説明

クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置及び流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法

【課題】 燃焼装置に構造上の大幅な改変を加えたり、処理用薬剤を使用したりすることなしに、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの排出される飛灰の有害な6価クロムを、流動層炉本体の還元燃焼ゾーンから引き抜いた還元ガスを反応剤とする反応器内で還元処理することにより無害な3価クロムに転化させ、安価でしかも効率よく飛灰の無害化を図れるようにする。
【課題解決の手段】 流動層炉本体と、流動層炉本体からの燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラと、廃熱ボイラからの燃焼排ガスを清浄化する浄化処理装置とを備えたクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置において、前記燃焼排ガスの浄化処理装置で捕集された飛灰を還元雰囲気の反応器内で加熱することにより、飛灰中の6価クロムを3価クロムに還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置と、当該流動層式燃焼装置から排出された飛灰の無害化処理方法に関するものであり、燃焼中に薬剤等を一切添加することなしに、排ガス浄化装置等で捕集した飛灰を還元雰囲気の反応器内で所定の温度以下で加熱することにより、飛灰中に存在する有害な6価クロムを無害な3価クロムに還元するようにしたクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置と、流動層式燃焼装置から排出された飛灰の無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バガスや廃木材等のクロムを含有する有機物は、所謂バイオマスエネルギーの有効利用を図ると云う観点からエネルギー源として注目されている。
しかしながら、木質バイオマスにはクロムが含有されており、これらクロムが含まれている有機物を燃料とするボイラ等の燃焼装置や廃棄物焼却処理炉から排出された燃焼残渣中には、有害物質である6価クロムが含まれることが多くあり、環境保全を図る上で様々な問題が起生する。
【0003】
図2は、クロムを含有する有機物を燃料とする公知の流動層式燃焼装置Kの一例を示すものであり、図2において、1は流動層炉本体、2は流動層部(1次燃焼ゾーン)、3はフリーボード部部、4はボイラ部、5は燃料供給装置、6は節炭器、7はマルチサイクロン、8はバグフィルタ、9は燃焼用空気供給ファン、10は誘引ファン、11は煙突である。
【0004】
流動層炉本体1の流動層部2へ供給されたクロムを含有する有機物(以下、燃料と呼ぶ)は、1次空気A1の供給により流動層が形成されている流動層部2で所謂流動層燃焼(1次燃焼)されたあと、フリーボード部3で2次空気A2を供給することにより2次燃焼される。
フリーボード部部3からの燃焼排ガスGはボイラ部4や節炭器6で熱回収をされたあと、マルチサイクロン7、バクフィルタ8等で飛灰の除去や浄化処理を行ったあと、大気中へ放散されて行く。
【0005】
前記ボイラ部4やマルチサイクロン7、バグフィルタ8等で回収されたボイラ飛灰には、使用する燃料によって、前述の如く有害な重金属類が多量に含まれる場合がある。特に、クロムを含有する有機物燃料中に比較的安全な3価クロムの形態で含有されているクロムが、燃焼により酸化されて有害な6価クロムに転化されることが判明しているが、この転化された6価クロムは、バグフィルタ8で捕集された飛灰中に比較的多く含まれることになる。例えば、バグフィルタ8で捕集されたボイラ飛灰1kg内の全クロム重量を20〜200mgとすると、その内の15〜60%が6価クロムであることが判明している。
【0006】
而して、従前のクロムを含有する有機物を燃料とする燃焼炉や燃焼処理炉では、主として排出された燃焼残渣や飛灰に薬剤を加えることにより、6価クロムやその他の有害な重金属類を除去処理している(特許第3676768号、特開2005−296731号、特開2005−336128号等)。
例えば、特許第3676768号では、6価クロム等有害重金属を含む焼却灰を酸化カルシウムや酸化マグネシウム等のアルカリ性物質の存在下で、酸素含有率1.5%以上及び温度が600〜1000℃の第1反応域と、酸素含有率が1.5%以下及び温度が500〜1000℃の第2反応域との両高温域で2回反応させることにより、灰を無害化するようにしている。しかし、この発明では、焼却灰を600〜1000℃と500〜1000℃の両高温域で2回反応させて無害化するものであるため、エネルギー消費が大きく、しかも、各反応域間の縁切りが必要なため、設備が複雑化する。また、第2反応域では窒素ガスの吹込みを行うので、エネルギー消費が増大すると云う難点がある。
【0007】
同様に、特開2005−976731号では、6価クロムを含む焼却灰(飛灰)を硫酸第一鉄(還元剤)を用いて処理することにより、また、特開2005−336128号では、6価クロム等有害重金属を含む飛灰にキレート剤を混練して固化させることにより、焼却灰(飛灰)を夫々無害化するようにしている。しかし、前者にあっては、薬剤(還元剤)を必要とするうえ、処理後の焼却灰は埋立廃棄を必要とし、灰の有効利用が図れないと云う問題がある。また、後者には、キレートへの封じ込めの長期安定性の点に問題があり、結果として、灰の有効利用が阻害されると云う難点がある。
【0008】
一方、上述の如き薬剤を用いた処理上の問題を解決するものとして、6価クロムを含む木材そのものを安全な燃料資源に転換する技術(特開2005−199112号等)や6価クロムの生成を抑制するようにした廃棄物の燃焼制御方法(特開2005−321182号等)の開発が進められている。
【0009】
即ち、前者の特開2005−199112号では、銅、クロム、砒素(CCA処理剤)等の重金属類を含む廃木材に消石灰を添加し、還元雰囲気下で加熱して無害な炭化物を生成することにより、炭として再資源化するようにしたものである。
しかし、廃木材を無害な炭に転換するには相当の処理費用が掛かるため、廃木材を直接に燃料として利用する場合とは経済性の点で比較にならないうえ、廃木材から生成した木炭に対しては、需要そのものが極めて少ないという問題がある。
【0010】
また、前記特開2005−321182号では、ストーカ式ごみ燃焼炉における一般廃棄物(燃料)の燃焼方法に改良を加えることにより、燃料内に含まれている無害な3価クロム化合物から有害な6価クロム化合物が、燃焼中に生成されるのを抑制するようにしている。
【0011】
即ち、廃棄物(燃料)中に多く含有されている3価クロムは、高温雰囲気に長時間晒されることにより、有害な6価クロムに酸化されることが判っている。
そのため、予め実験により、6価クロム溶出値と燃焼時のストーカ上のごみ層内温度及び時間との関係を調査することにより、図3に示す如き特性グラフを作成する。そして、ストーカ式燃焼炉の運転に際しては、ごみ層内温度の時間積分値が、図3の6価クロム溶出値の許容基準値に対応する値以下となるように、ごみ投入量、ごみ移送速度及び一次空気供給量中の何れか一つ以上を調整する構成としたものである。
尚、上記焼却灰内の6価クロム溶出値の基準値は、所謂環境庁告示第13号規定に基づく値である。
【0012】
上記特開2005−321182号の技術は、ストーカ上の廃棄物層内温度の検出値を制御の基準とするものであるため、廃棄物層内温度の正確且つ安定した検出が不可欠となる。
しかし、ストーカ上の廃棄物は、現実にはストーカ上を複雑な運動を行いつつ下流へ向けて移動するうえ、ごみ層厚さ自体もごみ質に応じて大きく変動するため、廃棄物の層内温度を正確に検出することが著しく困難である。その結果、6価クロムの生成をほぼ完全に基準値以下に制御した状態でストーカ式焼却炉を安定運転することは、著しく困難となり、現実には不可能に近いと云う問題がある。
【0013】
また、ストーカ式焼却炉では、焼却中にストーカの間隙からストーカ下方のホッパ内へ落下する燃焼残渣が相当量あり、これ等のストーカ下方のホッパより抜き出した6価クロム等重金属を含む灰は、別途に処理する必要がある。そのため、特開2005−321182号に記載の技術のみでは、排出されて来る全ての焼却残渣について、その6価クロムを有効に低減させることができないと云う問題がある。
【0014】
【特許文献1】特許第3676768号公報
【特許文献2】特開2005−976731号公報
【特許文献3】特開2005−336128号公報
【特許文献4】特開2005−199112号公報
【特許文献5】特開2005−321182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従前のこの種のクロムを含有する有機物を燃料とする燃焼炉や燃焼装置等から排出される燃焼残渣の無害化処理、特に飛灰中に含まれる有害な6価クロムの除去処理に於ける上述の如き問題、即ちイ)薬剤を使用して燃焼残渣を処理する方法にあっては、処理コストや、エネルギー消費が増大するだけでなく、灰の有効利用が困難なこと、ロ) 廃木材等を炭化させることにより無害化する方法は、経済性に欠けて実用的でないこと、ハ)クロムを含有する有機物燃料の燃焼方法自体に改良を加えることにより6価クロムを含む重金属類の発生を抑制する方法は、ストーカ式燃焼炉のみを適用の対象とするものであるうえ、廃棄物層内の燃焼温度の正確な検出が困難なために、6価クロムを安定して削減しつつ燃焼装置を運転することが困難なこと、等の問題を解決せんとするものであり、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置において、燃焼排ガスの浄化処理装置で回収した飛灰を還元雰囲気の反応器内で、所定の温度下で一定時間加熱することにより、飛灰中の有害な6価クロムを安価に且つ高能率で無害な3価クロムに還元させるようにした、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置及びこれから排出された飛灰の無害化処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者等は、永年に亘る流動層式燃焼炉の開発並びに実稼動機を用いた燃焼試験を通して、クロムを含有する有機物燃料に含まれるクロムは3価クロムの形態で含有されており、これが燃焼中に酸化されることにより有害な6価クロムに転化されること、一般的な700℃〜1000℃の燃焼温度範囲では、高温になるほど6価クロムの生成が促進されること、還元雰囲気下においては6価クロムの生成が抑制されると共に、生成された6価クロムが3価クロムに還元されることがあること、還元雰囲気中でも高温になると、一旦還元された3価クロムが再度酸化されて6価クロムに転化されるため、還元雰囲気温度は300℃〜800℃に保持するのが望ましいこと及びダイオキシン類等の有機塩素化合物を分解するためには、800℃以上(望ましくは850℃以上・2秒間)の燃焼温度が必要なこと等を知得すると共に、そこから、完全燃焼をさせた後の燃焼排ガス内の飛灰をバグフィルタ等の排ガス浄化装置で捕集すると共に、流動層式燃焼炉本体内の還元燃焼ゾーンから引き抜きした還元ガスを用いて、所定の温度及び還元雰囲気に保持した反応器内で、前記捕集した飛灰を処理することによりより効率的にしかも安価に、飛灰内の6価クロムを無害な3価クロムへ転化することを着想した。
【0017】
本願発明は、上記着想及びこれに基づく実稼動炉を用いた各種試験の結果に基づいて創作されたものであり、請求項1の発明は、流動層炉本体と、流動層炉本体からの燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラと、廃熱ボイラからの燃焼排ガスを清浄化する浄化処理装置とを備えたクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置において、前記燃焼排ガスの浄化処理装置で捕集された飛灰を還元雰囲気の反応器内で加熱することにより、飛灰内の6価クロムを3価クロムに還元することを発明の基本構成とするものである。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、反応器内の温度を300〜800℃及び酸素濃度を1.0%以下とするようにしたものである。
【0019】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、反応器の温度を300〜600℃及び酸素濃度が1.0%以下とするようにしたものである。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの空気比を1.0以下とすると共に、還元燃焼ゾーンで還元燃焼させた後の還元ガスを引き抜き、酸素濃度1.0%以下として反応器に吹き込むようにしたものである。
【0021】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの空気比を0.8〜0.95とすると共に還元燃焼ゾーンで還元燃焼させた後の還元ガスを引き抜き、酸素濃度1.0%以下として反応器に吹き込むようにしたものである。
【0022】
請求項6の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5の発明において、反応器で30分以上還元ガスと反応させた処理済み灰と、反応器からの排ガスを浄化するフィルタ装置で捕集された灰とを、180℃以下に急冷する冷却器としたものである。
【0023】
請求項7の発明は、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層炉本体と、流動層炉本体からの燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラと、廃熱ボイラからの排ガスを浄化処理する排ガス浄化装置と、排ガス浄化装置で捕集した飛灰及び流動層炉本体の還元燃焼ゾーンから引き抜いた還元ガスとが供給されて飛灰中の6価クロムを3価クロムに転化する反応器と、反応器からの排ガスを浄化するフィルタ装置と、前記反応器からの処理済み灰及びフィルタ装置からの分離灰とを冷却する冷却器と、前記フィルタ装置からの排ガスに空気を混合して流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの上方の酸化燃焼ゾーンへ供給する混合ガスを形成する混合器とから成り、飛灰中の6価クロムを3価クロムに還元して無害化することを発明の基本構成とするものである。
【0024】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、流動層炉本体を、次還元燃焼ゾーンと酸化燃焼ゾーンを備えると共に、前記還元燃焼ゾーンの空気比を0.8〜0.95に及び全空気比を1.4以下とした構成の流動層炉本体としたものである。
【0025】
請求項9の発明は、請求項7の発明において、反応器を、酸素濃度が1%以下及び加熱温度が300〜800℃で且つ飛灰の滞留時間が30分以上とした構成の反応器としたものである。
【0026】
請求項10の発明は、請求項7の発明において、反応器を、酸素濃度が1%以下及び加熱温度が300℃〜600℃で且つ飛灰の滞留時間が30分以上とした構成の冷却器としたものである。
【0027】
請求項11の発明は、請求項7又は請求項8の発明において、冷却器を、還元雰囲気下で処理済み灰及びフイルタ装置で捕集された灰を180℃以下の温度に急冷する構成の冷却器としたものである。
【0028】
請求項12の発明は、請求項7、請求項8又は請求項11の発明において、混合器を、300℃以下の混合ガスを形成する構成の混合器としたものである。
【発明の効果】
【0029】
本願請求項1の発明においては、クロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置において、排ガス浄化処理装置等で捕集した飛灰を、流動層炉本体の還元燃焼ゾーンから引き抜いた還元ガスを供給する反応器内で還元処理することにより、安価にしかも確実に飛灰中の有害な6価クロムを無害な3価クロムに転化することができ、6価クロムの溶出量を規制値以下に保持することができる。
【0030】
本発明の請求項2乃至請求項5の発明においては、反応器内の6価クロムの3価クロムへの還元がより効率的に行われ、処理時間の短縮や処理レベルの大幅な向上が可能となる。
【0031】
本願請求項6の発明においては、一旦6価クロムから還元された3価クロムが再び6価クロムへ転化されることが殆ど皆無となり、飛灰サイロ内へより安全な処理済み飛灰を貯留することができる。
【0032】
本願請求項7に記載の発明に於いては、流動層式燃焼装置に大幅な構造上の改変を加えることなしに、燃焼排ガス内の飛灰に含まれる6価クロムを3価クロムに還元処理することができ、より効率的な飛灰の無害化が可能となる。
【0033】
また、請求項8乃至請求項12の発明においては、飛灰を300〜800℃又は300℃〜600℃、酸素濃度1.0%以下の条件下で反応器内で加熱することにより、燃焼により生成した6価クロムは3価クロムに効率よく還元され、これによって6価クロムの溶出基準を満たすことが可能となる。
また、反応器の還元ガスとして、流動層炉本体の還元ゾーンから引き抜いた還元ガスを使うことで、反応器内へ窒素等を吹き込みすることなしに還元雰囲気を形成することができ、ランニングコストの大幅な削減が可能となる。更に、反応器から出た処理済み灰を急冷することで、3価クロムが6価クロムに転化することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明に係る流動層式燃焼装置の構成系統図であり、図2に示した従前の流動層式燃焼炉と異なる点は、流動層炉本体1内の還元燃焼ゾーン2から還元ガスG1を引き抜いて反応器15内へ供給し、ここで排ガス処理装置8からの飛灰C1を一定温度下で還元処理するようにした点と、反応器15からの排ガスG2をフィルタ装置16を通して浄化し、これに混合器17で新鮮空気A2を混合して形成した混合ガスA3を燃焼用空気として燃焼ゾーン(酸化燃焼ゾーン)3へ供給するようにした点と、反応器15からの処理済み飛灰C2等を冷却器18で急冷したあと飛灰サイロ19へ回収するようにした点である。
尚、図1において、前記図2と同じ部位・部材には同じ参照番号が使用されている。
【0035】
図1を参照して、燃料供給装置5から供給されたチップ状のクロムを含有する有機物燃料は、1次空気A1の吹き込みにより流動層を形成している流動層部2へ供給される。
当該流動層部2への1次空気A1の供給量は、空気比で1.0以下(望ましくは0.8〜0.95)になるように制御されており、また、混合器17で混合した燃焼用の新鮮空気A2を含めた全空気比は、1.4以下に制御されている。これによって、流動層部2は還元ゾーンを形成しており、供給されたクロムを含有する有機物燃料はここで所謂還元燃焼をされる。
【0036】
また、前記流動層部2の燃焼温度は、燃料供給量と一次空気A1の供給量との制御により950℃以下に制御されている。(より望ましくは850〜900℃)。尚、流動層部2での燃焼温度を300℃〜800℃とするのは、還元燃焼下で6価クロムから3価クロムへ転化したものが、再度酸化されて6価クロムに転化するのを防止するためである。
当該流動層部2における燃焼ガスの所謂還元燃焼により、ダイオキシンやNOx等の有害物質の発生及び6価クロムへの転化を押さえつつ、燃焼排ガス内の可燃物の燃焼が行われる。
【0037】
前記流動層部2からの燃焼ガスは、引き続きフリーボード部3に導され、ここで燃焼用空気供給ファン13から混合ガスA3が吹き込みされることにより、800〜860℃(望ましくは、850℃以上、2秒間)の比較的低温下で酸化燃焼され、燃焼ガス内の未燃物が完全燃焼される。
【0038】
具体的には、前記フリーボード部3に於ける燃焼は、酸素濃度4.0〜6.0%及び燃焼温度800〜860℃にするのが望ましく、これによりダイオキシン等の有機塩素化合物も分解されることになる。
【0039】
フリーボード部3を出た燃焼ガスGは、ボイラ部4で熱回収をされたあと、排ガス浄化処理装置(バグフィルタ)8及び誘引ファン10を経て大気中へ放出されて行く。
また、流動層部2、フリーボード部3における燃焼温度及び酸素濃度は、熱電対等の温度検出器T1〜T2及びレーザー式酸素濃度検出器O1〜O2によって連続的に計測されており、燃焼制御Fへ入力されている。
更に、燃焼制御装置Fからは燃料供給装置5の駆動部、各ファン9、10、13の駆動部及び各制御ダンパD1〜D4の駆動部等へ制御信号が出力される。
【0040】
前記反応器15は、排ガス浄化処理装置8からの飛灰C1と、流動層炉本体1の流動層部(還元燃焼ゾーン)2から引き抜いた還元ガスG1とを接触させ、飛灰C1内の6価クロムを3価クロムに還元させるものであり、本実施例では所謂固定層式の反応器15が使用されている。尚、反応器15としては、還元ガスG1と飛灰C1とを十分に接触させることができる構造であれば、キルン式や流動層式の反応器であってもよいことは勿論である。
【0041】
前記反応器15内の雰囲気の酸素濃度は1%以下に保持されており、また、その温度は300〜800℃(望ましくは300〜600℃)に保持されている。更に、飛灰と還元ガスG1との接触時間(反応時間)は約30分以上としている。
【0042】
尚、反応器15内における加熱温度300〜800℃は、前述の通り還元ガスG1による6価クロムから3価クロムへの還元が効率よく行われると共に、3価クロムから6価クロムへの転化を押さえることができると云う点から決まる温度である。
また、流動層炉本体1の流動層部(還元燃焼ゾーン)2から引き抜いた還元ガスG1の酸素濃度が1%を越える場合には、N2ガス等の混入によってそのO2濃度が調整される。
更に、図1の実施例では、排ガス処理装置8からの捕集飛灰C1のみを反応器10へ供給するようにしているが、ボイラ部4やその他の排ガス処理部(図示省略)における捕集飛灰を、一緒に反応器15へ供給するようにしてもよいことは勿論である。
【0043】
前記フィルタ装置16は、反応器15からの排ガス(還元ガスG2)を浄化するものであり、混入飛灰C3を除いたあとの還元ガスG3は混合器17へ送られ、ここで酸化燃焼用の新鮮空気A2が混入されることにより、300℃以下の混合ガスA3が形成される。尚、本実施例ではフィルタ装置16として、セラミックフィルタが使用されている。
また、前記混合器17に於いて形成された混合ガスA3は、空気供給ライン14を通して流動層炉本体1のフリーボード部(酸化燃焼ゾーン)3へ供給され、当該フリーボード部(酸化燃焼ゾーン)3内では約800℃〜860℃の温度下における酸化燃焼が行われる。
【0044】
前記反応器15内で還元処理された処理済み灰C2及びフィルタ装置16で分離された分離灰C3は、還元雰囲気の下に保持された状態で冷却器18へ導入され、ここで180℃以下の温度に急冷される。当該冷却器18に於ける還元状態下での急冷操作により、6価クロムの還元により形成された3価クロムが、再度6価クロムに転化されることなしに、飛灰サイロ19へ回収されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明は流動層式燃焼装置のみならず、流動層式の各種燃焼炉やボイラへも適用することができる。
また、本願発明はストーカ式燃焼炉等へも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施に用いた流動層式燃焼装置の一例を示す構成系統図である。
【図2】従前のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置の一例を示すものである。
【図3】特開2005−321182号に開示の焼却残渣からの6価クロムの溶出量とごみ層内最高温度の時間積分値との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0047】
E・・流動層式燃焼装置
1〜C4・・飛灰
1・・1次燃焼用空気
2・・新鮮空気(3次燃焼用)
3・・混合ガス(3次燃焼用空気)
G・・燃焼排ガス
1・・還元ガス
2・・反応器出口排ガス
3・・フイルター装置出口排ガス
1〜O2・・酸素濃度検出器
F・・燃焼制御装置
1〜D5・・制御ダンパ
1〜T2・・温度検出器
1・・流動層炉本体
2・・流動層部(還元燃焼ゾーン)
3・・フリーボード部(酸化燃焼ゾーン)
4・・ボイラ部
5・・燃料供給装置
8・・排ガス浄化処理装置
9・・燃焼用空気供給ファン
10・・誘引ファン
11・・煙突
12・・還元ガス引き抜きライン
13・・燃焼空気供給用ファン
14・・空気供給ライン

15・・反応器
16・・フィルタ装置
17・・混合器
18・・冷却器
19・・飛灰サイロ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層炉本体と、流動層炉本体からの燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラと、廃熱ボイラからの燃焼排ガスを清浄化する浄化処理装置とを備えたクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置において、前記燃焼排ガスの浄化処理装置で捕集された飛灰を還元雰囲気の反応器内で加熱することにより、飛灰中の6価クロムを3価クロムに還元することを特徴とするクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項2】
反応器内の温度を300〜800℃及び酸素濃度を1.0%以下とするようにした、請求項1に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項3】
反応器内の温度を300〜600℃及び酸素濃度が1.0%以下とするようにした、請求項2記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項4】
流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの空気比を1.0以下とすると共に、2次還元燃焼ゾーンで還元燃焼させた後の還元ガスを引き抜き、酸素濃度1.0%以下として反応器に吹き込むようにした請求項1、請求項2又は請求項3に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項5】
流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの空気比を0.8〜0.95とすると共に還元燃焼ゾーンで還元燃焼させた後の還元ガスを引き抜き、酸素濃度1.0%以下として反応器に吹き込むようにした請求項4に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項6】
冷却器を、反応器で30分以上還元ガスと反応させた処理済み灰と、反応器からの排ガスを浄化するフィルタ装置で捕集された灰とを、180℃以下に急冷する冷却器とした請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置からの飛灰の無害化処理方法。
【請求項7】
クロムを含有する有機物を燃料とする流動層炉本体と、流動層炉本体からの燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラと、廃熱ボイラからの排ガスを浄化処理する排ガス浄化装置と、排ガス浄化装置で捕集した飛灰及び流動層炉本体の還元燃焼ゾーンから引き抜いた還元ガスとが供給されて飛灰中の6価クロムを3価クロムに転化する反応器と、反応器からの排ガスを浄化するフィルタ装置と、前記反応器からの処理済み灰及びフィルタ装置で捕集された灰とを冷却する冷却器と、前記フィルタ装置からの排ガスに空気を混合して流動層炉本体の還元燃焼ゾーンの上方の酸化燃焼ゾーンへ供給する混合ガスを形成する混合器とから成り、飛灰中の6価クロムを3価クロムに還元して無害化する構成としたことを特徴とするクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。
【請求項8】
流動層炉本体を、還元燃焼ゾーンと酸化燃焼ゾーンを備えると共に、前記還元燃焼ゾーンの空気比を0.8〜0.95に、また、全空気比を1.4以下とした構成の流動層炉本体とした請求項7に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。
【請求項9】
反応器を、酸素濃度が1%以下及び加熱温度が300〜800℃で且つ飛灰の滞留時間が30分以上とした構成の反応器とした請求項7に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。
【請求項10】
反応器を、酸素濃度が1%以下及び加熱温度が300℃〜600℃で且つ飛灰の滞留時間が30分以上とした構成の反応器とした請求項7に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。
【請求項11】
冷却器を、還元雰囲気下で処理済み灰及びフイルタ装置で捕集された灰を180℃以下の温度に急冷する構成の冷却器とした請求項7又は請求項8に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。
【請求項12】
混合器を、300℃以下の混合ガスを形成する構成の混合器とした請求項7、請求項8又は請求項11に記載のクロムを含有する有機物を燃料とする流動層式燃焼装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−275176(P2008−275176A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175696(P2006−175696)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】