説明

グランド型ピアノの楽音制御装置

【課題】ハンマーの上方の空間が狭い場合でも、ハンマーにシャッタを支障なく取り付けることができるとともに、発音すべき楽音を適切に制御することができるグランド型ピアノの楽音制御装置を提供する。
【解決手段】このグランド型ピアノ2の楽音制御装置1では、ハンマーシャンク6aの長さ方向に沿って配置された第1〜第3光センサ51〜53のうち、第1光センサ51の検出信号SI1に基づいて、鍵5の押鍵の有無を判定し、第2光センサ52の検出信号SI2に基づいて、ハンマー6の回動方向を判定し、さらに、第3光センサ53の検出信号SI3に基づいて、ハンマー6の回動速度Vを算出する。そして、判定された鍵5の押鍵の有無およびハンマー6の回動方向、ならびに算出されたハンマー6の回動速度に基づいて、発音すべき楽音を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子ピアノや、消音ピアノなどの複合型ピアノに用いられるグランド型ピアノの楽音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の楽音制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この楽音制御装置は、回動自在の鍵に一体に設けられたシャッタと、第1および第2フォトインタラプタなどで構成されている。シャッタは、鍵の下方に延びており、矩形状の後半部と、後半部の上部から前方に延びる前半部とから、逆L字状に形成されている。シャッタの後半部の下部には、窓が形成されている。第1および第2フォトインタラプタはそれぞれ、ケース内に収容された一対の発光素子および受光素子で構成されており、シャッタの後半部および前半部の下方に設けられている。
【0003】
離鍵状態では、第1および第2フォトインタラプタの光路はいずれも開放されている。この状態から、鍵が押鍵されると、それに伴い、シャッタの後半部の下端が第1フォトインタラプタに達することによって、その光路が遮断される。鍵の回動が進み、シャッタの後半部の窓の下縁が第1フォトインタラプタに達することによって、その光路が再び開放される。鍵の回動がさらに進むと、シャッタの前半部によって第2フォトインタラプタの光路が遮断された後、シャッタの後半部の窓の上縁が第1フォトインタラプタに達し、その光路が再び、遮断される。この状態で鍵が離鍵されると、第1および第2フォトインタラプタの光路は、上記とは逆の順で開放および遮断される。
【0004】
この楽音制御装置では、第1および第2フォトインタラプタからの第1および第2検出信号に基づいて、楽音の発音制御を行う。具体的には、第1フォトインタラプタの光路が遮断されてから、窓によって開放された後、窓の上縁によって再び遮断されるまでの間の押鍵速度を算出するとともに、この押鍵速度に応じて楽音の音量を設定する。そして、第1フォトインタラプタの光路が開放状態から遮断状態になり、かつ第2フォトインタラプタの光路が遮断されているときに、設定した音量に応じた楽音の発音を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3538871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来の楽音制御装置では、互いに異なる高さに配置された第1および第2フォトインタラプタの光路の遮断または開放状態に応じて、楽音の音量や発音タイミングが設定される。しかし、このような構成のシャッタおよび2つのフォトインタラプタを、グランド型ピアノのハンマー側に設けた場合には、以下のような問題が生じる。すなわち、鍵と棚板の間の空間は比較的、広いのに対して、ハンマーよりも上方の空間は、ピン板などが設けられているため、非常に狭い。このため、ハンマーの回動の途中で、ハンマーシャンクが、第1および第2フォトインタラプタを収容するケースに接触することがある。このような不具合は、例えば、ハンマーシャンクが接触しない位置までケースを高くするとともに、シャッタを長くすることによって回避することが可能であるが、その場合には、ハンマーの回動の途中で、シャッタがピン板に接触することがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ハンマーの上方の空間が狭い場合でも、ハンマーにシャッタを支障なく取り付けることができるとともに、発音すべき楽音を適切に制御することができるグランド型ピアノの楽音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、回動自在の鍵と、前後方向に延びかつ上方に突出するシャッタが一体に設けられたハンマーシャンクを有し、鍵の押鍵に伴い、支点を中心として回動するハンマーと、を有するグランド型ピアノの楽音制御装置であって、ハンマーの上方に設けられ、ハンマーシャンクの長さ方向に沿って配置されるとともに、シャッタの回動経路を間にした一方の側に配置され、光を出射する発光部と、回動経路の他方の側に配置され、発光部からの光を受光する受光部とをそれぞれ有し、回動経路を回動するシャッタによる、発光部からの光の光路の開閉に応じた受光部の受光状態を表す検出信号をそれぞれ出力する第1、第2および第3光センサと、第1光センサの検出信号に基づいて、鍵の押鍵の有無を判定する押鍵判定手段と、第2光センサの検出信号に基づいて、ハンマーの回動方向を判定する回動方向判定手段と、第3光センサの検出信号に基づいて、ハンマーの回動速度を算出する回動速度算出手段と、判定された鍵の押鍵の有無およびハンマーの回動方向、ならびに算出されたハンマーの回動速度に基づいて、発音すべき楽音を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このグランド型ピアノの楽音制御装置によれば、鍵の押鍵に伴ってハンマーが支点を中心として回動すると、それに伴い、前後方向に延びるハンマーシャンクにその長さ方向に沿って設けられたシャッタによって、第1〜第3光センサの発光部からの光の光路が開閉され、この開閉に応じて変化する受光部の受光状態を表す検出信号が、第1〜第3光センサから出力される。これらの検出信号のうち、第1光センサの検出信号に基づいて、鍵の押鍵の有無が判定され、第2光センサの検出信号に基づいて、ハンマーの回動方向が判定され、さらに、第3光センサの検出信号に基づいて、ハンマーの回動速度が算出される。そして、これらの鍵の押鍵の有無、ハンマーの回動方向および回動速度に基づいて、発音すべき楽音が制御される。
【0010】
鍵の押鍵の有無とハンマーの回動速度を用いて楽音の発音を制御した場合、演奏表現に応じたハンマーの動き方によっては、例えば、ハンマーの復帰回動中であるにもかかわらず、押鍵に伴う回動中と誤判定されることによって、楽音が発音されるおそれがある。本発明によれば、鍵の押鍵の有無に加え、第2光センサの検出信号に基づくハンマーの回動方向に応じて、楽音を制御するので、ハンマーの回動方向に応じた楽音の発音や止音を適切に行うことができる。以上により、鍵の押鍵の有無、ハンマーの回動方向および回動速度を用いて、発音すべき楽音を適切に制御することができる。
【0011】
また、これらの3つの光センサが互いに分離され、互いに独立して配置されているので、それらの配置の自由度が高められる。このため、第1〜第3光センサを、ハンマーシャンクの長さ方向に沿い、それらの機能に適した位置に配置することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノの楽音制御装置において、第1ないし第3光センサのうち、第3光センサは、支点から最も遠い位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
ハンマーの回動ストロークは、同じ回動角度に対し、支点から遠い位置ほど、より大きくなる。本発明によれば、第3光センサがハンマーの支点から最も遠い位置に配置されているので、大きな検出区間を確保することができる。このため、第3光センサの検出信号を用いて、ハンマーの回動速度を精度良く算出でき、それに基づいて、楽音の制御をより適切に行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のグランド型ピアノの楽音制御装置において、第1ないし第3光センサのうち、第1光センサは、支点に最も近い位置に配置されていることを特徴とする。
【0015】
鍵の押鍵の有無は、離鍵状態からのハンマーの回動角度が小さいタイミングで判定されることが好ましい。これは、鍵の押鍵の有無を表す検出信号に基づき、鍵が離鍵されたタイミングが楽音の止音タイミングとして設定されるからである。本発明によれば、支点に最も近い位置の第1光センサの検出信号を用いて、鍵の押鍵の有無を判定するので、小さなシャッタを用いて、小さな回動ストロークで押鍵の有無を適切に判定することができる。また、シャッタが小さいことで、第1光センサを通過したシャッタが、上方に配置された他の部材と衝突するのを確実に回避することができる。
【0016】
さらに、第3光センサが支点から最も遠い位置に配置される場合には、それによる前述した利点を得ながら、第1光センサと第3光センサの間に配置された第2光センサの検出信号に基づいて、ハンマーの回動方向を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態による楽音制御装置およびこれを適用した消音ピアノの概略構成を示す図である。
【図2】ハンマーおよびシャッタの斜視図である。
【図3】シャッタの側面図である。
【図4】図1の部分斜視図である。
【図5】楽音制御装置の一部を示す図である。
【図6】第1〜第3光センサの回路図である。
【図7】ハンマーの回動時における第1〜第3検出信号の出力状態を表すタイミングチャートである。
【図8】図5のCPUで実行される発音制御処理を示すフローチャートである。
【図9】タッチ検出処理を示すサブルーチンである。
【図10】音量設定処理を示すサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態によるグランド型の消音ピアノ2の概略構成を示している。なお、以下の説明では、消音ピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(図1の右側)を「前」、奥側(図1の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」として、説明を行うものとする。
【0019】
同図に示すように、この消音ピアノ2は、棚板3に筬4を介して載置された複数(例えば88個)の鍵5(1つのみ図示)と、鍵5ごとに設けられたハンマー6と、鍵5の後部上方に設けられたアクション11と、消音機構20と、楽音制御装置1(図5参照)を備えている。この消音ピアノ2では、演奏モードが、ハンマー6による弦Sの打弦によってアコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー6による打弦を阻止した状態で、電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに、切り替えられる。
【0020】
鍵5は、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、筬4に立設されたバランスピン(図示せず)に回動自在に支持されている。
【0021】
アクション11は、ウィッペンレール7に取り付けられており、鍵5の後部上方に配置されている。ウィッペンレール7は、複数の鍵5の全体にわたって左右方向に延びており、筬4の左右の端部とその中間の所定の位置に設けられた複数のブラケット9(1つのみ図示)に渡されている。また、アクション11は、鍵5ごとに設けられたウィッペン12、レペティションレバー13およびジャック14を有している。各ウィッペン12は、その後端部において、ウィッペンレール7に回動自在に取り付けられており、鍵5の後部に載置されている。また、レペティションレバー13およびジャック14は、ウィッペン12に回動自在に取り付けられている。
【0022】
ハンマー6は、前後方向に延びるハンマーシャンク6aと、ハンマーシャンク6aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド6bを有している。また、ハンマー6は、ハンマーシャンク6aの前端部において、ハンマーシャンクレール8にねじ止めされたハンマーシャンクフレンジ6cに、センターピン10を介して回動自在に支持されており、図1に示す離鍵状態では、上述したレペティションレバー13に載置されている。ハンマーシャンクレール8は、複数の鍵5の全体にわたって左右方向に延びており、上述した複数のブラケット9に渡されている。
【0023】
図2に示すように、シャッタ40は、ハンマーシャンク6aに一体に取り付けられており、遮光性を有する合成樹脂などの成形品で一体に構成されており、図3に示すように、板状の本体部40a、本体部40aの左右方向の両端から下方に延びる一対の嵌合部40b,40b、および本体部40aから上方に延びる第1〜3シャッタ部41〜43を有している。
【0024】
一対の嵌合部40b,40bは、互いに向かい合っており、両者の間隔はハンマーシャンク6aの幅とほぼ同じである。
【0025】
第1シャッタ部41は、本体部40aの前部に配置されており、円弧状の2つの前縁41aおよび後縁41bを有する。これらの前縁41aおよび後縁41bは、センターピン10をそれぞれ中心とする、センターピン10からの距離が互いに異なる2つの円弧に沿って、同心状に延びている。
【0026】
第2および第3シャッタ部42,43は、本体部40aの後部に配置され、互いに一体になっており、第2シャッタ部42は、第3シャッタ部43の前側に位置している。第2および第3シャッタ部42,43は、それぞれ矩形状に形成されており、本体部40aからの高さは第3シャッタ部43の方が高い。また、第3シャッタ部43の中央には、矩形状の窓43aが形成されており、窓43aの上縁は第2シャッタ42の上端よりも低い。
【0027】
以上の構成のシャッタ40は、嵌合部40b,40bがハンマーシャンク6aに嵌合し、本体部40aがハンマーシャンク6aに載せられた状態で、ハンマーシャンク6aに取り付けられている。
【0028】
消音機構20は、消音演奏モード時に、ハンマー6による弦Sの打弦を阻止するためのものであり、図1に示すように、ストッパレール21と、ストッパレール21を支持する複数のレール支持部材22(1つのみ図示)と、ストッパレール21を駆動するための駆動ロッド25と、駆動ロッド25を支持する複数のロッド支持部材27(1つのみ図示)と、駆動ロッド25を駆動するための操作レバー(図示せず)を有している。
【0029】
ストッパレール21は、金属製の板材で構成され、複数のハンマー5の全体にわたって、左右方向に延びており、弦Sとハンマー6の間に、ハンマーシャンク6aの後部付近に対向するように配置されている。また、ストッパレール21は、高中音域レールおよび低音域レールに区分されており、これらの高中音域レールおよび低音域レールはそれぞれ、高中音域および低音域の全体にわたって延び、レール支持部材22にねじ止めされている。ストッパレール21の下面には、レール支持部材22に対応する部分を除いて、ゴムまたは発泡ウレタンなどの弾性材料で構成されたクッション材21aが取り付けられている。
【0030】
複数のレール支持部材22は、ブラケット9に対応する位置に配置されている。図1に示すように、各レール支持部材22は、その前端部において、ピン状の支点22aを介して上記のロッド支持部材27に回動自在に取り付けられている。以上の構成により、レール支持部材22は、ストッパレール21とともに、この支点22aを中心として回動自在になっている。
【0031】
駆動ロッド25は、1本の丸棒で構成されており、複数のハンマー6の全体にわたって、左右方向に延びている。駆動ロッド25には、レール支持部材22に対応する位置に、L字状の複数の押圧部26(1つのみ図示)が設けられており、押圧部26は、レール支持部材22のU字状の係合部22bに係合している。
【0032】
複数のロッド支持部材27は、レール支持部材22と同様、ブラケット9に対応する位置に配置されている。各ロッド支持部材27は、その前端部においてハンマーシャンクレール8にねじ止めされるとともに、後端部においてウィッペンレール7にねじ止めされている。ロッド支持部材27には、左右方向に貫通する取付孔(図示せず)が形成されており、この取付孔にレール支持部材22の支点22aを通すことによって、レール支持部材22は、ロッド支持部材27に回動自在に取り付けられている。
【0033】
さらに、ロッド支持部材27の後端部には、金具28が取り付けられ、駆動ロッド25はこの金具28を介し、その軸線を中心として、ロッド支持部材27に回動自在に支持されている。
【0034】
以上の構成の消音機構20では、通常演奏モードで演奏を行う場合、操作レバーは非操作状態に保持される。この状態では、ストッパレール21は、ハンマー6の回動範囲から退避した打弦許容位置に保持される(図1の実線位置)。
【0035】
一方、通常演奏モードから、演奏モードを消音演奏モードに設定するために、操作レバーが操作されると、それに連動して駆動ロッド25が図1の反時計回りに回動する。これにより、駆動ロッド25の押圧部26が、レール支持部材22を介してストッパレール21を下方に押圧することによって、ストッパレール21は、打弦阻止位置に移動し、保持される(図1の2点鎖線位置)。
【0036】
図5に示すように、楽音制御装置1は、第1〜第3光センサ51〜53、スキャン回路54、CPU55、ROM56、RAM57、音源回路58、波形メモリ59、DSP60、D/A変換器61、パワーアンプ62およびスピーカ63で構成されている。
【0037】
第1〜第3光センサ51〜53は、基板70に設けられている。図4に示すように、この基板70は、左右方向に延びており、取付プレート71の開口(図示せず)に嵌められ、これにねじ止めされている。取付プレート71は、その前端部においてハンマーシャンクレール8に回動自在に支持されるとともに、後端部においてロッド支持部材27にねじ止めされており、それにより、基板70は、複数のハンマー6のハンマーシャンク6aの前部を覆った状態で、水平に取り付けられている。
【0038】
基板70には、ハンマー6ごとに、シャッタ40の第1シャッタ部41に対応する位置に、多数の前後方向に延びる長孔状の第1シャッタ通過孔70aが形成され、第2および第3シャッタ部42,43に対応する位置に、前後方向に延びる多数の長孔状の第2シャッタ通過孔70bが形成されている。ハンマー6の回動に伴い、シャッタ40の第1シャッタ部41は第1シャッタ通過孔70aを通過し、第2および第3シャッタ部42,43は第2シャッタ通過孔70bを通過する。
【0039】
第1〜第3光センサ51〜53は、水平な基板70の下面に取り付けられており(図1参照)、互いに同じ高さに配置されている。図6に示すように、第1〜第3光センサ51〜53は、互いに同じ構成のフォトインタラプタで構成されている。第1光センサ51は、各第1シャッタ通過孔70aの左右両側に配置された一対の発光ダイオード51aおよびフォトトランジスタ51bで構成されている。同様に、第2光センサ52は、各第2シャッタ通過孔70bの前部の左右両側に配置された一対の発光ダイオード52aおよびフォトトランジスタ52bで構成され、第3光センサ53は、各第2シャッタ通過孔70bの後部の左右両側に配置された一対の発光ダイオード53aおよびフォトトランジスタ53bで構成されている。
【0040】
発光ダイオード51a〜53aは、pn接合されたダイオードで構成されており、それらのアノードおよびカソードはそれぞれ、基板70に電気的に接続されている。これらの発光ダイオード51a〜53aは、それらのアノードに、CPU55から駆動信号が出力されることによって作動し、その発光面(図示せず)から光を、水平な光路に沿い、フォトトランジスタ51b〜53bに向かって出射する。
【0041】
フォトトランジスタ51b〜53bは、npn接合されたバイポーラトランジスタで構成されており、それらのコレクタおよびエミッタはそれぞれ、基板70に電気的に接続されている。これらのフォトトランジスタ51b〜53bは、それらのベースに相当する受光面(図示せず)で光を受光し、その光量(以下「受光量」という)が所定レベル以上のときに、コレクタ−エミッタ間が導通状態になり、エミッタからHレベル(以下、単に「H」という)の信号が出力される。一方、受光量が所定レベル未満のときに、コレクタ−エミッタ間が非導通状態になり、エミッタからLレベル(以下、単に「L」という)の信号が出力される。第1〜第3光センサ51〜53は、これらのH信号またはL信号を、第1〜第3検出信号SI1〜SI3としてそれぞれ出力する。
【0042】
以上の構成により、鍵5が押鍵されると、鍵5がバランスピンを中心として、図1の時計回りに回動するのに伴い、アクション11の前述したウィッペン12が、鍵5によって突き上げられる。これにより、ウィッペン12は、レペティションレバー13およびジャック14と一緒に上方に回動し、この回動に伴い、ジャック14がハンマー6を突き上げることによって、ハンマー6がセンターピン10を中心として時計回りに回動する。通常演奏モード時には、ストッパレール21が打弦許容位置に位置することによって、ハンマー6のハンマーヘッド6bが弦Sを打弦し、アコースティック音による演奏が行われる。
【0043】
一方、消音演奏モード時には、ストッパレール21が打弦阻止位置に位置することによって、ハンマーヘッド6bが弦Sを打弦する直前で、ハンマーシャンク6aがストッパレール21に当接し、打弦が阻止され、後述するようにして生成された電子音による演奏が行われる。この消音演奏モード時には、ハンマー6の回動に伴い、シャッタ40が第1〜第3光センサ51〜53の光路を開閉し、それに応じた第1〜第3検出信号SI1〜SI3が、スキャン回路54に出力される。
【0044】
図7は、鍵5の押鍵に伴うハンマー6の回動による第1〜第3検出信号SI1〜SI3の出力状態を示している。まず、離鍵状態では、シャッタ40の第1〜第3シャッタ部41〜43が第1〜第3光センサ51〜53の光路を開放することによって、第1〜第3検出信号SI1〜SI3は、ともにHである(タイミングt1以前)。この離鍵状態から、鍵5が押鍵され、ハンマー6が図1の時計回りに回動すると、その直後に、シャッタ40の第1シャッタ部41の上端が第1光センサ51に達することによって、その光路が遮断され、第1検出信号SI1がHからLに立ち下がる(t1)。ハンマー6の回動が進むと、シャッタ40の第3シャッタ部43の上端が第3光センサ53の光路に達することによって、第3検出信号SI3がHからLに立ち下がる(t2)。さらにハンマー6の回動が進むと、シャッタ40の第2シャッタ部42の上端が第2光センサ52の光路に達することによって、第2検出信号SI2がHからLに立ち下がる(t3)。ハンマー6の回動がさらに進み、ハンマーシャンク6aがストッパレール21に当接する付近で、シャッタ40の第3シャッタ部43の窓43aの上縁が第3光センサ53に達することによって、その光路が開放され、第3検出信号SI3がLからHに立ち上がる(t4)。
【0045】
その後、ハンマー6がさらに回動したときに、ハンマーシャンク6aがストッパレール21に当接することによって、ハンマー6が図1の反時計回りに復帰回動し始め、その途中で、シャッタ40の第3シャッタ部43の窓43aの上縁が第3光センサ53に達することによって、その光路が遮断され、第3検出信号SI3がHからLに立ち下がる(t5)。復帰回動がさらに進むと、シャッタ40の第2シャッタ部42が第2光センサ52を通過することによって、第2検出信号SI2がLからHに立ち上がり(t6)、復帰回動がさらに進むと、シャッタ40の第3シャッタ部43が第3光センサ53を通過することによって、第3検出信号SI3がLからHに立ち上がる(t7)。その後、ハンマー5が離鍵位置に復帰する直前で、シャッタ40の第1シャッタ部41が第1光センサ51を通過することによって、第1検出信号SI1がLからHに立ち上がる(t8)。その後、鍵5およびハンマー6は離鍵位置に復帰する。
【0046】
スキャン回路54は、第1〜第3光センサ51〜53から出力された第1〜第3検出信号SI1〜SI3に基づいて、鍵5のオン/オフ情報、およびオンまたはオフされた鍵5を特定するキーナンバ情報を検出するとともに、これらのオン/オフ情報およびキーナンバ情報を、第1〜第3検出信号SI1〜SI3とともに、鍵5の押鍵情報データとしてCPU55に出力する。
【0047】
ROM56は、CPU55で実行される制御プログラムの他、音量などを制御するための固定データなどを記憶している。また、RAM57は、消音ピアノ2の動作状態を表すステータス情報などを一時的に記憶するとともに、CPU55の作業領域としても使用される。
【0048】
音源回路58は、CPU55からの制御信号に従って、音源波形データおよびエンベロープデータを波形メモリ59から読み出し、この読み出した音源波形データにエンベロープデータを付加することによって、原音となる楽音信号を生成する。DSP60は、音源回路58によって生成された楽音信号に所定の音響効果を付加する。D/A変換器61は、DSP60によって音響効果が付加された楽音信号を、デジタル信号からアナログ信号に変換する。パワーアンプ62は、変換されたアナログ信号を所定の利得で増幅し、スピーカ63は、増幅されたアナログ信号を再生し、電子的な楽音として放音する。
【0049】
CPU55は、第1〜第3光センサ51〜53の第1〜第3検出信号SI1〜SI3に応じて、楽音の発音タイミングおよび止音タイミングを設定するとともに、楽音の音量を設定するなどの発音制御処理を実行する。なお、本実施形態では、CPU55が、押鍵判定手段、回動方向判定手段、回動速度算出手段および制御手段に相当する。
【0050】
図8は、CPU55で実行される発音制御処理のフローチャートである。この処理は、88鍵すべての鍵5について順次、実行される。本処理では、まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、鍵5のキーナンバn(n=1〜88)が値88よりも大きいか否かを判別する。このキーナンバnは、最低音から高音側に向かって連続する番号を各鍵5に割り当てたものであり、最低音の鍵5は「1」に、最高音の鍵5は「88」に設定されている。
【0051】
この判別結果がNOのときには、今回のキーナンバnに対する発音タイミングおよび止音タイミングなどを含むタッチ検出処理を行う(ステップ2)。次いで、キーナンバnをインクリメントし(ステップ3)、本処理を終了する。
【0052】
一方、前記ステップ1の判別結果がYESのときには、88鍵すべてについてタッチ検出処理が終了したとして、キーナンバnを値1に初期化し(ステップ4)、本処理を終了する。
【0053】
上記のタッチ検出処理は、図9に示すサブルーチンに従って行われる。本処理では、まず、ステップ11において、第1光センサ51の第1検出信号SI1がLであり、かつ前回と今回の間で、第3光センサ53の第3検出信号SI3がHからLに変化したか否かを判別する。この判別結果がYESで、第3シャッタ部43によって第3光センサ53の光路を遮断した直後のタイミングのとき(図7のt2またはt5)には、楽音の音量を設定する(ステップ12)。
【0054】
この音量設定処理は、図10に示すサブルーチンに従って行われる。本処理では、まず、ステップ21において、ハンマー6の回動速度であるベロシティVを算出する。具体的には、まず、第3検出信号SI3がLに変化したときからHに変化するまでの時間(図7のt2−t4間またはt5−t7間)を算出する。次に、第3シャッタ部43の窓43aよりも上部の長さD(図3参照)を、算出した時間で除算することによって、ベロシティVを算出する。そして、算出したベロシティVに基づいて、音量を設定し(ステップ22)、本処理を終了する。
【0055】
図9に戻り、前記ステップ12に続くステップ13では、第2検出信号SI2がLであるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、ハンマー6が押鍵に伴う弦S側への回動中であると判定し(図7のt4)、発音フラグF_MSTRを「1」にセットした(ステップ14)後、本処理を終了する。このように、発音フラグF_MSTRが「1」にセットされると、発音を開始させるための制御信号が音源回路58に出力されることによって、決定した音量に基づく楽音の発音が開始される。
【0056】
一方、ステップ13の判別結果がNOのときには、ハンマー6が弦Sと反対側への復帰回動中であると判定し(図7のt7)、本処理をそのまま終了する。これにより、楽音の再発音が禁止される。
【0057】
一方、前記ステップ11の判別結果がNOのときには、今回と前回の間で、第1検出信号SI1がLからHに変化し、かつ第2および第3検出信号SI2,SI3がいずれもHであるか否かを判別する(ステップ15)。この判別結果がNOのときには、本処理を終了する。
【0058】
また、ステップ15の判別結果がYESのとき、すなわち、ハンマー6の復帰回動に伴い、第1シャッタ部41が第1光センサ51を通過した直後のタイミング(図7のt8)のときには、楽音を止音すべきタイミングであると判定し、発音フラグF_MSTRを「0」にリセットした(ステップ16)後、本処理を終了する。これにより、楽音を止音させるための制御信号が音源回路58に出力されることによって、楽音が止音される。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、第1〜第3光センサ51〜53が前後方向に沿って、互いに同じ高さに配置されているので、ハンマー6の上方の空間が狭い場合においても、ハンマー6の回動時に、ハンマーシャンク6aが第1〜第3光センサ51〜53に接触したり、第1〜第3光センサ51〜53を通過したシャッタ40が上方のピアノ本体に接触したりするなどの支障を生じることなく、シャッタ40をハンマーシャンク6aに取り付けることができる。
【0060】
また、センターピン10に最も近い位置の第1光センサ51の第1検出信号SI1を用いて、鍵5の押鍵の有無を判定するので、小さな第1シャッタ部41を用いて、小さな回動ストロークで押鍵の有無を適切に判定することができる。さらに、第1シャッタ部41が小さいことで、第1光センサ51を通過したシャッタ40が、上方に配置された他の部材と衝突するのを確実に回避することができる。
【0061】
さらに、第3光センサ53がセンターピン10から最も遠い位置に配置されているので、より大きな検出区間を確保でき、それにより、第3検出信号SI3を用いて、ベロシティVを精度良く算出することができる。
【0062】
また、第1検出信号SI1に基づく鍵5の押鍵の有無に加え、第2検出信号SI2に基づくハンマー6の回動方向に応じて、楽音を制御するので、ハンマー6の回動方向に応じた楽音の発音や止音を適切に行うことができる。
【0063】
以上により、鍵5の押鍵の有無、ハンマー6の回動方向およびベロシティVを用いて、発音すべき楽音を適切に制御することができる。
【0064】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1〜第3光センサ51〜53を、互いに同じ高さに配置しているが、これに限らず、前後方向に沿って斜めに配置してもよい。その場合、第3光センサ53側ほど、より上方に配置することが好ましく、より詳細には、ハンマーが弦を打弦する直前のハンマーシャンクと平行になるように配置することが好ましい。これにより、ハンマーの回動時に、ハンマーシャンクが第1〜第3光センサに接触したり、第1〜第3光センサを通過したシャッタが上方に配置された他の部材に接触したりするのを確実に回避することができる。
【0065】
また、実施形態では、光センサとして、発光ダイオードおよびフォトトランジスタからなるフォトインタラプタを用いているが、他のタイプの適当な光センサを用いてもよく、例えば、発光部をレーザダイオードなどで構成し、受光部をフォトダイオードなどで構成してもよい。
【0066】
さらに、実施形態は、本発明を消音ピアノに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、自動演奏ピアノや電子ピアノなどの他のタイプの鍵盤楽器にも適用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 楽音制御装置
2 消音ピアノ(グランド型ピアノ)
5 鍵
6 ハンマー
6a ハンマーシャンク
10 センターピン(支点)
40 シャッタ
51 第1光センサ
51a 発光ダイオード(発光部)
51b フォトトランジスタ(受光部)
52 第2光センサ
52a 発光ダイオード(発光部)
52b フォトトランジスタ(受光部)
53 第3光センサ
53a 発光ダイオード(発光部)
53b フォトトランジスタ(受光部)
55 CPU(押鍵判定手段、回動方向判定手段、回動速度算出手段および制御手段)
SI1 第1検出信号(第1光センサの検出信号)
SI2 第2検出信号(第2光センサの検出信号)
SI3 第3検出信号(第3光センサの検出信号)
V ベロシティ(ハンマーの回動速度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動自在の鍵と、前後方向に延びかつ上方に突出するシャッタが一体に設けられたハンマーシャンクを有し、前記鍵の押鍵に伴い、支点を中心として回動するハンマーと、を有するグランド型ピアノの楽音制御装置であって、
前記ハンマーの上方に設けられ、前記ハンマーシャンクの長さ方向に沿って配置されるとともに、前記シャッタの回動経路を間にした一方の側に配置され、光を出射する発光部と、前記回動経路の他方の側に配置され、前記発光部からの光を受光する受光部とをそれぞれ有し、前記回動経路を回動する前記シャッタによる、前記発光部からの光の光路の開閉に応じた前記受光部の受光状態を表す検出信号をそれぞれ出力する第1、第2および第3光センサと、
前記第1光センサの検出信号に基づいて、前記鍵の押鍵の有無を判定する押鍵判定手段と、
前記第2光センサの検出信号に基づいて、前記ハンマーの回動方向を判定する回動方向判定手段と、
前記第3光センサの検出信号に基づいて、前記ハンマーの回動速度を算出する回動速度算出手段と、
前記判定された前記鍵の押鍵の有無および前記ハンマーの回動方向、ならびに前記算出された前記ハンマーの回動速度に基づいて、発音すべき楽音を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするグランド型ピアノの楽音制御装置。
【請求項2】
前記第1ないし第3光センサのうち、前記第3光センサは、前記支点から最も遠い位置に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノの楽音制御装置。
【請求項3】
前記第1ないし第3光センサのうち、前記第1光センサは、前記支点に最も近い位置に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のグランド型ピアノの楽音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−224028(P2010−224028A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68627(P2009−68627)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】