説明

コンプレッサトルク推定装置

【課題】冷凍サイクルのコンプレッサトルクの正確な推定を簡単且つリアルタイムにそして安価に行い得るコンプレッサトルク推定装置を提供する。
【解決手段】冷媒を圧送する固定容量式圧縮機5、放熱器6、膨張弁9、エバポレータ10を具備した冷凍サイクルと、膨張弁9までの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量を検知する高圧側冷媒圧力検知手段7と、クラッチ制御信号を出力するクラッチ制御手段を備えた車両用空調システムのコンプレッサトルク推定装置であり、ニューラルネットワークの入力層Niに入る上記物理量及びクラッチ制御信号を参照し、予め定めた中間層Nmの重み係数の行列を物理量及び制御信号に各々乗じて予め定めた中間層Nmの定数の行列を加算して一つの中間層演算と成し、演算結果に出力層Noの重み係数の行列を乗じて予め定めた出力層Noの定数の行列を加算してコンプレッサトルク推定値を算出するメインコントローラ31を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサを有する車両用空調システムの冷凍サイクルにおいて、起動時を含む運転中のコンプレッサトルクを推定するのに用いられるコンプレッサトルク推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した冷凍サイクルにおけるコンプレッサトルクを推定する技術としては、例えば、エアコンディショナの雰囲気温度とコンプレッサの停止直前のトルクとを検出し、これらの検出値と記憶された再起動時トルクのデータ値とに基づいて、コンプレッサの停止期間に対応した再起動時における推定トルクを算出するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このコンプレッサトルク推定方法では、不安定なパラメータに依存することになるので、推定したコンプレッサトルクが正確であるとは言えないことから、このコンプレッサトルク推定方法に代わるものとして、コンプレッサの起動直前の冷媒圧力に対する起動時のトルク特性を記憶して、このトルク特性と検出した冷媒圧力とに基づいてコンプレッサの起動時におけるトルクを推定するようにした技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この技術では、二つのトルク推定手段を具備することで、起動時及び運転時のコンプレッサのトルクを推定することや、このコンプレッサの実トルクに基づいてコンプレッサの安定状態の判別を行うことによって、推定精度の向上を図るようにしている。
【特許文献1】特開平4−283359号公報
【特許文献2】特開2004−66858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したようなコンプレッサトルクを推定する手法では、冷凍サイクルの運転状態に影響を与えるコンプレッサ回転数や車体速度や外気温度などの因子が含まれていないので、この手法においても推定したトルクが常に正確であるとは言えないという問題があった。
そして、このコンプレッサトルクを推定する手法では、正確なコンプレッサトルクの推定を行うために、二つのトルク推定手段を具備しているので、その分だけ、演算式の導出に工数がかかること、トルク推定値の判定が複雑になること、この判定を実トルクに基づいて行うと高コストになってしまうこと、といった問題があるうえ、線形式からなる演算式に不都合が生じた場合などに修整を施すと、他の推定結果にまで影響を及ぼしかねないという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0006】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、一つの推定式で冷凍サイクルにおけるコンプレッサトルクを簡単且つリアルタイムに推定することができるうえ、正確な推定を安価に行うことが可能であるコンプレッサトルク推定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1に係るコンプレッサトルク推定装置は、駆動源からクラッチを介して供給される出力により作動して冷媒を圧送する固定容量式圧縮機と、この固定容量式圧縮機から吐出する高温高圧の冷媒を冷却する放熱器と、この放熱器を通して送られてくる高圧冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、前記冷媒の気化熱を利用して車室内に吹出す空気を冷却する蒸発器を具備した冷凍サイクルと、この冷凍サイクル内の前記固定容量式圧縮機から下流に位置する前記膨張弁までの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量を検知又は推定する高圧側冷媒圧力検知手段と、クラッチ制御信号を出力して前記クラッチによる駆動源と固定容量式圧縮機との接続及び切断を制御するクラッチ制御手段を備えた車両用空調システムの前記固定容量式圧縮機のトルクを推定するコンプレッサトルク推定装置であって、ニューラルネットワークの入力層に与えられる前記冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量及び前記クラッチに対する制御信号を参照し、ニューラルネットワークの予め定めた中間層における重み係数の行列を前記物理量及び制御信号にそれぞれ乗じると共に予め定めた中間層の定数の行列を加算して、少なくとも一つの中間層演算と成し、この少なくとも一つの中間層演算の結果にニューラルネットワークの出力層の重み係数の行列を乗じると共に予め定めた出力層の定数の行列を加算することで、コンプレッサのトルク推定値を算出する推定手段を備えている構成としたことを特徴としており、このコンプレッサトルク推定装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
本発明の請求項2に係るコンプレッサトルク推定装置は、外部制御信号により任意に容量を可変として冷媒を圧送するべく作動する外部可変容量式圧縮機と、この外部可変容量式圧縮機から吐出する高温高圧の冷媒を冷却する放熱器と、この放熱器を通して送られてくる高圧冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、前記冷媒の気化熱を利用して車室内に吹出す空気を冷却する蒸発器を具備した冷凍サイクルと、この冷凍サイクル内の前記外部可変容量式圧縮機から下流に位置する前記膨張弁までの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量を検知又は推定する高圧側冷媒圧力検知手段と、容量制御信号を出力して任意に容量を変えるべく容量制御する容量制御手段を備えた車両用空調システムの前記外部可変容量式圧縮機のトルクを推定するコンプレッサトルク推定装置であって、ニューラルネットワークの入力層に与えられる前記冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量及び前記外部可変容量式圧縮機に対する制御信号を参照し、ニューラルネットワークの予め定めた中間層における重み係数の行列を前記物理量及び制御信号にそれぞれ乗じると共に予め定めた中間層の定数の行列を加算して、少なくとも一つの中間層演算と成し、この少なくとも一つの中間層演算の結果にニューラルネットワークの出力層の重み係数の行列を乗じると共に予め定めた出力層の定数の行列を加算することで、コンプレッサのトルク推定値を算出する推定手段を備えている構成としたことを特徴としており、このコンプレッサトルク推定装置の構成を前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
本発明の請求項3に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、ニューラルネットワークを用いて算出したコンプレッサトルク推定値の前回値を記憶するコンプレッサトルク推定値記憶手段を具備し、コンプレッサトルク推定値の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、前記コンプレッサトルク推定値記憶手段で記憶したコンプレッサトルク推定値の前回値と、高圧側冷媒圧力に相関のある物理量と、前記制御信号とを参照して、コンプレッサのトルク推定値を算出する構成としている。
【0010】
本発明の請求項4に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記高圧側冷媒圧力検出手段により検出された冷媒圧力の前回値を記憶する高圧側冷媒圧力記憶手段を具備し、高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、前記高圧側冷媒圧力記憶手段により記憶した高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値を付加して中間層の演算を行う構成としている。
【0011】
本発明の請求項5に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、エンジン回転数検出手段により検出した前記圧縮機の駆動源であるエンジンの回転数を付加して中間層の演算を行う構成としている。
本発明の請求項6に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、車速検出手段により検出した前記冷凍サイクルを搭載する車両の速度を付加して中間層の演算を行う構成としている。
【0012】
本発明の請求項7に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、放熱器送風量検知手段により検知又は推定した前記冷凍サイクルの放熱器への送風量に相関のある物理量を付加して中間層の演算を行う構成としている。
本発明の請求項8に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、スロットル開度検知手段により検知した前記車両のスロットル開度信号を付加して中間層の演算を行う構成としている。
【0013】
本発明の請求項9に係るコンプレッサトルク推定装置において、前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、外気温度検知手段により検知した外気温度に相関のある物理量を付加して中間層の演算を行う構成としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1〜4に係るコンプレッサトルク推定装置は、上記した構成としているので、冷凍サイクルにおけるコンプレッサトルクを正確に推定することができるのは言うまでもなく、一つの推定式であるニューラルネットワークによってトルクを推定するので、すなわち、簡便なプログラムによりトルクを推定するので、コンプレッサトルクの正確な推定を簡単且つ安価に行うことが可能であり、その結果、効率のよいエンジン出力制御が可能となって、車両燃費向上にも寄与することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0015】
また、本発明の請求項5〜9に係るコンプレッサトルク推定装置は、上記した構成としていることから、より一層精度の高いコンプレッサトルクの推定が可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるコンプレッサトルク推定装置を含む車両用空調システムを示しており、この車両用空調システムの冷凍回路は、固定容量式圧縮機5と、この固定容量式圧縮機5からの高圧冷媒及び外部空気の熱交換により冷媒を冷却する放熱器6と、固定容量式圧縮機5から吐出する高圧冷媒の圧力を検出する高圧側冷媒圧力検出手段7と、放熱器6から吐出される高圧冷媒を気液分離する気液分離器8と、この気液分離器8を通して送られてくる高圧冷媒を断熱膨張させる膨張弁9と、この膨張弁9から送られる冷媒により後述するように空調の空気を冷却するエバポレータ10を備えており、固定容量式圧縮機5は、プーリ2,2及びベルト3を介して伝達される車両のエンジン1の出力によって作動するようになっていて、クラッチコントローラ4によるクラッチ制御によってエンジン1と固定容量式圧縮機5との接続及び切断がなされるようになっている。
【0017】
なお、固定容量式圧縮機4の駆動源には、電動モータを用いることもでき、膨張弁9として、電子式膨張弁や、温度式膨張弁や、差圧式膨張弁を用いることができる。
上記冷凍回路のエバポレータ10は、車室内へ空調の空気を送る通風ダクト11内に配置してあって、この通風ダクト11の入口側には、内気導入口12側からの空気導入量と外気導入口13側からの空気導入量との割合を制御する内外気切替ダンパ14が設けてあり、この内外気切替ダンパ14は、図示しないインテークダンパアクチュエータにより作動が制御されるものとなっている。この通風ダクト11において、導入された空気は、ブロワファン15によって吸引され、下流側のエバポレータ10に向けて圧送される。
【0018】
また、エバポレータ10の出口近傍には、エバポレータ出口空気温度センサ16が設けてあり、エバポレータ10の下流側(図示右側)には、加熱器としてのヒータコア17が設けてある。このヒータコア17の近傍には、エアミックスダンパアクチュエータ18により開度を制御可能なエアミックスダンパ20が設けてあり、ヒータコア17を通過する空気とバイパスする空気との割合を調節して、ダンパ21,22,23によりそれぞれ開度を制御可能な吹出口24,25,26から車室内に吹き出させるようにしている。
【0019】
車室内に配置される車両用空調システムのメインコントローラ(含むコンプレッサトルク推定装置)31には、外気温度センサ32からの外気温度信号と、日射センサ33からの日射量信号と、車室内温度センサ34からの車内温度信号と、高圧側冷媒圧力検出手段7の高圧側冷媒圧力信号と、蒸発器出口空気温度センサ16からの蒸発器出口空気温度信号と、車速センサ35からの車速信号と、エンジン回転数検出センサ36からのエンジン回転数がそれぞれ入力され、このメインコントローラ31からは、エンジン1と固定容量式圧縮機5との接続及び切断を制御するクラッチコントローラ4へのクラッチ制御信号39と、エアミックスダンパアクチュエータ18へのエアミックスダンパ制御信号37と、図示しないインテークダンパアクチュエータへの内外気切替ダンパ制御信号がそれぞれ出力されるようになっている。
【0020】
次に、上記した車両用空調システムのメインコントローラ31により実行されるコンプレッサトルクの推定について説明する。
このメインコントローラ31における本実施形態のコンプレッサトルク推定装置の推定手段では、図2に示すように、ニューラルネットワークによるコンプレッサトルクの推定を行う。
【0021】
このニューラルネットワークは、信号(図2では、クラッチ制御信号CL,冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量Ph,車速VS,エンジン回転数Ne,トルク推定値の前回値Trq−1)が入力されると、出力を所望の出力(教師信号)に近づけるように、その入力層Ni,中間層Nm及び出力層Noの結合重み係数を探索する、いわゆる誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)により学習する機能を備えた階層型ニューラルネットワークである。
【0022】
このニューラルネットワークにおいて、所望の出力である教師信号を変更した場合は、ある入力に対する出力が変更された教師データとなるように学習させることにより、結合重み係数及びバイアスニューロンbnを修正する。つまり、ニューラルネットワークは、多くの教師信号からその相関関数を自動生成するような機能を有するものであるといえる。教師信号は、実験等にて得られたものであり、この実施形態では、ある入力信号に対するコンプレッサのトルク値を設定するものである。
【0023】
また、ニューラルネットワークにおける演算は、多くの場合シグモイド関数等により「0〜1」や「−1〜1」に制限されることから、ニューラルネットワークへの入出力データ(入力信号と教師信号)は、学習前に正規化する必要がある。
例えば、入力信号が0〜6000(rpm)の範囲で大きく変化するエンジン回転数であったり、あるいは、教師データが−10〜60℃のように大きな変化幅を持つ室温であったりする場合には、シグモイド関数等の変化幅とは大きく異なっているので、予め学習データの変化幅を考慮して正規化することで、学習速度を向上させたり、学習結果等の精度を高めたりすることができる。
【0024】
この実施形態のように、コンプレッサトルク推定装置として車両用空調システムに採用する場合には、予め学習された重み結合係数及びバイアスニューロンを用いることから、重み結合係数を修正するための学習を行うことなく、その出力が得られることとなる。
ここで、図3に高圧側冷媒圧力とコンプレッサトルクとの関係を示す。図3は、安定時データにおける高圧側冷媒圧力(MPa)とコンプレッサトルク(Nm)との関係を示したグラフである。このグラフから上記固定容量式圧縮機5を含む冷凍サイクルにおける高圧側冷媒圧力とコンプレッサトルクとの間には、かなり高い相関関係があることが判り、概ね95%以上の精度での相関が認められることから、高圧側冷媒圧力を用いたコンプレッサトルクの推定は、実現性が高いことが判る。
【0025】
しかしながら、図3に示すグラフは、安定時データにおける高圧側冷媒圧力(MPa)とコンプレッサトルク(Nm)との関係を示しているため、1次の相関は得られているものの、コンプレッサの起動中の動特性とは一致しないことが実験より明らかになっている。
そこで、本実施形態では、コンプレッサトルク推定装置を含むメインコントローラ31が、ニューラルネットワークを用いて算出したコンプレッサトルク推定値の前回値を記憶するコンプレッサトルク推定値記憶手段を具備したものとし、コンプレッサトルク推定値の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、コンプレッサトルク推定値記憶手段で記憶したコンプレッサトルク推定値の前回値Trq−1と、冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量Phと、クラッチ制御信号CLとを参照して、コンプレッサのトルク推定値TRQを算出するようにした。
【0026】
この際、ニューラルネットワークの中間層Nmへの入力として、エンジン回転数検出センサ36により検出したエンジン回転数Ne及び車速センサ35からの車速信号Vsを付加して中間層の演算を行うようにした。
つまり、図2に示したように、入力パラメータとして、冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量Phに、クラッチ制御信号CL,車速VS,エンジン回転数Ne,トルク推定値の前回値Trq−1を追加することで、コンプレッサトルクのリアルタイムの推定を実現した。
【0027】
上記入力パラメータ(クラッチ制御信号,車速,エンジン回転数)の運転中における各状態を図4(a)に示し、その際のコンプレッサの実トルクと推定トルクとの関係を図4(b)に示す。
図4(b)示すように、破線で示すコンプレッサ推定トルクは、実線で示すコンプレッサ実トルクに対して精度よく追従していることが判る。これにより、メインコントローラ31における本実施形態のコンプレッサトルク推定装置では、運転中におけるコンプレッサトルクの推定がリアルタイムで可能であることが実証できた。
【0028】
そして、本実施形態のコンプレッサトルク推定装置では、上記のようにして得られた推定コンプレッサトルクを車両側へ情報伝達するように成せば、コンプレッサトルクを加味したより高効率なエンジン出力制御が可能となって、車両の燃費の向上にも寄与し得ることとなる。
なお、コンプレッサトルク推定装置を含むメインコントローラ31が、高圧側冷媒圧力検出手段7により検出された冷媒圧力の前回値を記憶する高圧側冷媒圧力記憶手段を具備したものとし、高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、ニューラルネットワークの中間層Nmへの入力として、高圧側冷媒圧力記憶手段7により記憶した高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値を付加して中間層Nmの演算を行うようにしてもよく、この場合には、より一層精度の高いコンプレッサトルクの推定が可能になる。
【0029】
また、中間層Nmの演算において、入力パラメータとして、放熱器6への送風量に相関のある物理量や、車両のスロットル開度信号や、外気温度センサ32により検知した外気温度に相関のある物理量を追加するようにしてもよく、この場合にも、より一層精度の高いコンプレッサトルクの推定が可能になる。
上記した実施形態では、本発明のコンプレッサトルク推定装置を含む車両用空調システムの冷凍回路が、固定容量式圧縮機5を装備している場合を示しているが、これに限定されるものではなく、他の構成として例えば、図5に示すように、クラッチレスで且つ容量制御弁54を装着した外部可変容量式圧縮機55を用いてもよい。
【0030】
この場合、メインコントローラ31からは、クラッチ制御信号に替えて外部可変容量式圧縮機55の容量制御弁54への容量制御信号56(図4におけるクラッチ制御信号に相当)が出力されるようになっており、車両用空調システムの他の構成は、先の実施形態と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンプレッサトルク推定装置を含む車両用空調システムの概略構成説明図である。
【図2】図1に示した車両用空調システムのコンプレッサトルク推定装置における推定手段としてのニューラルネットワークの概略構成説明図である。
【図3】安定時データにおける高圧側冷媒圧力とコンプレッサトルクとの関係を示すグラフである。
【図4】入力パラメータとしてのクラッチ制御信号,車速,エンジン回転数の運転中における各状態を示すグラフ(a)及びその際のコンプレッサの実トルクと推定トルクとの関係を示すグラフ(b)である。
【図5】本発明に係るコンプレッサトルク推定装置を含む他の車両用空調システムの概略構成説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 エンジン(駆動源)
4 クラッチコントローラ(クラッチ)
5 固定容量式圧縮機
6 放熱器
7 高圧側冷媒圧力検知手段
9 膨張弁
10 エバポレータ(蒸発器)
31 メインコントローラ(コンプレッサトルク推定手段)
32 外気温度センサ(外気温度検知手段)
35 車速センサ(車速検出手段)
36 エンジン回転数検出センサ(エンジン回転数検出手段)
55 外部可変容量式圧縮機
Ni ニューラルネットワークの入力層
Nm ニューラルネットワークの中間層
No ニューラルネットワークの出力層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からクラッチを介して供給される出力により作動して冷媒を圧送する固定容量式圧縮機と、この固定容量式圧縮機から吐出する高温高圧の冷媒を冷却する放熱器と、この放熱器を通して送られてくる高圧冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、前記冷媒の気化熱を利用して車室内に吹出す空気を冷却する蒸発器を具備した冷凍サイクルと、
この冷凍サイクル内の前記固定容量式圧縮機から下流に位置する前記膨張弁までの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量を検知又は推定する高圧側冷媒圧力検知手段と、
クラッチ制御信号を出力して前記クラッチによる駆動源と固定容量式圧縮機との接続及び切断を制御するクラッチ制御手段を備えた車両用空調システムの前記固定容量式圧縮機のトルクを推定するコンプレッサトルク推定装置であって、
ニューラルネットワークの入力層に与えられる前記冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量及び前記クラッチに対する制御信号を参照し、ニューラルネットワークの予め定めた中間層における重み係数の行列を前記物理量及び制御信号にそれぞれ乗じると共に予め定めた中間層の定数の行列を加算して、少なくとも一つの中間層演算と成し、この少なくとも一つの中間層演算の結果にニューラルネットワークの出力層の重み係数の行列を乗じると共に予め定めた出力層の定数の行列を加算することで、コンプレッサのトルク推定値を算出する推定手段を備えていることを特徴とするコンプレッサトルク推定装置。
【請求項2】
外部制御信号により任意に容量を可変として冷媒を圧送するべく作動する外部可変容量式圧縮機と、この外部可変容量式圧縮機から吐出する高温高圧の冷媒を冷却する放熱器と、この放熱器を通して送られてくる高圧冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、前記冷媒の気化熱を利用して車室内に吹出す空気を冷却する蒸発器を具備した冷凍サイクルと、
この冷凍サイクル内の前記外部可変容量式圧縮機から下流に位置する前記膨張弁までの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量を検知又は推定する高圧側冷媒圧力検知手段と、
容量制御信号を出力して任意に容量を変えるべく容量制御する容量制御手段を備えた車両用空調システムの前記外部可変容量式圧縮機のトルクを推定するコンプレッサトルク推定装置であって、
ニューラルネットワークの入力層に与えられる前記冷凍サイクルの高圧側冷媒圧力に相関のある物理量及び前記外部可変容量式圧縮機に対する制御信号を参照し、ニューラルネットワークの予め定めた中間層における重み係数の行列を前記物理量及び制御信号にそれぞれ乗じると共に予め定めた中間層の定数の行列を加算して、少なくとも一つの中間層演算と成し、この少なくとも一つの中間層演算の結果にニューラルネットワークの出力層の重み係数の行列を乗じると共に予め定めた出力層の定数の行列を加算することで、コンプレッサのトルク推定値を算出する推定手段を備えていることを特徴とするコンプレッサトルク推定装置。
【請求項3】
前記推定手段は、ニューラルネットワークを用いて算出したコンプレッサトルク推定値の前回値を記憶するコンプレッサトルク推定値記憶手段を具備し、コンプレッサトルク推定値の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、前記コンプレッサトルク推定値記憶手段で記憶したコンプレッサトルク推定値の前回値と、高圧側冷媒圧力に相関のある物理量と、前記制御信号とを参照して、コンプレッサのトルク推定値を算出する請求項1又は2に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記高圧側冷媒圧力検出手段により検出された冷媒圧力の前回値を記憶する高圧側冷媒圧力記憶手段を具備し、高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値の初期値を予め定めた任意の値としたうえで、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、前記高圧側冷媒圧力記憶手段により記憶した高圧側冷媒圧力に相関のある物理量の前回値を付加して中間層の演算を行う請求項1〜3のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項5】
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、エンジン回転数検出手段により検出した前記圧縮機の駆動源であるエンジンの回転数を付加して中間層の演算を行う請求項1〜4のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、車速検出手段により検出した前記冷凍サイクルを搭載する車両の速度を付加して中間層の演算を行う請求項1〜5のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、放熱器送風量検知手段により検知又は推定した前記冷凍サイクルの放熱器への送風量に相関のある物理量を付加して中間層の演算を行う請求項1〜6のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項8】
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、スロットル開度検知手段により検知した前記車両のスロットル開度信号を付加して中間層の演算を行う請求項1〜7のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。
【請求項9】
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの中間層への入力として、外気温度検知手段により検知した外気温度に相関のある物理量を付加して中間層の演算を行う請求項1〜8のいずれか一つの項に記載のコンプレッサトルク推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−137527(P2009−137527A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318312(P2007−318312)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】