説明

ギヤポンプ

【課題】 駆動ギヤと従動ギヤとの噛み合わせ部に閉じ込められる高圧の流体が吸込側に解放される際の異音の発生を有効に低減することができ、静粛な運転が可能なギヤポンプを提供する。
【解決手段】 ギヤ室13の内部に、相互に噛合して回転する駆動ギヤ2及び従動ギヤ3を配置してあるギヤポンプにおいて、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3へ流体を吸い込む各別の吸込路6、6と、流体を吐出する吐出室5と駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の噛合位置を挟んで反対側に位置する中間圧室4とを備え、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の間の閉じ込み空間Sに封止された高圧の流体が、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の回転に応じて中間圧室4に噴出し、圧力が解放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に噛合する一対のギヤの回転によりポンプとして機能させるギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ギヤポンプは、長円形の軸断面を有するギヤ室の内部に互いに平行をなす軸回りに回転する駆動ギヤ及び従動ギヤを設け、駆動ギヤ及び従動ギヤをギヤ室の略中央にて相互に噛み合わせ、噛み合わせ位置の両側に吸込室及び吐出室を形成してある。そして、吸込室内部の流体を駆動ギヤ及び従動ギヤの歯間に受け入れ、ギヤ室の内周面との間に封止して吐出室に送り出すポンプとして機能させる。ギヤポンプは、簡素な構成により高圧の発生が可能なポンプとして、多くの産業分野において広く用いられている。
【0003】
上述したギヤポンプは、吐出室との対面側にてギヤ対の歯間に閉じ込められた高圧の流体が、噛み合わせ位置を超えた後に吸込側に噴出して圧力が解放される際に耳障りな異音(コモリ音)が発生するという問題点を潜在的に有している。図6は、コモリ音の発生挙動の説明のためのギヤ対の噛み合わせ位置近傍の拡大図である。
【0004】
図6では、ギヤ対を構成する駆動ギヤ2と従動ギヤ3との噛合位置の両側は、低圧の吸込室(図の右側)と高圧の吐出室(図の左側)とに夫々臨ませてある。駆動ギヤ2の歯2aと従動ギヤ3の歯3aとは、2点にて接触可能な歯型を採用し、先行する歯2a、3aの接触点Aと、後続する歯2a、3aの接触点Bとの間に、図中にハッチングを施して示す閉じ込み空間Sを形成して、高圧の吐出室から低圧の吸込室への流体の逆流を防止する構成としてある。
【0005】
閉じ込み空間Sには、噛合位置に至る前に吐出室を臨む歯2a、2a間及び歯3a、3a間に満たされる流体が、図中に矢符にて示す駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の回転に伴って閉じ込められ、更なる回転により接触を解除した歯2a、2a及び歯3a、3a間から吸込室に噴出される。閉じ込み空間S内部の流体は、噴出された時点において吐出室側での閉じ込み時点における高圧を保っており、噴出されることにより圧力が解放され、急速な減圧によるコモリ音が発生する。
【0006】
そこで従来は、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の側面に対向するギヤ室の側壁に、図6中の破線で示すように、吸込室の側から閉じ込み空間Sの近傍にまで延設された逃がし溝8と吐出室の側から同様に延設された連通溝9とを形成し、閉じ込み空間S内に閉じ込められた流体の一部を、閉じ込みの発生直後に逃がし溝8を経て吸込室に逃がし、吸込室への噴出時点における急減圧の発生を緩和して、異音を低減する対策が施されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−82377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された構成では、逃がし溝8の閉じ込み空間S内への連通が、閉じ込み空間Sの発生直後の適正なタイミングにて生じた場合は有効であるが、連通タイミングに前後のずれが生じた場合、十分な異音の低減効果が得られないという問題がある。
【0008】
すなわち、逃がし溝8は、ギヤ室の平坦な側面に形成される凹溝であり、形状精度及び位置精度の向上に限界がある。一方、閉じ込み空間Sは、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の噛み合いにより生じる空間であり、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の取り付け誤差、歯型の成形誤差等、各部の寸法誤差の集積により、ギヤ室内での絶対位置が変化する。したがって、閉じ込み空間S内への逃がし溝8の連通を、上述した適正なタイミングで実現することは困難である。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、駆動ギヤと従動ギヤとの噛み合わせ部に閉じ込められた高圧の流体が吸込側に解放される際の異音の発生を有効に低減することができ、静粛な運転が可能なギヤポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために第1発明に係るギヤポンプは、ギヤ室の内部に、相互に噛合して回転する駆動ギヤ及び従動ギヤを配置してあるギヤポンプにおいて、前記駆動ギヤ及び従動ギヤへ流体を吸い込む各別の吸込路と、流体を吐出する吐出室と前記駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合位置を挟んで反対側に位置する中間圧室とを備えることを特徴とする。
【0011】
第1発明に係るギヤポンプでは、駆動ギヤ及び従動ギヤへ流体を吸い込む各別の吸込路を介して低圧の流体を吸い込み、噛合位置の一側の吐出室から、駆動ギヤと従動ギヤとの間の閉じ込み空間に封止された高圧の流体を、吸込路よりも高い中間圧に保たれた中間圧室に対して噴出し、流体の圧力解放に伴う急減圧の発生を緩和することにより、コモリ音の発生を軽減する。
【0012】
また、本発明の第2発明に係るギヤポンプは、第1発明において、前記中間圧室の内部に、流体を低圧部へ誘導する誘導溝を備えることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係るギヤポンプでは、噛合位置の他側の中間圧室の内部に、駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合位置から戻された流体を、さらに低圧部へと誘導することにより流体の圧力をさらに解放する誘導溝を備える。これにより、中間圧室に解放されて減圧した流体をさらに低圧部へ誘導して減圧することで、急減圧の発生を抑制してコモリ音の発生を軽減するとともに、流体を吸い込む時点の低い圧力まで減圧することが可能となる。
【0014】
また、第3発明に係るギヤポンプは、第2発明において、前記誘導溝は、前記ギヤ室を形成するハウジングと前記駆動ギヤを駆動する駆動源とを接続するブラケットと連通しており、前記ハウジングの外法寸法は、前記ブラケットの内法寸法よりわずかに小さいことを特徴とする。
【0015】
第3発明に係るギヤポンプでは、駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合位置から解放された戻り流体を、さらに低圧の空間へと誘導する誘導溝は、ブラケットと連通し、流体を吸い込み時点の低い圧力まで減圧することができる。また、ギヤ室を形成するハウジングとブラケットとの間は、ハウジングの外法寸法に対してわずかしか開放されていないことから、万一戻ってきた流体の急減圧により異音が発生した場合であっても、異音が外部へ漏れ出ることを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るギヤポンプによれば、駆動ギヤと従動ギヤとの間の閉じ込み空間に閉じ込められた高圧の流体が中間圧室に噴出されることから、解放に伴う急減圧を緩和し、コモリ音等の異音の発生を有効に低減することができ、また異音が外部へ漏れ出ることを抑制することができることから、静粛な運転を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施の形態1)
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明の実施の形態1に係るギヤポンプの側断面図、図2は、図1のII−II線による部分断面図である。
【0018】
本実施の形態に係るギヤポンプは、短寸筒形をなすギヤハウジング10をブラケット11に固着し、ギヤハウジング10の内部には長円形の断面形状を有するギヤ室13が形成されており、ギヤ室13の内部に、駆動ギヤ2と従動ギヤ3とからなるギヤ対を配置している。
【0019】
駆動ギヤ2及び従動ギヤ3は、軸受孔により両持ち支持され、互いに平行をなす各別の回転軸20、30を介してギヤ室13の両側の半円部の中心上に回転自在に支持されており、両軸20、30の軸心を含む面内において互いに噛合している。
【0020】
駆動ギヤ2の回転軸20は、ブラケット11側へ延長され、図示しないモータ等の駆動源に連結された駆動軸である。駆動ギヤ2は、駆動源からの伝動により、回転軸20と共に回転駆動されるようになしてある。従動ギヤ3の回転軸30は、軸受孔により軸端を支持された従動軸であり、従動ギヤ3は、駆動ギヤ2の回転に応じて回転軸30と共に従動回転するようになしてある。
【0021】
図2には、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の回転方向が矢符により示してあり、ギヤ室13の内部の両ギヤ2、3の噛合位置を挾んだ両側には、回転方向の下流側に中間圧室4が形成され、同じく上流側に吐出室5が形成されている。吐出室5は、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の噛み合わせ部を全体として臨むように形成されている。吐出孔7は、吐出室5の中央部に連通され、ギヤハウジング10の外側に位置する吐出先(図示せず)に接続されている。
【0022】
中間圧室4は、下部に噛合位置からの戻り流体を誘導する誘導溝17を備える。誘導溝17は、ブラケット11内部と連通しており、ギヤハウジング10との隙間から戻り流体を放出する。
【0023】
流体の吸込路6、6は駆動ギヤ2及び従動ギヤ3へ各々別路として設けている。図3は、吸込路6、6の近傍を駆動ギヤ2と従動ギヤ3との噛合位置を含めて示す拡大図である。図3に示すように、吸込路6、6は、ギヤハウジング10の内周面のうち、吐出室5が設けてある側の反対側に、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3夫々に流体を流入することが可能に設けてある。
【0024】
図3では、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の外面に沿うように噛合位置に向けて突設された凸部16により、駆動ギヤ2側の第1室4aと従動ギヤ3側の第2室4bと、これら両室4a、4b間の中間圧室4とに分離構成されている。吸込孔6、6は、第1室4a、第2室4bへと各別に連通される。
【0025】
また、ギヤ室13の側壁を構成するサイドプレート12、12には、図6に示す従来のギヤポンプにおけると同様、逃がし溝8及び連通溝9が設けられている。図4は、逃がし溝8及び連通溝9の形成態様を示すサイドプレート12の平面図である。図4のようにサイドプレート12は、駆動ギヤ2の支持孔21及び従動ギヤ3の支持孔31を中心とする円板を両支持孔21、31間に所定の間隔を保って連絡し、ギヤハウジング10の内側空洞部に対応する平面形状を有する平板として構成されている。
【0026】
サイドプレート12の一面には、支持孔21、31の間に、中間圧室4の側(図の右側)を基端とし、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の噛合位置となる中心に向けて延びる逃がし溝8が形成され、また吐出室5の側(図の左側)を基端とし、同様に中心に向けて延びる連通溝9が形成されている。逃がし溝8及び連通溝9は、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の歯2a、3aの歯丈に対応する所定の幅を有する浅底の凹溝であり、サイドプレート12の中心を挾んで対向する逃がし溝8及び連通溝9の先端部は、幅方向の中央を窪ませたM字形の形状を有している。
【0027】
駆動ギヤ2及び従動ギヤ3は、歯元のアンダーカットにより噛合干渉を逃れた高歯のインボリュート歯型を採用し、図3のように2点にて接触可能に構成された歯2a、3aを夫々有しており、先行して接触する歯2a、3aの接触点Aと、後から接触する歯2a、3aの接触点Bとの間に、図3中にハッチングを施して示す閉じ込み空間Sを形成する。閉じ込み空間Sにより、噛合位置の一側のやや低圧の中間圧室4と高圧の吐出室5との間を封止し、吐出室5から中間圧室4への逆流を防止する構成としてある。
【0028】
逃がし溝8及び連通溝9の先端のM字形の窪みは、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の噛合中心に閉じ込み空間Sが位置した場合、閉じ込み空間Sの両側を縁取るように形状を定めている。逃がし溝8は、従来のギヤポンプと同様、吐出室5の側にて閉じ込み空間Sに取り込まれた高圧の流体を中間圧室4に徐々に解放せしめ、解放時における急減圧を緩和して、前述したコモリ音の発生を軽減する作用をなす。また連通溝9は、閉じ込み空間Sの形成位置を、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の軸線上に確定するために設けられたものである。
【0029】
図5は、図3に示す状態から駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の回転が進行し、接触点Bが駆動ギヤ2と従動ギヤ3との噛合中心に位置した状態を示す拡大図である。この場合、接触点Bの上流側の閉じ込み空間Sは中間圧室4に解放される。
【0030】
本実施の形態1に係るギヤポンプは、中間圧室4は吸込路6、6と連通しておらず、駆動ギヤ2及び従動ギヤ3の回転位置に応じて、夫々の歯2a又は3aにより閉止されていない第1室4a又は第2室4bに連通している。したがって、中間圧室4に解放された閉じ込み空間S内の流体は、吸込路6、6内部の低圧よりも高い中間圧に保たれる。閉じ込み空間Sの解放は、中間圧に保たれた中間圧室4を介して段階的になされることとなり、解放に伴う急減圧の発生が大幅に緩和され、異音の発生を低減することができる。
【0031】
また、解放前に逃がし溝8を経て生じる流体の漏れ出しも、比較的高い内圧を有する中間圧室4に対してなされることから、小面積の逃がし溝8内を高速度にて通流する作動油のキャビテーションを軽減し、キャビテーションに伴う振動、音の発生をも有効に緩和することができ、コモリ音の低減との相乗作用により、運転音が小さく静粛な運転をなし得るギヤポンプを提供することが可能となる。
【0032】
さらに中間圧室4は、誘導溝17を介して低圧部に連通されており、中間圧室4に解放された流体の一部は、誘導溝17を経て低圧部に常時還流することができる。したがって、第1室4a又は第2室4bとの連通状態に応じた中間圧室4の内圧変動が抑制されて、コモリ音、キャビテーション音等の異音の軽減効果を安定して実現することが可能となる。
【0033】
また、ギヤハウジング10とブラケット11との間は、ギヤハウジング10の外法寸法がブラケット11の内法寸法よりわずかに小さい程度の差異しかなく、万一戻り流体による異音が発生した場合であっても、ブラケット11から外部へ漏れ出ることを抑制することが可能となる。
【0034】
(実施の形態2)
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。ギヤポンプのような小型でありながら高油圧を発生し得る回転容積形のポンプは、エンジンルームの内部等の狭小なスペースへ設置することができ、エンジンから独立した電動モータを駆動源として用いることで、無為な動力負担による燃費の低下を防止している。
【0035】
また、例えば特開平10−82377号公報のように、各種の圧力回路において使用されるポンプ装置と同様に、吐出側の油路の中途にリリーフ弁を備え、運転中の種々の外乱に起因して吐出側に発生する過剰なピーク圧をリリーフ弁の動作により吸込側に解放し、送油先としての補機、又は送油先に至る油圧配管への過剰なピーク圧の付加を未然に防止することができる。
【0036】
リリーフ弁は、圧力回路に連通する弁孔と、該弁孔を開閉する弁体とを備え、圧力回路の内圧を弁孔を介して弁体に作用させる一方、この弁体を内圧の作用方向と逆向きにコイルばねにより付勢してなり、圧力回路の内圧が上昇したとき、コイルばねのばね力に抗して生じる弁体の移動により弁孔を開口させ、該弁孔から流出する高圧の流体を、弁体及びコイルばねを収納する筒形のバルブハウジングの内部を通路として低圧部に解放するように構成されている。
【0037】
しかしながら、以上の如く構成されたリリーフ弁においては、バルブハウジングの内部に配されたコイルばねが螺旋状に巻回されたばね線の相互間に隙間を有しており、前述したリリーフ動作により弁孔から流出してバルブハウジング内を流れる高圧の流体が隙間を通過する際に、コイルばね及び流体に自励振動が発生し、この振動に起因する異音(うなり音)が発生するという問題があり、前述した車載用のポンプ装置に用いた場合、リリーフ動作毎に発生するうなり音が運転者に聴取され、不快感をもたらすおそれがあった。
【0038】
また、上述したリリーフ弁では、何らかの障害により駆動源が停止した場合、高圧部と低圧部とが分断され、例えばステアリング装置に用いているときには、操舵トルクが非常に大きくなるといった問題が生じる。斯かる問題を解決すべく、従来は、駆動源停止時のみ低圧部の油を高圧部へ流す油路を解放するチェック弁を設けていた。しかし、リリーフ弁とチェック弁とを別個に設けることは、近年、強く要望されている部品の小型化の阻害要因となる。
【0039】
そこで、本実施の形態2に係るギヤポンプでは、リリーフ弁とチェック弁とを一体化するとともに、リリーフ弁解放時の還流がコイルばねの中を通過しない構成とした。
【0040】
図7は、本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるリリーフ弁の縦断面図である。リリーフ弁1は、リリーフ対象となる圧力回路70の中途部に連設された円筒形のバルブハウジング71の内部に構成されている。なお、このようなリリーフ弁1を前述した車載用のギヤポンプの吐出油路の中途に用いる場合、圧力回路70としての吐出油路が設けられたギヤポンプのギヤハウジング10の一部にバルブハウジング71を一体に設けることが可能である。
【0041】
バルブハウジング71の圧力回路70への連通側端部には、弁孔72を備える短寸円筒形のソケット80が内嵌固定されており、バルブハウジング71の内部空間85は、弁孔72を介して圧力回路70に連通されている。また、バルブハウジング71の内部空間85は、周壁の一か所を貫通するリリーフ孔84により、バルブハウジング71の周囲の低圧部に連通されている。
【0042】
またコイルばね75を備えるバルブハウジング71の内部空間76は、周壁の一か所を貫通する減圧孔90により、バルブハウジング71の周囲の低圧部に連通されている。
【0043】
ソケット80の弁孔72は、軸心部を貫通する縦孔72aと、これの中途に交叉し、バルブハウジング71の内側に開口する横孔72bとを備えている。縦孔72aの内周には、横孔72bの交叉部よりも圧力回路70側に位置して内向きに張り出すストッパ縁81が周設されている。
【0044】
弁孔72の縦孔72aには、バルブハウジング71側の開口端から円筒形をなす弁体74が内嵌されている。開口端から突出する弁体74の端面には、押し板91を介してコイルばね75の一端部が弾接させてあり、コイルばね75のばね力により弁体74は、縦孔72aの内側に向けて付勢され、縦孔72aの中途のストッパ縁81に押し付けられている。
【0045】
押し板91は、弁体74の端面中央に設けた凹部に係合する半球形の凸部を有しており、コイルばね75による弁体74の押圧方向及び押圧位置の誤差が、半球形の凸部を支点とする押し板91の傾倒により許容されるように構成されている。
【0046】
またコイルばね75の他端は、バルブハウジング71の他側開口部に螺合された調節プラグ92に弾接させてある。調節プラグ92は、バルブハウジング71の外側からの回転操作により、バルブハウジング71の外側への突出長さの調節が可能であり、この突出長さの調節により、コイルばね75の弾性力を強弱に変更し得るように構成されている。
【0047】
以上の構成のリリーフ弁1において、リリーフ対象となる圧力回路70の内圧は、圧力回路71に連通する弁孔72内に進入し、図7中に白抜矢符により示すように弁体74の端面に上向きに作用する。一方、弁体74は、コイルばね75の弾性力により図の下向きに押圧されており、圧力回路70の内圧が低い場合、図7のようにストッパ縁81に押し付けられた状態を保つ。このとき、ストッパ縁81よりも上位置にある弁孔72の横孔72bは、弁体74により閉止された状態にあり、圧力回路70の内圧は、解放されることなく維持される。
【0048】
図8は、本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるリリーフ弁の、リリーフ動作中の状態を示す縦断面図である。圧力回路70の内圧が上昇し、弁孔72を介して弁体74に作用する圧力がコイルばね75の弾性力を上回った場合、弁体74は、圧力とばね力との力バランスに応じて弁孔72の縦孔72aに沿って上昇し、横孔72bが縦孔72aの内部に開口する。圧力回路70は、弁孔72を介してバルブハウジング71の内部に連通し、圧力回路70内の流体は、縦孔72a及び横孔72bを経てバルブハウジング71の内部空間85に噴出し、バルブハウジング71の周壁に開口するリリーフ孔84を経て低圧部に流出して、圧力回路70の内圧を低圧部に解放するリリーフ動作がなされる。またバルブハウジング71の内部空間76内の流体は、コイルばね75の伸縮に応じて、バルブハウジング71の周壁に開口する減圧孔90を経て低圧部に流出する。
【0049】
本実施の形態2に係るリリーフ弁1では、リリーフ動作がなされた場合、コイルばね75を備えるバルブハウジング71の内部空間76と、圧力回路70内の流体が噴出するバルブハウジング71の内部空間85とが、隔壁83により分離されている。したがって、弁孔72を介してバルブハウジング71の内部に連通する圧力回路70内の流体は、コイルばね75を構成するばね線間の隙間を通流することがなく、この通流に伴って生じるコイルばね75及び流体の自励振動を抑制することができ、この振動に起因するうなり音の発生を大幅に軽減することが可能となる。
【0050】
また、何らかの障害によりモータ等のギヤポンプの駆動源が停止した場合、高圧部と低圧部とが分断され、例えばギヤポンプをステアリング装置に用いているときには、操舵トルクが非常に大きくなるといった問題が生じる。斯かる問題を解決すべく、本実施の形態2では、リリーフ弁1の内部に、低圧部の油を高圧部へ流す油路を開放するチェック弁を設けている。
【0051】
図9は、本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるチェック弁近傍の部分断面図である。チェック弁の弁体100は、球状の弁体であり、コイルばね101により付勢されてリリーフ弁1の弁体74の内部に設けてある。
【0052】
縦孔72aの内周に周設されているストッパ縁81の上面にコイルばね101の一端が固着され、ステアリング装置の操舵部材を操作した場合の操舵トルクによる圧力が低圧部へ伝達され、伝達された圧力がコイルばね101の弾性力よりも大きくなったときにチェック弁の弁体100がリリーフ弁1の弁体74から離脱する。これにより、低圧部の油を高圧部である圧力回路70へ流すことにより、操舵トルクを少しでも小さく感じさせることが可能となる。
【0053】
低圧部の流体が圧力回路70側へと流れることができるように、リリーフ弁1の弁体74及び半球形の凸部を有する押し板91の内部には、流体の通路である還流路102を設けている。チェック弁の弁体100がリリーフ弁1の弁体74から離脱した場合、低圧部の油は、還流路102を通過して圧力回路70へと噴出する。
【0054】
これにより、低圧部から圧力回路70へと油が流れる流路を確保することができ、ギヤポンプの駆動源が停止した場合であっても、高圧部と低圧部とが分断されることがなく、例えばステアリング装置に用いているときには、操舵トルクを少しでも小さくすることが可能となる。また、チェック弁とリリーフ弁とを一体化することにより、部品の小型化を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1に係るギヤポンプの側断面図である。
【図2】図1のII−II線による部分断面図である。
【図3】吸込路の近傍を駆動ギヤと従動ギヤとの噛合位置を含めて示す拡大図である。
【図4】逃がし溝及び連通溝の形成態様を示すサイドプレートの平面図である。
【図5】図3に示す状態から駆動ギヤ及び従動ギヤの回転が進行した状態を示す拡大図である。
【図6】コモリ音の発生挙動の説明のためのギヤ対の噛み合わせ位置近傍の拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるリリーフ弁の縦断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるリリーフ弁の、リリーフ動作中の状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係るギヤポンプに用いるチェック弁近傍の部分断面図である。
【符号の説明】
【0056】
2 駆動ギヤ
3 従動ギヤ
4 中間圧室
4a 第1室
4b 第2室
5 吐出室
6 吸込路
10 ギヤハウジング
11 ブラケット
13 ギヤ室
16 凸部
17 誘導溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ室の内部に、相互に噛合して回転する駆動ギヤ及び従動ギヤを配置してあるギヤポンプにおいて、
前記駆動ギヤ及び従動ギヤへ流体を吸い込む各別の吸込路と、流体を吐出する吐出室と前記駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合位置を挟んで反対側に位置する中間圧室とを備えることを特徴とするギヤポンプ。
【請求項2】
前記中間圧室の内部に、流体を低圧部へ誘導する誘導溝を備えることを特徴とする請求項1記載のギヤポンプ。
【請求項3】
前記誘導溝は、前記ギヤ室を形成するハウジングと前記駆動ギヤを駆動する駆動源とを接続するブラケットと連通しており、
前記ハウジングの外法寸法は、前記ブラケットの内法寸法よりわずかに小さいことを特徴とする請求項2記載のギヤポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−97589(P2006−97589A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285265(P2004−285265)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】