説明

コンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法

【課題】コンクリートポンプの起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きい場合でも、エンジン停止を回避し得、作業効率向上並びに操作性向上を図ることができ、更に、燃費改善をも図り得るコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法を提供する。
【解決手段】コンクリートポンプを停止状態から起動開始し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1まで上昇せしめる際の起動開始時上昇変化率を、コンクリートポンプの圧送負荷が大きい場合であってもエンジンが停止しない変化率とし、コンクリートポンプ運転中における作業時最低回転速度N1と作業時最高回転速度N2との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリートポンプ車は、図5に示される如く、シャシフレーム1上にデッキフレーム2を装架し、該デッキフレーム2の後端部側に、ホッパ3内のコンクリートを吸入して吐出するよう作動するコンクリートポンプ4を搭載し、且つ前記デッキフレーム2上の前端部における車両幅方向中央に旋回架台6を設置し、該旋回架台6上に旋回台7を旋回自在に装着し、該旋回台7の上端部に、折り畳み可能に連結された多段式のブーム5における最下段のブーム5の基端部を起伏自在に取り付け、更に、該各段のブーム5に沿わせて配管したコンクリート輸送管8を前記コンクリートポンプ4に接続し、該コンクリートポンプ4にて圧送されたコンクリートをコンクリート輸送管8内を通し、該コンクリート輸送管8の先端ホースより放出させてコンクリートの打設を行うことができるようになっている。
【0003】
一方、前記コンクリートポンプ4は、図6に示される如く、コンピュータ9によって電子制御されるエンジン10により切換器11を介して駆動されるようになっているが、前記コンピュータ9には、出力電圧を変化させることによってエンジン回転速度を制御するコントローラ12が接続され、コンクリートの打設作業時には、オペレータが無線操縦用の発信機13を操作することにより、その信号が受令機14で受信され、該受令機14で受信された信号に応じてコントローラ12から出力される出力電圧が変化し、コンピュータ9によってエンジン回転速度が電子制御され、コンクリートポンプ4が駆動されるようになっている。尚、図6中、15はコンクリートポンプ車の駆動輪であって、走行時には前記切換器11が駆動輪15側へ切り換えられ、該駆動輪15がエンジン10により切換器11を介して駆動されるようになっている。
【0004】
ここで、前記コンクリートポンプ4の運転・停止時におけるエンジン回転速度の変化の一例は、例えば、図7に示されるが、この場合、アイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1までのエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率と、オペレータ操作範囲内(即ちコンクリートポンプ4運転中における作業時最低回転速度N1と作業時最高回転速度N2との間)でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率は、図8に示される如く、互いに等しくなるよう設定されている。尚、コンクリートポンプ4運転中における作業時最低回転速度N1と作業時最高回転速度N2との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値は、前記オペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値と同一となるよう設定されている。
【0005】
又、前記コンクリートポンプ車の場合、燃料消費を抑えるため、コンクリートポンプ4の停止時には、エンジン回転速度は、自動的にアイドリング回転速度N0まで下降し待機するようになっており、その後の再起動時には、コンクリートポンプ4の停止前回転速度N1´まで自動で上昇するようになっている。
【0006】
尚、前述の如きコンクリートポンプ車に関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2002−276542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の如きコンクリートポンプ車の場合、コンクリートポンプ4の起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きいと、該コンクリートポンプ4の圧送負荷に対してエンジン回転速度の上昇が追いつかず、エンジン10が停止してしまうことがあった。
【0008】
しかも、現在では、コンクリートポンプ車におけるコンクリートポンプ4の操作は、発信機13を用いた無線操縦が主流で、オペレータはコンクリートポンプ車のブーム5先端で作業を行っているため、特に、高層ビルの建築現場等において、前述の如くエンジン10が停止してしまうと、そのたびにコンクリートポンプ車の運転室まで戻ってエンジン10を再始動しなければならず、作業効率が非常に悪くなるという欠点を有していた。
【0009】
このため、前述の如くエンジン10が停止してしまうことを避けるべく、例えば、図9及び図10に示されるように、アイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1までのエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率を大きくすることも可能ではあるが、このようにすると、前記オペレータ操作範囲内でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率も大きくなり、コンクリートポンプ4の吐出量を少しだけ増加させようとしても、該コンクリートポンプ4の吐出量がオペレータの意に反して跳ね上がり、吐出量の微調整がしにくく、操作性が悪くなってしまう虞があり、しかも、最適なエンジン回転速度での運転が困難となるため、消費燃料が多くなり、燃費の悪化にもつながる虞があった。
【0010】
又、前記アイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1までのエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率を大きくすると、前記オペレータ操作範囲内でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値も大きくなり、コンクリートポンプ4の吐出量を少しだけ減少させようとしても、該コンクリートポンプ4の吐出量がオペレータの意に反して急激に下がり、吐出量の微調整がしにくく、操作性が悪くなってしまう虞があった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、コンクリートポンプの起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きい場合でも、エンジン停止を回避し得、作業効率向上並びに操作性向上を図ることができ、更に、燃費改善をも図り得るコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、コンクリートポンプを停止状態から起動開始し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から作業時最低回転速度まで上昇せしめる際の起動開始時上昇変化率を、コンクリートポンプの圧送負荷が大きい場合であってもエンジンが停止しない変化率とし、
コンクリートポンプ運転中における作業時最低回転速度と作業時最高回転速度との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定することを特徴とするコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法にかかるものである。
【0013】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0014】
前述の如く構成すると、起動開始時上昇変化率が大きく設定されるため、仮にコンクリートポンプの起動開始時にその圧送負荷が大きかったとしても、該コンクリートポンプの圧送負荷に対してエンジン回転速度の上昇が追いつかなくなることが避けられ、エンジンが停止してしまう心配がない。
【0015】
このため、高層ビルの建築現場等において、コンクリートポンプ車におけるコンクリートポンプの操作を、発信機を用いた無線操縦により、オペレータがコンクリートポンプ車のブーム先端で行っている場合に、コンクリートポンプ車の運転室まで戻ってエンジンを再始動しなくて済み、作業効率を向上させることが可能となる。
【0016】
一方、コンクリートポンプ運転中における作業時最低回転速度と作業時最高回転速度との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定してあるため、コンクリートポンプの吐出量を少しだけ増加させたり或いは少しだけ減少させようとした場合に、該コンクリートポンプの吐出量がオペレータの意に反して跳ね上がったり或いは急激に下がったりせず、吐出量の微調整がしやすく、操作性が良好となり、しかも、最適なエンジン回転速度での運転が可能となるため、消費燃料の無駄が少なくなり、燃費の改善にもつながることとなる。
【0017】
前記コンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法においては、コンクリートポンプを停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から停止前回転速度まで自動的に上昇せしめる際の再起動時上昇変化率を、前記起動開始時上昇変化率と等しくすることができる。
【0018】
又、前記コンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法においては、コンクリートポンプを停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から停止前回転速度まで自動的に上昇せしめる際、アイドリング回転速度から作業時最低回転速度までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記起動開始時上昇変化率と等しくし、且つ作業時最低回転速度から作業時最高回転速度までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記オペレータ操作範囲上昇変化率と等しくすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法によれば、コンクリートポンプの起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きい場合でも、エンジン停止を回避し得、作業効率向上並びに操作性向上を図ることができ、更に、燃費改善をも図り得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図5〜図10と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図5〜図10に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1及び図2に示す如く、コンクリートポンプ4を停止状態から起動開始し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1まで上昇せしめる際の起動開始時上昇変化率を、コンクリートポンプ4の圧送負荷が大きい場合であってもエンジンが停止しない変化率とし、コンクリートポンプ4運転中における作業時最低回転速度N1と作業時最高回転速度N2との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定した点にある。
【0022】
本図示例の場合、前記コンクリートポンプ4を停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度N0から停止前回転速度N1´まで自動的に上昇せしめる際の再起動時上昇変化率は、前記起動開始時上昇変化率と等しくしてある。
【0023】
尚、前記再起動時上昇変化率は、オペレータの好みに応じて、図示していないスイッチの切換により適宜変更でき、例えば、図3及び図4に示す如く、コンクリートポンプ4を停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度N0から停止前回転速度N1´まで自動的に上昇せしめる際、アイドリング回転速度N0から作業時最低回転速度N1までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記起動開始時上昇変化率と等しくし、且つ作業時最低回転速度N1から作業時最高回転速度N2までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記オペレータ操作範囲上昇変化率と等しくすることも可能である。
【0024】
一方、オペレータ操作範囲上昇変化率は、図2及び図4の仮想線に示すように、オペレータの好みに応じて適宜調節できるようにしてあり、同様に、オペレータ操作範囲下降変化率もオペレータの好みに応じて適宜調節できるようにしてある。
【0025】
又、図2及び図4には、前記停止前回転速度N1´が、
N0<N1´<N2
である例を示しているが、図1及び図3の線図の終端部に示すように、作業時最高回転速度N2でコンクリートポンプ4の運転が停止された場合には、
N1´=N2
となり、この後の再起動時には、エンジン回転速度がアイドリング回転速度N0から停止前回転速度N1´即ち作業時最高回転速度N2まで自動的に上昇する形となる。
【0026】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0027】
前述の如く構成すると、起動開始時上昇変化率並びに再起動時上昇変化率が大きく設定されるため、仮にコンクリートポンプ4の起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きかったとしても、該コンクリートポンプ4の圧送負荷に対してエンジン回転速度の上昇が追いつかなくなることが避けられ、エンジン10が停止してしまう心配がない。
【0028】
このため、高層ビルの建築現場等において、コンクリートポンプ車におけるコンクリートポンプ4の操作を、発信機13を用いた無線操縦により、オペレータがコンクリートポンプ車のブーム5先端で行っている場合に、コンクリートポンプ車の運転室まで戻ってエンジン10を再始動しなくて済み、作業効率を向上させることが可能となる。
【0029】
一方、コンクリートポンプ4運転中における作業時最低回転速度N1と作業時最高回転速度N2との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定してあるため、コンクリートポンプ4の吐出量を少しだけ増加させたり或いは少しだけ減少させようとした場合に、該コンクリートポンプ4の吐出量がオペレータの意に反して跳ね上がったり或いは急激に下がったりせず、吐出量の微調整がしやすく、操作性が良好となり、しかも、最適なエンジン回転速度での運転が可能となるため、消費燃料の無駄が少なくなり、燃費の改善にもつながることとなる。
【0030】
こうして、コンクリートポンプ4の起動開始時や再起動時にその圧送負荷が大きい場合でも、エンジン10の停止を回避し得、作業効率向上並びに操作性向上を図ることができ、更に、燃費改善をも図り得る。
【0031】
尚、本発明のコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す線図である。
【図2】図1の例におけるエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を示す線図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例において再起動時上昇変化率を変えた例を示す線図である。
【図4】図3の例におけるエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を示す線図である。
【図5】コンクリートポンプ車の一例を示す側面図である。
【図6】コンクリートポンプの駆動系並びに制御系を示すブロック図である。
【図7】コンクリートポンプの運転・停止時における従来のエンジン回転速度の変化の一例を示す線図である。
【図8】図7の例におけるエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率とオペレータ操作範囲上昇変化率とを示す線図である。
【図9】コンクリートポンプの運転・停止時におけるエンジン回転速度の変化の一例において、アイドリング回転速度から作業時最低回転速度までのエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率を大きくした場合を示す線図である。
【図10】図9の例におけるエンジン回転速度の起動開始時上昇変化率及び再起動時上昇変化率とオペレータ操作範囲上昇変化率とを示す線図である。
【符号の説明】
【0033】
4 コンクリートポンプ
5 ブーム
6 旋回架台
7 旋回台
8 コンクリート輸送管
10 エンジン
11 切換器
12 コントローラ
13 発信機
14 受令機
N0 アイドリング回転速度
N1 作業時最低回転速度
N1´ 停止前回転速度
N2 作業時最高回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートポンプを停止状態から起動開始し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から作業時最低回転速度まで上昇せしめる際の起動開始時上昇変化率を、コンクリートポンプの圧送負荷が大きい場合であってもエンジンが停止しない変化率とし、
コンクリートポンプ運転中における作業時最低回転速度と作業時最高回転速度との間でのエンジン回転速度のオペレータ操作範囲上昇変化率の絶対値並びにオペレータ操作範囲下降変化率の絶対値をそれぞれ、前記起動開始時上昇変化率の絶対値より小さく設定することを特徴とするコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法。
【請求項2】
コンクリートポンプを停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から停止前回転速度まで自動的に上昇せしめる際の再起動時上昇変化率を、前記起動開始時上昇変化率と等しくした請求項1記載のコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法。
【請求項3】
コンクリートポンプを停止状態から再起動し、エンジン回転速度をアイドリング回転速度から停止前回転速度まで自動的に上昇せしめる際、アイドリング回転速度から作業時最低回転速度までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記起動開始時上昇変化率と等しくし、且つ作業時最低回転速度から作業時最高回転速度までのエンジン回転速度の再起動時上昇変化率を前記オペレータ操作範囲上昇変化率と等しくした請求項1記載のコンクリートポンプ車のエンジン回転速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−38070(P2010−38070A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203215(P2008−203215)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000198293)IHI建機株式会社 (96)
【Fターム(参考)】