説明

ゴム免震積層体用ゴム組成物の評価方法および調製方法

【課題】水平方向の剛性(剪断弾性率)の面圧依存性が低く、高面圧下、特に150kg/cm2超の高面圧下でも剪断弾性率の低下が少ない免震積層体のゴム層として好適な免震積層体用ゴム組成物を得るための評価方法および調製方法の提供。
【解決手段】オートグラフによる100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラスM100と、静的剪断弾性率Gsとの比(M100/Gs)が1.4以上であることを、150kg/cm2超の高面圧用免震積層体用ゴム組成物を得るための評価基準として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震積層体用ゴム組成物に関し、詳しくは、水平方向の剛性(剪断弾性率)の面圧依存性が低く、高面圧下でも剪断弾性率の低下が少ない免震積層体のゴム層として好適な免震積層体用ゴム組成物に関する。さらには上記水平剛性保持性能に加えて線形性能にも優れる免震積層体用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、振動エネルギー吸収装置、特に免震装置が急速に普及しつつあり、その一形態として、鋼板とゴム層を交互に積層した免震積層体が挙げられる。免震積層体は、建築物と基礎の間、主に基礎部分の柱の基部に設置され、地震等の地動に共振する建築物の振動周期を長周期に変え、建築物に入る地動を減少させる働きをする。地震発生時の免震積層体上の構造物の振動周期(固有周期)をより長周期化するために、最近の免震積層体では、免震積層体の断面積を小さくしてコンパクト化し、より高面圧化する傾向にある。例えば、従来の建築物に用いられてきた免震積層体では、面圧がせいぜい100kg/cm2 であったが、最近の免震積層体のコンパクト化により、コンパクト化した免震積層体にかかる面圧は、150kg/cm2 にも達するものもある。さらに、地震発生時には、突発的に150kg/cm2 を越える高面圧がかかる場合もある。しかし、免震積層体をこのような高面圧下で使用した場合、水平方向への変形に対応したゴムの応力の発生は少なくなりゴムの水平剛性(剪断弾性率)が低下するという現象が起こる。その結果、従来の免震積層体は、面圧によって特性が変化し、安定した性能を発揮できなかった。そこで、通常の面圧150kg/cm2 を超える高荷重(高面圧)下でも通常面圧下と同等の剪断特性(水平剛性)を維持できる免震積層体の構築が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、水平剛性(剪断弾性率)の面圧依存性が低く、高面圧下でも剪断弾性率が低下せず、各種の振動エネルギー吸収装置、特に免震装置として好適な免震積層体のゴム層として好適なゴム組成物を提供することである。さらに本発明は、水平剛性の面圧依存性が小さいことに加えて、線形限界歪みが大きく線形性能のよい免震積層体用ゴム組成物を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは、かかる従来の技術における問題を解消すべく鋭意研究した結果、免震積層体のゴム層を形成するゴム組成物として、100%モジュラスM100と、静的剪断弾性率Gsの比で示される弾性比が1.4以上であるゴム組成物を使用することで、免震積層体の水平剛性の面圧依存性が低減できることを見出し、さらにこの知見に基づいてかかる免震積層体の特性を獲得しうるゴム組成物の配合を見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、オートグラフによる100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラスM100と、静的剪断弾性率Gsの比で示される弾性比(M100/Gs)が1.4以上である免震積層体用ゴム組成物を提供する。前記ゴム組成物が、天然ゴム、および、溶解度パラメーターが前記天然ゴムの溶解度パラメーターと0.3(MPa)1/2 以上異なるポリマーを前記天然ゴム100重量部に対し15重量部以下含有してなるのが好ましい。
【0006】
また本発明に係る免震積層体用ゴム組成物は、上記弾性比(M100/Gs)が1.4以上であることに加えて、オートグラフによる300%繰り返し変形引張試験での3回目の伸び300%時のモジュラスM300と、上記モジュラスM100との応力比(M300/M100)が3.6以下であることが望ましい。このように弾性比が1.4以上であり、かつ応力比が3.6以下であるゴム組成物を含む免震積層体は、水平剛性の面圧依存性が小さい上に、線形限界歪みが大きく、線形性能がよい。上記弾性比1.4以上と、応力比3.6以下とを満たすゴム組成物としては、具体的に組成物中のゴム成分量を100重量%とするとき、イソプレンゴムを5〜100重量%の量で含有するゴム組成物、あるいはゴム成分100重量部に対して、クレーを1〜30重量部の量で含有するゴム組成物などが挙げられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム組成物は、所定の弾性比を有することにより、本発明のゴム組成物をゴム層とする免震積層体の水平剛性の面圧依存性を低くすることができる。さらにゴム組成物の応力比を特定値とすることにより、線形性能のよい免震積層体を得ることができる。従って、本発明のゴム組成物は、防振装置、除振装置、免震装置等の振動エネルギーの吸収を目的とする免震積層体用のゴム組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において、モジュラス、静的剪断弾性率は、加硫ゴム組成物について測定される値である。本発明は、ゴム組成物の、オートグラフによる100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラス(M100)と、静的剪断弾性率(Gs)の比(M100/Gs、なお、この比を以下、弾性比と記す)を特定値以上とすることで、該ゴム組成物を用いる免震積層体の水平剛性(剪断弾性率)の面圧依存性を低減化できるという、新規な相関関係を見出したものであり、このようなゴム組成物の水平剛性に関する低面圧依存特性を、ゴム組成物の配合を特定なものとすることで獲得したものである。
【0009】
免震積層体の面圧依存性は、免震積層体の水平剛性保持率により表わすことができる。ここで水平剛性保持率とは、異なる2つの面圧下において、その内の小さな面圧下に対する大きな面圧下における水平剛性の比である。例えば、高面圧下でも剪断弾性率が低下せず、面圧依存性が小さいとは、水平剛性保持率が大きい、より1に近い値をとるということである。図1に、天然ゴムのモジュラス(引張応力)と剪断歪みを、それぞれ縦軸と横軸にとった場合のモジュラスと剪断歪みとの関係を示すS−Sカーブを概念図として示す。免震積層体の水平剛性保持率が1に近づくということは、免震積層体のゴム層を形成するゴム組成物が、引張変形により破断に至るまで、より線型にちかい変形をするゴムであるということである。図1で言えば、モジュラスと剪断歪みの関係を示すS−Sカーブが、より直線に近くなり、例えば破線で示す曲線に近づくということである。種々のゴム組成物の、オートグラフによる100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラス(M100)と、静的剪断弾性率Gsの比で示される弾性比(M100/Gs)と、そのゴム組成物をゴム層とした免震積層体の水平剛性保持率の関係をみてみると、以下に示す結果が得られた。水平剛性保持率は、面圧300kg下での水平剛性と150kg下での水平剛性の比をとった。
【0010】
【表1】

【0011】
得られた結果より、弾性比と、水平剛性保持率が正に相関し、弾性比が大きければ水平剛性保持率が大きく、即ち面圧依存性が小さく、この比が小さければ水平剛性保持率が小さく、即ち面圧依存性が大きいことが分かった。つまり、弾性比が大きくなるに従って、免震積層体の面圧依存性が改善されることがわかった。ゴムは一般に変形が50%を越えたあたりから弾性率の増加が低下する傾向にあるが、弾性比が大きくなるということは、この低下が少なくなることを意味し、実際の免震積層体において重要な変形領域である100%変形程度まで、より線型に近い変形をするゴム組成物であるといえる。この結果より、ゴム組成物の弾性比を大きくして、実際の積層体の変形領域において、より線型に変形するようにすれば、このゴム組成物をゴム層に用いた免震積層体の面圧依存性を低減化できることがわかった。逆に、ゴム組成物の100%変形時のモジュラスがGsに対して低いと、高面圧下での剪断弾性率が低下した状態となり、このゴム組成物を用いた免震積層体の面圧依存性が大きくなる。
【0012】
特に、弾性比が1.4以上であるゴム組成物で形成したゴム層を有する免震積層体では、水平剛性保持率が、従来の天然ゴム主体のゴム層を用いた免震積層体が示す水平剛性保持率(上記表の弾性比1.38、水平剛性保持率0.37に相当)を大きく上回り非常に好ましいが、弾性比が1.4未満では水平剛性保持率が低く好ましくない。好ましくは、弾性比が1.4〜4.0である。
【0013】
本発明の免震積層体用ゴム組成物(以下、本発明のゴム組成物と記す)としては、弾性比が1.4以上となるゴム組成物であれば特に限定はないが、このようなゴム組成物に含有されるゴムとしては、加硫後のゴム物性のバランスに優れることから天然ゴムを用いることが好ましい。しかし、本発明の目的を損なわない範囲で、天然ゴムと共に、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(臭素化、塩素化等)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エポキシ化天然ゴム、trans−ポリイソプレン、ノルボルネン開環重合体(ポリノルボルネン)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ハイスチレン樹脂、イソプレンゴム等のゴムを好適に用いることが出来る。なお、天然ゴムに加え、これらのゴムを、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、ゴム組成物には、溶解度パラメーター(SP値)が天然ゴムのSP値と0.3(MPa)1/2以上異なるポリマーを配合するのがさらに好ましい。また、上記ポリマーの配合量は、天然ゴム、もしくはさらに天然ゴムと共に用いることの出来るゴム合計100重量部に対し、15重量部以下が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。この範囲であれば、得られるゴム組成物の伸び等の他の物性を損なわずに弾性比が1.4以上となるからである。
【0015】
図1に示すように、天然ゴムの低歪み時のS−Sカーブの立ち上がりが、高歪み時に比べて小さいのは、歪みが小さい時点では、天然ゴムの伸長が分子の結合軸廻りの回転運動による分子の形態の変化に基づくエントロピー弾性によるためで、ゴム分子の結合角やC−Cの結合長が変化するエネルギー弾性によるものではないため、歪みの量の増加に比べてモジュラスが大きくならないからと考えられている。ゴム分子にかかる歪みが大きくなると、ゴムが伸びきり、あるいは、ゴム分子が配向し、もしくは、伸長結晶化が起こってゴム分子の回転運動が起こらなくなりゴムの伸長がエネルギー弾性によるものとなるため歪みの量の増加に伴ってモジュラスが大きくなってS−Sカーブの傾きが急になる。上述の、天然ゴムのSP値との差が大きいSP値を持つポリマーは、比較的大きな置換基を分子内に有し、極性が大きい。これらのポリマーを天然ゴムにブレンドすると、ポリマー内の比較的大きな置換基が、低歪み時での天然ゴム分子の結合軸廻りの回転運動を抑えることができ、ゴム組成物の伸長に対するエントロピー弾性、分子内の結合距離の変化等によるエネルギー弾性の寄与を大きくすることができるため、ゴム組成物の弾性比を大きくすることができると考えられる。
【0016】
本発明者は、上記のように弾性比(M100/Gs)が1.4以上であるとともに、300%伸び時のモジュラスM300と、前記モジュラスM100との応力比(M300/M100)が3.6以下であるゴム組成物を含む免震積層体は、水平剛性の面圧依存性が小さく水平剛性保持性能が優れるという特性に加えて、線形性能がよいという知見も得ている。
【0017】
ここで免震ゴム積層体の線形性能がよいとは、具体的にはゴム積層体の線形限界歪み値が大きく、ゴムのハードニング傾向が極度に強くないものをいう。ゴム積層体の線形限界歪みは、図2に示すような歪み−応力関係線(S−Sカーブ)と、勾配Kh1=1.2(Kh)で示される直線との交点歪み値(%)として求められる。Khは、ゴム積層体をせん断歪み±100%で3回変形させた時の3回目の勾配である。図2に示すS−Sカーブは、ゴム積層体を剪断歪み±100%で3回変形させた後、一方向に荷重をかけたときの歪み−応力関係線であり、直線は、応力値=0を通る±100%歪み時の勾配Khに1.2倍をかけた勾配をもつ直線である。
【0018】
ゴムのハードニングは、ゴムの一方向への荷重(歪み)によりゴム分子が配向(あるいは伸びきり、結晶化)することをいい、S−Sカーブの立ち上がり、すなわちモジュラス(引張応力)の増加となって表れる。これは前記図1でも説明したように、ゴム分子が配向すると、ゴムの伸長はゴム分子の回転運動からエネルギー弾性によるものとなり、ゴムの伸び量に対する弾性エネルギー量が増大するためである。このときゴムのハードニング傾向が大きいとは、S−Sカーブが急激に立ち上がるもの(図2中太破線)をいうが、本発明では、S−Sカーブの立ち上がりがりが緩やかで、ハードニング傾向が小さいもの(図2中実線)が線形性能に優れ好ましい。
【0019】
上記のような免震ゴム積層体の線形限界歪み(%)は、具体的に220%以上、好ましくは250%以上であることが望ましい。本発明では、この線形限界歪み値を直接測定することによって免震ゴム積層体の線形性能を評価することも可能であるが、上記したようにゴム組成物の応力比によって評価してもよい。
【0020】
すなわち本発明者は、免震積層体に用いられるゴム組成物について検討する中で、ゴム組成物のモジュラスM300と、モジュラスM100との応力比(M300/M100)が3.6以下であると、ハードニング傾向が極端に起きず、線形限界歪みが大きく線形性能のよい免震積層体が得られることを見出した。ゴム組成物の応力比が3.6以下とすれば、免震積層体の線形性能がよい(線形限界歪みが大きい)という知見は、本発明者によって見出されたものであり、この事実を弾性比と水平剛性保持率との関係とともに下表に数例挙げて示す。このうちの応力比と線形限界歪みとの関係をさらに図3に示す。なおモジュラスM300は、オートグラフによる300%繰り返し変形引張試験での3回目の300%伸び(剪断歪み)時の引張応力である。
【0021】
【表2】

表中、水平剛性保持率* は、面圧250kg下と150kg下とでの各水平剛性の比
【0022】
本発明では、上記のような知見に基づいてゴム組成物の弾性比が1.4以上であるとともに、応力比が3.6以下であることが望ましく、このようなゴム組成物からは水平剛性保持率がよい上に、線形性能もよい免震積層体が得られる。ゴム組成物の弾性比は前記したように1.4以上好ましくは1.4〜4.0であるとともに、応力比は3.6以下好ましくは3.3〜3.5であることが望ましい。
【0023】
具体的にこのような弾性比と応力比とを満たすゴム組成物としては、ゴム組成物中のゴム成分量を100重量%とするとき、上記に例示したゴムのうちでもイソプレンゴムを5〜100重量%好ましくは1〜50重量%の量で含有するゴム組成物が挙げられる。イソプレンゴムは、汎用イソプレンゴムでよく、特に限定されない。たとえばシス1,4-結合のポリイソプレン含量が約92重量%以上のイソプレンゴムであれば、リチウム触媒系で製造されたものであっても、チーグラー触媒系で製造されたものであってもよい。イソプレンゴム以外のゴム成分は、通常天然ゴムであればよい。
【0024】
また上記弾性比と応力比とを満たすゴム組成物として、ゴム成分100重量部に対してクレーを1〜30重量部好ましくは5〜15重量部の量で含有するものも挙げられる。このクレーは、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とするものであればよく、ソフトクレーとして汎用されている粒子径の比較的大きいクレーであればよい。たとえばカオリン質クレー、パイロフィライト質クレー、セリサイト質クレーなどを用いることができる。このクレーを含むゴム組成物のゴム成分は、上記に例示したゴムのうちでも天然ゴムであることが望ましい。
【0025】
上記のような本発明のゴム組成物には、上記成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、充填剤、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、軟化剤、顔料等を含有することができる。充填剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ハードクレー、ソフトクレー等が挙げられる。加硫剤としては、硫黄、塩化硫黄、亜鉛華や、TMTD等の有機含硫黄化合物、ジクミルペルオキシド等の有機過酸化物等が挙げられる。加硫促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)等のスルフェンアミド類、メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム等が挙げられる。老化防止剤としては、TMDQ等のケトン・アミン縮合物、DNPD等のアミン類、スチレン化フェノール等のモノフェノール類等が挙げられる。可塑剤としては、DBP、DOP等のフタール酸誘導体、DBS等のセバシン酸誘導体、といったモノエステル類があげられる。軟化剤としては、アロマオイル等が挙げられる。
【0026】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、特に限定はなく従来公知の方法、例えば、加硫剤、加硫促進剤以外の各成分を、先ずバンバリーミキサー等で混練し、ついで、混練ロール機等にて硫黄等の加硫剤、加硫促進剤を混練する方法を例示することができる。得られたゴム組成物を、加熱加硫することにより加硫ゴムシートとすることができる。このとき、加硫剤の量、加硫温度と加熱時間による加硫の程度を、得られるゴム組成物の弾性比が1.4以上となるよう、天然ゴムとのSP値の差が大きいポリマーの配合量とともに調整する。
【0027】
本発明のゴム組成物が用いられる免震積層体とは、ゴム層と硬質板とを交互に積層した積層体であって、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる構造体である。硬質板には鉄板、鋼板等が用いられ、ゴム層には、上述のゴム組成物が好適に用いられる。このような免震積層体の製造方法の一例について説明する。鋼板は、予め機械的処理、化学的処理、機械的加工等による表面処理をしてもよく、さらに表面を脱脂し、接着剤を塗布する。この際、プライマーを塗布してもよい。一方、未加硫状態のゴム組成物を所定の厚さに圧延し、所定の形状に打ち抜いて、ゴムシートとする。鋼板に塗布した接着剤が乾燥した後、ゴムシートを積層し、ついで、鋼板とゴムシートを一体として加熱加硫して、免震積層体を得る。
【0028】
本発明のゴム組成物は、以上の構成を取り、弾性比が1.4以上なので、本発明のゴム組成物をゴム層に用いる免震積層体の水平剛性保持率を大きくすることができ、従って、該免震積層体の水平剛性の面圧依存性を低減化できる。また、特定範囲のSP値を持つポリマーを特定量含有する本発明のゴム組成物は、弾性比が1.4以上となり、このゴム組成物よりなるゴム層を有する免震積層体の水平剛性の面圧依存性を低減化できる。さらに上記ゴム組成物の応力比が3.6以下であると、免震積層体は線形性能にも優れる。従って、本発明のゴム組成物は、建築物の基礎等に設置される各種の振動エネルギー吸収装置、特に免震積層体のゴム層として好適に用いることができる。さらに、150kgf/cm2以上の高面圧下に用いる免震積層体のゴム層として使用するのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1〜12)
下記表1に示す組成のゴムとポリマーに、ゴムとポリマーの合計100重量部に対し、カーボンブラック(GPF)25重量部、亜鉛華3重量部、ステアリン酸2重量部、老化防止剤(6C:N−(1,3ジメチルブチル)−N’−フェニル−P−フェニレンジアミン)2重量部、アロマオイル15重量部を配合して混練し、硫黄1.1重量部、加硫促進剤(CBS)1.2重量部を配合してゴム組成物を調製し、150℃で30分間、プレス加硫を行い加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムについて、それぞれ引張り試験を行い、破断強度TB、破断伸びEB、静的剪断弾性率Gs、モジュラスM100を測定し、弾性比を求めた。結果を表1に示す。
【0030】
(比較例1)
天然ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(GPF)25重量部、亜鉛華3重量部、ステアリン酸2重量部、老化防止剤(6C)2重量部、アロマオイル15重量部を配合して混練し、硫黄1.1重量部、CBS1.2重量部を配合してゴム組成物を調製し、実施例と同様にして加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムについて、実施例と同様に引張り試験を行い、破断強度TB、破断伸びEB、静的剪断弾性率Gs、モジュラスM100を測定し、弾性比を求めた。結果を表1に示す。
【0031】
(比較例2)
天然ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(GPF)5重量部、亜鉛華3重量部、ステアリン酸2重量部、老化防止剤(6C)2重量部、アロマオイル4重量部を配合して混練し、硫黄1.6重量部、CBS1.0重量部を配合してゴム組成物を調製し、実施例と同様にして加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムについて、実施例と同様に引張り試験を行い、破断強度TB、破断伸びEB、静的剪断弾性率Gs、モジュラスM100を測定し、弾性比を求めた。結果を表1に示す。
【0032】
(1)引張り試験
JIS K 6251に準拠して、破断強度(TB)〔kgf/cm2〕、破断伸び(EB)〔%〕を測定した。
(2)静的剪断弾性率(Gs)〔kgf/cm2
JIS K 6254に準拠して測定した。
(3)弾性比(M100/Gs)
オートグラフにより100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラスM100〔kgf/cm2〕を測定した。このM100値と、上記で測定された静的剪断弾性率(Gs)の値とから弾性比(M100/Gs)比を求めた。
【0033】
【表3】

【0034】
<表中の各成分の溶解度パラメータ>
天然ゴム:溶解度パラメータSP=17.0(MPa)1/2
SBR :SP=17.5(MPa)1/2
CR :SP=19.2(MPa)1/2
NBR :SP=20.2(MPa)1/2
EPDM:SP=16.4(MPa)1/2
【0035】
(実施例13〜16)
ゴム成分中のイソプレン量を表2に示す量にした以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムについて、引張り試験を行い、破断強度TB 、破断伸びEB、静的剪断弾性率Gs、モジュラスM100およびモジュラスM300を測定し、弾性比および応力比を求めた。結果を表2に示す。
(4)モジュラスM300オートグラフによる300%繰り返し変形引張試験での3回目の300%伸び時のモジュラスM300 〔kgf/cm2 〕を測定した。
(5)応力比(M300/M100
上記モジュラスM300の値と、前記モジュラスM100 の値から応力比(M300/M100)を求めた。
【0036】
(比較例3)
実施例16において、ゴム成分としてイソプレンゴムに代えて天然ゴムを用いた以外は、実施例16と同様に行った。結果を表2に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
(実施例17〜19)
表3に示すゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムについて、引張り試験を行い、破断強度TB、破断伸びEB、静的剪断弾性率Gs、モジュラスM100およびモジュラスM300を測定し、弾性比および応力比を求めた。結果を表3に示す。クレーは含水ケイ酸アルミニウムを主成分とするものを用いた。
【0039】
(比較例4)
実施例17において、クレーを添加しなかった以外は、実施例17と同様に行った。結果を表3に示す。
【0040】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】天然ゴムのモジュラスと剪断歪みの相関を示すグラフである。
【図2】ゴム積層体の線形限界歪みを求めるための歪み−応力関係線(S−Sカーブ)を示す。
【図3】免震ゴム積層体の応力比−線形限界歪み相関図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートグラフによる100%繰り返し変形引張試験での3回目のモジュラスM100と、静的剪断弾性率Gsとの比(M100/Gs)が1.4以上であることを、150kg/cm2超の高面圧用免震積層体用ゴム組成物を得るための評価基準として用いる免震積層体用ゴム組成物の評価方法。
【請求項2】
前記比(M100/Gs)が1.4以上であるゴム組成物における、300kg/cm2面圧下の水平剛性の150kg/cm2面圧下の水平剛性に対する比で示される水平剛性保持率が0.45〜1である請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
オートグラフによる300%繰り返し変形引張試験での3回目の伸び300%時のモジュラスM300と、前記モジュラスM100との比(M300/M100)が3.6以下であることを、さらなる評価基準とする請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法の規定を満たすゴム組成物を選択または調製する150kg/cm2超の高面圧用免震積層体用ゴム組成物の調製方法。
【請求項5】
前記ゴム組成物を、シス1,4-結合のポリイソプレン含量が約92重量%以上のイソプレンゴムゴムおよび/または天然ゴムをゴム成分として用いて調製する請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ゴム成分を100重量%とするとき、シス1,4-結合のポリイソプレン含量が約92重量%以上のイソプレンゴムを30〜100重量%、残余に天然ゴムを用いる請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記ゴム成分が天然ゴムであり、該ゴム成分100重量部に対して、クレーを1〜30重量部の量で用いる請求項5に記載の調製方法。
【請求項8】
充填剤、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、軟化剤および顔料から選ばれる成分をさらに用いる請求項4〜7のいずれかに記載の調製方法。
【請求項9】
前記充填剤としてカーボンブラックを用いる請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれかに記載の調製方法により得られる、150kg/cm2超の高面圧用免震積層体用ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−50616(P2008−50616A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266255(P2007−266255)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【分割の表示】特願平10−355965の分割
【原出願日】平成10年12月15日(1998.12.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】