説明

シアリダーゼ阻害剤

【課題】インフルエンザウイルスなどに存在するシアリダーゼの活性を阻害する新規シアリダーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA)の9位に芳香環を有する置換基を導入した誘導体(下式、Rは、芳香環を有する置換基を表す。)又はその薬学上許容される塩から成るシアリダーゼ阻害剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2,3−デヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体からなるシアリダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シアル酸として知られるN−アシルノイラミン酸を糖鎖から切断する能力を有する酵素であるシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)は、多くの微生物やウイルスに存在する。これらノイラミダーゼ産生病原体はヒト、その他の動物の主要な感染症に関わっており、特に、インフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コレラ菌、トリパノソーマ類などは毎年極めて多数の感染例が報告され、莫大な被害を引き起こしている。従って、シアリダーゼ活性の阻害剤はシアリダーゼを有するウイルスによる感染や病状の重篤化を妨げるとの考えに基づいて、様々なノイラミダーゼ阻害剤の開発が行われている。
これらのシアリダーゼ阻害剤のほとんどは、2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA)の類似体及び誘導体であり、シアル酸切断過程の遷移状態を模倣することにより本来の基質であるシアリル化糖鎖より強力に結合することが期待されている(非特許文献1)。このような2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA)の類似体や誘導体として、その4位を置換したもの(特許文献1)、3位を置換したもの(特許文献2)、9位を置換したもの(特許文献3,4)などがシアリダーゼ活性の阻害剤やインフルエンザ治療薬などとして開発されている。
【0003】
【特許文献1】特許第2925863号
【特許文献2】特開2001−131074
【特許文献3】特開平10−139774
【特許文献4】特許第3209946号
【非特許文献1】Virology, 58, 457-463 (1974)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、インフルエンザウイルスなどに存在するシアリダーゼの活性を阻害する新規シアリダーゼ阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA)の9位に芳香環を有する置換基を導入した誘導体が、強いシアリダーゼ活性の阻害効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、下式
【化3】

(式中、Rは、芳香環を有する置換基を表す。)で表される2,3−デヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体又はその薬学上許容される塩から成るシアリダーゼ阻害剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のシアリダーゼ阻害剤の対象であるシアリダーゼを産生するウイルスや微生物として、例えば、コレラ菌、ウルシュ菌、ガス壊疽菌、肺炎レンサ球菌、ヘリコバクター・ピロリ菌及びアルトロバクター・シアロフィルス菌などの細菌、トリパノソーマ・クルジ、トリパノソーマ・ブルセイ、クリプトスポリヂウム及びクリプトスポリジウム・パーバムなどの寄生虫、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、家禽ペストウイルス、おたふくかぜウイルス、センダイウイルス及びニューカッスル病ウイルスなどのウイルスが挙げられる。
【0007】
シアリダーゼはインフルエンザシアリダーゼを中心として結晶構造が多数報告されている。その構造的特徴として活性部位はβプロペラと呼ばれる構造を有しており、7個の特徴的なアミノ酸が見出されている。
シアル酸やその誘導体がシアリダーゼに接近すると、シアリダーゼは、その3つのアルギニン残基で、シアル酸のカルボン酸部位を認識し、そのアルギニンの一つをグルタミン酸残基が塩対を形成することにより安定化し、さらに、加水分解作用部位にはチロシンとグルタミン酸の水素結合リレー構造とアスパラギン酸残基が必要であることが知られている(J. Mol.Biol., 335,1343-1357(2004))。
シアル酸やその誘導体がシアリダーゼに結合した形態においては、シアル酸の3位から5位アセトアミド部位付近の上部にシアリダーゼ活性部位周辺のループ構造が迫り出し、シアリダーゼの有する溝構造が、シアル酸のアノマー位アキシアル面から(2位)からシアル酸9位水酸基側に向いている(Structure, 13, 803-815 (2005))。この溝構造はシアル酸が結合している糖鎖部分を認識するための空間であると考えられており、インフルエンザシアリダーゼ(Nature、363、418-423(1993))、コレラ菌等の細菌類が産生する分泌型シアリダーゼ(J. Biol. Chem., 279, 40819-40826 (2004))、ヒトなどのほ乳類が産生するシアリダーゼ(J. Biol. Chem., 280, 469-475 (2005))などで共通構造として存在している。
【0008】
本願発明のシアリダーゼ阻害剤は、このシアリダーゼ活性部位の溝構造に着目し、その溝構造の方向に伸びている9位水酸基を置換することにより特異的かつ強力な阻害能を得ている点に特徴がある。すなわち、シアル酸9位方向への溝はシアリダーゼ全般に特徴的な構造であり、そのアミノ酸の相同性が低いことから、この位置に置換基を導入した誘導体群から、シアリダーゼに対して特異的かつ強力な阻害効果を有する化合物を得ることができると考えられる。
芳香環は、糖のピラノース環やフラノース環と類似の平面構造を有しており、糖のピラノース環などと結合力を有することが知られている(Structure, 12, 775-784 (2004))。そのため、本発明のDANAの9位に芳香環を有する置換基を導入した誘導体は、上記シアリダーゼ活性部位周辺の溝構造に結合力を有する。本願発明のシアリダーゼ阻害剤は、このような置換基を有するため、単に9位が水酸基であるDANAやその誘導体では、機能することのなかった機構により、シアリダーゼの活性を阻害することが可能になるものと考えられる。
なお、細胞内や生体内にはエステラーゼ(リパーゼ)が多量に存在しているため、シアリダーゼ阻害剤としての実際の使用を考えたときに、9位の置換基はこのような条件下おいて容易に分解されないことが求められる。例えば、エステル基(特許文献2、4)は迅速に分解されてしまうため、実際の使用時において、置換した効果が無いものと考えられる。
【0009】
即ち、本発明のシアリダーゼ阻害剤は2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アシルノイラミン酸(DANA)の誘導体から成り、この2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体は下式の構造式で表される。
【化3】

式中、Rは、芳香環を有する置換基を表す。この置換基は芳香環を、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個有する。
この芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの炭化水素芳香族環が挙げられるが、ピリジン環、アクリジン環、キノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、フラン環、チオフェン環等のヘテロ芳香環をも含む。これらの芳香環は如何なる形態や結合数で置換基に結合されていてもよい。例えば、ベンゼン環は、フェニル基やフェニレン基などとして置換基中に存在してもよい。
【0010】
この芳香環をDANAの9位に結合させるためには如何なる方法を用いてもよい。このような結合方法として、オレフィンメタセシス法、鈴木・箕浦クロスカップリング法、Heck反応、マイケル付加反応、アルドール型反応などによる炭素−炭素結合の形成(−C−C−、−C=C−)、脱水縮合反応や活性化エステルを用いたアミド(−NHCO−)・尿素(−NHCONH−)・イミド(−N(CO−)CO−)・スルホン酸アミド(−NHSO−)結合の形成、Sn2型又はSn1型置換反応によるエーテル(−O−)・チオエーテル(−S−)・アミン(−NH−、−NH(−)−、−N(−)(−)−)・アルキン(−C≡C−)結合の形成、アセタール(−C(−O−)0−)・チオアセタール(−C(−S−)S−)等のアセタール型結合の形成、イミン(−N=C−、−C=N−)、オキシム(−O−N=C−、−C=N−O−)、ヒドラジド(−NH−N=C−、−C=N−NH−)等のイミン型結合形成、芳香族環等を経由した結合形成反応及び、ディールス・アルダー反応や先述の反応を組合わせたタンデム反応による環形成反応などが挙げられる。
即ち、このような結合(Yとする)を有するRは、−Y−R(式中、Rは、芳香族基又は芳香環を有する脂肪族基を表す。詳細は後述する。)と表される。
【0011】
この中で、一般的方法として、DANAの9位水酸基をアジド(−N=N=N)基に変換し、一方、DANAの9位に導入したい置換基にアセチレン(−C≡CH)を結合させたアルキン化合物を用意し、これらを銅触媒存在下で反応させることにより、DANAの9位にトリアゾール環を介して所望の置換基を導入することができる。
なお、このトリアゾール環は本願発明のシアリダーゼ阻害剤として、必須の要素ではなく、9位に所望の置換基を導入するために不可避的に導入されたものである。
【0012】
この場合、Rは好ましくは下記で表される。
【化4】

式中、Rは、芳香族基又は芳香環を有する脂肪族基を表す。
この芳香族基としては、アリール基やヘテロ芳香族基が挙げられる。アリール基としては、好ましくは、フェニル基やα−又はβ−ナフチル基が挙げられる。ヘテロ芳香族基としては、上記ヘテロ芳香環の残基、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基等が挙げられる。
【0013】
また、この芳香環は上記の定義と同じである。
脂肪族基としては、直鎖又は分枝のアルキル基、シクロヘキサン環などの脂肪族環、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
この脂肪族基は芳香環を、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個有する。また、この脂肪族基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜12である。
またこれらの芳香族基及び芳香環を有する脂肪族基は置換基を有していてもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、水酸基、炭素数が1〜4のアルキル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基など、好ましくは、ハロゲン原子又は水酸基、より好ましくは水酸基が挙げられる。
Acは、アシル基、例えばアセチル基を表す。
【0014】
上記2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体の薬学上許容される塩とは、1位のカルボン酸がイオン化することにより形成される塩であり、例えば、無機塩基又は有機塩基と塩であってもよい。好ましい塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基との塩、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、テトラエチルアンモニウム、グアニジン、エタノールアミン等の有機塩基との塩、リジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩等を挙げることができる。
【0015】
更に本発明のシアリダーゼ阻害剤には、薬理学的に許容されるプロドラックも含まれる。例えば、加水分解、加溶媒分解により又は生理学的条件下で水酸基や1位カルボン酸、5位アセトアミド基に変換できる基であり、例えば、水酸基のプロドラッグとしては、−OCO−置換されてもよい低級アルキレン−COORX(RXは水素原子又は低級アルキルを示す。以下同様である。)、−OCO−置換されてもよい低級アルケニレン−COORX、−OCO−置換されてもよいアリール、−OCO−低級アルキレン−O−低級アルキレン−COORX、−OCO−CORX、−OCO−置換されてもよい低級アルキル、−OSO−置換されてもよい低級アルキレン−COORX、−O−フタジル、5−メチル−1,3−ジオキソレン−2−オン−4−イル−メチルオキシ等が挙げられ、カルボン酸のプロドラッグとしては、置換されてもよい低級アルキレン基によるエステル化、及びアルデヒド基、アセタール基への変換反応等が挙げられ、アセトアミド基のプロドラッグとしてはイミドへの変換などが挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
合成例1
図1に示す合成スキームにしたがって5−アセチルノイライミン酸(Neu5Ac)から5−アセタミド−9−アジド−2,3,5,9−テトラデオキシ−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸(化合物1)を合成した。
5−アセチルノイライミン酸(Neu5Ac、ナカライテスク株式会社)(10.0g)をメタノール(500ml)に縣濁し、メタノール洗浄した酸型イオン交換樹脂Dowex(R)50W(ダウケミカル社)(10g)と共に2日間激しく攪拌した。樹脂を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣に塩化アセチル(100ml)を加え1日激しく攪拌した。反応液を濃縮した後、残渣にピリジン(100ml)を加え、90℃で1時間攪拌した後、冷却し、反応液を濃縮した。残渣を、酢酸エチルに縣濁し、水、3規定塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、及び飽和食塩水で順次分液洗浄した後、有機相を無水硫酸ナトリウムで洗浄した。有機層を乾燥、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[ヘキサン−アセトン(1:1)]により精製し、メチル−5−アセタミド−4,7,8,9−O-テトラアセチル−2,3,5−トリデオキシ−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソネート(化合物2)(9.2g、60%)を得た。化合物1:(シリカゲル薄層クロマトグラフ:シリカゲル60 F254、メルク社製、以下「TLC」という)Rf0.3[ヘキサン−アセトン(1:1)]。
【0017】
次に、上記で得た化合物2(11.2g)の乾燥メタノール(110ml)溶液に28%ナトリウムメチラート溶液(0.2ml)を加え、室温で1時間攪拌した。反応中に沈殿した結晶を濾取しメチル−5−アセタミド−2,3,5−トリデオキシ−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソネート(化合物3)(4.9g、68%)を得た。化合物2:(TLC)Rf0.4[クロロホルム−メタノール(2:1)]。
次に、上記で得た化合物3(5.0g)のピリジン(175ml)溶液に、塩化トシル(4.7g)及びDMAP(200mg)を順次加え、室温で一晩攪拌した。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[酢酸エチル−メタノール(19:1)]により精製し、メチル−5−アセタミド−2,3,5−トリデオキシ−9−O−トシル−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソネート(化合物4)(4.9g、53%)を得た。化合物3:(TLC)Rf0.2[クロロホルム−メタノール(9:1)]。
【0018】
次に、上記で得た化合物4(1.0g)のDMF(20ml)溶液にアジ化ナトリウム(0.60g)を加え、75℃で一晩攪拌した後濃縮した。残渣を[クロロホルム−メタノール(6:1)]により溶出し、アジ化物を含むフラクションを濃縮した。残渣をメタノール−0.3規定水酸化ナトリウム混合液(5.0ml)を加え、室温で10分間した後、Sephadex LH-20を充填したカラムで分離して、5−アセタミド−9−アジド−2,3,5,9−テトラデオキシ−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸(化合物1)を得た。化合物1:(TLC)Rf0.9[メタノール]。
合成した化合物1の分析値を以下に示す。
1H NMR (600 MHz, D2O) δ5.97 (d, 1H, J = 2.4 Hz; H-3), 4.44 (dd, 1H, J = 2.4, 8.4 Hz; H-4), 4.17 (dd, 1H, J = 1.2, 10.8 Hz; H-6), 4.07 (ddd, 1H, J =2.4, 6.0, 9.6 Hz; H-8), 4.00 (dd, 1H, J = 8.4, 10.8 Hz; H-5), 3.55 (dd, 1H, J = 2.4, 12.6 Hz;; H-9a), 3.53 (dd, 1H, J = 1.2, 9.0 Hz; H-7), 3.41 (dd, 1H, J = 6.6, 12.6 Hz; H-9b), 2.07 (s, 3H; Ac).
【0019】
合成例2
トリス−(1−ベンジルトリアゾール−4−イルメチル)アミン(tris-(1-Benzyltriazol-4-ylmethyl)amine、シグマアルドリッチ社)(12.5 mM、DMSO溶液、100μL)、硫酸銅 (12.5 mM、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、アスコルビン酸ナトリウム塩 (12.5 mM、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、合成例1で得た化合物1(250 mM 、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、9−エチニル−9−フルオレノール(9-Ethynyl-9-fluorenol、東京化成工業)(250 mM 、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、を順次混合し、室温で8時間攪拌した。ESI-MSにより反応の進行を確認し、反応液を直接逆相HPLCにて精製し、5−アセタミド−2,3,5,9−テトラデオキシ−9−(4−(9−ヒドロキシ−9H−フルオレン−9−イル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸(化合物5、下式)を得た(収量6.0 mg、収率46%)。
【化5】

【0020】
合成した化合物5の分析値を以下に示す。
1H NMR (600 MHz, D2O) δ 8.06 (s, 1H; aromatic), 7.89-7.45 (m, 8H; aromatic), 5.93 (d, 1H, J = 2.4 Hz; H-3), 4.82 (m, 1H; H-9a), 4.60 (dd, 1H, J = 7.2, 14.4 Hz; H-9b), 4.52 (dd, 1H, J = 2.4, 9.0 Hz; H-4), 4.32 (ddd, 1H, J =2.4, 7.2, 9.6 Hz; H-8), 4.23 (d, 1H, J = 10.8 Hz; H-6), 4.07 (dd, 1H, J = 9.0, 10.8 Hz; H-5), 3.39 (d, 1H, J = 9.6 Hz; H-7), 1.97 (s, 3H; Ac) 13C NMR (125 MHz, D2O) δ 175.25, 167.49, 147.53, 147.48, 139.72, 139.69, 130.41, 129.09, 125.00, 124.97, 124.54, 121.01, 110.94, 75.82, 69.16, 68.46, 67.48, 53.77, 50.11, 22.37.
HRMS (FAB-MS) Calcd for C26H26N4O8 [M-H]- 521.1673, found 521.1664.
【0021】
合成例3
トリス−(1−ベンジルトリアゾール−4−イルメチル)アミン (12.5 mM、DMSO溶液、100μL)、硫酸銅 (12.5 mM、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、アスコルビン酸ナトリウム塩 (12.5 mM、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、合成例1で得た化合物1(250 mM 、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、エチニルエステラジオール(Ethynylestradiol、東京化成工業)(250 mM 、H2O:t-BuOH = 1:1溶液、100μL)、を順次混合し、室温で8時間攪拌した。ESI-MSにより反応の進行を確認し、反応液を直接逆相HPLCにて精製し、−アセタミド−2,3,5,9−テトラデオキシ−9−(4−(17α−エストラジオリル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸(化合物6、下式)を得た(収量10 mg、収率65%)。
【化6】

【0022】
合成した化合物6の分析値を以下に示す。
1H NMR (600 MHz, MeOD) δ 7.81 (s, 1H; aromatic), 6.98-6.45 (m, 3H; aromatic), 5.87 (s, 1H; H-3), 4.82 (m, 1H; H-9a), 4.41 (m, 2H; H-4, H-9b), 4.25 (m, 1H; H-8), 4.14 (d, 1H, J = 10.8 Hz; H-6), 3.99 (t, 1H, J = 9.0 Hz; H-5), 3.44 (d, 1H, J = 9.0 Hz; H-7),2.76 (m, 2H), 2.44 (m, 1H), 2.07-1.86 (m, 7H), 1.66-1.25 (m, 7H), 1.03 (s, 3H), 0.76 (m, 1H) 13C NMR (125 MHz, MeOD) δ 174.09, 154.89, 137.85, 134.75, 131.59, 126.08, 124.24, 115.03, 112.67, 111.09, 82.25, 76.64, 70.03, 68.90, 67.03, 53.96, 51.05, 43.83, 40.14, 37.46, 33.24, 29.73, 29.64, 27.72, 26.56, 23.62, 23.19, 21.69, 13.89.
HRMS (FAB-MS) Calcd for C31H40N4O9 [M-H]- 611.2717, found 611.2710.
【0023】
実施例1
上記合成例2及び3で得た2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸誘導体についてコレラノイラミニダーゼ阻害活性を測定した。
また、比較のため、2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA、Calbiochem社、下式)の活性も同様に調べた。DANAはノイラミニダーゼに対する一般的かつ強力な阻害剤として知られている(Virology, 58, 457-463 (1974)、Bioorganic & Medicinal chemistry, 14, 1518-1537 (2006)等)。
【化7】

【0024】
この試験においては、コレラノイラミニダーゼとして、Vibrio chorelae由来ノイラミニダーゼ(Sigma社)を用い、基質として4-メチル−ウンベリフェリル 5-アセチルノイラミン酸(4-MU NANA、Calbiovhem社)を用いた。
予め、最終濃度が100 mMとなるように調製したpH5の酢酸ナトリウムバッファー、最終の酵素活性が0.0015 unit(1unitは1μモルのシアリルラクトースを1分間に加水分解する酵素量)になるように調製した酵素溶液、最終濃度が10μM、30μM、50μM、100μM、300μM、500μMとなるように調製した試験化合物の水溶液、及び最終濃度が3mM又は1mMとなるように調製した4-MU NANA水溶液を順次混合し、30分間攪拌した後、5倍容の100 mMのグリシンバッファー(pH 11)加えて反応を停止し、360 nmにおける吸光度測定をマイクロプレートリーダー(SUNRISE RAINBOW THERMO、TECAN社)にて行い、Dixon法(Biochem. J., 55, 170-171 (1953))により阻害定数Kiを測定した。
【0025】
結果を下表に示す。
【表1】

本願発明のシアリダーゼ阻害剤は、DANAと比較して、顕著にコレラノイラミニダーゼの活性を阻害した。これは、DANAの9位の本願発明の置換基が、ノイラミニダーゼの活性阻害に極めて有効であったことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】合成例1で合成した5−アセタミド−9−アジド−2,3,5,9−テトラデオキシ−D−グリセオ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸(化合物1)の製法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式
【化1】

(式中、Rは、芳香環を有する置換基を表す。)で表される2,3−デヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体又はその薬学上許容される塩から成るシアリダーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記2,3−デヒドロ−N−アシルノイラミン酸誘導体が下式
【化2】

(式中、Rは、芳香族基又は芳香環を有する脂肪族基を表す。)で表される請求項1に記載のシアリダーゼ阻害剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−285448(P2008−285448A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133705(P2007−133705)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】