説明

ゴム製品及びゴム製品の製造方法

【課題】接着剤を使用することなく、絶縁ゴム層と半導電ゴム層とを強固に接着し、電気特性が良好な電力ケーブル用ストレスコーン、ゴム套管等のゴム製品を提供する。
【解決手段】電気絶縁性を有するゴム材料からなる絶縁ゴム層3と半導電性を有するゴム材料からなる半導電ゴム層4とを接着してなるゴム製品である。絶縁ゴム層3と半導電ゴム層4との接着する界面の最大高さRzが0.5〜80μm、かつ、凹凸の輪郭曲線要素の平均長さRSmが25〜150μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブル用の接続部品として用いられるストレスコーン、ゴム套管等のゴム製品及びゴム製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブル用の接続部品として、電気絶縁性を有するゴム材料からなる絶縁ゴム層と、半導電性を有するゴム材料からなる半導電ゴム層とを接着してなるゴム製品がある。このようなゴム製品では、絶縁性、耐候性、耐熱性や低温特性に優れたシリコーンゴムの使用が増加している。
【0003】
シリコーンゴムは接着しにくいため、様々な接着方法が検討されてきた。例えば、シリコーンゴム用の接着剤(例えば、特許文献1参照)を用いる方法がある。
また、エポキシ樹脂絶縁体の外周を3〜21μmの表面粗さに仕上げることで、エポキシ樹脂絶縁体とその外周に形成される半導電ゴム層との接着力を向上させることも行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297598号公報
【特許文献2】特開平11−234884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、接着剤の使用は作業工程が増加する等の問題がある。また、絶縁体の表面を粗くすることで接着性を向上させた場合、突起により電気特性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、接着剤を使用することなく、絶縁ゴム層と半導電ゴム層とを強固に接着し、電気特性が良好なゴム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電気絶縁性を有するゴム材料からなる絶縁ゴム層と、半導電性を有するゴム材料からなる半導電ゴム層とを接着してなるゴム製品であって、前記絶縁ゴム層の前記半導電ゴム層と接着する界面の最大高さRzが0.5〜80μmかつ平均長さRSmが25〜150μmであることを特徴とする。
【0008】
ここで、「最大高さRz」とは、基準長さにおける輪郭曲線の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値との和である(JIS B0601)。
ここで、「基準長さ」とは、輪郭曲線の特性を求めるために用いる輪郭曲線のX軸方向長さである(JIS B0601)。
ここで、「山」とは、輪郭曲線をX軸によって切断したときの隣り合う二つの交点にはさまれた曲線部分のうち、平均線より上側(物体から空間側への方向)の部分であり、「Zp」とは、輪郭曲線のX軸(平均線)から山頂までの高さである(JIS B0601)。
ここで、「谷」とは、輪郭曲線をX軸によって切断したときの隣り合う二つの交点にはさまれた曲線部分のうち、平均線より下側(周囲の空間から物体側に向かう方向)の部分であり、「Zv」とは、X軸から谷底までの深さである(JIS B0601)。
【0009】
ここで、「平均長さRSm」とは、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さXsの平均である(JIS B0601)。
ここで、「輪郭曲線要素」とは、山とそれに隣り合う谷からなる曲線部分であり、「輪郭曲線要素の長さXs」とは、輪郭曲線要素によって切り取られたX軸の線分の長さである(JIS B0601)。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゴム製品であって、前記絶縁ゴム層の前記半導電ゴム層と接着する界面の算術平均高さRa(JIS B0601)が1μm以上であることを特徴とする。
【0011】
ここで、算術平均高さRaとは、基準長さにおけるZ(x)の絶対値の平均である(JIS B0601)。ここで、Z(x)は、任意の位置における輪郭曲線の高さである(JIS B0601)。
【0012】
請求項3に記載の発明は、ゴム製品の製造方法であって、内側面の最大高さRzが0.5〜80μmかつ凹凸の輪郭曲線要素の平均長さRSmが25〜150μmである第1金型に半導電性を有するゴム材料を注入し、硬化させることで半導電ゴム層を形成する第1工程と、前記半導電ゴム層を芯金に通した状態で第2金型の内部に固定し、前記第2金型と前記半導電ゴム層との間に電気絶縁性を有するゴム材料を注入し、硬化させることで前記半導電ゴム層の外周部に絶縁ゴム層を形成する第2工程とを含むことを特徴とする。
ここで「内側面」とは、半導電ゴム層の前記絶縁ゴム層と接着すべき界面を形成する面を意味している。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のゴム製品の製造方法であって、前記第1金型の内側面の界面の算術平均高さRaが1μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着剤を使用することなく、絶縁ゴム層と半導電ゴム層とを強固に接着し、電気特性が良好なゴム製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電力ケーブル10の終端接続部を示す図である。
【図2】ゴムストレスコーン20を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態により詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0017】
〔実施形態A〕
図1に本発明の実施形態に係るゴム套管2が使用される電力ケーブル10の終端接続部を示す。図1において、ゴム套管2には、電力ケーブル10の終端部が挿入されている。なお、構造を分かりやすくするために、ゴム套管2について、中心軸から右半分を断面で示し、左半分を外周形状で示している。また、本実施形態においては、110kVの終端接続部をモデルとしている。
【0018】
ゴム套管2は、電気絶縁性を有するゴム材料からなる絶縁ゴム層3と、半導電性を有するゴム材料からなる半導電ゴム層4とにより、一体成型されている。ゴム套管2は、胴体部5とひだ付部6を有している。半導電ゴム層4は、胴体部5の内部に設けられ、貫通孔8側にのみ露出している。
【0019】
半導電ゴム層4の絶縁ゴム層3と接する界面の表面性状(粗さ)は、最大高さRzが0.5〜80μmかつ平均長さRSmが25〜150μmであることが好ましい。さらに、算術平均高さRaが1μm以上であることが好ましい。界面の最大高さRzが80μmよりも粗いと、電界分布における有害突起となり得るからである。一方、最大高さRzが0.5μmよりも小さいと、界面の接着力が低下し、電力ケーブル10に装着して使用するのに充分な機械強度が得られないからである。
半導電ゴム層4の最大高さRz、平均長さRSm、及び算術平均高さRaは、表面粗さ測定器により測定することができる。
【0020】
電気絶縁性を有するゴム材料としては、例えば、ビニル基含有ポリオルガノシロキサン及びヒドロシリル基含有ポリオルガノシロキサンを有し、白金触媒を添加した付加反応型のシリコーンゴムを用いることができる。
【0021】
半導電性を有するゴム材料としては、例えば、ビニル基含有ポリオルガノシロキサン及びヒドロシリル基含有ポリオルガノシロキサンを有し、白金触媒及びカーボンを添加した付加反応型のシリコーンゴムを用いることができる。
【0022】
ひだ付部6は軸方向に沿ってほぼ同じ直径を有しており、ひだ付部6には、複数の大きさが異なるリング状のひだ7が、軸方向に沿って相互に間隔をおいて形成されている。胴体部5、及び、ひだ付部6内には、電力ケーブル10が圧入される貫通孔8が軸方向に形成されている。電力ケーブル10が貫通孔8に圧入されることで、ゴム套管2が電力ケーブル10に対して接続して固定されるようになっている。
【0023】
図1に示すように、電力ケーブル10は、導体11と、導体11の外周部に形成された内部半導電層12と、内部半導電層12の外周部に形成された絶縁層13と、絶縁層13の外周部に形成された外部半導電層14と、外部半導電層14の外周部に形成されたシース15と、を有している。電力ケーブル10の終端部は、貫通孔8に圧入し易いように、シース15、外部半導電層14、絶縁層13、内部半導電層12の順に段剥ぎされ、テーパー状に形成されている。ゴム套管2に圧入された電力ケーブル10は、段剥ぎされた外部半導電層14の外周部が貫通孔8内で半導電ゴム層4と接触している。
【0024】
次に、ゴム套管2の製造方法について説明する。まず、半導電性になるゴム材料を、スタティックミキサーにより半導電ゴム層4を成形する金型(第1金型)に注入し、加圧・加熱することにより硬化させ、半導電ゴム層4を形成する。
【0025】
なお、第1金型の内側面には、成型された半導電ゴム層4の表面に前述の凹凸を形成するため、アルミナ等によるブラスト処理により所定の表面凹凸を形成している。この内側面の表面凹凸が半導電ゴム層4の表面に転写される。半導電ゴム層4の絶縁ゴム層3と接する界面を形成する第1金型の内側面の凹凸の寸法は、前述の半藤電ゴム層4の凹凸と同様の範囲で管理する。
【0026】
次に、硬化した半導電ゴム層4を芯金に通した状態でゴム套管2用の金型(第2金型)の内部に固定し、第2金型ごと予熱する。次に、電気絶縁性を有するゴム材料を、スタティックミキサーにより第2金型と半導電ゴム層4との間に注入し、射出成型を行うことで絶縁ゴム層3を形成する。硬化後、第2金型から取り出して二次硬化を行うことにより、半導電ゴム層4及び絶縁ゴム層3が一体となったゴム套管2が形成される。
【0027】
〔実施例A〕
以上のようにして作成したゴム套管2に対して、半導電ゴム層4と絶縁ゴム層3との接着性、電気性能を調べた。
【0028】
〔表面粗さの測定方法〕
半導電ゴム層4の最大高さRz[μm]、平均長さRSm[μm]、算術平均高さRa[μm]は、ゴム套管2の製造時に、表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製 SJ−201P)により測定した。
【0029】
〔接着性の評価方法〕
ゴム套管2の半導電ゴム層4と絶縁ゴム層3との接着部分から幅1.2mmの短冊状の試料片を切り出した。試料片をヘキサンで口出し、1日室温で放置した後、剥離試験機によって評価した。JIS K6866に準拠して評価を行い、材料破壊したものを良好なもの、界面剥離したものを良好ではないものと評価した。
【0030】
〔電気性能の評価方法〕
IEC60840に準拠して耐電圧試験を実施した。図1のように、段剥ぎした電力ケーブル10をゴム套管2に圧入した状態で、導体11と半導電ゴム層4との間に電圧を印加した。
直流試験(AC)の試験条件は96kVで10分課電、その後114kVで60分課電、さらにその後160kVで60分課電した。部分放電検出感度が5pC以下のものを良好なもの、5pCを超えるものを良好ではないものと評価した。
【0031】
IEC60840に準拠してインパルス試験を行った。インパルス試験(Imp)は正極性のみ、及び、負極性のみの、両極性データを取った。試験条件は±550kVのインパルスを10回印加した後、±605kVのインパルスを10回印加し、さらにその後±650kVのインパルスを10回印加した。破壊しなかったもの(クリア)を良好なもの、破壊したものを良好ではないものと評価した。
結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
〔接着性〕
JIS K6866に準拠して接着性の評価を行ったところ、実施例A1〜4、比較例A1では材料破壊となり良好であった。
一方、比較例A2〜5では界面剥離となり良好ではなかった。比較例A2では最大高さRzが小さすぎるために界面剥離となった。比較例3では平均長さRSmが短すぎるために界面剥離となった。比較例4では平均長さRSmが長すぎるために界面剥離となった。
比較例5では算術平均高さRa[μm]が小さいために界面剥離となった。
【0034】
〔電気性能〕
直流試験の結果は、部分放電検出感度がいずれも5pC以下であり良好であった。
インパルス試験の結果は、実施例A1〜4、比較例A2〜5では±650kVのインパルスでも破壊されなかった。一方、比較例1では−650kVで破壊された。比較例A
1では突起によりインパルス性能が低下したとみられる。
【0035】
以上示したように、半導電ゴム層4と絶縁ゴム層3との界面の最大高さRzを0.5〜80μm、平均長さRSmを25〜150μmとすることで、接着性及び電気特性が良好なゴム製品とすることができる。
さらに、界面の算術平均高さRaを1μm以上とすることで、接着性及び電気特性をさらに良好とすることができる。

【0036】
〔実施形態B〕
図2は、本発明の他の実施形態であるゴムストレスコーンを示すものである。このゴムストレスコーン20は、架橋ポリエチレン絶縁電線(CVケーブ)の終端接続部を形成する場合に、電線に嵌めて用いられるものである。
このゴムストレスコーン20も、絶縁ゴム層3と半導電ゴム層4で形成されている。半導電ゴム層4の絶縁ゴム層3と接する界面の表面性状(粗さ)も、前述のゴム套管2と同様に、最大高さRzが0.5〜80μmかつ平均長さRSmが25〜150μmであることが好ましい。さらに、算術平均高さRaが1μm以上であることが好ましい。最大高さRzは20μm以下であることがより望ましい。
【0037】
〔実施例B〕
EPR(エチレンプロピレンラバー)を用いて、絶縁ゴム層3と半導電ゴム層4の界面の表面粗さが異なるゴムストレスコーン20を製作した。各ゴムストレスコーン20の半導電ゴム層4の絶縁ゴム層3と接する界面の表面凹凸(粗さ)は表2に示す。
製作したゴムストレスコーン2を、IEC62067に準拠するインパルス試験(Imp)に供した。また、JIS−K−6251に準拠して、引張強さと、引張伸びを調べた。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2の結果から、最大高さRzが0.5〜80μm、算術平均高さRaが1μm以上である実施例B1のものは、電気試験、界面接着力共に良好な結果であることが分かる。
比較例B1のゴムストレスコーンは、インパルス試験が悪い結果であった。これは、界面性状の最大高さRzが85μmであり、80μmを超えていることが影響していると思われる。
他方、比較例B2のものは、界面接着力が低い。これは、算術平均高さRaが1μm未満であることが影響していると思われる。
【符号の説明】
【0040】
2 ゴム套管
3 絶縁ゴム層
4 半導電ゴム層
5 胴体部
6 ひだ付部
8 貫通孔
10 電力ケーブル
11 導体
12 内部半導電層
13 絶縁層
14 外部半導電層
15 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有するゴム材料からなる絶縁ゴム層と半導電性を有するゴム材料からなる半導電ゴム層とを接着してなるゴム製品であって、
前記絶縁ゴム層の前記半導電ゴム層と接着する界面性状が、最大高さRzが0.5〜80μmかつ凹凸の輪郭曲線要素の平均長さRSmが25〜150μmであることを特徴とするゴム製品。
【請求項2】
前記絶縁ゴム層の前記半導電ゴム層と接着する界面の算術平均高さRaが1μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のゴム製品。
【請求項3】
内側面の最大高さRzが0.5〜80μmかつ凹凸の輪郭曲線要素の平均長さRSmが25〜150μmである第1金型に半導電性を有するゴム材料を注入し、硬化させることで半導電ゴム層を形成する第1工程と、
前記半導電ゴム層を芯金に通した状態で第2金型の内部に固定し、前記第2金型と前記半導電ゴム層との間に電気絶縁性を有するゴム材料を注入し、硬化させることで前記半導電ゴム層の外周部に絶縁ゴム層を形成する第2工程と、を含むことを特徴とするゴム製品の製造方法。
【請求項4】
前記第1金型の内側面の界面の算術平均高さRaが1μm以上であることを特徴とする請求項3に記載のゴム製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−240652(P2011−240652A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116248(P2010−116248)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】