説明

サスペンション制御装置、サスペンション制御方法

【課題】車高に比べてトレッドが小さい車両において、旋回性能を改善する。
【解決手段】車体1にロアリンク5を取付ける取付け点52を昇降可能な構成とすることで、制御型サスペンション構造とする。この制御型サスペンション構造を、前輪に採用する場合には、車両静止状態でロールセンタ7Fを地面よりも低く設定すると共に、車両の旋回方向に応じてロアリンク5の取付け点52を昇降させることにより、旋回走行時にロールセンタ7Fを旋回外側へ移動させる。一方、制御型サスペンション構造を、後輪に採用する場合には、車両静止状態でロールセンタ7Rを地面よりも高く設定すると共に、車両の旋回方向に応じてロアリンク5の取付け点52を昇降させることにより、旋回走行時にロールセンタ7Rを旋回内側へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション制御装置、及びサスペンション制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の従来技術では、アッパリンクの車体側取付け点をアクチュエータを介して変位させ、前輪ロールセンタを後輪ロールセンタよりも高くすることで、後輪側のロールモーメントを相対的に増加させ、後輪のグリップ力の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−270233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、後輪ロールセンタよりも前輪ロールセンタを高くすると、前輪側でジャッキアップ力が強まってしまい、特に車高に比べてトレッドが小さい車両にとっては、ロールオーバ限界を維持することが困難になる。
本発明の課題は、車高に比べてトレッドが小さい車両の旋回性能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、車体にロアリンクを取付ける取付け点を昇降可能な構成とすることで、制御型サスペンション構造とする。この制御型サスペンション構造を、前輪に設定する場合には、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定すると共に、車両の旋回方向に応じてロアリンクの取付け点を昇降させることにより、旋回走行時にロールセンタを旋回外側へ移動させる。一方、制御型サスペンション構造を、後輪に設定する場合には、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定すると共に、車両の旋回方向に応じてロアリンクの取付け点を昇降させることにより、旋回走行時にロールセンタを旋回内側へ移動させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るサスペンション構造によれば、制御型サスペンション構造により、ロールセンタが地面よりも低い前輪では、旋回走行時にロールセンタを旋回外側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。また、ロールセンタが地面よりも高い後輪では、旋回走行時にロールセンタを旋回内側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】車高に比べて車幅が小さい車両の一例を示す図である。
【図2】車両を後方から見た前輪サスペンションを示す図である。
【図3】トレッドに応じたアッパリンク長さとロアリンク長さの対応表である。
【図4】トレッドに応じた角度差と角度比の対応表である。
【図5】車両を後方から見た後輪サスペンションを示す図である。
【図6】トレッドに応じたアッパリンク長さとロアリンク長さの対応表である。
【図7】トレッドに応じた角度差と角度比の対応表である。
【図8】昇降アクチュエータ8を駆動制御するシステム構成図である。
【図9】サスペンション制御処理を示すフローチャートである。
【図10】ロールセンタとジャッキダウン特性の関係を示す図である。
【図11】左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
【図12】ロール角に対するジャッキ力を表す図である。
【図13】左旋回時の後輪サスペンションを示す図である。
【図14】ロール角に対するジャッキ力を表す図である。
【図15】横加速度に応じたピッチングモーメントを示す図である。
【図16】第2実施形態の前輪サスペンションを示す図である。
【図17】第2実施形態における左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
【図18】第3実施形態の前輪サスペンションを示す図である。
【図19】第3実施形態における左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
《構成》
図1は、車高に比べて車幅が小さい車両の一例を示す図である。
車高に比べて車幅が小さい車両としては、例えばシティコミュータとして提案されているタンデム式の2シータ車両がある。このように、車両前面視で車高に比べて車幅が小さい車両ほど、スタティック・スタビリティ・ファクタ(SSF:ここではトレッド幅の半分/重心高の比であり、静的安定限界を表す)が小さいので、ロールオーバ限界が低く、旋回時に横転する可能性が高くなる。そのため、このSSFが小さい車両ほど、旋回時にロールセンタを移動させて、ジャッキダウン特性を得ることが特に望まれる。
【0009】
先ず、前輪のサスペンション構造について説明する。
図2は、車両を後方から見た前輪サスペンションを示す図である。
左右輪のサスペンション構造は、左右対称の同一構造なので、右輪を基準として説明する。なお、左右輪を区別する際には、右輪に関わる符号に“R”を付し、左輪に関わる符号に“L”を付して説明する。さらに、前後輪・左右輪を区別する際には、前左輪に関わる符号に“FL”を付し、前右輪に関わる符号に“FR”を付し、後左輪に関わる符号に“RL”を付し、後右輪に関わる符号に“RR”を付して説明する。
【0010】
車体1は、ダブルウィッシュボーン式のサスペンション構造によって、車輪2に懸架してある。車輪2を回転自在に支持するアップライト3は、アッパリンク4及びロアリンク5を介して揺動可能な状態で車体1に連結してある。
アッパリンク4の車体側取付け点41及びアップライト側取付け点42の夫々は、ゴムブッシュを介して車体1及びアップライト3に連結してある。
【0011】
ロアリンク5の車体側取付け点51は、昇降アクチュエータ8FL及び8FRを介して車体1に連結してあり、ロアリンク5のアップライト側取付け点52は、ゴムブッシュを介してアップライト3に連結してある。昇降アクチュエータ8FL及びFRは、例えば上下方向に駆動可能なシリンダで構成してあり、夫々、ロッドの先端側にロアリンク5の車体側取付け点51を設けている。なお、ロアリンク5における車幅方向の略中央には、車体1との間にショックアブソーバ9を介在させている。
【0012】
右輪においては、アッパリンク4の軸線を車体内側へと延長した延長線43と、ロアリンク5の軸線を車体内側へと延長した延長線53と、の交点が瞬間回転中心6FRとなり、瞬間回転中心6FRとタイヤ接地中心61とを結ぶ線分がスイングリンク62FRとなる。同様に、左輪においても、瞬間回転中心6FLとスイングリンク62FLとが決まる。そして、右輪のスイングリンク62FRと、左輪のスイングリンク62FLとの交点が、ロールセンタ7Fとなる。
【0013】
平坦路を直進走行しているなどして車両がロールしていない状態も含め、車両静止状態(定常状態)では、車幅方向を中心にして左右対称となる位置に左右輪の瞬間回転中心6FR及び6FLが存在するので、ロールセンタ7Fの左右位置は車体中心となる。また、ロールセンタ7Fの高さが、地面よりも低くなるようにサスペンションジオメトリを設定してある。
【0014】
次に、前輪サスペンションにおけるアッパリンク4とロアリンク5のレイアウトについて説明する。
アッパリンク4とロアリンク5とは、旋回走行時にロールセンタ7が旋回外側へ移動するようにレイアウトしてある。
先ずは、長さについて説明する。
ここでは、アッパリンク4の長さをロアリンク5以下とする。具体的には、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の長さを決定する。
【0015】
図3は、トレッド(□の中の数字)に応じたアッパリンク長さとロアリンク長さの対応表である。
先ず、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の長さを決定する場合、アッパリンク4が長いほど、且つトレッドが広いほど、ロアリンク5の長さを大きくする。例えば、アッパリンク4の長さが100mm程度で、トレッドが1000mm程度のときには、ロアリンク5の長さを120mm程度とし、アッパリンク4の長さが100mm程度で、トレッドが800mm程度のときには、ロアリンク5の長さを100mm程度とする。
【0016】
次に、角度について説明する。
ここでは、車両静止状態で、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度(下反角)が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度(下反角)よりも大きくなり、且つアッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも大きくなるように、アッパリンク4及びロアリンク5を配置している。具体的には、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差(=アッパリンク取付け角度−ロアリンク取付け角度)、及び角度比(=アッパリンク取付け角度/ロアリンク取付け角度)を決定する。
【0017】
図4は、トレッドに応じた角度差と角度比の対応表である。
先ず、トレッドが広いほど単調増加関数的に角度差を大きくする。例えば、トレッドが650mm程度のときには、角度差を4°程度とし、トレッドが1300mm程度のときには、角度差を10°程度とする。
また、トレッドに応じて角度比を単調増加関数的に変化させる。例えば、トレッドが650mm程度のときには、角度比を1.15程度とし、トレッドが1300mm程度のときには、角度比を1.7程度とする。
【0018】
次に、仮想リンク長さについて説明する。
車両静止状態で、アッパリンク4における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、ロアリンク5における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとする。そして、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも短くする。
なお、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々の車輪側(アップライト側)の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
【0019】
次に、後輪のサスペンション構造について説明する。
図5は、車両を後方から見た後輪サスペンションを示す図である。
左右輪のサスペンション構造は、左右対称の同一構造なので、右輪を基準として説明する。なお、左右輪を区別する際には、右輪に関わる符号に“R”を付し、左輪に関わる符号に“L”を付して説明する。さらに、前後輪・左右輪を区別する際には、前左輪に関わる符号に“FL”を付し、前右輪に関わる符号に“FR”を付し、後左輪に関わる符号に“RL”を付し、後右輪に関わる符号に“RR”を付して説明する。
【0020】
後輪サスペンションの基本構造は、前述した前輪サスペンションの構造と同一であるため、同一の構成要素については、同一番号の符号を付し、詳細な説明は省略する。但し、前述したように、一部の構成要素については、左右輪を区別したり、各輪の区別をしている。
後輪サスペンションにおいて、前輪サスペンションと異なるのは、ロールセンタ7Rの高さが、地面よりも高くなるようにサスペンションジオメトリを設定してあることである。
【0021】
次に、後輪サスペンションにおけるアッパリンク4とロアリンク5のレイアウトについて説明する。
アッパリンク4とロアリンク5とは、旋回走行時にロールセンタ7が旋回内側へ移動するようにレイアウトしてある。
先ずは、長さについて説明する。
ここでは、アッパリンク4の長さをロアリンク5よりも長くする。具体的には、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の最大許容長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の最小許容長さを決定する。
【0022】
図6は、トレッド(□内の数字)に応じたアッパリンク長さとロアリンク長さの対応表である。
先ず、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の最大許容長さを決定する場合、アッパリンク4が長いほど、且つトレッドが広いほど、ロアリンク5の最大許容長さを大きくする。例えば、アッパリンク4の長さが100mm程度で、トレッドが650mm程度のときには、ロアリンク5の最大許容長さを50mm程度とし、アッパリンク4の長さが200mm程度で、トレッドが1000mm程度のときには、ロアリンク5の最大許容長さを150mm程度とする。
【0023】
なお、図中のハッチング部は、トレッドが650mmのときに、アッパリンク4の長さに応じて許容できるロアリンク長さの範囲である。
逆に、ロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の最小許容長さを決定する場合、ロアリンク5が長いほど、且つトレッドが広いほど、アッパリンク4の最小許容長さを大きくする。例えば、ロアリンク5の長さが50mm程度で、トレッドが650mm程度のときには、アッパリンク4の最小許容長さを100mm程度とし、ロアリンク5の長さが150mm程度で、トレッドが1000mm程度のときには、アッパリンク4の最小許容長さを200mm程度とする。
【0024】
次に、角度について説明する。
ここでは、車両静止状態で、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度(上反角)が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度(下反角)よりも小さくなり、且つアッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも小さくなるように(0〜1の範囲内)、アッパリンク4及びロアリンク5を配置している。具体的には、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差(=アッパリンク取付け角度+ロアリンク取付け角度)、及び角度比(=アッパリンク取付け角度/ロアリンク取付け角度)を決定する。
【0025】
図7は、トレッドに応じた角度差と角度比の対応表である。
先ず、トレッドが広いほど単調減少関数的に角度差を小さくする。例えば、トレッドが650mm程度のときには、角度差を10°程度とし、トレッドが1300mm程度のときには、角度差を4.8°程度とする。
また、トレッドに応じて角度比を二次関数的に変化させる。例えば、トレッドが800mm程度のときに、角度比を最小値の0.30程度にし、トレッドが800mmよりも小さいとき、及び大きいときに、角度比を最小値よりも大きくする。例えば、トレッドが650mm程度のときには、角度比を0.35程度にし、トレッドが1300mm程度のときには、角度比を0.5程度にする。
【0026】
次に、仮想リンク長さについて説明する。
車両静止状態で、アッパリンク4における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、ロアリンク5における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとする。そして、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも長くする。
なお、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々の車輪側(アップライト側)の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
【0027】
次に、昇降アクチュエータ8の駆動制御について説明する。
図8は、昇降アクチュエータ8を駆動制御するシステム構成図である。
横加速度センサ11は、車両の横加速度を検出する。この横加速度センサ11は、例えば固定電極に対する可動電極の位置変位を静電容量の変化として検出しており、横加速度と方向に比例した電圧信号に変換してコントローラ12へ入力する。コントローラ12は、入力した電圧信号から加減速度を判断する。
コントローラ12は、横加速度センサ11で検出した横加速度に応じて、各昇降アクチュエータ8FL〜8RRを駆動制御する。
【0028】
次に、コントローラ12で所定時間(例えば10msec)毎に実行するサスペンション制御処理について説明する。
図9は、サスペンション制御処理を示すフローチャートである。
ステップS101では、横加速度を検出する。
ステップS102では、横加速度に応じて各昇降アクチュエータ8FL〜8RRを駆動制御してから所定のメインプログラムに復帰する。
具体的には、前輪の旋回内輪でロアリンク5の車体側取付け点51を上昇させ、前輪の旋回外輪でロアリンク5の車体側取付け点51を下降させる。また、後輪の旋回内輪でロアリンク5の車体側取付け点51を下降させ、後輪の旋回外輪でロアリンク5の車体側取付け点51を上昇させる。
なお、横加速度が0のとき、つまりロール方向に静止している状態のときには、各車体側取付け点51を、上昇終端位置と下降終端位置の略中間位置で待機させる。
【0029】
《作用》
先ず、ロールセンタとジャッキダウン特性の関係について説明する。
図10は、ロールセンタとジャッキダウン特性の関係を示す図である。
車両が旋回走行している際にはタイヤでは横力Fyin及びFyoutが発生している。ここで、添え字の“in”は旋回内輪側の値であることを意味し、添え字の“out”は旋回外輪の値であることを意味する。この横力Fyin及びFyoutは、車体1に作用する横加速度(遠心力)によって生じる慣性力と釣り合うように前後の左右輪で発生する力である。
【0030】
先ず本実施形態の前輪サスペンションのように、ロールセンタ7Fが地面より下にある車両では、ロールセンタ7Fから左右輪の接地点までを結んだ仮想リンクが地面となす角度をθ1in及びθ1outとすると、ロールセンタ7Fに対して、(Fyin×tanθ1in)が上方向に作用すると共に、(Fyout×tanθ1out)が下方向に作用する。この上下方向の力が釣り合っているときには、ジャッキ力は発生しない。一方、均衡が崩れ、(Fyin×tanθ1in)<(Fyout×tanθ1out)となるときに、ジャッキダウン力が発生する。
【0031】
一般的には、旋回時に横力が旋回内側よりも旋回外側に作用する力が増すため、この仮想リンクの角度の大きさによって、ロールセンタ7Fに働くジャッキ力が変化することになる。すなわち、旋回外輪側の角度を増やし、旋回内輪側の角度を減らすことで、よりジャッキダウン力を働かせる方向とすることができる。これは、ロールセンタ7Fを旋回外側に変位させることで実現できる。
【0032】
次に本実施形態の後輪サスペンションのように、ロールセンタ7Rが地面より上にある車両では、ロールセンタ7Rから左右輪の接地点までを結んだ仮想リンクが地面となす角度をθ2in及びθ2outとすると、ロールセンタ7Rに対して、(Fyin×tanθ2in)が下方向に作用すると共に、(Fyout×tanθ2out)が上方向に作用する。この上下方向の力が釣り合っているときには、ジャッキ力は発生しない。一方、均衡が崩れ、(Fyin×tanθ2in)>(Fyout×tanθ2out)となるときに、ジャッキダウン力が発生する。
【0033】
一般的には、旋回時に横力が旋回内側よりも旋回外側に作用する力が増すため、この仮想リンクの角度の大きさによって、ロールセンタ7Rに働くジャッキ力が変化することになる。すなわち、旋回内輪側の角度を増やし、旋回外輪側の角度を減らすことで、よりジャッキダウン力を働かせる方向とすることができる。これは、ロールセンタ7Rを旋回内側に変位させることで実現できる。
【0034】
次に、本実施形態の動作について説明する。
先ず、車両が直進走行している場合は、車幅方向中心に対して左右対称となる位置に、左右輪の瞬間回転中心6R及び6Lが存在し、ロールセンタ7は車両中心に位置する。
この状態から、車両が例えば左旋回を行うと、横加速度に応じて左右輪にサスペンションストロークが生じ、旋回内輪である左輪はリバウンドストロークし、旋回外輪である右輪はバウンドストロークとする。
【0035】
このとき、車両が左方向に旋回している場合、各輪の昇降アクチュエータ8FL〜8RRを駆動制御する(S102)。先ず、前輪サスペンションでは、左輪におけるロアリンク5の車体側取付け点51FLを上昇させ、右輪におけるロアリンク5の車体側取付け点51FRを下降させる。一方、後輪サスペンションでは、左輪におけるロアリンク5の車体側取付け点51RLを下降させ、右輪におけるロアリンク5の車体側取付け点51RRを上昇させる。
各車体側取付け点51FL〜51RRの変位量は、前述した角度差、及び角度比の関係を維持する範囲内で行う。
【0036】
図11は、左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
先ず、前輪サスペンションでは、アッパリンク4及びロアリンク5の夫々の揺動(変位)によって、ロールセンタ7Fは、旋回外側(右輪側)へ移動する。
バウンドストロークする旋回外輪(右輪)では、車体1の旋回外側が下方に下がることで、アッパリンク4の車体側取付け点41、及びロアリンク5の車体側取付け点51FRが下方に下がり、仮想リンクの旋回内側が下方に下がってゆく。さらに、昇降アクチュエータ8FRによって、ロアリンク5の車体側取付け点51FRが下方に下がる。これにより、旋回外輪の瞬間回転中心6FRが下方に変位してゆく。
【0037】
一方、リバウンドストロークする旋回内輪(左輪)では、車体1の旋回内側が上方に上がることで、アッパリンク4の車体側取付け点41、及びロアリンク5の車体側取付け点51FLが上方に上がり、仮想リンクの旋回外側が上方に上がってゆく。さらに、昇降アクチュエータ8FLによって、ロアリンク5の車体側取付け点51FLが上方に上がる。これにより、旋回内輪の瞬間回転中心6FLが上方に変位してゆく。
そして、左右輪で、瞬間回転中心と接地点を結んだ直線の交点を求めると、ある旋回における瞬間のロールセンタ7が求まり、結果として、ロールセンタ7Fは旋回外側へと移動する。
【0038】
図12は、ロール角に対するジャッキ力を表す図である。
ここで、ジャッキ力の負値がジャッキダウン力を表す。このように、ロール角が予め定められた範囲内(例えば0〜4.5程度の範囲)で大きくなるほど、ジャッキダウン特性を得ることができる。
上記のように、前輪サスペンションでは、横加速度に応じて、昇降アクチュエータ8FL及びFRを駆動制御し、地面よりも下側にあるロールセンタ7Fを旋回外側へと変位させることで、ジャッキダウン特性を得ることができる。これにより、特に車高に比べてトレッドが小さい車両であっても、旋回性能を改善することができる。
【0039】
図13は、左旋回時の後輪サスペンションを示す図である。
次に、後輪サスペンションでは、アッパリンク4及びロアリンク5の夫々の揺動(変位)によって、ロールセンタ7は、旋回内側(左輪側)へ移動する。
バウンドストロークする旋回外輪(右輪)では、車体1の旋回外側が下方に下がることで、アッパリンク4の車体側取付け点41、及びロアリンク5の車体側取付け点51RRが下方に下がり、仮想リンクの旋回内側が下方に下がってゆく。さらに、昇降アクチュエータ8RRによって、ロアリンク5の車体側取付け点51RRが下方に下がる。これにより、旋回外輪の瞬間回転中心6RRが下方に変位してゆく。
【0040】
一方、リバウンドストロークする旋回内輪(左輪)では、車体1の旋回内側が上方に上がることで、アッパリンク4の車体側取付け点41、及びロアリンク5の車体側取付け点51RLが上方に上がり、仮想リンクの旋回外側が上方に上がってゆく。さらに、昇降アクチュエータ8RLによって、ロアリンク5の車体側取付け点51RLが上方に上がる。これにより、旋回内輪の瞬間回転中心6RLが上方に変位してゆく。
そして、左右輪で、瞬間回転中心と接地点を結んだ直線の交点を求めると、ある旋回における瞬間のロールセンタ7Rが求まり、結果として、ロールセンタ7Rは旋回内側へと移動する。
【0041】
図14は、ロール角に対するジャッキ力を表す図である。
ここで、ジャッキ力の負値がジャッキダウン力を表す。このように、ロール角が予め定められた範囲内(例えば0〜4.5程度の範囲)で大きくなるほど、ジャッキダウン特性を得ることができる。
上記のように、後輪サスペンションでは、横加速度に応じて、昇降アクチュエータ8RL及びRRを駆動制御し、地面よりも上側にあるロールセンタ7Rを旋回内側へと変位させることで、ジャッキダウン特性を得ることができる。これにより、特に車高に比べてトレッドが小さい車両であっても、旋回性能を改善することができる。
【0042】
次に、車両全体としての挙動について説明する。
前述したように、ジャッキ力は、横力と仮想リンクの角度とによって決まるが、旋回走行時には、旋回内輪の横力よりも旋回外輪の横力の方が大きくなるため、旋回外輪の横力が大きいほど、ジャッキダウン力が大きくなる前輪サスペンションの方がジャッキダウン力が大きくなりやすい。
すなわち、前輪サスペンションでは、旋回外輪における仮想リンクの角度が旋回内輪における仮想リンクの角度と同じであるか、それ以上であれば、横力の差によってジャッキダウン力が発生し、比較的大きな力を得やすい。一方、後輪サスペンションでは、旋回内輪における仮想リンクの角度を旋回外輪における仮想リンクの角度よりもある程度大きくしないと、ジャッキダウン力が得られない。
この前後輪のジャッキダウン力の差は、ピッチングモーメントとなる。
【0043】
図15は、横加速度に応じたピッチングモーメントを示す図である。
このように、前輪サスペンションが後輪サスペンションよりも大きなジャッキダウン力を発生させることで、車体を前傾姿勢へと変位させることができる。したがって、旋回走行時にジャッキダウン力に加えて、前下がりのノーズダイブ姿勢とすることができ、官能評価上、好ましい特性となる。また、前傾姿勢が強まれば、後輪側から前輪側への荷重移動も生じるため、よりアンダーステア傾向を強めることができる。したがって、横転限界が向上するだけでなく、走行安定性を向上させることができる。
以上より、アップライト3が「支持部材」に対応し、昇降アクチュエータ8FL〜8FRが「昇降機構」に対応し、ステップS101及び102の処理が「制御手段」に対応する。
【0044】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、制御型サスペンション構造を前輪に採用する場合、トレッドを車高よりも小さくした状態でアップライト3と車体1とをアッパリンク4及びロアリンク5によって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定する。そして、車両の旋回方向に応じて左右の昇降アクチュエータ8FL及びFRを駆動制御することにより、旋回走行時にロールセンタを旋回外側へ移動させる。一方、制御型サスペンション構造を後輪に採用する場合、トレッドを車高よりも小さくした状態でアップライト3と車体1とをアッパリンク4及びロアリンク5によって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定する。そして、車両の旋回方向に応じて左右の昇降アクチュエータ8FL及び8FRを駆動制御することにより、旋回走行時にロールセンタを旋回内側へ移動させる。
【0045】
このように、ロールセンタ7Fが地面よりも低い前輪では、旋回走行時にロールセンタ7Fを旋回外側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。また、ロールセンタ7Rが地面よりも高い後輪では、旋回走行時にロールセンタ7Rを旋回内側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。
【0046】
(2)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、制御型サスペンション構造を前輪に採用する場合、旋回内輪におけるロアリンク5の取付け点51を昇降アクチュエータ8を介して上昇させる。また、旋回外輪におけるロアリンク5の取付け点51を昇降アクチュエータ8を介して下降させる。
このように、前輪では、旋回内輪の取付け点51を上昇させ、旋回外輪の取付け点51を下降させることで、旋回走行時にロールセンタ7Fを旋回外側へ移動させ、ジャッキダウン特性を得ることができる。
【0047】
(3)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、制御型サスペンション構造を後輪に採用する場合、旋回内輪におけるロアリンク5の取付け点51を昇降アクチュエータ8を介して下降させる。また、旋回外輪におけるロアリンク5の取付け点を昇降アクチュエータ8を介して上昇させる。
このように、後輪では、旋回内輪の取付け点51を下降させ、旋回外輪の取付け点51を上昇させることで、旋回走行時にロールセンタ7Rを旋回内側へ移動させ、ジャッキダウン特性を得ることができる。
【0048】
(4)本実施形態のサスペンション制御方法によれば、制御型サスペンション構造を前輪に採用する場合、トレッドを車高よりも小さくした状態でアップライト3と車体1とをアッパリンク4及びロアリンク5によって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定する。そして、車両の旋回方向に応じて左右の昇降アクチュエータ8FL及びFRを駆動制御することにより、旋回走行時にロールセンタを旋回外側へ移動させる。一方、制御型サスペンション構造を後輪に採用する場合、トレッドを車高よりも小さくした状態でアップライト3と車体1とをアッパリンク4及びロアリンク5によって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定する。そして、車両の旋回方向に応じて左右の昇降アクチュエータ8FL及び8FRを駆動制御することにより、旋回走行時にロールセンタを旋回内側へ移動させる。
【0049】
このように、ロールセンタ7Fが地面よりも低い前輪では、旋回走行時にロールセンタ7Fを旋回外側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。また、ロールセンタ7Rが地面よりも高い後輪では、旋回走行時にロールセンタ7Rを旋回内側へ移動させることで、車高に比べてトレッドが小さい車両においても、ジャッキダウン特性を得て、旋回性能を改善することができる。
【0050】
《第2実施形態》
《構成》
本実施形態は、後輪側は前述した制御型サスペンション構造とし、前輪側を受動型サスペンション構造としたものである。具体的には、前輪側サスペンションにおいて、前述した昇降アクチュエータ8FL及び8FRを省略したものである。
後輪側については、構成、作用、効果が、前述した第1実施形態と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
図16は、第2実施形態の前輪サスペンションを示す図である。
本実施形態では、車輪2、アップライト3、アッパリンク4、及びロアリンク5を、一組とする受動型サスペンション構造とする。そして、旋回走行時にロールセンタ7Fが旋回外側へ変位するように、前輪サスペンションにおけるアッパリンク4とロアリンク5のレイアウトを設定する。
【0051】
先ずは、長さについて説明する。
ここでは、アッパリンク4の長さをロアリンク5以下とする。具体的には、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の長さを決定する。
すなわち、図3に示すように、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の長さを決定する場合、アッパリンク4が長いほど、且つトレッドが広いほど、ロアリンク5の長さを大きくする。
【0052】
次に、角度について説明する。
ここでは、車両静止状態で、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度(下反角)が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度(下反角)よりも大きくなり、且つアッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも大きくなるように、アッパリンク4及びロアリンク5を配置している。具体的には、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差(=アッパリンク取付け角度−ロアリンク取付け角度)、及び角度比(=アッパリンク取付け角度/ロアリンク取付け角度)を決定する。
すなわち、図4に示すように、トレッドが広いほど単調増加関数的に角度差を大きくする。
また、トレッドに応じて角度比を単調増加関数的に変化させる。
【0053】
次に、仮想リンク長さについて説明する。
車両静止状態で、アッパリンク4における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、ロアリンク5における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとする。そして、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも短くする。
なお、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々の車輪側(アップライト側)の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
【0054】
《作用》
図17は、第2実施形態における左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
本実施形態の前輪サスペンション構造は、車体1とアップライト3とを連結するアッパリンク4及びロアリンク5の長さと角度が、サスペンションストロークに伴う揺動変化によってサスペンションの瞬間回転中心の移動を改善するよう設定してある。すなわち、左右輪での瞬間回転中心の移動を、横加速度変化に対応して旋回外側へと移動させることでロールセンタ位置を旋回外側に移動ができる。
【0055】
車両旋回(背面視)に伴って、左右輪のサスペンションが旋回外輪でバウンド、旋回内輪でリバウンドストロークする時、左右輪夫々の上下サスペンションリンクの延長線の交点である瞬間回転中心と、タイヤの接地点を結んだ仮想リンクの、夫々の交点であるロールセンタ7Fを、旋回外側に移動させて、ジャッキダウン力を発生させることで重心点を鉛直下向きに引き下げる効果が生じるので、重心点を引き下げることで、幅が車高に比べて小さく横転限界が低い車両の旋回時の安定性を高めることができる。
【0056】
また、アッパリンク4がロアリンク5以下で、且つロアリンク5の長さがトレッド幅の大きさに応じて決められているため、サスペンョンストロークにおける、リンク揺動角の大きさがロアリンク5側で大きくなる。そのため、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心が、下方且つ旋回外側に移動し、旋回内輪側(リバウンド側)の瞬間回転中心が、上方且つ旋回外側に移動するため、ロールセンタ7Fがジャッキダウン力を生じるように旋回外側へ移動することができる。
【0057】
また、アッパリンク4の取付け角度が、ロアリンク5の取付け角度よりも大きくなるように配置し、且つアッパリンク4とロアリンク5との角度差が、トレッドが小さくなるほど、角度差を大きくするようにしている。これにより、車輪側から見て車体側に位置するよう配置した瞬間回転中心が、旋回外輪側(バウンド側)では旋回外側且つ下方へ移動し、旋回内輪側(リバウンド側)では旋回外側且つ上方へ移動するようになる。したがって、ロールセンタ7を旋回外側に移動させることができる。
さらに、アッパリンク4及びロアリンク5の角度比を1よりも大きく、且つトレッド幅に応じて変えることとしたことで、幅方向の大きさに合わせて角度を設定することができるため、ジャッキダウン力を得られる。
【0058】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、前輪サスペンションにおいて、車両静止状態でロールセンタ7Fが地面よりも低くなるように設定してあり、旋回走行時にロールセンタ7Fが旋回外側へ移動するように、アッパリンク4及びロアリンク5を配置する。
このように、車両静止状態でロールセンタ7Fが地面よりも低くなるように設定してある場合に、旋回走行時にロールセンタ7Fが旋回外側へ移動するようにアッパリンク及びロアリンクを配置することで、車高に比べてトレッドが小さい車両において、ジャッキダウン特性を得ることができる。したがって、前述した第1実施形態の昇降アクチュエータ8FL及びFRを省略しても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
(2)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、アッパリンク4の長さをロアリンク5以下とする。そして、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の長さを決定する。
このように、アッパリンク4の長さをロアリンク5以下としたことで、ロアリンク5の揺動角の方が大きくなり、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回外側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【0060】
(3)このサスペンション構造では、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度よりも大きくなるように設定する。さらに、アッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも大きくなるように設定する。そして、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差、及び角度比を決定する。
このように、アッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度よりも大きくすることで、旋回外輪(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回外側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【0061】
(4)このサスペンション構造では、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも短くする。そして、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々のアップライト3側の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
このように、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも短くしたことで、仮想ロアリンクの揺動角の方が大きくなり、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回外側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【0062】
《第3実施形態》
《構成》
本実施形態は、前輪側は前述した制御型サスペンション構造とし、後輪側を受動型サスペンション構造としたものである。具体的には、後輪側サスペンションにおいて、前述した昇降アクチュエータ8RL及び8RRを省略したものである。
前輪側については、構成、作用、効果が、前述した第1実施形態と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
図18は、第3実施形態の前輪サスペンションを示す図である。
本実施形態では、車輪2、アップライト3、アッパリンク4、及びロアリンク5を、一組とする受動型サスペンション構造とする。そして、旋回走行時にロールセンタ7Rが旋回内側へ変位するように、後輪サスペンションにおけるアッパリンク4とロアリンク5のレイアウトを設定する。
【0063】
先ずは、長さについて説明する。
ここでは、アッパリンク4の長さをロアリンク5よりも長くする。具体的には、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の最大許容長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の最小許容長さを決定する。
すなわち、図6に示すように、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の最大許容長さを決定する場合、アッパリンク4が長いほど、且つトレッドが広いほど、ロアリンク5の最大許容長さを大きくする。
逆に、ロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の最小許容長さを決定する場合、ロアリンク5が長いほど、且つトレッドが広いほど、アッパリンク4の最小許容長さを大きくする。
【0064】
次に、角度について説明する。
ここでは、車両静止状態で、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度(上反角)が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度(下反角)よりも小さくなり、且つアッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも小さくなるように(0〜1の範囲内)、アッパリンク4及びロアリンク5を配置している。具体的には、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差(=アッパリンク取付け角度+ロアリンク取付け角度)、及び角度比(=アッパリンク取付け角度/ロアリンク取付け角度)を決定する。
すなわち、図7に示すように、トレッドが広いほど単調減少関数的に角度差を小さくする。
また、トレッドに応じて角度比を二次関数的に変化させる。
【0065】
次に、仮想リンク長さについて説明する。
車両静止状態で、アッパリンク4における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、ロアリンク5における車輪側(アップライト側)の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとする。そして、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも長くする。
なお、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々の車輪側(アップライト側)の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
【0066】
《作用》
図19は、第3実施形態における左旋回時の前輪サスペンションを示す図である。
本実施形態の後輪サスペンション構造は、車体1とアップライト3とを連結するアッパリンク4及びロアリンク5の長さと角度が、サスペンションストロークに伴う揺動変化によってサスペンションの瞬間回転中心の移動を改善するよう設定してある。すなわち、左右輪での瞬間回転中心の移動を、横加速度変化に対応して旋回内側へと移動させることでロールセンタ位置を旋回内側に移動ができる。
【0067】
車両旋回(背面視)に伴って、左右輪のサスペンションが旋回外輪でバウンド、旋回内輪でリバウンドストロークする時、左右輪夫々の上下サスペンションリンクの延長線の交点である瞬間回転中心と、タイヤの接地点を結んだ仮想リンクの、夫々の交点であるロールセンタ7Rを、旋回内側に移動させて、ジャッキダウン力を発生させることで重心点を鉛直下向きに引き下げる効果が生じるので、重心点を引き下げることで、幅が車高に比べて小さく横転限界が低い車両の旋回時の安定性を高めることができる。
【0068】
また、アッパリンク4がロアリンク5よりも長く、且つロアリンク5の長さがトレッド幅の大きさに応じて決められているため、サスペンョンストロークにおける、リンク揺動角の大きさがロアリンク5側で大きくなる。そのため、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心が、下方且つ旋回内側に移動し、旋回内輪側(リバウンド側)の瞬間回転中心が、上方且つ旋回内側に移動するため、ロールセンタ7Rがジャッキダウン力を生じるように旋回内側へ移動することができる。
【0069】
また、アッパリンク4の取付け角度が、ロアリンク5の取付け角度よりも小さくなるように配置しており、且つアッパリンク4とロアリンク5との角度差が、トレッドが小さくなるほど、角度差を大きくするようにしている。これにより、車輪側から見て車体側に位置するよう配置した瞬間回転中心が、旋回外輪側(バウンド側)では旋回内側且つ下方へ移動し、旋回内輪側(リバウンド側)では旋回内側且つ上方へ移動するようになる。したがって、ロールセンタ7Rを旋回内側に移動させることができる。
さらに、アッパリンク4及びロアリンク5の角度比を1よりも小さく、且つトレッド幅に応じて変えることとしたことで、幅方向の大きさに合わせて角度を設定することができるため、ジャッキダウン力を得られる。
【0070】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、後輪サスペンションにおいて、車両静止状態でロールセンタ7Rが地面よりも高くなるように設定してあり、旋回走行時に前記ロールセンタ7Rが旋回内側へ移動するように、アッパリンク4及びロアリンク5を配置する。
このように、車両静止状態でロールセンタ7Rが地面よりも高くなるように設定してある場合に、旋回走行時にロールセンタ7Rが旋回内側へ移動するようにアッパリンク及びロアリンクを配置することで、車高に比べてトレッドが小さい車両において、ジャッキダウン特性が向上し、旋回性能を改善することができる。したがって、前述した第1実施形態の昇降アクチュエータ8RL及びRRを省略しても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
(2)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、アッパリンク4の長さをロアリンク5よりも長くする。そして、アッパリンク4の長さ及びトレッドに応じて、ロアリンク5の最大許容長さを決定するか、又はロアリンク5の長さ及びトレッドに応じて、アッパリンク4の最小許容長さを決定する。
このように、アッパリンク4の長さをロアリンク5よりも長くしたことで、ロアリンク5の揺動角の方が大きくなり、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回内側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【0072】
(3)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、水平面に対するアッパリンク4の取付け角度が、水平面に対するロアリンク5の取付け角度よりも小さくなるように設定する。さらに、アッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度で割った角度比が1よりも小さくなるように設定する。そして、トレッドに応じて、アッパリンク4の取付け角度とロアリンク5の取付け角度との角度差、及び角度比を決定する。
このように、アッパリンク4の取付け角度をロアリンク5の取付け角度よりも小さくすることで、旋回外輪(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回内側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【0073】
(4)本実施形態のサスペンション制御装置によれば、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも長くする。そして、サスペンションストロークに伴うアッパリンク4の揺動角を、仮想アッパリンクの長さと、アッパリンク4及びロアリンク5における夫々のアップライト3側の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴うロアリンク5の揺動角に応じて決定する。
このように、仮想アッパリンクの長さを仮想ロアリンクよりも長くしたことで、仮想ロアリンクの揺動角の方が大きくなり、旋回外輪側(バウンド側)の瞬間回転中心を下方に、且つ旋回内側へと移動させやすくなり、上記の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 車体
2 車輪
3 アップライト
4 アッパリンク
5 ロアリンク
6 瞬間回転中心
7 ロールセンタ
41 車体側取付け点
42 アップライト側取付け点
43 延長線
51 車体側取付け点
52 アップライト側取付け点
53 延長線
61 タイヤ接地中心
62 スイングリンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転可能に支持する支持部材と、
前記支持部材と車体とを揺動可能に連結する上側のアッパリンク及び下側のロアリンクと、
前記車体に前記ロアリンクを取付ける取付け点を昇降させる昇降機構と、
前記昇降機構を駆動制御する制御手段と、を備え、
前記車輪、前記支持部材、前記アッパリンク、前記ロアリンク、及び前記昇降機構を、一組とする制御型サスペンション構造を、前輪及び後輪の少なくとも一方に設定し、
前輪の前記制御型サスペンション構造を、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定し、前記制御手段は、車両の旋回方向に応じて左右の前記昇降機構を駆動制御することにより、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回外側へ移動させ、
後輪の前記制御型サスペンション構造を、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定し、前記制御手段は、車両の旋回方向に応じて左右の前記昇降機構を駆動制御することにより、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回内側へ移動させることを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前輪の、
前記制御手段は、旋回内輪における前記取付け点を前記昇降機構を介して上昇させると共に、旋回外輪における前記取付け点を前記昇降機構を介して下降させることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
後輪の、
前記制御手段は、旋回内輪における前記取付け点を前記昇降機構を介して下降させると共に、旋回外輪における前記取付け点を前記昇降機構を介して上昇させることを特徴とする請求項1又は2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記制御型サスペンション構造を、前輪及び後輪の一方に設定し、
前記車輪、前記支持部材、前記アッパリンク、及び前記ロアリンクを、一組とする受動型サスペンション構造を、前輪及び後輪の他方に設定し、
前輪の前記受動型サスペンション構造を、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定し、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回外側へ移動させる前記アッパリンク及び前記ロアリンクの配置に設定することを特徴とする請求項1又は3に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記アッパリンクの長さを前記ロアリンク以下とし、
前記アッパリンクの長さ及びトレッドに応じて、前記ロアリンクの長さを決定するか、又は前記ロアリンクの長さ及びトレッドに応じて、前記アッパリンクの長さを決定することを特徴とする請求項4に記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
車両静止状態で、水平面に対する前記アッパリンクの取付け角度を、水平面に対する前記ロアリンクの取付け角度よりも大きくし、且つ前記アッパリンクの取付け角度を前記ロアリンクの取付け角度で割った角度比を1よりも大きくする前記アッパリンク及び前記ロアリンクを配置し、
トレッドに応じて、前記アッパリンクの取付け角度と前記ロアリンクの取付け角度との角度差、及び前記角度比を決定することを特徴とする請求項4又は5に記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
車両静止状態で、前記アッパリンクにおける前記支持部材側の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、前記ロアリンクにおける前記支持部材側の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとし、前記仮想アッパリンクの長さを前記仮想ロアリンクよりも短くし、
サスペンションストロークに伴う前記アッパリンクの揺動角を、前記仮想アッパリンクの長さと、前記アッパリンク及び前記ロアリンクにおける夫々の前記支持部材側の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴う前記ロアリンクの揺動角に応じて決定することを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項8】
前記制御型サスペンション構造を、前輪及び後輪の一方に設定し、
前記車輪、前記支持部材、前記アッパリンク、及び前記ロアリンクを、一組とする受動型サスペンション構造を、前輪及び後輪の他方に設定し、
後輪の前記受動型サスペンション構造を、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定し、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回内側へ移動させる前記アッパリンク及び前記ロアリンクの配置に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項9】
前記アッパリンクの長さを前記ロアリンクよりも長くし、
前記アッパリンクの長さ及びトレッドに応じて、前記ロアリンクの最大許容長さを決定するか、又は前記ロアリンクの長さ及びトレッドに応じて、前記アッパリンクの最小許容長さを決定することを特徴とする請求項8に記載のサスペンション制御装置。
【請求項10】
車両静止状態で、水平面に対する前記アッパリンクの取付け角度を、水平面に対する前記ロアリンクの取付け角度よりも小さくし、且つ前記アッパリンクの取付け角度を前記ロアリンクの取付け角度で割った角度比を1よりも小さくする前記アッパリンク及び前記ロアリンクの配置に設定し、
トレッドに応じて、前記アッパリンクの取付け角度と前記ロアリンクの取付け角度との角度差、及び前記角度比を決定することを特徴とする請求項8又は9に記載のサスペンション制御装置。
【請求項11】
車両静止状態で、前記アッパリンクにおける前記支持部材側の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想アッパリンクとし、前記ロアリンクにおける前記支持部材側の取付け点から瞬間回転中心までの距離を仮想ロアリンクとし、前記仮想アッパリンクの長さを前記仮想ロアリンクよりも長くし、
サスペンションストロークに伴う前記アッパリンクの揺動角を、前記仮想アッパリンクの長さと、前記アッパリンク及び前記ロアリンクにおける夫々の前記支持部材側の取付け点間距離と、サスペンションストロークに伴う前記ロアリンクの揺動角に応じて決定することを特徴とする請求項8〜10の何れか一項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項12】
車輪を支持部材で回転可能に支持し、前記支持部材と車体とを上側のアッパリンク及び下側のロアリンクによって揺動可能に連結し、前記車体に前記ロアリンクを取付ける取付け点を昇降機構によって昇降可能にし、
前記車輪、前記支持部材、前記アッパリンク、前記ロアリンク、及び前記昇降機構を、一組とする制御型サスペンション構造を、前輪及び後輪の少なくとも一方に設定し、
前記制御型サスペンション構造を前輪に設定する場合、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも低く設定し、前記制御手段は、車両の旋回方向に応じて左右の前記昇降機構を駆動制御することにより、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回外側へ移動させ、
前記制御型サスペンション構造を後輪に設定する場合、
トレッドを車高よりも小さくした状態で前記支持部材と前記車体とを前記アッパリンク及び前記ロアリンクによって連結すると共に、車両静止状態でロールセンタを地面よりも高く設定し、前記制御手段は、車両の旋回方向に応じて左右の前記昇降機構を駆動制御することにより、旋回走行時に前記ロールセンタを旋回内側へ移動させることを特徴とするサスペンション制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−1267(P2013−1267A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135043(P2011−135043)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】