クラッチのダンパ機構
【課題】クラッチハウジングの摩耗を防止できるクラッチのダンパ機構を提供すること。
【解決手段】エンジンのクランクシャフトからの回転が伝達される歯車であるプライマリドリブンギア21と、プライマリドリブンギア21とともに回転するクラッチハウジング22と、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に配設されるシート部材24と、プライマリドリブンギア21およびクラッチハウジング22の円周方向に弾性変形可能で、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に設けられる弾性部材と、シート部材24をクラッチハウジング22に押圧して保持するスペーサとを備える。
【解決手段】エンジンのクランクシャフトからの回転が伝達される歯車であるプライマリドリブンギア21と、プライマリドリブンギア21とともに回転するクラッチハウジング22と、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に配設されるシート部材24と、プライマリドリブンギア21およびクラッチハウジング22の円周方向に弾性変形可能で、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に設けられる弾性部材と、シート部材24をクラッチハウジング22に押圧して保持するスペーサとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッチのダンパ機構に関するものであり、詳しくは、自動二輪車や四輪自動車などのクラッチに設けられ、エンジンのトルク変動を緩和することができるダンパ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動二輪車や四輪自動車は、エンジンと変速機との間で動力の伝達を断続するクラッチを備える。そして、このようなクラッチには、エンジンの動力を変速機に伝達する際に、エンジンのトルク変動を緩和するなどの機能を有するダンパ機構を備えるものがある。
【0003】
図11は、クラッチのダンパ機構の構成の従来例を示した分解斜視図である。図11に示すように、従来一般のクラッチ9は、エンジンのクランクシャフトの回転が伝達されるドリブンギア91と、このドリブンギア91の回転が伝達されるクラッチハウジング92とを備える。そして、このドリブンギア91とクラッチハウジング92との間に、ダンパ機構が設けられる。具体的には、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位可能に結合されており、これらの間に、これらの回転方向に沿って圧縮変形可能なコイルバネ93が架設される。そして、エンジンのトルク変動が生じた場合には、コイルバネ93が圧縮変形してこのトルク変動を吸収や緩和する。これにより、クラッチハウジング92に伝達されるエンジンのトルク変動を緩和することができる。
【0004】
従来一般のクラッチ9は、前記各部材に加えて、プレート部材94と、皿バネ95と、シート部材96とを備える。プレート部材94は、ドリブンギア91やコイルバネ93などを保持する機能を有する部材であり、リベット97などによってクラッチハウジング92に固定される。そして、プレート部材94とドリブンギア91との間には、皿バネ95が配設されており、ドリブンギア91は皿バネ95によってクラッチハウジング92に押し付けられる。また、ドリブンギア91とクラッチハウジング92との間には、シート部材96が配設される。
【0005】
シート部材96は、たとえば、クラッチハウジング92に設けられるボスによって、クラッチハウジング92に対して位置決めされる。しかしながら、寸法公差の確保などのために、シート部材96とクラッチハウジング92のボスとの間に隙間が存在することがある。このため、シート部材96とクラッチハウジング92とは、相対的に摺動できる。そして、シート部材96は、皿バネ95の付勢力によって生じる摩擦力によって、クラッチハウジング92の表面に保持される。このような構成であると、エンジンが加速または減速した場合や、変速の衝撃がクラッチに加わった場合には、シート部材96とクラッチハウジング92との間に相対的な摺動が生じることがある。そうすると、クラッチハウジング92の表面が摩耗することがある。特に、クラッチハウジング92がアルミにより成形され、シート部材96がアルミよりも耐摩耗性の高い鉄系の材料などにより成形される構成であると、クラッチハウジング92の表面の摩耗が大きくなる。
【0006】
また、従来一般のクラッチ9は、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位することにより、たとえば加速時において発生するドリブンギアの歯車面における打音を防止または抑制できる。しかしながら、サーキットでの走行などといった高速走行においては、ドリブンギア91とクラッチハウジング92との相対的な変位が、後輪の挙動の安定性を低下させる原因となることがある。特に、減速時など、後輪からのバックトルクがかかった場合において、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位すると、後輪の挙動の安定性が低下しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−113724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、クラッチハウジングの摩耗を防止できるクラッチのダンパ機構を提供すること、または、後輪の挙動の安定性の低下の防止もしくは安定性の向上を図ることができるクラッチのダンパ機構を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、外部からの回転が伝達される歯車と、前記歯車とともに回転するクラッチハウジングと、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に配設されるシート部材と、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に弾性変形可能で、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に設けられる弾性部材と、前記シート部材を前記クラッチハウジングに押圧して保持するスペーサと、を備えることを特徴とする。
【0010】
前記スペーサは、前記歯車の半径方向外側に延出する平板状のリブを有することを特徴とする。
【0011】
前記歯車を前記クラッチハウジングに保持するプレート部材をさらに備え、前記スペーサは、前記プレート部材とともに前記クラッチハウジングに固定されることを特徴とする。
【0012】
前記クラッチハウジングおよび前記プレート部材には凹部状の収容部が形成され、前記弾性部材は前記凹部に、前記クラッチハウジングおよび前記歯車の円周方向に圧縮変形可能な向きを向けて収容されることを特徴とする。
【0013】
前記弾性部材は、前記収容部の内周面の円周方向の一方の端面と、前記歯車のリム部に形成される開口部の内周面の円周方向の他方の端面とで、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に圧縮された状態で配置されることを特徴とする。
【0014】
前記スペーサは、少なくとも一部分が前記歯車に形成される開口部の内部に配置され、前記弾性部材の付勢力によって、前記歯車に形成される開口部の内周面の円周方向の一方の端面に当接することを特徴とする。
【0015】
前記スペーサが前記歯車の内周面の円周方向の一方の端面に当接することにより、前記クラッチハウジングが前記歯車に対して前記円周方向の一方の側へ変位することを防止することを特徴とする。
【0016】
前記開口部の円周方向の他方の端面と、前記スペーサの円周方向の他方の端部との間に、隙間が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シート部材は、スペーサによって押圧されてクラッチハウジングに固定される。このため、シート部材はスペーサに対して相対的な運動をしない。したがって、シート部材とクラッチハウジングとの間で相対的な摺動が生じないから、クラッチハウジングがシート部材によって摩耗することを防止できる。特に、クラッチハウジングがアルミからなり、シート部材が鉄系材料などといったアルミよりも耐摩耗性の高い材料により形成される場合であっても、クラッチハウジングの摩耗が防止される。
【0018】
外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとの間に、本発明の実施形態にかかるダンパ機構が設けられることにより、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは、基本的には一体に回転しながら、回転方向に相対的に変位できる。そして、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して位相進みとなる向きには、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは相対的な変位が許容される。一方、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して位相遅れとなる向きには、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは相対的に変位できない。すなわち、この場合には、スペーサが外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとの相対的な変位を阻止する。
【0019】
また、スペーサのリブを、外部からの回転が伝達されるギアの回転の半径方向外側に延出させることにより、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して回転の振れが生じることを防止できる。このため、クラッチの動作の安定性の向上を図ることができる。
【0020】
スペーサは、プレート部材とともにクラッチハウジングに固定される。このため、本発明のクラッチの部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本本発明のクラッチのダンパ機構によれば、プレート部材をクラッチハウジングに固定する工程において、同時にスペーサをクラッチハウジングに固定できる。したがって、本発明のクラッチの製造時における工数の増加を防止できる。
【0021】
本発明のダンパ機構を有するクラッチが自動二輪車に適用されると、クラッチにバックトルクがかかった場合には、外部(=エンジン)からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとが相対的に変位しないようにできる。このため、加速時においては、エンジンのトルク変動を吸収や緩和することができ、減速時などにおいては、後輪の動作の安定性の低下を防止もしくは抑制を図ること、または後輪の動作の安定性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を有するクラッチが搭載された自動二輪車の構成を、模式的に示した平面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチが搭載された自動二輪車のエンジンユニットの構成を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチの構成を、模式的に示した断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構および関連する部材の構成を模式的に示した分解斜視図である。
【図5】図5は、スペーサの構成を模式的に示した外観斜視図であり、(a)は、クラッチハウジングの側から見た図、(b)はプレート部材の側から見た図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構を模式的に示した平面図であり、プレート部材の側から見た図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構の各部材の関係を模式的に示した断面図であり、図3のA部拡大図である。
【図8】図8は、図6の部分拡大図であり、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかっていない状態を示した図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかった状態を模式的に示した平面図であり、図8に対応する図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかった状態を模式的に示した平面図であり、図8に対応する図である。
【図11】図11は、クラッチのダンパ機構の構成の従来例を示した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチを、「本クラッチ」と略して記し、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチが搭載された自動二輪車を、「本自動二輪車」と略して記すことがある。また、本発明の説明においては、本自動二輪車1の「上」「下」「右」「左」「前」「後」のそれぞれの向きは、本自動二輪車1に乗った運転者の向きを基準とする。
【0024】
まず、本自動二輪車1の全体構成を説明する。図1は、本自動二輪車1の構成を、模式的に示した平面図である。図1に示すように、本自動二輪車1は、車体フレーム11と、操舵装置12と、後輪懸架装置13と、エンジンユニット4と、排気装置14と、その他所定の装置や部材とを含む。
【0025】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ111と、左右一対のメインチューブ112と、ボディフレーム113と、ダウンチューブ114とを含む。ヘッドパイプ111は、後傾する管状の部分を有する。左右一対のメインチューブ112は、ヘッドパイプ111の後部から、それぞれ、後方斜め右下と後方斜め左下に向かって伸びる部分を有する。ボディフレーム113は、左右一対のメインチューブ112の後方に設けられる部分である。ダウンチューブ114は、ヘッドパイプ111の後部から左右一対のメインチューブ112の下方に向かって伸びる部分と、この部分の下端から後方に伸びてボディフレーム113に結合する部分とを有する。ボディフレーム113の上部にはシートレール(図1においては隠れて見えない)が設けられる。そして、ボディフレーム113の上側には、着座シート51が、シートレールを介して取り付けられる。
【0026】
操舵装置12は、ステアリングシャフト(図においては隠れて見えない)と、ハンドル121と、左右一対のフロントフォーク122と、前輪123とを含む。そして、操舵装置12は、車体フレーム11の前部に、車体フレーム11に対して回転可能に配置される。ステアリングシャフトは、ヘッドパイプ111に回転可能に支持される。ハンドル121は、ステアリングシャフトの上端に設けられる。左右一対のフロントフォーク122は、それぞれ、ステアリングシャフトの左右に配置される。前輪123は、左右一対のフロントフォーク122の下端に、回転自在に配置される。
【0027】
また、ハンドル121は、左右のハンドルグリップ124を有する。右側のハンドルグリップ124には、スロットルグリップと、前輪のブレーキレバーとが設けられる。左側のハンドルグリップ124には、後述する本クラッチ2を操作するためのクラッチレバー125が設けられる。
【0028】
エンジンユニット4は、車体フレーム11のメインチューブ112とダウンチューブ114とボディフレーム113とにより形成される空間に配置される。エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46とを含む。クランクケースアセンブリ46の内部には、エンジンのクランクシャフト461と、変速機469のカウンターシャフト467およびドリブンシャフト468とが配設される。さらにクランクケースアセンブリ46には、本クラッチ2が組み付けられる。クランクケースアセンブリ46の左側後部には、ドリブンシャフト(図においては隠れて見えない)の左端が突出しており、ドリブンシャフトの左端には、ドライブチェーンスプロケット470が設けられる。
【0029】
後輪懸架装置13は、スイングアーム131と、ショックアブソーバ(図においては隠れて見えない)と、後輪132とを含み、車体フレーム11のボディフレーム113の後部に設けられる。スイングアーム131の前端は、ボディフレーム113に対して上下方向に搖動可能に連結される。ショックアブソーバは、スイングアーム131とボディフレーム113との間に設けられ、スイングアーム131からボディフレーム113に伝達する振動や衝撃などを吸収や緩和する。後輪132は、スイングアーム131の後端に配置され、スイングアーム131により回転自在に支持される。後輪132の左側には、ドリブンチェーンスプロケット133が設けられる。後輪132とドリブンチェーンスプロケット133とは一体に回転する。そして、エンジンユニット4のドライブチェーンスプロケット470と、後輪のドリブンチェーンスプロケット133とは、チェーン139により回転動力を伝達可能に連結される。
【0030】
排気装置14は、消音器141と排気管142とを含む。消音器141は、エンジンユニット4の後方であって、後輪132の側方に配置される。排気管142の一方の端部は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41のエグゾーストポート(後述)に接続される。他方の端部は、消音器141の前側に接続される。そして、排気管142は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41の前側から前方に向かい、シリンダアセンブリ41の前方で後方に向かって湾曲し、シリンダアセンブリ41の側方を通過し、消音器141の前側に到達する。
【0031】
エンジンユニット4の上方には、燃料タンク53が配置される。さらに、本自動二輪車1の外部には、フロントサイドカバー54やリアサイドカバー55が取り付けられる。
【0032】
次に、エンジンユニット4の全体構成について説明する。図2は、エンジンユニット4の内部構造を示した断面模式図である。なお、図2は、説明のための模式図であり、現実の特定の切断面で切断した図ではない。
【0033】
図2に示すように、エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46と、本クラッチ2とを含む。
【0034】
シリンダアセンブリ41は、シリンダブロック411と、シリンダヘッド412と、シリンダヘッドカバー413とを含む。
【0035】
シリンダブロック411の頂部には、燃焼室414が形成される。そして、シリンダブロック411の内部には、ピストン415が往復動可能に配置される。ピストン415とクランクシャフト461(後述)とは、コネクションロッド416により連結される。そして、ピストン415の運動は、コネクションロッド416によってクランクシャフト461に伝達される。シリンダブロック411の上側には、シリンダヘッド412が配置される。シリンダヘッド412には、燃焼室414とシリンダブロック411の外部とを連通するインテークポート419およびエグゾーストポート420が形成される。さらに、シリンダヘッド412の内部には、インテークポート419の開閉を制御する吸気バルブ(図略)と、エグゾーストポート420の開閉を制御する排気バルブ(図略)とが配置される。吸気バルブは吸気側カム(図略)により駆動され、排気バルブは排気側カム(図略)により駆動される。シリンダヘッドカバー413は、シリンダヘッド412の蓋となる部材であり、シリンダヘッド412の上側に配設される。
【0036】
なお、図2には、本自動二輪車1に水冷単気筒エンジンが適用される構成を示すが、本自動二輪車1に適用されるエンジンの種類は限定されるものではない。本自動二輪車には、水冷式エンジンが適用される構成であってもよく、空冷式エンジンが適用される構成であってもよい。また、単気筒エンジンが適用される構成であってもよく、多気筒エンジンが適用される構成であってもよい。なお、水冷式エンジンが適用される場合には、本自動二輪車1は、冷却水を冷却するラジエータと、冷却水を循環させるポンプとを備える。
【0037】
クランクケースアセンブリ46は、クランクケースの右半体と左半体とを含む。そして、クランクケースの右半体と左半体とが結合して、クランクケースアセンブリ46の筐体を構成する。クランクケースアセンブリ46の内部には、前側にクランク室462が形成され、後側にミッション室463が形成される。クランク室462の内部には、クランクシャフト461が回転可能に配置される。ミッション室463の内部には、カウンターシャフト467とドリブンシャフト468とが回転可能に配置され、変速機469が構成される。
【0038】
クランクケースアセンブリ46の右側面には、クラッチカバー305が取り付けられる。そして、クラッチカバー305の内側には、本クラッチ2が配置される。クランクケースアセンブリ46の左側面には、マグネトカバー465が取り付けられる。マグネトカバー465の内側には、発電機であるマグネト466が配置される。さらに、クランクケースアセンブリ46の左側には、エンジンを始動させる始動装置(図2においては省略)が配置される。
【0039】
次いで、本クラッチ2の全体的な構成を説明する。図3は、本クラッチ2の構成を、模式的に示した断面図である。本クラッチ2は、多板式クラッチである。そして、本クラッチ2は、本自動二輪車1のエンジンユニット4に設けられ、エンジンのクランクシャフト461と変速機469のカウンターシャフト467との間で回転動力の伝達を断続する。
【0040】
図3に示すように、本クラッチ2は、変速機469のカウンターシャフト467の一端近傍に設けられる。本クラッチ2は、プライマリドリブンギア21と、クラッチハウジング22と、ドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301と、ドリブンプレート303と、プッシュロッド307と、押圧部材306と、その他所定の部材とを含む。そして、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22の間にまたがって設けられる。
【0041】
プライマリドリブンギア21は、本クラッチ2の外部(本発明の実施形態においてはクランクシャフト461)から回転が伝達される歯車である。プライマリドリブンギア21は、エンジンのクランクシャフト461に設けられるプライマリドライブギア418(図略)と噛み合う。そして、プライマリドリブンギア21は、エンジンのクランクシャフト461の回転が伝達されることにより回転する。クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21と同軸に配置されており、本クラッチ2のダンパ機構を介して、プライマリドリブンギア21と結合している。そして、クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21の回転が伝達されることにより回転する。クラッチハウジング22は、略カップ状の部材であり、内部が略空洞で軸線方向の一方側が開口する構成を有する。カップの底面に相当する側が、プライマリドリブンギア21の側に向けられて配設される。
【0042】
プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、本クラッチ2のダンパ機構によって結合している。そして、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、基本的には一体に回転するが、本クラッチ2のダンパ機構により、回転方向に互いに相対的に変位可能である。本クラッチ2のダンパ機構の詳細については後述する。また、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、ベアリング308を介してカウンターシャフト467に支持されており、カウンターシャフト467に対して相対的に回転することができる。
【0043】
クラッチハウジング22には、複数のドライブプレート302が設けられる。ドライブプレート302は、略リング状の板状の部材である。そして、複数のドライブプレート302が、クラッチハウジング22の内部に、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて配設される。ドライブプレート302は、クラッチハウジング22と一体に回転する。
【0044】
クラッチスリーブハブ301は、変速機469のカウンターシャフト467の一端近傍で、かつ、クラッチハウジング22の内部に設けられる。クラッチスリーブハブ301は、カウンターシャフト467の一端に結合されており、カウンターシャフト467と一体に回転する。クラッチスリーブハブ301の外側には、複数のドリブンプレート303が設けられる。ドリブンプレート303は、略リング状で板状の部材である。そして、複数のドリブンプレート303が、クラッチスリーブハブ301の外側に、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて配設される。ドリブンプレート303は、クラッチスリーブハブ301と一体に回転する。
【0045】
そして、クラッチハウジング22に設けられる複数のドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられる複数のドリブンプレート303とが、軸線方向に交互に入り組んだ態様で配列される。
【0046】
カウンターシャフト467の端部には、クラッチハウジング22の開口部を塞ぐような態様で、プレッシャーディスク304が設けられる。プレッシャーディスク304は、略円板状の部材である。プレッシャーディスク304とクラッチスリーブハブ301との間には、コイルバネ309が設けられる。そして、プレッシャーディスク304は、コイルバネ309の付勢力によって、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303とを、互いに軸線方向に圧力がかかった状態で接触させる。なお、図2と図3においては、プレッシャーディスク304は、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303を、左側に向かって付勢する。
【0047】
カウンターシャフト467は中空軸であり、カウンターシャフト467の内部には、プッシュロッド307が配設される。プッシュロッド307は、カウンターシャフト467の内部を、軸線方向に往復動できる。カウンターシャフト467およびプッシュロッド307の一方の端部近傍には、押圧部材306が設けられる。押圧部材306は、軸線方向に移動して(図3においては、右向きに移動して)プレッシャーディスク304を押圧することができる。
【0048】
プッシュロッド307の他方の端部の近傍には、プッシュロッド307を軸線方向に移動させるための機構が設けられる(図略)。たとえば、プッシュロッド307の他方の端部の近傍には、レリーズレバーとカムとが設けられるレリーズロッドが、回転可能に設けられる。そして、レリーズロッドが回転することにより、カムがレリーズロッドと一体に回転してプッシュロッド307の他方の端部を軸線方向に押圧することができる。押されたプッシュロッド307は、カウンターシャフト467の内部を軸線方向に移動する。なお、レリーズロッドには、レリーズレバーが設けられており、このレリーズレバーとクラッチレバー125(図1参照)とが、クラッチケーブによって連結される。そして、クラッチレバー125が操作されると、クラッチケーブルによってレリーズレバーが操作され、レリーズロッドが回転する。
【0049】
このような構成を有する本クラッチ2の基本的な動作は、次のとおりである。クラッチレバー125が操作されていない状態では、プレッシャーディスク304が、コイルバネ309の付勢力によって、クラッチスリーブハブ301を軸線方向に付勢する。このため、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303とが、軸線方向に互いに圧力がかかった状態で接触する。したがって、プライマリドリブンギア21からクラッチハウジング22に伝達された回転動力は、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303と、クラッチスリーブハブ301とを介して、変速機469のカウンターシャフト467に伝達される。すなわち、いわゆる「クラッチがつながった」状態となる。
【0050】
一方、クラッチレバー125が操作されると、レリーズロッドに設けられるカムがプッシュロッド307を押圧し、プッシュロッド307が軸線方向に移動する。そして、押圧部材306がプッシュロッド307に押されて軸線方向に移動し、プレッシャーディスク304を押圧する。押圧されたプレッシャーディスク304は、コイルバネ309の付勢力に抗して軸線方向に移動する。そうすると、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303への付勢力がなくなる。この結果、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303との接触の圧力がなくなる。したがって、クラッチハウジング22のドライブプレート302の回転は、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303に伝達されなくなる。すなわち、いわゆる「クラッチが切れた」状態となる。
【0051】
次いで、本クラッチ2のダンパ機構について説明する。説明の便宜上、本クラッチ2および本クラッチ2を構成する各部材の「軸線方向」と「半径方向」と「円周方向(回転方向)」とは、カウンターシャフト467を基準とする。本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とに跨って設けられる。図4は、本クラッチ2のうち、本クラッチ2のダンパ機構および関連する部分を示した分解斜視図である。図4に示すように、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21と、クラッチハウジング22と、所定の数の第一の弾性部材52aおよび第二の弾性部材52bと、プレート部材23と、シート部材24と、所定の数のスペーサ26と、皿バネ28とを有する。
【0052】
プライマリドリブンギア21には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部211と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部212と、所定の数のスペーサ収容部213とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部211は、第一の弾性部材52aを収容可能な領域である。第二のサブ弾性部材収容部212は、第二の弾性部材52bを収容可能な領域である。スペーサ収容部213は、スペーサ26を挿通可能な領域である。そして、第一のサブ弾性部材収容部211と、第二のサブ弾性部材収容部212と、スペーサ収容部213とが、円周方向に所定の順序で配列される。第一のサブ弾性部材収容部211と第二のサブ弾性部材収容部212とスペーサ収容部213とは、いずれも、リム部214を軸線方向に貫通する貫通孔状の開口部である。このほか、プライマリドリブンギア21の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通できる軸孔217が形成される。
【0053】
クラッチハウジング22は、内部が略空洞で軸線方向の一端側が開放する略カップ状の部材である。そして、カップの底部の外側の面に相当する面が、プライマリドリブンギア21の側を向いて配設される。以下、「カップの底部の外側の面に相当する面」を、係合面221と称する。クラッチハウジング22の係合面221には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部222と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部223と、所定の数のボス224とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部222は、第一の弾性部材52aを収容可能な部分である。第二のサブ弾性部材収容部223は、第二の弾性部材52bを収容可能な部分である。第一のサブ弾性部材収容部222と第二のサブ弾性部材収容部223とは、いずれも、半径方向に沿って切断した断面が円弧形状の凹部である。ボス224は、スペーサ26を固定可能な構造物であり、プライマリドリブンギア21の側に突出する柱状の構造物である。ボス224には、リベット27を挿通できるリベット孔225が形成される。そして、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部222と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部223と、所定の数のボス224とが、円周方向に沿って、所定の順序で配列されるように設けられる。このほか、係合面221の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通できる軸孔228が形成される。クラッチハウジング22は、たとえばアルミ系の材料からなり、ダイキャスト製法によって製造される。
【0054】
シート部材24は、略リング状の形状を有するシート状の部材である。シート部材24には、クラッチハウジング22に設けられるボス224を挿通可能な所定の数のボス孔243が形成される。ボス孔243は、シート部材24の厚さ方向(=軸線方向)に貫通する貫通孔である。シート部材24の材質は特に限定されるものではないが、たとえば鉄系の金属が適用される。
【0055】
プレート部材23は、プライマリドリブンギア21と第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bを保持する機能を有する部材である。プレート部材23は、略円板の部材である。そして、プレート部材23のプライマリドリブンギア21の側の面には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部231と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部232とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部231は、第一の弾性部材52aを収容可能な部分である。第二のサブ弾性部材収容部232は、第二の弾性部材52bを収容可能な部分である。第一のサブ弾性部材収容部231と第二のサブ弾性部材収容部232は、いずれも、半径方向に沿って切断した断面が略円弧状の凹部である。さらに、プレート部材23には、リベット27を挿通可能な所定の数のリベット孔233が形成される。そして、第一のサブ弾性部材収容部231と、第二のサブ弾性部材収容部232と、リベット孔233とが、円周方向に沿って、所定の態様で配列されるように形成される。このほか、プレート部材23の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通可能な貫通孔234が形成される。
【0056】
皿バネ28は、プライマリドリブンギア21をクラッチハウジング22の側に付勢する機能を有する部材である。皿バネ28は、たとえば、略リング状の形状を有するものが適用される。なお、皿バネ28の構成は特に限定されるものではない。また、プライマリドリブンギア21をクラッチハウジング22の側に付勢できる部材であればよく、皿バネ28以外の付勢手段であってもよい。
【0057】
第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとは、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間でトルク変動を緩和する機能などを有する。第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとには、弾性圧縮変形可能なコイルバネが適用される。
【0058】
スペーサ26は、シート部材24をクラッチハウジング22に固定する機能や、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を規制する機能などを有する。図5は、スペーサ26の構成を模式的に示した斜視図であり、図5(a)はクラッチハウジング22の側から見た図である。それぞれ、図5(b)はプレート部材23の側から見た図である。図5(a)(b)に示すように、スペーサ26は、本体部261とリブ262とを有する。
【0059】
本体部261は、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿可能な寸法および形状を有する。特に、スペーサ26の本体部261の円周方向寸法は、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の円周方向寸法よりも小さい寸法に設定される。すなわち、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿された状態において、スペーサ26の本体部261と、スペーサ収容部213の内周面との間に、プライマリドリブンギア21の円周方向に隙間ができる。このため、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿された状態では、スペーサ26とプライマリドリブンギア21とが、円周方向に互いに相対的に変位可能である。また、軸線方向から見た本体部261の寸法は、シート部材24に形成されるボス孔243よりも大きい寸法に形成される。このため、スペーサ26の本体部261がシート部材24に重ね合わせられると、スペーサ26の本体部261が、シート部材24に形成されるボス孔243の周縁部に重畳する。
【0060】
本体部261には、リベット27を挿通可能なリベット孔263が形成される。リベット孔263は、本体部261を軸線方向に貫通する貫通孔である。さらに、本体部261のクラッチハウジング22の側の面には、凹部264が形成される。この凹部264は、クラッチハウジング22の係合面221に設けられるボス224を挿入可能な部分である。このため、本体部261は、全体として、異径の貫通孔が形成される構成を有する。そして、図5に示すように、リベット孔263および凹部264は、プライマリドリブンギア21の円周方向の一方に偏倚して形成される。
【0061】
リブ262は、本体部261の軸線方向のプレート部材23の側の端部から、半径方向外側に向かって延出する部分である。図5に示すように、リブ262は、たとえば舌片状または平板状に形成される。図5中の寸法T(=リブ262のクラッチハウジング22側の面と、本体部261のクラッチハウジング22の側の面との間の距離)は、プライマリドリブンギア21のリム部214の軸線方向寸法(すなわち、プライマリドリブンギア21のリム部214の厚さ)よりも大きい寸法に設定される。
【0062】
本クラッチ2のダンパ機構の組み付け構造は、次のとおりである。図4を参照して説明する。
【0063】
クラッチハウジング22の係合面221にシート部材24が配設され、さらにプライマリドリブンギア21が配設される。このため、クラッチハウジング22の係合面221とプライマリドリブンギア21との間に、シート部材24が介在する。クラッチハウジング22に形成されるボス224は、シート部材24に形成されるボス孔243を貫通し、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に入り込む。
【0064】
スペーサ26は、クラッチハウジング22の係合面221に形成されるボス224に取り付けられる。具体的には、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に挿入される。そして、スペーサ26の本体部261の凹部264に、クラッチハウジング22に設けられるボス224が嵌まり込む。そうすると、スペーサ26のリブ262が、リム部214のプレート部材23の側の面であって、スペーサ収容部213の周縁部の半径方向外側の部分に重畳する。また、この状態においては、スペーサ26の本体部261のクラッチハウジング22の側の面が、シート部材24のボス孔243の周縁部に接触する。
【0065】
クラッチハウジング22にシート部材24とプライマリドリブンギア21とが取り付けられると、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211とが連通する。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212とが連通する。そして、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211とが連通する領域には、第一の弾性部材52aが収容される。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212とが連通する領域には、第二の弾性部材52bが収容される。なお、図4に示すように、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとは、円周方向に圧縮弾性変形可能に収容される。
【0066】
プライマリドリブンギア21のクラッチハウジング22と反対側の面には、皿バネ28が配設され、さらにプレート部材23が配設される。このため、図4に示すように、プライマリドリブンギア21とプレート部材23との間に、皿バネ28が介在する。そして、プレート部材23は、リベット27によって、クラッチハウジング22に固定される。
【0067】
このように、リベット27によって、スペーサ26とプレート部材23とがまとめてクラッチハウジングに固定される。このため、本クラッチ2の部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本クラッチ2のダンパ機構によれば、プレート部材23をクラッチハウジング22に固定する工程において、同時にスペーサ26をクラッチハウジング22に固定できる。したがって、本クラッチ2の製造時における工数の増加を防止できる。
【0068】
図6は、本クラッチ2のダンパ機構を模式的に示した平面図であり、プレート部材23の側から見た図である。図6に示すように、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211と、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部231とが連通し、一体化した空間が形成される。これらの空間を、「第一の弾性部材収容部29a」と称する。そして、第一の弾性部材収容部29aの内部には、第一の弾性部材52aが、円周方向に弾性圧縮変形した状態で収容される。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212と、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部232とが連通し、一体化した空間が形成される。これらの空間を、「第二の弾性部材収容部29b」と称する。そして、第二の弾性部材収容部29bには、第二の弾性部材52bが、円周方向に弾性圧縮変形した状態で収容される。
【0069】
プレート部材23とクラッチハウジング22とは、スペーサ26を介してリベット27により結合される。換言すると、スペーサは、プレート部材23とともにクラッチハウジング22に固定される。このため、プレート部材23とスペーサ26とクラッチハウジング22とは、一体に回転する。一方、プライマリドリブンギア21は、スペーサ26を介して、クラッチハウジング22に結合する。そして、前記のとおり、スペーサ26の本体部261とプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の内周面との間には、円周方向に隙間が形成される。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、この隙間の分だけ、円周方向に相対的に変位可能である。そして、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとが、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間において緩衝材などとして機能する。
【0070】
図7は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構の各部材の関係を模式的に示した断面図であり、図3のA部拡大図である。前記のとおり、スペーサ26の本体部261の寸法T(=リブ262のクラッチハウジング22の側の面と本体部261のクラッチハウジング22の側の面との間の寸法)は、プライマリドリブンギア21のリム部214の軸線方向寸法よりも大きい。さらに、スペーサ26の本体部261を軸線方向から見た外形寸法は、シート部材24のボス孔243よりも大きい。このため、スペーサ26がクラッチハウジング22に固定されると、シート部材24のボス孔243の周縁部は、スペーサ26によって、クラッチハウジング22の係合面221に押圧される。したがって、シート部材24は、クラッチハウジング22の係合面221に固定され、クラッチハウジング22に対して相対的に移動することができない。換言すると、シート部材24は、スペーサ26により、クラッチハウジング22の係合面221上を摺動することができないように押圧されて固定される。
【0071】
また、スペーサ26の本体部261の寸法Tが前記のとおりであるから、スペーサ26がクラッチハウジング22に固定されると、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22の係合面221との間と、プライマリドリブンギア21とスペーサ26のリブ262のクラッチハウジング22の側の面との間の少なくとも一方には、隙間が形成される。このため、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22に対して相対的に移動できる。ただし、スペーサ26のリブ262が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の周縁部(特に半径方向の外周側)に係合する。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが分離しないように結合され、かつ同軸の位置関係に維持される。
【0072】
図8は、図6の部分拡大図であり、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態を示した図である。説明の便宜上、円周方向の一方側(=矢印Aが指し示す側)を「A側」と称し、円周方向の他の一方側(=矢印Bが指し示す側)を「B側」と称することがある。
【0073】
図8は、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213の内周面のうち、円周方向の一方の側の端面(=A側の端面)に接触している状態を示す。図8に示すように、スペーサ26の本体部261のA側の端面が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に接触すると、スペーサ26の本体部261のB側の端面と、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のB側の端面との間に隙間ができる。このため、プライマリドリブンギア21は、この状態から、クラッチハウジング22に対してA側に向かって相対的に変位できる。
【0074】
第一の弾性部材収容部29aの構成は、以下のとおりである。クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222の円周方向の端面226a,226bと、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部231の円周方向の端面235a,235bの位置が一致する。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223の円周方向の端面227a,227bと、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部232の円周方向の端面236a,236bの位置が一致する。なお、図8においては、円周方向の端面を含め、輪郭線の全体が一致する構成を示す。
【0075】
この状態においては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のA側の端面215aは、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aよりもA側に位置している。同様に、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bは、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のB側の端面226b,235bよりもA側に位置している。
【0076】
このため、第一の弾性部材収容部29aにおいては、クラッチハウジング22とプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面226a,235aと、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bとの間に、第一の弾性部材52aが架設される。すなわち、第一の弾性部材52aのA側の端部は、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aに接触している。そして、第一の弾性部材52aのA側の端部は、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のA側の端面と離間しており接触していない。一方、第一の弾性部材52aのB側の端部は、プライマリドリブンギア21の第一の弾性部材収容部211の内周面のB側の端面215bに接触している。そして、第一の弾性部材52aのB側の端部は、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のB側の端面226b,235bと離間しており接触していない。
【0077】
第一の弾性部材52aは、第一の弾性部材収容部29aの内部に、弾性圧縮変形した状態で収容される。このため、図8に示すように、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、第一の弾性部材52aの付勢力によって、プライマリドリブンギア21に対してA側に向かって付勢される。そして、スペーサ26の本体部261は、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に付勢されて当接した状態に維持される。換言すると、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213のA側の端面に接触するため、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、プライマリドリブンギア21に対してA側に変位することができない。
【0078】
このように、スペーサ26は、少なくとも一部分(本実施形態においては本体部261)が、プライマリドリブンギア21に形成される開口部(本実施形態においてはスペーサ収容部213)の内部に配置される。そして、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態においては、弾性部材(本実施形態においては、第一の弾性部材52a)の付勢力によって、プライマリドリブンギア21に形成される開口部の内周面のA側の端面に当接する。
【0079】
第二の弾性部材収容部29bの構成は次のとおりである。図8に示すように、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212の円周方向寸法は、クラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232の円周方向寸法よりも小さい。そして、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に接触していると、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側の端面216aは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aよりもB側に位置する。一方、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のB側の端面216bは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のB側の端面227a,236aよりもA側に位置する。すなわち、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側とB側の両端面227a,236a,227b,236bの間に位置する。
【0080】
このため、第二の弾性部材52bは、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bの間に架設される。そして、第二の弾性部材52bのA側とB側の両端部は、クラッチハウジング22の係合面221とプレート部材23とに形成される第二のサブ弾性部材収容部223,232の円周方向のA側とB側の両端面227a,227b,235a,235bのいずれにも離間しており接触していない。
【0081】
次に、本クラッチ2のダンパ機構の動作について説明する。図9と図10は、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかった場合の動作を模式的に示した図であり、図8に対応する図である。そして、図10は、図9よりも大きい負荷がかかった場合の動作を示す。
【0082】
まず、プライマリドリブンギア21に、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に向かって変位するような負荷がかかった場合の動作について説明する。この場合には、プライマリドリブンギア21は、第一の弾性部材52aの付勢力に抗して、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に変位する。このため、図9に示すように、第一の弾性部材収容部29aにおいては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bが、クラッチハウジング22とプレート部材23との第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aに接近する。そして、第一の弾性部材52aは、負荷がかかっていない状態(図8に示す状態)から弾性圧縮変形する。すなわち、第一の弾性部材52aが負荷を負担する。一方、第二の弾性部材収容部29bにおいては、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bと、クラッチハウジング22とプレート部材23との第一のサブ弾性部材収容部のA側とB側の端面227a,236a,227b,236bとの位置関係は変化しない。このため、第二の弾性部材52bは、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態(図8に示す状態)と同じ状態にある。このように、図9に示す状態においては、本クラッチ2のダンパ機構にかかった負荷は、第一の弾性部材52aが負担し、第二の弾性部材52bは負担しない。
【0083】
本クラッチ2に、さらに大きい負荷がかかると、図10に示すように、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側にさらに変位する。そうすると、第一の弾性部材52aの弾性圧縮変形の程度が大きくなる。また、第二の弾性部材収容部29bにおいては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部212のA側の端面216aが、クラッチハウジング22とプレート部材23との第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aよりもA側に移動する。そして、第二の弾性部材52bのA側の端部が、クラッチハウジング22とプレート部材23との第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aに接触する。このため、第二の弾性部材52bは、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部212のB側の端面216bと、クラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aとにはさまれて弾性圧縮変形する。このように、図10に示す状態においては、本クラッチ2にかかった負荷は、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとの両方が負担する。
【0084】
クラッチハウジング22およびプレート部材23に、プライマリドリブンギア21に対してA側に向かって変位するような負荷がかかった場合の動作は、次のとおりである。図8に示すように、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態では、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の円周方向のA側の端面に接触している。このため、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、図8に示す状態からは、プライマリドリブンギア21に対してA側に変位することができない。このように、この場合には、クラッチハウジング22とプライマリドリブンギア21とは、相対的に変位しない。したがって、本クラッチ2のダンパ機構は、この場合には、緩衝しない。
【0085】
以上のとおり、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21に所定の向きの負荷(=プライマリドリブンギア21を、クラッチハウジング22に対して所定の向き(=A側)に変位させる向きの負荷)がかかった場合には、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとが弾性圧縮変形する。これにより、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間で、負荷の変動を吸収することができる。そして、負荷の大きさに応じて、負荷の変動の吸収や緩和の程度を変化させることができる。すなわち、負荷が小さい場合には、第一の弾性部材52aのみで負荷の変動を吸収や緩和をさせ、負荷が大きい場合には、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bの両方で負荷の変動の吸収や緩和をさせることができる。一方、クラッチハウジング22に所定の向きの負荷(=クラッチハウジング22を、プライマリドリブンギア21に対して所定の向き(=A側)に変位させる向きの負荷)がかかった場合には、スペーサ26によって、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位しない。すなわち、クラッチハウジング22に前記所定の向きの負荷がかかった場合には(換言すると、プライマリドリブンギア21に前記所定の向きと反対向きの負荷がかかった場合には)、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を許容しない。このように、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21に所定の向きの負荷がかかった場合にのみ、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を許容し、負荷の変動を吸収や緩和する。
【0086】
次に、本クラッチ2のダンパ機構が本自動二輪車1に搭載された状態における動作を説明する。本クラッチ2のダンパ機構は、本自動二輪車1が前進走行している場合に、クラッチハウジング22がプライマリドリブンギア21に対して位相遅れとなる向きに変位できるように組み込まれる。図7〜図9を参照すると、本クラッチ2にエンジンの回転動力が伝達された場合には、プライマリドリブンギア21がA側に回転してクラッチハウジング22に動力を伝達するように組み込まれる。すなわち、本クラッチ2のダンパ機構は、スペーサ収容部213の円周方向の両端面のうち、スペーサ26が接触している側が、回転方向の前側となるように組み込まれる。
【0087】
本自動二輪車1の加速時など、エンジンユニット4から後輪132に動力を伝達している状態における動作は、次のとおりである。この状態においては、プライマリドリブンギア21からクラッチハウジング22に動力が伝達される。このため、本クラッチ2のダンパ機構には、クラッチハウジング22およびプレート部材23が、プライマリドリブンギア21に対して位相遅れが生じる向きの負荷かがかる。すなわち、図8においては、プライマリドリブンギア21に、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に変位するような負荷がかかる。このため、負荷が第一の弾性部材52aの付勢力よりも大きいと、図9に示すように、プライマリドリブンギア21は、第一の弾性部材52aの付勢力に抗して、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に相対的に変位する。そして、エンジンのトルク変動などの負荷が、第一の弾性部材52aによって緩和や吸収される。負荷がさらに大きくなると、図10に示すように、エンジンのトルク変動は、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bの両方により、吸収や緩和される。
【0088】
このように、本クラッチ2のダンパ機構は、本自動二輪車1の加速時など、プライマリドリブンギア21がクラッチハウジング22に対して位相進みの態様で変位するような負荷がかかった場合には、第一の弾性部材および第二の弾性部材が弾性圧縮変形して、エンジンのトルク変動を吸収や緩和する。
【0089】
これに対して、本自動二輪車1の減速時など、後輪132からエンジンユニット4に向かってバックトルクがかかる場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、相対的に変位しない。バックトルクがかかると、本クラッチ2のダンパ機構には、プライマリドリブンギア21には、クラッチハウジング22に対して位相遅れの向きに変位させるような負荷がかかる。図8に示すように、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の内周面のA側の端面(=回転の向きの前方側の端面)に接触している。このため、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22に対して位相遅れとなる向きには変位できない。したがって、減速時など、後輪132からエンジンユニット4にバックトルクがかかった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、相対的に変位することなく一体に回転する。このため、バックトルクがかかった場合において、後輪132の動作が不安定になることを防止または抑制できる。または、バックトルクがかかった場合における後輪132の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0090】
たとえば、後輪132をスライドさせたい場合やスライドした場合など、不確実で変動が大きい後輪132の挙動をエンジンのイナーシャで吸収し、後輪132の挙動の安定化を図りたいことがある。このような場合には、後輪132からバックトルクによってプライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位できる構成であると、エンジンのクランクシャフト461の回転は安定しているにもかかわらず、第一の弾性部材52aおよび第二の弾性部材52bが弾性圧縮変形することによって、後輪132の挙動が不安定になることがある。これに対して本クラッチ2は、クラッチにバックトルクが掛かった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは相対的に変位しないから、後輪132の挙動の安定化を図ることができる。または後輪132の挙動が不安定になることを防止もしくは抑制できる。特に、たとえばスロットルを閉じて減速しながら後輪を滑らせる、または後輪が滑った場合に、後輪132の挙動の安定化を図ることができる。このように、本クラッチ2は、加速時においては、エンジンのトルク変動を吸収することや緩和することができ、減速時においては、後輪132の挙動の安定化を図ることまたは挙動が不安定になることを防止もしくは抑制できる。
【0091】
本クラッチ2のダンパ機構の作用効果は、次のとおりである。
【0092】
シート部材24は、スペーサ26によってクラッチハウジング22に押圧されて固定されている。このため、シート部材24はスペーサ26に対して相対的な運動をしない。したがって、シート部材24とクラッチハウジング22との間で相対的な摺動が生じないから、クラッチハウジング22がシート部材24によって摩耗することを防止できる。特に、クラッチハウジング22がアルミからなり、シート部材24が鉄系材料などといったアルミよりも耐摩耗性の高い材料により形成される場合であっても、クラッチハウジング22の摩耗が防止される。
【0093】
プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に、本クラッチ2のダンパ機構が設けられることにより、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、基本的には一体に回転しながら、回転方向に相対的に変位できる。そして、プライマリドリブンギア21の回転の位相が、クラッチハウジング22の回転の位相に対して先行する向きについては、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な移動が許容される。一方、プライマリドリブンギア21の回転の位相が、クラッチハウジング22よりも後行する向きには、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、スペーサ26によって、相対的に変位できない。
【0094】
そして、本クラッチ2のダンパ機構を備える自動二輪車1は、加速時においては、本クラッチ2のダンパ機構がエンジンのトルク変動を吸収や緩和することができる。一方、減速時など、本クラッチ2にバックトルクがかかった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位しないようにできる。このため、バックトルクがかかった場合において、後輪132の動作の安定性の低下を防止もしくは抑制を図ること、または後輪の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0095】
また、スペーサ26に形成されるリベット孔263を、円周方向に偏倚させることによって、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を、所定の一方の向きについては許容し、反対向きについては許容しないようにできる。さらに、スペーサ26の円周方向の寸法を変更することによって、第二の弾性部材52bが弾性圧縮変形を開始する位置を変更することができる。このように、スペーサ26の本体部261の円周方向寸法や、スペーサ26に形成されるリベット孔263の円周方向の位置を変更することによって、本クラッチ2のダンパ機構の特性を変更することができる。このため、本クラッチ2のダンパ機構の特性の設定が容易となる。
【0096】
また、スペーサ26のリブ262を、プライマリドリブンギア21の回転の半径方向外側に延出させることにより、プライマリドリブンギア21がクラッチハウジング22に対して回転の振れが生じることを防止できる。このため、本クラッチ2の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0097】
そして、スペーサ26は、プレート部材23とともにクラッチハウジング22に固定される。このため、本クラッチ2の部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本クラッチ2のダンパ機構によれば、プレート部材23をクラッチハウジング22に固定する工程において、同時にスペーサ26をクラッチハウジング22に固定できる。したがって、本クラッチ2の製造時における工数の増加を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。たとえば、本実施形態においては、自動二輪車のクラッチを示したが、適用可能なクラッチは、自動二輪車のクラッチに限定されない。また、前記実施形態においては、クラッチとして多板式クラッチを示したが、クラッチの種類も限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
2:本発明の実施形態にかかるダンパ機構が適用されたクラッチ,21:プライマリドリブンギア,211:第一の弾性部材収容部,212:第二の弾性部材収容部,213:スペーサ収容部,214:リム部,22:クラッチハウジング,221:係合面,222:第一の弾性部材収容部,223:第二の弾性部材収容部,224:ボス,23:プレート部材,231:第一の弾性部材収容部,232:第二の弾性部材収容部,24:シート部材,241:第一の弾性部材収容部,242:第二の弾性部材収容部,52a:第一の弾性部材,52b:第二の弾性部材,26:スペーサ,262:スペーサのリブ
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッチのダンパ機構に関するものであり、詳しくは、自動二輪車や四輪自動車などのクラッチに設けられ、エンジンのトルク変動を緩和することができるダンパ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動二輪車や四輪自動車は、エンジンと変速機との間で動力の伝達を断続するクラッチを備える。そして、このようなクラッチには、エンジンの動力を変速機に伝達する際に、エンジンのトルク変動を緩和するなどの機能を有するダンパ機構を備えるものがある。
【0003】
図11は、クラッチのダンパ機構の構成の従来例を示した分解斜視図である。図11に示すように、従来一般のクラッチ9は、エンジンのクランクシャフトの回転が伝達されるドリブンギア91と、このドリブンギア91の回転が伝達されるクラッチハウジング92とを備える。そして、このドリブンギア91とクラッチハウジング92との間に、ダンパ機構が設けられる。具体的には、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位可能に結合されており、これらの間に、これらの回転方向に沿って圧縮変形可能なコイルバネ93が架設される。そして、エンジンのトルク変動が生じた場合には、コイルバネ93が圧縮変形してこのトルク変動を吸収や緩和する。これにより、クラッチハウジング92に伝達されるエンジンのトルク変動を緩和することができる。
【0004】
従来一般のクラッチ9は、前記各部材に加えて、プレート部材94と、皿バネ95と、シート部材96とを備える。プレート部材94は、ドリブンギア91やコイルバネ93などを保持する機能を有する部材であり、リベット97などによってクラッチハウジング92に固定される。そして、プレート部材94とドリブンギア91との間には、皿バネ95が配設されており、ドリブンギア91は皿バネ95によってクラッチハウジング92に押し付けられる。また、ドリブンギア91とクラッチハウジング92との間には、シート部材96が配設される。
【0005】
シート部材96は、たとえば、クラッチハウジング92に設けられるボスによって、クラッチハウジング92に対して位置決めされる。しかしながら、寸法公差の確保などのために、シート部材96とクラッチハウジング92のボスとの間に隙間が存在することがある。このため、シート部材96とクラッチハウジング92とは、相対的に摺動できる。そして、シート部材96は、皿バネ95の付勢力によって生じる摩擦力によって、クラッチハウジング92の表面に保持される。このような構成であると、エンジンが加速または減速した場合や、変速の衝撃がクラッチに加わった場合には、シート部材96とクラッチハウジング92との間に相対的な摺動が生じることがある。そうすると、クラッチハウジング92の表面が摩耗することがある。特に、クラッチハウジング92がアルミにより成形され、シート部材96がアルミよりも耐摩耗性の高い鉄系の材料などにより成形される構成であると、クラッチハウジング92の表面の摩耗が大きくなる。
【0006】
また、従来一般のクラッチ9は、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位することにより、たとえば加速時において発生するドリブンギアの歯車面における打音を防止または抑制できる。しかしながら、サーキットでの走行などといった高速走行においては、ドリブンギア91とクラッチハウジング92との相対的な変位が、後輪の挙動の安定性を低下させる原因となることがある。特に、減速時など、後輪からのバックトルクがかかった場合において、ドリブンギア91とクラッチハウジング92とが相対的に変位すると、後輪の挙動の安定性が低下しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−113724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、クラッチハウジングの摩耗を防止できるクラッチのダンパ機構を提供すること、または、後輪の挙動の安定性の低下の防止もしくは安定性の向上を図ることができるクラッチのダンパ機構を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、外部からの回転が伝達される歯車と、前記歯車とともに回転するクラッチハウジングと、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に配設されるシート部材と、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に弾性変形可能で、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に設けられる弾性部材と、前記シート部材を前記クラッチハウジングに押圧して保持するスペーサと、を備えることを特徴とする。
【0010】
前記スペーサは、前記歯車の半径方向外側に延出する平板状のリブを有することを特徴とする。
【0011】
前記歯車を前記クラッチハウジングに保持するプレート部材をさらに備え、前記スペーサは、前記プレート部材とともに前記クラッチハウジングに固定されることを特徴とする。
【0012】
前記クラッチハウジングおよび前記プレート部材には凹部状の収容部が形成され、前記弾性部材は前記凹部に、前記クラッチハウジングおよび前記歯車の円周方向に圧縮変形可能な向きを向けて収容されることを特徴とする。
【0013】
前記弾性部材は、前記収容部の内周面の円周方向の一方の端面と、前記歯車のリム部に形成される開口部の内周面の円周方向の他方の端面とで、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に圧縮された状態で配置されることを特徴とする。
【0014】
前記スペーサは、少なくとも一部分が前記歯車に形成される開口部の内部に配置され、前記弾性部材の付勢力によって、前記歯車に形成される開口部の内周面の円周方向の一方の端面に当接することを特徴とする。
【0015】
前記スペーサが前記歯車の内周面の円周方向の一方の端面に当接することにより、前記クラッチハウジングが前記歯車に対して前記円周方向の一方の側へ変位することを防止することを特徴とする。
【0016】
前記開口部の円周方向の他方の端面と、前記スペーサの円周方向の他方の端部との間に、隙間が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シート部材は、スペーサによって押圧されてクラッチハウジングに固定される。このため、シート部材はスペーサに対して相対的な運動をしない。したがって、シート部材とクラッチハウジングとの間で相対的な摺動が生じないから、クラッチハウジングがシート部材によって摩耗することを防止できる。特に、クラッチハウジングがアルミからなり、シート部材が鉄系材料などといったアルミよりも耐摩耗性の高い材料により形成される場合であっても、クラッチハウジングの摩耗が防止される。
【0018】
外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとの間に、本発明の実施形態にかかるダンパ機構が設けられることにより、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは、基本的には一体に回転しながら、回転方向に相対的に変位できる。そして、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して位相進みとなる向きには、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは相対的な変位が許容される。一方、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して位相遅れとなる向きには、外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとは相対的に変位できない。すなわち、この場合には、スペーサが外部からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとの相対的な変位を阻止する。
【0019】
また、スペーサのリブを、外部からの回転が伝達されるギアの回転の半径方向外側に延出させることにより、外部からの回転が伝達される歯車がクラッチハウジングに対して回転の振れが生じることを防止できる。このため、クラッチの動作の安定性の向上を図ることができる。
【0020】
スペーサは、プレート部材とともにクラッチハウジングに固定される。このため、本発明のクラッチの部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本本発明のクラッチのダンパ機構によれば、プレート部材をクラッチハウジングに固定する工程において、同時にスペーサをクラッチハウジングに固定できる。したがって、本発明のクラッチの製造時における工数の増加を防止できる。
【0021】
本発明のダンパ機構を有するクラッチが自動二輪車に適用されると、クラッチにバックトルクがかかった場合には、外部(=エンジン)からの回転が伝達される歯車とクラッチハウジングとが相対的に変位しないようにできる。このため、加速時においては、エンジンのトルク変動を吸収や緩和することができ、減速時などにおいては、後輪の動作の安定性の低下を防止もしくは抑制を図ること、または後輪の動作の安定性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を有するクラッチが搭載された自動二輪車の構成を、模式的に示した平面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチが搭載された自動二輪車のエンジンユニットの構成を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチの構成を、模式的に示した断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかるダンパ機構および関連する部材の構成を模式的に示した分解斜視図である。
【図5】図5は、スペーサの構成を模式的に示した外観斜視図であり、(a)は、クラッチハウジングの側から見た図、(b)はプレート部材の側から見た図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構を模式的に示した平面図であり、プレート部材の側から見た図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構の各部材の関係を模式的に示した断面図であり、図3のA部拡大図である。
【図8】図8は、図6の部分拡大図であり、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかっていない状態を示した図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかった状態を模式的に示した平面図であり、図8に対応する図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構に負荷がかかった状態を模式的に示した平面図であり、図8に対応する図である。
【図11】図11は、クラッチのダンパ機構の構成の従来例を示した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチを、「本クラッチ」と略して記し、本発明の実施形態にかかるダンパ機構を備えるクラッチが搭載された自動二輪車を、「本自動二輪車」と略して記すことがある。また、本発明の説明においては、本自動二輪車1の「上」「下」「右」「左」「前」「後」のそれぞれの向きは、本自動二輪車1に乗った運転者の向きを基準とする。
【0024】
まず、本自動二輪車1の全体構成を説明する。図1は、本自動二輪車1の構成を、模式的に示した平面図である。図1に示すように、本自動二輪車1は、車体フレーム11と、操舵装置12と、後輪懸架装置13と、エンジンユニット4と、排気装置14と、その他所定の装置や部材とを含む。
【0025】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ111と、左右一対のメインチューブ112と、ボディフレーム113と、ダウンチューブ114とを含む。ヘッドパイプ111は、後傾する管状の部分を有する。左右一対のメインチューブ112は、ヘッドパイプ111の後部から、それぞれ、後方斜め右下と後方斜め左下に向かって伸びる部分を有する。ボディフレーム113は、左右一対のメインチューブ112の後方に設けられる部分である。ダウンチューブ114は、ヘッドパイプ111の後部から左右一対のメインチューブ112の下方に向かって伸びる部分と、この部分の下端から後方に伸びてボディフレーム113に結合する部分とを有する。ボディフレーム113の上部にはシートレール(図1においては隠れて見えない)が設けられる。そして、ボディフレーム113の上側には、着座シート51が、シートレールを介して取り付けられる。
【0026】
操舵装置12は、ステアリングシャフト(図においては隠れて見えない)と、ハンドル121と、左右一対のフロントフォーク122と、前輪123とを含む。そして、操舵装置12は、車体フレーム11の前部に、車体フレーム11に対して回転可能に配置される。ステアリングシャフトは、ヘッドパイプ111に回転可能に支持される。ハンドル121は、ステアリングシャフトの上端に設けられる。左右一対のフロントフォーク122は、それぞれ、ステアリングシャフトの左右に配置される。前輪123は、左右一対のフロントフォーク122の下端に、回転自在に配置される。
【0027】
また、ハンドル121は、左右のハンドルグリップ124を有する。右側のハンドルグリップ124には、スロットルグリップと、前輪のブレーキレバーとが設けられる。左側のハンドルグリップ124には、後述する本クラッチ2を操作するためのクラッチレバー125が設けられる。
【0028】
エンジンユニット4は、車体フレーム11のメインチューブ112とダウンチューブ114とボディフレーム113とにより形成される空間に配置される。エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46とを含む。クランクケースアセンブリ46の内部には、エンジンのクランクシャフト461と、変速機469のカウンターシャフト467およびドリブンシャフト468とが配設される。さらにクランクケースアセンブリ46には、本クラッチ2が組み付けられる。クランクケースアセンブリ46の左側後部には、ドリブンシャフト(図においては隠れて見えない)の左端が突出しており、ドリブンシャフトの左端には、ドライブチェーンスプロケット470が設けられる。
【0029】
後輪懸架装置13は、スイングアーム131と、ショックアブソーバ(図においては隠れて見えない)と、後輪132とを含み、車体フレーム11のボディフレーム113の後部に設けられる。スイングアーム131の前端は、ボディフレーム113に対して上下方向に搖動可能に連結される。ショックアブソーバは、スイングアーム131とボディフレーム113との間に設けられ、スイングアーム131からボディフレーム113に伝達する振動や衝撃などを吸収や緩和する。後輪132は、スイングアーム131の後端に配置され、スイングアーム131により回転自在に支持される。後輪132の左側には、ドリブンチェーンスプロケット133が設けられる。後輪132とドリブンチェーンスプロケット133とは一体に回転する。そして、エンジンユニット4のドライブチェーンスプロケット470と、後輪のドリブンチェーンスプロケット133とは、チェーン139により回転動力を伝達可能に連結される。
【0030】
排気装置14は、消音器141と排気管142とを含む。消音器141は、エンジンユニット4の後方であって、後輪132の側方に配置される。排気管142の一方の端部は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41のエグゾーストポート(後述)に接続される。他方の端部は、消音器141の前側に接続される。そして、排気管142は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41の前側から前方に向かい、シリンダアセンブリ41の前方で後方に向かって湾曲し、シリンダアセンブリ41の側方を通過し、消音器141の前側に到達する。
【0031】
エンジンユニット4の上方には、燃料タンク53が配置される。さらに、本自動二輪車1の外部には、フロントサイドカバー54やリアサイドカバー55が取り付けられる。
【0032】
次に、エンジンユニット4の全体構成について説明する。図2は、エンジンユニット4の内部構造を示した断面模式図である。なお、図2は、説明のための模式図であり、現実の特定の切断面で切断した図ではない。
【0033】
図2に示すように、エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46と、本クラッチ2とを含む。
【0034】
シリンダアセンブリ41は、シリンダブロック411と、シリンダヘッド412と、シリンダヘッドカバー413とを含む。
【0035】
シリンダブロック411の頂部には、燃焼室414が形成される。そして、シリンダブロック411の内部には、ピストン415が往復動可能に配置される。ピストン415とクランクシャフト461(後述)とは、コネクションロッド416により連結される。そして、ピストン415の運動は、コネクションロッド416によってクランクシャフト461に伝達される。シリンダブロック411の上側には、シリンダヘッド412が配置される。シリンダヘッド412には、燃焼室414とシリンダブロック411の外部とを連通するインテークポート419およびエグゾーストポート420が形成される。さらに、シリンダヘッド412の内部には、インテークポート419の開閉を制御する吸気バルブ(図略)と、エグゾーストポート420の開閉を制御する排気バルブ(図略)とが配置される。吸気バルブは吸気側カム(図略)により駆動され、排気バルブは排気側カム(図略)により駆動される。シリンダヘッドカバー413は、シリンダヘッド412の蓋となる部材であり、シリンダヘッド412の上側に配設される。
【0036】
なお、図2には、本自動二輪車1に水冷単気筒エンジンが適用される構成を示すが、本自動二輪車1に適用されるエンジンの種類は限定されるものではない。本自動二輪車には、水冷式エンジンが適用される構成であってもよく、空冷式エンジンが適用される構成であってもよい。また、単気筒エンジンが適用される構成であってもよく、多気筒エンジンが適用される構成であってもよい。なお、水冷式エンジンが適用される場合には、本自動二輪車1は、冷却水を冷却するラジエータと、冷却水を循環させるポンプとを備える。
【0037】
クランクケースアセンブリ46は、クランクケースの右半体と左半体とを含む。そして、クランクケースの右半体と左半体とが結合して、クランクケースアセンブリ46の筐体を構成する。クランクケースアセンブリ46の内部には、前側にクランク室462が形成され、後側にミッション室463が形成される。クランク室462の内部には、クランクシャフト461が回転可能に配置される。ミッション室463の内部には、カウンターシャフト467とドリブンシャフト468とが回転可能に配置され、変速機469が構成される。
【0038】
クランクケースアセンブリ46の右側面には、クラッチカバー305が取り付けられる。そして、クラッチカバー305の内側には、本クラッチ2が配置される。クランクケースアセンブリ46の左側面には、マグネトカバー465が取り付けられる。マグネトカバー465の内側には、発電機であるマグネト466が配置される。さらに、クランクケースアセンブリ46の左側には、エンジンを始動させる始動装置(図2においては省略)が配置される。
【0039】
次いで、本クラッチ2の全体的な構成を説明する。図3は、本クラッチ2の構成を、模式的に示した断面図である。本クラッチ2は、多板式クラッチである。そして、本クラッチ2は、本自動二輪車1のエンジンユニット4に設けられ、エンジンのクランクシャフト461と変速機469のカウンターシャフト467との間で回転動力の伝達を断続する。
【0040】
図3に示すように、本クラッチ2は、変速機469のカウンターシャフト467の一端近傍に設けられる。本クラッチ2は、プライマリドリブンギア21と、クラッチハウジング22と、ドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301と、ドリブンプレート303と、プッシュロッド307と、押圧部材306と、その他所定の部材とを含む。そして、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22の間にまたがって設けられる。
【0041】
プライマリドリブンギア21は、本クラッチ2の外部(本発明の実施形態においてはクランクシャフト461)から回転が伝達される歯車である。プライマリドリブンギア21は、エンジンのクランクシャフト461に設けられるプライマリドライブギア418(図略)と噛み合う。そして、プライマリドリブンギア21は、エンジンのクランクシャフト461の回転が伝達されることにより回転する。クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21と同軸に配置されており、本クラッチ2のダンパ機構を介して、プライマリドリブンギア21と結合している。そして、クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21の回転が伝達されることにより回転する。クラッチハウジング22は、略カップ状の部材であり、内部が略空洞で軸線方向の一方側が開口する構成を有する。カップの底面に相当する側が、プライマリドリブンギア21の側に向けられて配設される。
【0042】
プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、本クラッチ2のダンパ機構によって結合している。そして、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、基本的には一体に回転するが、本クラッチ2のダンパ機構により、回転方向に互いに相対的に変位可能である。本クラッチ2のダンパ機構の詳細については後述する。また、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、ベアリング308を介してカウンターシャフト467に支持されており、カウンターシャフト467に対して相対的に回転することができる。
【0043】
クラッチハウジング22には、複数のドライブプレート302が設けられる。ドライブプレート302は、略リング状の板状の部材である。そして、複数のドライブプレート302が、クラッチハウジング22の内部に、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて配設される。ドライブプレート302は、クラッチハウジング22と一体に回転する。
【0044】
クラッチスリーブハブ301は、変速機469のカウンターシャフト467の一端近傍で、かつ、クラッチハウジング22の内部に設けられる。クラッチスリーブハブ301は、カウンターシャフト467の一端に結合されており、カウンターシャフト467と一体に回転する。クラッチスリーブハブ301の外側には、複数のドリブンプレート303が設けられる。ドリブンプレート303は、略リング状で板状の部材である。そして、複数のドリブンプレート303が、クラッチスリーブハブ301の外側に、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて配設される。ドリブンプレート303は、クラッチスリーブハブ301と一体に回転する。
【0045】
そして、クラッチハウジング22に設けられる複数のドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられる複数のドリブンプレート303とが、軸線方向に交互に入り組んだ態様で配列される。
【0046】
カウンターシャフト467の端部には、クラッチハウジング22の開口部を塞ぐような態様で、プレッシャーディスク304が設けられる。プレッシャーディスク304は、略円板状の部材である。プレッシャーディスク304とクラッチスリーブハブ301との間には、コイルバネ309が設けられる。そして、プレッシャーディスク304は、コイルバネ309の付勢力によって、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303とを、互いに軸線方向に圧力がかかった状態で接触させる。なお、図2と図3においては、プレッシャーディスク304は、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303を、左側に向かって付勢する。
【0047】
カウンターシャフト467は中空軸であり、カウンターシャフト467の内部には、プッシュロッド307が配設される。プッシュロッド307は、カウンターシャフト467の内部を、軸線方向に往復動できる。カウンターシャフト467およびプッシュロッド307の一方の端部近傍には、押圧部材306が設けられる。押圧部材306は、軸線方向に移動して(図3においては、右向きに移動して)プレッシャーディスク304を押圧することができる。
【0048】
プッシュロッド307の他方の端部の近傍には、プッシュロッド307を軸線方向に移動させるための機構が設けられる(図略)。たとえば、プッシュロッド307の他方の端部の近傍には、レリーズレバーとカムとが設けられるレリーズロッドが、回転可能に設けられる。そして、レリーズロッドが回転することにより、カムがレリーズロッドと一体に回転してプッシュロッド307の他方の端部を軸線方向に押圧することができる。押されたプッシュロッド307は、カウンターシャフト467の内部を軸線方向に移動する。なお、レリーズロッドには、レリーズレバーが設けられており、このレリーズレバーとクラッチレバー125(図1参照)とが、クラッチケーブによって連結される。そして、クラッチレバー125が操作されると、クラッチケーブルによってレリーズレバーが操作され、レリーズロッドが回転する。
【0049】
このような構成を有する本クラッチ2の基本的な動作は、次のとおりである。クラッチレバー125が操作されていない状態では、プレッシャーディスク304が、コイルバネ309の付勢力によって、クラッチスリーブハブ301を軸線方向に付勢する。このため、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303とが、軸線方向に互いに圧力がかかった状態で接触する。したがって、プライマリドリブンギア21からクラッチハウジング22に伝達された回転動力は、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303と、クラッチスリーブハブ301とを介して、変速機469のカウンターシャフト467に伝達される。すなわち、いわゆる「クラッチがつながった」状態となる。
【0050】
一方、クラッチレバー125が操作されると、レリーズロッドに設けられるカムがプッシュロッド307を押圧し、プッシュロッド307が軸線方向に移動する。そして、押圧部材306がプッシュロッド307に押されて軸線方向に移動し、プレッシャーディスク304を押圧する。押圧されたプレッシャーディスク304は、コイルバネ309の付勢力に抗して軸線方向に移動する。そうすると、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303への付勢力がなくなる。この結果、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート302と、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303との接触の圧力がなくなる。したがって、クラッチハウジング22のドライブプレート302の回転は、クラッチスリーブハブ301に設けられるドリブンプレート303に伝達されなくなる。すなわち、いわゆる「クラッチが切れた」状態となる。
【0051】
次いで、本クラッチ2のダンパ機構について説明する。説明の便宜上、本クラッチ2および本クラッチ2を構成する各部材の「軸線方向」と「半径方向」と「円周方向(回転方向)」とは、カウンターシャフト467を基準とする。本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とに跨って設けられる。図4は、本クラッチ2のうち、本クラッチ2のダンパ機構および関連する部分を示した分解斜視図である。図4に示すように、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21と、クラッチハウジング22と、所定の数の第一の弾性部材52aおよび第二の弾性部材52bと、プレート部材23と、シート部材24と、所定の数のスペーサ26と、皿バネ28とを有する。
【0052】
プライマリドリブンギア21には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部211と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部212と、所定の数のスペーサ収容部213とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部211は、第一の弾性部材52aを収容可能な領域である。第二のサブ弾性部材収容部212は、第二の弾性部材52bを収容可能な領域である。スペーサ収容部213は、スペーサ26を挿通可能な領域である。そして、第一のサブ弾性部材収容部211と、第二のサブ弾性部材収容部212と、スペーサ収容部213とが、円周方向に所定の順序で配列される。第一のサブ弾性部材収容部211と第二のサブ弾性部材収容部212とスペーサ収容部213とは、いずれも、リム部214を軸線方向に貫通する貫通孔状の開口部である。このほか、プライマリドリブンギア21の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通できる軸孔217が形成される。
【0053】
クラッチハウジング22は、内部が略空洞で軸線方向の一端側が開放する略カップ状の部材である。そして、カップの底部の外側の面に相当する面が、プライマリドリブンギア21の側を向いて配設される。以下、「カップの底部の外側の面に相当する面」を、係合面221と称する。クラッチハウジング22の係合面221には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部222と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部223と、所定の数のボス224とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部222は、第一の弾性部材52aを収容可能な部分である。第二のサブ弾性部材収容部223は、第二の弾性部材52bを収容可能な部分である。第一のサブ弾性部材収容部222と第二のサブ弾性部材収容部223とは、いずれも、半径方向に沿って切断した断面が円弧形状の凹部である。ボス224は、スペーサ26を固定可能な構造物であり、プライマリドリブンギア21の側に突出する柱状の構造物である。ボス224には、リベット27を挿通できるリベット孔225が形成される。そして、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部222と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部223と、所定の数のボス224とが、円周方向に沿って、所定の順序で配列されるように設けられる。このほか、係合面221の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通できる軸孔228が形成される。クラッチハウジング22は、たとえばアルミ系の材料からなり、ダイキャスト製法によって製造される。
【0054】
シート部材24は、略リング状の形状を有するシート状の部材である。シート部材24には、クラッチハウジング22に設けられるボス224を挿通可能な所定の数のボス孔243が形成される。ボス孔243は、シート部材24の厚さ方向(=軸線方向)に貫通する貫通孔である。シート部材24の材質は特に限定されるものではないが、たとえば鉄系の金属が適用される。
【0055】
プレート部材23は、プライマリドリブンギア21と第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bを保持する機能を有する部材である。プレート部材23は、略円板の部材である。そして、プレート部材23のプライマリドリブンギア21の側の面には、所定の数の第一のサブ弾性部材収容部231と、所定の数の第二のサブ弾性部材収容部232とが形成される。第一のサブ弾性部材収容部231は、第一の弾性部材52aを収容可能な部分である。第二のサブ弾性部材収容部232は、第二の弾性部材52bを収容可能な部分である。第一のサブ弾性部材収容部231と第二のサブ弾性部材収容部232は、いずれも、半径方向に沿って切断した断面が略円弧状の凹部である。さらに、プレート部材23には、リベット27を挿通可能な所定の数のリベット孔233が形成される。そして、第一のサブ弾性部材収容部231と、第二のサブ弾性部材収容部232と、リベット孔233とが、円周方向に沿って、所定の態様で配列されるように形成される。このほか、プレート部材23の中心には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通可能な貫通孔234が形成される。
【0056】
皿バネ28は、プライマリドリブンギア21をクラッチハウジング22の側に付勢する機能を有する部材である。皿バネ28は、たとえば、略リング状の形状を有するものが適用される。なお、皿バネ28の構成は特に限定されるものではない。また、プライマリドリブンギア21をクラッチハウジング22の側に付勢できる部材であればよく、皿バネ28以外の付勢手段であってもよい。
【0057】
第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとは、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間でトルク変動を緩和する機能などを有する。第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとには、弾性圧縮変形可能なコイルバネが適用される。
【0058】
スペーサ26は、シート部材24をクラッチハウジング22に固定する機能や、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を規制する機能などを有する。図5は、スペーサ26の構成を模式的に示した斜視図であり、図5(a)はクラッチハウジング22の側から見た図である。それぞれ、図5(b)はプレート部材23の側から見た図である。図5(a)(b)に示すように、スペーサ26は、本体部261とリブ262とを有する。
【0059】
本体部261は、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿可能な寸法および形状を有する。特に、スペーサ26の本体部261の円周方向寸法は、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の円周方向寸法よりも小さい寸法に設定される。すなわち、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿された状態において、スペーサ26の本体部261と、スペーサ収容部213の内周面との間に、プライマリドリブンギア21の円周方向に隙間ができる。このため、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に遊挿された状態では、スペーサ26とプライマリドリブンギア21とが、円周方向に互いに相対的に変位可能である。また、軸線方向から見た本体部261の寸法は、シート部材24に形成されるボス孔243よりも大きい寸法に形成される。このため、スペーサ26の本体部261がシート部材24に重ね合わせられると、スペーサ26の本体部261が、シート部材24に形成されるボス孔243の周縁部に重畳する。
【0060】
本体部261には、リベット27を挿通可能なリベット孔263が形成される。リベット孔263は、本体部261を軸線方向に貫通する貫通孔である。さらに、本体部261のクラッチハウジング22の側の面には、凹部264が形成される。この凹部264は、クラッチハウジング22の係合面221に設けられるボス224を挿入可能な部分である。このため、本体部261は、全体として、異径の貫通孔が形成される構成を有する。そして、図5に示すように、リベット孔263および凹部264は、プライマリドリブンギア21の円周方向の一方に偏倚して形成される。
【0061】
リブ262は、本体部261の軸線方向のプレート部材23の側の端部から、半径方向外側に向かって延出する部分である。図5に示すように、リブ262は、たとえば舌片状または平板状に形成される。図5中の寸法T(=リブ262のクラッチハウジング22側の面と、本体部261のクラッチハウジング22の側の面との間の距離)は、プライマリドリブンギア21のリム部214の軸線方向寸法(すなわち、プライマリドリブンギア21のリム部214の厚さ)よりも大きい寸法に設定される。
【0062】
本クラッチ2のダンパ機構の組み付け構造は、次のとおりである。図4を参照して説明する。
【0063】
クラッチハウジング22の係合面221にシート部材24が配設され、さらにプライマリドリブンギア21が配設される。このため、クラッチハウジング22の係合面221とプライマリドリブンギア21との間に、シート部材24が介在する。クラッチハウジング22に形成されるボス224は、シート部材24に形成されるボス孔243を貫通し、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に入り込む。
【0064】
スペーサ26は、クラッチハウジング22の係合面221に形成されるボス224に取り付けられる。具体的には、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213に挿入される。そして、スペーサ26の本体部261の凹部264に、クラッチハウジング22に設けられるボス224が嵌まり込む。そうすると、スペーサ26のリブ262が、リム部214のプレート部材23の側の面であって、スペーサ収容部213の周縁部の半径方向外側の部分に重畳する。また、この状態においては、スペーサ26の本体部261のクラッチハウジング22の側の面が、シート部材24のボス孔243の周縁部に接触する。
【0065】
クラッチハウジング22にシート部材24とプライマリドリブンギア21とが取り付けられると、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211とが連通する。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212とが連通する。そして、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211とが連通する領域には、第一の弾性部材52aが収容される。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212とが連通する領域には、第二の弾性部材52bが収容される。なお、図4に示すように、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとは、円周方向に圧縮弾性変形可能に収容される。
【0066】
プライマリドリブンギア21のクラッチハウジング22と反対側の面には、皿バネ28が配設され、さらにプレート部材23が配設される。このため、図4に示すように、プライマリドリブンギア21とプレート部材23との間に、皿バネ28が介在する。そして、プレート部材23は、リベット27によって、クラッチハウジング22に固定される。
【0067】
このように、リベット27によって、スペーサ26とプレート部材23とがまとめてクラッチハウジングに固定される。このため、本クラッチ2の部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本クラッチ2のダンパ機構によれば、プレート部材23をクラッチハウジング22に固定する工程において、同時にスペーサ26をクラッチハウジング22に固定できる。したがって、本クラッチ2の製造時における工数の増加を防止できる。
【0068】
図6は、本クラッチ2のダンパ機構を模式的に示した平面図であり、プレート部材23の側から見た図である。図6に示すように、クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222と、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211と、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部231とが連通し、一体化した空間が形成される。これらの空間を、「第一の弾性部材収容部29a」と称する。そして、第一の弾性部材収容部29aの内部には、第一の弾性部材52aが、円周方向に弾性圧縮変形した状態で収容される。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223と、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212と、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部232とが連通し、一体化した空間が形成される。これらの空間を、「第二の弾性部材収容部29b」と称する。そして、第二の弾性部材収容部29bには、第二の弾性部材52bが、円周方向に弾性圧縮変形した状態で収容される。
【0069】
プレート部材23とクラッチハウジング22とは、スペーサ26を介してリベット27により結合される。換言すると、スペーサは、プレート部材23とともにクラッチハウジング22に固定される。このため、プレート部材23とスペーサ26とクラッチハウジング22とは、一体に回転する。一方、プライマリドリブンギア21は、スペーサ26を介して、クラッチハウジング22に結合する。そして、前記のとおり、スペーサ26の本体部261とプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の内周面との間には、円周方向に隙間が形成される。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、この隙間の分だけ、円周方向に相対的に変位可能である。そして、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとが、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間において緩衝材などとして機能する。
【0070】
図7は、本発明の実施形態にかかるクラッチのダンパ機構の各部材の関係を模式的に示した断面図であり、図3のA部拡大図である。前記のとおり、スペーサ26の本体部261の寸法T(=リブ262のクラッチハウジング22の側の面と本体部261のクラッチハウジング22の側の面との間の寸法)は、プライマリドリブンギア21のリム部214の軸線方向寸法よりも大きい。さらに、スペーサ26の本体部261を軸線方向から見た外形寸法は、シート部材24のボス孔243よりも大きい。このため、スペーサ26がクラッチハウジング22に固定されると、シート部材24のボス孔243の周縁部は、スペーサ26によって、クラッチハウジング22の係合面221に押圧される。したがって、シート部材24は、クラッチハウジング22の係合面221に固定され、クラッチハウジング22に対して相対的に移動することができない。換言すると、シート部材24は、スペーサ26により、クラッチハウジング22の係合面221上を摺動することができないように押圧されて固定される。
【0071】
また、スペーサ26の本体部261の寸法Tが前記のとおりであるから、スペーサ26がクラッチハウジング22に固定されると、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22の係合面221との間と、プライマリドリブンギア21とスペーサ26のリブ262のクラッチハウジング22の側の面との間の少なくとも一方には、隙間が形成される。このため、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22に対して相対的に移動できる。ただし、スペーサ26のリブ262が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の周縁部(特に半径方向の外周側)に係合する。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが分離しないように結合され、かつ同軸の位置関係に維持される。
【0072】
図8は、図6の部分拡大図であり、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態を示した図である。説明の便宜上、円周方向の一方側(=矢印Aが指し示す側)を「A側」と称し、円周方向の他の一方側(=矢印Bが指し示す側)を「B側」と称することがある。
【0073】
図8は、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213の内周面のうち、円周方向の一方の側の端面(=A側の端面)に接触している状態を示す。図8に示すように、スペーサ26の本体部261のA側の端面が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に接触すると、スペーサ26の本体部261のB側の端面と、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のB側の端面との間に隙間ができる。このため、プライマリドリブンギア21は、この状態から、クラッチハウジング22に対してA側に向かって相対的に変位できる。
【0074】
第一の弾性部材収容部29aの構成は、以下のとおりである。クラッチハウジング22の第一のサブ弾性部材収容部222の円周方向の端面226a,226bと、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部231の円周方向の端面235a,235bの位置が一致する。同様に、クラッチハウジング22の第二のサブ弾性部材収容部223の円周方向の端面227a,227bと、プレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部232の円周方向の端面236a,236bの位置が一致する。なお、図8においては、円周方向の端面を含め、輪郭線の全体が一致する構成を示す。
【0075】
この状態においては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のA側の端面215aは、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aよりもA側に位置している。同様に、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bは、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のB側の端面226b,235bよりもA側に位置している。
【0076】
このため、第一の弾性部材収容部29aにおいては、クラッチハウジング22とプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面226a,235aと、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bとの間に、第一の弾性部材52aが架設される。すなわち、第一の弾性部材52aのA側の端部は、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aに接触している。そして、第一の弾性部材52aのA側の端部は、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のA側の端面と離間しており接触していない。一方、第一の弾性部材52aのB側の端部は、プライマリドリブンギア21の第一の弾性部材収容部211の内周面のB側の端面215bに接触している。そして、第一の弾性部材52aのB側の端部は、クラッチハウジング22およびプレート部材23の第一のサブ弾性部材収容部222,231のB側の端面226b,235bと離間しており接触していない。
【0077】
第一の弾性部材52aは、第一の弾性部材収容部29aの内部に、弾性圧縮変形した状態で収容される。このため、図8に示すように、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、第一の弾性部材52aの付勢力によって、プライマリドリブンギア21に対してA側に向かって付勢される。そして、スペーサ26の本体部261は、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に付勢されて当接した状態に維持される。換言すると、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213のA側の端面に接触するため、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、プライマリドリブンギア21に対してA側に変位することができない。
【0078】
このように、スペーサ26は、少なくとも一部分(本実施形態においては本体部261)が、プライマリドリブンギア21に形成される開口部(本実施形態においてはスペーサ収容部213)の内部に配置される。そして、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態においては、弾性部材(本実施形態においては、第一の弾性部材52a)の付勢力によって、プライマリドリブンギア21に形成される開口部の内周面のA側の端面に当接する。
【0079】
第二の弾性部材収容部29bの構成は次のとおりである。図8に示すように、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212の円周方向寸法は、クラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232の円周方向寸法よりも小さい。そして、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21のスペーサ収容部213のA側の端面に接触していると、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側の端面216aは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aよりもB側に位置する。一方、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のB側の端面216bは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のB側の端面227a,236aよりもA側に位置する。すなわち、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bは、ラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側とB側の両端面227a,236a,227b,236bの間に位置する。
【0080】
このため、第二の弾性部材52bは、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bの間に架設される。そして、第二の弾性部材52bのA側とB側の両端部は、クラッチハウジング22の係合面221とプレート部材23とに形成される第二のサブ弾性部材収容部223,232の円周方向のA側とB側の両端面227a,227b,235a,235bのいずれにも離間しており接触していない。
【0081】
次に、本クラッチ2のダンパ機構の動作について説明する。図9と図10は、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかった場合の動作を模式的に示した図であり、図8に対応する図である。そして、図10は、図9よりも大きい負荷がかかった場合の動作を示す。
【0082】
まず、プライマリドリブンギア21に、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に向かって変位するような負荷がかかった場合の動作について説明する。この場合には、プライマリドリブンギア21は、第一の弾性部材52aの付勢力に抗して、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に変位する。このため、図9に示すように、第一の弾性部材収容部29aにおいては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部211のB側の端面215bが、クラッチハウジング22とプレート部材23との第一のサブ弾性部材収容部222,231のA側の端面226a,235aに接近する。そして、第一の弾性部材52aは、負荷がかかっていない状態(図8に示す状態)から弾性圧縮変形する。すなわち、第一の弾性部材52aが負荷を負担する。一方、第二の弾性部材収容部29bにおいては、プライマリドリブンギア21の第二のサブ弾性部材収容部212のA側とB側の両端面216a,216bと、クラッチハウジング22とプレート部材23との第一のサブ弾性部材収容部のA側とB側の端面227a,236a,227b,236bとの位置関係は変化しない。このため、第二の弾性部材52bは、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態(図8に示す状態)と同じ状態にある。このように、図9に示す状態においては、本クラッチ2のダンパ機構にかかった負荷は、第一の弾性部材52aが負担し、第二の弾性部材52bは負担しない。
【0083】
本クラッチ2に、さらに大きい負荷がかかると、図10に示すように、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側にさらに変位する。そうすると、第一の弾性部材52aの弾性圧縮変形の程度が大きくなる。また、第二の弾性部材収容部29bにおいては、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部212のA側の端面216aが、クラッチハウジング22とプレート部材23との第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aよりもA側に移動する。そして、第二の弾性部材52bのA側の端部が、クラッチハウジング22とプレート部材23との第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aに接触する。このため、第二の弾性部材52bは、プライマリドリブンギア21の第一のサブ弾性部材収容部212のB側の端面216bと、クラッチハウジング22とプレート部材23の第二のサブ弾性部材収容部223,232のA側の端面227a,236aとにはさまれて弾性圧縮変形する。このように、図10に示す状態においては、本クラッチ2にかかった負荷は、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとの両方が負担する。
【0084】
クラッチハウジング22およびプレート部材23に、プライマリドリブンギア21に対してA側に向かって変位するような負荷がかかった場合の動作は、次のとおりである。図8に示すように、本クラッチ2のダンパ機構に負荷がかかっていない状態では、スペーサ26の本体部261がプライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の円周方向のA側の端面に接触している。このため、クラッチハウジング22およびプレート部材23は、図8に示す状態からは、プライマリドリブンギア21に対してA側に変位することができない。このように、この場合には、クラッチハウジング22とプライマリドリブンギア21とは、相対的に変位しない。したがって、本クラッチ2のダンパ機構は、この場合には、緩衝しない。
【0085】
以上のとおり、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21に所定の向きの負荷(=プライマリドリブンギア21を、クラッチハウジング22に対して所定の向き(=A側)に変位させる向きの負荷)がかかった場合には、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bとが弾性圧縮変形する。これにより、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間で、負荷の変動を吸収することができる。そして、負荷の大きさに応じて、負荷の変動の吸収や緩和の程度を変化させることができる。すなわち、負荷が小さい場合には、第一の弾性部材52aのみで負荷の変動を吸収や緩和をさせ、負荷が大きい場合には、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bの両方で負荷の変動の吸収や緩和をさせることができる。一方、クラッチハウジング22に所定の向きの負荷(=クラッチハウジング22を、プライマリドリブンギア21に対して所定の向き(=A側)に変位させる向きの負荷)がかかった場合には、スペーサ26によって、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位しない。すなわち、クラッチハウジング22に前記所定の向きの負荷がかかった場合には(換言すると、プライマリドリブンギア21に前記所定の向きと反対向きの負荷がかかった場合には)、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を許容しない。このように、本クラッチ2のダンパ機構は、プライマリドリブンギア21に所定の向きの負荷がかかった場合にのみ、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を許容し、負荷の変動を吸収や緩和する。
【0086】
次に、本クラッチ2のダンパ機構が本自動二輪車1に搭載された状態における動作を説明する。本クラッチ2のダンパ機構は、本自動二輪車1が前進走行している場合に、クラッチハウジング22がプライマリドリブンギア21に対して位相遅れとなる向きに変位できるように組み込まれる。図7〜図9を参照すると、本クラッチ2にエンジンの回転動力が伝達された場合には、プライマリドリブンギア21がA側に回転してクラッチハウジング22に動力を伝達するように組み込まれる。すなわち、本クラッチ2のダンパ機構は、スペーサ収容部213の円周方向の両端面のうち、スペーサ26が接触している側が、回転方向の前側となるように組み込まれる。
【0087】
本自動二輪車1の加速時など、エンジンユニット4から後輪132に動力を伝達している状態における動作は、次のとおりである。この状態においては、プライマリドリブンギア21からクラッチハウジング22に動力が伝達される。このため、本クラッチ2のダンパ機構には、クラッチハウジング22およびプレート部材23が、プライマリドリブンギア21に対して位相遅れが生じる向きの負荷かがかる。すなわち、図8においては、プライマリドリブンギア21に、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に変位するような負荷がかかる。このため、負荷が第一の弾性部材52aの付勢力よりも大きいと、図9に示すように、プライマリドリブンギア21は、第一の弾性部材52aの付勢力に抗して、クラッチハウジング22およびプレート部材23に対してA側に相対的に変位する。そして、エンジンのトルク変動などの負荷が、第一の弾性部材52aによって緩和や吸収される。負荷がさらに大きくなると、図10に示すように、エンジンのトルク変動は、第一の弾性部材52aと第二の弾性部材52bの両方により、吸収や緩和される。
【0088】
このように、本クラッチ2のダンパ機構は、本自動二輪車1の加速時など、プライマリドリブンギア21がクラッチハウジング22に対して位相進みの態様で変位するような負荷がかかった場合には、第一の弾性部材および第二の弾性部材が弾性圧縮変形して、エンジンのトルク変動を吸収や緩和する。
【0089】
これに対して、本自動二輪車1の減速時など、後輪132からエンジンユニット4に向かってバックトルクがかかる場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、相対的に変位しない。バックトルクがかかると、本クラッチ2のダンパ機構には、プライマリドリブンギア21には、クラッチハウジング22に対して位相遅れの向きに変位させるような負荷がかかる。図8に示すように、スペーサ26の本体部261が、プライマリドリブンギア21に形成されるスペーサ収容部213の内周面のA側の端面(=回転の向きの前方側の端面)に接触している。このため、プライマリドリブンギア21は、クラッチハウジング22に対して位相遅れとなる向きには変位できない。したがって、減速時など、後輪132からエンジンユニット4にバックトルクがかかった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、相対的に変位することなく一体に回転する。このため、バックトルクがかかった場合において、後輪132の動作が不安定になることを防止または抑制できる。または、バックトルクがかかった場合における後輪132の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0090】
たとえば、後輪132をスライドさせたい場合やスライドした場合など、不確実で変動が大きい後輪132の挙動をエンジンのイナーシャで吸収し、後輪132の挙動の安定化を図りたいことがある。このような場合には、後輪132からバックトルクによってプライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位できる構成であると、エンジンのクランクシャフト461の回転は安定しているにもかかわらず、第一の弾性部材52aおよび第二の弾性部材52bが弾性圧縮変形することによって、後輪132の挙動が不安定になることがある。これに対して本クラッチ2は、クラッチにバックトルクが掛かった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは相対的に変位しないから、後輪132の挙動の安定化を図ることができる。または後輪132の挙動が不安定になることを防止もしくは抑制できる。特に、たとえばスロットルを閉じて減速しながら後輪を滑らせる、または後輪が滑った場合に、後輪132の挙動の安定化を図ることができる。このように、本クラッチ2は、加速時においては、エンジンのトルク変動を吸収することや緩和することができ、減速時においては、後輪132の挙動の安定化を図ることまたは挙動が不安定になることを防止もしくは抑制できる。
【0091】
本クラッチ2のダンパ機構の作用効果は、次のとおりである。
【0092】
シート部材24は、スペーサ26によってクラッチハウジング22に押圧されて固定されている。このため、シート部材24はスペーサ26に対して相対的な運動をしない。したがって、シート部材24とクラッチハウジング22との間で相対的な摺動が生じないから、クラッチハウジング22がシート部材24によって摩耗することを防止できる。特に、クラッチハウジング22がアルミからなり、シート部材24が鉄系材料などといったアルミよりも耐摩耗性の高い材料により形成される場合であっても、クラッチハウジング22の摩耗が防止される。
【0093】
プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間に、本クラッチ2のダンパ機構が設けられることにより、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、基本的には一体に回転しながら、回転方向に相対的に変位できる。そして、プライマリドリブンギア21の回転の位相が、クラッチハウジング22の回転の位相に対して先行する向きについては、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な移動が許容される。一方、プライマリドリブンギア21の回転の位相が、クラッチハウジング22よりも後行する向きには、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、スペーサ26によって、相対的に変位できない。
【0094】
そして、本クラッチ2のダンパ機構を備える自動二輪車1は、加速時においては、本クラッチ2のダンパ機構がエンジンのトルク変動を吸収や緩和することができる。一方、減速時など、本クラッチ2にバックトルクがかかった場合には、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とが相対的に変位しないようにできる。このため、バックトルクがかかった場合において、後輪132の動作の安定性の低下を防止もしくは抑制を図ること、または後輪の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0095】
また、スペーサ26に形成されるリベット孔263を、円周方向に偏倚させることによって、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との相対的な変位を、所定の一方の向きについては許容し、反対向きについては許容しないようにできる。さらに、スペーサ26の円周方向の寸法を変更することによって、第二の弾性部材52bが弾性圧縮変形を開始する位置を変更することができる。このように、スペーサ26の本体部261の円周方向寸法や、スペーサ26に形成されるリベット孔263の円周方向の位置を変更することによって、本クラッチ2のダンパ機構の特性を変更することができる。このため、本クラッチ2のダンパ機構の特性の設定が容易となる。
【0096】
また、スペーサ26のリブ262を、プライマリドリブンギア21の回転の半径方向外側に延出させることにより、プライマリドリブンギア21がクラッチハウジング22に対して回転の振れが生じることを防止できる。このため、本クラッチ2の動作の安定性の向上を図ることができる。
【0097】
そして、スペーサ26は、プレート部材23とともにクラッチハウジング22に固定される。このため、本クラッチ2の部品点数の増加を防止または抑制できる。さらに、本クラッチ2のダンパ機構によれば、プレート部材23をクラッチハウジング22に固定する工程において、同時にスペーサ26をクラッチハウジング22に固定できる。したがって、本クラッチ2の製造時における工数の増加を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。たとえば、本実施形態においては、自動二輪車のクラッチを示したが、適用可能なクラッチは、自動二輪車のクラッチに限定されない。また、前記実施形態においては、クラッチとして多板式クラッチを示したが、クラッチの種類も限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
2:本発明の実施形態にかかるダンパ機構が適用されたクラッチ,21:プライマリドリブンギア,211:第一の弾性部材収容部,212:第二の弾性部材収容部,213:スペーサ収容部,214:リム部,22:クラッチハウジング,221:係合面,222:第一の弾性部材収容部,223:第二の弾性部材収容部,224:ボス,23:プレート部材,231:第一の弾性部材収容部,232:第二の弾性部材収容部,24:シート部材,241:第一の弾性部材収容部,242:第二の弾性部材収容部,52a:第一の弾性部材,52b:第二の弾性部材,26:スペーサ,262:スペーサのリブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの回転が伝達される歯車と、
前記歯車とともに回転するクラッチハウジングと、
前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に配設されるシート部材と、
前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に弾性変形可能で、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に設けられる弾性部材と、
前記シート部材を前記クラッチハウジングに押圧して保持するスペーサと、
を備えることを特徴とするクラッチのダンパ機構。
【請求項2】
前記スペーサは、前記歯車の半径方向外側に延出する平板状のリブを有することを特徴とする請求項1に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項3】
前記歯車を前記クラッチハウジングに保持するプレート部材をさらに備え、前記スペーサは、前記プレート部材とともに前記クラッチハウジングに固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項4】
前記クラッチハウジングおよび前記プレート部材には凹部状の収容部が形成され、前記弾性部材は前記収容部に、前記クラッチハウジングおよび前記歯車の円周方向に圧縮変形可能な向きを向けて収容されることを特徴とする請求項3に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記収容部の内周面の円周方向の一方の端面と、前記歯車のリム部に形成される開口部の内周面の円周方向の他方の端面とで、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に圧縮された状態で配置されることを特徴とする請求項4に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項6】
前記スペーサは、少なくとも一部分が前記歯車に形成される開口部の内部に配置され、前記弾性部材の付勢力によって、前記歯車に形成される開口部の内周面の円周方向の一方の端面に当接することを特徴とする請求項5に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項7】
前記スペーサが前記歯車の内周面の円周方向の一方の端面に当接することにより、前記クラッチハウジングが前記歯車に対して前記円周方向の一方の側への変位を防止することを特徴とする請求項6に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項8】
前記開口部の円周方向の他方の端面と、前記スペーサの円周方向の他方の端部との間に、隙間が形成されることを特徴とする請求項7に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項1】
外部からの回転が伝達される歯車と、
前記歯車とともに回転するクラッチハウジングと、
前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に配設されるシート部材と、
前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に弾性変形可能で、前記歯車と前記クラッチハウジングとの間に設けられる弾性部材と、
前記シート部材を前記クラッチハウジングに押圧して保持するスペーサと、
を備えることを特徴とするクラッチのダンパ機構。
【請求項2】
前記スペーサは、前記歯車の半径方向外側に延出する平板状のリブを有することを特徴とする請求項1に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項3】
前記歯車を前記クラッチハウジングに保持するプレート部材をさらに備え、前記スペーサは、前記プレート部材とともに前記クラッチハウジングに固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項4】
前記クラッチハウジングおよび前記プレート部材には凹部状の収容部が形成され、前記弾性部材は前記収容部に、前記クラッチハウジングおよび前記歯車の円周方向に圧縮変形可能な向きを向けて収容されることを特徴とする請求項3に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記収容部の内周面の円周方向の一方の端面と、前記歯車のリム部に形成される開口部の内周面の円周方向の他方の端面とで、前記歯車および前記クラッチハウジングの円周方向に圧縮された状態で配置されることを特徴とする請求項4に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項6】
前記スペーサは、少なくとも一部分が前記歯車に形成される開口部の内部に配置され、前記弾性部材の付勢力によって、前記歯車に形成される開口部の内周面の円周方向の一方の端面に当接することを特徴とする請求項5に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項7】
前記スペーサが前記歯車の内周面の円周方向の一方の端面に当接することにより、前記クラッチハウジングが前記歯車に対して前記円周方向の一方の側への変位を防止することを特徴とする請求項6に記載のクラッチのダンパ機構。
【請求項8】
前記開口部の円周方向の他方の端面と、前記スペーサの円周方向の他方の端部との間に、隙間が形成されることを特徴とする請求項7に記載のクラッチのダンパ機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−167738(P2012−167738A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29170(P2011−29170)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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