説明

コーティング液および積層体

【課題】ブツの発生が抑制され、外観が良好で、耐擦傷性の優れた高硬度な硬化被膜を含む積層体、およびその硬化被膜を基材上に形成するためのコーティング液を提供することである。
【手段】明細書中に定義される式1で表されるアルキルシリケート(A)と式2で表されるアルコキシシラン(B)の加水分解縮合物であり、重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であるシロキサン化合物(P)を含むコーティング液。また、このコーティング液が硬化した被膜と基材とを含む積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン化合物を含むコーティング液に関し、またそのコーティング液を用いて基材上に形成する硬化被膜を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として軽量性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明性に優れた樹脂が使用されている。前記樹脂の表面硬度や耐擦傷性を向上させるために、多官能アクリル化合物を含むハードコーティング液を用いて樹脂上に硬化被膜を形成するなどの手法がとられているが、この硬化被膜は有機系被膜のため耐擦傷性に限界があるのが現状である。
【0003】
このためシロキサン骨格を有する化合物を含むハードコーティング液を用いて形成する無機系被膜が提案されており、アルコキシシランおよびその加水分解縮合物であるシロキサンオリゴマーの少なくとも一つを含むハードコーティング液が使用されるようになってきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/085373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のハードコーティング液は、シロキサン骨格を有する化合物の分子量が高くないため、それを用いて形成した硬化被膜には、微小欠陥であるブツが発生することがあり、これによる製品の外観不良が生産上問題となることがあった。このため本発明の目的は、ブツの発生が抑制され、外観が良好で、耐擦傷性の優れた高硬度な硬化被膜を含む積層体、およびその硬化被膜を基材上に形成するためのコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、式1で表されるアルキルシリケート(A)と式2で表されるアルコキシシラン(B)との加水分解縮合物であり、重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が、珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であるシロキサン化合物(P)を含むコーティング液が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
(R1、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは2以上10以下の整数を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(R5は、置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクロイル基、エポキシ基、アミド基、メルカプト基、イソシアネート基もしくは炭素数2〜4のアシル基を示し、R6は炭素数1〜10のアルキル基を表し、mは0以上3以下の整数を表す。)
また、本発明により、前記シロキサン化合物(P)に加えて、前記アルコキシシラン(B)の加水分解縮合物であり、かつ重量平均分子量が10,000未満であるシロキサン化合物(Q)をさらに含み、該シロキサン化合物(P)および該シロキサン化合物(Q)に含まれる炭素原子の合計量が珪素原子の合計量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である前記コーティング液が提供される。
【0011】
また、シロキサン化合物(P)と式2で表されるアルコキシシラン(B)との加水分解縮合であるシロキサン化合物(R)を含むコーティング液が提供される。
ただし、前記シロキサン化合物(P)は、式1で表されるアルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)との加水分解縮合物であり、重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である。
【0012】
また、前記シロキサン化合物(R)は、重量平均分子量が11,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である。
【0013】
【化3】

【0014】
(R1、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは2以上10以下の整数を表す。)
【0015】
【化4】

【0016】
(R5は、置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクロイル基、エポキシ基、アミド基、メルカプト基、イソシアネート基もしくは炭素数2〜4のアシル基を示し、R6は炭素数1〜10のアルキル基を表し、mは0以上3以下の整数を表す。)
さらに、上述したコーティング液のいずれかが硬化した被膜と基材とを含む積層体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ブツの発生が抑制され、外観が良好で、耐擦傷性の優れた高硬度な硬化被膜を含む積層体、およびその硬化被膜を基材上に形成するためのコーティング液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の形態であるコーティング液は、アルキルシリケート(A)およびアルコキシシラン(B)を加水分解縮合して得られる重量平均分子量10,000以上のシロキサン化合物であって、そのシロキサン化合物に含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であるシロキサン化合物(P)を含む。
【0019】
また、第2の形態であるコーティング液は、前記シロキサン化合物(P)に加えて、アルコキシシラン(B)を加水分解縮合物して得られる重量平均分子量10,000未満のシロキサン化合物(Q)をさらに含み、そのシロキサン化合物(P)および(Q)に含まれる炭素原子の合計量が珪素原子の合計量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である第1の形態のコーティング液である。
【0020】
さらに、第3の形態であるコーティング液は、前記シロキサン化合物(P)に、さらにアルコキシシラン(B)を追加して、加水分解縮合して得られる重量平均分子量11,000以上のシロキサン化合物であって、そのシロキサン化合物に含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であるシロキサン化合物(R)を含む。
【0021】
以下に詳細を説明する。
【0022】
<アルキルシリケート(A)>
アルキルシリケート(A)は式1にて表される。
【0023】
【化5】

【0024】
(R1、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは2以上10以下の整数を表す。)
アルキルシリケート(A)の具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、イソプロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケートなどのアルキルシリケート類を挙げることができる。これらの化合物は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルキルシリケート(A)としては、加水分解・縮合反応の反応速度が速いという観点から、R1、R2、R3およびR4がそれぞれメチル基またはエチル基であるメチルシリケートまたはエチルシリケートがより好ましい。
【0025】
<アルコキシシラン(B)>
アルコキシシラン(B)は式2にて表される。
【0026】
【化6】

【0027】
(R5は、置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクロイル基、エポキシ基、アミド基、メルカプト基、イソシアネート基もしくは炭素数2〜4のアシル基を示し、R6は炭素数1〜10のアルキル基を表し、mは0以上3以下の整数を表す。)
アルコキシシラン(B)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらの化合物は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルコキシシラン(B)としては、硬化被膜の硬度、基材との密着性の観点から、式2中のR5はメチル基、エチル基またはフェニル基であることが好ましい。また加水分解・縮合反応の反応速度が速いという観点から、式2中のR6は、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0028】
<シロキサン化合物(P)、(Q)、(R)>
シロキサン化合物(P)は、アルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)との加水分解・縮合物であり、シロキサン化合物(Q)はアルコキシシラン(B)の加水分解・縮合物であり、シロキサン化合物(R)は、シロキサン化合物(P)にアルコキシシラン(B)を更に追加して加水分解・縮合反応させて合成したシロキサン化合物である。これらのシロキサン化合物(P)、(Q)および(R)は、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)と、反応基としてシラノール基(−Si−OH)およびアルコキシシリル基(−Si−OR:ただしこのRは、上述の式1および2に記載のR1、R2、R3、R4およびR6のいずれかで示される基である)の少なくとも一方を有する化合物である。
【0029】
第1および第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(P)は、アルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)とを加水分解・縮合することによって得られる。(A)と(B)との割合は特に限定されないが、得られる加水分解縮合物の重量平均分子量が10,000以上であっても、反応中にゲル化することなくシロキサン化合物(P)が良好に得られるという観点から、(B)100質量部に対し、(A)が1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上70質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
また、第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(Q)は、アルコキシシラン(B)を加水分解・縮合することによって得られる。
【0031】
また、第3の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(R)は、上記シロキサン化合物(P)にアルコキシシラン(B)を加えて、さらに加水分解・縮合することによって得られる。これらの(P)と(B)との割合は特に限定されないが、得られる加水分解縮合物の重量平均分子量が11,000以上であっても、反応中にゲル化することなくシロキサン化合物(R)が良好に得られるという観点から、(P)100質量部に対し、(B)が10質量部以上1,000質量部以下であることが好ましく、50質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
【0032】
これらのシロキサン化合物を合成するための加水分解反応の方法としては、例えば、アルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)とを適宜の割合で混合した混合物、アルコキシシラン(B)、またはシロキサン化合物(P)とアルコキシシラン(B)とを適宜の割合で混合した混合物、の100質量部に対して、水10〜1,000質量部、アルコール類0〜1,000質量部を加え、攪拌する方法を挙げることができる。攪拌は、0〜100℃に温度制御して行ってもよい。また、塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液を酸性(pH2〜5)にして行ってもよい。さらに、加水分解に際して発生するアルコールは、反応系外に留去してもよい。
【0033】
上記加水分解反応に続く縮合反応は、例えば、1〜24時間、放置あるいは攪拌することにより進行させることができる。その際、例えばpHを6〜7に制御することにより、縮合反応速度を速めることができる。また、40℃から80℃程度に加温することで縮合反応速度を速めることも可能である。その際、縮合反応において発生する水は、反応系外に留去してもよい。
【0034】
また、上述したようにアルコール類を加えてシロキサン化合物を合成する場合、そのアルコール類としては、後述のコーティング液の固形分濃度調整用の有機溶媒として例示したアルコール類を使用することが好ましい。
【0035】
第1および第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(P)として重量平均分子量10,000以上の化合物を得るためには、アルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)との合計100質量部に対して、水を10〜100質量部、および、アルコール類0〜100質量部を加え、シロキサン化合物(P)の固形分濃度が10〜40質量%程度となるように混合し、80℃以上で4〜24時間攪拌して加水分解、縮合反応させることが好ましい。なお、シロキサン化合物の固形分とは、シロキサン化合物(P、QまたはR)の合成に用いた、アルキルシリケート(A)およびアルコキシシラン(B)、またはアルコキシシラン(B)、またはシロキサン化合物(P)およびアルコキシシラン(B)が、完全に加水分解・縮合した場合に得られるシロキサン化合物(理論量)を意味する。また、シロキサン化合物の固形分濃度とは、上記シロキサン化合物の固形分の質量(完全に加水分解・縮合した場合に得られるシロキサン化合物(理論量)の質量)を、加水分解反応後のシロキサン化合物(第1の形態におけるP、第2の形態におけるPおよびQ、または、第3の形態におけるR)を含む反応液全体(固形分も含む)の質量(実測値)に対する質量分率として表した値を意味する。
【0036】
第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(Q)として質量平均分子量10,000未満の化合物を得るためには、アルコキシシラン(B)100質量部に対して、水を10〜100質量部、および、アルコール類0〜100質量部を加え、シロキサン化合物(Q)の固形分濃度が10〜30質量%程度となるように混合し、40℃以上で1〜12時間攪拌して加水分解、縮合反応させることが好ましい。
【0037】
第3の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(R)を得るためには、上記シロキサン化合物(P)とアルコキシシラン(B)との合計100質量部に対して、水を10〜100質量部、および、アルコール類を0〜100質量部を加え、シロキサン化合物(R)の固形分濃度が10〜30質量%程度となるように混合し、40℃以上で1〜24時間攪拌して加水分解、縮合反応させることが好ましい。
【0038】
シロキサン化合物(P)の好ましい重量平均分子量の範囲は10,000以上1,000,000以下であり、10,000以上であればブツの発生が抑制された硬化被膜が得られ、1,000,000以下であれば、コーティング液の増粘が抑制される。より好ましくは、10,000以上500,000以下であり、重量平均分子量がこの範囲内であれば保存安定性に優れたコーティング液が得られる。
【0039】
また、シロキサン化合物(P)との相溶性に優れたコーティング液が得られるという観点から、シロキサン化合物(Q)の重量平均分子量は200以上10,000未満であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。シロキサン化合物(Q)は単独でコーティング液として用いると、ハードコート性能には優れるがブツが発生する。このため、このシロキサン化合物(Q)と、シロキサン化合物(P)とを混合した第2の形態のコーティング液にすることで、ブツの発生が抑制された硬化被膜が得られる。
【0040】
また、シロキサン化合物(R)の好ましい重量平均分子量の範囲は11,000以上1,000,000以下であり、11,000以上であればブツの発生が抑制された硬化被膜が得られ、1,000,000以下であれば、コーティング液の増粘が抑制される。より好ましくは、11,000以上500,000以下であり、重量平均分子量がこの範囲内であれば保存安定性に優れたコーティング液が得られる。
【0041】
本発明のコーティング液中のシロキサン化合物(第1の形態におけるP、第2の形態におけるPおよびQ、または、第3の形態におけるR)に含まれる炭素原子の合計量は、該シロキサン化合物に含まれる珪素原子の合計量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であることが好ましい。0.5モル以上であれば、形成した硬化被膜のクラックを防ぐことが出来る。また、5モル以下であれば、シロキサン化合物に含まれる炭素原子の合計量が増え、それにより硬化被膜中の有機基が増えることで生じる硬化被膜の硬度と耐擦傷性の低下を防ぐことが出来る。さらに、上記炭素原子の合計量は、上記珪素原子の合計量1モルに対し、0.5モル以上2モル以下がより好ましい。この範囲であれば硬化被膜にクラックが発生せず、かつ被膜硬度と耐擦傷性が優れた被膜を形成することができる。なお、上記珪素原子の量とは、コーティング液中に含まれるシロキサン化合物(第1の形態におけるP、第2の形態におけるPおよびQ、または、第3の形態におけるR)の合成に用いたアルキルシリケート(A)(n量体)のモル数をNAとし、アルコキシシラン(B)のモル数をNBとした際のNA×n+NBを表す。また、上記炭素原子の量とは、コーティング液中に含まれるシロキサン化合物の合成に用いたアルコキシシラン(B)のR5に含まれる炭素原子数をmとした際のNB×mを表す。このように、シロキサン化合物に含まれる炭素原子の合計量と、該シロキサン化合物に含まれる珪素原子の合計量とは、シロキサン化合物の合成に用いたアルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)より、上記の計算式で求められる。
【0042】
<コーティング液>
本発明のコーティング液は、樹脂などの比較的柔らかい材料のハードコーティング液として用いられるのに好適であり、コーティング液を材料の表面上に塗布・硬化して形成した硬化被膜は、通常0.5μm以上1000μm以下の厚さで用いられる。
【0043】
前記第1の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(P)、および前記第3の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(R)の硬化被膜成分中の含有量は特に規定されない。しかし、第1の形態のコーティング液の固形分中の、シロキサン化合物(P)、および第3の形態のコーティング液の固形分中のシロキサン化合物(R)の固形分量は、ブツ発生の低減の観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。また、1質量%以上であればブツ発生の低減効果が得られ、外観良好な被膜となる。なお、コーティング液の固形分とは、シロキサン化合物(P)、(R)の理論量の質量と、他の重合性成分との合計量を意味する。また、コーティング液の固形分濃度は、コーティング液中の固形分の質量(上記コーティング液の固形分の質量)を、コーティング液全体の質量(固形分も含む)に対する質量分率として表した値を意味する。
【0044】
また、第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物の合計固形分量((P)と(Q)の合計固形分量)中のシロキサン化合物(P)固形分の含有量は特に限定されないが、1質量%以上90質量%以下であることが好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。含有量が1質量%以上であればブツの低減効果が得られ外観良好な被膜となる。また、含有量が90質量%以下であれば粘性が低く塗工しやすいコーティング液となる。さらに、第2の形態のコーティング液に含まれるシロキサン化合物(P)および(Q)の硬化被膜成分中の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。また、第2の形態のコーティング液の固形分中のシロキサン化合物(P)および(Q)の固形分量は、ブツ発生の低減の観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。
【0045】
本発明のコーティング液は、第1の形態においてはシロキサン化合物(P)、第2の形態においてはシロキサン化合物(P)および(Q)、第3の形態においてはシロキサン化合物(R)と、以下に述べる有機溶媒、硬化触媒および配合剤とを含むことができる。
【0046】
<有機溶媒>
本発明においては、コーティング液の固形分濃度を調整して、分散安定性、被膜形成性、基材への硬化被膜密着性を向上させるという観点から、コーティング液は有機溶媒を含むことが好ましい。
【0047】
かかる有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、セロソルブ類、芳香族化合物類などを挙げることができる。
【0048】
具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0049】
これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
上記有機溶媒のコーティング液中の含有量は、そのコーティング液に含まれるシロキサン化合物(第1の形態におけるP、第2の形態におけるPおよびQ、または、第3の形態におけるR)の固形分合計100質量部に対して100質量部以上10,000質量部以下が好ましい。有機溶媒のコーティング液中の含有量が、100質量部以上であれば、含有するシロキサン化合物の保存安定性が良好となり、コーティング液が高粘度になるのを抑制することができ、作業性がよく、外観が良好な硬化被膜を得ることができる。また、有機溶媒のコーティング液中の含有量が10,000質量部以下であれば、外観が良好な被膜を得ることができる。
【0051】
<硬化触媒>
本発明のコーティング液を基材上に塗布、硬化して硬化被膜を形成する際には、そのコーティング液は硬化触媒(F)を含むことができる。
【0052】
硬化触媒(F)としては、可視光線、紫外線、熱線、電子線などの活性エネルギー線照射により酸を発生する活性エネルギー線官能性酸発生剤を用いることができる。特に活性エネルギー線官能性酸発生剤には、可視光線、紫外線により酸を発生する光感応性酸発生剤が好ましい。
【0053】
光感応性酸発生剤としては、ジフェニルヨードニウム系化合物、トリフェニルスルホニウム系化合物、ジアゾジスルホン系化合物等を用いることができる。
具体的には、イルガキュア250(チバ・ジャパン(株)製、商品名)、
アデカオプトマーSP−150、SP−170(ADEKA製、商品名)、
サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本(株)製、商品名)、
サンエイドSI−60L、SI−80L、SI−85L、SI−100L、SI−110L、SI−145L、SI−150L、SI−160L、SI−180L、SI−15H、SI−20H、SI−25H、SI−40H、SI−50H(三新化学工業(株)製、商品名)、
CPI−100P、CPI−101A(サンアプロ(株)製、商品名)、
MPI−103、MP−105、MP−109(みどり化学(株)製、商品名)、
などの市販品を使用することができる。これらの光感応性酸発生剤は、1種を単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの硬化触媒(F)のコーティング液中の含有量は、そのコーティング液に含まれるシロキサン化合物(第1の形態におけるP、第2の形態におけるPおよびQ、または、第3の形態におけるR)の固形分合計100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。硬化触媒(F)の配合量が0.01質量部以上であれば、シロキサン化合物を効率よく硬化することができ、硬度や耐擦傷性が良好な硬化被膜が得られ、また10質量部以下であれば、着色が抑制され、表面硬度や耐擦傷性が良好な硬化被膜を得ることができる。さらに、硬化性、性能が良好な硬化被膜が得られることから、硬化触媒(F)の含有量はコーティング液に含まれるシロキサン化合物の固形分合計100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0055】
<配合剤>
本発明のコーティング液は、硬化触媒の機能を阻害しない範囲で、さらに、酸によりカチオン重合可能なエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物や、分子内にラジカル重合性二重結合基を含有するビニル化合物と、活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤などを含有していてもよい。
【0056】
・エポキシ化合物
上記エポキシ化合物は分子内にエポキシ基を含有するものであり、その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,6−ジグリシジルフェニルエーテル、ソルビトールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ジグリシジルアミン、ジグリシジルベンジルアミン、フタル酸ジグリシジルエステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ブタジエンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンオールエポキシドグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とエチレンオキサイドとの付加物、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0057】
・ビニルエーテル化合物
上記ビニルエーテル化合物の具体例としては、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,9−ノナンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリト−ルテトラビニルエーテルなどを挙げることができる。
【0058】
・分子内にラジカル重合性二重結合基を含有するビニル化合物
上記分子内にラジカル重合性二重結合基を含有するビニル化合物は、分子内に重合性二重結合基を1または2以上有するものであり、重合速度が速いという観点から、分子内にアクリロイル基またはメタクリロイル基を含有する単官能または多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0059】
このような単官能(メタ)アクリレート化合物としては、具体的に、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フォスフォエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0060】
また、多官能(メタ)アクリレート化合物としては、具体的に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]−プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]−プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]−プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]−プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル]−プロパン、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル]−スルフォン、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]−スルフィド、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]−スルフィド、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]−スルフィド、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル]−スルフィド、ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル]−スルフィド、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニルプロパン]、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0061】
上記分子内にラジカル重合性二重結合基を含有するビニル化合物は1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0062】
・活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤
上記活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤としては、具体的に、3,3−ジメチル−4−メトキシ−ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1,2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0063】
さらに、本発明のコーティング液およびその硬化被膜は、その他必要に応じて、ポリマー、ポリマー微粒子、コロイド状シリカ、コロイド状金属、コロイド状金属酸化物、染料、顔料、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、pH調整剤(G)としての酸やアルカリまたはこれらの塩類、を含有してもよい。
【0064】
<基材>
本発明に使用される基材としては、いずれのものであってもよく、例えば、プラスチック、ガラス、金属、紙、木質材、無機質材、電着塗装板、ラミネート板などの各種基材を挙げることができる。なお本発明のコーティング液は、樹脂などの比較的柔らかい材料のハードコーティング液として用いられるのに好適である。
【0065】
<塗布方法>
本発明のコーティング液を基材の表面に塗布する方法としては、例えば、バーコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、フレキソコート、スクリーンコート、スピンコート、フローコート等の方法を挙げることができる。
【0066】
<硬化方法>
本発明のコーティング液は、基材表面に塗布され、加熱および活性エネルギー線照射の少なくとも一つの方法により硬化され、硬化被膜を形成し、被膜と基材とを含む積層体となる。
【0067】
加熱方法としては、例えば、赤外線ヒーターによる照射法、熱風による循環加熱法、およびホットプレートなどによる直接加熱法が挙げられる。
【0068】
加熱温度としては、被膜表面の温度が50〜120℃となる温度が好ましい。また、加熱時間としては、30秒〜3,600分が被膜の高架橋化の観点から好ましい。さらに、工程時間の短縮化の観点からより好ましくは、1分〜360分、さらに好ましくは5分〜180分である。
【0069】
本発明に使用される活性エネルギー線としては、例えば、真空紫外線、紫外線及び可視光線が挙げられる。
【0070】
活性エネルギー線の具体例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー及び太陽光を光源とする光が挙げられる。
【0071】
これらの中で、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯及びメタルハライドランプを光源とした光が好ましい。活性エネルギー線は1種を単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0072】
活性エネルギー線の照射時間、活性エネルギー線照射量に関連して言えば、例えば、紫外線を照射する場合においては、積算光量が100mJ/cm2以上5,000mJ/cm2以下が好ましい。
【0073】
また、基材表面に塗布されたコーティング液を活性エネルギー線照射により硬化する際に、必要に応じて加熱方法による硬化(加熱硬化)を併用することができる。
【0074】
加熱硬化を併用する際の加熱硬化時期としては、必要に応じて、活性エネルギー線照射前、活性エネルギー線照射と同時、および活性エネルギー線照射後、のいずれかの時期の少なくとも1時期を選択することができる。
【0075】
また、加熱硬化を併用する際の加熱硬化時間は、活性エネルギー線照射前の場合は1〜20分間、活性エネルギー線照射と同時の場合は0.2〜10分間、活性エネルギー線照射後の場合は1〜60分間が好ましい。併用の際の加熱温度は、用いる基材の耐熱性にもよるが、樹脂基材を用いる場合においては、30℃から200℃の間で適宜選択することが出来る。
【0076】
また加熱硬化を促進させるために、酸やアルカリなどのpH調整剤(G)を用いることができる。pH調整剤(G)としては、鉱酸類または鉱酸塩を用いることができる。具体的には酢酸、塩酸および硫酸などの希釈水溶液、酢酸ナトリウムなどが挙げられるが、縮合反応の促進に有効なものであれば特に制限はない。
【0077】
<硬化被膜>
本発明におけるコーティング液は樹脂などの比較的柔らかい材料のハードコーティング液として用いられるのに好適であり、そのコーティング液を用いて形成した硬化被膜は通常0.5μm以上1000μm以下の厚さで用いられる。また好ましくは、1μm以上20μm以下で用いることで被膜上にクラックが発生せず、耐擦傷性も良好な硬化被膜となる。
【0078】
<積層体>
本発明の積層体は、上記コーティング液を基材表面に塗布し、加熱および活性エネルギー線照射の少なくとも一つの方法により硬化した硬化被膜、および基材を含む。
【0079】
また、積層体は、上記基材および硬化被膜の他に有機物(樹脂)層、無機物層などを含むことができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例について詳細に述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
<評価方法>
[重量平均分子量の評価(GPC測定)]
実施例で合成したシロキサン化合物の重量平均分子量を、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定した。その際、標準物質としてポリスチレンを使用した検量線法によりポリスチレン換算重量平均分子量を算出した。
【0082】
GPCの測定条件は下記の通りとする。
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)、
流速:1.0mL/min、
温度:40℃、
カラム:
・TSK:guard column HXL−L(商品名;東ソー社製)(サイズ:6.0×40mm)
・TSKgel:GMHXL(商品名;東ソー社製)(サイズ:7.8×300mm)
・TSKgel:GMHXL(商品名;東ソー社製)(サイズ:7.8×300mm)
・TSKgel:G1000HXL(商品名;東ソー社製)(サイズ:7.8×300mm)。
【0083】
[硬化被膜の評価]
実施例で作製した硬化被膜を、以下の方法により評価した。評価する際の温度条件は指定がある場合を除き、室温(約25℃)とした。
【0084】
(1)ブツ評価
硬化被膜を形成したアクリル板(15cm×10cm)の中心付近の所定範囲(10cm×5cm)において、目視で確認できるブツの数を数え、以下の評価基準に従いブツ評価を行った。
【0085】
・ブツの評価基準
「◎」:ブツ数5以下
「○」:ブツ数6以上10以下
「×」:ブツ数11以上
(2)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定し、本実施例の硬化被膜の透明性を評価した。
【0086】
・全光線透過率について
硬化被膜を形成したアクリル板を、濁度計(商品名;NDH2000:日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 7361−1に準じて全光線透過率を測定した。
【0087】
・ヘイズについて
硬化被膜を形成したアクリル板をヘイズメーター(商品名:NDH2000:日本電色工業(株)製)を用いて、JIS K7136に準じて測定した。
【0088】
(3)耐擦傷性(スチールウール(SW)耐擦傷試験)
アクリル板上の硬化被膜の表面をスチールウール(日本スチールウール社製、#0000)で9.8×104Paの圧力を加えて10往復擦る試験を行い、試験前後のヘイズの差分を△Hzとして擦傷性評価の基準とした。耐擦傷性が高いほど、値(△Hz)が低く、耐擦傷性の良好な被膜が得られる。
【0089】
<合成例1:シロキサン化合物(P1)の合成>
アルキルシリケート(A)として、メチルシリケート(メチルシリケート53A(商品名):コルコート(株)製)(平均約7量体、数平均分子量約789)23.6g[0.03mol]、
アルコキシシラン(B)として、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量136)40.8g[0.3mol]、
アルコール類として、イソプロピルアルコール19.7g、
イオン交換水24.8g、
を混合し、攪拌して均一な溶液とした。さらに、攪拌しつつ80℃で6時間加熱し加水分解・縮合を行い、シロキサン化合物の固形分濃度(完全に加水分解・縮合した場合に得られるシロキサン化合物(理論量)の質量を、加水分解縮合反応後の反応液全体(固形分も含む)の質量に対する質量分率として表した値)が30質量%のシロキサン化合物(P1)の溶液を得た。GPCにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量は10,900であった。また、上述の計算式により算出したシロキサン化合物(P1)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、0.59モルであった。
【0090】
<合成例2:シロキサン化合物(P2)の合成>
80℃で9時間加熱して加水分解・縮合反応を行う以外は合成例1と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量18,900、シロキサン化合物の固形分濃度が30質量%のシロキサン化合物(P2)の溶液を得た。また、シロキサン化合物(P2)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、0.59モルであった。
【0091】
<合成例3:シロキサン化合物(S1)の合成>
80℃で3時間加熱して加水分解・縮合反応を行う以外は合成例1と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量6400、シロキサン化合物の固形分濃度が30質量%のシロキサン化合物(S1)の溶液を得た。また、シロキサン化合物(S1)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、0.59モルであった。
【0092】
<合成例4:シロキサン化合物(Q1)の合成>
アルコキシシラン(B)として、テトラメトキシシラン28.9g[0.190mol]、及びメチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量136)25.8g[0.190mol]、
アルコール類として、イソプロピルアルコール42.0g、
イオン交換水23.9g、
を混合し、攪拌して均一な溶液とした。さらに、攪拌しつつ60℃で3時間加熱し加水分解・縮合を行い、シロキサン化合物の固形分濃度が20質量%のシロキサン化合物(Q1)の溶液を得た。GPCにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量は1,600であった。また、シロキサン化合物(Q1)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、0.50モルであった。
【0093】
<合成例5:シロキサン化合物(Q2)の合成>
アルコキシシラン(B)として、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量136)19.0g[0.140mol]、及びフェニルトリメトキシシラン2.2g[0.011mol]、
アルコール類として、イソプロピルアルコール20.5g、
イオン交換水16.3g、
を混合し、攪拌して均一な溶液とした。さらに、攪拌しつつ80℃で6時間加熱し加水分解・縮合を行い、シロキサン化合物の固形分濃度が20質量%のシロキサン化合物(Q2)の溶液を得た。GPCにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量は1,600であった。また、シロキサン化合物(Q2)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、1.36モルであった。
【0094】
<合成例6:シロキサン化合物(R1)の合成>
アルキルシリケート(A)として、メチルシリケート(メチルシリケート53A(商品名):コルコート(株)製)(平均約7量体、数平均分子量約789)12.8g[0.015mol]、
アルコキシシラン(B)として、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量136)20.4g[0.15mol]、
アルコール類として、イソプロピルアルコール9.8g、
イオン交換水12.4g、
を混合し、攪拌して均一な溶液とした。さらに、攪拌しつつ80℃で9時間加熱し、加水分解・縮合を行うことで重量平均分子量19000のシロキサン化合物(P)を得た。
次いで、アルコキシシラン(B)として、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量136)20.9g[0.15mol]、及びフェニルトリメトキシシラン0.9g[0.005mol]、
イオン交換水17.1g、
を混合し、攪拌して均一な溶液とした。さらに、攪拌しつつ80℃で6時間加熱し加水分解・縮合を行い、シロキサン化合物の固形分濃度が30質量%のシロキサン化合物(R1)の溶液を得た。GPCにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量は22,100であった。また、シロキサン化合物(R1)に含まれる炭素原子の量は珪素原子の量1モルに対し、0.80モルであった。
【0095】
上記合成例1〜6のシロキサン化合物の各成分の使用量を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
[実施例1]
(コーティング溶液の調整)
シロキサン化合物(P1)2g(固形分0.6g)に対し、
硬化触媒(F)として、「SI−100L」(商品名、三新化学工業(株)製)の50質量%γ−ブチロラクトン溶液0.024g、
有機溶媒として、γ−ブチロラクトン0.16g、プロピレングリコールモノメチルエーテル0.16gおよびイソプロピルアルコール1.6g、
シリコーン系界面活性剤「L−7001」(商品名、東レダウコーニング(株)製)の1質量%γ−ブチロラクトン溶液0.06g、
を混合し、シロキサン化合物に含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.59モルであるシロキサン化合物(P1)を含むコーティング液を得た。そのコーティング液の組成を表2に示す。なお、このコーティング液は、第1の形態のコーティング液に該当する。
【0098】
【表2】

【0099】
(硬化被膜と基材とからなる積層体の形成)
前記コーティング液を、基材である長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmのアクリル板(三菱レイヨン(株)製、商品名「アクリライトEX」)上に滴下し、バーコート法(バーコーターNo.26使用)にて乾燥後の厚みが2〜4μmになるように塗布し、90℃で約10分乾燥した。
【0100】
さらに、コンベアを備えた120W/cmの高圧水銀ランプ(株式会社オーク製作所製、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200(商品名)、QRU−2161型)を用いて、積算光量1,000mJ/cm2の紫外線を照射し、次いで、熱風乾燥機にて90℃で10分間加熱し、アクリル板の表面に硬化被膜を形成し、硬化被膜と基材(アクリル板)とからなる積層体を作製した。積算光量は、紫外線光量計(株式会社オーク製作所製、商品名:「UV−351型」)を用いて測定した。
【0101】
(硬化被膜の評価)
作製した積層体の硬化被膜を前記評価方法にて評価した。具体的には、ブツ評価、全光線透過率、ヘイズ、スチールウール耐擦傷性試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
[実施例2]
シロキサン化合物(P1)の代わりにシロキサン化合物(P2)を同量用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。なお、このコーティング液は、第1の形態のコーティング液に該当する。
【0104】
[実施例3]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(P2)を0.5g(固形分0.15g)とシロキサン化合物(Q1)を2.25g(固形分0.45g)を用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。なお、このコーティング液は、第2の形態のコーティング液に該当する。
【0105】
[実施例4]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(P2)を0.5g(固形分0.15g)とシロキサン化合物(Q2)を2.25g(固形分0.45g)を用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。なお、このコーティング液は、第2の形態のコーティング液に該当する。
【0106】
[実施例5]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(R1)を同量用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。なお、このコーティング液は、第3の形態のコーティング液に該当する。
【0107】
[比較例1]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(S1)を同量用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。
【0108】
[比較例2]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(Q1)を3.0g(固形分0.6g)を用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。
【0109】
[比較例3]
シロキサン化合物(P1)の代わりに、シロキサン化合物(Q2)を3.0g(固形分0.6g)用いた以外は実施例1と同様にコーティング液を調製し、硬化被膜と基材とからなる積層体を作製し、その硬化被膜を評価した。コーティング液の組成を表2に、硬化被膜の評価結果を表3に示す。
【0110】
[評価結果]
表3から分かるように、実施例1、2に記載の重量平均分子量10,000以上であって炭素原子の量/珪素原子の量が0.5以上5以下であるシロキサン化合物(P1またはP2)を含む第1の形態のコーティング液を用いて形成した硬化被膜においては、比較例1のシロキサン化合物(S1)を含むコーティング液を用いて形成した硬化被膜と比べてブツ数の低減が見られた。
【0111】
また比較例2、3に示すように、重量平均分子量10,000未満のシロキサン化合物(Q1)または(Q2)を含むコーティング液を用いて形成した硬化被膜は、ブツ数が多いことがわかる。しかし、実施例3、4に示すように、シロキサン化合物(Q1)または(Q2)と、シロキサン化合物(P2)との混合物を含む第2の形態のコーティング液を用いて形成した硬化被膜には、ブツの低減が見られる。
【0112】
また実施例5に示すように、シロキサン化合物(P)にアルコキシシラン(B)を更に追加して、加水分解縮合させて合成した重量平均分子量11,000以上であって炭素原子の量/珪素原子の量が0.5以上5以下であるシロキサン化合物(R1)を含むコーティング液を用いて形成した硬化被膜においてもブツの低減が見られた。
【0113】
また、いずれの実施例および比較例においても、全光線透過率が高く、ヘイズが1.0%以下と低く、SW耐擦傷性試験においてもΔHz<1.0%以下と透明性、耐擦傷性に優れた高硬度な硬化被膜と基材とからなる積層体が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表されるアルキルシリケート(A)と式2で表されるアルコキシシラン(B)との加水分解縮合物であり、
【化1】

(R1、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは2以上10以下の整数を表す。)
【化2】

(R5は、置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクロイル基、エポキシ基、アミド基、メルカプト基、イソシアネート基もしくは炭素数2〜4のアシル基を示し、R6は炭素数1〜10のアルキル基を表し、mは0以上3以下の整数を表す。)
重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であるシロキサン化合物(P)を含むコーティング液。
【請求項2】
前記シロキサン化合物(P)に加えて、前記アルコキシシラン(B)の加水分解縮合物であり、かつ重量平均分子量が10,000未満であるシロキサン化合物(Q)をさらに含み、該シロキサン化合物(P)および該シロキサン化合物(Q)に含まれる炭素原子の合計量が珪素原子の合計量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である請求項1記載のコーティング液。
【請求項3】
シロキサン化合物(P)と式2で表されるアルコキシシラン(B)との加水分解縮合物であるシロキサン化合物(R)を含むコーティング液であって、
ただし、該シロキサン化合物(P)は、式1で表されるアルキルシリケート(A)とアルコキシシラン(B)との加水分解縮合物であり、重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下であり、
【化3】

(R1、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは2以上10以下の整数を表す。)
【化4】

(R5は、置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクロイル基、エポキシ基、アミド基、メルカプト基、イソシアネート基もしくは炭素数2〜4のアシル基を示し、R6は炭素数1〜10のアルキル基を表し、mは0以上3以下の整数を表す。)
該シロキサン化合物(R)は、重量平均分子量が11,000以上であって、かつ、含まれる炭素原子の量が珪素原子の量1モルに対し、0.5モル以上5モル以下である、
コーティング液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のコーティング液が硬化した被膜と基材とを含む積層体。

【公開番号】特開2010−265385(P2010−265385A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117917(P2009−117917)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】