説明

ゴルフクラブヘッドの鍛造方法及びそのための金型

【課題】廃品の量を抑えることができる上、鍛造素材の加熱時間も製造過程にかかるコストも削減できる鍛造方法及びそのための金型を提供する。
【解決手段】鍛造素材を加熱する鍛造素材の加熱工程と、前記加熱した鍛造素材を、それ自体の、鍛造により目的物を形成するためのキャビティを外側に連通させている隙間が設けてある金型に置く鍛造素材置き工程と、前記隙間から前記鍛造素材に圧力を掛け、該鍛造素材を、前記金型のキャビティ内に充満するように塑性変形させる鍛圧工程とからなる鍛造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造方法及びそのための金型に関し、特に、ゴルフクラブヘッドにおける本体またはフェイス板などの部材の鍛造方法及びそのための金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鍛造加工法は、金属ゴルフクラブヘッド、特にその本体またはフェイス板などの部材の製造方法として良く使われる。
特許文献1に開示したフェイス板の製造を例として挙げれば、まず、棒材などの金属材を所定温度(600〜800℃)まで加熱した後、鍛圧機械により加圧して平板状に塑性変形させることにより、鍛造素材としての平板材を用意し、その後、更に、前記平板材を、前記所定温度域内で荒打ち金型を使って荒打ち鍛圧を行うこと、及び、仕上げ金型を使って仕上げ鍛圧を行うことなどによって、目的のフェイス板などを成形するのが、金属ゴルフクラブヘッドの鍛造製造法の現状である。
この従来の鍛造製造法によると、鍛造素材としての平板材が鍛圧により、順番に荒打ち金型や仕上げ金型内を満たすように変形され、次第に目的の製品へと成形されていく。
【0003】
しかし、前記製造過程における荒打ち鍛圧であれ、または仕上げ鍛圧であれ、いずれも、上下両型で、鍛造素材としての平板材の上下両面(平板面)に圧力をかけながら型締めをすることにより、鍛造素材としての平板材を塑性変形させ、前記上下両型の間に形成されつつあるキャビティ内に充満し、目的の製品を成型するので、鍛造素材としての平板材は、肉厚が製品より厚い上、全体の体積も製品よりやや大きいものを用意しなければならず、鍛造素材の鍛圧前の加熱時間は、必要以上要り、エネルギーの浪費になり、そして、前記鍛圧における型締めにおいて、鍛造素材の余剰分が荒打ち金型や仕上げ金型などの上下両型の接合面から次第に放射状にはみ出すため、製品や半製品の外表面に環状のバリが形成され、最後の仕上げ工程として、この環状のバリを廃品として抜き取る工程が必要な上、研磨により製品や半製品の表面から残った痕を取り除かなければならず、材料使用の浪費にも、製造過程にかかるコストにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−202098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記問題点を解消するために、本発明は、廃品の量を抑えることができる上、鍛造素材の加熱時間も製造過程にかかるコストも削減できる鍛造方法及びそのための金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、まず、鍛造素材を加熱する鍛造素材の加熱工程と、前記加熱した鍛造素材を、それ自体の鍛造により目的物を形成するためのキャビティを外側に連通させている隙間が設けてある金型に置く鍛造素材置き工程と、前記隙間から前記鍛造素材に圧力を掛け、該鍛造素材を、前記金型のキャビティ内に充満するように塑性変形させる鍛圧工程と、からなることを特徴とする鍛造方法を提供する。
【0007】
前記鍛造方法の実施形態として、前記鍛造素材として金属板材を使用し、また、前記金型として、上下両型からなり、且つ、該上下両型が前記鍛造素材置き工程において、前記金属板材を上下両面から挟むと、その間に前記キャビティと、該キャビティの周縁に、前記金属板材の周縁部を挟む前記隙間が形成され、前記鍛圧工程において、前記隙間から圧力がかけられると、前記鍛造素材を、前記キャビティ内に充満するように塑性変形させることができるものを使用する例が挙げられる。
【0008】
また、前記金型の具体例として、上下両型からなっている鍛造用の金型であって、前記上下両型は、鍛造素材としての金属板材を上下両面から挟むと、その間に鍛造により目的物を形成するためのキャビティが形成され、該キャビティは、前記金属板材により、前記上型に形成される上キャビティと前記下型に形成される下キャビティとに分けられ、また、該キャビティの周縁に、そのキャビティ寄りの部分が前記金属板材の周縁部を挟み、他の部分が外側に連通する隙間が形成され、前記隙間に挟まれる金属板材の体積が、前記上キャビティと前記下キャビティとの合計容積にほぼ等しいように構成されているものが挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
前記鍛造方法及び前記金型の使用によると、まず、鍛造素材への圧力掛けは、隙間、特に、型締め中の、上下両型の間に形成される隙間より外から内へと行われるので、鍛造素材は、前記隙間からはみ出して来ず、製品の表面にバリとならず、後の廃品となることがない。
そして、前記鍛造方法によると、鍛造素材は、鍛造中において前記隙間からはみ出して来ないので、余剰分を用意する必要がない上、金属板材であれば、その需要量の一部が前記上下両型に挟まれる部分に分担されるため、その肉厚が目的の製品より薄くて予熱時間が大きく減少されるものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッドにおけるフェイス板の鍛造方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態において鍛造素材として使用された金属板材を示す図面である。
【図3】本発明の一実施形態に係るフェイス板の鍛造方法における鍛造素材置き工程を説明する断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るフェイス板の鍛造方法における鍛圧工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図1〜図4を参照しながら、ゴルフクラブヘッドにおけるフェイス板の成型を例として本発明のゴルフクラブヘッドの鍛造方法を説明する。
まず、図1に示したように、本発明のゴルフクラブヘッドの鍛造方法は、以下の工程からなるものである。
【0012】
(A)鍛造素材の加熱工程
この工程は、用意した鍛造素材を所定温度まで加熱する工程である。
鍛造素材は、従来のゴルフクラブヘッドに使用される金属素材であって良いが、本実施形態例においては、6−4チタン(6−4Ti)からなる長方形の金属板材1(図2参照)を使用した。
そして、加熱方法は、従来のゴルフクラブヘッドの鍛造に使用される公知の技術や、設備(例えば、加熱炉)であって良い。
また、加熱温度については、ゴルフクラブヘッドの最終製品の設計により決定されるが、本実施形態例では、6−4チタンからなった金属板材1でフェイス板を製造するため、700〜1000℃の温度範囲に設定した。
【0013】
(B)鍛造素材の、隙間のある金型への置き工程
この工程は、加熱工程(A)により加熱した鍛造素材(金属板材1)を下記特殊な金型3に置く工程である。
特殊な金型3としては、図3に示したように、それ自体の、鍛造により目的物を形成するためのキャビティ30を外側に連通させている隙間31が設けてあるものをいう。
より詳しく説明すると、金型3は、従来の鍛造用の金型と同じように、上下両型からなっているが、その上下両型32、33は、鍛造素材としての金属板材1を上下両面から挟むと、その間にキャビティ30ばかりでなく、隙間31も同時に形成される。この隙間31は、型開きがされない限り、製造の目的物であるフェイス板の成型が完成してもずっと存在する。
そして、図示のように、上下両型32、33が、鍛造素材としての金属板材1を上下両面から挟むことでその間に形成されるキャビティ30は、金属板材1により、上型32に形成される上キャビティ301と下型33に形成される下キャビティ302とに分けられる。また、その間に形成される隙間31は、該キャビティ30の周縁に、そのキャビティ寄りの部分が金属板材1の周縁部11を挟み、他の部分が金型3の外側に連通する。
【0014】
それに、上下両型32、33は、隙間31に挟まれる金属板材1の体積が、上キャビティ301と下キャビティ302との合計容積にほぼ等しいように構成されれば良いが、成型品の材質緻密度が、通常、鍛造によりやや上がるため、隙間31に挟まれる金属板材1の体積も、上キャビティ301と下キャビティ302との合計容積よりやや大きい方が良い。
また、金型3、特にそれにおける上キャビティ301と下キャビティ302の形状、深さ及び金型全体における位置、並びに、隙間31の配置などは、目的製品のデザインに応じて設計され得る。
例えば、図示のように、本実施形態例のフェイス板を鍛造する場合、金型3は、その型締めになると、長方形になる上、該長方形の周縁にある一対の対向する両側だけに隙間31が形成される。即ち、他の一対の対向する両側では、上下両型32、33が互いに密接するようになる。
【0015】
また、図示のように、下型33の上面は平面となり、即ち、下キャビティ302は容積がない。そして、上キャビティ301は複数あるが、上型31の中心近くに分布している上、それらの合計容積が隙間31に挟まれる金属板材1の体積にほぼ等しい。しかし、前記のように、実際の鍛造過程において、鍛造製品は圧力にかかられることによって密度がやや高くなるので、本実施形態例の金型3における複数の上キャビティ301は、それらの合計容積が隙間31に挟まれる金属板材1の体積より少し小さいように構成されている。
【0016】
上述のように、この工程が行われると、長方形の金属板材1は、上下両型32、33に挟まれる上、その一対の対向する両側が金型3の両側にある隙間31内にあってそれらの端縁で隙間31の開口に向かい、他の一対の対向する両側が、端縁で上下両型32、33の両側壁を突っ張る。
しかし、本発明は、以上の例に限らず、金型3は、円形も多角形もいいし、片側に隙間31を設けてもいいし、複数の隙間31を開けてもいい。
【0017】
(C)隙間から圧力をかける鍛圧工程
この工程は、金属板材1を塑性変形させる工程である。
本実施形態例では、350〜500℃の温度範囲で、鍛造部(例えば、プレス部2)を使用し、金型の両側の隙間31から金属板材1の両側の周縁側面12に圧力を平均的に掛け、金属板材1を、金型3のキャビティ30内に充満するように塑性変形させる。
鍛圧工程が行われる時、上下両型32、33は、従来鍛造法のように次第に近づくように圧力をかけるのではなく、前記のように、全く動かずに鍛造素材としての金属板材1の周縁を挟んだまま、ただそれらの間に形成される隙間31より金属板材1への圧力掛けを受ける。即ち、この工程における圧力掛けは、上下両型32、33の間に形成されるキャビティ30と外側との唯一の連通路である隙間31を経由して行われるので、鍛造素材は、隙間31からはみ出して来ず、製品の表面にバリとならず、後の廃品となることがない。そのため、本発明の鍛造方法及び金型30によると、廃品の量を抑えることができる。
【0018】
また、本発明の鍛造方法は、鍛造素材としての金属板材1を使用する場合、薄い鍛造素材を厚い目的の製品にする方法となり、そして、鍛造素材の余剰分を用意する必要がなく、廃品の量が従来より少ない、または全くないため、鍛造素材の需要体積が従来より減小する。つまり、同じ目的の製品を製造する場合、加熱工程(A)は、体積も厚さも従来より小さいものに対して行うようになる。そのため、鍛造素材の鍛圧前の加熱工程(A)の時間は、従来より大きく減少することができる。
以上は、本発明を、ゴルフクラブヘッドにおけるフェイス板の製造だけを例として挙げて説明したが、それに限られることなく、金型3のキャビティ30の設計により、いろいろなものを製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
上述のように、本発明の鍛造方法及びそのための金型は、廃品の量を抑えることができる上、鍛造素材の加熱時間も製造過程にかかるコストも削減できるので、産業上の利用にとても有利である。
【符号の説明】
【0020】
1 金属板材
11 金属板材の周縁部
12 金属板材の周面
2 プレス部
3 金型
30 キャビティ
301 上キャビティ
302 下キャビティ
31 隙間
32 上型
33 下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造素材を加熱する鍛造素材の加熱工程と、
前記加熱した鍛造素材を、それ自体の鍛造により目的物を形成するためのキャビティを外側に連通させている隙間が設けてある金型に置く鍛造素材置き工程と、
前記隙間から前記鍛造素材に圧力を掛け、該鍛造素材を、前記金型のキャビティ内に充満するように塑性変形させる鍛圧工程と、
からなることを特徴とする鍛造方法。
【請求項2】
前記鍛造素材として金属板材を使用し、
また、前記金型として、上下両型からなり、且つ、該上下両型が前記鍛造素材置き工程において、前記金属板材を上下両面から挟むと、その間に前記キャビティと、該キャビティの周縁に、前記金属板材の周縁部を挟む前記隙間が形成され、前記鍛圧工程において、前記隙間から圧力がかけられると、前記鍛造素材を、前記キャビティ内に充満するように塑性変形させることができるものを使用することを特徴とする請求項1に記載の鍛造方法。
【請求項3】
前記金型として、
前記キャビティが、前記金属板材により、前記上型に形成される上キャビティと前記下型に形成される下キャビティとに分けられ、
また、前記キャビティと前記隙間が形成されると、該隙間のキャビティ寄りの部分が前記金属板材の周縁部を挟み、他の部分が外側に連通し、前記隙間に挟まれる金属板材の体積が、前記上キャビティと前記下キャビティとの合計容積にほぼ等しい、
金型を使用することを特徴とする請求項2に記載の鍛造方法。
【請求項4】
ゴルフクラブヘッドにおけるフェイス板を鍛造する場合、前記金型として、前記下型の上面は平面となり、前記下キャビティは容積がなく、また、前記上キャビティは、容積が前記隙間に挟まれる金属板材の体積にほぼ等しいものを使用することを特徴とする請求項3に記載の鍛造方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、700〜1000℃の温度で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の鍛造方法。
【請求項6】
前記鍛圧工程は、350〜500℃の温度で行われることを特徴とする請求項5に記載のゴルフクラブヘッドの鍛造方法。
【請求項7】
上下両型からなっている鍛造用の金型であって、
前記上下両型は、鍛造素材としての金属板材を上下両面から挟むと、その間に鍛造により目的物を形成するためのキャビティが形成され、
該キャビティは、前記金属板材により、前記上型に形成される上キャビティと前記下型に形成される下キャビティとに分けられ、
また、該キャビティの周縁に、そのキャビティ寄りの部分が前記金属板材の周縁部を挟み、他の部分が外側に連通する隙間が形成され、
前記隙間に挟まれる金属板材の体積が、前記上キャビティと前記下キャビティとの合計容積にほぼ等しいように構成されていることを特徴とする鍛造用の金型。
【請求項8】
ゴルフクラブヘッドにおけるフェイス板を鍛造するための鍛造用の金型であって、前記下型の上面は平面となり、前記下キャビティは容積がなく、また、前記上キャビティは、容積が前記隙間に挟まれる金属板材の体積にほぼ等しいことを特徴とする請求項7に記載の鍛造用の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274293(P2010−274293A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128146(P2009−128146)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(500066735)大田精密工業股▲ふん▼有限公司 (26)
【Fターム(参考)】