説明

クリップ

【課題】取付時にスタビライザには必要にして十分な弾性反発力が得られ、且つ、取付位置である板状取付部材(フレーム)の板厚の適用可能範囲を拡げることのできるクリップの提供。
【解決手段】チューブ取付部(1)と、軸部(2)と、該軸部(2)のチューブ取付部(1)とは反対側の端部(22e)に形成された爪(3)と、スタビライザ(4)とを有しており、板状取付部材(フレーム50)の貫通孔(52)に爪(3)が挿入されて(爪3が)展開した際にスタビライザ(4)は圧縮され、その(スタビライザ4の)弾性反撥力により爪(3)をスタビライザ(4)側に引っ張る機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種チューブを束ねて配置するためのクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
シャシーフレームを有する車両では、ブレーキ系統の配管やクラッチ操作系の配管等を、樹脂製のクリップによってフレームの内側に固定している。図6〜図8は、そのようなクリップ100Jの側面(図6)、正面(図7)、平面(図8:図6のX矢視)を示している。
クリップ100Jは、チューブ取付部1と、軸部2Jと、爪3Jと、スタビライザ4Jとを有している。
【0003】
チューブ取付部1は、帯状部材11と、係止部材12とを有している。帯状部材11には、図6における下方側の面の長手方向に多数の突起11aが形成されている(図8参照)。
被固定部材(例えば、配管:図9の符号P)を軸部2の頂部に固定させるに際しては、図9で示すように、帯状部材11を被固定部材(配管P)に巻き付け、帯状部材11の先端を係止部材12に通し、帯状部材11先端を引っ張れば良い。帯状部材11に形成された突起11aが、係止部材12の係止部12b(図8参照)とが係合するので、帯状部材11を被固定部材(配管P)に巻き付いた状態で固定される。
【0004】
また、クリップ100Jをフレーム50に固定するに際しては、図10の(10−1)に示すように、フレーム50のクリップ取付用貫通孔52に軸部2Jを差し込む(矢印Y1の動作)。貫通孔52に軸部2Jを差し込む際に、爪3は半径方向内方に変位する(矢印Y2方向)。
そして、図10の(10−2)に示すように、爪3Jの上端が、フレーム50における下方の面50bを通過すると、爪3Jは開いて元の状態に復帰する。
【0005】
スタビライザ4Jは所定幅の板状の部材として形成されている(図7、図8参照)。図6を参照すれば明らかな様に、スタビライザ4Jは、軸部2の付け根から先端部まで、図6において斜め下方に延在する様に傾斜して構成されている。そして、スタビライザ4Jには、ある程度の弾性を有する様に構成されている。
図9において、クリップ100Jはフレーム50(固定場所)に固定されており、フレーム50の板厚Tは、スタビライザ4Jの先端から爪3Jの上端までの距離Hより多少大きな値となっている。
クリップ100Jをフレーム50に取り付けた後、スタビライザ4Jの弾性反撥力は、爪3Jをスタビライザ4J側へ引っ張る様に作用するので、係る男性反撥力により、フレーム50に振動が加わっても、クリップ100J全体の動きが拘束される。
【0006】
しかし、フレーム50の板厚Tと、スタビライザ4Jの先端から爪3Jの上端までの距離Hとの差が大きい場合は、フレーム50にクリップ100Jを取り付けた際には、スタビライザ4Jは大きく変形し、過大な応力が生じ、クリープ現象によりスタビライザ4Jが時間の経過と共に劣化したり、スタビライザ4Jの付け根部分が破損してしまう恐れがある。
従って、従来のクリップは、取付位置(例えばフレーム50)の厚みに対応して、数種類のクリップを用意する必要があった。
そして、数種類のクリップを用意しなければならないことは、クリップの種類の増加を意味しており、部品管理上コストアップとなるのみならず、配管組立に際しては最適なクリップを選定する手間が加わってしまうので、作業効率の悪化につながってしまう。
【0007】
その他の従来技術としては、概略皿型をしたスタビライザを有するクリップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1のような皿型のスタビライザでは弾性反撥力を発揮する範囲に限りがあるため、板状取付部材の厚さ寸法毎に複数種類のクリップを用意しなければならず、組立時の労力やコストを軽減する事が出来ない。
【特許文献1】特開2002−174210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、取付時にスタビライザには必要にして十分な弾性反発力が得られ、且つ、取付位置である板状取付部材(フレーム)の板厚の適用可能範囲を拡げることのできるクリップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のクリップは、樹脂により構成され、チューブ取付部(1)と、軸部(2)と、該軸部(2)のチューブ取付部(1)とは反対側の端部(22e)に形成された爪(3)と、スタビライザ(4)とを有しており、板状取付部材(フレーム50)の貫通孔(52)に爪(3)が挿入されて(爪3を挿入したのと反対側で爪3が)展開した際にスタビライザ(4)は圧縮され、その(スタビライザ4の)弾性反撥力により爪(3)をスタビライザ(4)側に引っ張る機能を有しており、該スタビライザ(4)の縦方向断面は概略「く」字状に形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
本発明において、前記スタビライザ(4)は(クリップ100の軸部2に)一体的に成形されており、軸部(2)と接続しているチューブ取付部側の部分(第1の部分41)と、爪側の部分(第2の部分42)と、チューブ取付部側の部分と爪側の部分との接続部分(43)とから成り、該接続部分(43)は一部が欠損した環状に形成されているのが好ましい(請求項2)。
【0011】
また本発明において、前記軸部(2)と爪(3)とは一体に形成されているのが好ましい(請求項3)。
【0012】
さらに本発明において、前記取付部材は車両のフレーム(50)であるのが好ましい(請求項4)。
そして、当該車両は貨物自動車であるのが好ましい(請求項5)。
【0013】
それに加えて本発明において、前記チューブ取付部(1)は、細長い形状をしており且つ片面に多数の突起(11a)が形成された帯状部材(11)と、帯状部材に形成された突起と係合する係止部材(12)とを有しているのが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0014】
上述する構成を具備する本発明のクリップによれば、前記スタビライザ(4)の縦方向断面は概略「く」字状に形成されているので、板状取付部材(例えば、貨物車両のフレーム50)の厚さ方向寸法が大きくなっても(厚くなっても)、スタビライザ(4)の弾性反撥力は発揮可能である。
その結果、被固定部材であるチューブを板状部材(フレーム50)に沿って、確実に(安定して)配置することが出来る。
【0015】
そして本発明のクリップ(100)によれば、板状取付部材(例えば、貨物車両のフレーム50)の厚さ方向寸法が大きくなっても(厚くなっても)、スタビライザ(4)の弾性反撥力が発揮されるので、適用可能な板状取付部材(50)の厚さ寸法の範囲が従来技術に比較して広くなり、板状取付部材(50)の厚さ寸法毎に、別種類のクリップを用意する必要が無くなる。換言すれば、従来は複数種類のクリップが必要であった複数種類の板状取付部材に対して、単一のクリップに統合する事が可能となる。
【0016】
そして、従来複数種類必要であったクリップを単一のクリップに統合できる事により、クリップ製作コストを低減することが出来る。また、クリップの種類が減少することから、クリップを保管するスペースも減少することが出来る。
さらに、クリップの種類が減少し、場合によっては単一のクリップのみを適用すればよくなるため、クリップを選択する労力が不要となり、製造に関する労力が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
なお、実施形態に関する図面において、従来技術のクリップにおける部材と同様な形状で且つ同様な作用効果を奏する部材は、同一の符号を付して説明している。
【0018】
図1〜図3において、全体を符号100で示すクリップは、全体が樹脂により構成され、チューブ取付部1と、軸部2と、爪3と、スタビライザ4とを有している。チューブ取付部1は、帯状部材11と係止部材12とを有しており、係止部材12は帯状部材11の一端に固設されている。
帯状部材11の一方の面(図1の下方側の面)には、多数の突起11aが形成されている。一方、係止部材12にはスリット12aと係止部12bとが設けられており、スリット12aは帯状部材11を通過させる様に構成されている。そして係止部12bは、スリット12aを通過した帯状部材11の突起11aと係合して、帯状部材11を係止する機能を有している。
【0019】
軸部2は、頂部20と、第1の軸部21と、第2の軸部22と、するスタビライザ取付部23とにより構成されている。第1の軸部21は頂部20に隣接しており、第2の軸部22は最下方(図1における最も下方の領域)に設けられている。スタビライザ取付部23は、第1の軸部21と第2の軸部22の中間に位置しており、第1の軸部と第2の軸部22に隣接した位置に設けられている。
【0020】
第2の軸部22の下端22eよりも下方には、軸部2と連なって形成された爪3が形成されている。
爪3は、爪本体31と爪支持部32とで構成され、爪本体31は、側面から見た状態(図1で見た状態)が錨の様な形状となっている。そして、爪本体31を正面から見た形状は(図2参照)、均一の幅で且つ僅かな円弧を有した板状体で構成されている。この板状体の円弧は、図2の紙面に垂直な方向の表側(図2を見ている側)が凸になるように湾曲している。
爪3の図1における左右方向寸法Lは、板状取付部材50(例えば車両のシャシーフレーム:図4、図5参照)の取付用貫通孔52(図4、図5参照)の直径よりも大きく構成されている。
【0021】
スタビライザ4は、軸部2のスタビライザ取付部23と一体的に成形されており、スタビライザ4は軸部2のスタビライザ取付部23に接続している。また、スタビライザ4の縦方向断面は、図1を参照すれば明らかな様に概略「く」字状に形成されている。
縦方向断面が概略「く」字状のスタビライザ4は、スタビライザ取付部23側の部分(第1の部分)41と、爪側の部分42(第2の部分)と、第1の部分41と第2の部分42との接続部分43とを有している。接続部分43は、円周方向の一部が欠損した円環の様な形状となっている。
そしてスタビライザ4は、全体的に弾性を有している。
【0022】
図4において、クリップ100を板状取付部材(例えばフレーム)50に取り付ける際には、爪3の先端をフレーム50の取付用貫通孔52に挿入する。ここで、爪3の左右方向寸法L(図1参照)は、フレーム50の取付用貫通孔52の直径よりも大きく構成されているが、スタビライザ4全体が弾性を有しているため、爪3を取付用貫通孔52に挿入するに際しては、爪3の上方の端部3tは半径方向内方に弾性変形し、爪3の左右方向寸法L(図1参照)は取付用貫通孔52内径と等しくなる。その結果、爪3は取付用貫通孔52内に挿入可能となる。
爪3の上方の端部3tが貫通孔52を通過して、フレーム50の反対側の面に出ると、半径方向内方に弾性変形した爪3の上方の端部3tは、その弾性反撥力によって元の形状に復帰する。その状態では、爪3の左右方向寸法L(図1)は取付用貫通孔52の内径寸法よりも大きくなるので、クリップ100はフレーム50から自然に抜け落ちてしまう事が防止される。
【0023】
ここで、クリップ取付前のスタビライザ4(フレーム50に取り付ける以前の状態:図4における破線の状態)においては、その先端42tから爪の上方の端部3tとの垂直方向の距離Hは、フレームの板厚Tよりも小さい。したがって、クリップ100をフレーム50に取り付け、爪3の上方の端部3tが貫通孔52を通過した状態では、前記距離Hがフレームの板厚Tと等しくなる様にスタビライザ4は圧縮される。
スタビライザ4が圧縮された際には、スタビライザ4の圧縮変形による弾性反撥力が発生し、その弾性反撥力は、爪3をスタビライザ4側に引っ張るように作用する。当該弾性反撥力により、爪3をスタビライザ4側に引っ張るため、クリップ100はフレーム50に確実に固定され、固定された位置から変位してしまうことは無い。
【0024】
図5は、フレーム50の厚さ寸法Tが大きい場合を示している。
図5で示すように、厚さ寸法Tが大きいフレーム50にクリップ100を取り付ければ、スタビライザ4は図5において点線で示す状態に弾性変形し、スタビライザ4の第1の部分41と、第2の部分42とは概略平行となる。ここで、一部が欠損した環状の接続部43によって、スタビライザ4の弾性反撥力は保持される。すなわち、図5の点線で示す状態であっても、スタビライザ4の弾性反撥力は失われず、当該弾性反撥力により爪3をスタビライザ4側に引っ張ることによって、クリップ100はフレーム50へ堅固に固定される。
なお、図5において実線で示すのは、クリップ100がフレーム50に取り付けられていない場合のスタビライザ4である。
【0025】
図示の実施形態に係るクリップ100によれば、スタビライザ4の縦方向断面は概略「く」字状に形成されており、一部が欠損した円環の様な形状の接続部43を備えているので、取付部材であるフレーム50の厚さ方向寸法が大きくなっても(厚くなっても)、スタビライザ4の弾性反撥力は損なわれない。
その結果、クリップ100はフレーム50に容易且つ確実に取り付けられ、クリップ100の被固定部材をフレーム50に沿って確実に配置することが出来る。
【0026】
そして、フレーム50の厚さ方向寸法が大きくなっても(厚くなっても)スタビライザ4の弾性反撥力が損なわれないので、図示の実施形態によれば、適用可能なシャシーフレーム50の厚さ寸法の範囲が、従来技術に比較して広くなる。そのため、フレーム50の厚さ寸法毎に、別種類のクリップを用意する必要が無くなる。換言すれば、厚さ寸法Tが異なる複数種類のフレーム50に対して、従来は複数種類のクリップが必要であったが、図示の実施形態では単一のクリップに統合する事が可能となる。
【0027】
そして、従来複数種類必要であったクリップを単一のクリップに統合する事により、クリップ製作コストを低減することが出来る。また、クリップの種類の減少により、クリップ保管スペースも削減できる。
さらに、クリップの種類を減少し、場合によっては単一のクリップのみを準備すれば事が足りるため、クリップを選択する労力が不要となり、製造に関する労力が低減される。そして、製造時間の短縮及び製造コストの削減にもつながる。
【0028】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態の側面図。
【図2】本発明の実施形態の正面図。
【図3】本発明の実施形態の平面図。
【図4】厚さ寸法が比較的小さいフレームに実施形態に係るクリップを取り付けた状態を示す拡大断面図。
【図5】厚さ寸法が大きいフレームに実施形態に係るクリップを取り付けた状態を示す拡大断面図。
【図6】従来技術のクリップの側面図。
【図7】図6のクリップの正面図。
【図8】図6のクリップの平面図。
【図9】従来技術のクリップをフレームに取り付けた状態を示す断面図。
【図10】従来技術における爪の動作を示す動作説明図。
【符号の説明】
【0030】
1・・・チューブ取付部
2・・・軸部
3・・・爪
4・・・スタビライザ
11・・・帯状部材
11a・・・突起
12・・・係止部材
41・・・チューブ取付部材側の部分
42・・・爪側の部分
43・・・接続部分
50・・・取付部材/フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂により構成され、チューブ取付部(1)と、軸部(2)と、該軸部(2)のチューブ取付部(1)とは反対側の端部(22e)に形成された爪(3)と、スタビライザ(4)とを有しており、板状取付部材(50)の貫通孔(52)に爪(3)が挿入されて展開した際にスタビライザ(4)は圧縮され、その弾性反撥力により爪(3)をスタビライザ(4)側に引っ張る機能を有しており、該スタビライザ(4)の縦方向断面は概略「く」字状に形成されていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記スタビライザ(4)は一体的に成形されており、軸部(2)と接続しているチューブ取付部(1)側の部分(41)と、爪(3)側の部分(42)と、チューブ取付部側の部分と爪側の部分との接続部分(43)とから成り、該接続部分(43)は一部が欠損した環状に形成されている請求項1のクリップ。
【請求項3】
前記軸部(2)と爪(3)とは一体に形成されている請求項1、2の何れかのクリップ。
【請求項4】
前記取付部材(50)は車両のフレームである請求項1〜3の何れか1項のクリップ。
【請求項5】
前記車両は貨物自動車である請求項4のクリップ。
【請求項6】
前記チューブ取付部(1)は、細長い形状をしており且つ片面に多数の突起が形成された帯状部材(11)と、帯状部材(11)に形成された突起(11a)と係合する係止部材(12a)とを有している請求項1〜5の何れか1項のクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−168138(P2009−168138A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6722(P2008−6722)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】