説明

ゴム製パーツの表面にスリップコーティングを形成する方法

【課題】ガラスと相対的にスライドするゴム製パーツの表面に、密着性、耐摩耗性にすぐれ、低い摩擦係数を示すスリップコーティングを短時間に形成する方法を提供する。
【解決手段】ゴム製パーツに強固に密着した低い摩擦係数を有する耐摩耗性のスリップコーティング皮膜を形成する方法であって、該ゴム製パーツの表面の少なくとも一部に、a)ウレタン樹脂エマルション、b)カルボジイミド基を有する硬化剤、c)減摩剤、d)シリコーンオイル、e)フィラーを含む水系塗料を塗装し、次いで誘電加熱により塗膜の乾燥および硬化を行うことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ドアガラスウエザストリップのようなガラスや他の物体と摩擦接触するゴム製パーツに摩擦抵抗の小さいスリップコーティングを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ドアウエザストリップのような、ガラス面と相対的にスライドするゴム製パーツには、スムースなスライドと、耳障りな摩擦音の発生がないことが求められる。そのためゴム製パーツの少なくともガラスと接触する面には高スリップ性のコーティングが施さなければならない。ウエザストリップ等の素材は一般に加硫したEPDM(エチレンプロピレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)のような合成ゴム、または天然ゴムである。高スリップ性のコーティングは、減摩剤およびシリコーンオイルを添加したウレタン塗料から形成される。
【0003】
近年塗料の分野ではVOCの大気中への放出を減らすため水系塗料の使用が主流になりつつあるが、スリップコーティングの形成に水系ウレタン塗料を使用すると、その乾燥および硬化のために加熱しなければならない。この加熱を熱風乾燥によって行うと、例えば150℃の熱風で10分以上加熱することを要する。このような加熱は非効率的であるばかりでなく、ゴム素材の変形および劣化のおそれがある。
【0004】
またスリップコーティング自体が反復する摩擦によって摩耗しないように耐摩耗性を備えることのほかに、ゴム素材へ密着し、反復する摩擦によってゴム素材から剥離しないことが求められる。
【0005】
従ってこれらの要望を満たすスリップコーティングの形成方法の提供が望まれる。
【発明の開示】
【0006】
本発明のスリップコーティング形成方法は、ゴム製パーツの表面の少なくとも一部に、a)ウレタン樹脂エマルション、b)カルボジイミド基を有する硬化剤、c)減摩剤、d)シリコーンオイル、e)フィラーを含む水系塗料を塗装し、次いで誘電加熱により塗膜の乾燥硬化を行うことを特徴とする。
【0007】
水系塗料の乾燥を誘電加熱(マイクロ波加熱および高周波加熱)によって行うことは既知である。しかしながらスリップコーティングは、フッ素樹脂、シリコーンなどの減摩剤を含むので、これらが塗膜のゴム素材への密着性に悪影響する。特に加熱時間が熱風乾燥に比較して大幅に短い誘電加熱では然りである。
【0008】
このため本発明においては、ウレタン樹脂の硬化剤としてカルボジイミド基を有する硬化剤を使用することにより、この問題を解決することに成功した。
【0009】
このように、本発明によってスリップコーティングを施したゴム製パーツを高効率で生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
水系ウレタン塗料組成物
良く知られたように、ポリウレタンは水酸基、アミノ基、カルボキシル基のような活性水素原子含有官能基を持っているポリマー、典型的にはポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールをポリイソシアネートで架橋して製造される。一液性水系ウレタン塗料では通常ブロックしたポリイソシアネート硬化剤を使用するが、本発明にあっては、活性水素含有官能基を有するウレタン樹脂エマルションと、カルボジイミド基含有硬化剤を使用する。そのいずれも市販されており、市場において入手可能である。例えばウレタン樹脂エマルションは商品名レザミンD6075として、水性カルボジイミド硬化剤は商品名レザミンD52として大日精化工業(株)から販売されている。その配合比は、活性水素/カルボジイミド当量比が1以上となる配合比である。
【0011】
塗料は少なくとも減摩剤とシリコーンオイルとフィラーを含まなければならない。減摩剤の例は、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂の微粉末、黒鉛、二硫化モリブデン、それらの組合わせを含む。フィラーは、カーボンブラックのような着色顔料のほかに、アクリル樹脂、ウレタン樹脂またはシリコーン樹脂の微粉末である。それらの配合量は、ウレタン樹脂エマルションの固形分100重量部あたり、減摩剤5〜100重量部、好ましくは10〜50重量部、シリコーンオイル5〜100重量部、好ましくは20〜50重量部、樹脂粉末5〜100重量部、好ましくは10〜50重量部である。撥水性添加成分の分散を助けるため、塗料へ少量のノニオン性界面活性剤を加えるのが良い。
【0012】
誘電加熱
誘電加熱はマイクロ波でも高周波でもよい。マイクロ波加熱に割当てられた周波数は2450MHzと915MHzである。このうち2450MHzが一般的である。マイクロ波照射は例えば25kW単管のマグネトロンを使用し、10秒ないし60秒の照射で130℃×10分の熱風乾燥に匹敵する加熱効果が得られる。
【0013】
高周波加熱には6〜80MHzの周波数が使用される。この場合例えば周波数13.56MHz、出力4.6kWの高周波乾燥機を用いると、10秒ないし60秒の照射で130℃×10分の熱風乾燥に匹敵する加熱効果が得られる。
【実施例】
【0014】
以下の実施例は本発明を例証する目的で与えられ、限定を意図するものではない。実施例および比較例中、「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0015】
塗料配合
【0016】
【表1】

【0017】
テスト試料の作成
加硫EPDMゴム製のプレート表面に、実施例および比較例の塗料をエアースプレーにより乾燥膜厚15μmに塗装し、マイクロ波、高周波および熱風によって塗膜を乾燥、硬化した。加熱条件は以下のとおりであった。
マイクロ波:周波数2450MHz、出力5kW、時間
10秒、30秒、1分
高周波:周波数13.56MHz、出力4.6kW、時間
10秒、30秒、1分
熱風:温度150℃、時間1分、5分、10分
【0018】
塗膜性能試験
密着性
ゴバン目テーピングテストにおいてマス目100個中剥離したマス目の数により評価した。
◎:0/100、×:1/100以上
【0019】
耐溶剤性
ガーゼをエタノールで含浸し、50往復ラビングして塗膜の剥がれを評価した。
○:剥がれなし、×:剥がれあり
【0020】
静摩擦係数
試料の塗装面を下にしてガラス板に載置して接触させ、接触面を垂直に押しつける力(垂直荷重)の大きさPと、試料を水平方向に速度1000mm/minで10.0mmスライドさせるときの摩擦力Fを測定し、F/Pの比を算出して静摩擦係数とした。
【0021】
耐摩耗性
強化ガラス製の摩耗子に3kgの荷重を掛け、試料の塗装面をストローク50mm、速度60往復/分で摩擦子でこすり、ゴムプレート表面が露出するまでの往復回数を測定した。摩擦子の先端は紙ヤスリで#60にあらし、4000往復毎にヤスリ掛けをくり返した。
【0022】
結果
結果を表2〜表5に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
考察
表2の結果は、マイクロ波および高周波10秒の加熱は、熱風10分の加熱に匹敵することを示している。
表2と、表3、表4の比較により、シリコーンオイルまたはPTFE粉末を含まない比較例1または2の塗料では、静摩擦係数および耐摩耗性を満足しないことがわかる。
カルボジイミド硬化剤を含まない比較例3の塗料を塗装した表5の成績は、塗料が架橋塗膜を形成しないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製パーツに強固に密着した低い摩擦係数を有する耐摩耗性のスリップコーティング皮膜を形成する方法であって、該ゴム製パーツの表面の少なくとも一部に、a)ウレタン樹脂エマルション、b)カルボジイミド基を有する硬化剤、c)減摩剤、d)シリコーンオイル、e)フィラーを含む水系塗料を塗装し、次いで誘電加熱により塗膜の乾燥および硬化を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ゴム製パーツは、加硫したEPDM,NBRまたはSBR製である請求項1の方法。
【請求項3】
ゴム製パーツがガラス表面にスライドする自動車ドアガラスウエザストリップである請求項2の方法。
【請求項4】
前記減摩剤は、フッ素樹脂、黒鉛、二硫化モリブデン、またはそれらの混合物から選ばれる請求項1ないし3のいずれかの方法。
【請求項5】
前記フィラーは、顔料、ウレタン樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、またはそれらの混合物から選ばれる請求項1ないし4のいずれかの方法。
【請求項6】
前記誘電加熱は、マイクロ波照射を周波数2450MHzにおいて少なくとも150℃×10分の熱風乾燥に匹敵する出力および時間において実施する請求項1ないし5のいずれかの方法。
【請求項7】
前記誘電加熱は、高周波照射を周波数6〜80MHzにおいて少なくとも150℃×10分の熱風乾燥に匹敵する出力および時間において実施する請求項1ないし5のいずれかの方法。

【公開番号】特開2007−167704(P2007−167704A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364669(P2005−364669)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000103677)オキツモ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】