説明

コンバータ

【課題】チョッパ型のコンバータにおいて、各スイッチング素子の冷却性能を保ちつつ、小型化および低コスト化を実現する。
【解決手段】コンバータ10は、制御装置30からの信号PWCに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧を直流電源Bの出力電圧以上の電圧に昇圧する。コンバータ10は、直流電源Bの正極に一端が結合されるリアクトルL1と、リアクトルL1の他端と正極線PL2との間に設けられる第1スイッチング素子Q1と、リアクトルL1の他端と直流電源Bの負極との間に設けられる第2スイッチング素子Q2とを備える。第1スイッチング素子Q1は、第2スイッチング素子Q2よりも、素子面積が小さくなるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバータに関し、より特定的には、2つのスイッチング素子とリアクトルから構成されるいわゆるチョッパ型のコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータを1つの駆動源とする電動車両が広く普及しつつある。通常、電動車両は、蓄電装置を備え、その蓄電装置から供給される電力を用いてモータを回転させることによって駆動力を得ている。通常、電動車両は、蓄電装置から入力される電圧を昇圧してモータに出力する昇圧コンバータを備える。昇圧コンバータとしては、たとえば、2つのスイッチング素子とリアクトルとからなるいわゆるチョッパ型のコンバータが採用されている。
【0003】
たとえば、特開2000−260937号公報(特許文献1)には、直流電源の正負極間に上下アームとして直列接続される上側、下側半導体スイッチ素子を備えた構造が開示される。この特許文献1では、上側、下側半導体スイッチ素子のうち、電位が変動しない側の半導体スイッチ素子のコレクタ面を冷却体に直接接合し、電位が変動する側の半導体スイッチ素子のコレクタ面を絶縁物を介して冷却体に熱的に結合する。特許文献1では、電位が変動する側の半導体スイッチ素子を、電位が変動しない側の半導体スイッチが接合される冷却体と同じ冷却体に熱的に結合することにより、当該半導体スイッチ素子のコレクタからケースまたは接地までの漂遊容量を低減する。これにより、ノイズの伝搬を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−260937号公報
【特許文献2】特許第3239728号公報
【特許文献3】特開平9−93935号公報
【特許文献4】特開2004−186504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、電位が変動する側の半導体スイッチ素子の冷却体からケースまたは接地までに漂遊する容量が大きいことから大きなノイズフィルタが必要とされるところ、当該半導体スイッチ素子のコレクタ面を絶縁物を介して冷却体に結合することによって漂遊容量を低減できるため、2つの半導体スイッチ素子の冷却体を共通とすることができ、小型軽量化および低コスト化を図ることができる。また、上記の特許文献1では、電位が変動する側の半導体スイッチ素子の面積またはチップ数を、電位が変動しない側の半導体スイッチ素子のそれよりも大とする。
【0006】
一方、チョッパ型のコンバータでは、直流電源の正負極間に上下アームとして直列接続される2つの半導体スイッチ素子を互いに逆の状態となるようにスイッチング動作させることにより、直流電源から供給された直流電圧を昇圧してモータに出力する。このとき、各半導体スイッチ素子のオンデューティは、コンバータの入力側電圧と出力側電圧との費であるデューティ指令値に従って制御される。そのため、上アームを構成する半導体スイッチ素子と、下アームを構成する半導体スイッチ素子とでは、デューティ指令値に応じて、半導体スイッチ素子のオン期間に流れる電流および半導体スイッチ素子に発生する損失が異なってくる。上記の特許文献1は、電位が変動する側の半導体スイッチ素子のコレクタから放射されるノイズを低減するために、電位が変動する側の半導体スイッチ素子を、電位が変動しない側の半導体スイッチ素子とは異なる構成とするものであり、上記のようなコンバータを構成する2つの半導体スイッチ素子をどのような構成とすべきかについて何ら言及していない。
【0007】
それゆえ、この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、いわゆるチョッパ型のコンバータにおいて、各スイッチング素子の冷却性能を保ちつつ、小型化および低コスト化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従えば、直流電源と電気負荷装置との間で電圧変換を行なうコンバータであって、直流電源の正極に一端が結合されるリアクトルと、リアクトルの他端と電気負荷装置との間に設けられる第1スイッチング素子と、リアクトルの他端と直流電源の負極との間に設けられる第2スイッチング素子とを備える。第1スイッチング素子と第2スイッチング素子とは、素子面積が互いに異なるように形成される。
【0009】
好ましくは、第1スイッチング素子は、第2スイッチング素子よりも、素子面積が小さい。
【0010】
好ましくは、コンバータは、表面に第1スイッチング素子および第2スイッチング素子が配置され、かつ、裏面に第1スイッチング素子および第2スイッチング素子の熱を放熱するヒートシンクが設けられた絶縁基板をさらに備える。第1スイッチング素子は、第2スイッチング素子よりも熱抵抗が大きい。
【0011】
好ましくは、コンバータは、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子をオン・オフするための駆動回路をさらに備える。第1スイッチング素子と駆動回路との間に設けられるゲート抵抗は、第2スイッチング素子と駆動回路との間に設けられるゲート抵抗よりも、抵抗値が小さい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、チョッパ型のコンバータにおいて、各スイッチング素子の冷却性能を保ちつつ、小型化および低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態によるコンバータが適用されるモータ駆動装置の回路図である。
【図2】コンバータのキャリア信号、デューティ指令値、ゲート信号の関係を示す図である。
【図3】スイッチング素子Q1のオン時およびデッドタイム時の電流ILの流れを示す図である。
【図4】スイッチング素子Q2がオン時の電流ILの流れを示す図である。
【図5】電圧VHと交流モータM1の動作可能領域との関係を示す概念図である。
【図6】スイッチング素子Q1に流れる電流とスイッチング素子Q2に流れる電流との関係を示す図である。
【図7】スイッチング素子Q1,Q2で発生する電力損失と電圧VHとの関係を説明する図である。
【図8】スイッチング素子Q1の素子面積とスイッチング素子Q2の素子面積との関係を示す図である。
【図9】スイッチング素子Q1のゲート抵抗とスイッチング素子Q2のゲート抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明が繰返さない。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態によるコンバータが適用されるモータ駆動装置の回路図である。
【0016】
図1を参照して、モータ駆動装置100は、直流電源Bと、コンバータ10と、インバータ20と、正極線PL1,PL2と、負極線NLと、電流センサ52と、電圧センサ54,56と、フィルタコンデンサC1と、平滑コンデンサC2と、制御装置30とを備える。
【0017】
このモータ駆動装置100は、ハイブリッド自動車や電気自動車などの電動車両に搭載される。そして、交流モータM1は、図示しない駆動輪に機械的に連結され、車両を駆動するためのトルクを発生する。あるいは、交流モータM1は、図示されないエンジンに機械的に連結され、エンジンの動力を用いて発電する発電機として動作し、かつ、エンジンの始動を行なう電動機としてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。
【0018】
直流電源Bは、再充電可能な蓄電装置であり、たとえばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池である。なお、直流電源Bとして、二次電池に代えて大容量のキャパシタを用いてもよい。
【0019】
コンバータ10は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルL1の一方端は、直流電源Bの正極端子に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との中間点、すなわち、スイッチング素子Q1のエミッタとスイッチング素子Q2のコレクタとの接続点に接続される。スイッチング素子Q1,Q2は、正極線PL2と負極線NLとの間に直列に接続される。そして、スイッチング素子Q1のコレクタは正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタは負極線NLに接続される。また、スイッチング素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1,D2がそれぞれ接続される。
【0020】
なお、上記のスイッチング素子Q1,Q2およびインバータ20に含まれる後述のスイッチング素子Q3〜Q8として、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ等を用いることができる。
【0021】
コンバータ10は、制御装置30からの信号PWCに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧を直流電源Bの出力電圧以上の電圧に昇圧する。信号PWCには、スイッチング素子Q1のオンデューティを制御するためのゲート信号Sq1と、スイッチング素子Q2のオンデューティを制御するためのゲート信号Sq2とが含まれる。ゲート信号Sq1,Sq2は、スイッチング素子Q1,Q2が互いに逆の状態(すなわち、Q1オンのときはQ2オフ、Q1オフのときはQ2オン)となるように関連付けられている。
【0022】
電流センサ52は、リアクトルL1を流れる電流ILを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。なお、電流センサ52は、直流電源BからリアクトルL1へ流れる電流を正値として検出し、リアクトルL1から直流電源Bへ流れる電流を負値として検出する。
【0023】
フィルタコンデンサC1は、正極線PL1と負極線NLとの間に接続される。電圧センサ54は、フィルタコンデンサC1の両端の電圧VLをコンバータ10の入力電圧として検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。
【0024】
平滑コンデンサC2は、正極線PL2と負極線NLとの間に接続される。平滑コンデンサC2は、コンバータ10からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ20へ供給する。
【0025】
回転角センサ58は、交流モータM1のロータの回転角θを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。
【0026】
インバータ20は、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とを含む。U相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続される。U相アーム22は、直列接続されたスイッチング素子Q3,Q4を含む。V相アーム24は、直列接続されたスイッチング素子Q5,Q6を含む。W相アーム26は、直列接続されたスイッチング素子Q7,Q8を含む。また、スイッチング素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。そして、各相アームの中間点は、交流モータM1の各相コイルにそれぞれ接続されている。
【0027】
インバータ20は、制御装置30からの信号PWIに基づいて、正極線PL2および負極線NLから供給される直流電力を三相交流に変換して交流モータM1へ出力し、交流モータM1を駆動する。これにより、交流モータM1は、トルク指令値TR1によって指定されたトルクを発生するように駆動される。また、インバータ20は、モータ駆動装置100が搭載された電動車両の制動時、交流モータM1により発電された三相交流電力を信号PWIに基づいて直流に変換し、正極線PL2および負極線NLへ出力する。
【0028】
制御装置30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成される。制御装置30は、メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、所定の演算処理を実行するように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0029】
制御装置30は、パルス幅変調法を用いて、コンバータ10を駆動するためのPWM信号を生成し、その生成したPWM信号を信号PWCとしてコンバータ10へ出力する。
【0030】
また、制御装置30は、図示されない外部のECUから受ける交流モータM1のトルク指令値TR1およびモータ回転数MRN1に基づいて、交流モータM1を駆動するためのPWM信号を生成し、その生成したPWM信号を信号PWIとしてインバータ20へ出力する。
【0031】
図2に、制御装置30によって設定される、コンバータ10のキャリア信号CR、デューティ指令値d、ゲート信号Sq1,Sq2の関係を示す。
【0032】
基本的には、キャリア信号CRがデューティ指令値dよりも小さい場合にゲート信号Sq1(スイッチング素子Q1)がオンされ、そうでない場合にゲート信号Sq2(スイッチング素子Q2)がオンされる。なお、スイッチング素子Q1,Q2が同時にオンとなるのを防止するために、制御装置30は、ゲート信号Sq1,Sq2に、スイッチング素子Q1,Q2が同時にオフとなるデッドタイムTdを設けている。図2に示すように、制御装置30は、キャリア信号CRとデューティ指令値dとの大小関係が変化した場合に、一方のゲート信号のオンからオフへの変化を優先させ、他方のゲート信号のオフからオンへの変化をデッドタイム分だけ遅らせる。
【0033】
コンバータ10の動作中は、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチングによって、スイッチング素子Q1またはダイオードD1に電流ILが流れる状態と、スイッチング素子Q2またはダイオードD2に電流ILが流れる状態との2つの状態が交互に起こる。
【0034】
スイッチング素子Q1,Q2の状態と電流ILの波形との関係について説明する。なお、以下では電流ILが正の場合を例に説明する。
【0035】
図3は、スイッチング素子Q1のオン時およびデッドタイム時の電流ILの流れを示す。この場合、図3に示すように、電流ILがダイオードD1を流れる。スイッチング素子Q1,Q2の接続点と負極線NLとの間の電圧をVm、リアクトルL1のインダクタンス値をL、電流ILの傾き(単位時間当たりの変化量)をdIL/dtとすると、この状態での電圧方程式は、下記の式(1)となる。
【0036】
VL−L(dIL/dt)−Vm=0 ・・・(1)
平滑コンデンサC2の両端の電圧をVHとすると、電流ILがダイオードD1を流れている間は電圧Vm=VHとなるため、これを式(1)に代入して変形すると下記の式(2)となり、さらに式(2)を変形すると式(3)となる。
【0037】
VL−L(dIL/dt)−VH=0 ・・・(2)
dIL/dt=(VL−VH)/L ・・・(3)
この式(3)により、電流ILが正の場合、スイッチング素子Q1のオン時およびデッドタイム時は、電流ILの傾きdIL/dtが(VL−VH)/Lとなることが分かる。通常、VL<VHであるので、電流ILの傾きdIL/dtは負である。
【0038】
図4は、電流ILが正の場合の、スイッチング素子Q2がオン時の電流ILの流れを示す。この場合、図4に示すように、電流ILがスイッチング素子Q2を流れる。この状態での電圧方程式は、下記の式(4)となる。
【0039】
VL−L(dIL/dt)−Vm=0 ・・・(4)
式(4)と上記式(1)とは同じであるが、電流ILがスイッチング素子Q2を流れている間は、電圧Vmは、VHではなく0となるため、これを式(4)に代入して変形すると、下記の式(5)となり、さらに式(5)を変形すると式(6)となる。
【0040】
VL−L(dIL/dt)−0=0 ・・・(5)
dIL/dt=VL/L ・・・(6)
この式(6)により、電流ILが正の場合、スイッチング素子Q2のオン時は、電流ILの傾きdIL/dtがVL/Lとなることが分かる。通常、VL>0であるので、電流ILの傾きdIL/dtは正である。
【0041】
このように、電流ILが正の場合、スイッチング素子Q1のオン時およびデッドタイム時の電流ILは傾き(VL−VH)/Lで減少し、スイッチング素子Q2のオン時の電流ILは傾きVL/Lで増加する。
【0042】
以上に説明したスイッチング素子Q1,Q2の状態と電流ILの波形との関係、および電圧Vmを図2に示す。
【0043】
電圧VHを指令通りに昇圧させる場合、デッドタイムTdがない理想的なスイッチング状態においては、キャリア信号CRの周期をTc、キャリア信号CRがデューティ指令値dよりも小さい期間をT1とすると、デューティ指令値d=T1/Tcとなる。この場合、デューティ指令値dは下記の式(7)で表わすことができる。
【0044】
d=VL/VH ・・・(7)
この式(7)により、電圧VHを増加させるに従って、デューティ指令値dが減少する。そして、デューティ指令値dが減少すると、スイッチング素子Q1のオン期間T1が減少する一方で、スイッチング素子Q2のオン期間T2が増加することが分かる。
【0045】
ここで、コンバータ10の出力電圧である電圧VHの目標値を示す電圧指令値は、交流モータM1のトルク指令値TR1およびモータ回転数MRN1から算出される交流モータM1のパワーに基づいて生成される。この電圧指令値は、交流モータM1のパワーが大きくなるほど高い値となる。図5は、電圧VHと交流モータM1の動作可能領域との関係を示す概念図である。図5を参照して、交流モータM1の動作可能領域は、回転数およびトルクの組み合わせによって示される。交流モータM1では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるため、必要となる駆動電圧(モータ必要電圧)が高くなる。そのため、コンバータ10による昇圧電圧すなわち電圧VHは、このモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。このモータ必要電圧(誘起電圧)の最大値は、電圧VHの上限値で決まる。図中の実線L1は、電圧VHが上限値であるときの動作可能領域の限界(最大出力線)を示すものである。
【0046】
たとえば、モータ駆動装置100を搭載した電動車両において、交流モータM1を駆動源とする場合、ユーザによるアクセル操作量が全開位置WOTとなったときには、電圧指令値はコンバータ10による昇圧電圧の上限値(電圧VHの上限値)に設定される。あるいは、交流モータM1をエンジンの始動を行なう電動機とする場合では、エンジンの始動時には交流モータM1に要求されるパワーが大きくなるため、電圧指令値が高い値に設定される。
【0047】
このように交流モータM1のパワーの増加に従って電圧VHが高くなると、すなわちデューティ指令値dが減少すると、スイッチング素子Q2のオン期間T2が増加する。これにより、スイッチング素子Q2に流れる電流ILが増大する。その結果、電圧VHが高くなるに従って、スイッチング素子Q2のオン期間中の損失である定常損失(オン損失)が大きくなる。また、スイッチング素子Q2のオン時の電流ILの傾きdIL/dt(=VL/L)が小さくなるため、スイッチング素子Q2のオンオフ時に発生するスイッチング損失も増大する。
【0048】
これに対して、電圧VHが高くなると、すなわちデューティ指令値dが減少すると、スイッチング素子Q1のオン期間T1が減少する。そのため、電圧VHが低いときと比較して、スイッチング素子Q1に流れる電流ILが減少する。その結果、電圧VHが高くなるに従って、スイッチング素子Q1の定常損失が小さくなる。一方、スイッチング素子Q1のオン時の電流ILの傾きdIL/dt(=(VL−VH)/L)は、電圧VHが高くなるほどその絶対値が大きくなる。よって、スイッチング素子Q1のスイッチング損失は増大する。
【0049】
なお、スイッチング素子Q1のオン期間T1は、電圧VHが低くなるほど増加するが、図5に示すように、電動車両の力行時には、高出力が要求されると、コンバータ10による昇圧動作によって電圧VHを昇圧する。これにより、スイッチング素子Q2には、過渡的に大きな電流が流れる。したがって、スイッチング素子Q1に流れる電流とスイッチング素子Q2に流れる電流とを比較すると、図6に示すように、スイッチング素子Q1に流れる電流は、スイッチング素子Q2に流れる電流よりも低くなるという関係が成立する。
【0050】
また、スイッチング素子Q1,Q2の各々で発生する損失(定常損失およびスイッチング損失)については、図7に示されるように、電圧VHの上昇に従って変化する。図6において、実線は、コンバータ10のスイッチング素子Q1(上アーム)で発生する定常損失およびスイッチング損失と、これらの損失の和に相当する昇圧上アーム損失とを示す。破線は、コンバータ10のスイッチング素子Q2(下アーム)で発生する定常損失およびスイッチング損失と、これらの損失の和に相当する昇圧下アーム損失とを示す。
【0051】
図7を参照して、スイッチング素子Q2(下アーム)においては、電圧VHが上昇するに従って定常損失およびスイッチング損失がともに増大する。その結果、昇圧下アーム損失は、電圧VHの上昇に伴なって単調に増大している。
【0052】
これに対して、スイッチング素子Q1(上アーム)では、電圧VHが上昇するに従ってスイッチング損失が増大する一方で、定常損失が減少する。その結果、昇圧下アーム損失は、昇圧上アーム損失とは異なり、電圧VHの上昇に伴なって単調に増大していない。そして、このような損失の相違により、昇圧下アーム損失と昇圧上アーム損失との間には、昇圧下アーム損失>昇圧上アーム損失という関係が成り立っている。
【0053】
以上に説明したように、コンバータ10において、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とでは、流れる電流の大きさおよび発生する損失が異なる。詳細には、スイッチング素子Q1(上アーム)は、スイッチング素子Q2(下アーム)と比較して電流が小さく、かつ、損失が小さい。
【0054】
本実施の形態によるコンバータでは、スイッチング素子Q1,Q2における電流および損失の違いに着目し、これらの違いに基づいて、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間で素子面積(チップサイズ、平面視におけるチップの占有面積に相当)を異ならせる。
【0055】
具体的には、電流および電力損失が相対的に小さいスイッチング素子Q1の素子面積を、電流および損失が相対的に大きいスイッチング素子Q2の素子面積よりも小さくする。これにより、スイッチング素子Q1をスイッチング素子Q2と同じ素子面積で形成する従来のコンバータと比較して、コンバータの小型化および低コスト化を図ることができる。その結果、モータ駆動装置100の小型化および低コスト化を実現することができる。
【0056】
ここで、モータ駆動装置100(図1)においては、交流モータM1、インバータ20およびコンバータ10は、直流電源Bからの電力を変換して交流モータM1を駆動する電力変換ユニット(PCU:Power Control Unit)として電動車両に搭載される。この電力変換ユニットは、インバータ20およびコンバータ10を構成するスイッチング素子Q1〜Q8と、当該スイッチング素子を駆動する駆動回路とが統合されたパワーモジュールを含んでいる。
【0057】
このパワーモジュールにおいて、スイッチング素子Q1〜Q8は、高い熱伝導性を有する絶縁基板上に配置されている。絶縁基板に対してスイッチング素子と反対側には放熱板を介してヒートシンクが設けられている。スイッチング素子で発生した熱は、絶縁基板および放熱板を介してヒートシンクに伝わると、ヒートシンクを介して冷媒に放出される。
【0058】
このような構成において、スイッチング素子の発熱量は、(スイッチング素子の損失P)×(熱抵抗Rth)により表わすことができる。熱抵抗Rthの値は、素子面積に応じて変化する。素子面積が小さくなるほど、熱抵抗Rthの値は大きくなる。
【0059】
本実施の形態によるコンバータ10においては、図7で説明したように、スイッチング素子Q1で発生する損失(昇圧上アーム損失)が、スイッチング素子Q2で発生する損失(昇圧下アーム損失)と比較して小さくなる。したがって、スイッチング素子Q1,Q2の耐熱温度が同等である場合、スイッチング素子Q1の熱抵抗Rthを、スイッチング素子Q2の熱抵抗Rthよりも下げても、素子間で同等の耐熱性を保つことができる。すなわち、図8に示すように、スイッチング素子Q1の素子面積を、スイッチング素子Q2の素子面積よりも小さくすることができる。
【0060】
また、スイッチング素子の損失は、素子の電流密度が低くなるほど小さくなる。素子の電流密度は、(素子に流れる電流)/(素子面積)により表わすことができる。したがって、スイッチング素子Q1,Q2の電流密度を一定値とすると、スイッチング素子Q1に流れる電流はスイッチング素子Q2に流れる電流よりも小さいため(図6参照)、スイッチング素子Q1の素子面積を、スイッチング素子Q2の素子面積よりも小さくすることができる。
【0061】
なお、スイッチング素子Q1,Q2の各々の素子面積は、所望の冷却性能が確保されるように定められる。図8におけるスイッチング素子Q1の素子面積とスイッチング素子Q2の素子面積との比率は、上述した電力損失および電流の大きさの違いを反映したものとなる。
【0062】
さらに、スイッチング素子Q1に流れる電流がスイッチング素子Q2に流れる電流よりも小さいことを利用して、スイッチング素子Q1と駆動回路との間に設けられるゲート抵抗の抵抗値を、スイッチング素子Q2と駆動回路とに間に設けられるゲート抵抗の抵抗値よりも小さくすることができる。具体的には、図9に示すように、スイッチング素子Q1のゲートとスイッチング素子Q1の駆動回路であるドライバ112との間には、ゲート抵抗110が接続される。同様に、スイッチング素子Q2のゲートとスイッチング素子Q2の駆動回路であるドライバ122との間には、ゲート抵抗120が接続される。本実施の形態によるコンバータでは、ゲート抵抗110の抵抗値R1を、ゲート抵抗120の抵抗値R2よりも小さくする。
【0063】
ここで、ゲート抵抗の抵抗値を小さくすると、スイッチング素子に流れる電流の立ち上がりおよび立下りが急峻になるため、スイッチング素子のターンオン期間およびターンオフ期間が短くなる。これにより、スイッチング素子で発生するスイッチング損失が小さくなる。したがって、スイッチング素子Q1のゲート抵抗を低い抵抗値とすることにより、スイッチング素子Q1のスイッチング損失を低減することができる。その結果、スイッチング素子Q1で発生する損失(昇圧上アーム損失)をさらに低減できるため、スイッチング素子Q1の素子面積をさらに小さくすることができる。
【0064】
その一方で、上記のようにゲート抵抗の抵抗値を下げると、スイッチング損失を低減できる反面、スイッチング素子のオンオフ時に発生するサージ電圧が増大する。このサージ電圧は、コンバータ10による昇圧電圧に重畳される。そのため、サージ電圧が増大すると、素子耐圧を超える過大な電圧がスイッチング素子に印加されることによってスイッチング素子を損傷する虞がある。したがって、コンバータ10による昇圧電圧とサージ電圧との和をスイッチング素子の素子耐圧以下に抑える必要がある。
【0065】
しかしながら、サージ電圧はスイッチング素子に流れる電流が大きくなるに従って増大することから、流れる電流がスイッチング素子Q2と比較して小さいスイッチング素子Q1では、オンオフ時に発生するサージ電圧もスイッチング素子Q2で発生するサージ電圧よりも小さくなる。その結果、スイッチング素子Q1では、サージ電圧に余裕が生じるため、ゲート抵抗110の抵抗値を下げることによってスイッチング損失を低減できる。
【0066】
以上に説明したように、この発明の実施の形態によれば、チョッパ型のコンバータを構成する2つのスイッチング素子Q1,Q2を、スイッチング素子に流れる電流の大きさおよびスイッチング素子で発生する損失の違いに基づいて、素子面積が互いに異なるように形成する。これにより、2つのスイッチング素子を、電流および損失が相対的に大きいスイッチング素子を基準として定められた素子面積に統一する従来のコンバータと比較して、2つのスイッチング素子の冷却性能を確保しながら、コンバータの小型化および低コスト化を実現することができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
10 コンバータ、20 インバータ、22 U相アーム、24 V相アーム、26 W相アーム、30 制御装置、52 電流センサ、54,56 電圧センサ、58 回転角センサ、100 モータ駆動装置、110,120 ゲート抵抗、112,122 ドライバ、B 直流電源、C1 フィルタコンデンサ、C2 平滑コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L1 リアクトル、M1 交流モータ、NL 負極線、PL1,PL2 正極線、Q1〜Q8 スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と電気負荷装置との間で電圧変換を行なうコンバータであって、
前記直流電源の正極に一端が結合されるリアクトルと、
前記リアクトルの他端と前記電気負荷装置との間に設けられる第1スイッチング素子と、
前記リアクトルの他端と前記直流電源の負極との間に設けられる第2スイッチング素子とを備え、
前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子とは、素子面積が互いに異なるように形成される、コンバータ。
【請求項2】
前記第1スイッチング素子は、前記第2スイッチング素子よりも、素子面積が小さい、請求項1に記載のコンバータ。
【請求項3】
表面に前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子が配置され、かつ、裏面に前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子の熱を放熱するヒートシンクが設けられた絶縁基板をさらに備え、
前記第1スイッチング素子は、前記第2スイッチング素子よりも熱抵抗が大きい、請求項2に記載のコンバータ。
【請求項4】
前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子をオン・オフするための駆動回路をさらに備え、
前記第1スイッチング素子と前記駆動回路との間に設けられるゲート抵抗は、前記第2スイッチング素子と前記駆動回路との間に設けられるゲート抵抗よりも、抵抗値が小さい、請求項2に記載のコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−38911(P2013−38911A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172865(P2011−172865)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】