説明

クレーン

【課題】オペレータの操作ミスに起因するマストの曲げ変形などの発生を確実に防止し得るクレーンを提供する。
【解決手段】互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、フレーム上に起立した作業姿勢と後方に倒伏した収納姿勢とに変更可能に設けられたガントリと、起伏ロープの巻き取り又は繰り出しによりブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、マストをブーム代わりにして吊り作業を行う自力組立・分解時にマストの起伏角度が、ガントリの作業姿勢での頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったときマストの巻上及び巻下を規制する制御手段53と、ガントリが作業姿勢にあることを検出する検出手段52とを備える。制御手段は、マストの巻上及び巻下を規制したとき、検出手段の信号に基づいてガントリが作業姿勢にあることを判断し、作業姿勢にあることを条件にマストの巻上を許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラクレーンなどのクレーンに関し、特に、マスト付きのものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来、クローラクレーンなどのクレーンとして、例えば特許文献1に開示されているように、下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体のフレームの前部に、ブームの基端を回動可能に連結するとともに、このブームをガイラインを介して高い位置で支持するためのマストの基端を回動可能に連結し、上記フレームの後部にガントリを設け、このガントリの頂部に設けたスプレッダと上記マストの先端側に設けたスプレッダとの間に起伏ロープを巻き掛け、この起伏ロープを上記フレームに設けた起伏用ウインチにより巻き取り又は繰り出すことにより、上記ブーム及びマストを起伏回動させるように構成されたいわゆるマストタイプのものは知られている。
【0003】
そして、この種のクレーンにおいては、組立・分解時にマストをブーム代わりにして吊り作業つまりマスト吊り作業を行うことにより、自力でクレーンの組立や分解を行い得る構成になっている。マスト吊り作業の場合には、通常の吊り作業の場合と同様に過負荷防止装置によってマストの起伏角度が所定の角度範囲内に制限される一方、マスト吊り作業の前後に、オペレータがこの過負荷防止装置によるマストの角度制限を解除することにより、マストを地面近くにまで巻下げてマストの先端にガイラインなどを着脱したり、マストを後方に倒伏した輸送姿勢に戻したりし得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−315844号公報(第1−第4頁、図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の如くマストを地面近くにまで巻下げる場合にマストの起伏角度を、ガントリの頂部(ガントリ側スプレッダの中心点)とマストの支点とマストの先端(マスト側スプレッダの中心点)とが略一直線上に並ぶ角度以下にまで下げるとその状態からマストを巻上げたときには、起伏ロープの張力がマストに巻上方向ではなくマスト自体に圧縮力として作用することになり、マストの曲げ変形や落下が発生するという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、マストの起伏角度をモニタ画面上に表示して、オペレータに注意を促すことが行われている。また、マストの起伏角度が、ガントリの頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったとき、警報を発したり、マストの巻下を自動的に停止したりすることが考えられる。
【0007】
しかし、このような方法では、ガントリが起立した作業姿勢となっていることが正常に機能する前提であるが、ガントリが作業姿勢でなく後方に倒伏して収納された収納姿勢にあり、オペレータがこれを確認することなくマストの巻下操作を行い、マストの起伏角度が所定角度になったときマストの巻下を停止し、その状態からマストの巻上操作を行うと起伏ロープの張力がマストに圧縮力として作用し、マストの曲げ変形などが発生することになる。
【0008】
本発明はかかる諸点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、マストを地面近くにまで巻下げる場合の制御をガントリの姿勢に応じて適切に行うことにより、オペレータの操作ミスに起因するマストの曲げ変形などの発生を確実に防止し得るクレーンを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、クレーンとして、上部旋回体のフレームの前部にそれぞれ基端が起伏回動可能に支持され、先端同士が互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、上記フレームの後部に起立した作業姿勢と後方に倒伏して収納された収納姿勢とに変更可能に設けられたガントリと、上記マストの先端側に設けたスプレッダと上記ガントリの作業姿勢での頂部に設けたスプレッダとの間に巻き掛けた起伏ロープの巻き取り又は繰り出しを行うことにより上記ブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、上記マストをブーム代わりにして吊り作業を行う自力組立・分解時にマストの起伏角度が、ガントリの作業姿勢での頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったとき、上記起伏用ウインチによるマストの巻上及び巻下を規制する制御手段と、上記ガントリが作業姿勢にあることを検出する検出手段とを備え、上記制御手段は、マストの巻上及び巻下を規制したとき、上記検出手段の信号に基づいてガントリが作業姿勢にあることを判断し、作業姿勢にあることを条件にマストの巻上を許可するように設ける構成にする。
【0010】
この構成では、マストをブーム代わりにした吊り作業であるマスト吊り作業の前後にマストを地面近くにまで巻下げる場合、マストの起伏角度が、ガントリの作業姿勢での頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったときに制御手段によって起伏用ウインチによるマストの巻上及び巻下が共に規制され、マストの起伏が停止する。そして、このとき、ガントリが起立した作業姿勢にあれば制御手段は、検出手段の信号に基づいてそのことを判断し、マストの巻上を許可するため、オペレータは、マストの巻上操作を行うことによりマストの倒伏角度を上げることができる。一方、ガントリが作業姿勢になく後方に倒伏して収納された収納姿勢にあれば制御手段は、マストの巻上を許可しないため、オペレータが間違って巻上操作を行ったときでも起伏用ウインチによるマストの巻上が行われることはない。このため、起伏ロープの張力がマストに圧縮力として作用することはなく、マストの曲げ変形などが発生することもない。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のクレーンにおいて、好ましい形態を提供するものである。すなわち、上記制御手段において、マストの巻上及び巻下を規制したときにガントリが作業姿勢にないと判断した場合、この制御手段の指令によりその状況をオペレータに報知する報知手段を備える構成にする。
【0012】
この構成では、制御手段において、マストの巻上及び巻下を規制したときにガントリが作業姿勢にないと判断した場合には、制御手段の指令により報知手段がその状況をオペレータに報知するため、オペレータは、自動停止によって混乱に陥ることなく自身の操作ミスを容易に認識することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のクレーンにおいて、より好ましい形態を提供するものである。すなわち、上記制御手段は、自力組立・分解時にマストの起伏角度を所定の角度範囲内に制限する機能(つまり過負荷防止装置の機能)を有しており、この制限をオペレータがリリーススイッチなどの解除手段を操作して解除したとき、上記検出手段の信号に基づいてガントリが作業姿勢にあることを判断し、作業姿勢にあることを条件にマストの巻下を許可するように設ける構成にする。
【0014】
この構成では、マスト吊り作業の前後にマストを地面近くにまで巻下げる場合、マストの起伏角度がマスト吊り作業時の下限角度以下になったときにオペレータの解除操作と共に、ガントリが作業姿勢にあることを条件にマストの巻下が許可されるため、オペレータの操作ミスに起因するマストの曲げ変形などの発生を一層確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のクレーンによれば、マスト吊り作業の前後にマストを地面近くにまで巻下げる場合、マストの起伏角度が、ガントリの作業姿勢での頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったときに起伏用ウインチによるマストの巻上及び巻下が共に規制される上、ガントリが作業姿勢にあればマストの巻上が許可され、ガントリが作業姿勢になければマストの巻上が許可されないため、オペレータの操作ミスに起因するマストの曲げ変形などの発生を確実に防止することができる。
【0016】
特に、請求項2に係る発明では、マストの巻上及び巻下を規制したときにガントリが作業姿勢にない場合にはその状況がオペレータに報知されるため、オペレータは、自動停止によって混乱に陥ることなく自身の操作ミスを容易に認識することができるという効果を併有する。
【0017】
また、請求項3に係る発明では、マスト吊り作業の前後にマストを地面近くにまで巻下げる場合、マストの起伏角度がマスト吊り作業時の下限角度以下になったときにオペレータの解除操作と共に、ガントリが作業姿勢にあることを条件にマストの巻下が許可されるため、オペレータの操作ミスに起因するマストの曲げ変形などの発生を一層確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施形態に係るマスト付きクローラクレーンの通常作業時の状態を示す側面図である。
【図2】図2は上記クローラクレーンのマスト吊り作業時の状態を示す側面図である。
【図3】図3は図2に示す状態からマストを地面近くにまで巻下げた状態を示す側面図である。
【図4】図4は作業姿勢検出器の取付状態を示す縦断側面図である。
【図5】図5は安全装置のブロック構成図である。
【図6】図6は安全装置のコントローラによる制御内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係るマスト付きクローラクレーンAの全体構成を示す。クローラクレーンAは、クローラ1により走行する下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回装置3を介在して旋回可能に搭載された上部旋回体4とを備えている。
【0021】
上記上部旋回体4のフレーム5の前部にはブーム6の基端及びマスト7の基端がそれぞれ起伏回動可能に支持されているとともに、上部旋回体4のフレーム5の中央部には複数(図では3つ)のウインチ8,9,10が前後方向に一列に配置され、上部旋回体4のフレーム5の後部にはガントリ11及びカウンタウエイト12がそれぞれ取り付けられている。また、上部旋回体4には、上記ブーム6の基端及びマスト7の基端とフレーム5との連結部の側方位置にキャブ13が設けられている。
【0022】
上記ブーム6の先端部にはブームポイントシーブ15、補助シーブ16及びアイドラシーブ17が設けられ、ブームポイントシーブ15からは主巻上ロープ18を介して主フック19が吊り下げられているとともに、補助シーブ16からは補巻上ロープ21を介して補フック22が吊り下げられている。主巻上ロープ18の一端は、アイドラシーブ17を通して、フレーム5上の例えば一番目のウインチ8に巻き付けられ、このウインチ8により主フック19が巻上又は巻下されるようになっている。また、補巻上ロープ21の一端は、アイドラシーブ17を通して、フレーム5上の二番目のウインチ9に巻き付けられ、このウインチ9により補フック22が巻上又は巻下されるようになっている。
【0023】
上記ブーム6の先端とマスト7の先端とは、ガイライン23を介して互いに連結されている。また、マスト7の先端には上部スプレッダ24が設けられているとともに、上記ガントリ11の頂部には下部スプレッダ25が設けられ、この両スプレッダ24,25間には起伏ロープ26が巻き掛けられている。この起伏ロープ26の一端は、フレーム5上の三番目の起伏用ウインチ10に巻き付けられ、このウインチ10で起伏ロープ26の巻き取り(巻上)又は繰り出し(巻下)を行うことにより、ブーム6及びマスト7が起伏回動するようになっている。
【0024】
上記ガントリ11は、図2に示すように、起伏ロープ26の張力を引張力として受けるテンションメンバ31と、起伏ロープ26の張力を圧縮力として受けるコンプレッションメンバ32とからなり、テンションメンバ31は、2つの部材31a,31bを折り曲げ可能に連結してなる。そして、ガントリ11は、作業時にはテンションメンバ31とコンプレッションメンバ32とがフレーム5上で起立した作業姿勢にあり、輸送時にはテンションメンバ31の2つの部材31a,31bが折り曲げて後方に倒伏されかつその上からコンプレッションメンバ32が後方に倒伏して収納される収納姿勢に変更されるようになっている。
【0025】
上記クローラクレーンAは、図1に示す通常の吊り作業時に主フック19又は補フック22による吊り荷の制限とブーム6の起伏角度の制限を行うための過負荷防止装置(図示せず)を装備している。また、クローラクレーンAは、輸送時に一部を分解して輸送を行うものであり、輸送時と通常の吊り作業時との間の組立・分解時には、図2に示すように、マスト7をブーム代わりにして吊り作業つまりマスト吊り作業を行うことにより、自力でクレーンの組立や分解を行い得る構成になっている。マスト吊り作業時には、通常の吊り作業時と同様に、吊り荷の制限とマスト7の起伏角度の制限を行う必要がある。このため、クローラクレーンAは、上述した通常の吊り作業時用の過負荷防止装置とは別に、マスト吊り作業時用の過負荷防止装置(図示せず)を装備するとともに、マスト吊り作業時の前後に、オペレータがこの過負荷防止装置によるマスト7の角度制限を解除し、図3に示す如くマスト7を地面近くにまで巻下げてマスト7の先端にガイラインなどを着脱したり、マスト7を後方に倒伏した輸送姿勢に戻したりするための角度制限解除手段としてのリリーススイッチ41(図5参照)をキャブ13内に装備している。
【0026】
さらに、上記クローラクレーンAは、マスト7を後方に倒伏した輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置42と、マスト吊り作業時にマスト7の起伏角度を制限するための安全装置50(図5参照)とを装備している。
【0027】
上記マストサポート装置42は、マスト7の基端側を挟むようにかつそれに沿って延び、一端がマスト7の基端とフレーム5との連結軸に同軸にかつ相対回動自在に連結された左右一対のリンク部材43(一方のみ図示)と、この一対のリンク部材43の他端部間に架設され、かつマスト7の背面側に摺動可能に当接する摺動部材(図示せず)と、一端がマスト7基端のフレーム5との連結軸よりも後方の位置でフレーム5に連結され、他端が上記摺動部材に連結されたシリンダ44とを備え、シリンダ44の伸縮作動により摺動部材をマスト7の背面側に摺動させつつマスト7をその基端とフレーム5との連結軸回りに起伏回動させる構成になっている。
【0028】
上記安全装置50は、図5に示すように、マスト7の起伏角度を検出するマスト角度検出器51と、ガントリ11が作業姿勢にあることを検出する検出手段としての作業姿勢検出器52と、この両検出器51,52の信号などを受け、所定条件のときにマスト7の回動を停止又は許容する制御手段としてのコントローラ53と、このコントローラ53の指令に基づいてマスト7の巻上方向の回動を停止するためのマスト巻上停止用のソレノイド54と、同じくコントローラ53の指令に基づいてマスト7の巻下方向の回動を停止するためのマスト巻下停止用のソレノイド55と、同じくコントローラ53の指令によりガントリ11が作業姿勢にないことをオペレータに報知する報知手段としての表示装置56及び警報器57とを備えている。尚、マスト巻上停止用のソレノイド54及びマスト巻下停止用のソレノイド55は、図示していないが、いずれもフェイルセイフのためにOFF時に停止機能を発揮するようになっている。
【0029】
上記作業姿勢検出器52は、図4に示すように、フレーム5のガントリ取付部5aにガントリ11のテンションメンバ31(詳しくは下側の部材31b)の基端に対向して取り付けられており、ガントリ11が収納姿勢から作業姿勢に変更されるとき、接触レバー52aがガントリ11のテンションメンバ31の基端に設けた突起部58に接触することにより検出信号を出力するようになっている。
【0030】
上記コントローラ53は、上述した所定条件のときにマスト7の回動を停止又は許容する制御の外、マスト吊り作業時にマスト7の起伏角度を所定の角度範囲(例えば30°〜80°)内に制限するマスト吊り作業時用の過負荷防止装置の一部の機能と、リリーススイッチ41の操作時にマスト吊り作業時用の過負荷防止装置によるマスト7の角度制限を解除する機能とを兼ね備えたものである。このコントローラ53による制御のうち、マスト吊り作業時の状態からマスト7を地面近くにまで巻下するときの制御は、図6に示すフローチャートに従って行われる。
【0031】
すなわち、図6において、スタートした後、ステップS1でマスト角度検出器51の信号からマスト角度(詳しくはマスト7の起伏角度)を読み込み、ステップS2でそのマスト角度が作業時の下限角度(例えば30°程度)であるか否かを判定する。この判定がYESのときには、ステップS3でマスト巻下停止用のソレノイド55をOFFにしてマスト巻下を停止する。
【0032】
続いて、ステップS4でリリーススイッチ41がオン操作されているか否かを判定し、その判定がNOのときには、そのままリターンする。一方、判定がYESのリリーススイッチ41がオン操作されているときには、ステップS5で更に作業姿勢検出器52の信号に基づいてガントリ11が作業姿勢にあるか否かを判定し、その判定がYESのときには、ステップS6でマスト巻下停止用のソレノイド55をONにしてマスト巻下を許可し、リターンする一方、判定がNOのときには、ステップS7でリリーススイッチ41がオン操作されているがガントリ11が作業姿勢にないことからマスト巻下が許可されないことをオペレータに報知するための警報Aを、表示装置56による画面表示及び警報器57による警報音でもって行い、リターンする。
【0033】
上記ステップS2の判定がNOのときには、ステップS8でマスト角度が着脱時の下限角度であるか否かを判定する。着脱時の下限角度とは、図3に示すように、マスト7を地面近くにまで巻下げたときで、ガントリ11の作業姿勢での頂部(下部スプレッダ25の中心点P1)とマスト7の支点P2とマスト7の先端(上部スプレッダ24の中心点P3)とが略一直線上に並ぶときのマスト7の起伏角度である。
【0034】
そして、上記ステップS8の判定がYESのときには、ステップS9でマスト巻上停止用のソレノイド54及びマスト巻下停止用のソレノイド55を共にOFFにしてマスト巻上及び巻下の両方を停止する。続いて、ステップS10で作業姿勢検出器52の信号に基づいてガントリ11が作業姿勢にあるか否かを判定し、その判定がYESのときには、ステップS11でマスト巻上停止用のソレノイド55をONにしてマスト巻上を許可し、リターンする一方、判定がNOのときには、ステップS12でガントリ11が作業姿勢にないことからマスト巻上が許可されないことをオペレータに報知するための警報Bを、表示装置56による画面表示及び警報器57による警報音でもって行い、リターンする。
【0035】
上記ステップS2の判定及びステップS8の判定が共にNOのとき、つまりマスト角度が作業時の下限角度でも着脱時の下限角度でもないときには、ステップS13でマスト巻上停止用のソレノイド54及びマスト巻下停止用のソレノイド55を共にONにしてマスト巻上及び巻下の両方を許可し、リターンする。
【0036】
次に、上記安全装置50の作用効果について説明するに、マスト7をブーム代わりにしたマスト吊り作業の前後にマスト7を地面近くにまで巻下げる場合には、マスト7の起伏角度が着脱時の下限角度、つまりガントリ11の作業姿勢での頂部P1とマスト7の支点P2とマスト7の先端P3とが略一直線上に並ぶ所定角度になったときコントローラ53の指令によってマスト巻上停止用のソレノイド54及びマスト巻下停止用のソレノイド55が共にOFFになり、マスト7の巻上及び巻下が共に停止する(図6のS9)。
【0037】
このとき、ガントリ11が起立した作業姿勢にあればコントローラ53は、作業姿勢検出器52の信号に基づいてそのことを判断し、マスト7の巻上を許可する(図6のS11)ため、オペレータは、マスト7の巻上操作を行うことによりマスト7の倒伏角度を上げることができる。一方、ガントリ11が作業姿勢になく後方に倒伏して収納された収納姿勢にあればコントローラ53は、マスト7の巻上を許可しないため、オペレータが間違って巻上操作を行ったときでも起伏用ウインチ10によるマスト7の巻上が行われることはない。この結果、オペレータの操作ミスに起因して起伏ロープ26の張力がマスト7に圧縮力として作用するのを防止することができ、マスト7の曲げ変形などの発生を確実に防止することができる。
【0038】
特に、本実施形態においては、マスト7の巻上及び巻下を停止したときにガントリ11が作業姿勢にないと判断した場合には、コントローラ53の制御の下に表示装置56及び警報器57がその状況をオペレータに報知する(図6のS12)ため、オペレータは、自動停止によって混乱に陥ることなく自身の操作ミスを容易に認識することができ、操作上の利便性を高めることができる。
【0039】
また、マスト吊り作業の前後にマスト7を地面近くにまで巻下げる場合には、コントローラ53は、マスト7の起伏角度がマスト吊り作業時の下限角度になったときにオペレータによるリリーススイッチ41のオン操作と共に、ガントリ11が作業姿勢にあることを条件にマスト7の巻下を許可する(図6のS6)ため、オペレータの操作ミスに起因するマスト7の曲げ変形などの発生を一層確実に防止することができる。その上、リリーススイッチ41がオン操作されているがガントリ11が作業姿勢にないことからマスト巻下が許可されないときには、コントローラ53の制御の下に表示装置56及び警報器57がそのことをオペレータに報知する(図6のS7)ため、オペレータの操作上の利便性をより高めることができる。
【0040】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の形態を包含するものである。例えば上記実施形態では、ガントリ11が作業姿勢にあることを検出する作業姿勢検出器52として、フレーム5のガントリ取付部5aにガントリ11のテンションメンバ31の基端に対向して取り付けられ、ガントリ11が収納姿勢から作業姿勢に変更されるとき接触レバー52aがガントリ11のテンションメンバ31の基端に設けた突起部58に接触して検出信号を出力するものを用いたが、本発明は、このものに限らず、例えばガントリ11のテンションメンバ31又はコンプレッションメンバ32の傾斜角を連続的に検出し,この傾斜角からガントリ11が作業姿勢にあることを検知するように構成してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では,マスト吊り作業の前後にマスト7を地面近くにまで巻下げる場合で、マスト7の起伏角度が着脱時の下限角度、つまりガントリ11の作業姿勢での頂部P1とマスト7の支点P2とマスト7の先端P3とが略一直線上に並ぶ所定角度になったとき起伏用ウインチ10によるマスト7の巻上及び巻下を停止するように制御したが、本発明は、制御の精度をたかめるために、クレーン本体(下部旋回体2又は上部旋回体4)に傾斜計を設け、マスト7の起伏角度の対地角度補正を行うように構成してもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
A クローラクレーン
4 上部旋回体
5 フレーム
6 ブーム
7 マスト
10 起伏用ウインチ
11 ガントリ
23 ガイライン
24 上部スプレッダ
25 下部スプレッダ
26 起伏ロープ
50 安全装置
51 マスト角度検出器
52 作業姿勢検出器(検出手段)
53 コントローラ(制御手段)
56 表示装置(報知手段)
57 警報器(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体のフレームの前部にそれぞれ基端が起伏回動可能に支持され、先端同士が互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、
上記フレームの後部に起立した作業姿勢と後方に倒伏して収納された収納姿勢とに変更可能に設けられたガントリと、
上記マストの先端側に設けたスプレッダと上記ガントリの作業姿勢での頂部に設けたスプレッダとの間に巻き掛けた起伏ロープの巻き取り又は繰り出しを行うことにより上記ブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、
上記マストをブーム代わりにして吊り作業を行う自力組立・分解時にマストの起伏角度が、ガントリの作業姿勢での頂部とマストの支点とマストの先端とが略一直線上に並ぶ所定角度になったとき、上記起伏用ウインチによるマストの巻上及び巻下を規制する制御手段と、
上記ガントリが作業姿勢にあることを検出する検出手段とを備えており、
上記制御手段は、マストの巻上及び巻下を規制したとき、上記検出手段の信号に基づいてガントリが作業姿勢にあることを判断し、作業姿勢にあることを条件にマストの巻上を許可するように設けられていることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
上記制御手段において、マストの巻上及び巻下を規制したときにガントリが作業姿勢にないと判断した場合、この制御手段の指令によりその状況をオペレータに報知する報知手段を備えている請求項1記載のクレーン。
【請求項3】
上記制御手段は、自力組立・分解時にマストの起伏角度を所定の角度範囲内に制限する機能を有しており、この制限をオペレータが解除したとき、上記検出手段の信号に基づいてガントリが作業姿勢にあることを判断し、作業姿勢にあることを条件にマストの巻下を許可するように設けられている請求項1又は2記載のクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126540(P2012−126540A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281156(P2010−281156)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】