説明

グリース塗布装置

【課題】弱手作業者や片手作業者であっても使用可能なグリース塗布装置を提供する。
【解決手段】図(a)に示すように、作業者は手52の指53で棒状ワーク10の細幅部14を摘んで、スライドブロック25のワーク載せ部26及び補助ワーク載せ部27に載せる。図(b)に示すように、指53で棒状ワーク10の細幅部14を摘んだままで、手52で棒状ワーク10を矢印(4)のように押す。棒状ワーク10が所定位置まで前進したら、棒状ワーク10に適量のグリースが塗布される。塗布が終わったら、棒状ワーク10を矢印(4)とは反対方向に引き、スライドブロック25から外す。これで、一連の塗布作業が終了する。
【効果】一連の作業は、片手で実施することができる。片手作業者であっても作業を行うことができる。加えて、棒状ワークはスライドブロックに載せる程度でよく、スライドブロックに押さえつける必要はない。弱手作業者であっても作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状ワークに適量のグリースを塗布するグリース塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から棒状ワークに筆や刷毛でグリースを塗布することが行われてきた。
しかし、塗布量に個人差が出やすく、塗布量が過剰であるとグリースが流れて汚れの原因になり、塗布量が過少であると膜厚不足から摩耗が進行するという不具合が起こる。
そこで、棒状ワークに適量のグリースを塗布するグリース塗布装置が提案された(例えば、特許文献1(図16)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図7は従来のグリース塗布装置の分解斜視図であり、グリース塗布装置100は、有底筒状のトレイ101と、このトレイ101に回転軸102を介して取付けられトレイ101に溜められているグリース103を掻き均すスクレーパ104と、トレイ101の底を貫通して昇降する複数のピン105、106と、多数の穴107が開けられトレイ101の上面にビス108で固定される五角形のプレート109と、このプレート109の上面に設けられ棒状ワーク110の位置を決める位置決め片111、112とからなる。
【0004】
先ず、ピン105、106を、上面がトレイ101の底面に合致するまで下げる。この状態で、スクレーパ104でグリース103の上面を掻き均して平にする。これでグリース103の厚さが、トレイ101の底面からスクレーパ104の下面までの距離に合致し、一定になる。
一方、プレート109に棒状ワーク110を載せておく。
【0005】
次に、ピン105、106を上昇させる。すると、ピン105、106の上端にグリース103B、103Bが載る。このグリース103B、103Bの厚さは一定である。
さらに、複数のピン105、106の先端が穴107を貫通し、棒状ワーク110を貫通するまで、ピン105、106を上昇させる。
【0006】
ピン105、106には一定の厚さのグリース103Bが載っているため、これらのグリース103Bが棒状ワーク110の穴113に付着する。
ピン105、106を下げ、棒状ワーク110をプレート109から外すことで、グリース塗布作業が終了する。
【0007】
ところで、作業者は、棒状ワーク110は、矢印(1)のように下げてプレート109に当て、次に矢印(2)のように位置決め片111、112に当て、このまま押さえ続ける必要がある。
この状態の棒状ワーク110に、ピン105、106が上向きに貫通すると、グリース103Bの粘性のため、棒状ワーク110に矢印(3)のような上向き力が加わる。
【0008】
そこで、作業者は、上向き力に負けないように、強くプレート109を押さえ続ける必要がある。
さらには、棒状ワーク110が長尺材であって、位置決め片111から位置決め片112が離れているときには、両手を使って棒状ワーク110を、位置決め片111、112に当てる必要がある。
【0009】
ところで、近年、グリース塗布のような軽作業は、健常者の他、手指機能が弱い作業者(以下、弱手作業者と記す。)や片手作業者に委ねることが、社会的要請になってきた。
しかし、特許文献1のグリース塗布装置100では、弱手作業者や片手作業者は、使いこなすことができない。
そこで、弱手作業者や片手作業者であっても使用可能なグリース塗布装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−173496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、弱手作業者や片手作業者であっても使用可能なグリース塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、棒状ワークに適量のグリースを塗布するグリース塗布装置であって、
このグリース塗布装置は、機台と、この機台の一端に起設され前記棒状ワークの先端部を受け入れる挿入穴を備えている固定ブロックと、この固定ブロックに設けられ前記棒状ワークへグリースを吐出するグリース吐出口と、前記固定ブロックに向かって移動自在に前記機台に設けられ前記棒状ワークを載せるワーク載せ部が上面に備えられているスライドブロックと、前記固定ブロックに設けられ前記スライドブロック上の前記棒状ワークが所定位置まで移動してきたことを検出する検出器と、この検出器の検出信号に基づいて前記グリース吐出口へ適量のグリースを供給するグリース供給手段と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、棒状ワークは長手方向途中に広幅部を有し、ワーク載せ部に広幅部を収納する凹部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、ワーク載せ部にもグリース吐出口が設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明では、スライドブロックには、ワーク載せ部と共に棒状ワークを支える補助ワーク載せ部が少なくとも1個設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、作業者は、棒状ワークを摘んで、スライドブロックのワーク載せ部に載せる。次に、摘んでいる棒状ワークを棒状ワークの長手方向へ押すことで、スライドブロックを前進させる。前進する棒状ワークが検出器で検出されたら、適量のグリースが棒状ワークに供給される。作業者は、摘んでいる棒状ワークを引いて、スライドブロックを元の位置まで移動させる。次に、棒状ワークをスライドブロックから外す。
【0017】
一連の作業は、片手で実施することができる。したがって、片手作業者であっても作業を行うことができる。
加えて、棒状ワークはスライドブロックに載せる程度でよく、スライドブロックに押さえつける必要はない。したがって、弱手作業者であっても作業を行うことができる。
本発明によれば、弱手作業者や片手作業者であっても使用可能なグリース塗布装置を提供することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、棒状ワークは長手方向途中に広幅部を有し、ワーク載せ部に広幅部を収納する凹部が設けられている。凹部に広幅部が嵌るため、棒状ワークを押し引きするときに、スライドブロックが簡単に移動可能となり、作業がより容易になる。
【0019】
請求項3に係る発明では、ワーク載せ部にもグリース吐出口が設けられている。棒状ワークの複数箇所にグリースを塗布することができる。すなわち、複雑な形状の棒状ワークにグリースを塗布することができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、スライドブロックに、ワーク載せ部と共に棒状ワークを支える補助ワーク載せ部が少なくとも1個設けた。棒状ワークの撓みを防ぐことができる。棒状ワークを複数箇所で支持することができため、長尺の棒状ワークを取り扱うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】棒状ワークの平面図である。
【図2】棒状ワークの側面図である。
【図3】本発明に係るグリース塗布装置の断面図である。
【図4】本発明に係るグリース塗布装置の平面図である。
【図5】グリース供給手段の概念図である。
【図6】グリース塗布装置の作用説明図である。
【図7】従来のグリース塗布装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0023】
図1に示す棒状ワーク10は、例えば施錠機構の一要素であり、細長いプレート11の途中に、他の部位より幅が広い広幅部12を有し、この広幅部12の前後で折り曲げられ、先端部13が三角形状を呈し、後端が細幅部14となった板金プレス品である。
【0024】
図2に示すように、先端部13の先端に、下へ折り曲げられた下げ壁部15が設けられ、また、広幅部12に上へ折り曲げられた起立壁部16が設けられている。
このような長尺の棒状ワーク10に適量のグリースを塗布する装置を次に説明する。
【0025】
図3に示されるように、グリース塗布装置20は、機台21と、この機台21の一端に起設され棒状ワークの先端部(図2、符号13)を受け入れる挿入穴22を備えている固定ブロック23と、この固定ブロック23に設けられ棒状ワークへグリースを吐出するグリース吐出口(図5、符号41〜44)と、機台21上に固定ブロック23に向かって敷設されたレール24と、このレール24に移動自在に設けられているスライドブロック25と、このスライドブロック25の上部に形成されているワーク載せ部26及び補助ワーク載せ部27とを主要素とする。
【0026】
固定ブロック23は、機台21に固定されているブロックであり、挿入穴22等を加工するために、複数の小さいブロックに分割したものを組み合わせたものであってもよい。
【0027】
図4に示されるように、レール24は、機台21の中央を挿入穴22に向かって延ばされている。このレール24に沿って移動するスライドブロック25の幅と固定ブロック23の幅とを揃えることが望ましい。そして、スライドブロック25には、凹部28を含むワーク載せ部26と、補助ワーク載せ部27とがレール24の長手方向に並ぶように設けられている。
【0028】
次に、グリース供給手段を説明する。
図5に示されるように、グリース供給手段30は、グリースを圧送するグリースポンプ31と、圧送されたグリースを適宜分配する分配管32と、この分配管32から延びる複数本(この例では4本)のフレキシブルホース33、34、35、36とを主要素とする。
【0029】
フレキシブルホース33を通じて供給されるグリースは固定ブロック内を通って棒状ワークの先端部13の上面に面するグリース吐出口41へ供給される。
フレキシブルホース34を通じて供給されるグリースは固定ブロック内を通って棒状ワークの先端部13の下面2箇所に面するグリース吐出口42、43及び下げ壁部15に面するグリース吐出口44へ供給される。
【0030】
フレキシブルホース35を通じて供給されるグリースはスライドブロック内を通って棒状ワークの広幅部12の一方の起立壁16に面するグリース吐出口45へ供給される。
フレキシブルホース36を通じて供給されるグリースはスライドブロック内を通って棒状ワークの広幅部12の他方の起立壁16に面するグリース吐出口46へ供給される。
すなわち、この例では、グリース吐出口41〜46は全部で6箇所になる。
【0031】
なお、これらのうちでグリース吐出口46は、図3に示すようにワーク載せ部26に開口することで、起立壁部16に面している。図5に示すグリース吐出口45もワーク載せ部26に開口している。
【0032】
検出器48は固定ブロックに設けられており棒状ワーク10を検出する。
この検出器48で棒状ワーク10が所定の位置に到達したことが検出されると、この検出信号を受けた制御部49は、グリースポンプ31を所定時間だけ運転する。運転の結果、所定量のグリースが塗布され、適量のグリース51が棒状ワーク10の複数箇所に塗布される。
【0033】
検出器48は接触式スイッチ又は非接触式スイッチであっても良い。スイッチであれば、安価であると共に、制御部49内部の回路を直接的に切断状態/通電状態にすることができ、回路が簡単になる。
【0034】
接触式スイッチは、押しボタンスイッチ、マイクロリミットスイッチが適当である。ただし、接触痕を嫌う場合には使えない。
非接触式スイッチは、近接スイッチが適当である。近接スイッチは金属体(ワーク)が接近すると磁界が変化する現象を利用して物体を検知する。接触痕は付かない。ただし、ワークは金属に限られる。
【0035】
なお、検出器48は発光ダイオードと受光ダイオードとを内蔵したセンサであってもよい。発光ダイオードから赤外線を照射し、この赤外線が棒状ワークの下げ壁部15に当たったら、反射赤外線が受光ダイオードに入り、物体を検知する。ワークは非金属であってもよい。
【0036】
以上の構成からなるグリース塗布装置の作用を次に説明する。
図6(a)に示すように、作業者は、手52の指53で棒状ワーク10の細幅部14を摘んで、スライドブロック25のワーク載せ部26及び補助ワーク載せ部27に載せる。このとき、凹部28に広幅部12を嵌めるようにする。
次に、(b)に示すように、指53で棒状ワーク10の細幅部14を摘んだままで、手52で棒状ワーク10を矢印(4)のように(すなわち、棒状ワーク10の長手方向へ)押す。
【0037】
棒状ワーク10が所定位置まで前進したら、検出器(図5、符号48)が棒状ワーク10を検出し、6箇所に適量のグリースを塗布する。塗布が終わったら、棒状ワーク10を矢印(4)とは反対方向に引き、スライドブロック25から外す。これで、一連の塗布作業が終了する。
【0038】
図6(a)、(b)で説明したように、一連の作業は、片手で実施することができる。したがって、片手作業者であってもグリース塗布作業を行うことができる。
加えて、棒状ワークはスライドブロックに載せる程度でよく、スライドブロックに押さえつける必要はない。したがって、弱手作業者であってもグリース塗布作業を行うことができる。
本発明によれば、弱手作業者や片手作業者であっても使用可能なグリース塗布装置を提供することができる。
【0039】
なお、棒状ワーク10に広幅部12がある場合には、本実施例のように、広幅部12に対応する凹部28をワーク載せ部26に設けることが推奨される。
凹部に広幅部が嵌るため、棒状ワークを押し引きするときに、スライドブロックが簡単に移動可能となり、作業がより容易になるからである。
【0040】
また、棒状ワーク10が短い場合には、補助ワーク載せ部27は省くことができる。しかし、棒状ワーク10が長い場合には、ワーク載せ部26と、補助ワーク載せ部27との両方で支えることで、棒状ワーク10の撓みを防止することができ、方向を定めることができる。
棒状ワーク10が更に長い場合には、補助ワーク載せ部27の数を増加すればよい。
【0041】
また、グリース塗布部位が、棒状ワーク10の先端部13に集中しているときには、図5に示すフレキシブルホース35、36及びグリース塗布口45、46は不要となる。この場合は、固定ブロックにグリース塗布口41〜44を集中配置すればよい。
しかし、グリース塗布部位が本実施例のように先端部13とこの先端部より後方の広幅部12に分散している場合には、スライドブロック25にもグリース塗布口45、46を設ける。そうすることにより、複雑な形状の棒状ワークに広範囲にグリースを塗布することができる。
【0042】
本発明のグリース塗布装置は、片手作業者や弱手作業者に好適であるが、健常者に使用させることは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のグリース塗布装置は、片手作業者や弱手作業者に好適である。
【符号の説明】
【0044】
10…棒状ワーク、12…広幅部、13…先端部、16…起立壁部、20…グリース塗布装置、21…機台、22…挿入穴、23…固定ブロック、25…スライドブロック、26…ワーク載せ部、27…補助ワーク載せ部、28…凹部、30…グリース供給手段、31…グリースポンプ、41〜46…グリース吐出口、48…検出器、49…制御部、51…グリース、52…手、53…指。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状ワークに適量のグリースを塗布するグリース塗布装置であって、
このグリース塗布装置は、機台と、この機台の一端に起設され前記棒状ワークの先端部を受け入れる挿入穴を備えている固定ブロックと、この固定ブロックに設けられ前記棒状ワークへグリースを吐出するグリース吐出口と、前記固定ブロックに向かって移動自在に前記機台に設けられ前記棒状ワークを載せるワーク載せ部が上面に備えられているスライドブロックと、前記固定ブロックに設けられ前記スライドブロック上の前記棒状ワークが所定位置まで移動してきたことを検出する検出器と、この検出器の検出信号に基づいて前記グリース吐出口へ適量のグリースを供給するグリース供給手段と、からなることを特徴とするグリース塗布装置。
【請求項2】
前記棒状ワークは長手方向途中に広幅部を有し、前記ワーク載せ部に前記広幅部を収納する凹部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のグリース塗布装置。
【請求項3】
前記ワーク載せ部にもグリース吐出口が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のグリース塗布装置。
【請求項4】
前記スライドブロックには、前記ワーク載せ部と共に棒状ワークを支える補助ワーク載せ部が少なくとも1個設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載のグリース塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−177671(P2011−177671A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45806(P2010−45806)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(507369936)ホンダ太陽株式会社 (17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】