説明

コバルト酸化物が残留したスパッタリングターゲット

【課題】必要量のコバルト酸化物が残存し、スパッタ時のパーティクル発生が少ない十分な焼結密度を有するスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Crが20mol%以下、残余がCoである強磁性合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非金属無機材料が占める体積率が40vol%以下で、前記非金属無機材料が少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。金属粉末と少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含む非金属無機材料粉末を粉砕・混合して得られた混合粉末を保持温度は800°C以下で加圧焼結装置により成型・焼結するスパッタリングターゲット用焼結体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲット、詳しくはグラニュラー構造を有する磁気記録膜の作製に用いられるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置に代表される磁気記録再生装置の分野では、磁化容易軸を記録面に対し垂直方向に配向させた垂直磁気記録方式が実用化されている。特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスク媒体では、高記録密度化と低ノイズ化のために、垂直方向に配向した磁性結晶粒子を非磁性材料で取り囲み、磁性粒子間の磁気的な相互作用を低減したグラニュラー構造を有する磁性膜が開発されている。
【0003】
上記のグラニュラー構造型磁性膜には、磁性粒子材料としてCo−Cr−Pt合金などのCoを主成分とした強磁性合金が、非磁性材料としてSiO、TiOなどの金属酸化物が一般に用いられている。
【0004】
また上記のグラニュラー構造型磁性膜を作製する方法としては、Co基合金と非磁性材料からなる複合スパッタリングターゲットをDCマグネトロンスパッタ装置にてスパッタリングする方法が知られている。下記に、Co−Cr−Pt合金を主成分とする強磁性材料に、非磁性材料を添加した公知文献を掲載する。
【0005】
一般に、Co基合金と非磁性材料からなる複合スパッタリングターゲットは、粉末冶金法によって作製される。これは非磁性材料粒子を合金素地中に均一に分散させる必要があるためである。例えば、急冷凝固法で作製した合金相を持つ合金粉末とセラミックス相を構成する粉末とをメカニカルアロイングし、セラミックス相を構成する粉末を合金粉末中に均一に分散させ、ホットプレスにより成形し磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
ところで、上記の複合スパッタリングターゲットをスパッタすると、金属酸化物が金属と酸素に分離し、分解した金属が磁性結晶粒子内に入り込むことで磁気特性が低下してしまうことがある。この問題を解決するために、特許文献2ではコバルト酸化物を適当量含有したスパッタリングターゲットをスパッタすることを提案している。
これはスパッタ時に分解した金属酸化物の金属元素が、コバルト酸化物が分解して生じた酸素と再結合することにより、安定して金属酸化物が磁性粒子間に偏析する効果を狙ったものである。
特許文献2のターゲットは、Co合金と、第1の酸化物を形成するTi酸化物及びSi酸化物と、第2の酸化物を形成するCo酸化物を含み、前記ターゲットの前記第1の酸化物の総量はモル分率で約12mol%以下であることが記載されているが、これは磁気記録媒体に関する発明で、ターゲットとして有効な組成範囲の規定がない。
【0007】
下記特許文献3には、Co及びPt又はCo、Cr及びPtと、SiO及び/又はTiOとCo及び/又はCoOとを含有するスパッタリングターゲットが記載されている。この場合、Co及び/又はCoOの含有量が0.1〜10mol%である。原料粉末を1000°C以下で焼結することにより、SiO、TiO、CoおよびCoO等の酸化物の還元を防止することができ、相対密度を94%以上とすることが記載されている。
また、1000°C以下で焼結することにより、CoOの還元を防止することができることが、また、段落[0022]に、酸化物としてBの開示はあるが、それを含むときの効果の記載はない。
【0008】
下記特許文献4には、ターゲットが酸化コバルトを含むことが記載され、実施例には、
89(63Co−17Cr−16Pt−4B)−4(TiO)−7(CoO)のターゲットが記載されている。実施例にB及びCoOを含有するターゲットが開示されているが、Bを添加させた意味や効果の記載がない。
【0009】
下記特許文献5には、ターゲットを、Coの酸化物と、Cr、Si、Ta、Al、Ti、W、Mgの群の中から選ばれる少なくとも1種類以上の非磁性金属とCoとの化合物を含むとともに、又ターゲット中に含有される酸素の比率を、垂直磁性層に含有させる酸素の比率よりも高い比率とすることが記載され、実施例には、53.5モル%Co−8.4モル%CoSi−38.2モル%CoOのターゲット、13モル%Co−15モル%Cr−16モル%Pt−49モル%CoO−7モル%CoSiのターゲットの記載がある。しかし、Bは含有せず、ターゲットとして有効な組成範囲の開示はない。
【0010】
下記特許文献6には、ターゲットは、Co合金と、Si,Ti,Ta,Cr,W,Nbの酸化物からなるグループから選択された1以上の第1の酸化物と、第2の酸化物を構成するCo酸化物を含むことを特徴とする磁気記録媒体が記載されているが、ターゲットとして有効な組成範囲の規定がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−088333号公報
【特許文献2】特開2009−238357号公報
【特許文献3】国際公開WO2010074171号公報
【特許文献4】特開2010−118115号公報
【特許文献5】特開2010−176727号公報
【特許文献6】特開2009−170052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に上記のスパッタリングターゲットは、粉末原料を真空雰囲気中で900℃以上の温度で加圧焼結して作製される。ところがコバルト酸化物を含む場合、900℃以上に加熱すると、コバルト酸化物の分解が始まる。特に合金の成分にCrなどのコバルト酸化物より標準生成自由エネルギーの小さい元素を含む場合、900℃未満の温度でもコバルト酸化物はこれらの元素により還元されることがある。それ故必要量のコバルト酸化物をターゲット中に残存させることは困難である。
【0013】
一方、焼結の温度を800℃以下にすればコバルト酸化物の残存する割合は増えるものの、粉末の焼結が進まず低密度の焼結体しか得られない。この場合スパッタ時にパーティクル(基板上に付着したゴミ)が大幅に増えるといった問題が生じる。
【0014】
本発明は上記問題を鑑みて、必要量のコバルト酸化物が残存し、スパッタ時のパーティクル発生が少ない十分な焼結密度を有するスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、ターゲット中にBを少量添加し、800℃以下の温度で加圧焼結することにより、必要量のコバルト酸化物が残存し、十分な焼結密度を有するスパッタリングターゲットが得られることを見出した。
【0016】
このような知見に基づき、本発明は、
1)Crが20mol%以下、残余がCoである強磁性合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非金属無機材料が占める体積率が40vol%以下で、前記非金属無機材料が少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
2)Crが20mol%以下、Ptが30mol%以下、残余がCoである強磁性合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非金属無機材料が占める体積率が40vol%以下で、前記非金属無機材料が少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲットを提供する。
【0017】
また、本発明は
3)前記コバルト酸化物は、CoO、Co、Coのいずれか1種以上であることを特徴とする1)又は2)に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
また、本発明は、
4)前記ホウ素酸化物のスパッタリングターゲット中に占める体積率が5vol%以上、20vol%以下であることを特徴とする1)〜3)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
【0018】
また、本発明は、
5)前記ホウ素酸化物はBであることを特徴とする1)〜4)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
また、本発明は、
6)前記非金属無機材料が、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Ta、Ceから選択した1種以上の元素の酸化物を含むことを特徴とする1)〜5)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
【0019】
また、本発明は、
7)添加元素としてB、Ti、V、Nb、Mo、Ru、Ta、W、Ir、Auから選択した1元素以上を、合金中に15mol%以下含有することを特徴とする1)〜6)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
また、本発明は、
8)相対密度が90%以上であることを特徴とする、1)〜7)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
9)金属粉末と少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含む非金属無機材料粉末を粉砕・混合して得られた混合粉末を保持温度は800°C以下で加圧焼結装置により成型・焼結するスパッタリングターゲット用焼結体の製造法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスパッタリングターゲットを用いると、良好な磁気特性を有するグラニュラー構造型磁性膜を、パーティクル発生による歩留まり低下を招くことなく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットは、CoとCrを主成分とする合金と非金属無機材料粒子からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、非金属無機材料粒子がコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むものである。
【0022】
また本発明のスパッタリングターゲットは、Crが20mol%以下、残余がCoの合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、非金属無機材料が占める体積率は40vol%以下である。合金の組成と非金属無機材料の体積率を上記の範囲とするのは、垂直磁気記録方式を採用したハードディスク媒体の磁性層として好ましい組成だからである。
【0023】
即ち、この範囲内において、合金組成比および非金属無機材料の体積率は、磁性膜に要求される特性に応じて任意の組成を選択することができる。また、高い相対密度において、コバルト酸化物をターゲット中に残存させるという本発明の目的は、ホウ素酸化物をターゲット中に含有させることで達成できる。
これは、ホウ素酸化物の融点がコバルト酸化物の分解温度より十分低いため、コバルト酸化物の分解温度以下でもスパッタリングターゲットとして十分緻密な焼結素材を得ることができるためである。
【0024】
なお、前記Crは必須成分として添加するものであり、0mol%を除く。すなわち、少なくとも分析可能な下限値以上のCr量を含有させるものである。Cr量が20mol%以下であれば、微量添加する場合においても効果がある。本願発明は、これらを包含する。これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。
【0025】
上記の成分組成において、さらにPtを添加することができる。この場合も、0mol%を除く。すなわち、少なくとも分析可能な下限値以上のPt量を含有させるものである。Pt量が30mol%以下であれば、微量添加する場合においても効果がある。
本願発明は、これらを包含する。これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。
【0026】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、コバルト酸化物として、CoO、Co、Coのいずれか1種以上を用いることができる。いずれのコバルト酸化物を使用した場合でも、本発明はターゲット中にコバルト酸化物として残存させることができる。
また、本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲット中のホウ素酸化物の体積率を、5vol%以上、20vol%以下とすることが好ましい。5vol%以上とするのは、これより少ないとホウ素酸化物添加の効果が十分に得られず焼結体密度が上がりにくくなるためである。また20vol%以下とするのはそれより多いと、磁気記録膜としての特性を損なう恐れがあるためである。
【0027】
ホウ素酸化物とは、主として、三酸化二ホウ素(B)のことであるが、酸化ホウ素(BO)、酸化二ホウ素(BO)、酸化六ホウ素(BO)、その他の高ホウ素酸化物などを使用することができる。さらに、酸素過剰、ホウ素過剰などの場合でもよい。本願発明においては、いずれも三酸化二ホウ素(B)と同等の効果を有するので、本願発明はこれらを全て包含するものである。
【0028】
また本発明のスパッタリングターゲットは、非金属無機材料として、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Ta、Ceから選択した1種以上の元素の酸化物を用いることができる。これらの酸化物はコバルト酸化物より標準生成自由エネルギーが大きく、スパッタ時にコバルト酸化物が分解して生じた酸素と再結合して酸化物となって粒界に析出するため、磁性層の材料として好適である。
また、本発明のスパッタリングターゲットは合金中に添加元素としてB、Ti、V、Nb、Mo、Ru、Ta、W、Ir、Auから選択した1元素以上を、15mol%以下割合で含有することができる。これらの元素は磁気記録膜の特性をさらに向上させるために必要に応じて添加されるものである。
【0029】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、密度不足によるパーティクル発生を抑制するために、ターゲットの相対密度を90%以上とすることができる。より好ましくは95%以上である。
ここでの相対密度とは、スパッタリングターゲットの実測密度を計算密度(理論密度ともいう)で割り返して求めた値である。計算密度とはターゲットの構成成分が互いに拡散あるいは反応せずに混在していると仮定したときの密度で、次式で計算される。
式:計算密度=Σ(構成成分の分子量×構成成分のモル比)/Σ(構成成分の分子量×構成成分のモル比/構成成分の文献値密度)
ここでΣは、ターゲットの構成成分の全てについて、和をとることを意味する。なお、スパッタリングターゲットの実測密度はアルキメデス法で測定される。
【0030】
出発原料としては金属粉末と非金属無機材料粉末を用いる。金属粉末は最大粒径が20μm以下のものを用いることが望ましい。また、単元素の金属粉末だけでなく、合金粉末を用いることもできる。その場合も最大粒径が20μm以下とすることが望ましい。
一方、粒径が小さ過ぎると、金属粉末の酸化が促進されて成分組成が範囲内に入らないなどの問題があるため、0.5μm以上とすることがさらに望ましい。
また、コバルト酸化物とBを含む非金属無機材料粉末は合金中に微細分散させる必要があるため、最大粒径が5μm以下のものを用いることが望ましい。一方、粒径が小さ過ぎると凝集しやすくなるため、0.1μm以上のものを用いることがさらに望ましい。
【0031】
まず、上記の金属粉末と非金属無機材料粉末を所望の組成になるように秤量する。次に秤量した金属粉末と非金属無機材料粉末をボールミル等の既知の方法で粉砕・混合する。こうして得られた混合粉末をホットプレスで成型・焼結する。ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の保持温度は800℃以下に設定する。好ましくは750℃以下である。以上の工程により、本発明のスパッタリングターゲット用焼結体を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0033】
(実施例1)
実施例1では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末と平均粒径5μmのB粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。61Co−13.3Cr−9.5Pt−3.6SiO−7.6CoO−5B (mol%)
【0034】
次に秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度800°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0035】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は95%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の92%のCoOが残存していた。
【0036】
(比較例1)
比較例1では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。60Co−14Cr−10Pt−8SiO2−8CoO (mol%)
【0037】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は実施例1と同様の、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度800°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0038】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は78%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の94%のCoOが残存していた。
【0039】
(比較例2)
比較例2では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。60Co−14Cr−10Pt−8SiO2−8CoO (mol%)
【0040】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1000°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0041】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は95%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の97%のCoOが分解していた(3%しか残存していなかった)。
【0042】
これら実施例と比較例の結果を比較すると、Bを添加していない比較例1ではCoOの残存量は実施例1とほぼ同等であるものの、相対密度が非常に低く実用的に使用可能なものではない。一方、比較例2では実施例1と同等の密度のスパッタリングターゲットが得られたが、焼結温度が高く、CoOはほぼ全て分解していた。
【0043】
(実施例2)
実施例2では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのB粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。62.72Co−19.6Cr−13.72TiO−1.96Co−2B (mol%)。
【0044】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。
また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0045】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は93%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoの残存量を計算したところ、投入量の90%のCoが残存していた。
【0046】
(比較例3)
比較例3では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径3μmのCo粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。64Co−20Cr−14TiO−2Co(mol%)
【0047】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は実施例2と同様の、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は83%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoの残存量を計算したところ、投入量の92%のCoが残存していた。
【0048】
(比較例4)
比較例4では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径3μmのCo粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。64Co−20Cr−14TiO−2Co(mol%)
【0049】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1000°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0050】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は98%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoの残存量を計算したところ、投入量の99%のCoが分解していた(1%しか残存していなかった)。
【0051】
これら実施例と比較例の結果を比較すると、Bを添加していない比較例3ではコバルト酸化物の残存量は実施例2とほぼ同等であるものの、相対密度が非常に低く実用的に使用可能なものではない。
一方、比較例4では実施例2とほぼ同等の緻密なスパッタリングターゲットが得られたが、焼結温度が高くコバルト酸化物はほぼ全て分解していた。
【0052】
(実施例3)
実施例3では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径8μmのRu粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末と平均粒径5μmのB粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。62.64Co−4.35Cr−13.92Pt−6.09Ru−2TiO2−3SiO−6CoO−2B (mol%)
【0053】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0054】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は97%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の82%のCoOが残存していた。
【0055】
(比較例5)
比較例5では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径8μmのRu粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。61.05Co−4.24Cr−13.57Pt−5.94Ru−3.6TiO−3.8SiO−7.8CoO (mol%)
【0056】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は実施例1と同様の、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0057】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は71%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の83%のCoOが残存していた。
【0058】
(比較例6)
比較例6では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径8μmのRu粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのTiO粉末と平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。61.05Co−4.24Cr−13.57Pt−5.94Ru−3.6TiO−3.8SiO−7.8CoO (mol%)
【0059】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1050°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0060】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は96%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の99%のCoOが分解していた(1%しか残存していなかった)。
【0061】
これら実施例と比較例の結果を比較すると、Bを添加していない比較例5ではCoOの残存量は実施例3とほぼ同等であるものの、相対密度が非常に低く実用的に使用可能なものではない。一方、比較例6では実施例3と同等の密度のスパッタリングターゲットが得られたが、焼結温度が高く、CoOはほぼ全て分解していた。
【0062】
(実施例4)
実施例4では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径20μmのB粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径3μmのCr粉末と平均粒径1μmのCoO粉末と平均粒径5μmのB粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。組成は、次の通りである。64.24Co−8.8Cr−13.2Pt−1.76B−2SiO−2Cr−5CoO−3B (mol%)。
【0063】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。
また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0064】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は96%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の93%のCoOが残存していた。
【0065】
(比較例7)
金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径20μmのB粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径3μmのCr粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。63.14Co−8.65Cr−12.98Pt−1.73B−3SiO−3Cr−7.5CoO (mol%)。
【0066】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は実施例2と同様の、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度750°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は89%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の91%のCoOが残存していた。
【0067】
(比較例8)
比較例8では金属原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末と平均粒径5μmのCr粉末と平均粒径5μmのPt粉末と平均粒径20μmのB粉末を、非金属無機材料粒子粉末として平均粒径1μmのSiO粉末と平均粒径3μmのCr粉末と平均粒径1μmのCoO粉末を用意した。そして、これらの粉末を以下の組成比で秤量した。
組成は、次の通りである。63.14Co−8.65Cr−12.98Pt−1.73B−3SiO−3Cr−7.5CoO (mol%)
【0068】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合・粉砕した。次にボールミルから取り出した焼結用粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1100°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また保持終了後は自然冷却させた。こうして作製された焼結体を旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0069】
このときのスパッタリングターゲットの相対密度は98%であった。またターゲットから採取した小片をICP発光分光分析装置で組成分析し、その分析結果をもとにCoOの残存量を計算したところ、投入量の99%のCoOが分解していた(1%しか残存していなかった)。
【0070】
これら実施例と比較例の結果を比較すると、Bを添加していない比較例7ではコバルト酸化物の残存量は実施例4とほぼ同等であるものの、相対密度が非常に低く実用的に使用可能なものではない。
一方、比較例8では実施例4とほぼ同等の緻密なスパッタリングターゲットが得られたが、焼結温度が高くコバルト酸化物はほぼ全て分解していた。
【0071】
以上のとおり、本発明のスパッタリングターゲットは非金属無機材料としてBなどのホウ素酸化物を含有させることにより、コバルト酸化物が分解する温度よりも低い焼結温度で作製しても、十分な密度を有しているところに特徴がある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のスパッタリングターゲットを用いると、良好な磁気特性を有するグラニュラー型磁性膜を、パーティクル発生による歩留まり低下を招くことなく得ることができる。特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスク媒体における、高記録密度化と低ノイズ化に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crが20mol%以下、残余がCoである強磁性合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非金属無機材料が占める体積率が40vol%以下で、前記非金属無機材料が少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Crが20mol%以下、Ptが30mol%以下、残余がCoである強磁性合金と非金属無機材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非金属無機材料が占める体積率が40vol%以下で、前記非金属無機材料が少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記コバルト酸化物は、CoO、Co、Coのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記ホウ素酸化物のスパッタリングターゲット中に占める体積率が5vol%以上、20vol%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記ホウ素酸化物はBであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを提供する。
【請求項6】
前記非金属無機材料が、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Ta、Ceから選択した1種以上の元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
添加元素としてB、Ti、V、Nb、Mo、Ru、Ta、W、Ir、Auから選択した1元素以上を、合金中に15mol%以下含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
相対密度が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
金属粉末と少なくともコバルト酸化物とホウ素酸化物を含む非金属無機材料粉末を粉砕・混合して得られた混合粉末を保持温度は800°C以下で加圧焼結装置により成型・焼結するスパッタリングターゲット用焼結体の製造法。


【公開番号】特開2012−117147(P2012−117147A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231301(P2011−231301)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】