説明

ケラチン繊維染色用組成物及びケラチン繊維の染色方法

【課題】酵素を用いたケラチン繊維染色用組成物及びケラチン繊維の染色方法を提供する。
【解決手段】CueO、銅イオン、及び、酸化染料を含有するケラチン繊維染色用組成物、並びに、酸素含有雰囲気下、CueO及び銅イオンの存在下に、ケラチン繊維と酸化染料とを接触させることからなる、ケラチン繊維の染色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いたケラチン繊維染色用組成物及びケラチン繊維の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毛髪や種々の繊維を含むケラチン繊維を染色するにあたって、染色効果を持続させるために、酸化染料が用いられている。酸化染料は、酸化反応及び重合反応を経て発色することによって染色を達成するものであり、永久染色剤を構成するものである。
【0003】
酸化染料の酸化反応及び重合反応を進行させるために、従来、過酸化水素等の酸化剤が使用されてきた。これによって、毛髪内に浸透した酸化染料が酸化重合して、高分子体の色素が形成されて毛皮質内に沈着する。
しかしながら、過酸化水素は反応性が高いことから取り扱いに十分な注意が必要である。また、アルカリと過酸化水素の併用による頭皮や毛髪へのダメージが問題となっていた。さらに、酸化染料及びアルカリ剤を配合した一剤と、過酸化水素を配合した二剤を使用時に混合するため二剤式となり、使用方法が煩雑であった。
【0004】
そこで、酸化剤ではなく、酵素を用いることによって酸化染料の直接的酸化重合反応を進行させる試みが行われている。このような酵素として、フェノールオキシダーゼやマルチ銅オキシダーゼの使用が提案されている。フェノールオキシダーゼやマルチ銅オキシダーゼは、大気中の酸素の存在下で種々の基質の酸化を触媒することができるため、酸素存在下で、ラジカル種の生成に起因する発色、脱色、重合、分解等の多様な化学反応に適するものである。
【0005】
そのような染色用途における酵素として、具体的には、中性フェノールオキシダーゼ様活性を有するフラムリナ属菌類の培養物(特許文献1を参照)、フラムリナ属に属する担子菌に由来する中性フェノールオキシダーゼ(特許文献2を参照)、マイセリオフトラ・サーモフィラに由来するラッカーゼ(特許文献3を参照)の使用が提案されている。
【0006】
ケラチン繊維の染色を酸性〜中性条件下で行うと、染色した毛髪は堅牢性が低く、退色がきわめて容易に進行しやすい。ケラチン繊維を膨潤させて酸化染料を毛髪内に浸透させ、高分子体の色素を毛髪内に沈着させることによって、染色効果を向上、持続させるには、酸化染料による染色をアルカリ条件下で行うのが好ましい。
【0007】
ところが、特許文献1及び特許文献2に記載された中性フェノールオキシダーゼは、中性付近に至適pHを有しており、アルカリ条件下での使用に適したものではなかった。さらに、至適pHである中性付近での安定性が低いことから実用的な使用において難点があった。加えて、これら中性フェノールオキシダーゼは、直接染料の分解・脱色反応を触媒する性質をも持っており、直接染料による調色を困難とする問題点があった。
【0008】
特許文献3に記載されたマイセリオフトラ・サーモフィラに由来するラッカーゼについても、至適pHが6.5であり、アルカリ条件下での使用に適したものではなかった。
【0009】
ところで、CueOは、Escherichia coliの細胞内の銅濃度を一定に保つホメオスタシスに関与するタンパク質である。Escherichia coliが産出するCueOは、516残基、分子量56555Daの単量体であるが、N末端側の28残基はシグナルペプチドであり、ペリプラズムに移行する際に切断されて、488残基、分子量53409Daの成熟タンパク質となる。
【0010】
CueOは1分子あたり銅4原子を含んでおり、マルチ銅オキシダーゼファミリーに分類される。ラッカーゼとは異なり、2,6−ジメトキシフェノール、カテコールなどのフェノール化合物を酸化しない。5番目の銅が結合するサイトを有しており、外因性の銅の存在下ではフェノールオキシダーゼ活性を示す。CueOは、かつてyacKと呼ばれていた遺伝子がコードするタンパク質であり、そのアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列は非特許文献1で報告されており、その基本的特性については非特許文献2で報告されている。
【0011】
しかしながら、CueOを染色用途に使用した例は報告されていない。
【特許文献1】国際公開第2004/020617号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/078958号パンフレット
【特許文献3】特表平10−501137号公報
【非特許文献1】「サイエンス(SCIENCE)」、1997年、277(5331)、1453−1474頁
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(JOURNAL OF BACTERIOLOGY)」、Vol.183、2001年8月、4866−4875頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、過酸化水素等の酸化剤を用いずに酵素を利用して酸化染料の酸化重合反応が効率よく進行し、一剤型とすることが可能なケラチン繊維染色用組成物であって、アルカリ条件を含む幅広いpH領域での効率的なケラチン繊維の染色が可能で、かつ、直接染料の調色能を害することがなく、幅広い領域での温度及びpHにおいて安定なケラチン繊維染色用組成物、並びに、上記酵素を利用したケラチン繊維染色方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、CueOが以下の特性を有することを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
(1)銅イオンの存在下で種々の酸化染料の直接的酸化重合反応を効率よく触媒する性質を有している。
(2)弱酸性〜アルカリ条件下で十分な酸化重合活性を発揮し、かつ、至適pHをアルカリ領域に有している。
(3)直接染料を分解する性質を有していない。
(4)幅広い領域でのpH及び温度において安定性に優れており、至適pHを含むアルカリ領域においても安定性に優れている。
【0014】
すなわち本発明は以下のものに関する。
[1]CueO、銅イオン、及び、酸化染料を含有するケラチン繊維染色用組成物。
[2]CueOは、Escherichia coliに由来するものである[1]記載のケラチン繊維染色用組成物。
[3]CueOは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むものである[1]記載のケラチン繊維染色用組成物。
[4]銅イオンは、2価の銅の無機塩である[1]〜[3]のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
[5]さらに、アルカリ性化合物を含有する[1]〜[4]のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
[6]ケラチン繊維が毛髪である[1]〜[5]のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
[7]酸素含有雰囲気下、CueO及び銅イオンの存在下に、ケラチン繊維と酸化染料とを接触させることからなる、ケラチン繊維の染色方法。
[8]上記接触を、アルカリ条件下で行う[7]記載の染色方法。
以下に本発明を詳述する。
【0015】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、酵素として、CueOを含有するものである。
本発明において、CueOとして、天然に由来するCueO(天然型CueO)を使用してもよいし、天然型CueOの性能を維持している限り、天然型CueOに修飾を施した改変型CueOを使用してもよい。
【0016】
CueOの由来は特に限定されないが、Escherichia coliに由来するものが好ましい。Escherichia coliにおいて、CueOをコードする遺伝子の塩基配列は、配列番号1で表される。
【0017】
Escherichia coliが産出する天然型CueOとしては、配列番号1で示した塩基配列によってコードされるアミノ酸配列から構成される、シグナルペプチドを含んだ未成熟CueO、配列番号2で表されるアミノ酸配列から構成される、シグナルペプチドを含まない成熟CueOを挙げることができ、いずれも本発明において使用することができる。しかしながら、入手の容易さ及び酸化重合活性の観点から、成熟CueOを用いることが好ましい。
【0018】
本発明で使用するCueOは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むものが好ましい。具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列から構成される成熟CueO、当該成熟CueOのC末端に対してヒスチジンタグを付加した、配列番号4で表されるアミノ酸配列から構成されるCueO、当該成熟CueOに対してその他の修飾を施したもの等を挙げることができる。上記修飾としてはCueOの酵素活性を阻害しないものである限り特に限定されないが、例えば、Strep−tagII(商品名、IBA社)、GSTタグ、ビオチン標識等を挙げることができる。
【0019】
本発明で使用するCueOを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、Escherichia coli等の菌体を培養して産出させたCueOを取得、精製する方法;CueOをコードする塩基配列をベクターに導入し、得られた発現ベクターを用いてEscherichia coli等の菌体を形質転換し、得られた形質転換体を培養して産出させたCueOを取得、精製する方法等を挙げることができる。
【0020】
形質転換体を含む菌体が産出したCueOを使用する場合には、精製された純粋なCueOのほか、CueOを含む粗精製物を使用することも可能である。
【0021】
本発明のケラチン繊維染色用組成物におけるCueOの配合量は、使用するケラチン繊維の種類、染色時の条件、酸化染料の種類等に応じて種々調整することができ、特に限定されるものではないが、組成物全量100重量部に対して、0.0001〜10重量部が好ましく、0.001〜1重量部がより好ましい。
【0022】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、CueOに加えて、銅イオンを含有する。CueOは銅イオンを配合しなくともいくつかの酸化染料の直接的酸化重合反応をある程度は触媒する能力を有するが、銅イオンを共存させることによって、広範な種類の酸化染料に対して、十分なケラチン繊維染色力を発揮することができるようになる。
【0023】
本発明では、銅イオンとして、1価の銅塩又は2価の銅塩等を配合することができる。2価の銅塩としては特に限定されないが、例えば、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、炭酸銅(II)等の無機塩が挙げられる。1価の銅塩としては特に限定されないが、塩化銅(I)、シアン化銅(I)等の無機塩が挙げられる。なかでも、染色力の向上や人体に対する影響の観点から、2価の銅の無機塩が好ましく、硫酸銅がより好ましい。
【0024】
本発明のケラチン繊維染色用組成物における銅イオンの配合量は、十分な染色力を達成できる限り特に限定されないが、組成物全量100重量部に対して、銅塩全体として0.0001〜1重量部が好ましく、0.001〜0.1重量部がより好ましい。また、CueO1モルに対して0.001〜1000モルが好ましく、0.01〜100モルがより好ましい。
【0025】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、酸化染料を含有する。酸化染料とは、酸化反応及び重合反応を経て発色することによって、染色を達成するものである。酸化染料には、それ自体が酸化重合して発色し得る「染料前駆体」と、当該染料前駆体と重合することによって種々の色調となる「カップラー」が含まれる。
染料前駆体には、オルト又はパラ体のフェニレンジアミン又はアミノフェノール等が含まれ、カップラーには、メタ体のフェニレンジアミン又はアミノフェノール等が含まれる。
【0026】
酸化染料としては特に限定されないが、例えば、具体的には、パラフェニレンジアミン、カテコール、ピロガロール、没食子酸、レゾルシン、5−アミノオルトクレゾール、オルトアミノフェノール、メタアミノフェノール、パラアミノフェノール、2,6−ジアミノピリジン、5−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−2−メチルフェノール、N,N−ビス(β−ヒドロキシ)−パラフェニレンジアミン硫酸塩、パラニトロ−オルトフェニレンジアミン、パラニトロ−2′,4′−ジアミノアゾベンゼン・硫酸ナトリウム、トルエン−2,5−ジアミン、5−アミノオルトクレゾール・硫酸塩、パラアミノフェノール・硫酸塩、オルトクロロ−パラフェニレンジアミン・硫酸塩、4,4′−ジアミノジフェニルアミン・硫酸塩、パラメチルアミノフェノール・硫酸塩、パラフェニレンジアミン・硫酸塩、メタフェニレンジアミン・硫酸塩、トルエン−2,5−ジアミン・硫酸塩、2,4−ジアミノフェノキシエタノール・塩酸塩、トルエン−2,5−ジアミン・塩酸塩、メタフェニレンジアミン・塩酸塩、2,4−ジアミノフェノール・塩酸塩、3,3′−イミノジフェノール、パラフェニレンジアミン・塩酸塩、N−フェニル−パラフェニレンジアミン・塩酸塩、N−フェニル−パラフェニレンジアミン・酢酸塩、1,5−ジヒドロキシナフタレン、トリレン−3,4−ジアミン、パラメチルアミノフェノール、N,N′−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジアミノ−1,4−キノンジイミン、オルトアミノフェノール・硫酸塩、2,4−ジアミノフェノール・硫酸塩、メタアミノフェノール・硫酸塩等を挙げることができる。以上に例示した化合物は、医薬部外品原料規格に収載されているものである。
【0027】
本発明においては、酸化染料として、インドリン化合物や、インドール化合物を用いることもできる。
インドリン化合物としては特に限定されないが、例えば、インドリン、5,6−ジヒドロキシインドリン、N−メチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、N−エチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、N−ブチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、4−ヒドロキシ−5−メトキシインドリン、6−ヒドロキシ−7−メトキシインドリン、6,7−ジヒドロキシインドリン、4,5−ジヒドロキシインドリン、4−メトキシ−6−ヒドロキシインドリン、N−ヘキシル−5,6−ジヒドロキシインドリン、2−メチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、3−メチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、4−ヒドロキシインドリン、2,3−ジメチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、2−メチル−5−エチル−6−ヒドロキシインドリン、2−メチル−5−ヒドロキシ−6−β−ヒドロキシエチルインドリン、4−ヒドロキシプロピルインドリン、2−ヒドロキシ−3−メトキシインドリン、6−ヒドロキシ−5−メトキシインドリン、6−ヒドロキシインドリン、5−ヒドロキシインドリン、7−ヒドロキシインドリン、7−アミノインドリン、5−アミノインドリン、4−アミノインドリン、5,6−ジヒドロキシインドリンカルボン酸、1−メチル−5,6−ジヒドロキシインドリン、これらの塩類等を挙げることができる。
【0028】
インドール化合物としては特に限定されないが、例えば、4,5−ジヒドロキシインドール、5,6−ジヒドロキシインドール、6,7−ジヒドロキシインドール、N−メチル−5,6−ジヒドロキシインドール、N−エチル−5,6−ジヒドロキシインドール、N−ヘキシル−5,6−ジヒドロキシインドール、2−メチル−5,6−ジヒドロキシインドール、3−メチル−5,6−ジヒドロキシインドール、4−ヒドロキシインドール、2,3−ジメチル−5,6−ジヒドロキシインドール、2−メチル−5−エチル−6−ヒドロキシインドール、2−メチル−5−ヒドロキシ−6−β−ヒドロキシエチルインドール、4−ヒドロキシプロピルインドール、2−ヒドロキシ−3−メトキシインドール、4−ヒドロキシ−5−メトキシインドール、6−ヒドロキシ−7−メトキシインドール、6−ヒドロキシ−5−メトキシインドール、6−ヒドロキシインドール、5−ヒドロキシインドール、7−ヒドロキシインドール、7−アミノインドール、5−アミノインドール、4−アミノインドール、5,6−ジヒドロキシインドールカルボン酸、1−メチル−5,6−ジヒドロキシインドール等を挙げることができる。
【0029】
これらの酸化染料は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよいが、好ましくは、染料前駆体に属する化合物のうち一種類又は複種類を用いるか、又は、染料前駆体に属する化合物のうち一種類又は複種類と、カップラーに属する化合物のうち一種類又は複種類とを組み合わせて用いる。
【0030】
本発明のケラチン繊維染色用組成物における酸化染料の配合量としては特に限定されず、好適な染色能力を発揮することができるよう適宜調整すればよいが、例えば、組成物全量に対して0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%の配合量を例示することができる。
【0031】
本発明のケラチン繊維染色用組成物には、酸化染料以外に、直接染料を配合することによって、得られる色調を調整することができる。
直接染料としては特に限定されないが、例えば、2−アミノ−4−ニトロフェノール、2−アミノ−5−ニトロフェノール、1−アミノ−4−メチルアミノアントラキノン、ニトロ−パラフェニレンジアミン・塩酸塩、1,4−ジアミノアントラキノン、ニトロ−パラフェニレンジアミン、ピクラミン酸、ピクラミン酸ナトリウム、2−アミノ−5−ニトロフェノール・硫酸塩、レゾルシノール、ニトロ−パラフェニレンジアミン・硫酸塩、パラニトロ−オルトフェニレンジアミン・硫酸塩、パラニトロ−メタフェニレンジアミン・硫酸塩、ナチュラルオレンジ6(2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)、アシッドオレンジ8、アシッドバイオレット17、レマゾールブリリアントブルー、エバンスブルー、アシッドブルー80等を挙げることができる。
【0032】
本発明のケラチン繊維染色用組成物における直接染料の配合量としては特に限定されず、所望の色調に応じて種々調整することができるが、例えば、組成物全量に対して0.01〜20重量%の配合量を例示することができる。
【0033】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、さらに、アルカリ性化合物を含有することが好ましい。CueOは弱酸性〜アルカリ条件でその酵素能力を発揮するものであるが、至適pHをアルカリ領域に有しているために、アルカリ性化合物の配合によって、本発明の組成物をアルカリ性にすることが、染色能力の観点から好ましい。組成物をアルカリ性にすることによって、ケラチン繊維が膨潤し、染料が毛髪内に浸透、沈着することから染色効果を向上させることができる。
【0034】
本発明のケラチン繊維染色用組成物に配合できるアルカリ性化合物としては特に限定されないが、一般に染色剤に配合することができるものを使用することができ、例えば、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン化合物、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム等の無機化合物等を挙げることができる。
【0035】
本発明のケラチン繊維染色用組成物におけるアルカリ性化合物の配合量としては特に限定されず、所望のpH(好ましくはpH7.5〜10.5)を達成できる量を適宜配合すればよい。例えば、組成物全量に対して、0.1〜20重量%の配合量を例示することができる。なお、本発明において、アルカリ性化合物は、1種類のみを配合してもよいし、2種類以上を配合してもよい。
【0036】
本発明のケラチン繊維染色用組成物には、上記の各成分のほか、種々の成分を配合することができる。特に限定されないが、具体的には、チオ乳酸、亜硫酸ナトリウム、N−アセチル−L−システイン等の還元剤、界面活性剤、油性成分、シリコーン類、増粘剤、溶剤、水、キレート剤、香料等を挙げることができる。
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、銅イオンを配合するため、当該銅イオンが溶解するよう、水溶液とすることが好ましい。
【0037】
本発明の組成物はケラチン繊維を染色するためのものであるが、上記ケラチン繊維には、ヒト等の哺乳動物の毛髪のほか、各種繊維が含まれる。繊維としては特に限定されないが、天然繊維、合成繊維のいずれでもよく、例えば、綿、ジアセテート、亜麻、リンネル、リオセル、ポリアクリル、ポリアミド、ポリエステル、ラミー、レーエン、テンセル、トリアセテート、毛皮、獣皮、皮革、絹、ウール等を挙げることができる。繊維の形態としても特に限定されず、布帛、糸、衣料、フィルム等、いずれの形態であってもよい。
【0038】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、無酸素雰囲気下で上記各成分を混合して、無酸素雰囲気下の容器内に収容することにより、一剤型の組成物として調製することができる。
さらに、本発明のケラチン繊維染色用組成物は、CueOと銅イオンを含む第一組成物と、酸化染料を含む第二組成物からなる二剤型の組成物として調製することもできる。この場合には、各成分の混合及び保存を無酸素雰囲気下で行う必要はない。
【0039】
本発明のケラチン繊維染色用組成物は、一剤型の組成物の場合には、ケラチン繊維に直接適用することによって、二剤型の組成物の場合には、2つの組成物を混合した後直ちにケラチン繊維に適用することによって、簡便に、効率よく、ケラチン繊維の染色を達成することができる。
【0040】
本発明のケラチン繊維染色方法は、酸素含有雰囲気下、CueO及び銅イオンの存在下に、ケラチン繊維と酸化染料とを接触させることからなる。酸素含有雰囲気とは、特に限定されないが、通常、空気でよい。接触時の温度は特に限定されないが、10〜100℃程度が好ましい。毛髪に適用する場合には、人体に対する影響の観点から、20〜40℃程度がより好ましい。
【0041】
CueOは弱酸性〜アルカリ条件下で十分な酸化重合活性を発揮するので、上記接触は弱酸性〜アルカリ条件(例えば、pH6〜11)下で好適に行うことができるが、CueOは至適pHをアルカリ領域に有するので、上記接触は中性〜アルカリ条件下(好ましくはpH7.5〜10.5)でより好適に行うことができる。本発明の染色方法に関する詳細は、本発明の組成物について上述したものと同様である。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、上述の構成よりなるので、過酸化水素等の酸化剤を用いずに酵素を利用して酸化染料の酸化重合反応が効率よく進行し、一剤型とすることが可能なケラチン繊維染色用組成物であって、アルカリ条件を含む幅広いpH領域での効率的なケラチン繊維の染色が可能で、かつ、直接染料の調色能を害することがなく、幅広い領域での温度及びpHにおいて安定なケラチン繊維染色用組成物、並びに、上記酵素を利用したケラチン繊維染色方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
製造例1
CueOの製造と精製
以下では、大腸菌(Escherichia coli)をホストにCueOの同種発現を行うことによって、CueOを大量に調製した。天然型CueOとの区別及び精製を簡便にすることを目的に、天然型の成熟CueOのC末端に対してヒスチジンタグを付加した、配列番号4で表される改変型CueOを作製した。
【0044】
(1)発現ベクターの作成
E.coli JM109より抽出したゲノムDNAを鋳型に用いてPCR法によりCueO遺伝子を増幅した。増幅には、以下の合成オリゴヌクレオチドプライマーを用い、以下に示すPCR反応液を用いた。
N-EcoRI:
5'-gaagaattcatgcaacgtcgtgatttcttaaaat-3'(配列番号5)
(4〜9位のgaattcがEcoRI認識部位である。)
3'-His-Bam:
5'-ttggatccttaatgatgatgatgatgatggcctaccgtaaaccctaac-3'(配列番号6)
(3〜8位のggatccがBamHI認識部位であり、12〜29位のatgatgatgatgatgatgがヒスチジンタグをコードする配列である。)
【0045】
PCR反応液
E.coliゲノムDNA(0.5μg/μl) 1μl
プライマー(10pmol/μl) 各1μl
PCR緩衝液(X10) 5μl
dNTP mix.(25mM) 4μl
ジメチルスルホキシド 2.5μl
精製水 35.25μl
Takara EX Taq DNA polymerase 0.25μl
【0046】
増幅した1.5KbpのDNA断片をEcoRI及びBamHIで消化し、同様に消化したプラスミドベクターpUC18に連結した。ベクター中に、配列番号3で表される塩基配列を確認した。得られた発現ベクターをpUC−CueOとする。
【0047】
(2)形質転換体の作製
pUC−CueOによって、E.coli BL21(DE3)を常法に従って形質転換した。得られた形質転換体をE.coli BL21(DE3)/pUC−CueOとする。
【0048】
(3)形質転換体の培養
E.coli BL21(DE3)/pUC−CueOを以下の二段階で培養してCueOを発現させた。
3−1.前培養(試験管)
0.1mg/mLアンピシリンを含むLB培地4mL中、37℃で、O/N好気培養を行った。
3−2.本培養(2Lバッフル付三角フラスコ)
1mMのCuCl、0.5mMのIPTGを添加した400mLの上記培地中、32℃で、12時間好気培養を行った。
その後、遠心分離により集菌し、0.85%塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、直ちに以下のオスモティックショックを行った。
【0049】
(4)CueOの精製
4−1.オスモティックショック
菌体を、氷冷した20%ショ糖、100mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM EDTA溶液に懸濁し、氷水中で10分間静置後、遠心分離にかけ菌体を回収した。
次に、プロテアーゼ阻害剤を含む氷冷蒸留水に懸濁し、氷水中で10分間静置後、遠心分離にかけ上清を回収した。これを粗酵素液とした。
【0050】
4−2.IMAC
50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、0.3M塩化ナトリウム水溶液で平衡化したBD TALONカラム(40mL)に粗酵素液を重層し、同緩衝液で洗浄した。
150mMイミダゾールを含む同緩衝液で、吸着したCueOを溶出させた。溶出画分は濃縮し、20mM Tris−HCl(pH8.0)に対し透析した。
【0051】
4−3.陰イオン交換クロマトグラフィー
20mM Tris−HCl(pH8.0)で平衡化したBIO−RAD UnoQ−12カラム(12 mL)に試料を重層し、同緩衝液で洗浄した(流速1mL/min)。
同緩衝液を用いた0−1M塩化カリウム水溶液の直線濃度勾配(120mL)により、吸着したCueOを溶出させた。活性画分を回収し濃縮した。
【0052】
4−4.ゲルろ過クロマトグラフィー
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したPharmacia Superose12HR10/30カラム(24mL)に試料を重層し、同緩衝液で展開した(流速0.5mL/min)。活性画分を回収し、CueO水溶液とした。
このようにして得られたCueO水溶液を以下の試験例及び実施例で使用した。
【0053】
試験例1
ラッカーゼの代表的な基質に対するCueOの酸化重合活性の評価
(1)基質溶液の調製
2,6−ジメトキシフェノール、パラフェニレンジアミン、2,2′−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)、2−メトキシフェノール、カテコールはそれぞれ、イオン交換蒸留水に溶解し、50mM水溶液とした。
4−ヒドロキシインドール、パラアミノフェノールはそれぞれ、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、50mM DMSO溶液とした。
【0054】
オルトアミノフェノールはDMSOに溶解した後、イオン交換蒸留水に溶解して50mMDMSO(10%)−水溶液とした。
1−ニトロソ−2−ナフトール−3,6−ジスルホン酸二ナトリウム(NNS)はイオン交換蒸留水に溶解し、5mM水溶液とした。
ビリルビンはDMSOに溶解し、0.5mM DMSO溶液とした。
シリンガルダジンはエタノールに溶解し、5mMエタノール溶液とした。
L−チロシンは0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解して、1mM溶液とした。
【0055】
(2)活性測定方法
以下の方法では、緩衝液として酢酸緩衝液(pH5.5)を使用した。
NNS、ビリルビン以外の基質については、キュベット(1.5mL UVディスポセル、Top社製)中で0.1M緩衝液0.88mLと、基質溶液0.1mLとを混合し、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて0〜30秒後までの各波長(表1に示す測定波長)における吸光度の変化を測定した。
【0056】
銅添加の影響については、0.1M緩衝液0.88mLの代わりに、0.1M緩衝液0.86mL、及び、50mM硫酸銅(CuSO)水溶液0.02mLを加える以外は同様の操作を行った。
【0057】
NNS、ビリルビンについては、キュベット(1.5mL UVディスポセル、Top社製)中で0.1M緩衝液0.96mLと、基質溶液0.02mLとを混合し、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて0〜30秒後までの各波長(表1に示す測定波長)における吸光度の変化を測定した。
銅添加の影響については、0.1M緩衝液0.96mLの代わりに、0.1M緩衝液0.94mL、及び、50mM硫酸銅(CuSO)水溶液0.02mLを加える以外は同様の操作を行った。
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)とする。なお、上述のとおり測定した30秒間の吸光度変化を、1分間の吸光度変化に換算して表す(以下、同様)。CueO水溶液中のタンパク質濃度を、Bovine serum albumin(BSA)を標準タンパク質として、Lowry法により定量した。CueO水溶液中のタンパク質1mgあたりの活性を、比活性(U/mg)とする。得られた結果を以下の表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
以上の結果から、CueOは、銅イオンと共存させることによって、ジアミン化合物、フェノール化合物、及び、アミノフェノール化合物を効率よく酸化重合する能力を発揮することが分かった。
【0060】
試験例2
種々の基質に対するCueOの酸化重合活性の評価
(1)基質溶液の調製
表2に示す各基質をDMSOに溶解した後、イオン交換蒸留水に溶解して、1mM DMSO(1.0%)水溶液とした。
【0061】
(2)活性測定法
以下の方法では、緩衝液として酢酸緩衝液(pH5.5)を使用した。
キュベット(1.0mL石英セル、SHIMADZU社製)中で0.1M緩衝液0.88mLと、基質溶液0.1mLとを混合し、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて0〜30秒後までの各波長(表2に示す測定波長)における吸光度の変化を測定した。
【0062】
銅添加の影響については、0.1M緩衝液0.88mLの代わりに、0.1M緩衝液0.86mL、及び、50mM硫酸銅(CuSO)水溶液0.02mLを加える以外は同様の操作を行った。
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)とする。CueO水溶液中のタンパク質濃度を、BSAを標準タンパク質として、Lowry法により定量した。CueO水溶液中のタンパク質1mgあたりの活性を、比活性(U/mg)とする。得られた結果を以下の表2に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の結果から、CueOは、銅イオンと共存させることによって、オルト位又はパラ位のジアミン化合物、フェノール化合物、及び、アミノフェノール化合物を効率よく酸化重合する能力を発揮することが分かった。また、ナフトール化合物、及び、インドール化合物についても、効率よく酸化重合する能力を発揮することが分かった。
【0065】
試験例3
CueOの酸化重合活性のpH依存性の評価
パラフェニレンジアミンを基質として用いてCueOの酸化重合活性のpH依存性を以下の手順で評価した。
キュベット(3mL石英セル、SHIMADZU社製)中で、pH2〜12の範囲のいずれかのpH値を示す200mM Britton−Robinson緩衝液1.78mLと、100mM パラフェニレンジアミン水溶液0.2mLとを混合し、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、得られた種々のpH値を示す混合物について、0〜30秒後までの487nmにおける吸光度の変化を分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて測定した。
【0066】
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)として酸化重合活性を算出した後、算出された酸化重合活性のうちpH8.17及び8.42での活性を100として、酸化重合反応時の各pH値に関して相対活性(%)を図1に示した。
図1より、CueOがおよそpH6〜10という弱酸性〜アルカリ条件下で十分な酸化重合活性を示し、CueOの至適pHは8〜8.5であることが分かった。
【0067】
試験例4
CueOの酸化重合活性の温度依存性の評価
パラフェニレンジアミンを基質として用いてCueOの酸化重合活性の温度依存性を以下の手順で評価した。
キュベット(3mL石英セル、SHIMADZU社製)中で100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)1.93mLと、400mMパラフェニレンジアミン水溶液0.05mLとを混合し、種々の温度条件(30、35、40、45、50、55、60、65、70及び75℃)でプレヒートした後、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、得られた各混合物について、0〜30秒後までの487nmにおける吸光度の変化を分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて測定した。
【0068】
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)として酸化重合活性を算出した後、算出された酸化重合活性のうち75℃での活性を100として、酸化重合反応時の各温度に関して相対活性(%)を図2に示した。
以上の結果から、高温になるほどCueOの酸化重合活性が上昇し、広範な温度範囲で十分な酸化重合活性を示すことが分かった。
【0069】
試験例5
CueOの直接染料分解活性の評価
種々の直接染料に対するCueOの分解活性を以下の手順で評価した。
(1)染料溶液の調製
ナチュラルオレンジ6(2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)、アシッドオレンジ8、アシッドバイオレット17、レマゾールブリリアントブルー、エバンスブルー、アシッドブルー80をそれぞれ、イオン交換蒸留水に溶解して、0.2mg/mL水溶液とした。
【0070】
(2)活性測定方法
以下の方法では、緩衝液として酢酸緩衝液(pH5.5)、リン酸緩衝液(pH7.0)、又は、トリス塩酸緩衝液(pH9.0)を使用した。
キュベット(1.5mL UVディスポセル、Top社製)中で0.1M緩衝液0.88mLと、染料溶液0.1mLとを混合し、CueO水溶液0.02mLを加えて倒立混合し、分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて0、1及び2時間後の波長300〜700nmにおける吸光度の変化を測定した。
【0071】
銅添加の影響については、0.1M緩衝液0.88mLの代わりに、0.1M緩衝液0.86mL、及び、50mM硫酸銅(CuSO)水溶液0.02mLを加える以外は同様の操作を行った。
各染料について、極大を示す波長における、混合直後(0時間)から2時間後までの吸光度の変化量を、以下の表3に示した。
【0072】
【表3】

【0073】
以上の結果から、CueOが、各pH条件下で直接染料を分解する活性を有しないことが分かった。
【0074】
試験例6
CueOのpH安定性の評価
種々のpH条件でCueOを前処理した後に、パラフェニレンジアミンを基質として用いてCueOの酸化重合活性を測定することにより、CueOのpH安定性を評価した。具体的には以下の手順で行った。
CueO水溶液を、pH2〜12の範囲のいずれかのpH値を示す200mM Britton−Robinson緩衝液に希釈して、1時間インキュベートすることにより、前処理を行った。
【0075】
次いで、前処理後の混合物0.15mLと、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)1.65mLと、100mMパラフェニレンジアミン水溶液0.2mLとをキュベット(3mL石英セル、SHIMADZU社製)中にて混合し、各混合物について、0〜30秒後までの487nmにおける吸光度の変化を分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて測定した。
【0076】
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)として活性を算出した後、算出された酸化重合活性のうちpH9.65で前処理した場合の活性を100として、前処理時の各pHについて相対活性(%)を図3に示した。
以上の結果から、CueOが、pH2〜12と幅広いpH領域において十分な酸化重合活性を保持しており、pH安定性に優れていることが分かった。
【0077】
試験例7
CueOの熱安定性の評価
種々の温度条件でCueOを前処理した後に、パラフェニレンジアミンを基質として用いてCueOの酸化重合活性を測定することにより、CueOの熱安定性を評価した。具体的には以下の手順で行った。
CueO水溶液を、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に希釈して、種々の温度(20、30、40、50、60、70、80℃)で30分間インキュベートすることにより、前処理を行った。
【0078】
次いで、前処理後の混合物を氷冷し、当該混合物0.02mLと、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)1.78mLと、100mMパラフェニレンジアミン水溶液0.2mLとをキュベット(3mL石英セル、SHIMADZU社製)中にて混合し、各混合物について、0〜30秒後での487nmにおける吸光度の変化を分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて測定した。
【0079】
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)として酸化重合活性を算出した後、算出された酸化重合活性のうち50℃で前処理した場合の活性を100として、前処理時の各温度に関して相対活性(%)を図4に示した。
以上の結果から、CueOが、20〜60℃と幅広い温度領域において十分な酸化重合活性を保持しており、熱安定性に優れていることが分かった。
【0080】
試験例8
CueOの熱安定性の経時的変化の評価
60℃で適当な時間CueOをインキュベートした後に、パラフェニレンジアミンを基質として用いてCueOの酸化重合活性を測定することにより、CueOの熱安定性の経時的変化を評価した。具体的には以下の手順で行った。
CueO水溶液を、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に希釈して、60℃で適当な時間(0分間、30分間、60分間、90分間又は120分間)インキュベートすることにより、前処理を行った。
【0081】
次いで、前処理後の混合物を氷冷し、当該混合物0.02mLと、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)1.78mLと、100mMパラフェニレンジアミン水溶液0.2mLとをキュベット(3mL石英セル、SHIMADZU社製)にて混合し、各混合物について、0〜30秒後の487nmにおける吸光度の変化を分光光度計(UV−2459、SHIMADZU社製)を用いて測定した。
【0082】
1分間に吸光度を1変化させる活性を1単位(U)として酸化重合活性を算出した後、算出された酸化重合活性のうち前処理をしていない場合(0分間)の活性を100として、前処理時の各処理時間における相対活性(%)を図5に示した。
以上の結果から、CueOの加熱によってCueOの酸化重合活性が経時的に減少すること、及び、60℃におけるCueOの酸化重合活性の半減期がおよそ39分であることが分かった。
【0083】
実施例1及び比較例1
本発明の組成物によるケラチン繊維の染色
(1)染色基剤の調製
パラフェニレンジアミン0.5g、ヒドロキシエチルセルロース0.75g、ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油(HC−20)1.0g、及び、乳酸0.5gを混合し、モノエタノールアミンでpHを9.0に調整して、イオン交換蒸留水で重量を50gに調製した。
【0084】
(2)染色試験
実施例1では、前記染色基剤2g、CueO水溶液(4U相当量)及び50mM硫酸銅(CuSO)水溶液0.04mLを混合し、得られた混合物をヒト白髪毛束1gと羊毛布1枚(2×3cm)とに対して塗布した。塗布後のヒト白髪毛束および羊毛布のそれぞれを、30℃で30分間保持した。
比較例1では、前記染色基剤2gとCueO水溶液(4U相当量)を混合することにより得られた混合物を用いたこと以外は同様に行った。
コントロールでは、CueO水溶液も硫酸銅水溶液も添加せずに前記染色基剤を直接塗布すること以外は同様に行った。
なお、上記の単位Uは、1mMの硫酸銅共存下、5mMパラフェニレンジアミンを基質として用い、pH9.0において、487nmの吸光度を1分間で1変化させるCueO量を表す。
【0085】
(3)色差測定
染色前のヒト白髪毛束及び染色されたヒト白髪毛束について、色差計(ミノルタ社製、商品名:Chromometer CM−3610d)を用いて、L値、a値、b値を測定した。次いで、前記L値、a値、b値に基づき、下記式(1)により、ΔE値を算出した。結果を以下の表4に示した。
なお、前記ΔE値は、染色前の色調と染色後の色調との色差を示しており、数値が高いほど染色力が高いことを示す。
【0086】
【数1】

【0087】
【表4】

【0088】
以上の結果より、CueOと銅イオンとを併用することによって、高い染色効果を達成できることが示された。
尚、市販のヘアマニキュアのΔE値はおよそ40であるため、以上の結果によって、本発明の組成物が毛髪の染色に好適に使用できることが示された。
【0089】
調剤例
以下に、本発明のケラチン繊維染色用組成物の調剤例を示す。以下の組成物は、白髪の毛髪に適用すると、白髪を目立たなく染色することができるものである。なお、配合量は重量%で示す。
調剤例1(ジェルタイプ)
パラフェニレンジアミン 1.5
レゾルシン 0.3
メタアミノフェノール 0.1
CueO水溶液 0.1
硫酸銅 0.01
アスコルビン酸ナトリウム 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 1.0
クエン酸 適量
モノエタノールアミン pH7.5に調整
精製水 残部
合 計 100.0
【0090】
調剤例2(クリームタイプ)
パラフェニレンジアミン 1.0
パラアミノフェノール 0.8
メタアミノフェノール 0.1
セタノール 6.0
CueO水溶液 0.05
硫酸銅 0.05
ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル 4.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 1.0
L−システイン塩酸塩 0.2
クエン酸 適量
モノエタノールアミン pH9.5に調整
精製水 残部
合 計 100.0
【0091】
調剤例3(クリームタイプ)
5,6−ジヒドロキシインドリン 1.0
5,6−ジヒドロキシインドール−2−カルボン酸 0.5
オルトアミノフェノール 0.5
エタノール 5.0
ステアリルアルコール 1.5
CueO水溶液 0.2
硫酸銅 0.03
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 3.0
ポリグリセリン脂肪酸エステル 4.0
N−アセチルシステイン 0.1
キサンタンガム 0.5
アキュリン(登録商標)22 0.1
ヒドロキシエチルセルロース 0.1
モノイソプロパノールアミン 適量
モノエタノールアミン 適量
精製水 残部
合 計 100.0
【0092】
調剤例4(エアゾールタイプ)
トルエン−2,5−ジアミン 1.5
パラアミノフェノール 0.2
レゾルシン 0.1
メタアミノフェノール 0.1
ポリオキシエチレン(5)セチルエーテル 2.0
プロピレングリコール 5.0
亜硫酸ナトリウム 0.3
モノエタノールアミン 適量
クエン酸 適量
CueO水溶液 0.3
硫酸銅 0.05
液化石油ガス 4.0
精製水 残部
合 計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、ケラチン繊維の染色を、過酸化水素等の酸化剤を用いずに酵素を利用して、簡便にかつ効率よく、アルカリ条件下においても行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】試験例3でCueOの酸化重合活性のpH依存性を評価した結果を示すグラフ
【図2】試験例4でCueOの酸化重合活性の温度依存性を評価した結果を示すグラフ
【図3】試験例6でCueOのpH安定性を評価した結果を示すグラフ
【図4】試験例7でCueOの熱安定性を評価した結果を示すグラフ
【図5】試験例8でCueOの熱安定性の経時的変化を評価した結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CueO、銅イオン、及び、酸化染料を含有することを特徴とするケラチン繊維染色用組成物。
【請求項2】
CueOは、Escherichia coliに由来するものである請求項1記載のケラチン繊維染色用組成物。
【請求項3】
CueOは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むものである請求項1記載のケラチン繊維染色用組成物。
【請求項4】
銅イオンは、2価の銅の無機塩である請求項1〜3のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
【請求項5】
さらに、アルカリ性化合物を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
【請求項6】
ケラチン繊維が毛髪である請求項1〜5のいずれかに記載のケラチン繊維染色用組成物。
【請求項7】
酸素含有雰囲気下、CueO及び銅イオンの存在下に、ケラチン繊維と酸化染料とを接触させることを特徴とする、ケラチン繊維の染色方法。
【請求項8】
上記接触を、アルカリ条件下で行う請求項7記載の染色方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112792(P2007−112792A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254635(P2006−254635)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】