説明

グラフト重合層の形成方法、電子デバイスおよび電子機器

【課題】均一な高分子密度を有するグラフト重合層を形成し得るグラフト重合層の形成方法、かかるグラフト重合層の形成方法で形成されたグラフト重合層を備える電子デバイス、および信頼性に優れる電子機器を提供すること。
【解決手段】本発明のグラフト重合層3の形成方法は、基材2上に、重合触媒38により活性化される化学結合と基材2に連結する連結基とを有する重合開始剤を連結基を基材2に連結させることにより重合開始層21を形成する工程と、重合開始層21上の層形成領域21aに、液滴吐出法により、重合触媒38を含有する溶液と、化学結合に重合可能な重合基と側鎖とを有する第1のモノマー37を含有する溶液とを、別個に供給することにより、化学結合に複数の第1のモノマー37が直鎖状に連結したグラフト重合体で構成されるグラフト重合層3を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合層の形成方法、電子デバイスおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子を用いた薄膜形成は、一般的に、高分子を含有する溶液を、キャスト法、スピンキャスト法およびスプレー法等の液相成膜法を用いて基材の表面に供給し、この溶液で構成される液状薄膜を形成した後、この液状薄膜を乾燥することにより行われる。
しかしながら、この手法では、形成された薄膜中に含まれる高分子の密度が低いものしか成膜できないことが知られている。
【0003】
これに対して、近年、基材の表面に重合開始点を有する重合開始剤を連結し、この重合開始剤の重合開始点にモノマーを順次連結させることにより高分子を生成するグラフト重合層(ポリマーブラシ)について盛んに研究がなされている(例えば、特許文献1参照。)。このようなグラフト重合層の形成方法では、形成された層中に含まれる高分子の密度を高くすることも可能であり、さらに、前記モノマーを連結させる際の反応系を選択することにより、簡便かつマイルドな条件で高分子を生成することができる。
【0004】
このようなグラフト重合層を形成方法として、例えば、基材上に重合触媒により活性化される重合開始点を有する重合開始剤で構成される重合開始層を形成した後、重合触媒と重合開始点に連結し得るモノマーとを含有する溶液を供給することによりグラフト重合層を形成する方法がある。しかしながら、かかる方法では、重合触媒とモノマーとが同一の溶液中に含まれるため、重合開始層上にこの溶液を供給するのに先立ってモノマー同士が反応してしまうことがある。そのため、この溶液の粘度が上昇して、重合開始層上に溶液を供給するのが困難となったり、重合開始層に連結しないオリゴマーが生じることから、形成されるグラフト重合層中に含まれる高分子の密度が不均一となるという問題が生じる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−161995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、均一な高分子密度を有するグラフト重合層を形成し得るグラフト重合層の形成方法、かかるグラフト重合層の形成方法で形成されたグラフト重合層を備える電子デバイス、および信頼性に優れる電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明の態様により達成される。
本発明のグラフト重合層の形成方法は、基材上に、重合触媒により活性化される化学結合と前記基材に連結する連結基とを有する重合開始剤を、前記連結基を前記基材に連結させることにより重合開始層を形成する第1の工程と、
前記重合開始層上の全域または一部に対し、液滴吐出法により、前記重合触媒を含有する第1の溶液と、前記化学結合に重合可能な重合基と第1の側鎖とを有する第1のモノマーを含有する第2の溶液とを、別個に供給することにより、前記化学結合に複数の前記第1のモノマーが直鎖状に連結した第1のグラフト重合体で構成される前記グラフト重合層を形成する第2の工程とを有することを特徴とする。
【0008】
これにより、第1の溶液と第2の溶液とが重合開始層上で混合した時点で重合触媒と第1のモノマーとが反応することとなるので、基材上に供給するよりも前にこれらの溶液の粘度が上昇するのを確実に防止することができるとともに、重合開始層に連結しないオリゴマーが生じるのを好適に抑制または防止することができる。その結果、均一な高分子密度を有するグラフト重合層を形成することができる。
【0009】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、基材上に、重合触媒により活性化される化学結合と前記基材に連結する連結基とを有する重合開始剤を、前記連結基を前記基材に連結させることにより重合開始層を形成し、前記基材上の前記重合開始層が形成されていない領域に、前記重合触媒により活性化される化学結合を有さず、前記連結基を有する安定化剤が該連結基を介して前記基材に連結する安定化層を形成する第1の工程と、
前記重合開始層上の全域または一部に対し、液滴吐出法により、前記重合触媒を含有する第1の溶液と、前記化学結合に重合可能な重合基と第1の側鎖とを有する第1のモノマーを含有する第2の溶液とを、別個に供給することにより、前記化学結合に複数の前記第1のモノマーが直鎖状に連結した第1のグラフト重合体で構成される前記グラフト重合層を形成する第2の工程とを有することを特徴とする。
【0010】
これにより、第1の溶液と第2の溶液とが重合開始層上で混合した時点で重合触媒と第1のモノマーとが反応することとなるので、基材上に供給するよりも前にこれらの溶液の粘度が上昇するのを確実に防止することができるとともに、重合開始層に連結しないオリゴマーが生じるのを好適に抑制または防止することができる。その結果、均一な高分子密度を有するグラフト重合層を形成することができる。
【0011】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第1の工程において、前記グラフト重合層を形成すべき部位に対応するように、前記重合開始層を形成することが好ましい。
これにより、第2の工程において、重合開始層が形成されていない領域に、たとえ第1の溶液と第2の溶液とが供給されたとしても、この領域には重合開始層が形成されていないので、この領域にグラフト重合層が形成されるのを確実に防止することができる。すなわち、グラフト重合層を形成すべき部位に対するグラフト重合層の成膜精度の向上を図ることができる。
【0012】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第2の工程において、前記重合開始層上に、前記第1の溶液を供給した後、前記第2の溶液を供給することが好ましい。
これにより、第1の溶液中に含まれる重合触媒により、重合開始層の表面で露出する化学結合が活性化した後に、第1のモノマーが供給されることとなる。その結果、活性化されない化学結合が残存するのを好適に防止または低減できることから、均一な膜密度のグラフト重合層を形成することができる。
【0013】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第2の工程において、前記重合開始層上に、前記第2の溶液を供給した後、前記第1の溶液を供給することが好ましい。
ここで、第1の溶液と第2の溶液とでは、一般的に、第1のモノマーを含有する第2の溶液のほうが、その粘度が高くなる傾向を示す。そのため、重合開始層上に、第1の溶液を供給するのに先立って、第1の溶液よりも粘度の高い第2の溶液を供給する構成とすることにより、液滴吐出法により供給された第1の溶液が、重合開始層上に供給された領域から濡れ広がるのを確実に防止することができる。これにより、この領域内にグラフト重合層をより確実に形成することができる。
【0014】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第1の溶液および前記第2の溶液に含まれる溶媒には、同種または同一のものが用いられることが好ましい。
これにより、第1の溶液と第2の溶液とが分離することなく確実に溶解することができる。すなわち、第1の溶液と第2の溶液とを確実に混和することができる。その結果、形成されるグラフト重合層の各部における膜密度を均一なものとすることができる。
【0015】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記溶媒は、イオン性液体であることが好ましい。
イオン性液体は、不揮発性の溶媒であることから、第1のモノマーがグラフト重合してポリマー化する際に、溶媒自体が気化してしまうのを好適に防止することができる。これにより、第1のモノマーの重合化が途中で停止するのを確実に防止することができる。
【0016】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第1のモノマーに重合可能な重合基と前記第1の側鎖とは異なる第2の側鎖とを有する第2のモノマーを含有する第3の溶液を前記層形成領域に供給することにより、第1のグラフト重合体に複数の前記第2のモノマーが直鎖状に連結した第2のグラフト重合体を連結する第3の工程を有することが好ましい。
これにより、第1のグラフト重合体に第2のグラフト重合体が連結するような複雑な構成のグラフト重合体を備えるグラフト重合層を形成することができる。
【0017】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第3の工程に先立って、前記第1の溶液および前記第2の溶液を洗浄することが好ましい。
これにより、第1のモノマーの重合体で構成される第1のグラフト重合体に、第2のモノマーの重合体で構成される第2のグラフト重合体が連結するグラフト重合体を備えるグラフト重合層を形成することができる。
【0018】
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第2の工程の後に、前記第1の側鎖に置換基を導入することが好ましい。
これにより、置換基が有する特性をグラフト重合層に付与することができる。
本発明のグラフト重合層の形成方法では、前記第2の工程の後に、前記第1のグラフト重合体の末端に修飾基を導入することが好ましい。
これにより、修飾基が有する特性をグラフト重合層に付与することができる。
【0019】
本発明の電子デバイスは、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子デバイスが得られる。
本発明の電子機器は、本発明の電子デバイスを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のグラフト重合層の形成方法、電子デバイスおよび電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
まず、本発明のグラフト重合層の形成方法について説明する。
<グラフト重合層の形成方法>
<<第1の形成方法>>
まず、グラフト重合層の第1の形成方法について説明する。
【0021】
図1は、グラフト重合層の第1の形成方法を説明するための概略図、図2および図3は、図1に示すグラフト重合層の形成方法の各工程を説明するための模式図である。なお、以下では、図1〜図3中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
グラフト重合層の第1の形成方法では、基材2上に重合開始層21を形成する重合開始層形成工程(図1(a))と、重合開始層21上に重合触媒38を含有する第1の溶液を供給する第1の溶液供給工程(図1(b))と、さらに第1のモノマー37を含有する第2の溶液を供給する第2の溶液供給工程(図1(c))とを有し、重合開始層21上において、重合触媒38の触媒作用により、第1のモノマー37が直鎖状に連結した第1のグラフト重合体で構成されるグラフト重合層3が形成される(図1(d))。
【0022】
ここで、図1に示すように、本発明のグラフト重合層の形成方法では、第1の溶液および第2の溶液は、液滴吐出法(インクジェット法)を用いて、それぞれ別個に、重合開始層21上のグラフト重合層3を形成すべき部位である層形成領域21aに対応するように選択的に供給される。液滴吐出法によれば、真空装置等の大掛かりな設備や、マスクパターン等を要せず、重合開始層21上の層形成領域21aすなわち所望の位置に第1の溶液および第2の溶液を選択的に供給することができる。さらに、液滴吐出法によれば、第1の溶液および第2の溶液が、重合開始層21上の層形成領域21aに選択的に供給される。そのため、重合開始層21の上面を覆うようにグラフト重合層を形成した後、膜形成領域21aを除く領域に形成されたグラフト重合層を除去する場合と比較して材料の無駄が少ない。また、本発明のグラフト重合層の形成方法に用いられる材料は、特に高価なものであることから、膜を形成する領域に選択的に供給する構成とすることにより、大幅な経費の削減を図ることができる。
【0023】
以下、上述した各工程について、詳述する。
[1A]重合開始層形成工程(第1の工程)
まず、後述する重合触媒38により活性化される化学結合を一端部に、連結基として機能するSH基を他端部に有する下記化合物(A1)を重合開始剤22として用意する。
【0024】
【化1】

【0025】
また、Au、AgまたはCu等の金属材料、またはこれらを含む合金で構成される金属層を表面に備える基材2を用意する。なお、この基材2は、基材全体が金属層で構成されるものであってもよいし、基材の表面が金属層で構成されるものであってもよい。
そして、この重合開始剤22のSH基と、基材2の表面とを反応させることにより、図2に示すように、基材2の表面に重合開始剤22を−S−結合により結合(連結)させて重合開始層21を形成する。
これは、例えば、上記化合物(A1)で表される重合開始剤22を含む溶液を、基材2の表面に接触させること等により行うことができる。
【0026】
また、重合開始剤22を溶解する溶媒としては、特に限定されないが、後述する重合触媒38を溶解する溶媒として説明するものを用いることができる。
このような工程により、重合開始剤22が、基材2の表面に固定化(連結)される。
なお、重合開始剤22としては、化合物(A1)の他に、例えば、連結基としてSi−X基を有する下記化合物(A2)を用いることができる。
【0027】
【化2】

(式中、Xは、加水分解によりシラノール基を生成する加水分解基を表す。)
【0028】
この場合、基材2としては、SiO、TiOまたはAl等の無機酸化物材料で構成される無機酸化物層や、化学エッチング処理、紫外線照射処理、オゾン処理のような表面処理が施されたポリエチレンテレフタレート(PET)系の有機物材料等で構成される有機物層を表面に備える基材2を用いることにより、基材2の表面に、水酸基が露出することとなるため、重合開始剤22を−Si−O−結合により結合(連結)させることができる。
また、重合開始剤22が一端部に備える化学結合としては、化合物(A1)および化合物(A2)が備える−Br基の他、例えば、スルフォニルクロライド(−SOCl)基等が挙げられる。
【0029】
[2A]第1の溶液供給工程
次に、重合触媒38を含有する第1の溶液を用意する。この第1の溶液は、例えば、重合触媒38を溶媒中に溶解することにより調整することができる。
重合触媒38としては、後述する第2の溶液供給工程において、重合体が成長する際に、成長末端を活性化することができるものであればよく、例えば、遷移金属のハロゲン化物、水酸化物、酸化物、アルコキシド、シアン化物、シアン酸塩、チオシアン酸塩、アジド化物等が挙げられ、その他、ビピリジル、ホスフィン、一酸化炭素等の遷移金属の配位子として一般的なものを有する遷移金属錯体でもよい。これらのうち遷移金属のハロゲン化物を主成分とするものが好適である。遷移金属のハロゲン化物を主成分とする重合触媒38は、リビング重合に適したものであることから好ましい。また、比較的安価かつ入手が容易であり、また取り扱いが容易であることからも好ましい。
【0030】
また、遷移金属としては、例えば、Cu、Fe、Au、Ag、Hg、Pd、Pt、Co、Mn、Ru、Mo、NbおよびZn等が挙げられる。
また、重合触媒38を溶解する溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールのようなアルコール類、o−ジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類等を用いることができるが、特に、四フッ化ホウ酸N,N−ジエチル−N−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドN,N−ジエチル−N−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムのような脂肪族四級アンモニウム系イオン性液体、ヨード1−エチル−3−アリルイミダゾリウム、四フッ化ホウ酸1−sec−ブチル−3−アリルイミダゾリウムのようなイミダゾリウム系イオン性液体、および、ヨード 4−(2−オクチルオキシナフタレン−6−イル)ピリジニウム、四フッ化ホウ酸 4−(2−オクチルオキシナフタレン−6−イル)ピリジニウムのようなピリジウム系イオン性液体等のイオン性液体(常温溶融塩)を用いるのが好ましい。イオン性液体は、不揮発性および不燃性という特徴を有することから、特に安全性に優れた有機材料である。なお、これら溶媒は、単独または混合溶媒として用いることができる。
次に、この第1の溶液を、重合開始層21上のグラフト重合層3を形成すべき部位に対応する層形成領域21aに、液滴吐出法(インクジェット法)を用いて供給することにより、重合触媒38を含有する第1の液状被膜を形成する。
【0031】
[3A]第2の溶液供給工程
次に、化学結合に重合可能な重合基と、第1の側鎖とを有する第1のモノマー37を含有する第2の溶液を用意する。この第2の溶液は、例えば、第1のモノマー37を溶媒中に溶解することにより調整することができる。
この第1のモノマー37が有する重合基としては、例えば、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、ビニルピリジル基、アクリルアミド基のような炭素−炭素二重結合を含むもの、ノルボルニル基、エポキシ基、オキセタニル基等の開環反応を生起するもの等が挙げられるが、比較的重合活性が高く、安価という点等では、スチリル基や(メタ)アクリロイル基を含むモノマーを用いることが好ましい。
このような第1のモノマー37の具体例としては、例えば、下記化学式(B)、(C)で表される化合物等が挙げられる。
【0032】
【化3】

(式中、endは、第1の側鎖の末端基を表す。また、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を、Rは、単結合、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。)
【0033】
【化4】

(式中、endは、第1の側鎖の末端基を表す。また、R、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を、Rは、単結合、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。)
【0034】
また、第1の側鎖の末端基(end)の具体例としては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、チオール基、イソシアナート基、水素原子およびメチル基等が挙げられる。またこれらの官能基だけでなく、後述するラジカル重合の影響を受けない場合なら、最初から側鎖末端(末端基)に機能性部位(例えば、後述する置換基等)を導入しておくこともできる。
【0035】
第1のモノマー37を溶解する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、重合触媒38を溶解する溶媒として説明したのと同様のものを用いることができる。
ここで、本発明では、第1の溶液と第2の溶液とを別個に用意(調整)することから、第2の溶液中には、重合触媒38が含まれない。そのため、第1のモノマーと重合触媒38とが共存することによる重合基の活性化が防止される。その結果、第2の溶液中において、第1のモノマー37同士が連結すること、すなわちダイマーやオリゴマー、ポリマー等が生成するのを確実に防止することができる。これにより、第2の溶液の粘度上昇を確実に防止することができる。
【0036】
次に、重合開始層21上の層形成領域21aに、液滴吐出法(インクジェット法)を用いて第2の溶液を供給すること、すなわち前記工程[2A]で形成した第1の液状被膜に第2の溶液を供給することにより、第1の溶液と第2の溶液とを混合して、重合触媒38と第1のモノマー37とを含有する第2の液状被膜を形成する。
このように、重合開始層21の表面から化学結合(図2では、C−Br結合)が露出する状態で、重合開始層21上に、重合触媒38と第1のモノマー37とを含有する第2の液状被膜を形成すると、重合開始剤22(前記化学式(A1)で表される化合物)の化学結合を基点として、第1のモノマー37がリビング重合(原子移動ラジカル重合:ATRP)により重合して、第1のグラフト重合体31が合成される。
【0037】
すなわち、層形成領域21aに形成された第2の液状被膜中において、重合開始剤22および重合触媒38の存在下で、第1のモノマー37を作用させると、まず重合開始剤22に含まれる化学結合が重合触媒38により活性化される。これにより、活性化した化学結合と第1のモノマー37とが化合し、重合開始剤22の重合触媒により活性化された化学結合に含まれる原子が第1のモノマー37側に移動し、重合触媒により活性化される化学結合が成長末端として再生する。この状態で第1のモノマー37が重合する成長末端を再生しながら主鎖が伸長する。このようにして化学結合に複数の第1のモノマーが直鎖状に連結した第1のグラフト重合体31が合成され、第1のグラフト重合体31で構成されるグラフト重合層3が形成される。
【0038】
例えば、第1のモノマー37として前記化学式(B)で表される化合物を用い、重合触媒としてCuBrを用いた場合には、図3に示すような成長末端を有する第1のグラフト重合体31を形成することができる。なお、図3では、基材2に連結する1つの重合開始剤22に、第1のグラフト重合体31が連結している場合を示すが、実際には、基材2には複数の重合開始剤22が連結しており、それぞれの重合開始剤22に第1のグラフト重合体31が連結している。
【0039】
ここで、上述したように、第2の溶液中にはダイマーやオリゴマー、ポリマー等が実質的に存在しない状態とすることができる。そのため、第2の溶液の粘度上昇を確実に防止し得ることから、液滴吐出法により層形成領域21aに形成された第1の液状被膜中に確実に第2の溶液を供給することができる。さらに、重合開始剤22に連結しないダイマーやオリゴマー、ポリマー等の混入を好適に防止または抑制し得ることから、均一な高分子の密度を有するグラフト重合層3を、基材2上の層形成領域21aに重合開始層21を介して形成することができる。
【0040】
なお、第1の溶液および第2の溶液は(反応液)は、重合開始層21上の層形成領域21aに供給するのに先立って、脱酸素処理を行っておくのが好ましい。脱酸素処理としては、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスによる真空脱気後の置換やパージ処理等が挙げられる。
また、第1の溶液および第2の溶液に含まれる溶媒は、異なるものであってもよいが、同種または同一のものであるのが好ましい。これにより、第1の溶液で構成される第1の被膜中に第2の溶液を供給した際に、第1の被膜中で第2の溶液が分離することなく、第2の溶液を第2の被膜中に確実に溶解することができる。すなわち、第1の溶液と第2の溶液とを確実に混和することができる。その結果、第2の被膜中において、第1のモノマー37および重合触媒38が均一に分散されることから、形成されるグラフト重合層3の各部における膜密度を均一なものとすることができる。
【0041】
さらに、この場合、同種または同一の溶媒は、イオン性液体であるのが好ましい。上述したようにイオン性液体は、不揮発性の溶媒であることから、第1のモノマー37がグラフト重合してポリマー化する際に、溶媒自体が気化して、第2の液状被膜が乾燥してしまうのを好適に防止することができる。これにより、第1のモノマー37の重合化が途中で停止するのを確実に防止することができる。
【0042】
また、第1のモノマー37同士を重合反応させるに際して、第2の液状被膜の温度を所定の温度(第1のモノマー37および重合触媒が活性化する温度)まで加熱(加温)することにより、この重合反応をより迅速かつ確実に行うことができる。
この加熱の温度は、第1のモノマー37や重合触媒の種類等によっても若干異なり、特に限定されるものではないが、20〜50℃程度であるのが好ましい。また、加熱の時間(反応時間)は、加熱の温度を前記範囲とする場合、1〜2時間程度であるのが好ましい。一方、重合反応は若干遅くなるが、膜均一性および形成膜厚の精密制御を行う場合は、反応温度を−10〜10℃程度にするのが好ましい。
【0043】
また、この第1の形成方法では、重合開始層21上に、第1の溶液を供給した後、第2の溶液を供給する構成となっている。かかる構成とすることにより、第1の溶液中に含まれる重合触媒38により、重合開始層21の表面で露出する化学結合が活性化した後に、第1のモノマー37が供給されることとなる。その結果、活性化されない化学結合が残存するのを好適に防止または低減できることから、均一な膜密度のグラフト重合層3を形成することができる。
【0044】
なお、この第1の形成方法では、前記第1の溶液供給工程[2A]と前記第2の溶液供給工程[3A]とにより、第2の工程が構成される。
また、本工程の後には、グラフト重合体31の末端に修飾基を導入するようにしてもよい。これにより、修飾基が有する特性(機能)をグラフト重合層3に付与することができる。
【0045】
修飾基としては、特に限定されないが、例えば、蛍光物質、吸光物質、導電性物質、酵素、抗原、抗体、DNAおよび重合開始剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような修飾基の導入は、この修飾基と、第1のグラフト重合体31の末端に成長末端として存在する化学結合と反応し得る官能基とを有する化合物を、前記化学結合に反応させることにより行うことができる。これにより、修飾基が有する機能をグラフト重合体31すなわちグラフト重合層3に付与することができる。
【0046】
[4A]重合停止溶液供給工程
次に、層形成領域21aに形成されたグラフト重合層3上に残存する第2の液状被膜に、液滴吐出法を用いて、重合停止剤を含有する重合停止溶液を供給する。これにより、第1のグラフト重合体31に対して第1のモノマー37が重合するのを停止させる。
重合停止剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化ブチル、臭化ブチル、ヨウ化ブチル、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジフェニルケトン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、後述する第3の形成方法のように、第1のモノマー37による重合反応停止後にさらに新たなモノマー(第2のモノマー39)から重合層を形成する場合は、反応末端のラジカル種の活性を維持するような一時的な重合停止剤(一時重合停止剤)を用いる。この一時重合停止剤は、重合開始層の種類により異なるが、アルキルハライド系であれば、臭化第二銅およびビピリジンの水溶液等が挙げられる。
【0047】
また、重合停止溶液を調整する際に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、重合触媒38を溶解する溶媒として説明したのと同様のものを用いることができる。
なお、本工程は必要に応じて省略することができる。
すなわち、例えば、第2の液状皮膜中に含まれる第1のモノマー37のほぼ全てを反応させる場合、本工程は省略される。
【0048】
また、本工程の後に、グラフト重合体31が備える第1の側鎖に置換基を導入するようにしてもよい。
置換基としては、特に限定されないが、フェロセンのような有機金属錯体、クラウンエーテルのような大環状エーテル、キャリア輸送性を有するアリールアミン誘導体、抗体および核酸等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
このような置換基の導入は、第1の側鎖の末端基(end)として、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、チオール基およびイソシアナート基のように反応性に優れる官能基が導入されている場合、上述した置換基と、第1の側鎖の末端基と反応し得る官能基とを有する化合物を、第1の側鎖の末端基に反応させることにより行うことができる。
【0050】
この化合物が有する官能基の具体例としては、例えば、第1の側鎖の末端基がカルボキシル基である場合には、アミノ基等が挙げられる。また、第1の側鎖の末端基が水酸基である場合には、塩化カルボニル基等が挙げられる。
具体的には、末端基として水酸基を備えている第1の側鎖に対して、置換基としてフェロセンを導入する場合、例えば、次のようにして行うことができる。
まず、フェロセンを備える下記化学式(F)で表される化合物を用意する。
【0051】
【化5】

【0052】
この化学式(F)で表される化合物は、例えば、以下に示すようにして得ることができる。
まず、ジクロロメタン(DCM)中にフェロセンを溶解した後、NaFe(CO)を添加して混合した後、酸素ガスを供給して、フェロセンにカルボキシル基を導入した。
次いで、この溶液に、DCM中でオキサリルクロライドを反応して、カルボキシル基を塩化カルボニル基とすることにより、上記化学式(F)で表される化合物が得られる。
【0053】
次に、上記化学式(F)で表される化合物を含有するジクロロメタン溶液を、液滴吐出法を用いて、第1のグラフト重合体31で構成されるグラフト重合層3上に供給する。これにより、第1の側鎖が有する水酸基と、上記化学式(F)で表される化合物が有する塩化カルボニル基とが反応することによりエステル結合が形成され、その結果、第1の側鎖にフェロセンが導入される。
かかる方法により、置換基が有する特性(機能)をグラフト重合体31すなわちグラフト重合層3に付与することができる。
【0054】
[5A]洗浄工程
次に、グラフト重合層3上に残存する第2の液状被膜を、洗浄溶液を用いて洗浄する。
この洗浄溶液としては、特に限定されないが、例えば、重合触媒38を溶解する溶媒として説明したのと同様のものを用いることができが、これらの中でも、揮発性に優れるものが好適に用いられる。
また、洗浄溶液による洗浄の後、グラフト重合層3が形成された基材2を乾燥するようにしてもよい。
以上のような工程を経て、基材2上の層形成領域21aに重合開始層21を介してグラフト重合層3を形成することができる。
【0055】
<<第2の形成方法>>
次に、グラフト重合層の第2の形成方法について説明する。
以下、グラフト重合層の第2の形成方法について説明するが、前記第1の形成方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
グラフト重合層の第2の形成方法では、重合開始層21上の層形成領域21aに、第2の溶液を供給した後、第1の溶液を供給する以外は、前記第1の形成方法と同様である。
【0056】
すなわち、第2の形成方法では、第1のモノマー37を含有する第1の液状被膜を重合開始層21上に形成した後、この第1の液状被膜に第1の溶液を供給して、第1のモノマー37と重合触媒38とを含有する第2の液状被膜を形成する構成となっている。
かかる構成とすることによっても、前記第1の形成方法で説明したのと同様の効果が得られる。
【0057】
さらに、第1の溶液と第2の溶液とでは、一般的に、第1のモノマー37を含有する第2の溶液のほうが、その粘度が高くなる傾向を示す。そのため、この第2の形成方法のように、重合開始層21上の層形成領域21aに、第1の溶液を供給するのに先立って、第1の溶液よりも粘度の高い第2の溶液を供給する構成とすることにより、液滴吐出法により供給された第1の溶液が、この領域21aから濡れ広がるのを確実に防止することができる。これにより、この領域21a内に第1の液状被膜および第2の液状被膜をより確実に形成することができる。すなわち、この領域21a内にグラフト重合層3をより確実に形成することができる。
【0058】
<<第3の形成方法>>
次に、グラフト重合層の第3の形成方法について説明する。
以下、グラフト重合層の第3の形成方法について説明するが、前記第1の形成方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図4は、グラフト重合層の第3の形成方法を説明するための概略図、図5は、図4に示すグラフト重合層の形成方法の工程を説明するための模式図である。なお、以下では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0059】
グラフト重合層の第3の形成方法では、第1のグラフト重合体31に連結する第2のグラフト重合体32を形成してグラフト重合層3を得る以外は、前記第1の形成方法と同様である。
すなわち、第3の形成方法では、図4(a)に示すように前記第1の形成方法で形成された第1のグラフト重合体31上に、第2のモノマー39を含有する第3の溶液を供給することにより(図4(b))、第1のグラフト重合体31に連結する第2のグラフト重合体32を形成して、第1のグラフト重合体31と第2のグラフト重合体32とで構成されるグラフト重合層3を形成する以外は、前記第1の形成方法と同様である。
【0060】
以下、第2のグラフト重合体32を形成する各工程について、詳述する。
[1B]洗浄工程
まず、前記工程[3A]を経ることにより、重合開始層21上の層形成領域21aに形成された第1のグラフト重合体31上に残存する第2の液状被膜を洗浄する。
この第2の液状被膜の洗浄は、前述した工程[5A]と同様にして行うことができる。
【0061】
[2B]第3の溶液供給工程(第3の工程)
次に、第1のグラフト重合体31すなわち第1のモノマーに重合可能な重合基と、第1の側鎖とは異なる第2の側鎖とを有する第2のモノマー39を含有する第3の溶液を用意する。この第3の溶液は、例えば、第2のモノマー39を溶媒中に溶解することにより調整することができる。
この第2のモノマー39が有する重合基としては、前記第1のモノマー37と同様の理由から、スチリル基や(メタ)アクリロイル基を含むものが好ましい。
この第2のモノマー39の具体例としては、例えば、下記化学式(D)、(E)で表される化合物等が挙げられる。
【0062】
【化6】

(式中、endは、第2の側鎖の末端基を表す。また、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を、Rは、単結合、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。)
【0063】
【化7】

(式中、endは、第2の側鎖の末端基を表す。また、R13、R14は、水素原子、メチル基またはエチル基を、R15は、単結合、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。)
【0064】
また、第2の側鎖の末端基(end)の具体例としては、前述した第1の側鎖の末端基(end)と同様のものが挙げられるが、この第3の形成方法では、第2の側鎖の末端基は、第1の側鎖の末端基として用いたものとは異なるものが選択される。
第2のモノマー39を溶解する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、重合触媒38を溶解する溶媒として説明したのと同様のものを用いることができる。
【0065】
ここで、本発明では、前記第2の溶液と同様に、第3の溶液中にも、重合触媒38が含まれない。そのため、第3の溶液中において、第2のモノマー39同士が連結すること、すなわちダイマーやオリゴマー、ポリマー等が生成するのを確実に防止することができる。
次に、第1のグラフト重合体31が形成された重合開始層21の層形成領域21aに、液滴吐出法を用いて第3の溶液を供給することにより、第2のモノマー39を含有する第3の液状被膜を形成する。
【0066】
ここで、第1のグラフト重合体31の末端には、前記工程[3A]において、重合触媒38により活性化された化学結合が成長末端として残存している。そのため、第3の液状被膜中に含まれる第2のモノマー39が、この成長末端に接触すると、成長末端を再生しながら、成長末端に連結することから、第2のモノマー39で構成される主鎖が伸長する。このようにして第1のグラフト重合体31の末端に複数の第2のモノマー39が直鎖状に連結した第2のグラフト重合体32が合成され、第1のグラフト重合体31と第2のグラフト重合体32とで構成されるグラフト重合層3が形成される。
【0067】
例えば、第2のモノマー39として前記化学式(D)で表される化合物を用いた場合には、図5に示すような成長末端を有する第1のグラフト重合体31に連結する第2のグラフト重合体32を形成することができる。
このように、第2の溶液(第1のモノマー37)と第3の溶液(第2のモノマー39)とを、順次、液滴吐出法を用いて重合開始層21上の層形成領域21aに供給する構成とすることにより、第1のグラフト重合体31に第2のグラフト重合体32が連結するような複雑な構成のグラフト重合体を備えるグラフト重合層3をも形成することができる。
なお、図5では、基材2に連結する1つの重合開始剤22に、第1のグラフト重合体31と第2のグラフト重合体32とが連結している場合を示すが、実際には、基材2には複数の重合開始剤22が連結しており、それぞれの重合開始剤22に第1のグラフト重合体31と第2のグラフト重合体32とが連結している。
【0068】
[3B]重合停止溶液供給工程
次に、第2のグラフト重合体32に対して第2のモノマー39が重合するのを停止させる。これは、例えば、前記工程[4A]で説明したのと同様にして行うことができる。
[4B]洗浄工程
次に、グラフト重合層3上に残存する第3の液状被膜を洗浄する。これは、例えば、前記工程[5A]で説明したのと同様にして、洗浄溶液を用いて洗浄することができる。
【0069】
以上のような工程を経て、基材2上の層形成領域21aに重合開始層21を介してグラフト重合層3を形成することができる。
このような第3の形成方法においても、前記第1の形成方法で説明したのと同様の効果が得られる。
なお、この第3の形成方法においては、前記工程[1B]で示した洗浄工程を省略するようにしてもよい。この場合、第1のモノマー37と第2のモノマー39とが共存する状態で第3の液状被膜が形成される。そのため、第2のグラフト重合体32も、その重合体を構成するモノマー成分として、第1のモノマー37と第2のモノマー39とが共存する状態で形成される。
【0070】
<<第4の形成方法>>
次に、グラフト重合層の第4の形成方法について説明する。
以下、グラフト重合層の第4の形成方法について説明するが、前記第1の形成方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図6は、グラフト重合層の第4の形成方法を説明するための概略図、図7は、図6に示すグラフト重合層の形成方法の工程を説明するための模式図である。なお、以下では、図6および図7中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0071】
グラフト重合層の第4の形成方法では、図6(a)に示すように、基材2上のグラフト重合層3を形成すべき部位に対応する層形成領域21aに重合開始層21を形成し、図6(b)に示すように、基材2上の重合開始層21が形成されていない非層形成領域21bに安定化層23をする以外は、前記第1の形成方法と同様である。すなわち、グラフト重合層の第4の形成方法では、層形成領域21aに対応するように、重合開始層21を形成し、非層形成領域21bに対応するように、安定化層23を形成する以外は、前記第1の形成方法と同様である。
以下、かかる構成の重合開始層21および安定化層23を形成する各工程について、詳述する。
【0072】
[1C]重合開始層形成工程
まず、前記工程[1A]と同様に、前記化合物(A1)を重合開始剤22として用意し、この重合開始剤22を含有する溶液を調整する。
次に、この重合開始剤22を含有する溶液を、基材2上の層形成領域21aに、液滴吐出法を用いて供給して、この重合開始剤22のSH基と、基材2の表面とを反応させることにより、図7に示すように、基材2の表面に重合開始剤22を−S−結合により結合(連結)させる。これにより、基材2の層形成領域21aに重合開始層21を選択的に形成する。
【0073】
なお、このように基材2の層形成領域21aに選択的に重合開始層21を形成する方法としては、液滴吐出法を用いる方法の他、例えば、以下のようなフォトリソグラフィー法を用いた方法によっても形成することができる。
まず、前記工程[1A]と同様にして、基材2の上面全体を覆うように重合開始層21を形成する。次に、膜形成領域21aに存在する重合開始層21を覆うようにフォトリソグラフィー法を用いてレジスト層を形成する。次に、このレジスト層をマスクとして用いて、膜形成領域21aを除く非膜形成領域21bに存在する重合開始層21を各種エッチング法を用いて除去することにより、基材2の層形成領域21aに重合開始層21を選択的に形成することができる。
【0074】
[2C]安定化層形成工程
次に、重合触媒38により活性化されない末端基を一端部に、連結基として機能するSH基を他端部に有する下記化合物(G1)を安定化剤24として用意し、この安定化剤24を含有する溶液を調整する。
【0075】
【化8】

【0076】
次に、この安定化剤24を含有する溶液を、基材2上の膜形成領域21aを除く非層形成領域21bすなわち重合開始層21が形成されていない領域に、液滴吐出法を用いて供給して、この安定化剤24のSH基と、基材2の表面とを反応させることにより、図7に示すように、基材2の表面に安定化剤24を−S−結合により結合(連結)させる。これにより、基材2の非層形成領域21bに安定化層23が選択的に形成される。
なお、安定化剤24としても、化合物(G1)の他に、例えば、連結基としてSi−X基を有する下記化合物(G2)を用いることができる。
【0077】
【化9】

(式中、Xは、加水分解によりシラノール基を生成する加水分解基を表す。)
【0078】
また、重合触媒38に活性化されない末端基としては、化合物(G1)および化合物(G2)が備える水酸基の他、例えば、カルボキシル基、アルキル基およびフッ素分子等が挙げられる。このような末端基とすることにより、重合触媒38により活性化される化学結合と異なり、重合触媒38により活性化されないことから、この末端基に第1のモノマー37がたとえ接触したとしても、この末端基に第1のモノマー37が連結(結合)することを確実に防止することができる。
【0079】
以上のような工程を経ることにより、基材2の層形成領域21aおよび非層形成領域21bに、それぞれ重合開始層21および安定化層23を形成することができる。
このように基材2の層形成領域21aに、重合開始層21を選択的に形成する構成とすることにより以下のような効果が得られる。すなわち、グラフト重合層3を形成する際に、非層形成領域21bに、たとえ第1のモノマー37および重合触媒38が供給されたとしても、非層形成領域21bには重合開始層21が形成されていないので、この領域21bにグラフト重合層3が形成されるのを確実に防止することができる。換言すれば、層形成領域21aに対するグラフト重合層3の成膜精度の向上を図ることができる。
【0080】
なお、前記工程[2C]は、必要に応じて省略することができるが、末端基の種類を適宜設定することにより、安定化層23に各種の機能を付与することができる。例えば、末端基にアルキル基やフッ素分子を用いる場合には、安定化層23に撥液性を付与することができる。そのため、重合開始層21上に形成された第1の液状皮膜および第2の液状皮膜が濡れ広がるのを確実に防止することができる。
【0081】
<電子デバイス>
次に、上述したような本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を備える電子デバイスについて説明する。
ここで、グラフト重合層が備える各側鎖の末端基、各側鎖に導入する置換基および修飾基の種類を適宜設定することにより、電子デバイスが備える各種の層に、このグラフト重合層を適用することができる。
【0082】
例えば、グラフト重合層を上述したような各側鎖に置換基を導入する構成や、修飾基を導入する構成とした場合、このグラフト重合層を各種センサが備える反応層に適用することができる。また、各側鎖に置換基としてキャリア輸送材料を導入する構成とした場合、このグラフト重合層を有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)が備える正孔輸送層や電子輸送層に適用することができる。さらに、各側鎖の末端基の種類を適宜設定することにより、有機薄膜トランジスタ(有機TFT)が備える各種層に適用することができる。
【0083】
以下では、この有機薄膜トランジスタが備える各種の層に、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用する場合を、一例に説明する。
図8は、トップゲート構造の有機薄膜トランジスタを示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は平面図である。なお、以下の説明では、図8(a)中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0084】
図8に示す薄膜トランジスタ100は、基板200上に設けられており、ソース電極300およびドレイン電極400と、中間層310、410と、有機半導体層(有機層)500と、ゲート絶縁層600と、ゲート電極700とが、この順で基板200側から積層されて構成されている。
具体的には、薄膜トランジスタ100は、基板200上に、ソース電極300およびドレイン電極400が分離して設けられ、これら電極300、400を覆うように、それぞれ、中間層310、410が設けられており、さらに、これら中間層310、410を覆うように有機半導体層500が設けられている。この有機半導体層500上には、ゲート絶縁層600が設けられ、さらにこの上に、少なくともソース電極300とドレイン電極400の間の領域に重なるようにゲート電極700が設けられている。
【0085】
この薄膜トランジスタ100では、有機半導体層500のうち、ソース電極300(中間層310)とドレイン電極400(中間層410)との間の領域が、キャリアが移動するチャネル領域510となっている。
このような薄膜トランジスタ100は、ソース電極300よびドレイン電極400が、ゲート絶縁層600を介してゲート電極700よりも基板200側に設けられたトップゲート構造の薄膜トランジスタである。
【0086】
以下、薄膜トランジスタ100を構成する各部について、順次説明する。
基板200は、薄膜トランジスタ100を構成する各層(各部)を支持するものである。基板200には、例えば、ガラス基板、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等で構成されるプラスチック基板(樹脂基板)、石英基板、シリコン基板、ガリウム砒素基板等を用いることができる。
【0087】
基板200上には、ソース電極300およびドレイン電極400が、チャネル長方向に沿って、所定距離離間して並設されている。
これらのソース電極300およびドレイン電極400の構成材料は、特に限定されないが、それぞれ、Ni、Cu、Co、Au、Pdまたはこれらを含む合金を主とするものが好適に用いられる。
【0088】
また、ソース電極300およびドレイン電極400を覆うように、それぞれ、中間層310および中間層410が設けられている。
この中間層310および中間層410に、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用することができる。
具体的には、ソース電極300およびドレイン電極400がAuまたはこれを含む合金で構成され、前述した第1の形成方法を用いて中間層310、410を形成する場合、前記化合物(A1)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基として有機半導体層500との親和性に優れるものを備える第1のモノマー37を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、中間層310、410は、ソース電極300およびドレイン電極400と、有機半導体層500との双方に対して密着性に優れるものとなる。その結果、中間層310、410を介した、ソース電極300およびドレイン電極400と、有機半導体層500との間のキャリアの受け渡しを円滑に行うことができるようになる。
【0089】
また、基板200上には、中間層310、410を覆うように、有機半導体層500が設けられている。
有機半導体層500は、有機半導体材料(半導体的な電気伝導を示す有機材料)を主材料として構成されている。
有機半導体材料としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセンまたはこれらの誘導体のような低分子の有機半導体材料や、フルオレン−ビチオフェン共重合体、フルオレン−アリールアミン共重合体またはこれらの誘導体のような高分子の有機半導体材料(共役系高分子材料)が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
有機半導体層500上には、ゲート絶縁層600が設けられている。
このゲート絶縁層600は、ソース電極300およびドレイン電極400に対してゲート電極700を絶縁するものである。
このゲート絶縁層600に、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用することができる。
【0091】
具体的には、前述した第1の形成方法を用いてゲート絶縁層600を形成する場合、前記化合物(A2)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基として絶縁性に優れるものを備える第1のモノマー37を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、ゲート絶縁層600は、絶縁膜としての機能を発揮するとともに、有機半導体層500に対して密着性に優れたものとなる。
【0092】
ゲート絶縁層600上には、ゲート電極700が設けられている。
ゲート電極700の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、Pd、Pt、Auまたはこれらを含む合金等の金属材料、ITO、FTO等の導電性酸化物等が用いられる。
さらに、有機半導体層500とゲート絶縁層600とを一体的に形成する場合にも、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用することができる。
【0093】
具体的には、前述した第3の形成方法を用いて有機半導体層500およびゲート絶縁層600を形成する場合、前記化合物(A2)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基としてキャリア輸送性に優れるものを備える第1のモノマー37と、第2の側鎖の末端基として絶縁性に優れるものを備える第2のモノマー39を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、有機半導体層500とゲート絶縁層600とを、この順で積層した積層体として一体的に形成することができる。
【0094】
図9は、ボトムゲート構造の有機薄膜トランジスタを示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、図9の薄膜トランジスタについて、前記図8の薄膜トランジスタとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図9に示す薄膜トランジスタ100’は、基板200上に、ゲート電極700と、ゲート絶縁層600と、有機半導体層(有機層)500と、中間層310、410と、ソース電極300およびドレイン電極400とが、この順で基板200側から積層されている。
【0095】
具体的には、薄膜トランジスタ100は、基板200上に、少なくともソース電極300とドレイン電極400とが形成される領域の間に重なるようにゲート電極700が設けられ、このゲート電極700を覆うように、ゲート絶縁層600が設けられ、さらに、このゲート絶縁層600上には、有機半導体層500が設けられている。さらにこの上に、中間層310および中間層410が分離して設けられ、これらの上にそれぞれソース電極300およびドレイン電極400が設けられている。
【0096】
このような薄膜トランジスタ100’は、ゲート電極700が、ゲート絶縁層600を介してソース電極300よびドレイン電極400よりも基板200側に設けられたボトムゲート構造の薄膜トランジスタである。
このような薄膜トランジスタ100’において、中間層310,410およびゲート絶縁層600に、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用することができる。
【0097】
具体的には、前述した第1の形成方法を用いて中間層310、410を形成する場合、前記化合物(A2)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基としてソース電極300とドレイン電極400との親和性に優れるものを備える第1のモノマー37を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、中間層310、410は、有機半導体層500と、ソース電極300およびドレイン電極400との双方に対して密着性に優れるものとなる。その結果、中間層310、410を介した、ソース電極300およびドレイン電極400と、有機半導体層500との間のキャリアの受け渡しを円滑に行うことができるようになる。
【0098】
また、前述した第1の形成方法を用いてゲート絶縁層600を形成する場合、前記化合物(A2)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基として絶縁性に優れるものを備える第1のモノマー37を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、ゲート絶縁層600は、絶縁膜としての機能を発揮するとともに、基板200に対して密着性に優れたものとなる。
【0099】
さらに、ゲート絶縁層600と有機半導体層500とを一体的に形成する場合にも、本発明のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を適用することができる。
具体的には、前述した第3の形成方法を用いてゲート絶縁層600および有機半導体層500を形成する場合、前記化合物(A2)を用いて重合開始層21を形成し、第1の側鎖の末端基として絶縁性に優れるものを備える第1のモノマー37と、第2の側鎖の末端基としてキャリア輸送性に優れるものを備える第2のモノマー39を用いてグラフト重合層3を形成する。これにより、ゲート絶縁層600と有機半導体層500とを、この順で積層した積層体として一体的に形成することができる。
【0100】
以上のような薄膜トランジスタ100、100’は、ゲート電極700に印加する電圧を変化させることにより、ソース電極300とドレイン電極400との間に流れる電流量が制御される。
すなわち、ゲート電極700に電圧が印加されていないOFF状態では、ソース電極300とドレイン電極400との間に電圧を印加しても、有機半導体層500中にほとんどキャリアが存在しないため、微少な電流しか流れない。一方、ゲート電極700に電圧が印加されているON状態では、有機半導体層500のゲート絶縁層600に面した部分に電荷が誘起され、チャネル領域510にキャリアの流路が形成される。この状態でソース電極300とドレイン電極400との間に電圧を印加すると、チャネル領域510を通って電流が流れる。
【0101】
<電子機器>
また、前述したような、有機TFT(スイッチング素子)100のような本発明の電子デバイスは、各種電子機器に用いることができる。
図10は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0102】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100においては、例えば、表示ユニット1106が前述の有機TFT(スイッチング素子)100を備えている。
【0103】
図11は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、例えば、この表示部が前述の有機TFT(スイッチング素子)100を備えている。
【0104】
なお、本発明の電子機器は、図10のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図11の携帯電話機の他にも、例えば、テレビや、ディジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0105】
以上、本発明のグラフト重合層の形成方法、電子デバイスおよび電子機器を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明のグラフト重合層の形成方法は、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。
また、本発明のグラフト重合層の形成方法は、各前記形成方法のうち任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせてグラフト重合層を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】グラフト重合層の第1の形成方法を説明するための概略図である。
【図2】図1に示すグラフト重合層の形成方法の各工程を説明するための模式図である。
【図3】図1に示すグラフト重合層の形成方法の各工程を説明するための模式図である。
【図4】グラフト重合層の第3の形成方法を説明するための概略図である。
【図5】図4に示すグラフト重合層の形成方法の工程を説明するための模式図である。
【図6】グラフト重合層の第4の形成方法を説明するための概略図である。
【図7】図6に示すグラフト重合層の形成方法の工程を説明するための模式図である。
【図8】トップゲート構造の有機薄膜トランジスタを示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は平面図である。
【図9】ボトムゲート構造の有機薄膜トランジスタを示す図(縦断面図)である。
【図10】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図11】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0107】
2……基材 21……重合開始層 21a……層形成領域 21b……非層形成領域 22……重合開始剤 23……安定化層 24……安定化剤 3……グラフト重合層 31……第1のグラフト重合体 32……第2のグラフト重合体 37……第1のモノマー 38……重合触媒 39……第2のモノマー 100、100’‥‥薄膜トランジスタ 200‥‥基板 300‥‥ソース電極 310‥‥中間層 400‥‥ドレイン電極 410‥‥中間層 500‥‥有機半導体層 510‥‥チャネル領域 600‥‥ゲート絶縁層 700‥‥ゲート電極 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、重合触媒により活性化される化学結合と前記基材に連結する連結基とを有する重合開始剤を、前記連結基を前記基材に連結させることにより重合開始層を形成する第1の工程と、
前記重合開始層上の全域または一部に対し、液滴吐出法により、前記重合触媒を含有する第1の溶液と、前記化学結合に重合可能な重合基と第1の側鎖とを有する第1のモノマーを含有する第2の溶液とを、別個に供給することにより、前記化学結合に複数の前記第1のモノマーが直鎖状に連結した第1のグラフト重合体で構成される前記グラフト重合層を形成する第2の工程とを有することを特徴とするグラフト重合層の形成方法。
【請求項2】
基材上に、重合触媒により活性化される化学結合と前記基材に連結する連結基とを有する重合開始剤を、前記連結基を前記基材に連結させることにより重合開始層を形成し、前記基材上の前記重合開始層が形成されていない領域に、前記重合触媒により活性化される化学結合を有さず、前記連結基を有する安定化剤が該連結基を介して前記基材に連結する安定化層を形成する第1の工程と、
前記重合開始層上の全域または一部に対し、液滴吐出法により、前記重合触媒を含有する第1の溶液と、前記化学結合に重合可能な重合基と第1の側鎖とを有する第1のモノマーを含有する第2の溶液とを、別個に供給することにより、前記化学結合に複数の前記第1のモノマーが直鎖状に連結した第1のグラフト重合体で構成される前記グラフト重合層を形成する第2の工程とを有することを特徴とするグラフト重合層の形成方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記グラフト重合層を形成すべき部位に対応するように、前記重合開始層を形成する請求項1または2に記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記重合開始層上に、前記第1の溶液を供給した後、前記第2の溶液を供給する請求項1ないし3のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記重合開始層上に、前記第2の溶液を供給した後、前記第1の溶液を供給する請求項1ないし3のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項6】
前記第1の溶液および前記第2の溶液に含まれる溶媒には、同種または同一のものが用いられる請求項1ないし5のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項7】
前記溶媒は、イオン性液体である請求項6に記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項8】
前記第1のモノマーに重合可能な重合基と前記第1の側鎖とは異なる第2の側鎖とを有する第2のモノマーを含有する第3の溶液を前記層形成領域に供給することにより、第1のグラフト重合体に複数の前記第2のモノマーが直鎖状に連結した第2のグラフト重合体を連結する第3の工程を有する請求項1ないし7のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項9】
前記第3の工程に先立って、前記第1の溶液および前記第2の溶液を洗浄する請求項8に記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項10】
前記第2の工程の後に、前記第1の側鎖に置換基を導入する請求項1ないし7のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項11】
前記第2の工程の後に、前記第1のグラフト重合体の末端に修飾基を導入する請求項1ないし7のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のグラフト重合層の形成方法により形成されたグラフト重合層を備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項13】
請求項12に記載の電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−189856(P2008−189856A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27360(P2007−27360)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】