説明

ケイ素含有材料用の熱/環境バリヤーコーティング

【課題】 ケイ素の融解温度を超える使用温度でケイ素含有材料を使用できるようにするケイ素含有材料用の改良T/EBC系の提供。
【解決手段】 ガスタービンエンジンの苛酷な熱環境に暴露される物品(10)のような、ケイ素含有材料からなる基材(12)を含む物品(10)。物品(10)はさらに、環境バリヤー層(16)(例えば、アルカリ土類金属アルミノケイ酸塩)と、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物0.5〜10モル%で安定化したハフニアを含むトップコート(18)とを含む。物品(10)は、環境バリヤー層(16)とトップコート(18)との間に遷移層(20)を任意に含む。ケイ素含有材料からなる基材(12)上に熱/環境バリヤーコーティング(14)を設けるための方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンの苛酷な熱環境のような高温環境に暴露される部品の保護に適したコーティング系に関する。さらに具体的には、本発明は、ケイ素を含む材料からなる基材用の熱/環境バリヤーコーティング系に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンに関しては、効率を高めるため作動温度の高温化が求められている。しかし、作動温度の上昇に伴って、それに応じてエンジンの部品の高温耐久性も高める必要がある。鉄基、ニッケル基及びコバルト基超合金の処方によって高温性能は大幅に向上してきた。ガスタービンエンジンの部品には超合金が広く使われているが、別種の材料も提案されている。ケイ素を含む材料、特に炭化ケイ素(SiC)を母材及び/又は補強材とするものが、ガスタービンエンジンの燃焼器その他のホットセクション部品のような高温用途に検討されている。
【0003】
多くの用途では、保護コーティングがSi含有材料に有益である。例えば、適当な遮熱層による保護は作動温度及び材料中の温度勾配を低下させる。さらに、かかるコーティングは、腐食性含水環境中でのSi含有材料の劣化(即ち、揮発性水酸化ケイ素(Si(OH))生成物の生成)に関する主な機構を抑制することによって環境保護を与えることもある。
【0004】
したがって、Si含有材料用の熱バリヤーコーティング系は、低い熱伝導率を有するだけでなく、水蒸気を含む高温環境中で安定であるべきである。コーティング材料に関する他の重要な性質には、Si含有材料と適合した熱膨張率(CTE)、オキシダントに対する低い透過性、並びにSi含有材料及び酸化で生じるシリカスケールとの化学的適合性がある。その結果、Si含有材料からなるガスタービンエンジン部品用の好適な保護コーティングは、熱バリヤーとして役立つと同時に環境保護をもたらすという二重の機能をもつ。かかる二重機能をもつコーティング系は熱/環境バリヤーコーティング(T/EBC)系とも呼ばれる。
【0005】
様々な単層及び多層T/EBC系が検討されているが、いずれもSi含有材料との適合性に係る上述の要件及び性質に関して短所を有する。例えば、イットリアで部分的又は完全に安定化したジルコニア(YSZ)からなる熱バリヤー層としてのコーティングは、シリカを含まないので単独で優れた耐環境性を示す。しかし、CTEの不整合(SiC/SiC複合材が約4.9ppm/℃であるのに対してYSZは約10ppm/℃である)のため、YSZはSi含有材料(SiC又はケイ素)にうまく付着しない。このようなCTEの差を補償するため、Si含有基材上のYSZ用のボンドコートとしてムライト(3Al・2SiO)が提案されている(ムライトのCTEは約5.5ppm/℃である)。しかしムライトは、水蒸気が存在すると、高温で著しいシリカ活性及び揮発を示す。
【0006】
また、最高2400°F(約1315℃)の温度に暴露されるSi含有材料に好適なアルミノケイ酸バリウムストロンチウム(BSAS)コーティングも提案されている。BSASは、優れた環境保護をもたらすと共に、低い熱伝導率によって良好な遮熱特性を示す。しかし、BSASの融解温度(約1700℃)に近い使用温度では、BSAS保護コーティングは遮熱トップコートを必要とする。BSASボンドコート上にかかるトップコートを加えると、T/EBC系全体の厚さが著しく増大しかねない。使用温度が(ケイ素に関する約2560°F(約1404℃)の融解温度で制限される)Si含有材料の熱的性能を超えて上昇し、表面温度が(3100°F又は約1704℃まで)上昇すると、大きな温度勾配に耐え得るさらに厚いコーティングが必要となる。コーティングの厚さの増加に伴って、個々のコーティング層と基材との間のCTE不整合に起因するひずみエネルギーも増大し、そのためコーティング系の剥離及び剥落を引き起こすことがある。翼形部のような部品上にEB−PVD法でトップ層を施工すると、柱状の耐ひずみ性ミクロ組織を有するトップコートが得られる。これは、応力を低減させてひずみエネルギーを部分的に解放し、T/EBCの耐久性を高めるのに役立つ。しかし、高い表面温度はトップコートの急激な焼結を引き起し、そのため耐ひずみ性ミクロ組織の減少並びに水平方向及び厚さ方向の亀裂の発生を生じることがある。
【特許文献1】米国特許第5641440号明細書
【特許文献2】米国特許第5985470号明細書
【特許文献3】米国特許第6129954号明細書
【特許文献4】米国特許第6197424号明細書
【特許文献5】米国特許第6352790号明細書
【特許文献6】米国特許第6365288号明細書
【特許文献7】米国特許第6387456号明細書
【特許文献8】米国特許第6444335号明細書
【特許文献9】米国特許第6485848号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0066578号明細書
【特許文献11】米国特許第6558814号明細書
【特許文献12】米国特許第6565990号明細書
【特許文献13】米国特許第6602356号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2003/0152797号明細書
【特許文献15】米国特許第6607852号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2003/0157361号明細書
【特許文献17】米国特許第6627323号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2003/0207155号明細書
【特許文献19】米国特許第6699607号明細書
【特許文献20】米国特許第6730422号明細書
【特許文献21】米国特許第6733907号明細書
【特許文献22】米国特許第6733908号明細書
【特許文献23】米国特許第6740364号明細書
【特許文献24】米国特許出願公開第2004/0115471号明細書
【特許文献25】米国特許第6759151号明細書
【特許文献26】米国特許第6787195号明細書
【特許文献27】米国特許出願公開第2004/0175597号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、ケイ素の融解温度を超える使用温度でケイ素含有材料を使用できるようにするケイ素含有材料用の改良T/EBC系に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、ケイ素含有材料からなる基材、基材に重なる環境バリヤー層、並びに環境バリヤー層に重なるトップコートであって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含むトップコートを含んでなる物品に関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、ケイ素含有材料からなる基材、基材に重なる環境バリヤー層、環境バリヤー層に重なる遷移層、並びに遷移層に重なるトップコートであって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含むトップコートを含んでなる物品に関する。
【0010】
本発明はまた、ケイ素含有材料からなる基材と、その表面に熱/環境バリヤーコーティング系とを含むガスタービンエンジン部品であって、熱/環境バリヤーコーティング系は、基材に重なる厚さ約25〜約500μmの環境バリヤー層と、任意には環境バリヤー層に重なる厚さ約25〜約500μmの上述のような遷移層と、環境バリヤー層及び任意の遷移層に重なるトップコートであって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含むと共に、約12.5〜約1250μmの厚さを有するトップコートとを含んでなるガスタービンエンジン部品にも関する。
【0011】
本発明はまた、ケイ素含有材料からなる基材上に熱/環境バリヤーコーティングを設けるための方法であって、
a)基材に重なる厚さ約25〜約500μmの環境バリヤー層を形成し、
b)任意には、約25〜約500μmの厚さを有する遷移層を環境バリヤー層上に形成し、
c)環境バリヤー層及び任意の遷移層に重なるトップコートであって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含むと共に、約12.5〜約1250μmの厚さを有するトップコートを形成する
ことを含んでなる方法にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書中で用いる「含む」という用語は、本発明において各種組成物、化合物、部品、層、段階などを一緒に用いることができることを意味する。したがって、「含む」という用語は、さらに限定的な「から実質的になる」及び「からなる」という用語を包含する。
【0013】
本明細書中で用いる量、部、比及びパーセントは、特記しない限り、すべて重量を基準としたものである。
【0014】
本発明は、一般に、ケイ素含有材料からなる基材、特にかかる基材を含む物品でガスタービンエンジンの苛酷な熱環境を始めとする高温に暴露される物品のためのコーティング系を提供する。基材は、通例、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上からなる母材を有する複合材、及び炭化ケイ素母材と窒化ケイ素母材とケイ素母材の1種以上を炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上で補強した複合材からなる群から選択される材料からなる。かかる材料の例には、非金属母材中に炭化ケイ素、窒化ケイ素及び/又はケイ素粒子を補強材として分散させたもの、並びに炭化ケイ素、窒化ケイ素及び/又はケイ素を含む母材を有するもの、特に炭化ケイ素、窒化ケイ素及び/又はケイ素を補強材及び母材の両方として使用した複合材料(例えば、SiC/Sicセラミック母材複合材(CMC))がある。
【0015】
本発明は、一般に250ミクロン以上程度の厚い保護コーティングを必要とする高い使用温度で向上した機械的健全性を示す熱/環境バリヤーコーティング(T/EBC)系に関する。T/EBC系は、Si含有材料の表面に重なる環境バリヤー層と、内層に重なる遮熱外層又はトップコートとを含む。トップコートは、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含む。一実施形態では、環境バリヤー層とトップコートとの間に遷移層が設けられる。遷移層は、環境バリヤー層のCTEよりも高いがトップコートのCTEよりも低いCTEを有しており、したがって環境バリヤー層とトップコート及び/又は他のコーティング層との間のCTEの差を補償する。加えて遷移層は、高温での層材料間の相互作用を防止するための、環境バリヤー層とトップコートとの間の化学バリヤーとして有用である。安定化ハフニアを含むトップコートは、Si含有基材及びコーティング系の他の下層に熱的保護を与える。最後に、遷移層は同時に環境バリヤー層とトップコートとの間にCTE遷移をもたらす熱バリヤー層としても有用である。
【0016】
本発明の別の実施形態では、上述のように傾斜組成を有するT/EBC系は、Si含有材料用の他のコーティング系に比べて向上した機械的健全性を示し、その結果、特に約250μm以上の総合コーティング厚さで存在する場合、約2000℃までの温度でSi含有基材に熱的保護及び環境保護を与える。
【0017】
本発明は一般に、比較的高い温度で特徴づけられる環境中で動作し、したがって激しい熱サイクルや熱応力、酸化及び腐食にさらされる部品に適用できる。かかる部品の例としては、ガスタービンエンジンの燃焼器部品、高圧タービン静翼その他のホットセクション部品がある。本発明を例示する目的で、ホットセクション部品10の表面領域12を図1に示す。部品10、又は部品10の少なくとも表面領域12は、SiC/SiC CMCのようなケイ素含有材料で形成されているが、本発明は一般に任意の形態でケイ素を含む他の材料にも適用できる。
【0018】
図1に示すように、部品10の表面領域12は、遮熱トップコート18を含む多層T/EBC系14で保護される。コーティング系14は、その下の表面領域12に環境保護をもたらすと共に、部品10並びにコーティング系14の内層16及び20の作動温度を下げて、それ以外に可能な温度よりも高い高温環境下で部品10が存続できるようにする。トップコート18に関する好適な厚さ範囲は、個々の用途に応じて約12.5〜約1250μm(約0.0005〜約0.05インチ)であり、典型的な範囲は約125〜約500μm(約0.005〜約0.02インチ)である。
【0019】
トップコート18は、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含む。理論に束縛されるものではないが、ハフニアはトップコート中にしばしば存在するイットリア安定化ジルコニアよりも低いCTEを有しており、この低いCTEはT/EBC系の総合サイクル耐久性に有益であると考えられる。また、ハフニアイオンはジルコニアイオンより重く、低い拡散速度を有するので、ハフニアを含むコーティングは焼結に対する抵抗性が高いと予想される。タービンエンジンの翼形部のような用途には、トップコートはエンジンを通過する小さい粒子によるエロージョンに対して良好な抵抗性を有することが望ましいことが多い。また、トップコートは大きい粒子(例えば、燃焼器内のTBCから剥がれ落ちたプラズマ溶射YSZ粒子からなる小片)の衝撃に起因する破壊にも抵抗性を有するべきである。単斜晶系及び正方晶系のハフニア結晶構造は、ハフニアの立方晶系結晶構造に比べ、高い破壊靭性並びに良好な耐エロージョン性及び耐衝撃性を有している。本発明では、金属酸化物安定剤の量を少なくして所望の正方晶系結晶構造又は単斜晶系及び正方晶系構造の混合物を維持するため、トップコート中のハフニアは約10モル%以下の選択された金属酸化物で安定化すればよい。ハフニアをプラズマ溶射法で溶射可能にするためには、約0.5モル%以上の金属酸化物安定剤が望ましい。また、単斜晶系ハフニアコーティングは増大した熱伝導率を有すると考えられる。本発明のトップコート中では、ハフニアは典型的には約1〜約9モル%、さらに典型的には約2〜約8モル%の上記金属酸化物で安定化される。金属酸化物は、通例、マグネシア、カルシア、スカンジア、イットリア及びセリア並びにこれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、トップコート18はイットリア(例えば、約7重量%のイットリア)で安定化したハフニアを含む。
【0020】
トップコート18は、通例、各種のジルコニア類、特に化学的に安定化したジルコニア類(例えば、イットリア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、インジア安定化ジルコニア及びイッテルビア安定化ジルコニア並びにかかる安定化ジルコニアの混合物)のような他のセラミック材料を含んでいてもよい。好適なジルコニア類の説明については、例えば、Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology,3rd Ed.,Vol.24,pp.882−883(1984)を参照されたい。好適なイットリア安定化ジルコニアは、(イットリア及びジルコニアの合計重量を基準にして)約1〜約20%のイットリア、さらに典型的には約3〜約10%のイットリアを含有し得る。これらの化学的に安定化したジルコニア類は、さらに、熱バリヤーコーティングの熱伝導率をさらに低下させるため、ジスプロシア、エルビア、ユウロピア、ガドリニア、ネオジミア、プラセオジミア、ウラニア及びハフニアのような第二の金属(例えば、ランタニド又はアクチニド)の酸化物の1種以上を含んでいてもよい。2000年2月15日付けの米国特許第6025078号(Rickersbyら)及び2001年12月21日付けの米国特許第6333118号(Alperineら)(これらの開示内容はいずれも援用によって本明細書の内容の一部をなす)を参照されたい。
【0021】
トップコート18は、典型的には、いずれもモル基準で、約10〜約90%(さらに典型的には約30〜約80%)のハフニアと、約10〜約90%(さらに典型的には約20〜約80%)のジルコニアとを含む。一実施形態では、トップコートは、いずれもモル基準で、約50〜約70%のジルコニアと、約20〜約50%のハフニアと、約5〜約10%のイットリアとを含む。
【0022】
腐食性環境中での炭化ケイ素(並びにケイ素及び他のケイ素化合物)の劣化に関する主な機構は、揮発性水酸化ケイ素(Si(OH))生成物の生成である。トップコート18中でのオキシダントの拡散率は一般に非常に高い。Si含有表面領域12を保護するため、コーティング系14は、厳しい温度条件下で領域12への密着性を維持するのに十分な表面領域12との化学的及び物理的適合性を有しながら、表面領域12中の炭化ケイ素の酸化を抑制するためにオキシダント(例えば、酸素及び水蒸気)に対して低い拡散率を示す環境バリヤー層16をトップコート18の下方に含む。環境バリヤー層は、典型的には約25〜約500μm、さらに典型的には約75〜約250μmの厚さを有する。
【0023】
一実施形態では、環境バリヤー層16はアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩を含み、ここでアルカリ土類金属金属はバリウム、ストロンチウム又はさらに典型的にはこれらの混合物(例えば、BSAS)である。好適なBSASには、約0.00〜約1.00モルのBaO、約0.00〜約1.00モルのSrO、約1.00〜約2.00モルのAl及び約0.10〜約2.00モルのSiOを含むものがある。通常、BSASは、BaO及びSrOの合計モル数を約1.00モルとして、約0.00〜約1.00モルのBaO、約0.00〜約1.00モルのSrO、約1.00モルのAl及び約2.00モルのSiOを含む。典型的には、BSASは、BaO及びSrOの合計モル数を約1.00モルとして、約0.10〜約0.90モル(さらに典型的には約0.25〜約0.75モル)のBaO、約0.10〜約0.90モル(さらに典型的には約0.25〜約0.75モル)のSrO、約1.00モルのAl及び約2.00モルのSiOを含む。特に好適なBSASは、約0.75モルのBaO、約0.25モルのSrO、約1.00モルのAl及び約2.00モルのSiOを含む。2002年5月14日付けの米国特許第6387456号(Eatonら)(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)の特に第3段8〜27行目を参照されたい。
【0024】
Si含有表面領域12に重なるBSAS層は、環境保護をもたらすと共に、その低い熱伝導率によって遮熱特性を提供する。BSASは、高温で水蒸気に暴露された場合に顕著なシリカ活性及び揮発性を示す下方の表面領域12に対する環境バリヤーとして有用である。その結果、BSAS層は、部品10がガスタービンエンジンの酸化環境に暴露された場合に表面領域12に界面シリカ層が成長するのを抑制することができる。加えて、BSASはSiC含有基材(例えば、表面領域12)に対する物理的コンプライアンスを示すと共に、CTEの点でSi含有表面領域12に比較的適合し得る。BSAS層に関する好適な厚さ範囲は、個々の用途に応じて約75〜約500μm(約0.003〜約0.020インチ)である。一実施形態では、環境バリヤー層はアルミノケイ酸バリウムストロンチウムの実質的に均一な組成を有している。
【0025】
別の実施形態では、環境バリヤー層16は、ムライト或いはムライトとケイ酸イットリウム(例えば、Y・SiO、2Y・3SiO及びY・2SiO)又は上述のようなアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩(例えば、BSAS)との混合物を含有し得る。しかし、ムライト自体は溶射加工の結果として亀裂を生じる傾向があるので、環境バリヤー層は通例は約40〜約80重量%のムライトと約20〜約60重量%のBSAS、ケイ酸イットリウム又はアルミノケイ酸カルシウムとを含む。上記の材料は1以上の独立した層として堆積又は形成することができると共に、これらは実質的に均一な組成又は傾斜組成を有し得る。
【0026】
別法として、環境バリヤー層16は、2004年7月6日付けの米国特許第6759151号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に開示されているような低CTE希土類ケイ酸塩材料を含有し得る。かかる希土類ケイ酸塩は、(1)RE・SiO、(2)2RE・3SiO、(3)RE・2SiO及びこれらの組合せからなる群から選択される式を有する。REは、Sc、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Eu、Gd、Tb及びこれらの組合せからなる群から選択される希土類元素である。例示的な希土類ケイ酸塩は、ScSiO、ErSiO、YbSiO及びYSiO並びにこれらの組合せである。
【0027】
上記のケイ酸塩材料は、単独で又は上述のような他の材料(例えば、ムライト)との混合物として、基材上に独立した層として堆積することができる。或いは、これらは後述のような任意のケイ素下層に接触して基材上に形成することもできる。
【0028】
本発明の一実施形態では、環境バリヤー層及びトップコートの中間のCTEを有する遷移層20が、環境バリヤー層16とトップコート18とを隔てている。遷移層20は、サイクル耐久性を高めることで、多数の熱サイクル及び高温の下でT/EBC系14がSi含有表面領域12に与える熱的保護及び環境保護を増進する。遷移層20は、高温での環境バリヤー層16とトップコート18との間の相互作用を防止しながら、環境バリヤー層をトップコート層に付着させるのに役立つ。一実施形態では、遷移層はムライト又はアルミナ或いはこれらの混合物のような低CTE酸化物材料を含む。別の実施形態では、遷移層は、ムライト及び/又はアルミナの存在下又は不存在下で、ジルコニア、ハフニア、安定化ジルコニア(例えば、イットリア安定化ジルコニア)、安定化ハフニア(例えば、イットリア安定化ハフニア)又はこれらの混合物を含む。遷移層20は、通例は安定化ハフニア、安定化ジルコニア、ムライト、アルミナ又はこれらの混合物、特に安定化ジルコニア、ムライト又はこれらの混合物を含む。
【0029】
遷移層は、実質的に均一な組成(例えば、トップコート及び環境バリヤー層の中間のCTEを有するアルミナ又は他の成分)を有し得る。別の実施形態では、遷移層は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)又はイットリア安定化ハフニア(YSH)と、ムライト及び/又はアルミナとの実質的に均質な混合物であり、YSZ又はYSHが層20の90重量%までを占める。別法として、層20はそれぞれが異なる組成を有する別個の副層からなり得る。一実施形態では、環境バリヤー層に接触した副層の組成は通例は実質的にムライト及び/又はアルミナである一方、トップコート18に接触した最も外側の副層は通例は実質的にYSZ又はYSHである。例えば、遷移層は、環境バリヤー層に接触し、ムライトからなる実質的に均一な組成を有する第一の副層と、トップコートに接触し、イットリア安定化ジルコニアからなる実質的に均一な組成を有する第二の副層とを含有し得る。遷移層中には1以上の中間副層も存在することができ、これらは内側の副層及び外側の副層の中間の組成を有する。
【0030】
別の実施形態では、遷移層20は、トップコート18に隣接した実質的に完全なYSZ又はYSHから、環境バリヤー層16に隣接した実質的に完全なムライト及び/又はアルミナまで、連続的に変化する組成を有している。この実施形態では、層20は、環境バリヤー層16から離れる方向に向かって漸減するムライト及び/又はアルミナの濃度並びに漸増するYSZ又はYSHの濃度を有している。環境バリヤー層16に隣接したムライト及び/又はアルミナの高い濃度と、トップコート18に隣接したYSZ又はYSHの高い濃度との組合せは、環境バリヤー層16に隣接してCTEが最小になり、トップコート18に隣接してCTEが最大になるようにして徐々に増大するCTEを与えるのに役立つ。一例では、遷移層は傾斜組成を有していて、遷移層と環境バリヤー層との界面ではムライトから実質的になり、遷移層とトップコートとの界面ではイットリア安定化ジルコニアから実質的になると共に、環境バリヤー層から離れる方向に向かって漸減するムライト濃度及び漸増するイットリア安定化ジルコニア濃度を有する。
【0031】
層20に関する好適な厚さ範囲は、個々の用途及び環境バリヤー層16の厚さに応じて約25〜約500μm(約0.001〜約0.020インチ)、通例は約50〜約250μmである。高い使用温度(例えば、2000℃までの使用温度)では、通例、一般に250μm以上程度の厚い保護コーティング系が使用される。かかるコーティング系についてこそ、コーティング系の機械的健全性を向上させるための遷移層20の利益が一段と明らかになる。この層20のYSZ又はYSH成分は、その総合CTEをトップコート18のCTEに近似した値に増大させるのに役立つ。
【0032】
環境バリヤー層16と表面領域12との間に任意のケイ素層を含めることもできる。かかるケイ素層は、表面領域12の耐酸化性を向上させると共に、表面領域がSiC又は窒化ケイ素を含む場合に環境バリヤー層16と表面領域との結合を高めるのに有用である。ケイ素層に関する好適な厚さは約12.5〜約250μmである。
【0033】
通常のボンドコート及び環境コーティングと同じく、環境バリヤー層16及び遷移層20は空気プラズマ溶射及び真空プラズマ溶射(それぞれAPS及びVPS)で個別に堆積させることができるが、化学蒸着(CVD)法及び高速ガスフレーム(HVOF)法のような他の公知技術でも堆積を行い得ることが予知できる。トップコート18も、プラズマ溶射技術及び物理蒸着(PVD)技術を始めとする公知技術で堆積させることができる。次いで、高い堆積温度からの冷却中に生じる残留応力を除去するため、個々の層16及び20及び/又はトップコート18の堆積後に熱処理を施すことができる。
【0034】
かくして本発明は、ケイ素含有材料からなる基材上に熱/環境バリヤーコーティングを設けるための方法であって、
a)基材に重なる厚さ約25〜約500μmの環境バリヤー層を形成し、
b)任意には、約25〜約500μmの厚さを有する遷移層を環境バリヤー層上に形成し、
c)環境バリヤー層及び任意の遷移層に重なるトップコートであって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物約0.5〜約10モル%で安定化したハフニアを含むと共に、約12.5〜約1250μmの厚さを有するトップコートを形成する
ことを含んでなる方法も提供する。
【0035】
本発明は、新たに製造した物品においてSi含有材料に熱的保護及び環境保護を与えるために特に有用である。しかし本発明は、補修した摩耗物品又は損傷物品にかかる保護を与えるため、或いは元来はT/EBC系を有していなかった物品にかかる保護を与えるためにも有用である。
【0036】
以上、本発明方法の特定の実施形態を説明してきたが、当業者には、特許請求の範囲に定義される本発明の技術的思想及び技術的範囲から逸脱せずに様々な修正を行い得ることが自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】Si含有材料からなると共に、本発明の一実施形態に係る熱/環境バリヤーコーティング系を有するガスタービンエンジン部品の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 ガスタービンエンジン部品
12 基材
14 熱/環境バリヤーコーティング系
16 環境バリヤー層
18 トップコート
20 遷移層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ケイ素含有材料からなる基材(12)、
b)基材に重なる環境バリヤー層(16)、並びに
c)環境バリヤー層に重なるトップコート(18)であって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物0.5〜10モル%で安定化したハフニアを含むトップコート(18)
を含んでなる物品、好ましくはガスタービンエンジン部品(10)。
【請求項2】
基材(12)が、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上からなる母材を有する複合材、及び炭化ケイ素母材と窒化ケイ素母材とケイ素母材の1種以上を炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上で補強した複合材からなる群から選択される材料からなる、請求項1記載の物品。
【請求項3】
環境バリヤー層(16)が、アルカリ土類金属アルミノケイ酸塩材料、好ましくはアルミノケイ酸バリウムストロンチウムを含む、請求項1又は請求項2記載の物品。
【請求項4】
トップコート(18)が、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びセリウム並びにこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物2〜8モル%で安定化したハフニアを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の物品。
【請求項5】
トップコート(20)が、いずれもモル基準で、50〜70%のジルコニアと、20〜50%のハフニアと、5〜10%のイットリアとを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の物品。
【請求項6】
さらに、環境バリヤー層(16)に重なり、好ましくは安定化ハフニア、安定化ジルコニア、ムライト、アルミナ又はこれらの混合物を含む遷移層(20)を含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の物品。
【請求項7】
遷移層(20)が傾斜組成を有していて、遷移層と環境バリヤー層(16)との界面ではムライトから実質的になり、遷移層とトップコート(18)との界面ではイットリア安定化ジルコニアから実質的になると共に、環境バリヤー層から離れる方向に向かって漸減するムライト濃度及び漸増するイットリア安定化ジルコニア濃度を有する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の物品。
【請求項8】
トップコート(18)が12.5〜1250μmの厚さを有し、環境バリヤー層(16)が50〜250μmの厚さを有し、遷移層(20)が50〜250μmの厚さを有する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の物品。
【請求項9】
ケイ素含有材料からなる基材(12)上に熱/環境バリヤーコーティング(14)を設けるための方法であって、
a)基材に重なる厚さ25〜500μmの環境バリヤー層(16)を形成し、
b)任意には、25〜500μmの厚さを有する遷移層(20)を環境バリヤー層上に形成し、
c)環境バリヤー層及び任意の遷移層に重なるトップコート(18)であって、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタニド金属及びこれらの混合物からなる群から選択される金属の酸化物0.5〜10モル%で安定化したハフニアを含むと共に、12.5〜1250μmの厚さを有するトップコート(18)を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項10】
基材(12)が、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上からなる母材を有する複合材、及び炭化ケイ素母材と窒化ケイ素母材とケイ素母材の1種以上を炭化ケイ素と窒化ケイ素とケイ素の1種以上で補強した複合材からなる群から選択される材料からなる、請求項9記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−199575(P2006−199575A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334185(P2005−334185)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】