを濾別後、濾液のジクロロメタンを留去して4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニル(化合物2)を白色粉末として得た(4.3g,0.0109mol,収率91%)。得られた白色粉末はそのまま次の反応に供した。
分析値: H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.50 (d, J = 8.55 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.55 Hz, 2H),
7.39 (d, J = 8.55 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 8.55 Hz, 2H),
4.15 (t, J = 4.88 Hz, 2H), 3.86(t, J = 4.88 Hz, 2H),
3.74(m, 2H), 3.67(m, 2H), 3.65(m, 2H) 3.53(m, 2H), 3.36(s, 3H).
【0042】
(2)化合物10(1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン)の合成
4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−ビフェニル(化合物2)(4g,0.01mol),DBU(9.2g,6eq),PdCl(PPh(425mg,6%)及びCuI(192mg,10%)をベンゼン(20ml)中、室温で撹拌して溶解させ、60℃に加温してトリメチルシリルエチン(TMSE)(0.71ml,0,496g,0.5eq)を加え、直ちに水(70μL,0.4eq)を加えた。60℃で24時間反応させたのち生成物を濾別し、少量の氷冷したジクロロメタンで洗浄した。生成物はシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーでジクロロメタン/メタノール(濃度勾配1−5%メタノール)で溶離して精製するか又はトルエン溶液から再結晶して、うす茶色のフレークとして1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(化合物10)を得た(2.3g,収率71%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.57 - 7.51 (m, 6H), 6.97 (d, J = 9.15 Hz, 4H),
4.15 (t, J = 4.88 Hz, 4H), 3.86 (t, J = 4.89 Hz, 4H),
3.74 (m, 4H), 3.68, (m, 4H), 3.64 (m, 4H), 3.54 (m, 4H),
3.36 (s, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=655.31(M+H)
【0043】
(3)化合物11(2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン)の合成
1,2−ビス−(4−n−ドデシルフェニル)−1,2−ジケトン(1.5g,2.75×10−3mol)とジベンジルケトン(0.58g,2.76×10−3mol)をジオキサンに溶解し100℃に加熱して、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(1.0M solution in methanol)(1eq,2.76ml)を一度に加え、更に15分間加熱した。反応混合物を水に注ぎジクロロメタンで抽出し、抽出液を蒸発乾涸した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーでジクロロメタン/ヘキサン(濃度勾配10−50% ジクロロメタン)で溶離して精製した。ジクロロメタン/n−ヘキサン(1:3)を溶離液として分取HPLCで更に精製し、蒸発乾涸して2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(化合物11)を紫色の粉末として得た(0.88g,収率44%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl):δ
〜7.24(m), 6.96 (d, J = 7.94 Hz, 4H), 6.80 (d, J = 7.94 Hz, 4H),
2.55 (t, J = 7.63 Hz, 4H), 1.56 (br., 4H), 1.26 (br., 36H),
0.88 (t, J = 6.71 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=720(M).
【0044】
(4)化合物12(1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル) −5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼン)の合成
2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(化合物11)(0.6g,8.3×10−4mol)と1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(化合物12)(0.52g,7.9×10−4mol)をシュレンク中でジフェニルエーテル(1.5ml)に懸濁させ、24時間リフラックス(〜300℃)させた後、室温まで冷却した。反応混合液はアセトンに溶解させシリカのカラムを通して未反応の1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチンを除去した。次いで溶液から溶媒を留去した後、シリカゲルのクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン、濃度勾配ジクロロメタン/ヘキサン(3/2)〜ジクロロメタン(100%))にかけて精製してうす茶色の粉末を得た(0.75g,収率70%)。
分析値:1H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.32 (d, J = 9.16 Hz, 4H), 7.05 (d, J = 8.55 Hz, 4H),
6.82 (m, 18H) 6.67 (d, J = 7.94 Hz, 4H), 6.61 (d, J = 8.55 Hz, 4H),
4.09 (t, J = 4.88 Hz, 4H), 3.82, (t, J = 4.88 Hz, 4H),
3.71 (m, 4H), 3.64 (m, 8H) 3.52 (m, 4H), 3.34 (s, 6H),
2.33 (t, J = 7.63 Hz, 4H), 1.37 (m, 4H) 1.24 (m, 34H),
1.08 (br., 4H), 0.86 (t, J = 6.71 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=1348.27(M).
【0045】
(5)化合物13(2,5−ジn−ドデシル−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン)の合成
1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル)−5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼン(0.70g,5×10−4mol)を乾燥したジクロロメタン(200ml)に溶解させガラス管の中でアルゴンガスを吹き込みながら室温で撹拌した。無水FeCl(2.7g,0.017mol,34eq)をニトロメタン(5ml)に溶解し上記の溶液に少しずつ加えると溶液の色が暗赤色〜黒色からオレンジ色に変化した。更に90分間撹拌を続けその後、メタノール(100ml)を加えクエンチした。生成した黄色の沈殿を濾別し、最初にカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/methanol 300:10)で精製し、次いでGPC(Bio-Rad BioBeads X-1,ジクロロメタン溶離液)で精製した。更にジクロロメタン/メタノールで精製すると、黄色のゲル状物が得られ、これを真空乾燥して2,5−ジn−ドデシル−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンを黄褐色の固体として得た(0.49g収率73%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl):δ
8.05 (s, 2H), 7.95 (s, 2H), 7.79 (d, J = 8.54 Hz, 2H),
7.71 (d, J = 7.94 Hz, 2H) 7.59 (s, 2H), 7.56 (s, 2H),
7.52 (d, J = 7.93 Hz, 4H), 7.10 (d, J = 7.93 Hz, 4H),
7.07 (m, 2H), 4.32 (br. 2H), 4.06 (t, J = 4.56 Hz, 4H),
3.92 (m, 4H), 3.85 (m, 4H), 3.79 (m, 4H), 3.67 (m, 4H),
3.47 (s, 6H), 2.59 (br. t, 4H), 1.69 (br., 4H),
1.46-1.30 (m, 36H), 0.89 (t, J = 7.02 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=1335.75(M
【実施例3】
【0046】
同時自己組織化
実施例1で得た化合物9と実施例2で得た化合物13をモル比 0:100,10:90,25:75,40:60,50:50,60:40,75:25,90:10,100:0で混合し加熱溶解して得たトルエン溶液(いずれも両分子をあわせて0.2mM)を室温まで放冷し1日静置したところ、黄色から茶色の懸濁液を得た。
【実施例4】
【0047】
電子顕微鏡観察
実施例3で得たそれぞれの懸濁液から析出物を回収し、走査型電子顕微鏡(SEM)像及び透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察した。結果を図3及び図4に示す(化合物9と化合物13の混合比率(a)0:100、(b)25:75、(c)50:50(d)75:25、(e)100:0)。いずれの混合比においてもナノチューブ構造体が定量的に生成していることが確認できた(図3、図4)。
また、透過型電子顕微鏡より観測されたナノチューブの直径をプロットしたところ、化合物9の混合比が増すにつれ直径が20ナノメートルから22ナノメートルに増大していることが確認できた。(図5)さらには、ナノチューブの壁の構造を詳細にみてみると、化合物13のモル分率が100%のときは壁が黒い線一本で観測されているのに対し、化合物9の割合が増えるにつれ、2本線に変化しており、壁の内外表面が系統的にフラーレンで覆われている様子が確認できた(図6)。これらのことは、同時自己組織化により、それぞれの分子が別々にナノチューブを形成しているのではなく、それぞれのナノチューブ内に両分子が混合されていることを強く示唆している。
【実施例5】
【0048】
素子作製
厚さ200ナノメートルの酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板表面をHMDS (1,1,1,3,3,3−hexamethyldisilazane)で処理し、疎水性単分子膜を形成した。その上に実施例3で得た各種の懸濁液を塗布し、各種のナノチューブ薄膜(厚さ1〜6ミクロン)を作製した。チャネル長50ミクロン、チャネル幅1ミリメートル、厚さ70ナノメートルの金電極を試料上部に真空蒸着により作製し、各種のトップコンタクト、ボトムゲート型素子を作製した(図7)。
【実施例6】
【0049】
同時自己組織化ナノチューブ薄膜のFET特性
図8の左側に、実施例4で作製した各種のトップコンタクト、ボトムゲート型素子を用いてソース−ドレイン電圧を0〜−90Vまでスイープし、ゲート電圧を0Vから−90Vまで10Vおきに変化させたときのHBCナノチューブ薄膜のFET特性(出力特性)及びソース−ドレイン電圧を0〜90Vまでスイープし、ゲート電圧を0Vから90Vまで10Vおきに変化させたときの、HBCナノチューブ薄膜のFET特性(出力特性)を示す。また、図8の右側にゲート電圧を0〜−90Vまでスイープし、ソース−ドレイン電圧を0Vから−90Vまで10Vおきに変化させたときのHBCナノチューブ薄膜のFET特性(伝達特性)及びゲート電圧を0〜90Vまでスイープし、ソース−ドレイン電圧を30Vから90Vまで10Vおきに変化させたときのHBCナノチューブ薄膜のFET特性(伝達特性)を示す。正及び負のゲート電圧印加に対し、それぞれについてFET特性が観測された。つまりこのナノチューブは電子・ホールいずれも注入及び輸送可能な同時両極性の電荷輸送特性を有するといえる。両極性トランジスタである証拠として、出力特性においては、低ゲート電圧において超線形電流が観測され、ゲート電圧の増大に伴いそれがサプレスされると同時に、線形及び飽和電流領域を含むFET特性が観測されている。また、伝達特性においても、両極性FETに特徴的なV字型のカーブを示している。構造や各部位のエネルギー準位から考えて、ホールはπスタックしたHBC中を、電子はナノチューブ表面に形成したフラーレン層中に誘起され、伝導していると考えられる。
伝達特性曲線より、電子及びホールの移動度を算出した。そのプロットを図9に示す。ホール移動度は、化合物9の増加に伴い、系統的に減少した。このことは、嵩高いフラーレン部位がナノチューブ表面を覆うことにより、壁内部のフラーレンの分子配列が乱れていくことを意味するとともに、チューブ間のホールのホッピングがフラーレンの増加に伴い阻害されるためと解釈できる。一方、電子移動度は、化合物9のモル比50%のところで初めて観測可能となる。このことは、フラーレンの被覆率が50%程度のときに、フラーレンによる伝導パスが形成されることを意味している。また、それ以上の添加により、系統的に電子移動度は上昇し、100%の時で1x10−5cm/Vs程度の値を示した。このように、コアセンブリー法により、系統的に超分子ナノチューブにおける移動度を制御することに成功した。図9より、化合物9の混合割合が50〜90%で得られるナノチューブ薄膜は、化合物9が100%で得られるナノチューブ薄膜より両極性FETとしてバランスの良い、すぐれた特性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、電気特性に優れた有機半導体を使用していることを特徴とする電界効果トランジスタを提供するものであり、簡便かつ安定した材質で製造することができる。また、本発明はフラーレンの被覆率を制御することでホッピング伝導やホールの移動度を制御できるものであることから、本発明の電界効果トランジスタは、半導体産業を始め各種の産業分野において産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を同時に自己組織化させたナノチューブの層構造を模式的に示したものである。
【図2】図2は、本発明の化合物9(HBC−C60)のクロロホルム溶液中での紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【図3】図3は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブのSEM像を示す、図面に代わる写真である。
【図4】図4は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブのTEM像を示す、図面に代わる写真である。
【図5】図5は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブの直径を示すチャートである。
【図6】図6は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブの壁厚み(TEM像)を示す、図面に代わる写真である。
【図7】図7は、作製したFET素子の構造を表す図である。
【図8】図8は、作製したFET素子の特性を表すグラフである。
【図9】図9は、ホモアセンブリー及びコアセンブリーにより得られたナノチューブの電界効果移動度のチャートである。原図では青がホール移動度を表し、オレンジが電子移動度を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層が、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体を含有してなる電荷輸送材料からなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
フラーレンが、金属を内包しているものである請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
フラーレンが、C60フラーレンである請求項1又は2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
ナノサイズ構造体が、ナノチューブである請求項1〜3のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(1)、
【化1】

[式中、Rはアルキル基を表し、R及びRはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子、アルキル基又は金属を内包していてもよいフラーレンCmを有する基を表し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方はフラーレンCmを有する基を有する(nは正の整数を表しmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数)。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、フラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)、
【化2】

[式中、Rはアルキル基を表し、RはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、nは正の整数を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である請求項1〜4のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
一般式(1)のR基が、次の式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基である請求項5に記載の電界効果トランジスタ。
【化3】

【請求項7】
一般式(1)のR及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である請求項5又は6に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
一般式(1)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(4)
【化4】

で表される化合物である請求項5〜7に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)
【化5】

で表される化合物である請求項5〜8のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項10】
フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及びフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、フラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が50%以上である請求項1〜9のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項11】
金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が60〜90%である請求項1〜10に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項12】
電界効果トランジスタが、両極性電界効果トランジスタである請求項1〜11のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項13】
電界効果トランジスタが、ボトムゲート/トップコンタクト型の電界効果トランジスタである請求項1〜12のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項14】
有機半導体層が、表面処理剤により表面処理された絶縁層に形成されたものである請求項1〜13のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項15】
表面処理剤が、ヘキサメチルジシラザンである請求項14に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに記載の電界効果トランジスタが、酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に形成されているものである請求項1〜15のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項17】
酸化シリコン絶縁膜で覆われたシリコン基板上に請求項1〜16のいずれかに記載の電界効果トランジスタが形成されている半導体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−56492(P2010−56492A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222862(P2008−222862)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日社団法人日本化学会発行の「日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集II」において発表及び平成20年5月8日高分子学会発行の「高分子学会年次大会予稿集57巻第1号」CD−ROMにおいて発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】