説明

シェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造

【課題】
作業性と経済性を確保しながら、高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性を確保することのできるシェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造を提供する。
【解決手段】
金属板1からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット2a、2bの溶接接合方法および溶接接合構造であって、当該溶接接合方法および溶接接合構造は、シェルター内殻ユニット2a、2bの接合部3をユニットの外側から溶接する外側溶接部8とユニットの内側から溶接する内側溶接部9とに分けて溶接し、且つ、外側溶接部8と内側溶接部9の端部同士を溶接して一体化し、ユニットの接合部3の溶接を途切れない環状に形成して接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性と経済性を確保しながら、高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性を確保することのできるシェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに本出願人は、優れた地下シェルターの構成として、既に特開2007−297898に具体的構成を開示しており、当該構成による地下シェルターは、シェルター内殻ユニット同士を溶接して接合する構成になっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、当該文献に記載される地下シェルターを構築するにあたり、金属板からなるシェルター内殻ユニットをどのようにして溶接して接合するのか、その具体的な溶接接合方法および溶接接合構造については開示していない。
【0004】
本発明の課題は、作業性と経済性を確保しながら、高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性を確保することのできるシェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合方法であって、当該溶接接合方法は、ユニット同士の接合部をユニットの外側から溶接する外側溶接部とユニットの内側から溶接する内側溶接部とに分けて溶接し、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士を溶接して接合し、ユニット接合部の溶接を途切れない環状に形成して接合することを、その特徴としている。
【0006】
また、請求項2の発明は請求項1の発明を前提として、溶接接合方法は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とすることを、その特徴としている。
【0007】
また、請求項3の発明は請求項1の発明を前提として、溶接接合方法は、接合部の床乃至壁に相当する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とすることを、その特徴としている。
【0008】
また、請求項4の発明は請求項1の発明を前提として、外側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの内側に内側裏当接合ガイドを設けて外側溶接部を形成することを、その特徴としている。
【0009】
また、請求項5の発明は請求項1の発明を前提として、内側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの外側に外側裏当接合ガイドを設けて内側溶接部を形成することを、その特徴としている。
【0010】
また、請求項6の発明は請求項4乃至5の発明の何れかを前提として、互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を使用して溶接することを、その特徴としている。
【0011】
また、請求項7の発明は請求項4乃至5の発明の何れかを前提として、裏当材を兼用する位置規制部材を使用して溶接することを、その特徴としている。
【0012】
また、請求項8の発明は、金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合構造であって、当該溶接接合構造は、ユニットの外側から溶接された外側溶接部とユニットの内側から溶接された内側溶接部とからなり、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士が接合溶接されユニット接合部の溶接が途切れない環状に形成されていることを、その特徴としている。
【0013】
また、請求項9の発明は請求項8の発明を前提として、溶接接合構造は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなることを、その特徴としている。
【0014】
また、請求項10の発明は請求項8の発明を前提として、溶接接合構造は、接合部の床乃至壁をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなることを、その特徴としている。
【0015】
また、請求項11の発明は請求項8の発明を前提として、外側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの内側に外側溶接部を形成するための内側裏当接合ガイドとが、設けられていることを、その特徴としている。
【0016】
また、請求項12の発明は請求項8の発明を前提として、内側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの外側に内側溶接部を形成するための外側裏当接合ガイドとが、設けられていることを、その特徴としている。
【0017】
また、請求項13の発明は請求項11乃至12の発明の何れかを前提として、互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を形成したことを、その特徴としている。
【0018】
また、請求項14の発明は請求項11乃至12の発明の何れかを前提として、裏当材を兼用する位置規制部材を形成したことを、その特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明では、金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合方法であって、当該溶接接合方法は、ユニット同士の接合部をユニットの外側から溶接する外側溶接部とユニットの内側から溶接する内側溶接部とに分けて溶接し、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士を溶接して接合し、ユニット接合部の溶接を途切れない環状に形成して接合するので、当該接合部は分子レベルで連続性を持って一体化され、装甲壁としての高い均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができ、通常、地中掘削孔に据え付けられた複数の金属製筒状体からなるシェルター内殻ユニットの表面側に配置する金属板同士を溶接により一体化する際、天井に相当する範囲は下向姿勢で溶接することができ問題はないが、床に相当する範囲においては、ユニット下側から上向姿勢で溶接することになり施工が困難となるが、当該発明では、当該床に相当する範囲を室内側から下向姿勢で溶接することができ、また、壁に相当する範囲はユニット外側からではなく、ユニットの内側から外側に向けて立向溶接することが可能であり、外側の溶接作業空間を確保するための余分な掘削孔を掘削する必要がなくなるため、作業性と経済性を大幅に向上させることができる。
【0020】
また、請求項1の発明では、外側溶接部と内側溶接部の端部同士を接合溶接してユニット接合部の溶接を途切れない環状に形成して接合するので、装甲壁としての完全な均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0021】
請求項1を前提とした請求項2の発明では、溶接接合方法は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とするので、金属板からなる筒状体であるシェルター内殻ユニットが円形断面、または蒲鉾形断面である場合にも対応することができ、設計上の自由度を高め、様々なニーズの躯体断面形状に対応することができる。
【0022】
請求項1を前提とした請求項3の発明では、溶接接合方法は、接合部の床乃至壁に相当する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とするので、金属板からなる筒状体であるシェルター内殻ユニットが方形状断面、または蒲鉾形断面である場合にも対応することができ、設計上の自由度を高め、様々なニーズの躯体断面形状に対応することができる。
【0023】
請求項1を前提とした請求項4の発明では、外側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの内側に内側裏当接合ガイドを設けて外側溶接部を形成するので、金属板端部の開先加工を施さなくても、互いのユニットの金属板端部間に任意の間隔を設定しながら溶接作業を行う外側の反対側に内側裏当接合ガイドを配置して溶接溝を形成することができ、この溶接溝を埋めるように溶着金属で互いの金属板同士を一体化してより高品質な溶接部を形成することができるため、より高い防湿防水性、電磁シールド性を確保することができ、さらに、内側裏当接合ガイドは、ユニット据付時の据付ガイドとしても機能し、作業性と経済性を向上させることができる。
【0024】
請求項1を前提とした請求項5の発明では、内側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの外側に外側裏当接合ガイドを設けて内側溶接部を形成するので、金属板端部の開先加工を施さなくても、互いのユニットの金属板端部間に任意の間隔を設定しながら溶接作業を行う内側の反対側に外側裏当接合ガイドを配置して溶接溝を形成することができ、この溶接溝を埋めるように溶着金属で互いの金属板同士を一体化してより高品質な溶接部を形成することができるため、より高い防湿防水性、電磁シールド性を確保することができ、さらに、外側裏当接合ガイドは、ユニット据付時の据付ガイドとしても機能し、作業性と経済性を向上させることができる。
【0025】
請求項4乃至5の発明の何れかを前提とした請求項6の発明では、互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を使用して溶接するので、十分な強度で一定の間隔を確保しながら互いのユニットの位置関係を固定することができ、ユニット据付時および溶接作業時に互いのユニットの位置がずれることなく溶接歪みの大きさも最小限に抑えることができ、ユニット全体の施工出来型精度を高めることができる。なお、互いの軸材同士の間隔は溶接棒および溶接機器の作業性を損なわない任意の間隔とすることで、溶接の作業性、品質に悪影響を与えることはない。
【0026】
請求項4乃至5の発明の何れかを前提とした請求項7の発明では、裏当材を兼用する位置規制部材を使用して溶接するので、通常固定金物により軸材同士を面接合して内側裏当材を省略して外側溶接部を形成することができ、経済的である。
【0027】
請求項8の発明では、金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合構造であって、当該溶接接合構造は、ユニットの外側から溶接された外側溶接部とユニットの内側から溶接された内側溶接部とからなり、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士が接合溶接されユニット接合部の溶接が途切れない環状に形成されているので、当該接合部は分子レベルで連続性を持って一体化され、また、溶接部はユニット接合部の金属板を途切れることなく連続溶接で接合しているので、装甲壁としての完全な均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0028】
請求項9の発明では、溶接接合構造は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなるので、特に円形断面、蒲鉾断面を有するシェルター内殻ユニットにおいて、溶接品質の高い溶接部を形成して、装甲壁としての高い均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0029】
請求項8乃至9の発明の何れかを前提とした請求項10の発明では、溶接接合構造は、接合部の床乃至壁をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなるので、特に方形断面を有するシェルター内殻ユニットにおいて、溶接品質の高い溶接部を形成して、装甲壁としての高い均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0030】
請求項8乃至9の発明の何れかを前提とした請求項11の発明では、外側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの内側に外側溶接部を形成するための内側裏当接合ガイドとが、設けられているので、互いの金属板端部に開先加工を施すことなく、互いの金属板端部と内側裏当接合ガイドとで形成される溶接溝に溶着金属を溶かし込んで溶接部を形成しているので、装甲壁としての高い均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0031】
請求項8乃至9の発明の何れかを前提とした請求項12の発明では、内側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの外側に内側溶接部を形成するための外側裏当接合ガイドとが、設けられているので、互いの金属板端部に開先加工を施すことなく、互いの金属板端部と外側裏当接合ガイドとで形成される溶接溝に溶着金属を溶かし込んで溶接部を形成しているので、装甲壁としての高い均一性、耐久性、耐震性、防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0032】
請求項8乃至12の発明の何れかを前提とした請求項13の発明では、互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を形成したので、溶接部とともに十分な強度でユニット同士を一体化することができ、スペーサー部材により溶接部が容易に目視でき、将来、溶接部を補修する場合にも、当該位置規制部材が何ら作業性を損なうことなく保守を行うことができる。
【0033】
請求項13の発明を前提とした請求項14の発明では、裏当材を兼用する位置規制部材を形成したので、内側裏当材の形成を使用せずに通常固定金物と互いの軸材のみで裏当材の役目も果たすので経済的であり、接合部の強度も大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】方形断面を有するシェルター内殻ユニットの溶接接合方法(溶接前状態)
【図2】方形断面を有するシェルター内殻ユニットの溶接接合方法(溶接後状態)
【図3】方形断面以外の形状の溶接接合方法
【図3a】円形断面の溶接接合方法
【図3b】蒲鉾形断面の溶接接合方法
【図4】外側溶接部を有する溶接接合構造
【図4a】外側溶接部と外側位置規制部材を有する溶接接合構造
【図4b】外側溶接部と内側位置規制部材を有する溶接接合構造
【図5】内側溶接部を有する溶接接合構造
【図5a】内側溶接部と内側位置規制部材を有する溶接接合構造
【図5b】内側溶接部と外側位置規制部材を有する溶接接合構造
【図6】裏当材を兼用する内側位置規制部材を有する溶接接合構造
【図6a】内側裏当接合ガイドを兼用する内側位置規制部材
【図6b】外側裏当接合ガイドを兼用する外側位置規制部材
【図7a】外側溶接部端部と内側溶接部端部の接合溶接部の例(溶接前状態)
【図7b】外側溶接部端部と内側溶接部端部の接合溶接部の例(溶接後状態)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい形態を解説する。
【0036】
断面形状として最も代表的な方形断面を有するシェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造について、その特徴を図1乃至2に示す。
【0037】
金属板1からなる方形断面の水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット2a、2bは、溶接前の図1の状態において接合部3で互いに仮組接合し、溶接後の図2の状態において天井に相当する範囲7を外側溶接部の範囲4として外側溶接部8、床乃至壁に相当する範囲6を内側溶接部の範囲5として内側溶接部9をそれぞれ形成し、且つ、外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10を形成してユニットの接合部3に施した溶接部が途切れない環状になるよう形成する。
【0038】
外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10を形成するのは、本発明の課題である、高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性を確保するためであり、任意の厚さを有するシェルター内殻ユニット2の金属板を溶接する際に、溶接の溶け込み深さが浅い場合など、互いの溶接部が途切れて環状になっていない場合、その部分の高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性が損なわれる事になり、したがって、意図的に外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10を形成する必要がある。
【0039】
当該シェルター内殻ユニット2の接合部3に溶接を施すに際し、シェルター内殻ユニット2のどの範囲に外側から溶接する外側溶接部8を形成するのか、内側から溶接する内側溶接部9を形成するのか、については、(1)溶接の作業性と品質の確保、(2)工事全体の経済性の優先、を鑑みて判断し、以下にその判断プロセスを示す。
【0040】
(1)溶接の作業性と品質は、通常、作業者と溶接部位の位置関係である溶接姿勢により大きく左右されるので、当該要素を最優先基準として判断する。
【0041】
溶接姿勢は、作業者と溶接部の位置関係により下向姿勢、横向姿勢、立向姿勢、上向姿勢の4つの溶接姿勢があり、下向姿勢とは、作業者に対して下向き位置で溶接を行う事であり、横向き姿勢とは、作業者に対して横方向で行う溶接の事であり、立向姿勢とは、作業者に対して下から上、または上から下に向かって行う溶接の事であり、上向姿勢とは、作業者に対して上方向で行う溶接の事である。
【0042】
製作物を自由に動かせる場合は下向姿勢での溶接が溶け込みや運棒が安定しやすく、技術的に見て最も簡単な溶接姿勢であるので下向姿勢で溶接を行うのが一般的であり、立向姿勢や横向姿勢での溶接は下向き姿勢に比べて安定した運棒を行う事が技術的に難しく熟練した作業者でなければならず、また、上向姿勢での溶接は、熔解した溶着金属が重力により鉛直下向きに引っ張られて流れ出すため半自動溶接や被服アーク溶接では相当の技術が要求される。
【0043】
制作物であるシェルター内殻ユニット2は容易には動かせない大きさと重量を有し、また、動かせたとしても経済性や安全性などが損なわれるため溶接姿勢をすべて下向姿勢に調整することはできない。
【0044】
したがって、(1)溶接の作業性と品質の確保については、壁部に相当する範囲6bは、内側または外側の何れに於いても溶接姿勢は変わらないが、外側から溶接する場合は、風雨などの気象条件によって作業が行えない、作業スペースが狭いために作業性が低下する、などの作業性と品質の確保を阻害する要素が考えられるため、壁部に相当する範囲6bは内側からの立向姿勢で溶接するのが適切であり、天井部に相当する範囲7は、内側から上向姿勢で溶接せずに外側から下向姿勢で、床部に相当する範囲6aは、内側から上向姿勢で溶接せずに外側から下向姿勢で、溶接することが適切である。
【0045】
次に、(2)工事全体の経済性の優先については、壁部に相当する範囲を内側から溶接する場合、シェルター内殻ユニット2を据え付ける掘削孔を最小限の大きさに抑えることができる点であり、次項で述べる複数の経済効果を生み出すことができる。
【0046】
通常、掘削孔は、土留工事を施工して掘削するが、壁部に相当する範囲を外側から溶接する場合、シェルター内殻ユニット2の外側に溶接作業やシェルター外殻コンクリートの壁部鉄筋を組み立てたり、シェルター外殻コンクリートの外側の型枠を組み立てたりする作業スペースを考慮した大きめの掘削孔を施工する必要があるが、壁に相当する範囲6bを内側から溶接する場合、シェルター内殻ユニット2の外側に施工するシェルター外殻コンクリートの壁鉄筋を組み立てた後に当該シェルター内殻ユニット2を据え付けることができ、また、シェルター外殻コンクリートの壁部形成時には、土留工事の土留部材を外側型枠、シェルター内殻ユニット2を内側型枠として生コンクリートを打設でき、そのため、掘削孔の大きさは、シェルター外殻コンクリートの仕上がり外観に対応する大きさとすることができ、同時に耐久性、防湿防水性を阻害する地下水の貯まり場となるほぐされた土からなる埋戻部分を排除することができるなど、壁部に相当する範囲6bを内側から溶接することは、工期の短縮を実現し経済効果を高めながら目的とする地下シェルターを形成することができる溶接方法である。
【0047】
以上の通り、シェルター内殻ユニット2の接続部3において、どの範囲を外側溶接部の範囲4として外側溶接部8を形成するのか、および、どの範囲を内側溶接部の範囲として内側溶接部9を形成するのか、については、図1乃至2に示す溶接接合方法が最も効果的な形態であるといえる。
【0048】
また、シェルター内殻ユニット2のその他の断面形状については、方形断面以外に、円形断面(図3a)や蒲鉾形断面(図3b)等が考えられる。
【0049】
図3a、図3bに示す何れの断面形状に於いても、前述した(1)溶接の作業性と品質の確保、および(2)工事全体の経済性の優先、を鑑みて判断するが、方形断面と同様の考え方に溶接面の水平基準に対する傾斜角度という要素を加えて判断すると理解しやすい。
【0050】
図3aでは、水平基準に対し、垂直を超える傾斜角度12を有する部分を天井に相当する範囲7と判断し、外側溶接部の範囲4として外側溶接部8、水平乃至垂直の傾斜角度11を有する部分を床乃至壁に相当する範囲6と判断し、内側溶接部の範囲5として内側溶接部9、をそれぞれ形成し、且つ、外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10を形成して接合部3に施した溶接部が途切れない環状に形成することが適切であると判断できる。
【0051】
図3bでは、明らかに床乃至壁に相当する範囲6が理解できるが、ここでも、水平基準に対し、垂直を超える傾斜角度12を有する部分を天井に相当する範囲7と判断し、外側溶接部の範囲4として外側溶接部8、水平乃至垂直の傾斜角度11を有する部分を床乃至壁に相当する範囲6と判断し、内側溶接部の範囲5として内側溶接部9、をそれぞれ形成し、且つ、外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10を形成して接合部3に施した溶接部が途切れない環状に形成することが適切であると判断できる。
【0052】
次に、金属板1からなるシェルター内殻ユニット2の接合部3の具体的な構造を、図4乃至6に示す。
【0053】
図4乃至6の内、図4乃至5に示す溶接接合構造は、金属板1の任意の位置に位置規制部材の軸材15を形成し、位置規制部材のスペーサー付固定金物17を使用して、溶接部の幅となる任意の間隔B20を確保して互いのシェルター内殻ユニット2a、2bを固定位置に固定している状況を示しており、特に、金属板1に対し外側溶接部8または内側溶接部9と同じ側に位置規制部材の軸材15および位置規制部材のスペーサー付個体金物17が配置された構造では、当該位置規制部材の軸材15がスペーサーにより作業スペースである任意の間隔A19を確保しながら固定されており、任意の間隔B20を有する金属板端部と内側裏当接合ガイド13、または外側裏当接合ガイド14とで形成される溶接溝に溶着金属を溶接して金属板の厚さに相当する十分な肉厚を有する溶接部を形成している。
【0054】
内側裏当接合ガイド13、または外側裏当接合ガイド14の裏当材としての役割を、位置規制部材の軸材15で兼用する、より経済的な裏当材兼用位置規制軸材18を有する溶接接合構造を図6に示すが、図6aは、図4bの任意の間隔A19を0として、位置規制部材の軸材15同士を接触させて位置規制部材の固定金物16で固定し、当該位置規制部材の軸材15の一方の端部を内側裏当接合ガイド13の裏当材の役割を兼用するようにして裏当材兼用位置規制軸材18とし、図6bは、図5bの任意の間隔A19を0として、位置規制部材の軸材同士を接触させて位置規制部材の固定金物16で固定し、当該位置規制部材の軸材15の一方の端部を外側裏当接合ガイド14の裏当材の役割を兼用するようにして裏当材兼用位置規制軸材18とし、共に作業スペースである任意の間隔A19が0であるため、溶接部と同じ側に当該裏当材兼用位置規制軸材18を配置して溶接部を形成することはできないが、任意の間隔B20を有する金属板端部と当該裏当材兼用位置規制軸材18の一方の端部とで形成される溶接溝に溶着金属を溶接して金属板の厚さに相当する十分な肉厚を有する溶接部を形成している。
【0055】
以上より、(1)溶接の作業性と品質の確保、および(2)工事全体の経済性の優先、を鑑みて判断して得られた、図1乃至2に示す溶接接合方法が最も効果的な形態である、という結論、と、図4乃至6に示す具体的な溶接構造との組合せは、断面形状にかかわらず、天井に相当する範囲の溶接構造は図6a、床乃至壁に相当する範囲の溶接構造は図5a、に示す溶接接合構造が最も効果的な形態であるといえる。
【0056】
ただし、内側スペースの狭い非常出口トンネルなどのシェルター内殻ユニット2では、天井に相当する範囲に図4a、床乃至壁に相当する範囲に図5b、に示す内側に位置規制部材を配置しない溶接接合構造を採用して狭い内側空間の有効性を高めることができるなど考えられるので、適宜、判断する必要はある。
【0057】
また、外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10は、天井に相当する範囲7に図4b、床乃至壁に相当する範囲6に図5a、の溶接接合構造を有するシェルター内殻ユニット2a、2bの接合部3の詳細例を図7に示す。
【0058】
図7bは、溶接前を示す図7aの任意の間隔B20を有する互いの金属板1と内側および外側裏当接合ガイドで形成される溶接溝に溶接を施した後の溶接部が示されており、図に示される外側溶接部8と内側溶接部9の端部接合溶接部10が重要な部位であり、当該端部接合溶接部を形成することで、接合部に施す溶接部が途切れない環状に形成されることになり、本発明の課題である高い耐久性と完全な防湿防水性、電磁シールド性を確保することができる。
【0059】
以上、本発明のシェルター内殻ユニットの溶接接合方法と溶接接合構造について、当該溶接接合方法と溶接接合構造は、いわゆるシェルターとして利用することのできる地下室や、その他の鋼構造物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 金属板
2、2a、2b シェルター内殻ユニット
3 接合部
4 外側溶接部の範囲
5 内側溶接部の範囲
6 床乃至壁に相当する範囲
6a 床に相当する範囲
6b 壁に相当する範囲
7 天井に相当する範囲
8 外側溶接部
9 内側溶接部
10 外側溶接部と内側溶接部の端部接合溶接部
11 水平乃至垂直の傾斜角度
12 垂直を超える傾斜角度
13 内側裏当接合ガイド
14 外側裏当接合ガイド
15 位置規制部材の軸材
16 位置規制部材の固定金物
17 位置規制部材のスペーサー付固定金物
18 裏当材兼用位置規制軸材
19 任意の間隔A
20 任意の間隔B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合方法であって、当該溶接接合方法は、ユニット同士の接合部をユニットの外側から溶接する外側溶接部とユニットの内側から溶接する内側溶接部とに分けて溶接し、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士を溶接して接合し、ユニット接合部の溶接を途切れない環状に形成して接合することを特徴とするシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項2】
溶接接合方法は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とすることを特徴とする請求項1記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項3】
溶接接合方法は、接合部の床乃至壁に相当する範囲をユニットの内側から溶接して内側溶接部とし、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接して外側溶接部とすることを特徴とする請求項1記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項4】
外側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの内側に内側裏当接合ガイドを設けて外側溶接部を形成することを特徴とする請求項1記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項5】
内側溶接部は、当該接合部に位置規制部材を設けてユニット間に任意の間隔を設定し、ユニットの外側に外側裏当接合ガイドを設けて内側溶接部を形成することを特徴とする請求項1記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項6】
互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を使用して溶接することを特徴とする請求項4乃至5記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項7】
裏当材を兼用する位置規制部材を使用して溶接することを特徴とする請求項4乃至5記載のシェルター内殻ユニット溶接接合方法。
【請求項8】
金属板からなる水平方向筒状体であるシェルター内殻ユニット同士の溶接接合構造であって、当該溶接接合構造は、ユニットの外側から溶接された外側溶接部とユニットの内側から溶接された内側溶接部とからなり、且つ、外側溶接部と内側溶接部の端部同士が接合溶接されユニット接合部の溶接が途切れない環状に形成されていることを特徴とするシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項9】
溶接接合構造は、接合部の水平乃至垂直の傾斜角度を有する範囲をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、垂直を超える傾斜角を有する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなることを特徴とする請求項8記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項10】
溶接接合構造は、接合部の床乃至壁をユニットの内側から溶接した内側溶接部と、天井に相当する範囲をユニットの外側から溶接した外側溶接部と、からなることを特徴とする請求項8記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項11】
外側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの内側に外側溶接部を形成するための内側裏当接合ガイドとが、設けられていることを特徴とする請求項8記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項12】
内側溶接部は、ユニット間に任意の間隔を設定するための位置規制部材と、ユニットの外側に内側溶接部を形成するための外側裏当接合ガイドとが、設けられていることを特徴とする請求項8記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項13】
互いのユニットの任意の位置に金属板と一体的に形成した軸材と、当該軸材同士の間に介在したスペーサー固定金物と、からなる位置規制部材を形成したことを特徴とする請求項11乃至12記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。
【請求項14】
裏当材を兼用する位置規制部材を形成したことを特徴とする請求項11乃至12記載のシェルター内殻ユニット溶接接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2012−140779(P2012−140779A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293149(P2010−293149)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(710014694)
【Fターム(参考)】