説明

ゲル状組成物の製造方法

【課題】冷却工程においてラメラ構造を破壊することなく冷却処理が可能なラメラ構造を有するゲルの製造方法を提供すること。
【解決手段】高温で形成された液晶又はゲルの流動体を室温まで冷却する工程を備えた、ラメラ構造を有するゲルの製造方法である。管状のケーシング41内に、駆動軸42と、該駆動軸42に取り付けられた攪拌羽根43とからなる攪拌体44を備え、該駆動軸42が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置40を用いて冷却を行う。振動式攪拌混合装置40内を通過させることで前記流動体を連続的に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料等に特に好適に用いられる、ラメラ構造を有するゲル状組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリームに代表される化粧料ではエマルション剤型が一般的である。近年、両親媒性分子と水で形成されるリオトロピック液晶がエマルション化粧料の生成に寄与することが知見されている。そのような知見に基づき、微細な乳化粒子を得るために、液晶中に油相を直接添加し分散させて、ゲル状のO/LC(液晶中油)型エマルションを得た後、残りの水相を加えてO/Wエマルションとすることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、(A)ホスファチジルコリンの含有量が50質量%以上である水素添加リン脂質と、水溶性多価アルコールとを60〜85℃で加熱混合して得られるゲル状混合物に水を加えてラメラ液晶を形成させ、その後(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール及び油相を添加し、更に60〜85℃に加熱した水相を添加して混合攪拌した後、室温まで冷却して得られる水中油型乳化粧料が記載されている。
【0004】
また、皮膚内に存在するセラミドの類縁体が形成するラメラ形成能を活かし、ラメラ液晶型の剤型からなる化粧料も提案されている。例えば特許文献2には、セラミドやグルコシルセラミド等、多価アルコール、ステロール化合物を含有してなるラメラ構造を有する液晶組成物を皮膚化粧料として用いることが記載されている。この液晶組成物は、前記の各成分を混合して70〜90℃で5〜10分加温した後、ゲル状の混合物となるまで冷却混合攪拌することによって製造される。
【0005】
上述した化粧料の製造工程においては、通常、原料成分を加熱下に混合して液晶構造を形成し、次いで攪拌しながら冷却する操作が行われる。しかし、冷却攪拌条件によっては冷却工程中に加熱下で形成したラメラ構造が破壊される場合がある。ラメラ構造が破壊されると、化粧料の使用感や保存安定性が低下するといった不都合が生じる場合がある。
【0006】
【特許文献1】特開2007−314442号公報
【特許文献2】特開2000−264826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るラメラ構造を有するゲルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高温で形成された液晶又はゲルの流動体を冷却する工程を備えた、ラメラ構造を有するゲルの製造方法であって、
管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、該駆動軸が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置を用い、該振動式攪拌混合装置内を通過させることで前記流動体を連続的に冷却する工程を備えた、ラメラ構造を有するゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却工程においてラメラ構造を破壊することなく冷却処理が可能である。その結果、使用感が良好で、かつ保存安定性に優れたラメラ構造を有するゲルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の方法に好適に用いられる装置の概略図が示されている。図1に示す装置10は、加熱混合部20及び冷却部30に大別される。加熱混合部20には、目的とするラメラ構造を有するゲルの配合原料のすべて又は一部が充填され、充填された原料を加熱下に混合するために用いられるものである。冷却部30は、加熱混合された流動体を冷却し、目的とするラメラ構造を有するゲルを得るために用いられるものである。
【0011】
加熱混合部20は混合タンク21を備えている。混合タンク21は、ジャケット22によって加熱又は冷却され、所定温度に調整される。混合タンク21内には攪拌翼23が設置されている。攪拌翼23は、シャフト24を介して混合タンク21外に設置されたモータ25に接続されており、回転可能になっている。混合タンク21の底部には、該タンク21内で混合された流動体を取り出すための管26が接続されている。管26は弁27を介してモーノポンプ(登録商標、兵神装備(株))等からなる定量ポンプ28に接続されている。定量ポンプ28は、管29を通じて流動体を冷却部30に定量供給するために用いられる。
【0012】
冷却部30は、振動式攪拌混合装置40を備えている。振動式攪拌混合装置40は、略筒状の構造を有し、その一端側に、管29に接続された流入口31を有し、他端側に吐出口32を有している。吐出口32は吐出用管33に接続されている。加熱混合部20から供給された流動体は、流入口31を通じて振動式攪拌混合装置40内に供給され、該装置40内を通過し、吐出口32を通じて吐出用管33の端部から吐出される。該流動体は、振動式攪拌混合装置40内を通過する間に、更に混合されると共に連続的に冷却される。連続的な冷却を行うために、振動式攪拌混合装置40は、その略筒状の構造の外側に、流入口31側から吐出口32側に向けて4つのジャケット34,35,36,37がこの順で取り付けられている。各ジャケットにはそれぞれ冷却水が循環するようになっている。冷却水の温度は、適宣設定することが可能であり、これらのジャケットによって、流動体を流入口31側から吐出口32側に向けて連続的又は段階的に冷却することができる。
【0013】
図2には、振動式攪拌混合装置40の縦断面の模式図が示されている。装置40は、管状のケーシング41内に、駆動軸42と、該駆動軸42に取り付けられた攪拌羽根43とからなる攪拌体44を備えている。駆動軸42は、バイブレータ45aによって軸方向に沿って上下振動するようになされている。
【0014】
ケーシング41は、その横断面が円形である管状のものであり、その下部付近に流入口31が設けられている。ケーシング41の上部付近には吐出口32が設けられている。流入口31から流入した流動体は、ケーシング41内を通り、吐出口32から吐出される。
【0015】
ケーシング41内には、上述の攪拌体44が配されている。攪拌体44の駆動軸42は、ケーシング41の長手方向(縦方向)に延びている。駆動軸42の上端は、ジョイント45bを介してバイブレータ45aに接続されている。バイブレータ45aは、モータ(図示せず)とその出力軸に接続された公知のカム機構(図示せず)を備えている。カム機構は、回転部(図示せず)と揺動部(図示せず)からなる。回転部は、モータの出力軸に対して偏心して取り付けられている。揺動部は、回転部の偏心回転によって揺動するようになっている。そして、揺動部の揺動が駆動軸42に上下振動として伝達される。
【0016】
ケーシング41の内壁には、円環状の仕切部46が複数設けられている。仕切部46はいずれも同形であり、ケーシング41の内壁から水平方向へ突出している。仕切部46の中央に形成された円孔には、駆動軸42が挿入される。この円孔の直径は、駆動軸42の直径よりも大きくなっている。隣り合う2つの仕切部によってケーシング41の内部は複数の混合室47が画成される。混合室47は、ケーシング41の長手方向(縦方向)に沿って直列配置される。
【0017】
図3(a)及び(b)には、攪拌体44の要部拡大図が示されている。攪拌体44は、駆動軸42とその周面に螺旋状に取り付けられた攪拌羽根43とを備えている。同図においては、攪拌羽根43は3周の螺旋状に取り付けられている。この状態の攪拌体44を一組として、ケーシング内には、各混合室47内に攪拌体44が配されている。したがって攪拌体44の組数は、混合室47の数と同じになっている。それぞれの組の攪拌体44において、攪拌羽根43の螺旋の方向は同じになっている。
【0018】
それぞれの組の攪拌体44における攪拌羽根43には1個以上の開孔48及び/又は1個以上の切り欠き49が設けられている。開孔48及び切り欠き49は、攪拌体44を駆動軸42の軸心方向からみたときに(図3(a)参照)、上下で隣り合う攪拌羽根どうしで形成位置が一致しないように設けられている。この理由は、軸方向での短絡流の発生を防止して、攪拌混合効果を高めるためである。
【0019】
以上のとおりの構成を有する振動式攪拌混合装置40としては、例えば特開平4−235729号公報に記載のもの等を用いることができる。また振動式攪拌混合装置40として市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えば冷化工業(株)製のバイブロミキサー(登録商標)が挙げられる。
【0020】
以上の構成を有する装置10を用いたゲルの製造方法について説明すると、先ず混合タンク21内に目的とするラメラ構造を有するゲルの配合原料のすべて又は一部を充填する。ラメラ構造を有するゲルの配合原料の一部を充填する場合には、該配合原料の残部は、後述するように、振動式攪拌混合装置40の途中から供給することができる。
【0021】
混合タンク21に充填される配合原料には、ラメラ構造のゲル状物質を形成する組成物が少なくとも含まれている。ラメラ構造のゲル状物質を形成する組成物には、αゲルを形成する組成物が包含される。以下、これらの組成物を総称してラメラゲル形成性組成物と言う。ラメラゲル形成性組成物の種類によっては、ラメラゲル形成性組成物の中和剤(例えば脂肪酸の中和剤)等も配合原料の一種として添加される。
【0022】
前記のαゲルとは、一般に、ラメラゲル形成性組成物として、界面活性剤のような親水基及び親油基を有する化合物を用いた場合に形成されるものであり、六方晶形のα型構造(ヘキサゴナル)の層間に水を多量に保持した状態のゲルのことである。
【0023】
ラメラゲル形成性組成物は一般に25℃において固体である成分を含んでいる。配合原料の充填が完了したら、混合タンク21を高温加熱して配合原料中に含まれているラメラゲル形成性組成物を溶融状態にする。加熱温度は、ラメラゲル形成性組成物に含まれる成分の融点や液晶−ゲル相転移温度に応じて適宜設定することができる。一般的にはラメラゲル形成性組成物中で一番高い融点を有する成分の融点よりも高い温度に設定すれば良く、液晶−ゲル相転移温度以下であっても、それ以上の温度であっても良い。ラメラゲル形成性組成物に含まれる成分の融点や液晶−ゲル相転移温度は、示差走査熱量測定(DSC法)で決定することができる。加熱によってラメラゲル形成性組成物が融解し、この状態下に攪拌翼23を回転させることで混合タンク21内を攪拌し、ラメラゲル形成性組成物の各成分を十分に均一混合させる。この状態での流動体にはラメラ液晶又は、ラメラゲルの構造が発現している。
【0024】
混合タンク21には、予め高温加熱によって形成されたラメラ液晶の流動体又はラメラゲルの流動体を、攪拌羽根23で攪拌下に導入してもよい。
【0025】
ラメラ液晶又はラメラゲルの流動体が十分に形成されたら、混合タンク21の底部に取り付けられた弁27を開き、タンク21内の流動体を取り出す。流動体は定量ポンプ28に導入され、その一定量が振動式攪拌混合装置40に供給される。また、定量ポンプ28には、該流動体が振動式攪拌混合装置40内を通過するための押し出し圧力源としての働きもある。振動型攪拌装置40へ導入される流動体の粘度は、導入される温度において、剪断速度=100s-1のとき、1〜10000mPa・s、特に10〜1000mPa・sであることが好ましい。
【0026】
なお、図1には示していないが、混合タンク21で得られた流動体を直接に振動式攪拌混合装置40へ供給することに代えて、インラインホモミキサーやマイルダー等の連続式分散装置を通過させた後に振動式攪拌混合装置40へ供給してもよい。
【0027】
振動式攪拌混合装置40には、上述のとおり、その略筒状の構造の外側に、4つのジャケット34,35,36,37が取り付けられている。それぞれのジャケットには、所定温度の冷却水が循環して、流動体の冷却のための熱交換が行われる。例えば、ジャケット34には熱水が循環し約80℃に保たれており、ジャケット35は約50〜40℃に保たれている。残りの二つのジャケット36,37はいずれも10〜0℃に保たれている。つまり振動式攪拌混合装置40には、その流入口31側から吐出口32側に向けて低下する温度勾配が設けられている。
【0028】
振動式攪拌混合装置40においては攪拌体44がその軸方向に沿って上下に振動することで、ケーシング41内を通過する流動体が攪拌体44に沿った流れと、攪拌羽根43に設けられた開孔48及び切り欠き49を通る流れの乱れによって混合される。ジャケット34に対応する位置に存在する流動体は、該ジャケット34が約80℃に保たれていることから流動性が高い状態になっているので、攪拌体44の振動によって混合が促進されて、上述の混合タンク21内での混合に引き続き再分散が行われる。
【0029】
次いで流動体は、ジャケット35に対応する位置まで押し出される。この位置の温度は、ジャケット34に対応する位置の温度よりも低いので、流動体は冷却されて、その流動性が低下する。冷却中に流動体の温度が該流動体の液晶−ゲル相転移温度以下になる場合は、ラメラ液晶からラメラゲルへの相転移が生じ、更に流動性が低下する。流動体の流動性が大きく低下しても、流動体は、攪拌体44に沿った流れと、攪拌羽根43に設けられた開孔48及び切り欠き49を通る流れの乱れによって混合されながら冷却されるので、冷却むらが生じにくくなる。また混合されることで熱伝導性が良好になり、例えば従来用いられていたバッチ式攪拌装置による冷却よりも冷却速度が速くなる。更に振動式攪拌混合装置40内にはデッドスペースが殆ど存在しないので、攪拌むらが生じにくい。しかも振動式攪拌混合装置40は、バッチ式攪拌装置を用いた従来法と異なり、流動体の流動性が高い場合でも低い場合でも良好な攪拌混合を行うことができる。また、振動式攪拌混合装置40を用いた混合及び冷却は、低剪断応力下に行われる。振動式攪拌混合装置40が有するこれらの利点は、流動体に含まれるラメラ構造の維持という好ましい効果をもたらす。その上、振動式攪拌混合装置40は、発熱量が小さいので、温度制御が容易であるという点からも有利である。
【0030】
ジャケット35に対応する位置で冷却された流動体は、次いでジャケット36,37に対応する位置へ順次押し出され、当該位置で更に冷却される。このようにして、流動体は連続的に冷却され、ラメラ構造が維持されたゲルが、振動式攪拌混合装置40の吐出口32を経て吐出用管33から吐出される。この状態でのゲルの温度は25〜30℃となる。
【0031】
なお、目的とするゲル中に熱に弱い成分が含まれている場合や、熱によりゲルに悪影響を与える成分が含まれている場合には、当該成分を混合タンク21へ充填せず、振動式攪拌混合装置40の途中の位置から該装置40内に供給することで、熱に起因する不都合を回避することが可能である。例えば、ジャケット35に対応する位置においては、流動体はある程度冷却されているので、定量ポンプを用いて当該位置に前記の成分を供給することで、熱に起因する不都合を回避できる。振動式攪拌混合装置40による流動体の攪拌混合は、ほぼピストンフローなので、該装置40の途中から前記の成分を供給しても、該成分と流動体との混合を首尾良く行うことができる。前記の成分としては、例えばある種の活性剤、揮発成分、ラテックス、香料、植物性エキス、ワックス微分散物などの、温度変化しやすい成分が挙げられる。かかる成分の供給のために、振動式攪拌混合装置40の途中に補助注入口を1ヶ所又は複数設けることができる。
【0032】
振動式攪拌混合装置40を用いた冷却においては、平均冷却速度を0.1〜5℃/sに設定することが好ましい。平均冷却速度は、振動式攪拌混合装置40に流動体が入ったときの温度と出たときの温度の差を滞留時間で除した値である。また、振動式攪拌混合装置40の振動数は5〜30ストローク/sの範囲が好ましく、振幅は約4〜15mmであることが好ましい。更に、振動式攪拌混合装置40で冷却される間に与えられる総振動量は、50〜100000ストローク、特に200〜20000ストロークであることが好ましい。
【0033】
このようにして流動体が室温(25℃)まで冷却され、ラメラ構造が維持されたラメラゲル(αゲルを含む)が得られる。また、配合原料にラメラゲル相以外の相を形成する原料を含む場合には、ラメラゲル相以外の相にラメラゲル相が分散したラメラゲルの分散体、ラメラゲル相中に分散相が分散した分散体、又は、油相と水相の界面にラメラゲル相が存在する乳化物等が得られる。ラメラゲル形成性組成物は、ラメラゲル形成性組成物の種類や加熱混合温度、冷却中の温度に応じて、ラメラ液晶又はラメラゲルの状態となる。本製造方法による冷却工程では、ラメラ液晶相が相変化してラメラゲル相となるか、又はラメラゲル相がそのまま冷却される。ラメラ液晶−ラメラゲルの相転移温度は、製品の保存安定性の観点から、35〜80℃、特に40〜70℃であることが好ましい。ラメラ構造が維持されたゲル(αゲルを含む)、ラメラゲルの分散体、ラメラゲル相中に分散相が分散した分散体、又は、油相と水相の界面にラメラゲル相が存在する乳化物等は、これをそのまま用いて又は所望の成分を添加して化粧料となされる。このようにして得られた化粧料は、ラメラ構造に起因して使用感が良好であり、また保存安定性に優れたものとなる。
【0034】
次に、本発明で製造されるラメラゲルの原料について説明する。混合タンク21に充填される配合原料には、上述のとおり、ラメラゲル形成性組成物が少なくとも含まれる。ラメラゲル形成性組成物の代表的な成分は脂肪酸又はその塩や、脂肪族アルコールである。前記脂肪酸としては、平均炭素数12〜36、特に16〜22を有するものが好適に用いられる。特に好ましいものとしては、パルミチン酸、ステアリン酸、べへニン酸等が挙げられる。脂肪酸が塩を形成する場合の対イオンとしては、特に制限されず、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、モルホリン等の有機アミン、その他L−アルギニン等の塩基性アミノ酸などが挙げられる。脂肪酸又はその塩は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
脂肪族アルコールとしては、平均炭素数12〜36、特に18〜24を有するものが好適に用いられる。特に好ましいものとしては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、2−オクチルラウリルアルコール、2−ヘキシルデシルアルコール、イソステアリルアルコールが挙げられる。これらの脂肪族アルコールは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
配合原料には、ラメラゲル形成性組成物以外の成分を添加することもできる。例えばラメラゲル形成性組成物が脂肪酸又はその塩を含む場合には、その中和剤を添加することができる。中和剤としては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、モルホリン等の有機アミン、その他L−アルギニン等の塩基性アミノ酸等を用いることができる。中和剤は、脂肪酸又はその塩に対して0.1〜1倍モル、特に0.2〜0.6倍モル添加されることが液晶を首尾良く形成し得る点から好ましい。
【0037】
ラメラゲル形成性組成物が脂肪族アルコールを含む場合には、三級アミン又はその塩や、四級アンモニウム塩を添加することができる。三級アミン又はその塩としては、例えばR1−O−(CH23NR23で表される化合物又はその塩を用いることができる。式中、R1は、炭素数12〜24、特に炭素数14〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を表し、特にアルキル基が好ましい。R2及びR3は、炭素数1〜6のアルキル基及び−(CH2CH2O)nH(nは1〜3、特に1が好ましい)を表し、更にR2及びR3の少なくとも一方が、特に双方が、炭素数1〜6のアルキル基、特にメチル基又はエチル基であることが好ましい。三級アミンの好ましい具体例としては、N,N−ジメチル−3−ヘキサデシルオキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−オクタデシルオキシプロピルアミンが挙げられる。三級アミンの塩としては、無機酸及び有機酸のいずれの塩でもよい。無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸;ポリグルタミン酸等のポリカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸などが挙げられる。これらのうち、無機酸(特に塩酸)、ジカルボン酸(特にマレイン酸、コハク酸)、ヒドロキシカルボン酸(特にグリコール酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸)、酸性アミノ酸(特にグルタミン酸)が好ましい。三級アミン又はその塩は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。脂肪族アルコールの配合量は、三級アミン又はその塩に対して0.5〜20倍モル、特に2〜7倍モルであることが好ましい。また、三級アミンの塩を用いる場合、前記の無機酸又は有機酸の配合量は、三級アミンに対して、0.1〜4倍モルが好ましい。
【0038】
四級アンモニウム塩としては、例えばR1(CH33+-で表される化合物を用いることができる。式中、R1は炭素数が好ましくは12〜28、更に好ましくは16〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を表す。X-は、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオン、メトサルフェート、エトサルフェート、メトフォスフェート、エトフォスフェート、メトカーボナート等の有機陰イオン等が挙げられ、ハロゲンイオンが好ましく、特に塩素イオンが好ましい。四級アンモニウム塩の好ましい具体例は、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化アラキルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム等である。四級アンモニウム塩は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。脂肪族アルコールの配合量は、四級アンモニウム塩に対して0.5〜20倍モル、特に2〜7倍モルであることが好ましい。
【0039】
配合原料には界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、化粧品一般に用いられる非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
配合原料には、上述の成分に加えて他の成分を配合することもできる。例えば化粧料としてマスカラを製造する場合には、上述の脂肪酸又はその塩や中和剤に加えて、特開2004−10496号公報や特開2006−169194号公報に記載の成分を添加することができる。また、化粧料としてヘアリンス等の毛髪化粧料を製造する場合には、上述の脂肪族アルコールや三級アミン若しくはその塩又は四級アンモニウム塩に加えて、特開2002−29937号公報や特開2004−67534号公報に記載の成分を添加することができる。
【0041】
本発明の製造方法の対象となる化粧料としては、前記のマスカラやヘアリンスの他に、ヘアコンディショナー、ヘアワックス、化粧クリーム、ジェル化粧料等が挙げられる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、振動式攪拌混合装置40を一台用いたが、これに代えて、図4に示すように、振動型攪拌混合装置40、40’を2台以上直列に連結して使用することができる。この場合、下流側に位置する2台目の振動型攪拌混合装置40’の途中から、熱に弱い成分等を供給することで、攪拌条件と該成分の混合条件等をそれぞれ別個に適切に選択することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
図1ないし図3に示す装置を用いて、以下の表1の組成を有するαゲルを調製した。先ず、1〜6の成分を80℃で加熱溶解し水相とした。別途、8〜9の成分を80℃で溶解し油相とした。同じ温度(80℃)で水相に油相を添加し、ホモミキサーで分散しながら7の成分を添加し、ラメラ液晶の流動体とした。このラメラ液晶の流動体を同じ温度(80℃)で振動式攪拌混合装置(冷化工業(株)製のバイブロミキサー)へ定量ポンプで供給し、装置内で攪拌しながら連続的に30℃以下まで冷却し、ラメラ構造を有するゲルを得た。振動式攪拌混合装置においては、ジャケット34の温度は80℃、ジャケット35の温度は45℃、ジャケット36の温度は0℃、ジャケット37の温度は0℃に設定した。平均冷却速度は0.7℃/sであった。また振動式攪拌混合装置の振動数は、5ストローク/s、振幅は約5mm、総振動量は210ストロークであった。得られたラメラ構造を有するゲル(X線回折パターンからα型構造であることが分かった)の微分干渉顕微鏡写真を図5に示す。また、対象として、振動式攪拌混合装置を用いず、室温での静置放冷(放冷時間:3時間)によって得られたゲル組成物の微分干渉顕微鏡像を図6に示す。図5と図6との対比から、本発明の方法によれば、静置放冷状態に近いラメラ構造を有するゲルが短時間で得られることが分かる。
【0045】
【表1】

【0046】
上述したαゲルの調製時に、ジャケット36に対応する位置から、以下の表2に示すワックス微分散液を、同表に示す比率で連続混合してマスカラベース化粧料を得た。ワックス微分散液の調製方法は次のとおりである。85℃の加熱下で、同表に示すワックス微分散液の各成分を、ホモミキサーによって回転数5000rpmで乳化分散後、振動式攪拌混合装置(冷化工業(株)製のバイブロミキサー)へ定量ポンプで供給した。装置内で攪拌しながら連続的に30℃以下まで冷却し、ワックス微分散液を得た。振動式攪拌混合装置においてはジャケット34の温度は85℃、ジャケット35の温度は45℃、ジャケット36の温度は0℃、ジャケット37の温度は0℃に設定した。平均冷却速度は0.7℃/sであった。また振動式攪拌混合装置の振動数は、30ストローク/s、振幅は約5mm、総振動量は1260ストロークであった。得られたマスカラベース化粧料は、ラメラゲル相にワックス微粒子が分散していた。
【0047】
【表2】

【0048】
〔実施例2ないし4〕
振動式攪拌混合装置の振動数を10ストローク/s(実施例2)、20ストローク/s(実施例3)、30ストローク/s(実施例4)とする以外は実施例1と同様にしてゲル状組成物及びマスカラベース化粧料を得た。微分干渉顕微鏡による観察で、これらのラメラ構造を有するゲルはラメラ構造が破壊されていないことが確認された。
【0049】
〔比較例1及び2〕
実施例1で用いた振動式攪拌混合装置に代えて、プライミクス株式会社(株)製の真空乳化機であるT.K.アヂホモミクサー(登録商標)を用いて冷却を行った。回転数は5000rpm(比較例1)及び1500rpm(比較例2)であった。これ以外は実施例1と同様にしてゲル状組成物及びマスカラベース化粧料を得た。得られたゲル組成物の微分干渉顕微鏡像を図7及び図8に示す。図7及び図8と、先に述べた図5との対比から、比較例の方法を用いると、ラメラ構造が破壊されることが判る。
【0050】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたゲル状組成物について、粘度測定及び保存安定性評価を以下の方法で行った。またマスカラベース化粧料について、その使用感を以下の方法で評価した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0051】
〔ゲル状組成物の粘度の測定〕
レオメーター(PHYSICA社製 MCR300)を用いて、25℃における、剪断速度=100s-1での粘度を測定した。
【0052】
〔ゲル状組成物の保存安定性の評価〕
ゲルを蓋付きのガラス容器に入れて密封し、40℃で1ヶ月静置保存後の様子を、以下の基準で評価した。
◎:全く離水していない
○:若干離水している
×:離水している
【0053】
〔マスカラ化粧料の使用感の評価〕
10人の専門パネラーに、まつ毛に自由にマスカラベースを塗布させ、その使用感をパネラー自身に評価させた。評価基準は以下のとおりである。
◎:満足
○:やや満足
△:普通
×:不満
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示す結果から明らかなように、本発明の方法によれば、比較例の方法に比べ、粘度が高く、それに起因して保存安定性が高いマスカラベース化粧料が得られることが判る。また、化粧料の使用感が良好になることが判る。
【0056】
〔実施例5〕
図1ないし図3に示す装置を用いて、以下の表4の組成を有するヘアコンディショナーを調製した。11と2の成分を70℃で加熱溶解し水相とした。1及び3〜10の成分を70℃で溶解し油相とした。水相に油相を添加しホモミキサーで分散してラメラゲルの流動体とした。このラメラゲルの流動体を振動式攪拌混合装置(冷化工業(株)製のバイブロミキサー)へ定量ポンプで供給し、装置内で攪拌しながら連続的に30℃以下まで冷却し、ヘアコンディショナーを得た。振動式攪拌混合装置においてはジャケット34の温度は80℃、ジャケット35の温度は45℃、ジャケット36の温度は0℃、ジャケット37の温度は0℃に設定した。平均冷却速度は0.7℃/sであった。また振動式攪拌混合装置の振動数は、5ストローク/s、振幅は約5mm、総振動量は210ストロークであった。
【0057】
【表4】

【0058】
〔実施例6ないし7〕
振動式攪拌混合装置の振動数を10ストローク/s(実施例6)、20ストローク/s(実施例7)、とする以外は実施例5と同様にしてヘアコンディショナーを得た。
【0059】
〔比較例3〕
実施例5で用いた振動式攪拌混合装置に代えて、プライミクス株式会社(株)製の真空乳化機であるT.K.アヂホモミクサー(登録商標)を用いて冷却を行った。回転数は5000rpmであった。これ以外は実施例5と同様にしてヘアコンディショナーを得た。
【0060】
〔官能評価〕
実施例及び比較例で得られたヘアコンディショナーについて、専門パネラー5名に、以下の表5に示す各評価項目に対する官能評価を行わせた。評価基準は以下のとおりである。その結果を以下の同表に示す。
◎:満足
○:やや満足
△:普通
×:不満
【0061】
〔ヘアコンディショナーの保存安定性の評価〕
ヘアコンディショナーを蓋付きのガラス容器で保存し、50℃で1ヶ月静置保存後の様子を、以下の基準で評価した。得られた結果を表5に示す。
◎:全く離水していない
○:若干離水している
×:離水している
【0062】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の製造方法を実施する好適な装置を示す概略図である。
【図2】図1に示す振動式攪拌混合装置の縦断面の模式図である。
【図3】図1に示す振動式攪拌混合装置における攪拌体の要部拡大図である。
【図4】本発明の製造方法を実施する別の好適な装置を示す概略図である。
【図5】実施例1で得られたゲル状組成物の微分干渉顕微鏡像である。
【図6】静置放冷で得られたゲル状組成物の微分干渉顕微鏡像である。
【図7】比較例1で得られたゲル状組成物の微分干渉顕微鏡像である。
【図8】比較例2で得られたゲル状組成物の微分干渉顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0064】
10 装置
20 加熱混合部
30 冷却部
40 振動式攪拌混合装置
41 ケーシング
42 駆動軸
43 攪拌羽根
44 攪拌体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温で形成された液晶又はゲルを含む流動体を冷却する工程を備えた、ラメラ構造を有するゲルの製造方法であって、
管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、該駆動軸が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置を用い、該振動式攪拌混合装置内を通過させることで前記流動体を連続的に冷却する工程を備えた、ラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項2】
前記流動体が脂肪酸及び/若しくはその塩又はアニオン性若しくはカチオン性界面活性剤を含有する請求項1記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸が、平均炭素数12〜36を有するものである請求項2記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項4】
前記流動体が脂肪族アルコールを含有する請求項1ないし請求項2記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項5】
前記脂肪アルコールが、平均炭素数12〜36を有するものである請求項4記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項6】
液晶−ゲルの相転移温度が、35〜80℃である請求項1ないし5のいずれかに記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項7】
前記振動式攪拌混合装置が、前記ケーシングの外側に冷却水の循環する冷却ジャケットを備え、前記流動体を、前記ケーシング内を通過させることで冷却する請求項1ないし6のいずれかに記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項8】
前記振動式攪拌混合装置を用いた冷却工程における平均冷却速度を0.1〜5℃/sとする請求項1ないし7のいずれかに記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項9】
前記振動式攪拌混合装置を用いた冷却工程における振動式攪拌混合装置の振動数が、5〜30ストローク/sである請求項1ないし8のいずれかに記載のラメラ構造を有するゲルの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の製造方法で得られたラメラ構造を有するゲル。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかに記載の製造方法で得られたラメラ構造を有するゲルを含む化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−53090(P2010−53090A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220816(P2008−220816)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】