説明

ギア加工機の制御装置

【課題】伝達遅れを抑え且つ分岐回路無しで、一つのマスタ軸に対して一つまたは複数のスレーブ軸を同期させる。
【解決手段】ギア加工機の制御装置(1)は、工具軸コントローラ(22)とワーク軸コントローラ(12)との間を直接的に接続して通信するバス(51)を具備し、工具軸位置検出センサ(25)により検出された工具軸(40)の位置はバスを通じてワーク軸コントローラに供給され、上位コントローラ(10)は所定の同期比と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とをワーク軸コントローラに供給するようになっており、ワーク軸コントローラは、バスを通じて供給された工具軸の位置に同期比を乗算して作成された値と重畳指令とを加算して、ワーク軸(30)の移動指令を作成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを把持するワーク軸と、ワークを加工する工具を備えた工具軸とを有するギア加工機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ギアを加工するギア加工機は、ワークを把持するワーク軸と、ワークを加工する工具を備えた工具軸とを有している。これらワーク軸および工具軸は互いに同期させて駆動される必要がある。
【0003】
図8は従来技術におけるギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。図8においては、スレーブ軸モータ130がワーク軸300を駆動すると共に、マスタ軸モータ230が工具軸400を駆動する。図8に示されるように、スレーブ軸モータ130はスレーブ軸コントローラ120によって制御され、マスタ軸モータ230はマスタ軸コントローラ220によって制御される。これらスレーブ軸コントローラ120およびマスタ軸コントローラ220はそれぞれバス110、210によって上位コントローラ100に接続されている。上位コントローラ100は全ての軸を制御するものとする。
【0004】
また、スレーブ軸モータ130に備えられた速度検出センサ140はスレーブ軸モータ130の回転速度を検出してスレーブ軸コントローラ120にフィードバックする。また、スレーブ軸位置検出センサ150はスレーブ軸(この場合はワーク軸300)の位置を検出してスレーブ軸コントローラ120にフィードバックする。
【0005】
同様に、マスタ軸モータ230に備えられた速度検出センサ240はマスタ軸モータ230の回転速度を検出してマスタ軸コントローラ220にフィードバックする。また、マスタ軸位置検出センサ250はマスタ軸(この場合は工具軸400)の位置を検出してマスタ軸コントローラ220にフィードバックする。
【0006】
図8に示されるギア加工機によってヘリカルギア等を加工する場合には、ねじれ動作を加える必要がある。そのような場合には、ワーク軸300と工具軸400とを互いに同期させるための同期指令と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とを上位コントローラ100において合成して、スレーブ軸コントローラ120に供給している。
【0007】
図8においては、マスタ軸位置検出センサ250により検出された工具軸400の位置フィードバックデータをマスタ軸コントローラ220およびバス210に通して上位コントローラ100に供給している。そして、上位コントローラ100はこのデータをバス110に通してスレーブ軸コントローラ120に供給することにより同期を行うようにしている。特許文献1においても、工具軸の位置フィードバックを上位コントローラに供給し、位置フィードバックに同期するようにワーク軸を動作させている。
【0008】
図9は従来技術におけるギア加工機の制御装置の他の機能ブロック図である。図9においては、マスタ軸位置検出センサ250とスレーブ軸コントローラ120とを接続する分岐回路190が設けられている。図9においては、マスタ軸位置検出センサ250により検出された工具軸400の位置フィードバックデータを分岐回路190に供給する。そして、分岐回路190がデータをコントローラ220およびスレーブ軸コントローラ120に分岐して供給し、それにより、同期を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−238504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図8に示されるギア加工機においては、マスタ軸(工具軸)の位置フィードバックデータをスレーブ軸コントローラ120に転送するために、上位コントローラ100を経由する必要がある。このため、マスタ軸(工具軸)の位置フィードバックデータの伝達遅れが発生し、高精度での同期が困難であった。
【0011】
また、図9に示されるギア加工機においては、分岐回路190を必要とするので、その分だけギア加工機の費用が増すことになる。さらに、マスタ軸(工具軸400)とスレーブ軸(ワーク軸300)との関係は電気的に1対1に固定されているので、スレーブ軸を他の軸(図示しない)に変更するのが困難である。そして、図9においては、一つのマスタ軸(工具軸400)に対して、複数のスレーブ軸を同期させられないという問題がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、伝達遅れを抑え、分岐回路を使用することなしに、一つのマスタ軸に対して一つまたは複数のスレーブ軸を同期させられるギア加工機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、ギア加工機の制御装置において、工具軸を駆動する工具軸モータと、該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、ワーク軸を駆動するワーク軸モータと、該ワーク軸モータを制御するワーク軸コントローラと、前記工具軸コントローラおよび前記ワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、前記工具軸コントローラと前記ワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信するバスと、を具備し、前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて前記ワーク軸コントローラに供給され、前記上位コントローラは所定の同期比と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とを前記ワーク軸コントローラに供給するようになっており、前記ワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記ワーク軸の移動指令を作成するようにしたギア加工機の制御装置が提供される。
【0014】
2番目の発明によれば、ギア加工機の制御装置において、工具軸を駆動する工具軸モータと、該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、複数のワーク軸を駆動する複数のワーク軸モータと、前記複数のワーク軸モータを制御する複数のワーク軸コントローラと、前記工具軸コントローラと前記複数のワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信する単一のバスと、前記工具軸コントローラおよび前記複数のワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、を具備し、前記上位コントローラは前記複数のワーク軸コントローラから一つのワーク軸コントローラを指定する指定部を含み、前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて、前記指定部により指定された一つのワーク軸コントローラに供給され、前記上位コントローラは所定の同期比と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とを前記一つのワーク軸コントローラに供給するようになっており、前記一つのワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記一つのワーク軸コントローラに対応するワーク軸の移動指令を作成するようにしたギア加工機の制御装置が提供される。
【0015】
3番目の発明によれば、ギア加工機の制御装置において、工具軸を駆動する工具軸モータと、該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、複数のワーク軸を駆動する複数のワーク軸モータと、前記複数のワーク軸モータを制御する複数のワーク軸コントローラと、前記工具軸コントローラおよび前記複数のワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、前記工具軸コントローラと前記複数のワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信する単一のバスと、を具備し、前記複数のワーク軸コントローラのうちの二つのワーク軸コントローラが一つのワークを一緒に把持するのに使用されており、前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて、前記二つのワーク軸コントローラに供給され、前記二つのワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記一つのワーク軸コントローラに対応するワーク軸の移動指令を作成するギア加工機の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
1番目の発明においては、上位コントローラを経由することなしに、工具軸の位置をバスに通してワーク軸コントローラに直接的に伝達している。従って、伝達遅れを抑え、分岐回路を使用することなしに、一つのマスタ軸(工具軸)に対して一つのスレーブ軸(ワーク軸)を同期させられる。
2番目の発明においては、上位コントローラを経由することなしに、工具軸の位置をバスに通して、指定された一つのワーク軸コントローラに直接的に伝達している。従って、伝達遅れを抑え、分岐回路を使用することなしに、一つのマスタ軸(工具軸)に対して複数のスレーブ軸(ワーク軸)のうちの一つのスレーブ軸(ワーク軸)を同期させられる。
3番目の発明においては、上位コントローラを経由することなしに、工具軸の位置をバスに通して、ワークを保持するのに使用される二つのワーク軸コントローラに直接的に伝達している。従って、伝達遅れを抑え、分岐回路を使用することなしに、一つのマスタ軸(工具軸)に対して二つのスレーブ軸(ワーク軸)を同期させられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に基づくギア加工機の制御装置の概念図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明に基づくギア加工機の制御装置のマスタ軸の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明に基づくギア加工機の制御装置の上位コントローラの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に基づくギア加工機の制御装置のスレーブ軸の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第二の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。
【図7】本発明の第三の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。
【図8】従来技術におけるギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。
【図9】従来技術におけるギア加工機の制御装置の他の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくギア加工機の制御装置の概念図である。ギア加工機の制御装置1は、工具41、例えば砥石、カッタを回転させるマスタ軸モータ23と、ワーク31、例えば加工されるべきギア、ヘリカルギアを回転させるスレーブ軸モータ13とを主に含んでいる。なお、本願明細書において工具41の回転軸を工具軸40およびワーク31の回転軸をワーク軸30と呼ぶ。図1においては、これら工具軸40およびワーク軸30は所定の角度、例えば90度をなしている。
【0019】
図2は本発明の第一の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。図2に示されるように、スレーブ軸モータ13がワーク軸30を駆動すると共に、マスタ軸モータ23が工具軸40を駆動するものとする。図2に示されるように、スレーブ軸モータ13はスレーブ軸コントローラ12(ワーク軸コントローラ)によって制御され、マスタ軸モータ23はマスタ軸コントローラ22(工具軸コントローラ)によって制御される。これらスレーブ軸コントローラ12およびマスタ軸コントローラ22はそれぞれバス11、21によって上位コントローラ10に接続されている。上位コントローラ10は全ての軸を制御するものとする。
【0020】
ここで、ギア加工機の制御装置1の上位コントローラ10はワーク軸30および工具軸40を互いに同期させる同期指令を作成している。そして、ヘリカルギア等のようにワーク軸30に対して傾斜方向にねじれた歯部を形成する場合には、上位コントローラ10は、同期指令に加えて、ねじれに関する補正を重畳指令として作成している。
【0021】
さらに、スレーブ軸モータ13に備えられた速度検出センサ14はスレーブ軸モータ13の回転速度を検出してスレーブ軸コントローラ12にフィードバックする。また、スレーブ軸位置検出センサ15はスレーブ軸(この場合はワーク軸30)の位置を検出してスレーブ軸コントローラ12にフィードバックする。
【0022】
同様に、マスタ軸モータ23に備えられた速度検出センサ24はマスタ軸モータ23の回転速度を検出してマスタ軸コントローラ22にフィードバックする。また、マスタ軸位置検出センサ25はマスタ軸(この場合は工具軸40)の位置を検出してマスタ軸コントローラ22にフィードバックする。
【0023】
工具軸40の回転数とワーク軸30の回転数との比は、上記コントローラ内において所定値に設定されており、その値は上位コントローラ10からスレーブ軸コントローラ12に伝達される。
【0024】
図2に示されるように、本発明においては、バス51がスレーブ軸コントローラ12とマスタ軸コントローラ22とを直接的に接続している。バス51は通信バスであり、二つのコントローラ12、22の間でデータを高速で通信できる。スレーブ軸コントローラ12は、このバス51を通じてマスタ軸コントローラ22から受け取ったマスタ軸位置フィードバックデータに、前記工具軸40とワーク軸30との回転数の比を乗算し、スレーブ軸モータ13を駆動することで、工具軸40に同期してワーク軸30を駆動する。
【0025】
図3から図5は本発明に基づくギア加工機の制御装置のそれぞれマスタ軸、上位コントローラおよびスレーブ軸の動作を示すフローチャートである。以下、図3から図5を参照して、図2に示される第一の実施形態における動作について説明する。
【0026】
第一の実施形態においては、マスタ軸が工具軸40であり、スレーブ軸がワーク軸30である。はじめに、図3を参照して、マスタ軸(以下、工具軸40)の動作について説明する。図3のステップS11においては、マスタ軸位置検出センサ25が工具軸40の位置を検出して、マスタ軸コントローラ22にフィードバックする。マスタ軸コントローラ22は、フィードバックされた工具軸40の位置データを読取る。
【0027】
そして、ステップS12において、工具軸40の位置フィードバックデータを、スレーブ軸に対するデータ転送用レジスタに書込む。このレジスタは図示しないものの、マスタ軸コントローラ22内に備えられているものとする。
【0028】
次いで、図4を参照して、上位コントローラ10の動作を説明する。図4のステップS21において、上位コントローラ10は記憶部(図示しない)に記憶されたパラメータまたは加工プログラムを読込む。そして、マスタ軸がどの軸であるかを認識し、スレーブ軸がどの軸であるかを認識する。前述したように、図2に示される第一の実施形態においては、マスタ軸は工具軸40であり、スレーブ軸はワーク軸30である。
【0029】
そして、ステップS22において、認識されたスレーブ軸に対応するコントローラ12に対して、第一情報、第二情報および所定の同期比をバス11に通して送信する。ここで、第一情報は、自軸がスレーブ軸となっているか否かを判断するためのフラグである。第二情報は、自軸がスレーブ軸である場合に、スレーブ軸に対するマスタ軸はどの軸であるかを示す軸名称である。図2に示される第一の実施形態においては、単一のワーク軸30のみを備えているので、第一情報および第二情報は自動的に定まる。
【0030】
次いで、図5を参照して、スレーブ軸(ワーク軸30)の動作を説明する。図5のステップS31においては、ワーク軸30は、上位コントローラ10から第一情報、第二情報、同期比および重畳指令を読取る。そして、ステップS32においては、スレーブ軸コントローラ12が第一情報の内容を判定する。そして、自軸がスレーブ軸である場合にはステップS33に進み、自軸がスレーブ軸でない場合にはステップS35に進む。図2に示される第一の実施形態においては、スレーブ軸(ワーク軸30)は一つのみであるので、プロセスは常にステップS33に進むことになる。
【0031】
ステップS33において、スレーブ軸コントローラ12が上位コントローラ10から第二情報を読取る。そして、第二情報から読取るべきマスタ軸のデータアドレスを特定する。次いで、ステップS34において、スレーブ軸コントローラ12は、マスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データを読取る。
【0032】
図2に示されるように、スレーブ軸コントローラ12はマスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データをマスタ軸コントローラ22からバス51を通じて直接的に読取る。つまり、本発明においては、マスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データは上位コントローラ10を経由することなしに直接的にスレーブ軸コントローラ12に供給される。それゆえ、本発明においては、伝達遅れが生じるのを抑えられるのが分かるであろう。
【0033】
次いで、ステップS36において、スレーブ軸コントローラ12は、工具軸40の位置データに同期比を乗算した値に重畳指令を加算して、ワーク軸30の最終移動指令を作成する。図2を参照して分かるように、作成された移動指令はスレーブ軸モータ13に供給され、スレーブ軸モータ13は移動指令に基づいてワーク軸30を駆動する。これにより、工具軸40に同期させて、ワーク軸30を駆動することが可能となる。移動指令は重畳指令を含んでいるので、ヘリカルギアなどを適切に加工することができる。
【0034】
このように、本発明においては、上位コントローラ10を経由することなしに、工具軸40の位置をバス51に通してスレーブ軸コントローラ12に直接的に伝達している。従って、伝達遅れを抑え、分岐回路を使用することなしに、一つの工具軸40に対して一つのワーク軸30を同期させられる。この結果、工具軸40とワーク軸30との間の同期精度を高められるのが分かるであろう。
【0035】
さらに、図6は本発明の第二の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。図6においては、複数のスレーブ軸コントローラ12a〜12dが示されている。これらスレーブ軸コントローラ12a〜12dは図2に示されるスレーブ軸コントローラ12と同様な構成であり、スレーブ軸モータ13、速度検出センサ14、スレーブ軸位置検出センサ15をそれぞれ備えるが、簡潔にする目的で、それらの図示を省略する。
【0036】
そして、第二の実施形態においては、図6に示されるように、バス51がマスタ軸コントローラ22からスレーブ軸コントローラ12a〜12dを貫通して延びている。そして、スレーブ軸コントローラ12a〜12dのそれぞれのワーク軸30a〜30dには、ワーク31a〜31d、例えばギア、ヘリカルギアがそれぞれ備えられている。また、工具軸40には、工具41、例えば砥石、カッタが設けられている。図6に示される構成は、複数のワーク軸30a〜30dを選択的に切換えて加工する場合に使用される。
【0037】
図6に示される実施形態においては、ギア加工機の制御装置1は複数のスレーブ軸コントローラ12a〜12dを含んでいる。このため、工具軸40の工具41により加工されるべきワーク軸を複数のワーク軸30a〜30dから指定する必要がある。上位コントローラ10は指定部9を含んでおり、以下の手順で、複数のワーク軸30a〜30dから一つのワーク軸を指定する。
【0038】
図5を再び参照して、指定部9によるワーク軸の指定動作について説明する。図5のステップS32においては、スレーブ軸コントローラ12a〜12dのそれぞれが上位コントローラ10から読込んだ第一情報の内容を判定する。第二の実施形態においては、ワーク軸30aに関する第一情報はワーク軸30aがスレーブ軸であることを示すフラグを含んでおり、ワーク軸30b〜30dに関する第一情報はワーク軸30b〜30dがスレーブ軸でないことを示すフラグを含んでいる。そして、自軸がスレーブ軸である場合にはステップS33に進み、自軸がスレーブ軸でない場合にはステップS35に進む。
【0039】
自軸がスレーブ軸であると判定したスレーブ軸コントローラ、例えばスレーブ軸コントローラ12aはステップS33、S34、S36に従って前述したようにワーク軸30の最終移動指令を作成する。この場合にも、マスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データはマスタ軸コントローラ22からバス51を通じてスレーブ軸コントローラ12aに直接的に伝達される。これに対し、ステップS32において自軸がスレーブ軸でないと判定したスレーブ軸コントローラ、例えばスレーブ軸コントローラ12b〜12dは、ステップS35において、マスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データをゼロにする。
【0040】
言い換えれば、自軸がスレーブ軸でないと判定された場合には、工具軸40の位置データは、対応するスレーブ軸コントローラ12b〜12dのそれぞれに入力されない。この場合には、マスタ軸に同期しない自軸の移動のための指令(図示しない)のみが、上位コントローラ10から対応するバス11b〜11dのそれぞれを通じてスレーブ軸コントローラ12b〜12dに入力される。あるいは、スレーブ軸コントローラ12b〜12dのワーク軸30b〜30dが駆動されないような指令をスレーブ軸コントローラ12b〜12dに入力してもよい。他のステップについては前述したのと同様であるので、説明を省略する。
【0041】
図6に示される第二の実施形態においても、バス51を通してマスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データをスレーブ軸コントローラ12aに直接的に伝達しているので、前述したのと同様な効果が得られるのが分かるであろう。さらに、第二の実施形態においては、一つの工具軸40に対して、複数のワーク軸30a〜30dのうちの一つのワーク軸30aを同期させるのを容易に行うことができる。さらに、工具軸40が同期の対象にするワーク軸を加工プログラムやパラメータに応じて容易に変更することも可能である。
【0042】
また、図面には示さないものの、複数の工具軸40と単一のワーク軸30とを備える構成である場合には、ワーク軸30が同期の対象とする工具軸40を第二情報に基づいて指定できる。従って、複数の工具軸40と単一のワーク軸30とを備える構成である場合であっても、ワーク軸30が同期の対象とする工具軸40を容易に指定できるのが分かるであろう。
【0043】
さらに、図7は本発明の第三の実施形態に基づくギア加工機の制御装置の機能ブロック図である。図7においては、二つのスレーブ軸コントローラ12a、12bが示されている。これらスレーブ軸コントローラ12a、12bもスレーブ軸モータ13、速度検出センサ14、スレーブ軸位置検出センサ15をそれぞれ同様に備えるものとする。さらに、バス51がマスタ軸コントローラ22からスレーブ軸コントローラ12a、12bを貫通して延びている。
【0044】
さらに、図7においては、スレーブ軸コントローラ12aに関連づけられるワーク軸30aと、スレーブ軸コントローラ12bに関連づけられるワーク軸30bとによって、一つのワーク31が把持されている。つまり、図7に示される第三の実施形態においては、複数のワーク軸によって単一のワークが支持されるようになっている。このような構成は、一つのスレーブ軸モータでは駆動トルクが不足する場合、または比較的長尺のワークの両端を掴んで加工するような場合に採用される。なお、当然のことながら、三つ以上のワーク軸によって単一のワークを支持する構成であってもよい。
【0045】
図7に示される実施形態においては、一つの工具軸40に対して、二つのワーク軸30a、30bを同期させる必要がある。従って、図5を再び参照すると、ステップS32においては、スレーブ軸コントローラ12a〜12bの両方が上位コントローラ10から読込んだ第一情報の内容を判定する。この場合には、ワーク軸30a、30bの両方がスレーブ軸である。そして、マスタ軸位置検出センサ25が検出した工具軸40の位置データはマスタ軸コントローラ22からバス51を通じてスレーブ軸コントローラ12a、12bの両方に直接的に伝達される。従って、スレーブ軸コントローラ12a〜12bの両方がステップS33、S34、S36に従って前述したようにワーク軸30a〜30bの最終移動指令を作成することとなる。
【0046】
図7に示される第三の実施形態においても、工具軸40の位置データはマスタ軸コントローラ22からバス51を通じてスレーブ軸コントローラ12a、12bの両方に直接的に伝達されるので、前述したのと同様な効果が得られるのが分かるであろう。さらに、第三の実施形態においては、一つの工具軸40に対して二つのワーク軸30a、30bを同期させるのを容易に行うことができる。つまり、第三の実施形態においては、ワーク31を二つのワーク軸30a、30bで両端から把持する構成であっても、一つの工具軸40に対して二つのワーク軸30a、30bを同期させることが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 ギア加工機の制御装置
9 指定部
10 上位コントローラ
11 バス
12、12a〜12d スレーブ軸コントローラ(ワーク軸コントローラ)
13 スレーブ軸モータ
14 速度検出センサ
15 スレーブ軸位置検出センサ
21 バス
22 マスタ軸コントローラ(工具軸コントローラ)
23 マスタ軸モータ
24 速度検出センサ
25 マスタ軸位置検出センサ
30、30a〜30d ワーク軸(スレーブ軸)
31、31a〜31d ワーク
40 工具軸(マスタ軸)
41 工具
51 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア加工機の制御装置において、
工具軸を駆動する工具軸モータと、
該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、
前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、
ワーク軸を駆動するワーク軸モータと、
該ワーク軸モータを制御するワーク軸コントローラと、
前記工具軸コントローラおよび前記ワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、
前記工具軸コントローラと前記ワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信するバスと、を具備し、
前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて前記ワーク軸コントローラに供給され、
前記上位コントローラは所定の同期比と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とを前記ワーク軸コントローラに供給するようになっており、
前記ワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記ワーク軸の移動指令を作成するようにしたギア加工機の制御装置。
【請求項2】
ギア加工機の制御装置において、
工具軸を駆動する工具軸モータと、
該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、
前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、
複数のワーク軸を駆動する複数のワーク軸モータと、
前記複数のワーク軸モータを制御する複数のワーク軸コントローラと、
前記工具軸コントローラと前記複数のワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信する単一のバスと、
前記工具軸コントローラおよび前記複数のワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、を具備し、
前記上位コントローラは前記複数のワーク軸コントローラから一つのワーク軸コントローラを指定する指定部を含み、
前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて、前記指定部により指定された一つのワーク軸コントローラに供給され、
前記上位コントローラは所定の同期比と、ねじれ動作を加えるための重畳指令とを前記一つのワーク軸コントローラに供給するようになっており、
前記一つのワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記一つのワーク軸コントローラに対応するワーク軸の移動指令を作成するようにしたギア加工機の制御装置。
【請求項3】
ギア加工機の制御装置において、
工具軸を駆動する工具軸モータと、
該工具軸モータを制御する工具軸コントローラと、
前記工具軸の位置を検出する工具軸位置検出センサと、
複数のワーク軸を駆動する複数のワーク軸モータと、
前記複数のワーク軸モータを制御する複数のワーク軸コントローラと、
前記工具軸コントローラおよび前記複数のワーク軸コントローラに接続された上位コントローラと、
前記工具軸コントローラと前記複数のワーク軸コントローラとの間を直接的に接続して通信する単一のバスと、を具備し、
前記複数のワーク軸コントローラのうちの二つのワーク軸コントローラが一つのワークを一緒に把持するのに使用されており、
前記工具軸位置検出センサにより検出された前記工具軸の位置は前記バスを通じて、前記二つのワーク軸コントローラに供給され、
前記二つのワーク軸コントローラは、前記バスを通じて供給された前記工具軸の位置に前記同期比を乗算して作成された値と前記重畳指令とを加算して、前記一つのワーク軸コントローラに対応するワーク軸の移動指令を作成するギア加工機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−97664(P2013−97664A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241195(P2011−241195)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】