説明

グラファイトフィルム、およびそれを用いた熱拡散フィルム、ならびにそれを用いた熱拡散方法。

【課題】グラファイトフィルムと発熱体との熱抵抗を小さくし、本来グラファイトフィルムの有する熱伝導特性を損なう事無く放熱することのできるフィルムを提供する事。
【解決手段】20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムの一部を加圧処理によって圧縮して見かけ上の厚さの差が生じる様にし、圧縮されていない状態にある部分と発熱体とが加圧されるように接触させられる。さらに、圧縮された部分には接着層(接着機能を有する層)を設けヒートシンクと接着させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱特性に優れ、さらに発熱源との熱抵抗を小さくした熱拡散フィルム(放熱フィルムともいう)および熱拡散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器の性能向上は著しく、それはCPUの著しい性能向上によっている。この様なCPUの性能向上に伴い、CPUの発熱量も著しく増加し、電子機器における放熱をどの様に行うが重要な課題になっている。
【0003】
熱対策としてはファンによる空冷やヒートパイプ、水を用いた水冷などの方法があるが、これらはいずれも新たな放熱のための装置を必要とし、機器の重量増加を招くだけでなく、騒音や使用電気量の増加などを招くと言う欠点がある。
【0004】
一方で、CPUの発生する熱を出来るだけ迅速に広い面積に拡散させる方法は冷却効率を上げることを目的としたもので、携帯電話やパソコンなどの電子機器における冷却方法としては最も現実的なものである。
【0005】
この様な目的に使用される熱伝導シートとして、近年シート状のグラファイトが大きな注目をあつめている。その理由は良質のグラファイトシートは100〜1000W/mKの非常に高い熱伝導性を有しており、他のゲル状やシート状の放熱材料の熱伝導度(0.8〜6.5W/mK)の特性に比べて著しく高性能で熱を拡散させるには最適であるためである。
【0006】
この様な目的に使用される人工的なグラファイトフィルムの製造方法の第一がエキスパンドグラファイト法と呼ばれる方法である。これは天然グラファイトを濃硫酸と濃硝酸の混合液に浸漬し、その後急激に加熱する事により製造される。この様にして製造されたグラファイトは洗浄によって酸を除いた後フィルム状に加工される。この様にして製造されたグラファイトフィルムの熱伝導値は100〜400W/mK程度であり、機械的強度が弱く、グラファイト粉末の剥がれ落ち(粉落ちと表現する)の課題を抱えている一方で、安価で厚物の製造が楽である、と言う事から熱伝導シートとして使用されている。
【0007】
人工的なグラファイトフィルムの第二の製造方法が特殊な高分子を直接熱処理によってグラファイト化する方法である。この目的に使用される高分子としては、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレンなどがある。この方法は、本質的に酸などの不純物を含まない方法であり、さらには非常に優れた面方向の熱伝導性(300〜1000W/mK)が得られる、と言う特徴がある。(例えば、特許文献(1)、(2)、(3)、(4)、(5))がある。
【0008】
また、グラファイトフィルムと接着性・絶縁性・柔軟性を持つ接着性高分子材料とを複合する事が行われている。熱伝導グラファイトシートの粘着層として利用する粘着材としては天然ゴムやアクリルが最も一般的であり、要求に応じて耐熱性・接着性にすぐれたシリコーンゴムやポリイミド系接着剤が用いられる事もある。例えば、黒鉛シートの片面あるいは両面にシリコーンゴムを塗布してなる事を特徴とする電気部品用熱伝導シート(特許文献(6)(7)(8))、グラファイトシート上にポリウレタンまたはポリウレタン誘導体のプライマー層を設け、グラファイトとシリコーン組成物を強固に接着させる技術(特許文献(9))、グラファイトシートとその表面に設けた厚さ100μm以下の粘着層とを備えた放熱部品(特許文献(10))の例などが開示されている。
【特許文献1】特公告平1−49642号公報。
【特許文献2】特公告平1−57044号公報。
【特許文献3】特開平4−310569号公報。
【特許文献4】特開平3−75211号公報。
【特許文献5】特開2000−247740号公報。
【特許文献6】公告平3−51302号公報。
【特許文献7】特開平8−83990号公報。
【特許文献8】特開平9−17923号公報。
【特許文献8】特開2001−287298号公報。
【特許文献9】特開平11−317480号公報。
【特許文献10】特開2002−160970号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
<従来技術で残されている課題>
上記の特許文献(1)〜(5)に記載のグラファイトフィルム放熱シートには接着性がなく、そのままでは発熱体や冷却体との良好な接続ができないと言う欠点があった。放熱・熱拡散の用途にはCPUなどの発熱源と熱伝導体であるグラファイトフィルムを十分に接触させる必要があり、さらに冷却フィンや筐体などの冷却・放熱部材との十分な接触を取る必要も生じる。特に発熱源や放熱体が凹凸の在るような表面を有している場合には十分な接触を取れないために接合面での熱抵抗が大きくなり、グラファイトフィルムの高熱伝導特性を生かすことができない。
【0010】
放熱グラファイトフィルムのこの様な課題を解決するためにグラファイトフィルムと接着性・絶縁性・柔軟性を持つ接着性高分子材料とを複合する事が行われている。熱伝導グラファイトシートの粘着層として利用する粘着材としては天然ゴムやアクリルが最も一般的であり、要求に応じて耐熱性・接着性にすぐれたシリコーンゴムやポリイミド系接着剤が用いられる事もある。例えば、黒鉛シートの片面あるいは両面にシリコーンゴムを塗布してなる事を特徴とする電気部品用熱伝導シート(特許文献(6)(7)(8))、グラファイトシート上にポリウレタンまたはポリウレタン誘導体のプライマー層を設け、グラファイトとシリコーン組成物を強固に接着させる技術(特許文献(9))、グラファイトシートとその表面に設けた厚さ100μm以下の粘着層とを備えた放熱部品(特許文献(10))の例などが開示されている。
【0011】
しかし、これらの例はいずれも絶縁体層の熱電導性が低く、そのためにグラファイトフィルム本来の優れた熱伝導特性を損なうと言う欠点があった。
【0012】
<本発明の課題>
本発明の課題は、上記グラファイトフィルムと発熱体との間の熱抵抗を小さくし、グラファイトフィルムが有する熱伝導特性を損なう事無く放熱することのできる熱拡散フィルムを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の第1は、
「20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムの一部が
厚さ方向への加圧処理によって圧縮され、
該グラファイトフィルムにおいて圧縮状態が異なる部分が共存している
事を特徴とするグラファイトフィルム。」、
である。
【0014】
(2)本発明の第2は、
「前記の圧縮状態が異なる部分が共存しているグラファイトフィルムであって、
未圧縮部分、既圧縮部分のうち低圧縮部分、および既圧縮部分のうち高圧縮部分
からなる群から選択される2以上の、互いに圧縮状態が異なる部分のいずれかで、少なくとも見かけ上の厚さの差が生じている事を特徴とする、(1)記載のグラファイトフィルム。」、
である。
【0015】
(3)本発明の第3は、
「20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルム。」、
である。
【0016】
(4)本発明の第4は、
「前記の
20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムが、
高分子フィルム及び/又は炭素化フィルムからなる原料フィルムを
不活性ガス中または真空中、2400℃以上の温度で処理して得られうるグラファイトフィルムであって、
該原料フィルムの厚さの80%以上に膨張したグラファイトフィルムであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の、グラファイトフィルム。」、
である。
【0017】
(5)本発明の第5は、
「(1)〜(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムと、
接着機能を有する層とを含む熱拡散フィルムであって、
該接着機能を有する層が該グラファイトフィルムのフィルム面の一部に設けられている事を特徴とする熱拡散フィルム。」、
である。
【0018】
(6)本発明の第6は、
「(5)に記載の接着機能を有する層が、(1)〜(2)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの
既圧縮部分のうち低圧縮部分及び/又は既圧縮部分のうち高圧縮部分に形成されている事を特徴とする熱拡散フィルム。」、
である。
【0019】
(7)本発明の第7は、
「前記グラファイトフィルムの
既圧縮部分のうち低圧縮部分及び/又は既圧縮部分のうち高圧縮部分の
表面には
接着機能及び/又は電気的に絶縁性の機能
を有する層が形成されており、
前記グラファイトフィルムの未圧縮部分の少なくとも一方の面には、
前記の接着機能及び/又は電気的に絶縁性の機能を有する層が形成されていない
事を特徴とする、(5)に記載の熱拡散フィルム。」、
である。
【0020】
(8)本発明の第8は、
「前記グラファイトフィルムの面方向の熱伝導度が100W/mK以上である事を特徴とする(5)〜(7)のいずれかに記載の熱拡散フィルム。」、
である。
【0021】
(9)本発明の第9は、
「(4)に記載の高分子フィルムが、
ポリイミド、ポリオキサジアゾール、及びポリパラフェニレンビニレンからなる群から選択される少なくとも一種類である、(5)〜(8)のいずれかに記載の熱拡散フィルム。」、
である。
【0022】
(10)本発明の第10は、
「(9)に記載のポリイミドフィルムの
100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10-5cm/cm/℃以下である事を特徴とする、(5)〜(9)のいずれかに記載の熱拡散フィルム。」、
である。
【0023】
(11)本発明の第11は、
「(9)に記載のポリイミドフィルムの
複屈折が0.13以上である事を特徴とする、(5)〜(10)のいずれかに記載の熱拡散フィルム。」、
である。
【0024】
(12)本発明の第12は、
「(1)、(2)、(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの未圧縮部分と発熱体とを接触させ、さらに、該未圧縮部分が加圧されるように接続する事を特徴とする熱拡散方法。」、
である。
【0025】
(13)本発明の第13は、
「(12)に記載の熱拡散方法であって、さらに(1)、(2)、(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの既圧縮部分が接着機能を有する層を介して放熱部分と接合されている事を特徴とする熱拡散方法。」、
である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、グラファイトフィルムと発熱体との熱抵抗を小さくする事が出来、グラファイトフィルムが本来有している、優れた熱伝導特性を有効に生かす事ができる。これにより発熱体の熱をスムーズに熱拡散する事が出来る。
【0027】
本発明の第(2)の構成によって、
圧縮処理されていない部分は発熱体との接合に用いられ、接合時に圧縮する事で熱抵抗の小さな接続が実現できる。圧縮された部分は発熱体からグラファイトに移動した熱を拡散させる役割を有するが、この部分は圧縮されている事により熱の拡散性能を高める事が出来る。
【0028】
本発明の第(5)の構成によって、
接着機能を有する層が設けられていないグラファイトの部分は主に発熱体との接合に使用されるが、この場合グラファイト層は20%以上の圧縮率を有しているので、これを圧縮する様に発熱体に押し付けて接合する事で良好な接続が保てる事になる。グラファイトの接着機能を有する層が設けられた部分は放熱の役割を果たす部分と接合して用いられる。
【0029】
本発明の第(6)の構成によって、
圧縮された部分は本発明の第二項で述べたように熱拡散性が優れているので、放熱体の必要部分(例えばヒートシンクの底面など)に貼り付ける事で放熱効率を著しく向上させる事が出来る。
【0030】
放熱に寄与する圧縮部分は熱拡散の役割をになうが同時に発熱体以外の部分に熱や電気的な影響を与えない事が必要である。そのために圧縮された部分については絶縁層を設けることが好ましい。本発明の第(7)の構成によって、放熱に寄与する圧縮部分は熱拡散の役割をになうが同時に発熱体以外の部分に熱や電気的な影響を与えない事が可能となる。
【0031】
グラファイトフィルムはすでに背景技術の項で述べたように、優れた面方向の熱伝導特性を有しており、一方、フィルムの厚さ方向の熱伝導は10W/mK程度である。本発明の第(8)の構成によって、この様な熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムは本発明の熱拡散フィルムにとって好ましい。
【0032】
本発明の第(9)の構成によって、
これらの高分子フィルムを原料として用いる事により本目的に合致した放熱グラファイトフィルムを得る事が出来る。
【0033】
本発明の第(10)の構成によって、
この様なポリイミドフィルムを原料として用いる事により本目的に合致したグラファイト熱拡散フィルムを得る事が出来る。
【0034】
本発明の第(11)の構成によって、
この様なポリイミドフィルムを原料として用いる事により本目的に合致したグラファイト熱拡散フィルムを得る事が出来る。
【0035】
本発明の第(13)に記載した放熱方法を取る事により、発熱体とグラファイトの熱抵抗は小さくなり、かつこの様な方法を用いる事によって放熱体の性能も高めることが出来、結果として優れた放熱効果を実現する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の各構成要素について説明する。
【0037】
<グラファイトフィルム>
グラファイトは炭素原子が層状に広がった構造を持ち、その面方向に優れた熱伝導性を有する。理想的なグラファイトでは面方向の熱伝導度は2000W/mKに達し、この値は銅の熱伝導398W/mKの5倍である。さらに、グラファイトの厚さ方向の熱伝導度は面方向のおよそ1/400程度である、という特徴がある。本発明の目的は熱拡散(放熱)であるから、本発明にとっては面方向の熱伝導度が大きい事は極めて重要である。一方、フィルムの厚み方向の熱伝導度は小さいので厚さ方向の厚みは小さいほど好ましく、さらに発熱体との接合方法が重要となる。すなわち熱抵抗をいかに小さくするかが重要となる。
【0038】
しかし、上記グラファイトの熱伝導度は理想的な単結晶グラファイトでの値であり、現実に得られるグラファイト材料の熱伝導は理想値よりも劣るものとなる。本発明の目的に用いられるグラファイトフィルムは、フィルム面方向の熱伝導度が100W/mK以上であり、フィルム面に垂直方向の熱伝導度との異方性が10倍以上である事が好ましい。本発明の目的に使用できる様な現実的なグラファイトの製造方法として、(1)天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛粉末をシート化して得られるグラファイトフィルム、(2)高分子フィルムを熱処理して得られるグラファイトフィルムを挙げる事が出来る。
【0039】
(1)の製造方法で得られるグラファイトフィルムとしては、フィルム面方向の熱伝導が100〜400W/mK、厚さ方向の熱伝導度が5〜20W/mK、厚さ100〜1000μmのものが得られる。この製法はグラファイト粉末をシート状に押し固めたグラファイトフィルムである。グラファイト粉末がフィルム状に成型されるためには粉末がフレーク状、あるいはリン片状になっている必要がある。この様なグラファイト粉末の製造のための最も一般的な方法がエキスパンド法と呼ばれる方法である。これはグラファイト硫酸などの酸に浸漬し、グラファイト層間化合物を作製し、しかる後にこれを熱処理、発泡させてグラファイト層間を剥離するものである。剥離後、グラファイト粉末を洗浄して酸を除去し、得られたグラファイト粉末をさらに圧延ロール成型やプレス圧縮してフィルム状のグラファイトを得る。
【0040】
一方、(2)の方法ではフィルム面方向の熱伝導が400〜1000W/mK、厚さ方向の熱伝導度が5〜20W/mK、厚さ50〜200μmのグラファイトフィルムが得られる。これらは本発明の目的にとっていずれも好ましく用いられる。このグラファイトフィルムは、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを2400℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする。本発明で用いることができる高分子フィルムは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)が挙げられる。特に、最終的に得られるグラファイトの熱伝導性が大きくなることから、ポリイミド(PI)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)は本目的のグラファイト製造原料として好ましく用いられる。これらのフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。中でもポリイミドは、フィルムの黒鉛化が進行しやすく、熱伝導性に優れたグラファイトとなりやすく、さらに、炭素化・グラファイト化のプロセスを制御する事により膨張状態のグラファイトフィルムを得る事が出来るので、特に好ましい原料である。
【0041】
本発明の目的に用いられるグラファイトとして、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10-5cm/cm/℃以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理することは、優れた熱伝導性を実現し膨張状態のグラファイトフィルムを作成する上で好ましい。
【0042】
また、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理する事は、すぐれた熱伝導性と膨張状態のグラファトフィルムを作成する上で好ましい。
【0043】
無論、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であり、かつ、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理しグラファイトフィルムを作製する事は、優れた熱伝導性を実現し膨張状態のグラファイトフィルムを作成する上で好ましい。
【0044】
この様なグラファイト化に好ましく用いられるポリイミドは、
下記、式(1)、(2)、(3)、および(4)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種以上の繰り返し単位を有するポリイミド、あるいは下記、式(1)、(2)、(3)、および(4)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも2種以上の繰り返し単位を有するポリイミドの共重合体フィルム、あるいは、式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表されるポリイミド共重合体からなる群からから選択される少なくとも2種以上のポリイミド共重合体の混合物フィルムである事、でその目的を達成する事が出来る。
【0045】
【化1】

@0001
【0046】
【化2】

@0002
【0047】
【化3】

@0003
【0048】
【化4】

@0004

である。なお、R1は、
【0049】
【化5】

@0005

からなる群から選択される2価の有機基であって、R2はそれぞれ独立して、−CH3、−Cl、−Br、−F、または−CH3Oである。
式(3)中のRは
【0050】
【化6】

@0006

であって、ここでnは1〜3の整数。そしてXおよびYはそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数6以下の低級アルキル基、または炭素数6以下のアルコキシ基、そしてAは、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、または−CH2−、である。
【0051】
また、上記式(1)、(2)および下記式(7)、(8)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも2種以上の繰り返し単位を有するポリイミドの共重合体、あるいは、式(1)、式(2)、式(7)、式(8)で表されるポリイミド共重合体からなる群からから選択される少なくとも3種以上の混合物を含むポリイミド共重合体は本目的のグラファイトを得るために特に好ましい。
【0052】
【化7】

@0007
【0053】
【化8】

@0008

さらに、式(1)、(2)で表される繰り返し単位をもつポリイミド共重合体ポリイミドフィルムであって、4、4’−オキシジアニリンおよびパラフェニレンジアミンをモル比で9/1〜4/6の割合で含むジアミンを用いて得られるポリイミドフィルムは本目的のグラファイトを得るために最も好ましく用いられる。これらのポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理することにより、本発明の目的のグラファイトフィルムを得ることが出来る。中でも上記、ポリイミドが一般式(1)、(2)、(7)、(8)で表される繰り返し単位をもつポリイミド共重合体であって、それぞれの繰り返し単位の数を、a、b、c、dとし、a+b+c+dをsとしたとき、(a+b)/s、(a+c)/s、(b+d)/s、(c+d)/sが0.25〜0.75を満たすポリイミドフィルムである場合は最も好ましく本発明のグラファイトフィルムを作製する目的で用いられる。
【0054】
以上述べたポリイミドを用いる事により、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10-5cm/cm/℃以下、好ましくは2.0×10-5cm/cm/℃以下、更に好ましくは1.5×10-5cm/cm/℃以下、であるポリイミドフィルムを得ることができる。
【0055】
また、フィルムの弾性率については、200kg/mm2、以上であり、更には250kg/mm2、以上、より好ましくは350kg/mm2、以上である事が好ましい。
【0056】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、面内配向性を示す複屈折Δnがフィルム面内のどの方向においても0.13以上、好ましくは0.15以上、最も好ましくは0.16以上であることが好ましい。ここでいう複屈折とはフィルム面内方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差であり、本明細書においてはフィルム面内X方向の複屈折Δnxは下記の式1で与えられる。
複屈折Δnx=(面内X方向の屈折率Nx)−(厚み方向の屈折率Nz) (式1)
具体的測定方法を説明すると、フィルム試料をくさび形に切り出してナトリウム光をフィルム面内のX方向に垂直な方向から当て、偏光顕微鏡で観察すると干渉縞がみられる。この干渉縞の数をnとすると、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、下記の式2で表される。
Δnx=n×λ/d (式2)
ここで、λはナトリウム光の波長589nm、dは試料の巾(幅)(nm)である。詳しくは「新実験化学講座」第19巻(丸善(株))などに記載されている。
【0057】
なお、前記した「複屈折Δnがフィルム面内のどの方向においても」とは、例えばフィルム製膜時の流れ方向を基準として、面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。
【0058】
<圧縮状態が異なる部分が共存するフィルム(一態様として、高圧縮部分と低圧縮部分の共存するフィルム、また、一態様として、既圧縮部分と未圧縮部分とが共存するフィルム)>
発明の目的に使用できる様な現実的なグラファイトの製造方法として、
(1)天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛粉末をシート化して得られるグラファイトフィルム、(2)高分子フィルムを熱処理して得られるグラファイトフィルムを挙げる事が出来る。
【0059】
前記、(1)の製造方法で得られるグラファイトフィルムは、グラファイト粉末をさらに圧延ロール成型やプレス圧縮してフィルム状のグラファイトを得る。したがって、この圧延ロール成型工程やプレス工程で加えられる圧力を変え、強く圧縮された部分(一態様として、既圧縮部分)と弱く圧縮された部分(一態様として未圧縮部分あるいはまた、一態様として、強く圧縮された既圧縮部分よりは弱く圧縮された既圧縮部分)を形成する事で、本発明の目的に適したグラファイトフィルムを得る事が出来る。
【0060】
これに対して(2)の製造法の場合には、本発明の目的に合うグラファイトフィルムを得るためには、まず膨張(発泡)状態にあるグラファイトフィルムを製造することが必要になる。
【0061】
高分子からのグラファイト製造プロセスを具体的に例示すると、前記のポリイミドフィルムを窒素ガス中で予備加熱し、炭素化を行う。予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば、10℃/分昇温速度で予備処理を行った場合には1000℃の温度領域で30分程度の保持を行う事が望ましい。予備処理の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に面方向の圧力を加えても良い。次に、上記の方法で炭素化されたフィルムを超高温炉内にセットし、グラファイトを行う。グラファイト化は不活性ガス中で行うが不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。処理温度は2400℃以上である事が好ましく、2700℃以上の温度で処理する事はより好ましい。2500℃以上の超高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行う。グラファイト化は前処理で作製した炭素化フィルムをグラファイト構造に転化する事によって行うが、出発ポリイミドフィルムの分子配向は炭素化フィルムの炭素の配列に影響を与え、それはグラファイト化の際の炭素−炭素結合の開裂・再結合化のエネルギーを小さくする。従って分子が配向するように分子設計を行い、高度な配向を実現することで低温でのグラファイト化と良質のグラファイトフィルムへの転化が可能になる。
【0062】
膨張状態にあるグラファイトフィルムは上記グラファイト化のプロセスを制御する事によって得られる。膨張状態のフィルムを得る条件、膨張の程度を制御する条件は用いるポリイミドの種類、フィルムの厚さによって異なる。一例として、膨張(発泡)状態にあるグラファイトフィルムの断面写真を図1に示す。
【0063】
図1に示す様に、膨張状態にあるグラファイトフィルムは極めて薄いグラファイト薄膜の集合体であるとみなす事が出来る。比較のため膨張状態にないグラファイトの断面を図2に示す。
【0064】
両断面の比較により、両者の違いは顕著である。
【0065】
得られたグラファイトフィルムの膨張の程度を定量的に見積もるには、発泡状態で得られたグラファイトフィルムを加圧圧縮してその圧縮率を測定すればよい。圧縮率とは、短時間の圧縮によって生じた変形量のもとの厚さに対する割合である。厳密には等方的圧力を加えた時の物体のその圧力下での体積を元の体積と比較して決定される。しかしなから、良質のグラファイトの場合にはグラファイトのC軸方向(C軸方向とはフィルム厚さ方向)が弱いファン・デル・ワールス力で結合した構造であるためにC軸方向の圧縮率がab面方向(ab面方向とはフィルム面方向)の圧縮率に比べてはるかに大きく、この方向の圧縮率を考慮するだけでグラファイトの性質を判断する事が出来る。
【0066】
そのため、本特許においては、圧縮率を、グラファイトシートの厚み方向(すなわち軸方向)に17MPaの荷重を加え、変形量をもとの厚さに対する割合で定義した。17MPaには特に学術な意味はないが、通常グラファイトの構造が破壊される事無く、発泡状態で存在する内部の空気層を除去できる圧力として選択した。
【0067】
すなわち、本発明における圧縮率とは、例えば圧縮率が20%以上とは、加圧圧縮する前の厚さを1とした時、17MPaの圧力で1分間加圧した時の厚さが0.8以下であるグラファイトフィルムのことを言う。本発明の目的には圧縮率が20%以上である事は好ましく、30%以上(加圧前の厚さ1に対して、加圧後の厚さが0.7以下)である事はより好ましい。
【0068】
なお、17MPaの圧力を取り除いた時、グラファイトの厚さは元に戻ろうとする力によって厚さが増加する。ここではこの時の厚さと圧縮時の厚さとの比率を復元率と定義する。たとえば、圧縮状態でのフィルムの厚さを1とした時、圧力解放時の厚さを1.1とする時復元率が10%であると言う。本発明の目的にはグラファイトは復元しようとする性質を有している方が熱抵抗を低減するためには好ましく、本発明の目的には復元率が5%以上である事は好ましく、10%以上である事はより好ましい。
【0069】
本発明の低圧縮部分(一態様として未圧縮部分あるいはまた、一態様として、強く圧縮された既圧縮部分よりは弱く圧縮された既圧縮部分)と高圧縮部分(一態様として、既圧縮部分)の共存するフィルムを作製するには、上記の膨張状態にあるフィルムに圧力を加え、その圧力の大きさを変えてやればよい。無論、低圧縮部分を全く圧縮操作を加えない様(未圧縮部分)にする事でも構わない。また、高圧縮部分をあらかじめ比較的弱い圧力で加圧操作を行い低圧縮部分を作製した後で、フィルムの一部をさらに高圧力で加圧圧縮する事で作製したものであっても構わない。例えば、加圧圧縮の方法は機械的なプレス圧縮でもよく、ロール等を用いた圧延処理等でも良い。
【0070】
<発熱体との接合>
本発明では熱拡散(放熱)目的には、圧縮状態が異なる部分が共存するグラファイトフィルムを用い、
その一態様として、
高圧縮部分(一態様として、既圧縮部分)と低圧縮部分(一態様として未圧縮部分あるいはまた、一態様として、強く圧縮された既圧縮部分よりは弱く圧縮された既圧縮部分)の共存するグラファイトフィルム(一態様として、既圧縮部分と未圧縮部分とが共存することを特徴とするグラファイトフィルムであり、)を用いるが、
低圧縮部分は発熱体との接合に用いられ、接合部分を形成する祭に低圧縮部分がさらに圧縮されるように接合を形成する事で接合部分の熱抵抗を小さくする目的で使用される。
【0071】
この様な目的に使用されるのであるから、グラファイトの低圧縮部分は熱拡散の目的に応じてグラファイトフィルムのどの部分に形成されていても良く、低圧縮部分(あるいは未圧縮部分)がグラファイトフィルムに複数個存在していても良い。また、低圧縮部分の形状は発熱体との熱抵抗が小さくなるように任意に選択される。
【0072】
発熱体との接合には、上記の様な接着層(接着機能を有する層)を介さずに直接接触させるドライ接続とウエット接続と呼ばれる方法がある。ドライ接続の場合、本発明の方法を用いれば単に機械的な圧力で押し付けることで熱抵抗の小さい接合を実現する事が出来るが、それは高品質のグラファイトは基本的に柔らかい事に第一の理由がある。本発明においてはこの様なグラファイト本来の性質に加えてさらに圧縮、復元能力を有するグラファイトフィルムをもちいる。この様なフィルムを用いこれを加圧接続する事で発熱体の凹凸部分へも追随して接触できる様にする事が出来、熱抵抗をより小さく出来るものと考えられる。
【0073】
無論、ウエット接合の場合にも本発明のグラファイトを用いることで、発熱体との熱抵抗の小さな接合を実現することが出来る。ウエット接合は放熱グリースやオイルコンパウンドと呼ばれる接続グリースを介して接続する方法であるが、本発明の接着層(接着機能を有する層)のないグラファイト部分に放熱グリースを塗布する事でより小さな熱抵抗を実現できる。この方法は発熱体が本発明のグラファイトでは追従できないくらい凹凸が大きい場合には特に有効である。このような目的に使用される放熱グリースとしては市販の放熱グリースを使用できる。その様な例として、スリーボンド社:放熱シリコンゲルシート、ジェルテック社:ラムダGELペースト、アール・イー・ティー社:放熱シリコン、富士高分子工業など多くの例を挙げる事が出来る。
【0074】
例えば、CPUなどの発熱体上にヒートシンクを接触させて冷却を行う場合の接続の様子を図3に示す。
【0075】
図3(a)において(1)は、本発明になる、フィルム面方向とフィルムの厚さ方向で熱伝導度の異方性を有し、かつ圧縮率が20%以上であるグラファイトフィルム(20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルム)である。また(2)は接着層(接着機能を有する層)であり、グラファイトフィルムの中央部には接着層(接着機能を有する層)は設けられていない。図3(b)はヒートシンクと発熱体との接合状態を示す。発熱体(4)はヒートシンクに加圧されて押し付けられグラファイトにくい込んでおり、この様にする事でグラファイトとヒートシンク間においても熱抵抗の小さな接続が可能となる。
【0076】
この様な目的に用いられる接着層(接着機能を有する層)としては特に制限はないが、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、等が好ましく用いられる。中でもアクリル系樹脂は本目的に好ましく用いられる。無論これらの接着剤に熱伝導性に優れるフィラーが添加されていても良い。フィラーとしては銅、銀、アルミなどの金属粉末、カーボン粉末、シリカや窒化アルミなどの無機・セラミック粉末、等を例示する事ができる。
【0077】
図4は本発明のグラファイトの一部を加圧圧縮する事で、圧縮された部分(既圧縮部分)と圧縮されていない部分(未圧縮部分)で見かけ上の厚さの差が生じる様にしたグラファイトフィルムの製造方法の一例である。この例では圧縮率が20%以上の特性を有するグラファイトを中央部に孔を設けたプレス治具で圧縮する事によりグラファイトの周辺部が強く圧縮されたグラファイトの作製が可能となる。種々の加圧圧力を選択することにより、見かけ上の厚さの差を好ましい程度に制御する事が出来る。
【0078】
図5、図6はプレス成型により、見かけ上の厚さの差が生じる様にしたグラファイトフィルムの製造と接着層(接着機能を有する層)の形成を同時に行う例である。図5(b)に示す様にプレス時にグラファイトフィルムを離型紙(7)付き接着層(接着機能を有する層)と共にプレス成型する事で、図5(c)に示すような本発明の目的の熱拡散フィルムを得る事が出来る。図6(d)はヒートシンクとの接着状況を示す。CPUコアはグラファイトフィルムが圧縮されるように押し付けられヒートシンクとの良好な接続が可能となる。なおこの時、グラファイトとヒートシンクが直接接触している界面部分(中央部)やCPUコアとグラファイトが直接接触している界面部分に上記の放熱グリースを塗布しておく事は更なる低熱抵抗を実現する上で好ましい。このような接続の状況を図6(e)に示した。放熱グリースの例は前述の通りである。
【0079】
また、例えば別の使用法として、リボン状グラファイトの両端を低圧縮状態としそれ以外の部分を高圧縮状態とし、一方の端の低圧縮部分をCPUなどの発熱体との接合に用い方法もある。この場合、高圧縮部分は熱の輸送に用い、さらに他端の低圧縮部分はヒートシンクなどの冷却体との接合に用いる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0081】
<グラファイトフィルム>
まず、本発明の実施例として用いた4種類のグラファイトフィルムについて述べるが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0082】
(1)グラファイトフィルム−A
ピロメリット酸二無水物、4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して100〜200℃の平均線膨張係数が1.6×10-5cm/cm/℃のポリイミドフィルムを製造した。フィルム厚さは75μmである。これらの方法で作製したフィルムの複屈折率は0.14であった。
【0083】
得られたフィルムを電気炉を用いて窒素ガス中、1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保って予備処理した。得られた炭素化フィルムを自由に伸び縮み出来る様に円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、2800℃で処理した。
【0084】
このポリイミドフィルムは2800℃で良質グラファイトへの転化が可能である事が分った。得られたグラファイトフィルム−Aは発泡状態にあり、発泡状態での厚さは80μm、17MPaで圧縮した時の厚さは32μm(すなわち圧縮率は60%)であった。このフィルムの圧力を開放した時の厚さは48μmであり(すなわちこの様に処理したグラファイトの復元率は50%)、圧縮後のグラファイトフィルムの面方向熱伝導度は1200W/mK、厚さ方向熱伝導度6W/mKであった。
【0085】
(2)グラファイトフィルム−B
ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンをモル比で3/2/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱して100〜200℃の平均線膨張係数が1.0×10-5cm/cm/℃のポリイミドフィルム(厚さ75μm)を製造した。このフィルムの複屈折は、0.15〜0.16の範囲であった。このフィルムを用いて前記(1)のケースと同様に2800℃でグラファイト化を行った。得られたグラファイトフィルム−Bは発泡状態にあり、発泡状態での厚さは75μm、17MPaで圧縮した時の厚さは35μm(すなわち圧縮率は53%)、圧力を開放した時の厚さは50μm(すなわちこの様に処理したグラファイトの復元率は43%)であり、圧縮したグラファイトフィルムの面方向熱伝導度は1400W/mK、厚さ方向熱伝導度10W/mKであった。
【0086】
(3)グラファイトフィルム−C
パナソニック製PGSグラファイトシート(商品番号:EYGS182310)厚み70μm、面方向熱伝導度700W/mK、厚さ方向熱伝導度5W/mKを準備した。圧縮率は35%、あった。
【0087】
(4)グラファイトフィルム−D
鈴木総業製グラファイトシート(スーパーλGS)厚み120μm、面方向熱伝導度250W/mK、厚さ方向5W/mKを準備した。圧縮率は30%であった。
【0088】
<グラファイトフィルムの物性測定法>
熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定した。測定された熱拡散率から密度および比熱の値をもちいて熱伝導率を算出した。グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出した。
【0089】
フィルムの断面観察は、フィルムを割断させることで断面を出しSEM(日立製走査型電子顕微鏡S−4500型、加速電圧5kV)を用いておこなった。
【0090】
割断の具体的な方法は以下のとおりである。得られたグラファイトフィルムを、縦20mm×横10mmの短冊状の大きさにカッターナイフで切り取った。さらにこのフィルムの一端に面方向に剃刀で微小な切り目を入れ、その切り目の反対側から力を加え、フィルムを割断させることで断面を出し、
<熱抵抗の測定法>
発熱体とグラファイトフィルムとの接合部分における熱抵抗の測定は図3(b)、または図5(e)に示した様な模擬セルを作製して行った。
【0091】
すなわち本発明のグラファイトシートをCPUコアとヒートシンクとの間に挟み、一定の加圧力を加え、次にトランジスタに一定電力を加えて動作させ発熱(発熱量W)させた。今回の実験環境は以下の通りである。CPU:P3(800MHz)、ヒートシンク:FC−PAL35T,メモリー:SDRAM128MB、OS:Windows(登録商標)me、測定条件:SuperPI209万行のLoop完了後の温度測定。温度測定ポイントはCPUコアの部分である。
【0092】
熱抵抗の値は以下の様に見積もった。すなわち、前記のCPUコア部分の温度を(Th)とし、放熱フィンにおける特定の場所の温度(Tf)をCA熱電対によって測定し、次式−3に従って熱抵抗(単位:℃/W)を測定した。発熱体の温度が低く、放熱フィンの温度が高いほど熱抵抗は小さな値となる。
【0093】
熱抵抗 Hr=(Th−Tf)/W (式−3)
熱抵抗の値は放熱フィンの性能、発熱体の発熱特性、グラファイトフィルムの大きさ等の違いによって異なるので、絶対値と見なす事は出来ないが、これらの条件を一定とする事によって熱抵抗特性の相対的な比較をする事が可能である。
【0094】
(実施例1〜4)
4種類のグラファイトフィルム−A、−B、−C、―Dをヒートシンクの底面の大きさにカットし、CPUコアの上面に相当する部分のみくり抜いて接着層(接着機能を有する層)が無いようにした接着シート、と共に加圧プレスにより接合し、これをヒートシンクの底面に貼り付けた。接着シートは30μmの厚さのアクリル接着層(接着機能を有する層)(日東電工(株)製アクリル接着層5603)である。
【0095】
前記の測定法に記載した方法でCPUコア温度および熱抵抗を測定した。加圧圧力を2N/cm2から20N/cm2まで4点変化させ熱抵抗の値を測定した結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

@0009

いずれのグラファイトでもCPUの温度は65℃以下に押さえられ、5N/cm2程度の比較的弱い圧力で良好な接続実現できる事が分かった。特に圧縮率にすぐれたグラファイトA、B、Cではすぐれた放熱効果を示し、面方向の熱伝導に優れたグラファイトA、Bではさらに優れた放熱効果がある事が分かった。
【0097】
(比較例1)
グラファイトフィルム−Aを用いてグラファイトフィルムの全面に接着層(接着機能を有する層)を形成し、これをヒートシンクの底面に貼り付け実施例1と同様の方法で熱抵抗を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0098】
(比較例2)
厚さ45μmの銅箔をもちいて箔の全面に接着層(接着機能を有する層)を形成し、これをヒートシンクの底面に貼り付け実施例1と同様の方法で熱抵抗を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0099】
比較例1と実施例1〜4の比較から本発明の放熱方式である、発熱体(ここではCPU)と冷却フィンを(接着層(接着機能を有する層)を介さずに)直接接合させる方式の優位性が明らかになった。さらに、比較例2で得られた結果と実施例1〜4の結果の比較で本発明のグラファイトシートのすぐれた放熱特性が明らかになった。
【0100】
(実施例5、6)
実施例1、2と同じ方法でグラファイトフィルム−A、−Bをヒートシンクの底面の大きさにカットし、CPUコアの上面に相当する部分のみくり抜いて接着層(接着機能を有する層)が無いようにした接着シート、と共に加圧プレスにより接合した。この時事前に、接着層(接着機能を有する層)の存在しないグラファイト面には極薄く(1μm程度)シリコングリス(信越化学G765:熱伝導率2.9W/mK(カタログ値))を塗布しておいた。同様にCPUの上面にも極薄く(1μm程度)シリコングリス(信越化学G765)を塗布しておき、しかる後にCPUをグラファイト面に圧着した。次に実施例1と同じ方法でCPUコア温度および熱抵抗を測定した。加圧圧力を2N/cm2から20N/cm2まで変化させ熱抵抗の値を測定した結果を表2に示す。この結果から、シリコングリスの塗布でさらなる接触抵抗の低減が図られる事が明らかになった。この様な効果は特にCPUを圧着する際の圧力が比較的小さい領域(この実験では2〜5N/cm2)の場合には顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のグラファイトフィルム(膨張状態)の断面SEM写真。
【図2】膨張状態でないグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図3】本発明のグラファイトフィルムの一部に接着層(接着機能を有する層)が形成された例(a)本発明の熱拡散フィルムの実施形態例(b)ヒートシンクと共に上記熱拡散フィルムをCPUの冷却に用いた例
【図4】厚さの異なる部分を有するグラファイトフィルムの作製例(a)圧縮率20%以上のグラファイトフィルム(b)グラファイトフィルムの一部を加圧圧縮する方法。(c)加圧圧縮により厚さの異なる部分を有するグラファイトフィルム
【図5】厚さの差を有するグラファイトフィルムと接着層(接着機能を有する層)の形成を同時に行う例(a)圧縮率20%以上のグラファイトフィルム(b)グラファイトフィルムを離型紙付き接着層(接着機能を有する層)と共にプレス成型する工程(c)厚さの差を有するグラファイトフィルムと接着層(接着機能を有する層)を有したグラファイトの例
【図6】厚さの差を有するグラファイトフィルムと接着層(接着機能を有する層)の形成を同時に行う例(d)図5に記載の前記フィルムとヒートシンクとの接着状況。(e)CPUとグラファイトの接触界面に放熱グリースを塗布した例
【符号の説明】
【0102】
1 グラファイトフィルム
2 接着層(接着機能を有する層)
3 ヒートシンク
4 発熱体(CPUコア)
5 圧縮治具
6 本発明のグラファイトフィルム
7 離型紙
8 放熱グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムの一部が
厚さ方向への加圧処理によって圧縮され、
該グラファイトフィルムにおいて圧縮状態が異なる部分が共存している
事を特徴とするグラファイトフィルム。
【請求項2】
前記の圧縮状態が異なる部分が共存しているグラファイトフィルムであって、
未圧縮部分、既圧縮部分のうち低圧縮部分、および既圧縮部分のうち高圧縮部分
からなる群から選択される2以上の、互いに圧縮状態が異なる部分のいずれかで、少なくとも見かけ上の厚さの差が生じている事を特徴とする、請求項1記載のグラファイトフィルム。
【請求項3】
20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルム。
【請求項4】
前記の
20%以上の圧縮率を有し、かつフィルム面方向とフィルム厚さ方向で熱伝導度の異方性を有するグラファイトフィルムが、
高分子フィルム及び/又は炭素化フィルムからなる原料フィルムを
不活性ガス中または真空中、2400℃以上の温度で処理して得られうるグラファイトフィルムであって、
該原料フィルムの厚さの80%以上に膨張したグラファイトフィルムであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の、グラファイトフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のグラファイトフィルムと、
接着機能を有する層とを含む熱拡散フィルムであって、
該接着機能を有する層が該グラファイトフィルムのフィルム面の一部に設けられている事を特徴とする熱拡散フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の接着機能を有する層が、請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの
既圧縮部分のうち低圧縮部分及び/又は既圧縮部分のうち高圧縮部分に形成されている事を特徴とする熱拡散フィルム。
【請求項7】
前記グラファイトフィルムの
既圧縮部分のうち低圧縮部分及び/又は既圧縮部分のうち高圧縮部分の
表面には
接着機能及び/又は電気的に絶縁性の機能
を有する層が形成されており、
前記グラファイトフィルムの未圧縮部分の少なくとも一方の面には、
前記の接着機能及び/又は電気的に絶縁性の機能を有する層が形成されていない
事を特徴とする、請求項5に記載の熱拡散フィルム。
【請求項8】
前記グラファイトフィルムの面方向の熱伝導度が100W/mK以上である事を特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の熱拡散フィルム。
【請求項9】
請求項4に記載の高分子フィルムが、
ポリイミド、ポリオキサジアゾール、及びポリパラフェニレンビニレンからなる群から選択される少なくとも一種類である、請求項5〜8のいずれかに記載の熱拡散フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のポリイミドフィルムの
100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10-5cm/cm/℃以下である事を特徴とする、請求項5〜9のいずれかに記載の熱拡散フィルム。
【請求項11】
請求項9に記載のポリイミドフィルムの
複屈折が0.13以上である事を特徴とする、請求項5〜10のいずれかに記載の熱拡散フィルム。
【請求項12】
請求項1、2、4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの未圧縮部分と発熱体とを接触させ、さらに、該未圧縮部分が加圧されるように接続する事を特徴とする熱拡散方法。
【請求項13】
請求項12に記載の熱拡散方法であって、さらに請求項1、2、4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの既圧縮部分が接着機能を有する層を介して放熱部分と接合されている事を特徴とする熱拡散方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−217206(P2007−217206A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37481(P2006−37481)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】