説明

サイドエアバッグ装置

【課題】 側面衝突用のサイドエアバッグ装置において、充分な乗員拘束性能を確保しながら、エアバッグの速やかで確実な展開を可能にする。
【解決手段】 第1基布17および第3基布19間にJ字状の第1気室20を構成するとともに、第2基布18および第3基布19間に前記第1気室20よりも容積が大きい矩形状の第2気室21を構成し、インフレータ22からのガスを第1気室20の内部から連通孔19aを経て第2気室21の内部に供給するので、先ず第1気室20を速やかに展開して必要最小限の乗員拘束性能を確保した後に、第2気室21を展開して乗員拘束性能を充分に高めることができる。先ず第1気室20だけが展開するときは、その車幅方向の厚さが小さいので乗員と干渉せずにスムーズな展開が可能になり、続いて第2気室21の展開が完了すると、エアバッグ16全体として充分な車幅方向の厚さを確保して乗員を効果的に保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の内側部に折り畳み状態で配置され、インフレータから供給されるガスで膨張して車体内側面と乗員との間に車体前後方向に展開するエアバッグを備えるサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドアの内面から乗員との間にエアバッグ11を車体前後方向に展開することで、側面衝突の衝撃から乗員を保護するサイドエアバッグ装置において、そのエアバッグ11を、窓側の補強布14と、乗員側の第1裁断布15と、それらの間に挟まれた第2裁断布16とを外周部で縫製して構成し、第1裁断布15と第2裁断布16とでエアバッグ本体12を形成し、補強布14と第2裁断布16との間に空間19を形成し、第2裁断布16の中央部に形成したベントホール20でエアバッグ本体12の内部と空間19とを連通させたものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
このサイドエアバッグ装置によれば、インフレータ17が発生するガスでエアバッグ本体12を展開するとき、そのガスの一部が第2裁断布16の中央部に形成したベントホール20を通過して空間19を展開することで、側面衝突の衝撃で飛び散った窓ガラスの破片で補強布14が損傷しても、エアバッグ本体12を保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−76903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のものは、インフレータ17が発生するガスでエアバッグ本体12を展開する過程で、エアバッグ本体12の展開が完了する前に、該エアバッグ本体12のガスが第2裁断布16の中央部に形成したベントホール20を通過して空間19に流入してしまうため、エアバッグ本体12が展開を完了するタイミングが遅れて有効な乗員拘束力を発揮できなくなる可能性がある。
【0006】
またサイドエアバッグ装置のエアバッグを二室に分離せずに一室で構成した場合、そのエアバッグがドアと乗員との間の狭い隙間を通過して車体前後方向に展開するとき、エアバッグが乗員と干渉してスムーズな展開が妨げられる可能性がある。この問題は、展開完了後のエアバッグの車幅方向の厚さを小さくすれば解決されるが、このようにすると側面衝突に対する乗員の保護性能が低下する問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、側面衝突用のサイドエアバッグ装置において、充分な乗員拘束性能を確保しながら、エアバッグの速やかで確実な展開を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体の内側部に折り畳み状態で配置され、インフレータから供給されるガスで膨張して車体内側面と乗員との間に車体前後方向に展開するエアバッグを備えるサイドエアバッグ装置において、前記エアバッグは、車体内側面および乗員側の一方に配置された第1基布と、車体内側面および乗員側の他方に配置された第2基布と、前記第1、第2基布に挟まれた第3基布と、前記第1基布および前記第3基布により構成された第1気室と、前記第2基布および前記第3基布により構成された第2気室と、前記エアバッグを膨張させるガスを前記第1気室の内部をから連通孔を経て前記第2気室の内部に供給するインフレータとを備え、前記第1気室の容積を前記第2気室の容積よりも小さくしたことを特徴とするサイドエアバッグ装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1気室は、乗員の上体に沿って上下方向に延びる上下方向膨張部と、前記上下方向膨張部の上下両端から車体前後方向に延びる前後方向膨張部とを備えることを特徴とするサイドエアバッグ装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記第1基布および前記第3基布を接合部で接合し、前記インフレータから供給されたガスによる前記第1気室の内圧上昇により前記接合部を破断することで前記連通孔を開放することを特徴とするサイドエアバッグ装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記接合部は、前記第1気室のガスの流路に沿って破断が進行するように形成されることを特徴とするサイドエアバッグ装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態の縫製S3は本発明の接合部に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、車体内側面および乗員側の一方に配置された第1基布と、車体内側面および乗員側の他方に配置された第2基布と、第1、第2基布に挟まれた第3基布とで、第1基布および第3基布間に容積が小さい方の第1気室を構成するとともに、第2基布および第3基布間に容積が大きい方の第2気室を構成し、インフレータからのガスを第1気室の内部から連通孔を経て第2気室の内部に供給するので、先ず第1気室を速やかに展開して必要最小限の乗員拘束性能を確保した後に、第2気室を展開して乗員拘束性能を充分に高めることができる。最初に第1気室だけが展開するときは、その車幅方向の厚さが小さいので乗員と干渉せずにスムーズな展開が可能になり、続いて第2気室の展開が完了すると、エアバッグ全体として充分な車幅方向の厚さを確保して乗員を効果的に保護することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、エアバッグの第1気室を、乗員の上体に沿って上下方向に延びる上下方向膨張部と、上下方向膨張部の上下両端から車体前後方向に延びる前後方向膨張部とで構成したので、第1気室の容積を小さくしながら乗員を拘束可能な領域を最大限に確保することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、第1基布および第3基布を接合部で接合し、インフレータから供給されたガスによる第1気室の内圧上昇により接合部を破断して連通孔を開放するので、第1気室が完全に展開するまで連通孔を閉塞状態に維持して第2気室にガスが流入するのを阻止し、第1気室の展開完了をより一層早めることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、接合部は第1気室のガスの流路に沿って破断が進行するので、第1気室が完全に展開した後に連通孔を開放することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動車の運転席用のサイドエアバッグ装置が作動した状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図2】図1の2方向矢視図(第1の実施の形態)。
【図3】図2の3−3線断面図(第1の実施の形態)。
【図4】図2の4−4線断面図(第1の実施の形態)。
【図5】エアバッグの基布の分解斜視図(第1の実施の形態)。
【図6】前記図2に対応する図(第2の実施の形態)。
【図7】前記図3に対応する図(第3の実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1に示すように、自動車の運転席側のシートはシートクッション11と、シートバック12と、ヘッドレスト13とを備えており、シートバック12のドア14(図3参照)側の側面に折り畳み状態で埋設されたサイドエアバッグ装置15のエアバッグ16は、車両の側面衝突時にシートバック12の表皮の縫製部を破断してドア14および乗員の間を遮るように車体前方に展開し、ドア14の外面に加わる衝突荷重から乗員を保護するようになっている。
【0020】
図2〜図5に示すように、エアバッグ16は、ドア14側に位置する第1基布17と、乗員側に位置する第2基布18と、第1、第2基布17,18に挟まれた第3基布19とを重ね合わたもので、第1基布17および第3基布19によってドア14側に位置する第1気室20が構成されるとともに、第2基布18および第3基布19によって乗員側に位置する第2気室21が構成される。推薬の燃焼によってエアバッグ16を展開するガスを発生させるインフレータ22は第1気室20の後端部に収納され、インフレータ22および折り畳み状態のエアバッグ16はシートバック12の表皮の内側に収納される。
【0021】
第2基布18および第3基布19は同形の矩形状であるが、第1基布17はそれよりも小さいJ字状に形成される。このJ字状の第1基布17により、第1気室20は、乗員の上体に沿って上下方向に延びる上下方向膨張部20aと、上下方向膨張部20aの上端および下端から車体前方に向かって延びる二つの前後方向膨張部20b,20cとを備える。インフレータ22は上下方向膨張部20aの後部に上下方向に収納される。また二つの前後方向膨張部20b,20cの前端に対応する第3基布19には、第1気室20を第2気室21に連通させる2個の連通孔19a,19aが開口する。
【0022】
第1基布17および第3基布19は縫製S1により結合され、第2基布18および第3基布19は縫製S2により結合されるが、二つの縫製S1,S2は、エアバッグ16の後縁、下縁および上縁の後部で重なっている。
【0023】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0024】
車両が側面衝突して所定値以上の衝突加速度が検出されると、インフレータ22が作動してエアバッグ16のドア14側の第1気室20にガスが供給され、膨張する第1気室20の圧力でシートバック12の表皮が破断し、そこに形成された開口からエアバッグ16が車体前方に向けて展開する。
【0025】
このとき、インフレータ22が発生したガスは、先ずドア14側の第1気室20の上下方向膨張部20aを展開し、続いて二つの前後方向膨張部20b,20cを展開する。最初に展開する第1気室20の容積は第2気室21の容積よりも小さく設定されているため、第1、第2気室20,21を同時に展開する場合に比べて第1気室20が展開を完了するまでの時間を大幅に短くし、必要最小限の乗員拘束力を最短時間で発生させることができる。しかも上下方向膨張部20aおよび二つの前後方向膨張部20b,20cをJ字状に配置したことにより、第1気室20の容積を小さくしながら乗員を拘束する面積を最大限に確保することができる。
【0026】
エアバッグ16の第1気室20の展開が完了すると、第1気室20のガスが二つの前後方向膨張部20b,20cの先端の連通孔19a,19aを通過して第2気室21に流入する。その結果、第1気室20に続いて第2気室21が展開することでエアバッグ16の展開が完了し、乗員の右側面を広く覆って保護することができる。
【0027】
しかして、側面衝突時にエアバッグ16をシートバック12の側面から車体前方に展開する際に、先ず第1、第2気室のうちの第1気室20だけが展開するので、エアバッグ16はドア14と乗員との間の狭い隙間を乗員と干渉することなく確実に展開することができる。そして第1気室20の展開が完了した後に第2気室21の展開が完了すると、エアバッグ16の車幅方向の厚さは第1、第2気室20,21の厚さの和になり、乗員を側面衝突の衝撃から確実に保護することができる。特に、第1気室20の容積を第2気室21の容積よりも小さくしたことで、第1気室20が展開を完了して必要最小限の乗員拘束力を発生するまでの時間を短縮することができる。
【0028】
次に、図6および図7に基づいて本発明の第2、第3の実施の形態を説明する。
【0029】
第1の実施の形態では、第1気室20の二つの前後方向膨張部20b,20cの前端に連通孔19a,19aが形成されているが、第2、第3の実施の形態では、長い方の下側の前後方向膨張部20cの前端だけに連通孔19aが形成されており、かつ下側の前後方向膨張部20cが、第1基布17および第3基布19を縫製S3することで流路を狭められている。第2の実施の形態および第3の実施の形態の差異は、縫製S3の形状が異なることである。
【0030】
その結果、第1気室20の下側の前後方向膨張部20cが展開する際に第3縫製S3が後部から前部に向かって順次破断することで、下側の前後方向膨張部20cの展開が完了する最後の瞬間まで連通孔19aが開放するのを阻止することができる。これにより、第1気室20が完全に展開する前に連通孔19aを介して第2気室21にガスが流入するのを阻止し、第1気室20をより早く展開することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0032】
例えば、実施の形態では運転席用のサイドエアバッグ装置について説明したが、本発明は助手席用や後席用のサイドエアバッグ装置に対しても適用することができる。
【0033】
また実施の形態ではシートバック12の側面からエアバッグ16を展開しているが、それをドア14の車室側の側面やピラーから展開しても良い。
【0034】
また縫製S1〜S3に代えて、接着や織りによって2枚の基布を接合しても良い。その場合、接合強度を異ならせることで、破断可能な接合部と破断不能な接合部とを形成することができる。
【0035】
また実施の形態では最初に展開する第1気室20をドア14側に配置し、遅れて展開する第2気室21を乗員側に配置しているが、その位置関係を逆にすることができる。
【符号の説明】
【0036】
16 エアバッグ
17 第1基布
18 第2基布
19 第3基布
19a 連通孔
20 第1気室
20a 上下方向膨張部
20b 前後方向膨張部
20c 前後方向膨張部
21 第2気室
22 インフレータ
S3 縫製(接合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の内側部に折り畳み状態で配置され、インフレータ(22)から供給されるガスで膨張して車体内側面と乗員との間に車体前後方向に展開するエアバッグ(16)を備えるサイドエアバッグ装置において、
前記エアバッグ(16)は、車体内側面および乗員側の一方に配置された第1基布(17)と、車体内側面および乗員側の他方に配置された第2基布(18)と、前記第1、第2基布(17,18)に挟まれた第3基布(19)と、前記第1基布(17)および前記第3基布(19)により構成された第1気室(20)と、前記第2基布(18)および前記第3基布(19)により構成された第2気室(21)と、前記エアバッグ(16)を膨張させるガスを前記第1気室(20)の内部から連通孔(19a)を経て前記第2気室(21)の内部に供給するインフレータ(22)とを備え、
前記第1気室(20)の容積を前記第2気室(21)の容積よりも小さくしたことを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記第1気室(20)は、乗員の上体に沿って上下方向に延びる上下方向膨張部(20a)と、前記上下方向膨張部(20a)の上下両端から車体前後方向に延びる前後方向膨張部(20b,20c)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記第1基布(17)および前記第3基布(19)を接合部(S3)で接合し、前記インフレータ(22)から供給されたガスによる前記第1気室(20)の内圧上昇により前記接合部(S3)を破断することで前記連通孔(19a)を開放することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記接合部(S3)は、前記第1気室(20)のガスの流路に沿って破断が進行するように形成されることを特徴とする、請求項3に記載のサイドエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188891(P2010−188891A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36027(P2009−36027)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】