サスペンションメンバ
【課題】サスペンションメンバの構造を複雑化することなくサスペンションの横剛性及びキャンバ剛性を高めることが可能なサスペンションメンバを提供する。
【解決手段】 車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータ8を介して車体10に弾性支持されるサスペンションメンバ1である。そのサスペンションメンバ1よりも下方にロールセンタ軸Rが設定されている。各インシュレータ8の弾性主軸Pの上下方向の傾きを調整して、上記サスペンションメンバ1の弾性中心Sの高さを、上記サスペンションメンバ1よりも下方に設定する。
【解決手段】 車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータ8を介して車体10に弾性支持されるサスペンションメンバ1である。そのサスペンションメンバ1よりも下方にロールセンタ軸Rが設定されている。各インシュレータ8の弾性主軸Pの上下方向の傾きを調整して、上記サスペンションメンバ1の弾性中心Sの高さを、上記サスペンションメンバ1よりも下方に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を支持する車輪支持部材がサスペンションリンクを介して連結されると共に車体に弾性支持され、サスペンション装置の一部を構成するサスペンションメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションメンバの車幅方向両側には、それぞれサスペンションリンクの内端部が上下揺動可能に連結し該サスペンションリンクの外端部にアクスルが連結し、そのアクスルは車輪を回転自在に支持している。また、上記サスペンションメンバは、左右で対をなすインシュレータを介して、当該サスペンションメンバの上方に位置する車体に弾性支持されている。
【0003】
上記インシュレータは、軸を上下且つ同軸に配置された入れ子状の内筒及び外筒の間にゴム部材などの弾性体が介装されて構成され、各インシュレータの車両内方に向かう弾性主軸は水平若しくは略水平となっている。そして、例えば、外筒がサスペンションメンバに固定されると共に内筒が車体に固定されることでサスペンションメンバは車体に弾性支持される。
【0004】
従来、上述のように各インシュレータの車両内方に向かう弾性主軸はそれぞれ水平若しくは略水平となっているため、複数のインシュレータに弾性支持されるサスペンションメンバの弾性中心の高さは、ほぼインシュレータの設置高さとなる。
ここで、車両旋回時には、車体に作用する遠心力によって、車両正面視において、車体が地面に対して傾く、つまり、ロールセンタ軸を中心として車体はロール方向に変位する。同様に、車両旋回時には、サスペンションメンバに遠心力が作用する。ここで、サスペンションメンバに作用する遠心力は、主として上記複数のインシュレータで決まるサスペンションメンバの弾性中心に集中して作用するとみなされる。
【0005】
そして、ロールセンタ軸がサスペンションメンバよりも下方に配置される車両にあっては、サスペンションメンバに作用する遠心力に、サスペンションメンバの弾性中心とロールセンタ軸との距離を乗じた回転モーメントにより、サスペンションメンバがロール方向に傾く。このとき、サスペンションメンバに作用する回転モーメントは車体側部材の傾きと同じ向きとなり、サスペンションメンバの傾きに伴い、車輪も傾くため、車輪の接地点に作用する横力とおなじ向きに車輪の接地点が車幅方向に変位し、かつ、車輪のキャンバ角度が拡大する。したがって、インシュレータの剛性が低いほど横剛性およびキャンバ剛性が低くなってしまう。また、上記サスペンションメンバのロール方向の動きを規制するためにインシュレータの剛性を高くするほど乗り心地に影響が出る。
【0006】
上記課題に対する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。
この技術では、サスペンションメンバの前部領域が第1支持部材に回転自由に連結され、その第1支持部材が第2支持部材に回転自由に連結され、さらにその第2支持部材を車体に回転自由に連結している。これによって、上下方向及び前後方向の支持剛性を低く、かつ車幅方向及びロール方向の支持剛性を高くしている。
【特許文献1】特開平4−368286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術は、サスペンションの横剛性及びキャンバ剛性を高めることが出来るが、サスペンションメンバの構造が複雑になるという問題がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、サスペンションメンバ構造を複雑化することなくサスペンションの横剛性及びキャンバ剛性を高めることが可能なサスペンションメンバを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、当該インシュレータの中央位置よりも下方に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サスペンションメンバの構成を複雑化することなく、サスペンションのキャンバ剛性及び横剛性を高めることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るサスペンションメンバを備えたサスペンション装置の概要構成図の一例である。
(構成)
このサスペンション装置では、図1に示すように、サスペンションメンバ1が、左右のサイドメンバ1aとその左右のサイドメンバ1aを連結するクロスメンバ1bとから構成されている。上記サイドメンバ1aには、それぞれサスペンションリンクであるロアアーム3及びアッパアーム4の内端部が上下揺動可能に連結し、ロアアーム3及びアッパアーム4の外端部が車輪支持部材を構成するアクスル5に連結している。符号6はショックアブソーバを、符号7はサスペンションスプリングを、符号9はスタビライザを表す。
【0011】
上記サスペンションメンバ1は、左右のサイドメンバ1aの前端部及び後端部にそれぞれ配置された4個のインシュレータ8を介して、その上方に配置された車体10に弾性支持されている。すなわち、前側の左右の2点と後側の左右の2点の計4点で車体10に弾性支持されている。
ここで、上記インシュレータ8の基本構成は、軸を上下に向けた内筒及び外筒が入れ子状に配置され、その内筒と外筒の間にゴム部材などからなる弾性体が介装されて構成される。そして、本実施形態では、図2に示すように、各インシュレータ8の軸を下側より上側が車幅方向内側となるように傾斜させて配置することで、車両正面視において、各インシュレータ8の弾性主軸Pを車幅方向内方に向かうにつれて下方に変位するように水平方向から下方に傾斜させた状態で、当該インシュレータ8を設置している。
【0012】
これによって、インシュレータ8で弾性支持されるサスペンションメンバ1の弾性中心Sは、車両正面視において、全てのインシュレータ8の各弾性中心Sよりも下方に配置されている。
そして、好ましくは、図3に示すように、サスペンションメンバ1よりも下側であって、上記弾性中心Sがロールセンタ軸R上若しくはその下方に位置するように設定する。
【0013】
この図3では、上記弾性中心Sは、前側の左右のインシュレータ8の弾性主軸Pの交点と、後側の左右のインシュレータ8の弾性主軸Pの交点とを個別に、ロールセンタ軸R上若しくはその下方に位置するように設定することで、サスペンションメンバ1の弾性主軸Pを、ロールセンタ上若しくはその下方となるように設定している。また、上下に二箇所ずつサスペンションメンバ1の弾性中心Sを図示しているが、ロールセンタ軸R上に設定した場合と、ロールセンタ軸Rより下方に配置した場合とを併記したものである。
【0014】
(作用効果)
まず、図2のようにロールセンタ軸Rがサスペンションメンバ1よりも下方に配置されている場合を例に説明する。
車両旋回時には、前述のように車体10及びサスペンションメンバ1に横方向に向かう遠心力Fが作用し、それぞれロールセンタ軸Rを中心にロールしようとする。このとき、車体10の重心Gはロールセンタよりも上方に位置することから車体10は遠心力Fの向きにロールする(図2参照)。
【0015】
また、車両旋回時における遠心力Fによるサスペンションメンバ1の傾きとしては、サスペンションメンバに作用する遠心力に、サスペンションメンバの弾性中心とロールセンタ軸との距離Lを乗じた回転モーメントにより、次の3通りが考えられる。
(1)前述の従来例のように、サスペンションメンバ1の弾性中心Sがロールセンタ軸Rよりも上側にあるときは、サスペンションメンバ1は車体10と同じ向きに傾く。
(2)サスペンションメンバ1の弾性中心Sが、ロールセンタ軸Rと一致するときは、サスペンションメンバ1には傾きが発生しない。
(3)サスペンションメンバ1の弾性中心Sが、ロールセンタ軸Rよりも下側にあるときは(図2の状態)、車体10とロールモーメントの方向が逆となり、車体10のロール方向とは逆向きにサスペンションメンバ1は傾く。
【0016】
上記(1)の場合には、サスペンションメンバ1の傾きに伴い車輪も傾くため、車輪の接地点に作用する横力と同じ向きに車輪の接地点が車幅方向に変位し、かつ、車輪のキャンバ角度が拡大する。したがって、横剛性およびキャンバ剛性が低くなってしまう。
これに対して、本実施形態を採用し、上記(3)のように設定した場合には、サスペンションメンバ1の傾きに伴い、車輪接地点における車両幅方向の変位は生じるものの、車輪が車体10と逆向きにロール変位するため、地面に対するキャンバ角を小さくすることができる。したがって、横剛性は上記(1)と同様であるが、キャンバ剛性を上記(1)の場合よりも向上することができて、操縦安定性能をより向上することができる。
【0017】
また、本実施形態を採用し、上記(2)のように設定した場合には、サスペンションメンバ1の傾きは理論上ゼロであるため、車輪の傾きもゼロであり、その結果、車輪は車幅方向およびキャンバ方向の変位は生じない。したがって、上記(1)に対してキャンバ剛性、横剛性を大きくすることができ、また上記(3)と比べても横剛性を大きくすることができる結果、さらに操縦安定性能を向上することができる。
一方、ロールセンタ軸Rがサスペンションメンバ1の上方に位置する場合には、常に上記(3)となるが、サスペンションメンバ1の弾性中心Sを下方に配置するほど、ロールセンタ軸Rとの上下距離が大きくなり、車体10とは反対方向によりロールしやすくなる。
【0018】
(応用)
ここで、上記実施形態では、インシュレータ8自体の軸を上側が車両内側に来るように、車幅方向に傾けることで、車両前方からみた各インシュレータ8の弾性主軸Pを、車両内側に向かうほど下方となるように傾斜されているが、このように弾性主軸Pを設定する方法は、これに限定されない。以下に、他の設定方向の例を示す。
【0019】
(別例1)
図4のように、上下に軸を向けたインシュレータ8における外筒8aの内周面および内筒8bの外周面について、少なくとも車幅方向(目的とする弾性主軸Pが通過する位置)を向く面について、下側から上方に向かうにつれて車両内側に向かうように鉛直方向から傾斜させることで、上記のように弾性主軸Pを設定する。
なお、前側左右のインシュレータ8を例示するが、後側の左右のインシュレータ8についても同様に設定する。なお、各インシュレータ8の弾性主軸Pの設定の方法は同一である必要はない。
【0020】
(別例2)
また、上記別例1に対し、図5及び図6のように、外筒8aの内周面若しくは内筒8bの外周面の一方だけを傾斜させても良い。ただし、別例1と同じ高さまでサスペンションメンバ1の弾性中心Sを配置するためには、傾斜を大きく取る必要がある。
(別例3)
図6及び図7のように、各インシュレータ8の目的とする弾性主軸Pが通過する弾性体8c内、つまり、車両前方から見て、弾性体8c内における内側の下側、及び外側の上側の少なくとも一方に、金属やプラスチックなどからなる中間板20を介挿して、上記のように弾性主軸Pを設定する。
【0021】
(別例4)
中間板20を介挿する代わりに、図9や図10のように、車両前方から見て、内側の上側、及び外側の下側の少なくとも一方にスグリ21(空洞やスリット)を設けることで、相対的に弾性体8c内における内側の下側、及び外側の上側の剛性を高く設定しても良い。
図11に、別例3及び別例4の両方を適用した例を示す。このように、上記各例の方法を組み合わせて使用しても良い。
なお、各部分の弾性体8cの剛性の調整は、上記中間板20やスグリ21に限定されず、弾性体8c自体の素材を部分的に変更して、その変更部分の剛性を調整しても良い。
【0022】
(その他)
ここで、上記実施形態では、正面視において、各インシュレータ8の弾性主軸Pを下向きに傾斜させているが、サスペンションメンバ1よりもロールセンタ軸Rが上方に配置されている場合において、そのロールセンタ軸Rにサスペンションメンバ1の弾性中心Sを一致させるように設定する場合には、各インシュレータ8の弾性主軸Pを上向きに傾くように設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るサスペンションを示す斜視図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るサスペンションメンバを示す車両前方からみた図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る車幅方向かたみた図である。
【図4】別例1を説明する図である。
【図5】別例2を説明する図である。
【図6】別例2を説明する図である。
【図7】別例3を説明する図である。
【図8】別例3を説明する図である。
【図9】別例4を説明する図である。
【図10】別例4を説明する図である。
【図11】別例4を説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 サスペンションメンバ
3 ロアアーム(サスペンションリンク)
4 アッパアーム(サスペンションリンク)
5 アクスル(車輪支持部材)
8 インシュレータ
10 車体
P 弾性主軸
S サスペンションメンバの弾性中心
R ロールセンタ軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を支持する車輪支持部材がサスペンションリンクを介して連結されると共に車体に弾性支持され、サスペンション装置の一部を構成するサスペンションメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションメンバの車幅方向両側には、それぞれサスペンションリンクの内端部が上下揺動可能に連結し該サスペンションリンクの外端部にアクスルが連結し、そのアクスルは車輪を回転自在に支持している。また、上記サスペンションメンバは、左右で対をなすインシュレータを介して、当該サスペンションメンバの上方に位置する車体に弾性支持されている。
【0003】
上記インシュレータは、軸を上下且つ同軸に配置された入れ子状の内筒及び外筒の間にゴム部材などの弾性体が介装されて構成され、各インシュレータの車両内方に向かう弾性主軸は水平若しくは略水平となっている。そして、例えば、外筒がサスペンションメンバに固定されると共に内筒が車体に固定されることでサスペンションメンバは車体に弾性支持される。
【0004】
従来、上述のように各インシュレータの車両内方に向かう弾性主軸はそれぞれ水平若しくは略水平となっているため、複数のインシュレータに弾性支持されるサスペンションメンバの弾性中心の高さは、ほぼインシュレータの設置高さとなる。
ここで、車両旋回時には、車体に作用する遠心力によって、車両正面視において、車体が地面に対して傾く、つまり、ロールセンタ軸を中心として車体はロール方向に変位する。同様に、車両旋回時には、サスペンションメンバに遠心力が作用する。ここで、サスペンションメンバに作用する遠心力は、主として上記複数のインシュレータで決まるサスペンションメンバの弾性中心に集中して作用するとみなされる。
【0005】
そして、ロールセンタ軸がサスペンションメンバよりも下方に配置される車両にあっては、サスペンションメンバに作用する遠心力に、サスペンションメンバの弾性中心とロールセンタ軸との距離を乗じた回転モーメントにより、サスペンションメンバがロール方向に傾く。このとき、サスペンションメンバに作用する回転モーメントは車体側部材の傾きと同じ向きとなり、サスペンションメンバの傾きに伴い、車輪も傾くため、車輪の接地点に作用する横力とおなじ向きに車輪の接地点が車幅方向に変位し、かつ、車輪のキャンバ角度が拡大する。したがって、インシュレータの剛性が低いほど横剛性およびキャンバ剛性が低くなってしまう。また、上記サスペンションメンバのロール方向の動きを規制するためにインシュレータの剛性を高くするほど乗り心地に影響が出る。
【0006】
上記課題に対する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。
この技術では、サスペンションメンバの前部領域が第1支持部材に回転自由に連結され、その第1支持部材が第2支持部材に回転自由に連結され、さらにその第2支持部材を車体に回転自由に連結している。これによって、上下方向及び前後方向の支持剛性を低く、かつ車幅方向及びロール方向の支持剛性を高くしている。
【特許文献1】特開平4−368286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術は、サスペンションの横剛性及びキャンバ剛性を高めることが出来るが、サスペンションメンバの構造が複雑になるという問題がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、サスペンションメンバ構造を複雑化することなくサスペンションの横剛性及びキャンバ剛性を高めることが可能なサスペンションメンバを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、当該インシュレータの中央位置よりも下方に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サスペンションメンバの構成を複雑化することなく、サスペンションのキャンバ剛性及び横剛性を高めることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るサスペンションメンバを備えたサスペンション装置の概要構成図の一例である。
(構成)
このサスペンション装置では、図1に示すように、サスペンションメンバ1が、左右のサイドメンバ1aとその左右のサイドメンバ1aを連結するクロスメンバ1bとから構成されている。上記サイドメンバ1aには、それぞれサスペンションリンクであるロアアーム3及びアッパアーム4の内端部が上下揺動可能に連結し、ロアアーム3及びアッパアーム4の外端部が車輪支持部材を構成するアクスル5に連結している。符号6はショックアブソーバを、符号7はサスペンションスプリングを、符号9はスタビライザを表す。
【0011】
上記サスペンションメンバ1は、左右のサイドメンバ1aの前端部及び後端部にそれぞれ配置された4個のインシュレータ8を介して、その上方に配置された車体10に弾性支持されている。すなわち、前側の左右の2点と後側の左右の2点の計4点で車体10に弾性支持されている。
ここで、上記インシュレータ8の基本構成は、軸を上下に向けた内筒及び外筒が入れ子状に配置され、その内筒と外筒の間にゴム部材などからなる弾性体が介装されて構成される。そして、本実施形態では、図2に示すように、各インシュレータ8の軸を下側より上側が車幅方向内側となるように傾斜させて配置することで、車両正面視において、各インシュレータ8の弾性主軸Pを車幅方向内方に向かうにつれて下方に変位するように水平方向から下方に傾斜させた状態で、当該インシュレータ8を設置している。
【0012】
これによって、インシュレータ8で弾性支持されるサスペンションメンバ1の弾性中心Sは、車両正面視において、全てのインシュレータ8の各弾性中心Sよりも下方に配置されている。
そして、好ましくは、図3に示すように、サスペンションメンバ1よりも下側であって、上記弾性中心Sがロールセンタ軸R上若しくはその下方に位置するように設定する。
【0013】
この図3では、上記弾性中心Sは、前側の左右のインシュレータ8の弾性主軸Pの交点と、後側の左右のインシュレータ8の弾性主軸Pの交点とを個別に、ロールセンタ軸R上若しくはその下方に位置するように設定することで、サスペンションメンバ1の弾性主軸Pを、ロールセンタ上若しくはその下方となるように設定している。また、上下に二箇所ずつサスペンションメンバ1の弾性中心Sを図示しているが、ロールセンタ軸R上に設定した場合と、ロールセンタ軸Rより下方に配置した場合とを併記したものである。
【0014】
(作用効果)
まず、図2のようにロールセンタ軸Rがサスペンションメンバ1よりも下方に配置されている場合を例に説明する。
車両旋回時には、前述のように車体10及びサスペンションメンバ1に横方向に向かう遠心力Fが作用し、それぞれロールセンタ軸Rを中心にロールしようとする。このとき、車体10の重心Gはロールセンタよりも上方に位置することから車体10は遠心力Fの向きにロールする(図2参照)。
【0015】
また、車両旋回時における遠心力Fによるサスペンションメンバ1の傾きとしては、サスペンションメンバに作用する遠心力に、サスペンションメンバの弾性中心とロールセンタ軸との距離Lを乗じた回転モーメントにより、次の3通りが考えられる。
(1)前述の従来例のように、サスペンションメンバ1の弾性中心Sがロールセンタ軸Rよりも上側にあるときは、サスペンションメンバ1は車体10と同じ向きに傾く。
(2)サスペンションメンバ1の弾性中心Sが、ロールセンタ軸Rと一致するときは、サスペンションメンバ1には傾きが発生しない。
(3)サスペンションメンバ1の弾性中心Sが、ロールセンタ軸Rよりも下側にあるときは(図2の状態)、車体10とロールモーメントの方向が逆となり、車体10のロール方向とは逆向きにサスペンションメンバ1は傾く。
【0016】
上記(1)の場合には、サスペンションメンバ1の傾きに伴い車輪も傾くため、車輪の接地点に作用する横力と同じ向きに車輪の接地点が車幅方向に変位し、かつ、車輪のキャンバ角度が拡大する。したがって、横剛性およびキャンバ剛性が低くなってしまう。
これに対して、本実施形態を採用し、上記(3)のように設定した場合には、サスペンションメンバ1の傾きに伴い、車輪接地点における車両幅方向の変位は生じるものの、車輪が車体10と逆向きにロール変位するため、地面に対するキャンバ角を小さくすることができる。したがって、横剛性は上記(1)と同様であるが、キャンバ剛性を上記(1)の場合よりも向上することができて、操縦安定性能をより向上することができる。
【0017】
また、本実施形態を採用し、上記(2)のように設定した場合には、サスペンションメンバ1の傾きは理論上ゼロであるため、車輪の傾きもゼロであり、その結果、車輪は車幅方向およびキャンバ方向の変位は生じない。したがって、上記(1)に対してキャンバ剛性、横剛性を大きくすることができ、また上記(3)と比べても横剛性を大きくすることができる結果、さらに操縦安定性能を向上することができる。
一方、ロールセンタ軸Rがサスペンションメンバ1の上方に位置する場合には、常に上記(3)となるが、サスペンションメンバ1の弾性中心Sを下方に配置するほど、ロールセンタ軸Rとの上下距離が大きくなり、車体10とは反対方向によりロールしやすくなる。
【0018】
(応用)
ここで、上記実施形態では、インシュレータ8自体の軸を上側が車両内側に来るように、車幅方向に傾けることで、車両前方からみた各インシュレータ8の弾性主軸Pを、車両内側に向かうほど下方となるように傾斜されているが、このように弾性主軸Pを設定する方法は、これに限定されない。以下に、他の設定方向の例を示す。
【0019】
(別例1)
図4のように、上下に軸を向けたインシュレータ8における外筒8aの内周面および内筒8bの外周面について、少なくとも車幅方向(目的とする弾性主軸Pが通過する位置)を向く面について、下側から上方に向かうにつれて車両内側に向かうように鉛直方向から傾斜させることで、上記のように弾性主軸Pを設定する。
なお、前側左右のインシュレータ8を例示するが、後側の左右のインシュレータ8についても同様に設定する。なお、各インシュレータ8の弾性主軸Pの設定の方法は同一である必要はない。
【0020】
(別例2)
また、上記別例1に対し、図5及び図6のように、外筒8aの内周面若しくは内筒8bの外周面の一方だけを傾斜させても良い。ただし、別例1と同じ高さまでサスペンションメンバ1の弾性中心Sを配置するためには、傾斜を大きく取る必要がある。
(別例3)
図6及び図7のように、各インシュレータ8の目的とする弾性主軸Pが通過する弾性体8c内、つまり、車両前方から見て、弾性体8c内における内側の下側、及び外側の上側の少なくとも一方に、金属やプラスチックなどからなる中間板20を介挿して、上記のように弾性主軸Pを設定する。
【0021】
(別例4)
中間板20を介挿する代わりに、図9や図10のように、車両前方から見て、内側の上側、及び外側の下側の少なくとも一方にスグリ21(空洞やスリット)を設けることで、相対的に弾性体8c内における内側の下側、及び外側の上側の剛性を高く設定しても良い。
図11に、別例3及び別例4の両方を適用した例を示す。このように、上記各例の方法を組み合わせて使用しても良い。
なお、各部分の弾性体8cの剛性の調整は、上記中間板20やスグリ21に限定されず、弾性体8c自体の素材を部分的に変更して、その変更部分の剛性を調整しても良い。
【0022】
(その他)
ここで、上記実施形態では、正面視において、各インシュレータ8の弾性主軸Pを下向きに傾斜させているが、サスペンションメンバ1よりもロールセンタ軸Rが上方に配置されている場合において、そのロールセンタ軸Rにサスペンションメンバ1の弾性中心Sを一致させるように設定する場合には、各インシュレータ8の弾性主軸Pを上向きに傾くように設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るサスペンションを示す斜視図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るサスペンションメンバを示す車両前方からみた図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る車幅方向かたみた図である。
【図4】別例1を説明する図である。
【図5】別例2を説明する図である。
【図6】別例2を説明する図である。
【図7】別例3を説明する図である。
【図8】別例3を説明する図である。
【図9】別例4を説明する図である。
【図10】別例4を説明する図である。
【図11】別例4を説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 サスペンションメンバ
3 ロアアーム(サスペンションリンク)
4 アッパアーム(サスペンションリンク)
5 アクスル(車輪支持部材)
8 インシュレータ
10 車体
P 弾性主軸
S サスペンションメンバの弾性中心
R ロールセンタ軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、上記インシュレータのそれぞれの弾性中心のいずれよりも下方に設定することを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項2】
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、ロールセンタ軸よりも下方に設定したことを特徴とする請求項1に記載したサスペンションメンバ。
【請求項3】
車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心を、ロールセンタ軸上となるように設定したことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項4】
車両正面視において、上記インシュレータの車両内側に向かう弾性主軸を、水平方向から上下方向に傾くように設定することで、サスペンションメンバの弾性中心の位置を上記位置に設定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【請求項5】
車両正面視において、上記インシュレータの車両内側に向かう弾性主軸を、車両外側よりも車両内側の方が下方に位置するように下向きに傾けて設定することで、サスペンションメンバの弾性中心の位置を上記位置に設定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【請求項6】
上記インシュレータは、軸を上下に向けた内筒及び外筒の間に弾性体を介装して構成され、内筒の外周面及び外筒の内周面の少なくとも一方の面のうち、少なくとも車幅方向を向く面を、車両前方からみて鉛直軸に対し車幅方向に傾斜させることで、上記車両内側に向かう弾性主軸を傾けることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載したサスペンションメンバ。
【請求項7】
上記インシュレータは、内筒及び外筒の間に弾性体を介装して構成され、上記弾性体内に、スグリ若しくは弾性体より剛性の高い中間板を偏心して配置することで、上記のように車両内側に向かう弾性主軸を傾けることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【請求項1】
車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、上記インシュレータのそれぞれの弾性中心のいずれよりも下方に設定することを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項2】
上記サスペンションメンバの弾性中心の高さを、ロールセンタ軸よりも下方に設定したことを特徴とする請求項1に記載したサスペンションメンバ。
【請求項3】
車輪を回転自在に支持する車輪支持部材とサスペンションリンクを介して連結すると共に、複数のインシュレータを介して車体に弾性支持されるサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの弾性中心を、ロールセンタ軸上となるように設定したことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項4】
車両正面視において、上記インシュレータの車両内側に向かう弾性主軸を、水平方向から上下方向に傾くように設定することで、サスペンションメンバの弾性中心の位置を上記位置に設定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【請求項5】
車両正面視において、上記インシュレータの車両内側に向かう弾性主軸を、車両外側よりも車両内側の方が下方に位置するように下向きに傾けて設定することで、サスペンションメンバの弾性中心の位置を上記位置に設定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【請求項6】
上記インシュレータは、軸を上下に向けた内筒及び外筒の間に弾性体を介装して構成され、内筒の外周面及び外筒の内周面の少なくとも一方の面のうち、少なくとも車幅方向を向く面を、車両前方からみて鉛直軸に対し車幅方向に傾斜させることで、上記車両内側に向かう弾性主軸を傾けることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載したサスペンションメンバ。
【請求項7】
上記インシュレータは、内筒及び外筒の間に弾性体を介装して構成され、上記弾性体内に、スグリ若しくは弾性体より剛性の高い中間板を偏心して配置することで、上記のように車両内側に向かう弾性主軸を傾けることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載したサスペンションメンバ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−203833(P2007−203833A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23516(P2006−23516)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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