説明

サスペンション装置

【課題】操縦安定性と乗心地を向上させること。
【解決手段】車輪W毎に配設され、発生した振動を減衰係数に応じて減衰させるショックアブソーバ11及び当該減衰係数の調整が可能なアクチュエータ12を備えた減衰力可変装置と、車軸毎に配設され、ロールモーメントに抗するアンチロールモーメントを発生させることでロール剛性の調整が可能なアクティブスタビライザ20と、を備え、アクティブスタビライザ20には、車体がロール状態から水平状態に向けて戻るときに、そのロール状態でのロールモーメントによって車体が沈み込んでいた側の車輪Wに対して、この車輪Wを路面に押し付ける力を発生させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のロール運動の抑制が可能なアクティブスタビライザを備えたサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンション装置には、アクチュエータによって左右のスタビライザバーの捻れ剛性の調整が可能なアクティブスタビライザを備えたものが知られている。このサスペンション装置は、そのアクティブスタビライザでスタビライザバーの捻れ剛性を調整することで車体のロール剛性を制御し、そのロール運動(以下、「ロール振動」又は「ロール」とも云う。)を抑えることによって、車両の操縦安定性と乗心地を向上させる。例えば、下記の特許文献1には、ショックアブソーバを減衰係数の調整制御が可能なものとし、アクティブスタビライザとショックアブソーバとを協調制御するサスペンション装置が開示されている。この特許文献1のサスペンション装置においては、アクティブスタビライザのアクチュエータへの電力供給源たるバッテリの充電量が十分残っている場合、アクティブスタビライザでロール減衰力を発生させる一方、バッテリの充電量が少ない場合に、それが多い場合と比較して、アクティブスタビライザで発生させるロール減衰力を減らし、その減少分のロール減衰力をショックアブソーバの減衰係数の制御によって補っている。また、このサスペンション装置においては、ロール方向以外の振動(ヒーブ振動及びピッチ振動)の減衰力をショックアブソーバで発生させている。但し、このサスペンション装置においては、バネ上とバネ下との相対速度の正負の向き(重力方向の向き)と、ショックアブソーバの目標減衰力の正負の向きと、が異なる場合に、そのショックアブソーバの目標減衰係数を最小減衰係数に調整して、その減衰力を最小にしている。ショックアブソーバは、バネ上とバネ下との接近又は離間の動作に対する抵抗力を発生させることはできるが、バネ上とバネ下とを積極的に接近又は離間させる力を発生させることができないからである。
【0003】
尚、下記の特許文献2には、スカイフック理論に基づいてショックアブソーバの減衰力制御を行うサスペンション装置が開示されている。その減衰力制御を行う場合、理論上の要求荷重は、ショックアブソーバの発生可能な速度−荷重リサージュ波形におけるII−IV象限(速度*荷重≧0)の領域だけでなく、ショックアブソーバで発生させることのできないI−III象限(速度*荷重<0)の領域でも要求される。尚、その速度とは、ショックアブソーバにおけるピストンロッドの長手方向の変位速度のことである。また、荷重とは、ショックアブソーバが発生する減衰力のことであり、ピストンロッドが伸長方向に変位しているときを正にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−179106号公報
【特許文献2】特開平11−115442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のサスペンション装置においては、減衰力を発生させるべき方向へとバネ上とバネ下とが接近又は離間の動作をするような場合に、ショックアブソーバにて所望の方向に力を発生させることができず、また、ショックアブソーバが所望の方向とは反対の方向に力を発生させることになるので、上述したようにショックアブソーバの減衰力を最小値にしている。しかしながら、このサスペンション装置は、ショックアブソーバの減衰力を最小にしても、そのような反対方向の力をショックアブソーバが発生させるので、車両の操縦安定性や乗心地を向上させる余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、車両の操縦安定性や乗心地を向上させることのできるサスペンション装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為、本発明は、車輪毎に配設され、発生した振動を減衰係数に応じて減衰させる緩衝器及び当該減衰係数の調整が可能なアクチュエータを備えた減衰力可変装置と、車軸毎に配設され、ロールモーメントに抗するアンチロールモーメントを発生させることでロール剛性の調整が可能なロール剛性可変装置と、を備え、前記ロール剛性可変装置には、車体がロール状態から水平状態に向けて戻るときに、該ロール状態でのロールモーメントによって車体が沈み込んでいた側の車輪に対して、該車輪を路面に押し付ける力を発生させることを特徴としている。
【0008】
ここで、前記ロール剛性可変装置によって前記押し付け力を発生させる場合、同一車軸上の2つの前記緩衝器は、要求減衰力を0に設定し、該押し付け力を発生させる車輪とは同一車軸上で逆側の車輪の緩衝器には、前記要求減衰力から前記押し付け力と同じ大きさの力を減算した減衰力を発生させることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
車体がロール状態から水平状態に向けて戻るときには、ロールモーメントによって車体が沈み込んでいた側の車輪の接地荷重が減少する。その際、緩衝器は、その車体の浮き上がりを抑える減衰力を発生させることはできるが、その車輪を路面側に積極的に押し付ける力を発生させることはできない。本発明に係るサスペンション装置は、その押し付け力をロール剛性可変装置によって発生させており、これにより、その車輪の接地荷重抜けを無くすことができるので、操縦安定性や乗心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明に係るサスペンション装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るサスペンション装置の演算処理動作を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、左側のショックアブソーバとアクティブスタビライザの要求減衰力の設定動作を説明するフローチャートである。
【図4】図4は、右側のショックアブソーバとアクティブスタビライザの要求減衰力の設定動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るサスペンション装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
[実施例]
本発明に係るサスペンション装置の実施例を図1から図4に基づいて説明する。
【0013】
以下に、本実施例のサスペンション装置について説明を行う。図1の符号1は、本実施例のサスペンション装置を示す。また、符号100は、この例示の車両を示す。
【0014】
このサスペンション装置1は、サスペンション本体10とアクティブスタビライザ20とを備える。サスペンション本体10は、ショックアブソーバ(緩衝器)11やスプリング15等を有しており、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに1つずつ配設される。また、アクティブスタビライザ20は、前輪Wfl,Wfr側と後輪Wrl,Wrr側とに1つずつ配設される。ここでは、そのサスペンション本体10を車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に分けて示す場合、夫々にサスペンション本体10fl,10fr,10rl,10rrとする。これと同様に、ショックアブソーバ11やスプリング15については、ショックアブソーバ11fl,11fr,11rl,11rrやスプリング15fl,15fr,15rl,15rrとする。また、アクティブスタビライザ20を前輪Wfl,Wfr側と後輪Wrl,Wrr側とで分けて示す場合には、前輪アクティブスタビライザ20f、後輪アクティブスタビライザ20rとも云う。一方、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrについては、一纏めにして車輪Wと云うこともあれば、左側の車輪Wl、右側の車輪Wrと云うこともある。
【0015】
このサスペンション装置1において、後述するように、ショックアブソーバ11は、減衰力の可変制御が可能な減衰力可変装置の構成部品であり、アクティブスタビライザ20は、車体のロール剛性の可変制御が可能なロール剛性可変装置である。従って、このサスペンション装置1には、そのショックアブソーバ11やアクティブスタビライザ20に対する制御を行う電子制御装置(ECU)30が設けられている。
【0016】
ショックアブソーバ11は、車体と夫々の車輪Wとの間の相対運動を減衰させるものであり、その相対運動に抗する減衰力を発生させる。ここで、その相対運動とは、車体と車輪Wとがサスペンション本体10のストローク方向(車両100の上下方向)において接近又は離間する運動のことである。このショックアブソーバ11は、その相対運動における車体と車輪Wとの間の夫々の相対速度及び減衰係数に応じた減衰力を発生させることによって、その間の相対運動を減衰させる。
【0017】
このショックアブソーバ11は、その減衰係数、つまり減衰力の可変制御が行えるように構成されている。このショックアブソーバ11は、車輪W側に接続されたシリンダと、車体側に接続されたピストンロッドと、を有する。そのシリンダには、作動流体が封入されている。ピストンロッドは、そのシリンダ内を往復運動するピストン部を備えている。このショックアブソーバ11においては、そのシリンダ内にピストン部を境にして上室と下室とが形成されており、その上室と下室とを連通させる作動流体の通路がピストン部に形成されている。減衰係数は、その通路の流路面積によって決まる。
【0018】
ここで、電子制御装置30は、そのピストン部の通路の流路面積を拡大又は縮小させることで、ショックアブソーバ11の減衰係数を制御する。ショックアブソーバ11は、その流路面積を変化させるアクチュエータ12を備えている。例えば、この例示のアクチュエータ12は、ピストン部に設けたロータリーバルブを有しており、このロータリーバルブを回転させることで流路面積を段階的に又は無段階に変えることができる。例えば、車輪Wに対する車体の沈み込み又は延びを抑える場合、電子制御装置30は、アクチュエータ12の制御によってピストン部の通路の流路面積を縮小させ、減衰力を増大させる。その減衰力制御は、この技術分野において周知のスカイフック理論に基づいて行われる。尚、ここでは、そのアクチュエータ12を車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に分けて示す場合、夫々にアクチュエータ12fl,12fr,12rl,12rrとする。
【0019】
スプリング15は、ショックアブソーバ11と並列又は同心上に設けられている。このスプリング15は、車両100のバネ上部材とバネ下部材とに接続され、車体と車輪Wとの間の相対変位に応じた弾性力を発生させる。バネ上部材とは、サスペンション本体10によって支持される部材であり、車体等のことである。また、バネ下部材とは、サスペンション本体10よりも車輪W側に配置された部材であり、車輪Wに連結されたナックルや、ナックルに連結されたロアアーム等のことである。また、その相対変位とは、車体と車輪Wとがサスペンション本体10のストローク方向において接近又は離間する際の変位のことである。
【0020】
アクティブスタビライザ20は、2本のスタビライザバー21,22とアクチュエータ23とを備えており、そのアクチュエータ23でスタビライザバー21,22の捻れ剛性を可変制御させるものである。このアクティブスタビライザ20は、その捻れ剛性の調整によって車体にアンチロールモーメントを発生させ、これにより車体のロール剛性の可変制御を行って、車体のロール(ロール振動)を抑制する。アンチロールモーメントとは、ロールを抑制する方向へと車体に作用させるモーメントのことである。
【0021】
スタビライザバー21は、車幅方向に延在させた部材であり、アクチュエータ23と左側の車輪Wfl(Wrl)とを連結させる。このスタビライザバー21は、車輪Wfl(Wrl)側の端部が車両前後方向に折り曲げられており、その曲折部分の先端側が車輪Wfl(Wrl)の保持部材(例えばロアアーム)に取り付けられている。一方、スタビライザバー22は、車幅方向に延在させた部材であり、アクチュエータ23と右側の車輪Wfr(Wrr)とを連結させる。このスタビライザバー22は、車輪Wfr(Wrr)側の端部が車両前後方向に折り曲げられており、その曲折部分の先端側が車輪Wfr(Wrr)の保持部材に取り付けられている。スタビライザバー21,22は、マウントを介して車体に保持される。
【0022】
アクチュエータ23は、左側のスタビライザバー21と右側のスタビライザバー22との間の相対的な捻れ量を制御するものである。このアクチュエータ23は、例えばその動力源としてのモータや当該モータの動力を伝える歯車機構を備えており、一方のスタビライザバー21におけるアクチュエータ23側取り付け部と他方のスタビライザバー22におけるアクチュエータ23側取り付け部とにおける軸線を中心とする夫々の回転方向が逆向きになるように構成されている。これにより、このアクチュエータ23は、スタビライザバー21とスタビライザバー22とを相対回転させ、その間に相対的な捻れを発生させることができる。その相対的な捻れ量は、モータの回転量で決まるものであり、電子制御装置30によるモータの駆動制御によって制御される。
【0023】
スタビライザバー21,22には、車体がロールすることでロールモーメントが発生し、各々に反対の捻れ方向の捻れ力が作用する。このアクティブスタビライザ20は、その捻れ方向とは逆方向にアクチュエータ23が夫々のスタビライザバー21,22を相対回転させることで、そのロールモーメントに抗するアンチロールモーメントを発生させることができる。このアクティブスタビライザ20においては、電子制御装置30がアクチュエータ23の制御量(モータの回転量)を調整することによって、ロール抑制力(ロール減衰力)としてのアンチロールモーメントの大きさを調整し、車体のロールを積極的に抑えることができる。尚、そのアクチュエータ23の制御量は、車両100が平坦路で制止している状態を基準とする。
【0024】
このサスペンション装置1には、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおけるサスペンション本体10のストローク量を検出するストロークセンサ41が配設されている。夫々のストロークセンサ41は、電子制御装置30に接続されている。電子制御装置30は、そのストロークセンサ41の検出信号に基づいて、車両100のバネ上部材とバネ下部材との間のストローク方向における相対変位や相対速度を演算する。
【0025】
このサスペンション装置1は、ショックアブソーバ11の減衰力やアクティブスタビライザ20のロール剛性を制御することによって、車両100の操縦安定性や乗心地を向上させる。その制御は、前輪Wf側と後輪Wr側とに分けて実行されるが、その各々で制御形態が同じである。これが為、以下においては、その前輪Wf側と後輪Wr側とで行われる制御について、前後の別なく図2−4のフローチャートに基づき説明する。
【0026】
電子制御装置30は、同一車軸の夫々の車輪Wl,Wrにおけるサスペンション本体10のストローク方向の相対速度VLs,VRsを演算すると共に(ステップST1)、その左右の車輪Wl,Wr側の要求減衰力FLreq,FRreqを演算する(ステップST2)。そのサスペンション本体10の相対速度VLs,VRsとは、ストロークセンサ41の検出信号から得られる車両100のバネ上部材とバネ下部材との間のストローク方向における相対速度のことである。また、要求減衰力FLreq,FRreqは、この技術分野において周知の演算形態によって求める。ここでは、前述した特許文献2のスカイフック理論に基づいて与えられたスカイフック減衰(鉛直方向スカイフック減衰係数Ch,ロール方向スカイフック減衰係数Cr)から各車輪Wl,Wr側の要求減衰力FLreq,FRreqを求める。
【0027】
続いて、電子制御装置30は、その要求減衰力FLreq,FRreqについてのショックアブソーバ11の分担分(以下、「減衰力SA分担分」と云う。)FLsa,FRsaとアクティブスタビライザ20の分担分(以下、「減衰力STB分担分」と云う。)FLstb,FRstbの演算を行う(ステップST3,ST4)。ここでは、ショックアブソーバ11の分担を100%と仮置きするので、左側の減衰力SA分担分FLsaを「FLsa=FLreq」とし、右側の減衰力SA分担分FRsaを「FRsa=FRreq」とする。故に、左右夫々の減衰力STB分担分FLstb,FRstbは、共に0となる。
【0028】
電子制御装置30は、最終的に左右のショックアブソーバ11に出力させる減衰力(以下、「SA要求減衰力」と云う。)FLsareq,FRsareqと、最終的にアクティブスタビライザ20で発生させる左右の減衰力(以下、「STB要求減衰力」と云う。)FLstbreq,FRstbreqと、を設定する(ステップST5)。そのSTB要求減衰力FLstbreq,FRstbreqは、例えば、車両旋回時にロールモーメントで車体が沈み込んでいる側の車輪Wであって、このロール状態から水平状態に車体が戻るときの当該車輪Wの接地荷重抜けを抑える路面に向けた押し付け力になる。
【0029】
左側のSA要求減衰力FLsareqとSTB要求減衰力FLstbreqの設定処理について図3に基づき説明する。
【0030】
電子制御装置30は、次の2つの判定条件の判定を行う(ステップST51)。このステップST51においては、その2つの判定条件の全てが肯定判定(YES判定)された場合に肯定判定となり、その内の1つでも否定判定(NO判定)された場合に否定判定となる。
【0031】
1つめの判定条件は、ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FLsa(=FLreq)をショックアブソーバ11で出力不可能なのか否か、つまりショックアブソーバ11だけでは要求減衰力FLreqの出力ができないのか否かを判定するものである。要求減衰力FLreqをショックアブソーバ11が出力できるのであれば、敢えてアクティブスタビライザ20に分担させる必要はないので、この判定を行う。
【0032】
2つめの判定条件は、ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FLsa(=FLreq)とサスペンション本体10のストローク方向の相対速度VLsとの積が負であるのか否かを判定するものである。その積が負になると云うことは、前述した速度−荷重リサージュ波形においてI−III象限(速度*荷重<0)の領域にあり、要求減衰力FLreqをショックアブソーバ11で発生させることができないので、この判定を行う。
【0033】
ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FLsa(=FLreq)のショックアブソーバ11での出力が不可能で、且つ、その減衰力SA分担分FLsaと相対速度VLsとの積が負である場合、電子制御装置30は、SA要求減衰力FLsareqを0に設定すると共に、STB要求減衰力FLstbreqを要求減衰力FLreqに設定する(ステップST52)。
【0034】
一方、その減衰力SA分担分FLsaをショックアブソーバ11で出力できる場合又は/及び「FLsa*VLs≧0」の場合、電子制御装置30は、ステップST3,ST4で求めた分担分をそのままSA要求減衰力FLsareqとSTB要求減衰力FLstbreqとに設定する(ステップST53)。つまり、この場合には、SA要求減衰力FLsareqが要求減衰力FLreqに設定され、且つ、STB要求減衰力FLstbreqが0に設定される。
【0035】
右側のSA要求減衰力FRsareqとSTB要求減衰力FRstbreqについても上記の左側と同様の設定処理が行われる(図4)。
【0036】
電子制御装置30は、左側と同様の2つの判定条件の判定を行う(ステップST55)。このステップST55においても、その2つの判定条件の全てが肯定判定(YES判定)された場合に肯定判定となり、その内の1つでも否定判定(NO判定)された場合に否定判定となる。
【0037】
1つめの判定条件は、ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FRsa(=FRreq)をショックアブソーバ11で出力不可能なのか否か、つまりショックアブソーバ11だけでは要求減衰力FRreqの出力ができないのか否かを判定するものである。
【0038】
2つめの判定条件は、ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FRsa(=FRreq)とサスペンション本体10のストローク方向の相対速度VRsとの積が負であるのか否かを判定するものである。
【0039】
ステップST3で仮置きした減衰力SA分担分FRsa(=FRreq)のショックアブソーバ11での出力が不可能で、且つ、その減衰力SA分担分FRsaと相対速度VRsとの積が負である場合、電子制御装置30は、SA要求減衰力FRsareqを0に設定すると共に、STB要求減衰力FRstbreqを要求減衰力FRreqに設定する(ステップST56)。
【0040】
一方、その減衰力SA分担分FRsaをショックアブソーバ11で出力できる場合又は/及び「FRsa*VRs≧0」の場合、電子制御装置30は、ステップST3,ST4で求めた分担分をそのままSA要求減衰力FRsareqとSTB要求減衰力FRstbreqとに設定する(ステップST57)。この場合には、SA要求減衰力FRsareqが要求減衰力FRreqに設定され、且つ、STB要求減衰力FRstbreqが0に設定される。
【0041】
ここで、ステップST52やステップST56の設定が行われた場合、同一車軸上の逆側の車輪Wr、Wlのショックアブソーバ11には、所望の減衰力とは逆向きの荷重がアクティブスタビライザ20によって発生させられる。例えば、車両旋回時には、ロールモーメントで車体が沈み込んでいる側の車輪Wとは同一車軸上で逆側の車輪Wのショックアブソーバ11に対して、車体と車輪Wとを接近させる方向の所望の減衰力とは逆向きの荷重がアクティブスタビライザ20によって発生する。これが為、電子制御装置30は、ステップST5の設定の後、その逆側の車輪Wr、Wlのショックアブソーバ11についてのSA要求減衰力FRsareq,FLsareqを補正する(ステップST6)。その補正は、下記の式1,2を用いて行う。つまり、逆側の車輪Wr、Wlのショックアブソーバ11には、SA要求減衰力FRsareq,FLsareqから左右反対側のSTB要求減衰力FLstbreq,FRstbreq(即ち押し付け力と同じ大きさの力)を減算した減衰力を発生させる。
【0042】
FRsareq←FRsareq−FLstbreq … (1)
FLsareq←FLsareq−FRstbreq … (2)
【0043】
尚、このステップST6においては、その補正の演算をステップST53やステップST57の設定が行われたときも実行されるが、その設定値を代入すれば明らかなように、実質的に補正が為されない。
【0044】
電子制御装置30は、以上のように設定したSA要求減衰力FLsareq,FRsareqとSTB要求減衰力FLstbreq,FRstbreqとを出力させるように、夫々のショックアブソーバ11とアクティブスタビライザ20を制御する。
【0045】
このように、このサスペンション装置1は、所望の減衰力をショックアブソーバ11で出力不可能な速度−荷重リサージュ波形のI−III象限の領域において、ショックアブソーバ11で発生させる減衰力を0にしている。この場合には、サスペンション本体10に圧縮荷重が加わっており、その圧側の過渡状態のときに、特に沈み込んだサスペンション本体10が戻るときに、車輪Wの接地荷重が早めに減ってしまい、操縦安定性や乗心地を低下させてしまう。例えば、車両旋回時においては、ロールモーメントによって沈み込んでいる車体における左右何れか一方が水平状態に向けて戻るときに、車輪Wの接地荷重抜けが発生し、操縦安定性や乗心地を低下させる。しかしながら、このサスペンション装置1においては、そのI−III象限の領域にて要求減衰力FLreq,FRreqをアクティブスタビライザ20で発生させるので、結果として、車体の沈み込んでいた側の車輪Wを路面に押し付ける力がアクティブスタビライザ20によって加わることになる。従って、このサスペンション装置1は、接地荷重抜けを無くすことができ、操縦安定性や乗心地を向上させることができる。また、その際には、所望の減衰力とは逆向きのアクティブスタビライザ20による荷重を予め逆輪側のショックアブソーバ11のSA要求減衰力FLsareq,FRsareqに加えているので、この逆輪側のショックアブソーバ11の発生する減衰力によって、総減衰力を確保でき、更なる操縦安定性や乗心地の向上が可能になる。以上示したように、このサスペンション装置1は、IIIV象限(速度*荷重≧0)の領域だけでなく、I−III象限の領域においても操縦安定性や乗心地を向上させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 サスペンション装置
10,10fl,10fr,10rl,10rr サスペンション本体
11,11fl,11fr,11rl,11rr ショックアブソーバ
12,12fl,12fr,12rl,12rr アクチュエータ
15,15fl,15fr,15rl,15rr スプリング
20 アクティブスタビライザ
20r 後輪アクティブスタビライザ
20f 前輪アクティブスタビライザ
21,22 スタビライザバー
23 アクチュエータ
30 電子制御装置
41 ストロークセンサ
100 車両
Wfl,Wfr,Wrl,Wrr 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪毎に配設され、発生した振動を減衰係数に応じて減衰させる緩衝器及び当該減衰係数の調整が可能なアクチュエータを備えた減衰力可変装置と、
車軸毎に配設され、ロールモーメントに抗するアンチロールモーメントを発生させることでロール剛性の調整が可能なロール剛性可変装置と、
を備え、
前記ロール剛性可変装置には、車体がロール状態から水平状態に向けて戻るときに、該ロール状態でのロールモーメントによって車体が沈み込んでいた側の車輪に対して、該車輪を路面に押し付ける力を発生させることを特徴としたサスペンション装置。
【請求項2】
前記ロール剛性可変装置によって前記押し付け力を発生させる場合、同一車軸上の2つの前記緩衝器は、要求減衰力を0に設定し、該押し付け力を発生させる車輪とは同一車軸上で逆側の車輪の緩衝器には、前記要求減衰力から前記押し付け力と同じ大きさの力を減算した減衰力を発生させることを特徴とした請求項1記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250564(P2012−250564A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122761(P2011−122761)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】