説明

コンポジット材料、およびこれを用いた光学部品

【課題】高屈折率と低波長分散性のバランスに優れ、かつ加工性に優れたコンポジット材料、ならびにこのコンポジット材料を用いて構成される光学部品を提供する。
【解決手段】酸化ハフニウムを少なくとも含む無機物粒子11を樹脂12に分散させることにより、屈折率nCOMが1.60以上、アッベ数νCOMが20以上であり、かつ


の関係が成立するコンポジット材料10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット材料、およびこれを用いた光学部品に関するものである。より詳細には、高屈折率かつ低波長分散性を示すコンポジット材料、およびこれを用いた光学部品、例えば、レンズ、回折光学素子、固体撮像素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の高速化、各種電子機器の小型軽量化等を実現するためのキーテクノロジーとしてオプトエレクトロニクスが注目されており、これを実現するための光学材料の開発が急がれている。
【0003】
光学材料としては、従来光学ガラス等の無機系材料が一般的に使用されている。しかし無機系光学材料は、加工が難しく、微細化かつ複雑化が進む光学部品を大量かつ安価に生産することが困難であるという問題を潜在的に有する。
【0004】
一方、樹脂を中心とした有機系光学材料は、加工性に優れ生産コストの低減が可能であること、さらに軽量であることから、今後のオプトエレクトロニクス技術を支えていく材料として期待されており、近年開発が加速する傾向にある。
【0005】
有機系光学材料の課題として、単独で光学部品を形成する場合、屈折率が十分に高くない点、あるいは屈折率と波長分散性のバランスが取れている材料が少ない点があげられる。有機系光学材料として最も用いられる樹脂材料については、その屈折率nと波長分散性を示すアッベ数νは、おおむね(数1)に示す範囲内にあることが知られている(非特許文献1)。
【0006】
【数1】

【0007】
樹脂の屈折率が十分に高くない点、あるいは屈折率と波長分散性のバランスが取れている材料が少ないという点は、例えば光学部品としてレンズを考えた場合、色収差により十分な特性が得られないといった問題につながる。また光学部品として光導波路を有する固体撮像素子を考えた場合、光導波路とその周辺材料との間で十分な屈折率差が得られず、その結果として集光効率が低下する。
【0008】
これらの課題を解決するため、基材となる樹脂に対し、無機系の微粒子を分散させ高屈折率を有する有機系光学材料を調製し、この材料を用いて光学部品を構成することが検討されている。高屈折率かつ低波長分散性を示す有機系光学材料からなる光学部品を得る方法として、メタクリル樹脂等の透明な基材ポリマーに、アルミナや酸化イットリウム等の微粒子を分散させた樹脂組成物により光学部品を構成する方法が開示されている(特許文献1)。また、一定以上の光学特性を有する熱可塑性樹脂に、酸化チタンないし酸化亜鉛の微粒子を分散させた熱可塑性樹脂組成物により光学部品を構成する方法が開示されている(特許文献2〜4)。
【特許文献1】特開2001−183501号公報
【特許文献2】特開2003−073559号公報
【特許文献3】特開2003−073563号公報
【特許文献4】特開2003−073564号公報
【非特許文献1】季刊化学総説No.39 透明ポリマーの屈折率制御(日本化学会編、9頁 図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法においては、波長587nmにおける屈折率が1.74のアルミナを基材樹脂に分散させるため、高い屈折率の樹脂組成物を得ることは原理的に難しかった。なお、特許文献1には、アルミナ以外の無機微粒子を基材樹脂に分散させる方法も開示されているが、この場合においては、十分高いアッベ数、すなわち低い波長分散性を得るため、赤外線吸収染料等の異常分散物質をさらに分散させるとしている。また、特許文献2に開示されている方法においては、基材樹脂に分散させる無機微粒子として、波長分散性の高い酸化チタン(アッベ数12)または酸化亜鉛(アッベ数12)を使用するため、高屈折率の樹脂組成物を得るために無機微粒子の分散比率を増加すると波長分散性が著しく増大し、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れた組成物を得ることは困難であった。
【0010】
このような状況において、本発明は、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れ、かつ加工性に優れたコンポジット材料、およびこのコンポジット材料を用いた光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のコンポジット材料は、樹脂と、前記樹脂中に分散され、酸化ハフニウムを少なくとも含む第1の無機物粒子とを有し、屈折率nCOMが1.60以上、アッベ数νCOMが20以上であり、かつ
【0012】
【数2】

【0013】
の関係が成立する。
【0014】
なお、この明細書において、「コンポジット材料の屈折率」とは、コンポジット材料を1つの屈折率を有する媒体とみなしたときの、実効的な屈折率を意味する。
【0015】
上記構成において、前記樹脂中に分散され、アッベ数νが50以上である第2の無機物粒子をさらに有することが好ましい。また、前記第2の無機物粒子は、シリカまたはアルミナであることが好ましい。
【0016】
さらに、前記第1の無機物粒子のコンポジット材料全体に対する体積比が、50体積%以下であることが好ましい。また、前記第1の無機物粒子および前記第2の無機物粒子のコンポジット材料全体に対する体積比の合計が、50体積%以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記第1の無機物粒子の実効粒径が、1nm以上100nm以下の範囲内にあることが好ましい。また、前記第1の無機物粒子および前記第2の無機物粒子の実効粒径が、1nm以上100nm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
本発明の光学部品は、上記したコンポジット材料を用いる。
【0019】
本発明のレンズは、上記したコンポジット材料からなる。
【0020】
本発明の回折光学素子は、第1の材料からなり表面に回折格子形状が形成された基材と、第2の材料からなり前記回折格子形状を覆うように形成された保護膜とを有する回折光学素子であって、前記第1の材料と前記第2の材料はいずれも樹脂を成分として構成されており、前記第1の材料と前記第2の材料の少なくとも一方が上記したコンポジット材料からなる。
【0021】
本発明の固体撮像素子は、光電変換部と、前記光電変換部上に配置された光導波路とを有する固体撮像素子であって、前記光導波路は上記したコンポジット材料からなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンポジット材料においては、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れ、かつ加工性に優れた組成物を得ることができる。また本発明の光学部品においては、前記のように高屈折率と低波長分散性のバランスに優れたコンポジット材料を使用して形成されるため、波長に対する光学特性が良好でかつ小型とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下では例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されない。
【0024】
(実施の形態1)
本発明のコンポジット材料の一実施の形態について、図1を用いて説明する。
【0025】
本発明のコンポジット材料10は、酸化ハフニウムを少なくとも含む無機物粒子11を、基材である樹脂12中に均一に分散させることにより構成される。このうち無機物粒子11は、一般的には一次粒子である11aと、一次粒子11aが複数個凝集してなる二次粒子11bを含んで構成されている。したがって、無機物粒子11が樹脂12中に均一に分散されているとは、無機物粒子11の一次粒子11aおよび二次粒子11bが、コンポジット材料10内の特定の位置に偏在することなく、実質的に均一に分散していることを意味する。なお、本発明において、コンポジット材料10が良好な粒子の分散性を有するために無機物粒子11は一次粒子11aのみで構成されているのがより好ましい。
【0026】
酸化ハフニウムを含む無機物粒子11を分散させたコンポジット材料10の透光性を確保するためには、無機物粒子11の粒径が重要となる。無機物粒子11の粒径が光の波長よりも十分に小さいときは、無機物粒子が分散されているコンポジット材料を、屈折率のばらつきがない均質な媒体とみなすことができる。また、無機物粒子11の粒径が光の波長の1/4以下になると、コンポジット材料中の散乱はレーリー散乱のみとなって透光性が高くなる。そのため、高い透光性を実現するためには、無機物粒子11の粒径は100nm以下であることが好ましい。一方、無機物粒子11の粒径が1nm未満になると、量子的な効果が発現する材質では蛍光を生じる場合がある等、光学部品を形成した場合の特性に影響を及ぼす場合がある。以上の観点から、無機物粒子11の実効粒径は1nm以上100nm以下の範囲内、特に1nm以上50nm以下の範囲内にあればより好ましい。
【0027】
ここで実効粒径について図2を用いて説明する。図2において、横軸は無機物粒子の粒径を表し、左側の縦軸は横軸の粒径に対する無機物粒子の頻度(棒グラフ)、右側の縦軸は無機物粒子の粒径の累積頻度(線グラフ)をそれぞれ表す。実効粒径とは、無機物粒子全体のうち、その粒径頻度分布において累積頻度が50%となる粒径を中心粒径(メジアン径:d50)とし、その中心粒径を中心として累積頻度が50%の範囲Aにある粒径範囲Bのことを指す。実効粒径の値を精度よく求めるには、例えば、200個以上の無機物粒子を対象とすればよい。
【0028】
コンポジット材料10内における無機物粒子11の粒径および実効粒径は、電子顕微鏡等により確認することができる。また一次粒子11aの粒径および実効粒径については、溶液中における粒度分布計による測定、粉末状態でのガス吸着法による測定、電子顕微鏡による観察等により得ることができる。
【0029】
本発明のコンポジット材料10は、上述のように、酸化ハフニウムを少なくとも含む無機物粒子11を分散させることにより構成される。以下の検討に基づき、発明者は、無機物粒子11を樹脂中に分散させたコンポジット材料10において、光学材料としてのアッベ数の低下を抑制しつつ屈折率を向上させるために、酸化ハフニウムを用いることが効果的であることを見出した。
【0030】
図3は、各種無機物について、d線(波長587nm)における屈折率nと、波長分散性を示すアッベ数νを測定することによって、両者の関係を示したものである。なお、アッベ数は、(数3)により定義される数値である。(数3)において、n、nはそれぞれ、F線(波長486nm)ならびにC線(波長656nm)においての屈折率である。
【0031】
【数3】

【0032】
無機物のアッベ数は従来データが十分に知られていなかったため、図3には、無機物の薄膜をシリコン基板上にスパッタリングないしCVD法により形成し、その屈折率の波長依存性を分光エリプソメトリによって測定して得たアッベ数を示している。図3に示すとおり、酸化ハフニウムはd線においての屈折率nが2.1と高く、またアッベ数も32と比較的高い値が得られた。これらの値は、屈折率については2.0以上であり、高屈折率材料として知られている酸化チタンに近いものであった。また、アッベ数については、酸化チタン等と比較すると高い値を示し、波長分散性の低い特性で、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れた材料であることがわかった。
【0033】
図4に各種無機酸化物のバンドギャップと屈折率との関係、図5に各種無機酸化物のバンドギャップとアッベ数との関係をそれぞれ示す。これらの結果から、金属酸化物等の半導体における屈折率については、価電子帯と伝導帯の間のエネルギー差であるバンドギャップと関係があることが推察された。
【0034】
半導体はそのバンドギャップエネルギーに対応する波長の電磁波を吸収するため、可視光領域から紫外領域にかけて吸収端を有する。このため可視光領域(波長400〜700nm)における透光性を確保するためには、波長400nmのエネルギーに相当する約3eV以上のバンドギャップが要求される。屈折率の波長分散性とはこの吸収端の裾における屈折率の変化であることから、吸収端が可視光領域から離れて紫外領域に入るほど、すなわちバンドギャップが大きいほど、可視光領域における波長による屈折率変化が小さく波長分散性が低い材料となる。しかし一方で、バンドギャップがさらに大きくなるとその材料は絶縁性を示し、誘電率、ならびにその平方根である屈折率が低下する。
【0035】
図4ならびに図5に示すとおり、酸化ハフニウムはバンドギャップが5.4eVと、高屈折率ではあるが波長分散性の高い酸化チタンや酸化亜鉛等と、絶縁体で屈折率が比較的低いシリカやアルミナ等の中間に位置する。すなわち、バンドギャップの観点からも、酸化ハフニウムが屈折率と波長分散性のバランスに優れた材料であることを見出した。
【0036】
上述のように、酸化ハフニウムは屈折率と波長分散性のバランスに優れていることから、この酸化ハフニウムを含む無機物粒子11をさまざまな屈折率を有する樹脂12と適切に組み合わせてコンポジット材料10を構成することにより、従来樹脂材料では実現が困難であった高屈折率かつ低波長分散性領域の光¥学特性を有する材料を広範囲で調製することが可能となり、その結果光学部品設計の自由度を飛躍的に拡大することができる。
【0037】
本発明のコンポジット材料10において、樹脂12に分散させる無機物粒子11としては、本発明の効果が得られる限り、酸化ハフニウム以外の無機物成分を含んでもよい。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ等より選ばれる酸化物と、酸化ハフニウムとの複合酸化物を用いてもよい。また、酸化ハフニウムならびに酸化ハフニウムを含む複合酸化物に、金属元素をドープさせた酸化物を用いてもよい。また、酸化ハフニウムとともに、窒化シリコン(屈折率1.9〜2.0)等の金属窒化物、炭化シリコン(屈折率2.6)等の金属炭化物、ダイヤモンド(屈折率3.0)やダイヤモンド・ライク・カーボン(屈折率3.0)等の透光性を有する炭素化合物等を用いてもよい。また、硫化銅や硫化スズ等の硫化物や、金、白金、パラジウム、銀、銅およびニッケル等の金属材料を併用してもよい。
【0038】
本発明のコンポジット材料10の基材となる樹脂12は、高い透光性を確保し、高屈折率かつ低波長分散性を示すコンポジット材料を得るために、高い透光性を有しかつ屈折率が1.4〜1.7の範囲にあることが好ましい。
【0039】
樹脂12としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、および光硬化性樹脂といった樹脂の中で、透光性の高い樹脂を用いることができる。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;エポキシ樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリカプロラクトンなどのポリエステル樹脂;ポリスチレンなどのポリスチレン樹脂;ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂;ナイロンなどのポリアミド樹脂;ポリイミドやポリエーテルイミドなどのポリイミド樹脂;ポリビニルアルコール;ブチラール樹脂;酢酸ビニル樹脂;脂環式ポリオレフィン樹脂を用いてもよい。また、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、非晶性ポリオレフィンなどのエンジニアリングプラスチックを用いてもよい。また、これらの樹脂(高分子)の混合体や共重合体を用いてもよい。また、これらの樹脂を変性したものを用いてもよい。
【0040】
これらの中でも、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリオレフィン、およびポリカーボネート樹脂は、透光性が高く、成形性も良好である。これらの樹脂は、所定の分子骨格を選択することによって、屈折率を1.4〜1.7の範囲(好ましくは1.5以上)とすることができる。
【0041】
樹脂12のアッベ数νについては特に限定はされないが、基材となる樹脂のアッベ数νが高いほど、無機物粒子を分散して得られるコンポジット材料のアッベ数νCOMも向上することは言うまでもない。特に、樹脂12としてアッベ数νが50以上を示すものを使用することにより、アッベ数νCOMが40以上の、レンズ等の光学部品への応用に際して十分な光学特性を有するコンポジット材料を得ることが可能となりより好ましい。アッベ数νが50以上を示す樹脂としては、脂環式オレフィン樹脂、ポリシロキサン系樹脂、基本骨格中にフッ素原子を含む樹脂等が挙げられるが、当然これらに限定されるものではない。
【0042】
樹脂12は、上記の光学特性に加えて、コンポジット材料10が使用される光学部品に対応した成形性、成膜性、基材密着性、耐環境性等の特性を考慮して選択される。また樹脂12は、無機物粒子の分散性も考慮して選択される。
【0043】
コンポジット材料10の屈折率については、例えば(数4)にて表されるマックスウェル−ガーネット理論により推定できる。(数4)によりd線、F線ならびにC線における屈折率を推定することにより、さらにコンポジット材料10のアッベ数を推定することも可能である。この理論に基づく推定から、樹脂12と無機物粒子11との配合の割合を決めてもよい。
【0044】
【数4】

【0045】
なお、(数4)において、nCOMはコンポジット材料の平均屈折率であり、n、nはそれぞれ無機物粒子11および樹脂12の屈折率である。Pは、コンポジット材料10全体に占める無機物粒子11の体積比である。無機物粒子11が光を吸収する場合や無機物粒子11が金属を含む場合には、(数4)の屈折率を複素屈折率として計算する。なお、(数4)はn≧nの場合に成立する式であり、n<nの場合は以下の(数5)を用いて屈折率の推定を行う。
【0046】
【数5】

【0047】
コンポジット材料10の実際の屈折率の評価は、調製したコンポジット材料10を成膜又は成型し、エリプソメトリ法、アベレス法、光導波路法、分光反射率法などの分光測定法で実測することによって求めることができる。
【0048】
屈折率が1.5の樹脂を用いる場合、屈折率2.1の酸化ハフニウムをその体積比が36%以上となるように混合することによって、屈折率が1.7以上のコンポジット材料が得られると予想される。また、屈折率が1.6の樹脂を用いる場合、屈折率2.1の酸化ハフニウムをその体積比が22%以上となるように混合することによって、屈折率が1.7以上のコンポジット材料が得られると予想される。(数4)または(数5)をd線、F線ならびにC線において同様に用いることにより、各波長における屈折率が算出されるので、得られる屈折率を(数3)に代入することによりアッベ数を推定することができる。
【0049】
一例として、2種類の樹脂(屈折率が1.5、アッベ数が51の樹脂、または、屈折率が1.6、アッベ数が24の樹脂)に、無機物粒子として、酸化ハフニウム(屈折率2.1、アッベ数32)を、コンポジット材料全体に占める体積比が0%、10%、20%、30%、40%、50%となるように混合させて得られるコンポジット材料について、屈折率とアッベ数との関係を(数4)より算出した。結果を図6に示す。なお、図6には比較のため、酸化チタン(屈折率2.61、アッベ数12)、またはアルミナ(屈折率1.77、アッベ数77)を同様に混合させて得られるコンポジット材料についても屈折率とアッベ数の関係を表示している。また、図6中の一点鎖線で囲まれた左上の領域は、屈折率nCOMが1.60以上、アッベ数νCOMが20以上であり、かつ
【0050】
【数6】

【0051】
の関係が成立する領域であり、高屈折率と低波長分散性のバランスの優れた領域である。
【0052】
図6に示したとおり、酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11を樹脂12中に共存させることにより、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れたコンポジット材料10を得ることが可能となる。
【0053】
(実施の形態2)
本発明のコンポジット材料の他の実施の形態について、図7を用いて説明する。
【0054】
本発明のコンポジット材料70は、酸化ハフニウムを少なくとも含む第1の無機物粒子11と、第1の無機物粒子11とは異なる組成を有し、アッベ数νが50以上である第2の無機物粒子13を、基材である樹脂12中に均一に分散させることにより構成される。第2の無機物粒子13についても、第1の無機物粒子11と同様、一次粒子である13aと、一次粒子13aが複数個凝集してなる二次粒子13bを含む。したがって、第1の無機物粒子11と第2の無機物粒子13が樹脂12中に均一に分散されているとは、第1の無機物粒子11の一次粒子11aおよび二次粒子11b、ならびに第2の無機物粒子13の一次粒子13aおよび二次粒子13bが、コンポジット材料70内の特定の位置に偏在することなく、実質的に均一に分散していることを意味する。第2の無機物粒子についても、第1の無機物粒子11と同様の理由により、その実効粒径が1nm以上100nm以下の範囲内、特に1nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0055】
また基材となる樹脂12については、実施の形態1にて述べたものと同様の材料を使用することができる。この点については、以下の実施の形態においても同様である。
【0056】
また、(数4)に示したマックスウェル−ガーネット理論は本来2元系について成立するものであるが、2種類の無機物粒子を樹脂中に分散させた3元系のコンポジット材料の屈折率に関しては、(数4)を拡張した(数7)および(数8)により、ある程度推定することができる。
【0057】
【数7】

【0058】
【数8】

【0059】
なお、(数7)において、nCBは樹脂12に第2の無機物粒子13を単独で分散させたコンポジット材料の屈折率、npBは第2の無機物粒子13の屈折率である。P、Pはそれぞれ、コンポジット材料10全体に占める樹脂12ならびに第2の無機物粒子13の体積比である。(数7)はnpB≧npmの場合に成立する式であり、npB<npmの場合は(数5)と同様に(数7)を修正し屈折率を推定する。
【0060】
また(数8)において、npAは第1の無機物粒子11の屈折率である。Pは、コンポジット材料10全体に占める第1の無機物粒子11の体積比であり、コンポジット材料10が樹脂12、第1の無機物粒子11ならびに第2の無機物粒子13の3成分のみにより構成される場合はP+P+P=1となる。(数8)はnpA≧nCBの場合に成立する式であり、npA<nCBの場合は(数5)と同様に(数8)を修正しコンポジット材料10の屈折率を推定する。
【0061】
一例として、2種類の樹脂(屈折率が1.5、アッベ数が51の樹脂、または、屈折率が1.6、アッベ数が24の樹脂)に、無機物粒子として、酸化ハフニウム(屈折率2.1、アッベ数32)と、アルミナ(屈折率1.77、アッベ数77)またはシリカ(屈折率1.46、アッベ数68)を、コンポジット材料全体に占める無機物粒子の体積比が合計で30%、50%となるように混合させて得られるコンポジット材料について、屈折率とアッベ数との関係を(数7)および(数8)より算出した。酸化ハフニウムと、アルミナまたはシリカの体積比率については、10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9と変化させた。結果を図8に示す。図8中の一点鎖線で囲まれた左上の領域は、屈折率nCOMが1.60以上、アッベ数νCOMが20以上であり、かつ(数6)の関係が成立する領域であり、高屈折率と低波長分散性のバランスの優れた領域である。
【0062】
図8に示したとおり、酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11とともに、第2の無機物粒子13として、酸化ハフニウムより波長分散性の低い、例えばアッベ数νが50以上を示す粒子を樹脂12中に共存させることにより、コンポジット材料70のアッベ数の低下をさらに抑制することが可能となる。図5より、バンドギャップがおよそ6〜7eV以上の物質であれば、アッベ数νが50以上を示すと考えられる。これに該当する無機物粒子としては、例えばシリカ(バンドギャップ8.6eV)、アルミナ(7.4〜9eV、結晶系により異なる)、酸化マグネシウム(7.8eV)、酸化カルシウム(7.1eV)等の金属酸化物、窒化アルミニウム(6.2eV)等の金属窒化物、フッ化カルシウム(11.5eV)、塩化カリウム(10.9eV)等の金属ハロゲン化物等があげられる。
【0063】
また、酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11とともに、シリカまたはアルミナのいずれかを少なくとも含む第2の無機物粒子を樹脂中に共存させることは、上述したようにコンポジット材料70のアッベ数の低下を抑制できることに加え、基材となる樹脂12の耐久性等に与える影響が比較的小さいことや、無機物粒子の入手ないし調製が容易でコンポジット材料70の生産コストも安価となることからさらに好ましい。
【0064】
上述のように、屈折率と波長分散性のバランスに優れた酸化ハフニウムと、低波長分散性の無機微粒子を樹脂中に共存させることにより、波長分散性を増大させることなく屈折率ならびにアッベ数の調整を容易に実施することが可能となり、光学部品設計の自由度がさらに拡大される。
【0065】
なお、本発明のコンポジット材料70において、樹脂12に分散させる第1の無機物粒子11としては、実施の形態1のコンポジット材料10の場合と同様、本発明の効果が得られる限り、酸化ハフニウム以外の無機物成分を含んでもよい。第2の無機物粒子13においても、アッベ数νが50以上を示す限り、上述した金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物以外の無機物成分を含んでもよい。また、シリカないしアルミナ以外の無機物成分を含んでもよい。
【0066】
次に、本発明の実施の形態1および実施の形態2におけるコンポジット材料10、70について説明する。コンポジット材料10、70の全体に占める無機物粒子の好ましい割合(体積比)は、樹脂12および無機物粒子の組み合わせ、ならびに適用する光学部品によって異なる。無機物粒子の割合が大きくなりすぎると透光性が低下するため、コンポジット材料に占める無機物粒子の割合の上限は、通常50体積%〜80体積%程度である。高い屈折率と高い透光性とを実現するためには、コンポジット材料に占める無機物粒子の割合は、全ての種類の無機物粒子を合計して5体積%〜50体積%の範囲にあることが好ましい。
【0067】
コンポジット材料の全体に占める樹脂および無機物粒子の割合は、適用する光学部品に求められる特性や、樹脂および無機物粒子の種類等に応じて選択される。一例では、コンポジット材料に占める樹脂の割合は、50体積%〜95体積%(特に60体積%〜80体積%)の範囲が好ましい。また、コンポジット材料に占める無機物粒子の割合は、5体積%〜50体積%(特に20体積%〜40体積%)の範囲が好ましい。
【0068】
本発明のコンポジット材料10、70において、屈折率と波長分散性のバランスに優れた酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11および、低波長分散性の第2の無機微粒子13を樹脂12中に分散させる構成をとることにより、樹脂単独では実現が困難であった(数9)を満たす光学部品材料を得ることが可能となる。
【0069】
【数9】

【0070】
本発明のコンポジット材料10、70の屈折率については、(数9)を満たしうるものであれば特に限定はされないが、光学部品として要求される特性を満たし、かつ薄型化・小型化を実現する観点から、1.60以上であることが好ましい。コンポジット材料の屈折率の上限については、(数4)、(数7)および(数8)より、理論上は酸化ハフニウムの屈折率である2.1となる。しかし、先に示したとおりコンポジット材料10、70に占める第1の無機物粒子11および第2の無機物粒子13の割合は合計で50体積%以下であることが好ましいこと、および、基材となる樹脂12の屈折率がおおむね1.7以下であることから、実際上はコンポジット材料10ないし70の屈折率の上限は1.9程度となると考えられる。
【0071】
本発明のコンポジット材料10、70のアッベ数については、(数9)を満たしうるものであれば特に限定はされないが、光学部品として要求される特性、特にレンズの色収差等を改善する観点から、20以上であることが好ましい。コンポジット材料のアッベ数の上限については、(数7)および(数8)より、理論上は低波長分散性の第2の無機物粒子13のアッベ数、すなわち最大でアルミナの77となる。しかし、先に示したとおりコンポジット材料10ないし70に占める無機物粒子の割合は合計で50体積%以下であることが好ましいこと、および、基材となる樹脂12のアッベ数がおおむね65以下であることから、実際上はコンポジット材料10ないし70のアッベ数の上限は70程度となると考えられる。
【0072】
さらに、本発明のコンポジット材料10、70は、樹脂12を基材とするため加工性に優れ、かつ樹脂と比べて熱膨張係数が小さい酸化ハフニウムを含んだ無機物粒子11が分散しているため温度変化の影響による劣化が少ないという特徴をも有する。
【0073】
次に、本発明のコンポジット材料の調製方法について以下に説明する。
【0074】
上に示した無機物粒子11、13を、基材である樹脂12に分散させて得られるコンポジット材料10、70の調製方法には、特に限定はなく、物理的な方法で調製してもよいし化学的な方法で調製してもよい。例えば、下記のいずれかの方法でコンポジット材料を調製することができる。
【0075】
(1)樹脂または樹脂を溶解した溶液と無機物粒子とを、機械的、物理的に混合する方法。
【0076】
(2)樹脂の原料(単量体やオリゴマー等)と無機物粒子とを、機械的、物理的に混合して混合物を得た後、樹脂の原料を重合する方法。
【0077】
(3)樹脂または樹脂を溶解した溶液と無機物粒子の原料とを混合した後に、無機物粒子の原料を反応させ、樹脂中で無機物粒子を形成する方法。
【0078】
(4)樹脂の原料(単量体やオリゴマー等)と無機物粒子の原料とを混合した後、無機物粒子の原料を反応させて無機物粒子を合成する工程と、樹脂の原料を重合して樹脂を合成する工程とを行う方法。
【0079】
なお、本発明のコンポジット材料において、無機物粒子の原料としては、酸化ハフニウムであればハフニウムアルコキシド(ハフニウムテトラエトキシド、ハフニウムテトラ−i−プロポキシド、ハフニウムテトラ−n−プロポキシド、ハフニウムテトラ−n−ブトキシド、ハフニウムテトラ−sec−ブトキシド、ハフニウムテトラ−tert−ブトキシド等)、ハフニウムのキレート化合物(ビスアセチルアセトンハフニウム、トリ−n−ブトキシドハフニウムモノエチルアセトアセテート等)等が挙げられる。また、これらの酸化ハフニウム粒子原料の他に、他の無機物粒子の原料、例えばアルコキシドや配位化合物を含む有機金属化合物や、金属塩化物等を併用してもよい。シリカであればアルコキシシラン(テトラエトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等)、ハロゲン化ケイ素(テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン等)等が挙げられる。アルミナであればアルミニウムアルコキシド(アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−i−プロポキシド、アルミニウムトリブトキシド等)、キレート化合物(アルミニウムアセチルアセトネート等)等を用いることができる。
【0080】
上記(1)および(2)の方法では、予め形成された様々な無機物粒子を用いることができ、また、汎用の分散装置によってコンポジット材料を調製できるという利点がある。また、上記(3)および(4)の方法では、化学的な反応を行うことが必要であるため、材料に制限がある。しかし、これらの方法は、原料を分子レベルで混合し、無機物粒子の分散性を高めることができるという利点を有する。
【0081】
なお、酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11とともに、低波長分散性の第2の無機物粒子13を樹脂12中に共存させる場合、両方の粒子を上記(1)から(4)の同じ方法で調製してもよいし、それぞれ異なる方法で調製してもよい。例えば、一方の粒子を予め形成された無機物粒子として混合し、他方の粒子を原料から形成しても差し支えない。
【0082】
上述の方法において、無機物粒子または無機物粒子の原料と、樹脂または樹脂の原料とを混合する順序に特に限定はなく、好ましい順序を適宜選択すればよい。例えば、1次粒径が実質的に1nm〜100nmの範囲のサイズである無機物粒子を分散した溶液に、樹脂、樹脂の原料またはそれらを溶解した溶液を加えて機械的、物理的に混合してもよい。また、酸化ハフニウムを含む第1の無機物粒子11とともに、低波長分散性の第2の無機物粒子13を樹脂中に共存させる場合、各々の無機物粒子を調製する順序についても、本発明の効果が得られる限り特に限定されない。例えば、上記(3)および(4)の方法において、無機物粒子の原料としてアルコキシドを使用する場合、比較的反応性の低いアルコキシシランやアルミニウムアルコキシドを先に一定時間反応させた後、この系に反応性の高いハフニウムアルコキシドをさらに混合して反応させる方法をとることができる。
【0083】
なお、本発明のコンポジット材料10、70においては、本発明の効果が得られる限り、無機物粒子11、13と基材となる樹脂12以外の成分を含んでもよい。例えば、図示はしていないが、樹脂中における無機物粒子の分散性を向上させる分散剤や界面活性剤、特定範囲の波長の電磁波を吸収する染料や顔料等がコンポジット材料中に共存していても差し支えない。
【0084】
本発明の光学部品を形成するためのコンポジット材料10、70の加工方法は、基材である樹脂12の種類、ならびに形成する光学部品の形状や要求特性等により異なる。例えばレンズ基材やディスク基板、ファイバー等の成形体を得る場合、樹脂が熱可塑性樹脂であれば、コンポジット材料をある温度範囲に加熱することにより軟化ないし溶融させ、各種の成形加工を行うことができる。成形加工方法の例としては、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、カレンダー成形、積層成形、加熱プレス等が挙げられ、多様な形状の成形体を得ることが可能である。樹脂が熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂であれば、樹脂原料である単量体やオリゴマー等に無機物粒子ないし無機物粒子の原料を混合した状態にて注型し、加熱ないし光照射により樹脂原料を重合する方法(注型重合)等により、本発明のコンポジット材料による成形体を得ることができる。また必要に応じて、これらの成形体に対して切削や研磨による加工を実施したり、ハードコートや反射防止膜等の表面処理加工を実施してもよい。
【0085】
一方、成形体表面への被膜や孔内への光導波路を形成する場合、コンポジット材料を構成するための物質を含む混合物、例えば塗液を使用することができる。この混合物(塗液)は、樹脂または樹脂の原料と、無機物粒子と、溶媒(分散媒)とを含む。また、溶媒を含まない混合物を用いてもよい。この場合、熱可塑性樹脂を用い、昇温によって低粘度化させた混合物を用いるか、あるいは膜状の混合物を用いる。塗液は、例えば以下の方法で調製できる。
【0086】
(1)コンポジット材料を溶剤によって希釈して塗液を調製する方法。この塗液を用いる場合、塗液を塗布した後に溶剤を除去する。
【0087】
(2)樹脂の単量体やオリゴマー、低分子量体等と無機物粒子とを混合して塗液を調製する方法。この塗液を用いる場合、単量体やオリゴマー、低分子量体等の原料を反応させて樹脂を合成することが必要となる。この合成を行うタイミングは、後工程に応じて決定される。
【0088】
(3)無機物粒子の原料と樹脂と溶媒とを混合して塗液を調製する方法。この塗液を用いる場合、塗液を塗布した後に、無機物粒子の原料をゾル・ゲル法等によって反応させて塗膜中で無機物粒子を合成する。
【0089】
(4)加温して低粘度化した樹脂に無機物粒子を分散させて塗液を調製する方法。この方法では、塗膜の温度が低下することによって塗膜が固化して被膜や光導波路が形成される。
【0090】
これらの方法は、樹脂12や無機物粒子11および13の種類や、塗布の方法等に応じて適宜選択すればよい。なお塗液は、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤、分散剤等を含んでもよい。
【0091】
この混合物を成形体表面や孔内に配置する方法に限定はなく、例えば公知の方法を適用できる。具体的には、ディスペンサ等の注液ノズルを用いた塗布、インクジェット法等の噴射塗布、スピンコーティング等回転による塗布、印刷等スキージングによる塗布、転写等を適用してもよい。このような方法は、既存の設備を用いて行うことができる。
【0092】
塗液を塗布した後、溶媒を除去することによって被膜や光導波路を形成できる。なお、塗液が、樹脂の材料(モノマやオリゴマー等)や無機物粒子の原料を含む場合、必要に応じて塗布後にそれらを反応させて樹脂や無機物粒子を合成してもよい。また、塗液を塗布することによって形成された膜を硬化させて被膜や光導波路を形成してもよい。硬化処理は、光硬化、熱硬化、乾燥処理等で行うことができる。
【0093】
(実施の形態3)
本発明のコンポジット材料を用いた光学部品の一実施の形態について、図9を用いて説明する。
【0094】
本発明において、酸化ハフニウムを少なくとも含む無機物粒子を樹脂に分散させることにより構成されるコンポジット材料を使用して形成される光学部品としては、レンズ、回折光学素子(回折格子を形成したレンズ、空間ローパスフィルタ、偏光ホログラム等)、光導波路を有する固体撮像素子、光ファイバー、光ディスク基板、光フィルタ、光学用接着剤等が挙げられる。図9においては、このうち回折格子形状を表面に形成したレンズの一例についてその断面図を示し説明を行う。なお、図9に示したレンズは一例であり、本発明は他の様々な形態にも適用可能である。
【0095】
レンズ基材91の表面には輪帯状の回折格子形状92aが形成され、その対向面にも輪帯状の回折格子形状92bが形成されている。これらの回折格子形状92a、92bを覆うように保護膜93a、93bがそれぞれ形成されている。
【0096】
本発明のレンズにおいて、コンポジット材料は、レンズ基材91として使用することができる。本発明のコンポジット材料は高屈折率かつ低波長分散性を示すことから、コンポジット材料をレンズ基材91として使用することにより、従来のプラスチックレンズと比較して薄型化が可能となるとともに、色収差の影響も低減される。特にレンズ表面の少なくとも一方に回折格子形状92を形成することにより、さらに薄型かつ光学特性に優れたレンズを得ることができる。
【0097】
レンズ基材91としての加工方法は、コンポジット材料の基材となる樹脂により異なる。例えば、レンズ形状を形成する金型に、コンポジット材料を軟化ないし溶融させた状態で供給し成形を行う方法や、樹脂原料である単量体やオリゴマー等に無機物粒子ないし無機物粒子の原料を混合した状態にて注型し、加熱ないし光照射により樹脂原料を重合したりする方法等により、所望のレンズ形状に成形することが考えられる。この際、金型に回折格子形状を形成しておくことにより、得られるレンズの表面に回折格子形状92が形成される。なお、レンズの加工方法はこれらに限定されるものではない。
【0098】
本発明のコンポジット材料をレンズ基材91として使用する場合、コンポジット材料の基材となる樹脂は本発明の効果が得られる限り、一般にプラスチックレンズ等に使用される透光性の樹脂を使用することができる。例えばメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、脂環式ポリオレフィン樹脂等を用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。その中でも、成型加工が容易で生産性がより高いことから、熱可塑性樹脂を基材として使用することが特に好ましい。
【0099】
なお、本発明のコンポジット材料を使用して形成されるレンズ基材91上に、屈折率、反射率等の光学特性や、耐摩擦性、熱膨張性等の力学特性を調整する作用を有する保護膜を形成してもよい。
【0100】
また、本発明のレンズにおいて、コンポジット材料をレンズ基材91上に形成する保護膜93として使用してもよい。コンポジット材料をレンズ基材91上の保護膜93として形成した場合についても、レンズ基材91に使用した場合と同様、色収差の影響を低減することが可能である。
【0101】
表面の少なくとも一方に回折格子形状92を形成したレンズ基材91に対して、本発明のコンポジット材料により保護膜93を形成する場合、ある波長λにおいてレンズの1次回折効率が100%となる回折格子深さd´は(数10)により与えられる。なお(数10)において、nCOMはコンポジット材料の、nはレンズ基材91の、波長λにおける屈折率である。
【0102】
【数10】

【0103】
(数10)の右辺がある波長領域において一定値になれば、その波長領域における回折効率の波長依存性がなくなることになる。すなわち、レンズ基材91と保護膜93を高屈折率・低波長分散性材料と低屈折率・高波長分散性材料との組み合わせにより構成すればよい。ここで本発明のコンポジット材料を、適切な樹脂、無機物粒子の種類ならびに体積比を選択して調製し保護膜93として使用することにより、回折格子深さd´を深くすることなく、回折効率の波長依存性が少ないレンズを形成することができる。この構成により、回折格子形状92のピッチを細かくすることができ、広い波長領域において色収差がなくMTF特性に優れたレンズを複数のレンズを組み合わせることなく形成することが可能となる。この結果、光学機器の薄型化、小型化を実現できる。
【0104】
コンポジット材料を使用した保護膜93は、上に述べた塗液を用いてレンズ基材91上に形成することができる。この場合レンズ基材91としては、一般にレンズ基材として使用される透光性の材料の中から、塗液に使用する溶媒(分散媒)に侵されず高い透光性を保つことのできる材料を選択する必要がある。すなわち、各種の光学ガラス、透光性セラミック、プラスチックレンズ等に使用される透光性の樹脂、例えばメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、脂環式ポリオレフィン樹脂等の中から、塗液に使用する溶媒への耐久性に応じて選択すればよい。レンズ基材として樹脂を使用する場合、これらの樹脂に、屈折率等の光学特性や、熱膨張性等の力学特性を調整するための無機物粒子や、特定の波長領域の電磁波を吸収する染料や顔料等を、必要に応じて共存させてもよい。さらにレンズ基材としても本発明のコンポジット材料を使用してもよい。
【0105】
レンズ基材91表面に形成される回折格子形状92は、レンズのいずれか片面に形成されていても、両面に形成されていてもよい。両面に形成される場合において、両面の回折格子形状92a、92bは必ずしも同じ深さ、形状である必要はない。また、回折格子内の輪帯ピッチは同じである必要はない。また、輪帯である必要はなく直線状、曲線状の回折格子やホログラフィック回折格子でも差し支えない。また両面における保護膜93a、93bのそれぞれの材料、およびそれぞれの厚みも同じである必要はない。レンズの形状の両面ともが凸面である必要はなく、凹面と凸面、両面凹面、両面平面、平面と凸面、平面と凹面などでもよい。
【0106】
本発明のレンズは、樹脂をベースにしたコンポジット材料からなるので製造が容易である。回折格子形状が形成されたレンズは金型による成形で容易に大量生産できる。金型の加工の一例としては金型表面にメッキ膜を形成し、このメッキ膜にダイヤモンドバイトによる旋削加工を用いてレンズ用の成形駒を加工する。上記材料は熱可塑性樹脂であるポリカーボネート、シクロオレフィン系樹脂が配合されているので、射出成形により回折格子が形成されたレンズを容易に作製できる。
【0107】
また、型材として石英などの紫外線や可視光を透過する材料にドライエッチング等で階段状の回折格子(反転形状)を形成してもよい。このような型材を用いれば、光硬化樹脂を含むコンポジット材料の混合物を型材に塗布等を行い、紫外線硬化樹脂や可視光硬化樹脂を硬化し離型する方法、いわゆるフォトポリマー成形を用いることにより、コンポジット材料からなり回折格子形状が形成されたレンズを容易に作製できる。
【0108】
なお、金型加工の容易さと、レンズ性能面での回折格子形状の寄与、および周辺温度に対する安定性を確保するには回折格子形状の深さを20μm以下にすることが望ましい。数十μmを越える深さの回折格子形状に対しては加工精度の高い金型加工が困難である。なぜなら、一般に金型加工はバイトを用いて行うが、回折格子形状の深さが深いと加工量が増え、バイト先端が磨耗するため、加工精度が劣化する。同時に回折格子形状の深さが深くなると回折格子形状のピッチを狭くすることができない。回折格子形状が深くなると先端の曲率半径の大きなバイトで金型を加工する必要があり、その結果、ある程度回折格子形状のピッチを広げないと回折格子形状の加工ができないためである。これにより回折格子形状の深さが深いほど回折格子形状の設計自由度がなくなり、回折格子形状による収差低減効果がほとんどなくなっていく。
【0109】
保護膜に使用するコンポジット材料の基材となる樹脂は、無機物粒子を分散させて得られた保護膜の屈折率分布が、レンズが使用される波長領域において(数10)を満たしうるための屈折率分布を有するものの中から、成膜性、レンズ基材との密着性、ならびに無機物粒子の分散性等の観点を考慮して選定される。さらに、カバーグラス等を使用しない光学機器に本発明のレンズを使用する場合には、保護膜の基材となる樹脂自身にある程度の強度(耐摩擦性)が要求されることになる。
【0110】
保護膜中に占める無機物粒子の種類ならびにその体積比率は、保護膜の屈折率分布が、レンズが使用される波長領域において(数10)を満たすように決定される。レンズ基材の屈折率分布が決定されると、(数10)を満たしうる保護膜の屈折率およびその波長分散性(アッベ数)が算出されるので、算出された屈折率およびアッベ数を示す樹脂基材と無機物粒子の組成を、(数4)ないし(数7)および(数8)に示したマックスウェル−ガーネット理論を用いて推定すればよい。
【0111】
なお、保護膜の表面に、さらに反射防止膜を形成する構成をとってもよい。反射防止膜の材料としては、保護膜として使用されるコンポジット材料より屈折率が低いものであれば差し支えない。例えば、樹脂、または樹脂と無機物粒子とのコンポジット材料のいずれか、あるいは真空蒸着等で形成された無機薄膜等が挙げられる。反射防止膜としてのコンポジット材料に使用される無機物粒子としては、屈折率の低いシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。反射防止膜にコンポジット材料を用いることにより、製造が容易になるとともに、レンズあるいは保護膜の少なくともいずれかはコンポジット材料であるので、これらと反射防止膜の熱膨張率を近くすることができ、周辺温度に対する特性安定性が向上し、クラックや膜の剥離が起こりにくくなる。また、保護膜の表面にナノ構造の反射防止形状を形成してもよい。例えば型による転写工法(ナノインプリント)で容易に形成することができる。
【0112】
(実施の形態4)
本発明のコンポジット材料を用いた光学部品の他の一実施の形態について、図10を用いて説明する。図10においては、本発明のコンポジット材料を使用して光導波路を形成したCCD型固体撮像素子の一例についてその断面図を示し説明を行う。なお、本実施の形態で固体撮像素子としてCCD型を用いて説明しているが、MOS型など他の方式の素子でも適用することができるものである。
【0113】
図10は、CCDのうち一画素の部分のみを示している。図10のCCD型固体撮像素子1010は、光電変換部(受光センサ)101および電荷転送部102が表面に形成された基板103(ハッチングは省略する)と、基板103上に形成された、絶縁層104、電荷転送電極105、反射防止膜106、遮光膜107、層間絶縁膜108および光導波路109とを備える。
【0114】
基板103は、シリコンなどの半導体基板である。その表面には、光電変換を行う光電変換部101が複数個形成されている。2つの電荷転送部102は、光電変換部101を挟むように配置されている。光電変換部101および電荷転送部102は、例えば、特定の導電型の半導体基板に、不純物をドーピングすることによって形成できる。
【0115】
絶縁層104は、酸化シリコン(SiO2)からなり、熱酸化法やCVD法などで形成できる。電荷転送電極105は、絶縁層104を挟んで電荷転送部102に対向するように配置されている。電荷転送電極105は、例えばポリシリコンからなる。光電変換部101において光電変換されて得られた信号電荷は、電荷転送部102に読み出され、電荷転送電極105によって転送される。
【0116】
反射防止膜106は、光導波路109から入射した光が反射されることを防止するための膜であり、光電変換部101の上方に配置される。反射防止膜106は、エッチングストッパ層を兼ねている。反射防止膜106は、例えば酸化アルミニウムや窒化シリコンで形成できる。
【0117】
絶縁層104の表面であって、光電変換部101の上方以外の部分には、遮光膜107が形成されている。遮光膜107は、電荷転送電極105を覆うように形成されている。遮光膜は、例えばアルミニウム(Al)やタングステン(W)といった金属からなる。
【0118】
基板103の上方、具体的には、遮光膜107の上方には、層間絶縁膜108が形成されている。層間絶縁膜108は、平坦化膜としての役割を担っている。層間絶縁膜108は、例えばSiO2で形成される。層間絶縁膜108のうち、光電変換部101の上方には、層間絶縁膜108を貫通する孔108hが形成されている。
【0119】
孔108hに、本発明のコンポジット材料からなる光導波路109が形成されている。コンポジット材料(光導波路109)の屈折率は、層間絶縁膜108よりも大きい。孔108hには、孔108hとコンポジット材料との密着性を向上させるための前処理が行われていてもよい。前処理としては、例えば、カップリング剤などを用いた表面処理やプラズマ処理などを用いることができる。
【0120】
光導波路109の断面形状(光導波路を上面から見たときの形状)は、円形または矩形などである。光導波路109のサイズ(断面形状の直径または辺の長さ)は、例えば0.5μm〜3μm程度である。光導波路109のアスペクト比、すなわち、長さ(基板103の表面に垂直な方向の長さ)と光導波路の底面(基板103側の面)のサイズとの比である[長さ]/[サイズ]の値は、1〜5程度である。なお、光導波路109の形状は、固体撮像素子の設計によって変わるため、上述した形状に限定されない。
【0121】
なお、図10に示した固体撮像素子は一例であり、本発明は他の様々な形態にも適用可能である。例えば、光導波路109の上方にオンチップレンズが形成されていてもよい。また光導波路109の形状としては、図10には表面側から底面側にかけて断面積が小さくなるテーパ形状のものを示しているが、断面積のサイズが一定である柱状の形状や、絶縁体との界面が階段状である形状でも差し支えない。また、層間絶縁膜の内部に、複数の電極が形成されていてもよい。
【0122】
また、本発明の光導波路109は、波長フィルタとして機能するものであっても差し支えない。例えば、本発明のコンポジット材料に対し、さらに特定範囲の波長の光を吸収する染料や顔料を混入させ、カラーフィルタとして機能させてもよい。また、赤外線を吸収する材料、例えば銅イオン等の金属イオンの錯塩、近赤外波長に吸収を有する染料、あるいは酸化スズインジウム(ITO)や酸化スズアンチモン(ATO)等の無機物粒子を混入させ、赤外線遮蔽フィルタとして機能させてもよい。同様に、酸化亜鉛や酸化セリウム等の紫外線を吸収する材料を混入させることにより、紫外線遮蔽フィルタとして機能させてもよい。
【0123】
本発明の光導波路109は、先に述べたように、例えば塗液を塗布した後、溶媒除去ないし硬化を行うことにより形成することができる。アスペクト比の高い孔や階段状等の複雑な形状を有する孔に光導波路を形成する場合は、コンポジット材料を形成するための物質を含む混合物を減圧下にて孔に配置した後、圧力を増大させることによって孔内へ充填させる方法を用いてもよい。また光導波路の適用用途に応じて、コンポジット材料により形成された膜を平坦化する工程を実施してもよい。平坦化の方法としては、スピンコーティングの回転数を高める方法、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の研削、プラズマやエッチング液によるエッチング、余分なコンポジット材料のスキージングによる除去等があげられる。
【0124】
本発明のコンポジット材料を用いて、光通信用デバイスや固体撮像デバイス等に使用される光導波路を形成することができる。デバイスの微細化の進展に伴い、光導波路を形成する孔部のアスペクト比が増大し、この結果孔部に埋め込まれる材料のカバレッジが悪化し光導波路内部にボイドを生じる事象が発生している。このような問題は特に、窒化シリコン膜やDLC膜等の真空成膜法にて形成される光導波路で顕著である。一方、ポリイミド樹脂等の塗布により形成される光導波路は、カバレッジ性は良好であるが、周辺材料との屈折率差が十分でなく、集光効率が低いという課題があった。
【0125】
本発明のコンポジット材料は、酸化ハフニウムを含む無機物粒子を分散させていることにより屈折率が向上することから、集光効率の高い光導波路の形成が可能である。この結果、本実施の形態に示すように、本発明の光導波路109を固体撮像デバイスに適用することにより、画素を微細化した際の感度低下を抑制することが可能となる。一方、本発明の光導波路を光通信用デバイスに適用した場合には、光回路の曲げ半径を小さくすることができ、複雑な回路をより小さな面積で形成することが可能となる。また、樹脂が基材であるためカバレッジ性が良好で、かつ塗布法により形成できることから、真空成膜法による光導波路と比較して短時間かつ低エネルギーで光導波路形成が可能である。さらに、本発明のコンポジット材料は、熱膨張係数が樹脂のみの場合と比較して小さくなるため、光導波路の温度変化による剥離を抑制することができる。
【実施例】
【0126】
以下に、本発明のコンポジット材料、ならびにこれを使用して形成した光学部品の具体例について説明する。
【0127】
(実施例1)
酸化ハフニウム粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず、エポキシ系のオリゴマー(旭電化製オプトマーKRX、屈折率1.62、アッベ数24)のメチルイソブチルケトン溶液に、酸化ハフニウム(一次粒径20nm)のメチルエチルケトン分散液を、固形分中における酸化ハフニウムの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を、スピンコートによりそれぞれシリコン基板上に500nmの厚さに塗布し、UV照射によりオリゴマーをエポキシ樹脂((表1)においては樹脂Aと示す)とすることにより、基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0128】
(実施例2)
酸化ハフニウム粒子およびシリカ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例1に示したエポキシ系オリゴマーのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液に、実施例1に示した酸化ハフニウムのメチルエチルケトン分散液、およびシリカ(一次粒径16nm)のプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液を、固形分中における酸化ジルコニウムの体積比が22.5体積%、シリカの体積比が7.5体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例1と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0129】
(実施例3)
酸化ハフニウム粒子およびアルミナ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例1に示したエポキシ系オリゴマーのメチルイソブチルケトン溶液に、実施例1に示した酸化ハフニウムのメチルエチルケトン分散液、およびアルミナ(一次粒径30nm)のメチルイソブチルケトン分散液を、固形分中における酸化ハフニウムの体積比が20体積%、アルミナの体積比が10体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例1と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0130】
(比較例1)
アルミナ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例1に示したエポキシ系オリゴマーのメチルイソブチルケトン溶液に、実施例3に示したアルミナ(一次粒径30nm)のメチルイソブチルケトン分散液を、固形分中におけるアルミナの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例1と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0131】
(比較例2)
酸化チタン粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例1に示したエポキシ系オリゴマーのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液に、酸化チタン(一次粒径15nm)のプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液を、固形分中における酸化チタンの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例1と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0132】
実施例1から3、ならびに比較例1から2により得られた被膜の屈折率をエリプソメータ(J.A.Woollam社製分光エリプソメータ)により測定した。結果を(表1)に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
比較例1のアルミナを分散させたコンポジット材料においては、屈折率が1.63と、アルミナによる屈折率向上効果はそれほど大きくなく、(数2)を満たすことはできない。また、比較例2の酸化チタンを分散させたコンポジット材料においては、屈折率は1.81と向上しているが、アッベ数が16と樹脂の値と比較して大きく低下している。
【0135】
一方、実施例1から3の酸化ハフニウムを含むコンポジット材料においては、屈折率が1.69〜1.72、アッベ数26〜29を示し、いずれも(数2)を満たす、高屈折率かつ低波長分散性の材料となる。
【0136】
(実施例4)
酸化ハフニウム粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず、アクリル系のオリゴマー(日本合成化学製UV−7000B、屈折率1.51、アッベ数51)のメチルイソブチルケトン溶液に、酸化ハフニウム(一次粒径20nm)のメチルエチルケトン分散液を、固形分中における酸化ハフニウムの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を、スピンコートによりそれぞれシリコン基板上に500nmの厚さに塗布し、UV照射によりオリゴマーをアクリル樹脂((表2)においては樹脂Bと示す)とすることにより、基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0137】
(実施例5)
酸化ハフニウム粒子およびシリカ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例4に示したアクリル系オリゴマーのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液に、実施例1に示した酸化ハフニウムのメチルエチルケトン分散液、および実施例2に示したシリカ(一次粒径16nm)のプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液を、固形分中における酸化ハフニウムの体積比が22.5体積%、シリカの体積比が7.5体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例4と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0138】
(実施例6)
酸化ハフニウム粒子およびアルミナ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例4に示したアクリル系オリゴマーのメチルイソブチルケトン溶液に、実施例1に示した酸化ハフニウムのメチルエチルケトン分散液、および実施例3に示したアルミナ(一次粒径30nm)のメチルイソブチルケトン分散液を、固形分中における酸化ハフニウムの体積比が20体積%、アルミナの体積比が10体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例4と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0139】
(比較例3)
アルミナ粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例4に示したアクリル系オリゴマーのメチルイソブチルケトン溶液に、実施例3に示したアルミナ(一次粒径30nm)のメチルイソブチルケトン分散液を、固形分中におけるアルミナの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例4と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0140】
(比較例4)
酸化チタン粒子を分散させたコンポジット材料を、次の方法により調製した。まず実施例4に示したアクリル系オリゴマーのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液に、比較例2に示した酸化チタン(一次粒径15nm)のプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液を、固形分中における酸化チタンの体積比が30体積%となるように添加し、かくはんして均一な塗液を得た。この塗液を使用して、実施例4と同様の方法により、シリコン基板上にコンポジット材料からなる被膜を形成した。
【0141】
実施例4から6、ならびに比較例3から4により得られた被膜の屈折率をエリプソメータ(J.A.Woollam社製分光エリプソメータ)により測定した。結果を(表2)に示す。
【0142】
【表2】

【0143】
比較例3のアルミナを分散させたコンポジット材料においては、(数2)は満たしているが、屈折率が1.56と低く、アルミナによる屈折率向上効果は十分ではない。また、比較例4の酸化チタンを分散させたコンポジット材料においては、屈折率は1.72と向上しているが、アッベ数が19と樹脂の値と比較して大きく低下している。
【0144】
一方、実施例4から6の酸化ハフニウムを含むコンポジット材料においては、屈折率が1.62〜1.67、アッベ数41〜46を示し、いずれも(数2)を満たす、高屈折率かつ低波長分散性の材料となる。
【0145】
(実施例7)
本発明のコンポジット材料を使用したレンズを、次の方法により作製した。レンズ基材91として、ポリカーボネート樹脂に酸化亜鉛粒子(一次粒径20nm)を30体積%混合した材料(d線屈折率1.68、アッベ数19)を用い、これに深さ6.0μmの輪帯状回折格子形状92a、92bを両面にそれぞれ付加した。この回折格子形状92a、92bを覆うように、シクロオレフィン系樹脂に酸化ハフニウムを50体積%で分散、混合したコンポジット材料をスピンコートにより塗布した後自然硬化させ、保護膜93a、93bとして両面に形成した。このコンポジット材料はd線屈折率1.77、アッベ数39であった。
【0146】
このレンズの1次回折効率の波長依存性を図11に示す。これは片面での特性である。可視光域である波長400〜700nmの全域に渡って90%以上の回折効率が得られている。なお、レンズ基材と保護膜材料を入れ替え、シクロオレフィン系樹脂に酸化ハフニウムを50体積%分散、混合したコンポジット材料をレンズ基材91とし、これに深さ6.0μmの回折格子を付加し、保護膜93の材料としてポリカーボネート樹脂に酸化亜鉛を30体積%混合した材料を用いても図11と同じ特性が得られる。
【0147】
(実施例8)
本発明のコンポジット材料を使用したレンズを、次の方法により作製した。レンズ基材91として、光学ガラスSF14(d線屈折率1.65、アッベ数34)を用い、これに深さ4.2μmの輪帯状回折格子形状92a、92bを両面にそれぞれ付加した。この回折格子形状92a、92bを覆うように、シクロオレフィン系樹脂に酸化ハフニウムを50体積%で分散、混合したコンポジット材料をスピンコートにより塗布した後自然硬化させ、保護膜93a、93bとして両面に形成した。このコンポジット材料はd線屈折率1.77、アッベ数39であった。
【0148】
実施例8のレンズの1次回折効率を評価したところ、可視光域である波長400〜700nmの全域に渡って80%以上の回折効率が得られた。
【0149】
(実施例9)
本発明のコンポジット材料を使用して光導波路を形成したCCD型固体撮像素子1010を、次の方法により作製した。
【0150】
まず、p型シリコン基板103にリン(n型不純物)をイオン注入することによってフォトダイオード(光電変換部)101を形成した。そして、この基板上に、熱酸化によって膜厚20nmのシリコン酸化膜(絶縁層)104を成長させた。その絶縁層104上に、熱CVD法によって、酸化アルミニウム膜(膜厚は60nm)を形成した。酸化アルミニウム膜は、出発原料としてアルミニウムアセチルアセトナートを用いて、Ar/O混合雰囲気中において450℃で成膜した。その後、レジストパターンの形成と酸化アルミニウム膜のエッチングとをすることによって、光電変換部101の上部に、酸化アルミニウムからなる反射防止膜106を形成した。
【0151】
次に、減圧CVD法によって膜厚300nmのポリシリコン膜を成長させた。このポリシリコン膜の一部を、ドライエッチングによって選択的にエッチングすることにより、電荷転送電極105を形成した。さらに、熱酸化によって、電荷転送電極105上にシリコン酸化膜を形成し、電荷転送電極105の周囲を絶縁層104で覆った。
【0152】
次に、遮光膜となるタングステン膜を全面に形成した。このタングステン膜に対して、レジストパターンの形成と異方性ドライエッチングとを行うことによって、電荷転送電極の周辺部を覆う遮光膜107を形成した。
【0153】
次に、CVD法によって平坦化膜を兼ねる層間絶縁膜108を形成した。層間絶縁膜108は、屈折率1.45の酸化シリコンで形成した。そして、この層間絶縁膜108上にレジストパターンを形成し、CF4による異方性ドライエッチングを行い、光電変換部の上方に孔108hを(幅1μm×深さ2μm)を形成した。このとき、反射防止膜である酸化アルミニウム層106は、エッチングストッパ層として機能する。このようにして、光導波路形成前の基板を作製した。以下、この基板を「基板(A)」という場合がある。
【0154】
次に、基板(A)の層間絶縁膜の孔に、コンポジット材料からなる光導波路109を形成した。コンポジット材料を構成する樹脂には屈折率1.51のアクリル樹脂を用い、無機物粒子には酸化ハフニウム(一次粒径20nm)、ならびにアルミナ(一次粒径30nm)を用いた。コンポジット材料は、酸化ハフニウム粒子の割合が35体積%、アルミナの割合が15体積%であり、屈折率が1.74であった。
【0155】
以下に、光導波路の形成方法を説明する。まず、減圧容器内の固定ステージに10Paの圧力で基板(A)を固定し、容器の内部の圧力を100Paとした。そして、真空注液ノズルによって塗液を基板(A)の上に塗布し、基板(A)を100rpmで10秒間回転させてスピンコーティングを行った。塗液は、アクリル系のオリゴマー(日本合成化学製UV−7000B)溶液に、所定の量の酸化ハフニウム粒子ならびにアルミナ粒子を分散させることによって調製した。
【0156】
塗液の塗布後、容器内の減圧を解除し、塗液を孔部108hに十分に埋め込ませた。その後、基板(A)を2000rpmで20秒間回転させて平坦化を行った。最後に、光照射を行ってアクリル系のオリゴマーをアクリル樹脂とした。このようにして、コンポジット材料からなる光導波路109を形成し、実施例9のCCD型固体撮像素子1010を得た。
【0157】
一方、比較例として、層間絶縁膜に孔部108hおよび光導波路109を形成せずに固体撮像素子を形成した。このようにして得られた実施例9および比較例の撮像素子の感度特性を評価した。その結果、実施例9の撮像素子は、比較例の素子に比べて、素子全体における画像の明るさが約1.8倍であり、感度が高かった。これは、実施例9の素子の集光効率が高いためである。
【0158】
また、実施例9の撮像素子と比較例の撮像素子とについて、入射光の角度と、入射光が光電変換部に入射する効率との関係について測定した。実施例9の撮像素子の場合、垂直に入射した光の効率を100とした時、斜め20°入射光では約65、斜め30°入射光では約45であった。これに対して、比較例の撮像素子の場合、垂直に入射した光の効率を100とした時、斜め20°入射光では約40、斜め30°入射光では約20であった。比較例の素子では、入射角が大きくなると集光効率が大きく低下した。このように、光導波路109の形成によって斜め入射光の検知効率が大きく向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明のコンポジット材料は、高屈折率と低波長分散性のバランスに優れていることから、波長特性が良好でかつ小型の光学部品に利用することができる。例えばレンズ、回折光学素子(回折格子を形成したレンズ、空間ローパスフィルタ、偏光ホログラム等)、光導波路を有する固体撮像素子、光ファイバー、光ディスク基板、光フィルタ、光学用接着剤等、およびこれらを応用した光学機器・システムに展開可能である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の実施の形態1に係るコンポジット材料を模式的に示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1に係るコンポジット材料に添加される無機物粒子の実効粒径を説明するグラフ
【図3】本発明のコンポジット材料に使用する無機物、ならびにその他の無機物における、d線(波長587nm)においての屈折率nと、波長分散性を示すアッベ数νの関係を示すグラフ
【図4】本発明のコンポジット材料に使用する無機物、ならびにその他の無機物における、バンドギャップとd線(波長587nm)においての屈折率nとの関係を示すグラフ
【図5】本発明のコンポジット材料に使用する無機物、ならびにその他の無機物における、バンドギャップとアッベ数νとの関係を示すグラフ
【図6】本発明の実施の形態1に係るコンポジット材料において推算される屈折率とアッベ数の関係の一例を示すグラフ
【図7】本発明の実施の形態2に係るコンポジット材料を模式的に示す断面図
【図8】本発明の実施の形態2に係るコンポジット材料において推算される屈折率とアッベ数の関係の一例を示すグラフ
【図9】本発明の実施の形態3に係るレンズの一例を模式的に示す断面図
【図10】本発明の実施の形態4に係る光導波路を形成した固体撮像素子の一例を模式的に示す断面図
【図11】本発明の実施例7に係るレンズの1次回折効率の波長依存性を示すグラフ
【符号の説明】
【0161】
10,70 コンポジット材料
11 第1の無機物粒子
12 樹脂
13 第2の無機物粒子
91 レンズ基材
92a,92b 回折格子形状
93a,93b 保護膜
101 光電変換部
102 電荷転送部
103 基板
104 絶縁層
105 電荷転送電極
106 反射防止膜
107 遮光膜
108 層間絶縁膜
108h 孔
109 光導波路
1010 CCD型固体撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂中に分散され、酸化ハフニウムを少なくとも含む第1の無機物粒子とを有し、屈折率nCOMが1.60以上、アッベ数νCOMが20以上であり、かつ
【数1】

の関係が成立するコンポジット材料。
【請求項2】
前記樹脂中に分散され、アッベ数νが50以上である第2の無機物粒子をさらに有する請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項3】
前記第2の無機物粒子は、シリカまたはアルミナである請求項2に記載のコンポジット材料。
【請求項4】
前記第1の無機物粒子のコンポジット材料全体に対する体積比が、50体積%以下である請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項5】
前記第1の無機物粒子および前記第2の無機物粒子のコンポジット材料全体に対する体積比の合計が、50体積%以下である請求項2または3に記載のコンポジット材料。
【請求項6】
前記第1の無機物粒子の実効粒径が、1nm以上100nm以下の範囲内にある請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項7】
前記第1の無機物粒子および前記第2の無機物粒子の実効粒径が、1nm以上100nm以下の範囲内にある請求項2または3に記載のコンポジット材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のコンポジット材料を用いた光学部品。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のコンポジット材料からなるレンズ。
【請求項10】
第1の材料からなり表面に回折格子形状が形成された基材と、第2の材料からなり前記回折格子形状を覆うように形成された保護膜とを有する回折光学素子であって、前記第1の材料と前記第2の材料はいずれも樹脂を成分として構成されており、前記第1の材料と前記第2の材料の少なくとも一方が請求項1から7のいずれかに記載のコンポジット材料からなる回折光学素子。
【請求項11】
光電変換部と、前記光電変換部上に配置された光導波路とを有する固体撮像素子であって、前記光導波路は請求項1から7のいずれかに記載のコンポジット材料からなる固体撮像素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−291195(P2007−291195A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118878(P2006−118878)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】