説明

ゴムライニング方法

【課題】ブチルゴムを使用したライニング方法において、空気溜まりによる膨れが発生することのないゴムライニング方法を提供する。
【解決手段】未加硫ゴムシート製造工程、未加硫ゴムシート11をライニング対象面20に貼着させる貼着工程、及び未加硫ゴムシート11を加熱、加硫する加硫工程を有し、未加硫ゴムシート11はブチルゴムを原料ゴム成分とするものであり、接着面に段差の平均値が0.2〜0.5mmのしぼを有し、貼着工程はライニング対象面と未加硫ゴムシートの間の空気を減圧除去しつつ未加硫ゴムシートを貼着する工程であるゴムライニング方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性や耐アルカリ性を要求される配管、タンク、缶体などにゴムライニングを行うゴムライニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
施工対象面に未加硫ゴムシートを貼着して加熱、加硫するゴムライニング法において従来一般的に行われていたハンドローラーによる未加硫ゴムシートの貼着におけるライニング対象物とゴムライニング層の間に発生する空気溜まりの発生防止のために、未加硫ゴムシートの接着面に紐状ゴムを配設し、ライニング対象面との間を減圧しながら貼着する技術が公知である(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−74683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の発明は、ライニングゴム材料として広く使用されている天然ゴム系やクロロプレンゴム系のライニング材を使用した場合には有効である。しかるに、ジエン系ゴムである天然ゴムを使用したライニングは、硫化水素などの炭素−炭素二重結合と反応する性質の強い薬剤を含む液に接すると該二重結合が攻撃されてライニングゴムが劣化するという問題を有する。
【0005】
係る問題を回避する方法として、炭素−炭素二重結合と反応する性質の強い薬剤に対して耐久性のあるブチルゴムを原料ゴムとして使用してゴムライニングを行う方法があり、特許文献1に開示の方法にてブチルゴムを使用したライニングを行うと、ハンドローラーを使用する従来の施工方法による場合よりも減少はするものの、なお空気溜まりによる膨れが発生することが判明した。このような場合、膨れの発生した部分のゴムライニング層を剥離除去し、新たにライニング施工をすることが不可欠であり、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記公知技術の問題点に鑑みて、ブチルゴムを使用したライニング方法において、層間の空気溜まりによるライニングゴム層の膨れが発生することのないゴムライニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、未加硫ゴムシート製造工程、前記未加硫ゴムシートをライニング対象面に貼着させる貼着工程、及び前記未加硫ゴムシートを加熱、加硫する加硫工程を有するゴムライニング方法であって、
前記未加硫ゴムシートはブチルゴムを原料ゴム成分とするものであり、接着面に段差の平均値が0.2〜0.5mmの突起状しぼを有し、
前記貼着工程は前記ライニング対象面と前記未加硫ゴムシートの間の空気を減圧除去して未加硫ゴムシートを貼着する工程であることを特徴とする。
【0008】
係る構成のゴムライニング方法によれば、ライニングゴム材料としてブチルゴムを使用した場合であっても、空気溜まりによる膨れが発生することがない。しぼの段差が0.2mm未満の場合、0.5mmを超える場合のいずれの場合にも空気溜まりの発生が有効に防止できない場合がある。
【0009】
特許文献1の発明によっても、なおブチルゴムを使用した場合に膨れが発生する理由は、ブチルゴムの空気透過性が天然ゴムやクロロプレンゴムよりも小さいことに起因すると考えられる。即ち、ライニング対象面とゴムライニング層との間にわずかに空気が残存する場合、天然ゴムやクロロプレンゴムの場合には該空気がゴムライニング層を透過してしまうために膨れを発生しないが、ブチルゴムの場合にはゴムライニング層を透過できずに残存し、加硫工程の加熱によって膨張して膨れの原因となるが、本発明によれば、より効果的にライニング対象面とゴムライニング層との間の空気を除去できるために膨れが発生しないものと推測される。
【0010】
上記のゴムライニング方法においては、前記しぼが、深さ0.2〜0.5mm、間隔1〜5mmの格子状溝にて形成される突起状しぼであることが好ましい。
【0011】
係る構成のしぼにより特に有効に膨れの発生を防止することができる。溝の深さが0.5mmを超える場合には、所定の層間の減圧を行っても未加硫ゴムシートがライニング対象に溝の底まで接着しない場合やライニング面に溝の凹凸が発生して外観が低下する場合がある。
【0012】
また上記のゴムライニング方法においては、前記未加硫ゴムシート製造工程は未加硫ゴムシート形成後に前記しぼを形成する凹凸を有する剥離シートと積層して巻き取る工程を有することが好ましい。
【0013】
係る方法により、簡便かつ低コストにて空気溜まりによる膨れが発生することがないゴムライニング用の未加硫ゴムシートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のゴムライニング方法は、ブチルゴムを原料ゴムとして使用する。ブチルゴムを原料ゴムとする未加硫ゴムシートには、公知の混練方法により、必要に応じて公知の添加剤から選択される1種以上の添加剤を混練添加することができる。係る添加剤としては、具体的には、充填剤、加工助剤、可塑剤(プロセスオイル)、タッキファイヤー、加硫剤、加硫促進剤などが例示される。
【0015】
未加硫ゴムシートの製造方法は、公知の方法が使用可能であり、押出機を使用した押出成形法やカレンダーロールを使用したシート化方法が例示される。
【0016】
本発明においてライニングの対象となるものとしては、タンク、容器類、配管、配管部材、板状体等の被処理面が極端に複雑でないものであれば、何れのものにも適用できる。また、対象物の材質も、従来よりゴムライニングが行われているものであれば何れでもよく、鉄、ステンレスなどの金属、セラミックなどが挙げられる。
【0017】
ライニング対象の接着面は、公知の接着処理をしておくことが好ましい。接着処理としては、ショットブラスト等の研磨処理、接着力を向上させるためのプライマー処理、接着剤を塗布する接着剤処理、その他表面処理、表面補修処理などが例示され、1種以上が行われる。但し、本発明を好適に実施する上で、ライニング対象の接着面と未加硫ゴムシートとの粘着性が高過ぎないことが望ましい。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明のゴムライニング方法における貼着工程を例示した部分断面図を有する斜視図であり、図2は、図1の吸引部付近の拡大断面図である。本実施形態においては、平板面にライニングを行う場合の例を示すが、曲率半径の比較的大きなものにも同様に適用できる。
【0019】
図1、2に示したように、貼着工程においては、所定幅にて連続シート状に形成された片面に突起状しぼを有する未加硫ゴムシートが、該しぼ面を貼着面として端部を重ねて接合部を形成して敷きつめるようにライニング対象面20に貼着される。11aは先に貼着された未加硫ゴムシートであり、未加硫ゴムシート11bは貼着しようとする未加硫ゴムシートである。未加硫ゴムシート11bは幅方向の端部14bを先行貼着された未加硫ゴムシート11aの幅方向端部に重ね、他の幅方向端部14cと長さ方向端部14aをライニング対象面に直接貼着する(周縁部圧着工程)。このようにして形成された空間13の端部位置に吸引用の中空針15を突き刺した部分が吸引部であり、該吸引部において該中空針15に接続したチューブ17を通じて減圧吸引することにより空間13が減圧され、ライニング対象面とゴムライニング層との間の空気が効果的に除去された状態にて未加硫ゴムシート11bがライニング対象面に貼着される。
【0020】
未加硫ゴムシート11a,11bの接続部の好適な形態を図7に断面図にて示した。下側になる未加硫ゴムシート11の端部は、シート切断面がライニング対象物の接着面に対して鋭角θを形成するように切断する。θは20〜40度であることが好ましい。このような接合部構造とすることにより、接合部の空気が効果的に除去され、膨れの発生が防止される。
【0021】
図1、2においては、空間13部分においては、シートが浮き上がった図が示されているが、未加硫ゴムシート11bは、ライニング対象面20に全体を仮止めしてもよい(仮止め工程)。未加硫ゴムシート11bがライニング対象面20に接した状態であっても、突起状しぼがライニング対象面に当接し、連続した凹部を通じて空気が排出除去されるので、ライニング対象面とゴムライニング層との間の空気が効果的に除去された状態にて未加硫ゴムシート11bがライニング対象面に貼着される。その結果、加硫工程における加熱によっても残存する空気の膨張に起因する膨れが防止される。特に突起状しぼが格子状溝にて形成されるものである場合には、該連続した格子状溝を通じて空気が除去されるのでより確実に空気の膨張に起因する膨れを防止することができる。
【0022】
図1においては、未加硫ゴムシート11aを、ライニング対象面20との間を減圧吸引することにより先行して貼着した後に次の未加硫ゴムシート11bを貼着する貼着工程を示したが、複数の未加硫ゴムシートを仮止めし(仮止め工程)、周縁部を圧着し(周縁部圧着工程)、その後未加硫ゴムシート11とライニング対象面20との層間を減圧する貼着工程としてもよい。
【0023】
吸引部における吸引には、真空ポンプ、減圧用ポンプなどを使用するのが好ましい。吸引を伴う貼着工程においては、空間の内圧の急激な低下が生じないように、少なくとも一旦吸引量を低下させて減圧を行うことが好ましい。特に柔らかい未加硫ゴムシートを使用する場合は、内圧が低下し過ぎないように早めに吸引量を低下させるのが好ましい。なお、このような一連の吸引量制御をバルブの開度制御により、自動化して行うことも可能である
【0024】
上記のようにして、十分な減圧を行った後、吸引を停止し、中空針15を抜いてその部分を圧着するなどし、吸引部の中空針を挿入した孔を閉鎖する。中空針15が十分細い場合は、引き抜くだけでも孔を閉鎖できる場合がある。なお、空間の最終圧としては、−100KPa(ゲージ圧)以下が好ましい。
【0025】
貼着後の未加硫ゴムシート11bには、これを先行貼着された未加硫ゴムシートとして隣接位置に次の未加硫ゴムシートが同様に貼着され、係る貼着工程を繰返し行って、最終的にライニング対象面全面に未加硫ゴムシートを貼着し、被覆する。次いで過熱水蒸気を送り込んで未加硫ゴムシートを加熱し、加硫を行う(加硫工程)。
【0026】
図3は好適な実施態様である未加硫ゴムシートの貼着面を例示した平面図であり、図4は図3に例示した未加硫ゴムシートのX−X断面図である。未加硫ゴムシート11の貼着面にはしぼが形成されており、該しぼは格子状の溝21、22により形成される突起状しぼ23である。溝21の間隔、溝22の間隔w(溝の中心間距離)は1〜5mmであることが好ましい。また突起状しぼの深さt(突起の頂上と谷の底の距離)は、0.2〜0.5mmであることが好ましく、0.2〜0.4mmであることがより好ましい。格子を形成する溝21の間隔と溝22の間隔は同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。格子は図3の例では菱形であるが、正方形や長方形であってもよい。
【0027】
図5は、本発明のゴムライニング方法に使用する未加硫ゴムシートの製造工程を例示した概略正面図である。未加硫ゴムシート11は押出機30のシリンダー先端部に装着されたダイス32から所定幅のシートとして押し出される。押し出された未加硫ゴムシート11の片面に原反ロール28から巻き戻したしぼを有する剥離シート26が圧着ロール34により圧着され、積層未加硫ゴムシート33に形成され、ロール状シート36として巻き取られる。押し出されて冷却される前にしぼを有する剥離シート26と圧着され、ロール状シート36として巻き取られることによって未加硫ゴムシート11の片面に剥離シートのしぼが転写され、片面にしぼを有する未加硫ゴムシート11が形成される。ゴムライニングは、ロール36として巻き取られた未加硫ゴムシートを施工現場に移動し、巻き戻して所定長さに裁断し、剥離シートを剥離除去してしぼ面にてライニング対象に貼着することにより行う。
【0028】
図6には図5に示した製造方法によりしぼを有する未加硫ゴムシートを製造する際に使用する剥離シートを例示した。剥離シート26は、未加硫ゴムシートのしぼに対応する凹凸を有する。剥離シート26を構成する材料は特に限定されないが、樹脂フィルムであることが好ましく、該樹脂フィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、PETフィルムなどの公知の樹脂フィルムを使用することが好ましく、剥離性が良好であることから ポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムの使用が特に好ましい。
【実施例2】
【0029】
(実施例)
ブチルゴム100重量部、カーボンブラック35重量部、加硫促進剤ノクセラーM(大内新興化学工業)を2重量部、加硫剤としてイオウ1重量部を常法により混練して未加硫ゴムとした。この未加硫ゴムをベント押出機に供給して幅1050mm,厚さ6mmの未加硫ゴムシートを押し出し、剥離シートとして図6に示した形状の凹凸を有するポリエチレンフィルムを積層して巻き取った(未加硫ゴムシート製造工程)。ポリエチレンフィルムのしぼを形成する溝は角度が60度、間隔が2mmの斜め格子であり、未加硫ゴムシートには段差tの平均値が0.3mmの突起状のしぼが形成された。
【0030】
直径6m,高さ2mの鋼鉄製のテスト施工用缶体の内面を脱脂、ブラスト処理を行った後に接着剤処理を行った。接着剤は缶体面にメタロックF−40(東洋化学研究所)を塗布、乾燥し、さらに共糊としてブチルゴムの15%トルエン溶液を塗布、乾燥した。
【0031】
未加硫ゴムシート製造工程にて得られたしぼ付き未加硫ゴムシートから、縦1m,横1mのシートを3枚切り出して上述の接着剤処理を行ったテスト施工用缶体の内面に仮止めし(仮止め工程)、周縁部を30mm幅にて圧着し(周縁部圧着工程)、中空針を圧着された周縁部の仮止め部の角部に挿入した後、層間の減圧を行った。減圧は真空ポンプによりゲージ圧にて−24kPaまで吸引した後に未加硫ゴムシート貼着面1m当たり6ml/minの吸引速度とし、ゲージ圧が−100kPaとなるまで吸引を続けて未加硫ゴムシートをテスト施工用缶体に貼着した(貼着工程)。未加硫ゴムシートの接合部は図7のように形成した。θは30度とした。
【0032】
内面に未加硫ゴムシートを貼着したテスト施工用缶体を市販の建設作業用シートにて被覆し、ロープで縛って蒸気の漏れを少なくした状態でボイラーから蒸気ホースを通して蒸気を供給し、ライニング面の温度が約90℃となるように調整しつつ48時間加熱し、加硫を行った(加硫工程)。加硫の終点はライニングゴムが所定の硬度を超えたことにより確認した。
【0033】
冷却後にライニング表面を指触及び目視により観察評価したが、ライニングゴムに膨れの発生は認められなかった。またこのテスト施工用缶体からサンプルを切り出し、JIS K 6256に準拠して90°剥離試験を行ったところ、約8N/mmであり、規格を満足するものであった。またシートの接合部においても空気溜まりによる膨れの発生は認められなかった。
(比較例)
剥離シートとして実施例と同じ形状で凹凸の小さなポリエチレンシートを使用した以外は実施例と同様にしてライニングテストを行った。未加硫ゴムシートのしぼの段差tは0.15mmであった。ライニング表面を目視観察したところ、所々に直径30mmの膨れの発生が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のゴムライニング方法における貼着工程を例示した部分断面図を有する斜視図
【図2】図1の吸引部付近の拡大断面図
【図3】好適な実施態様である未加硫ゴムシートの貼着面を例示した平面図
【図4】図3に例示した未加硫ゴムシートのX−X断面図
【図5】本発明のゴムライニング方法に使用する未加硫ゴムシートの製造工程を例示した概略正面図
【図6】しぼを有する未加硫ゴムシートを製造する際に使用する剥離シートを例示した斜視図
【図7】未加硫ゴムシートの接続部の好適な形態を示した断面図
【符号の説明】
【0035】
11 未加硫ゴムシート
20 ライニング対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムシート製造工程、前記未加硫ゴムシートをライニング対象面に貼着させる貼着工程、及び前記未加硫ゴムシートを加熱、加硫する加硫工程を有するゴムライニング方法であって、
前記未加硫ゴムシートはブチルゴムを原料ゴムとするものであり、接着面に段差の平均値が0.2〜0.5mmの突起状しぼを有し、
前記貼着工程は前記ライニング対象面と前記未加硫ゴムシートの間の空気を減圧除去して未加硫ゴムシートを貼着する工程であることを特徴とするゴムライニング方法。
【請求項2】
前記しぼが、深さ0.2〜0.5mm、間隔1〜5mmの格子状溝にて形成される突起状しぼであることを特徴とする請求項1に記載のゴムライニング方法。
【請求項3】
前記未加硫ゴムシート製造工程は未加硫ゴムシート形成後に前記しぼを形成する凹凸を有する剥離シートと積層して巻き取る工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のゴムライニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−30312(P2007−30312A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216111(P2005−216111)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】