説明

シャフトシール

【課題】コークス化の危険性を、最小にすることが可能であるように構成された、流体機関のシャフトシールを提供する。
【解決手段】流体機関のシャフト20の回転ホイール側のシール41,42と、軸受側のシール43との間には、オイル排出チャンバ53が設けられている。このオイル排出チャンバは、軸受ハウジング31とシャフト20,22との間の第三のシール44によって区画されている。第三のシール44と、回転ホイール側のシールとの間に、ガス流出チャンバ55が設けられており、この構造は、オイル排出溝52、63の領域で、少なくとも一つのオイルスプレー装置61によって、能動的に冷却される。このことによって、シャフトシールのコークス化を阻止することが可能である。本発明によれば、第三のシール44は、オイル排出チャンバからのオイルを、ガス流出チャンバからのガスから分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機関の、特に、内燃機関の排気ガスが当てられる排気ガス・ターボチャージャの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力を増大させるために、今日、標準では、排気ガス・ターボチャージャが用いられる。排気ガス・ターボチャージャは、内燃機関の排気ガス流れ(Abgastrakt)に設けられたタービンと、内燃機関に前置されたコンプレッサと、からなる。このコンプレッサは、共通のシャフトを介して、タービンに接続されている。排気ガス・ターボチャージャを用いた内燃機関の過給によって、充填量を、従ってまた燃料量を、シリンダ内で増大させ、これにより、エンジンのための出力の顕著な増大を得る。選択肢として、内燃機関の排気ガス中にあるエネルギーを、パワータービンによって、電気的なまたは機械的なエネルギーに変換することが可能である。この場合、排気ガス・ターボチャージャの場合のようなコンプレッサの代わりに、発電機または機械的負荷がタービンシャフトに接続される。
【0003】
排気ガス・ターボチャージャは、標準では、シャフトとコンプレッサ・ホイールとタービンホイールとからなるロータ、シャフトのための軸受、流れを運ぶハウジング部分(コンプレッサハウジング及びタービンハウジング)、及び軸受ハウジングから構成される。
【0004】
タービン側の流れ領域及びコンプレッサ側の流れ領域における高いプロセス圧力の故に、排気ガス・ターボチャージャのシャフトは、軸受ハウジングの中空空間に対し、適切な密封コンセプトをもって密封される。軸受ハウジングの中空空間中の内圧は、通常、大気圧に対応する。これに対し、コンプレッサ側及びタービン側の流路の中のガス圧は、排気ガス・ターボチャージャの実際の動作点に依存しており、大抵の動作点では、軸受ハウジングの中空空間中の圧力を超えている。しかしまた、所定の場合には、例えば、部分負荷運転中にまたは停止の際に、低圧が考慮されねばならない。
【0005】
特許文献1から、排気ガス・ターボチャージャの、タービン側のシャフトシールが公知である。このシャフトシールは、ラジアル軸受のタービン側に設けられた簡単なオイル受けチャンバ、並びにシャフトと軸受ハウジングの間の密封作用を有するピストンリングから構成される。ラジアル軸受から軸方向に流出する軸受用オイルは、外側へずれており且つ回転するシャフト肩部にかかり、遠心力によって、オイル受けチャンバへ遠心分離される。かようにして遠心分離された軸受用オイルは、続いて、重力に従って、オイル受けチャンバの中で下方に流れ、再度、軸受湿潤のオイル循環系統へ戻る。
【0006】
流路からタービンの後方チャンバを通って軸受ハウジングの中空空間へのガス漏れを減じるために、標準では、金属、例えば鼠鋳鉄製のピストンリングが用いられる。応力がかけられたピストンリングは、軸受ハウジングの軸方向のストッパ肩部によって、径方向の溝の中で予圧される。回転するシャフトは、ピストンリングに対する対応物として、径方向の溝を有している。ピストンリングは、この溝内で、軸方向に捉えられており、この溝を径方向に覆う。排気ガス圧力と、軸受ハウジングの内部の圧力との間の差圧の故に、ピストンリングは、溝内に今ある圧力勾配の方向に、軸方向にストッパへ移動される。ピストンリングが溝の複数の内面の一つに軸方向に載っていることによって、ピストンリングは研摩され、排気ガス流に対して、軸受ハウジングのプレナムを密封する。
【0007】
密封作用を改善するために、二つまたはそれより多いピストンリングが用いられる。このことは、例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4または特許文献5に開示されている。これらの文献には、高温の排気ガスに対する密封作用が、二つのピストンリングの間の空間の遮断空気または排気の追加的な使用によって高められ、このことによって、軸受ハウジングへの排気ガスの逃げが完全に阻止されることが可能になる。
【0008】
特許文献6から、排気ガス・ターボチャージャの、タービン側のシャフトシールが公知である。シャフトシールの場合、軸受箇所と二つのピストンリングとの間のラジアル軸受からオイルの排出がなされる。ここでは、オイルの密度の改善のために、簡単な軸方向のシャフト肩部の代わりに、追加の遠心分離ディスクが用いられる。従って、ピストンリングの溝の領域に生じる望ましくない軸受用オイルの量を、著しく減じることが可能である。
【0009】
同様に、特許文献7及び特許文献8に記載のシャフトシールでは、ラジアル軸受と、隣接のピストンリングとの間で、オイルの排出がなされる。オイルの排出通路は、常に、一つのチャンバからなる。更に、二つのピストンリングの間の中空空間は、追加的な接続通路によって、軸受ハウジングの中空空間に接続されており、周囲の大気圧へ換気される。左側のピストンリングの上方の、結果的に生じる圧力差は、換気によって阻止される。それ故に、ピストンリングは、主に、オイルを密封するが、高熱ガスは密封しない機能を担う。従って、右側のピストンリングのみが、圧力下にある流路と、軸受ハウジングの中空空間との間の密封を担う。
【0010】
従って、このような構造上の変形例によって、(ラジアル軸受からの)オイル及び(流路からの)排気ガスのための二つの分離した排出通路が生じる。これらの排出通路は、一つのピストンリングによって分離される。ラジアル軸受から流出する潤滑オイルは、場合によっては、軸方向に、ガスシールのピストンリング領域へスプレーし、不都合な場合には、ピストンリングの溝全体にあふれる。通常は、コンプレッサまたはタービンの流路中のガス圧力は、ターボチャージャの軸受ハウジングにおける内圧よりも大きい。かくして、プラスの圧力差(流路内の圧力が、軸受ハウジングの中空空間における圧力よりも高い)は、結果として、調整されるガス漏れが、ピストンリング・シールを通過し、ピストンリングの領域に意図せずに浸入した軸受用オイルを、軸受ハウジングのオイル受けチャンバへ運び戻すこととなる。
【0011】
このことに対抗しようとするのが、特許文献9に記載の、ロータシャフトの潤滑された軸受のためのシール装置である。このシール装置は、排気ガス・ターボチャージャの軸受ハウジングを、供給される潤滑剤に抗して軸方向に密封する。ロータシャフト上には、ギャップの、ラビリンスの、またはピストンリングの形態の第一のシールと、狭いギャップまたはラビリンスの形態の第二のシールとが、設けられている。両者は、互いの間に、ロータシャフトの周囲の回りに環状に延びているオイル排出通路を囲んでいる。このオイル排出通路は、ハウジング側のオイル排出溝と、同一軸上の位置に設けられた、シャフト側のオイル排出通路とによって構成されている。オイル排出通路には、ロータシャフトの径方向に自由な一端が環状のオイル排出通路に突入している環状のシールウェブが設けられている。このシールウェブは、オイル排出通路に浸入する潤滑剤にとって、軸方向に作用するバリヤであり、第二のシールのギャップを径方向に覆う。
【0012】
特許文献10から公知の排気ガス・ターボチャージャは、二部構成の軸受ハウジングからなり、この軸受ハウジングでは、第一の部分からオイルが、冷却のために、第二の部分の表面にスプレーされる。
【0013】
タービン側でシャフトシールをするという、記述した全てのコンセプトでは、一定の状況で、以下の危険性がある。この危険性とは、高温ガスが、ピストンリング・シールによって、排気ガス・ターボチャージャのホイール後方チャンバから漏れ出て、ピストンリング領域及びオイル排出溝に残っている軸受用オイルが、局所的に燃焼し、このことによって、シャフトシールの著しいコークス化及びこれに結びついた磨耗を引き起こすと言うことである。コークス化の危険性は、排気ガスの温度の上昇及びピストンリングを通るガス漏れの増大並びに構成部材の冷却の不良に伴って増える。かくして、このシール部分の能動的な冷却は、シャフトシールの運転安全性にとって決定的である。
【0014】
特許文献11から、コンプレッサ・ホイールの後部にある、アキシャル軸受の領域に、オイルのはね防止として、環状のシールプレートを有する排気ガス・ターボチャージャが公知である。
【0015】
特許文献12から公知の排気ガス・ターボチャージャは、コンプレッサ・ホイールの後部にあるシャフトシールの領域に、二つのピストンリングの間にオイル排出管を有し、この排出管を通って、真空ポンプを用いて、二つのピストンリングの間の区域が、場合によっては浸入するオイルによって洗浄される。
【0016】
特許文献13から公知の排気ガス・ターボチャージャは、コンプレッサ・ホイールの後部にあるシャフトシールの領域に、ラビリンス・シールを有し、このラビリンス・シールにより、オイルが、潤滑オイル循環系統から二つのコンプレッサの作業空間へ達することが可能であることを阻止することが意図されている。
【特許文献1】独国特許第 DE 20 25 125 号明細書
【特許文献2】スイス国特許出願公開第 CH 661 964 A5 号明細書
【特許文献3】独国特許第 US 3 180 568 号明細書
【特許文献4】米国特許第 US 4 196 910 号明細書
【特許文献5】欧州特許第 EP 1 860 299 号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第 DE 37 37 932 A1 号明細書
【特許文献7】米国特許第 US 4 268 229 号明細書
【特許文献8】独国特許第 DE 30 21 349 号明細書
【特許文献9】独国特許第 DE 10 2004 055 429 B3 号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第 DE 43 30 380 A1 号明細書
【特許文献11】独国特許出願公開第 DE 197 13 415 A1 号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第 US 2005/0188694 A1 号明細書
【特許文献13】米国特許第 US 4,523,763 号明細書
【発明の概要】
【0017】
本発明の課題は、流体機関の、軸受ハウジングに取り付けられたシャフトのシャフトシールであって、循環オイルの排出挙動を改善し、且つ、ピストンリング用シールのコークス化の危険性を、シール部品の能動的な冷却によって最小にすることが可能であるように構成されたシャフトシールを提供することである。
【0018】
流体機関の、軸受ハウジング内の中空空間と、回転ホイールのホイール後方チャンバとの間に設けられた、流体機関の、軸受ハウジングに取り付けられたシャフトのシャフトシールは、複数のシールを有している。これらのシールは、例えば、少なくとも一つのピストンリングの形態に形成されることが可能である、第一の、回転ホイール側のシール、並びに、例えば、軸受ハウジングとシャフトとの間のシールギャップの形態に形成されることが可能である、第二の、軸受側のシールである。回転ホイール側のシールと、軸受側のシールとの間には、オイル排出チャンバが設けられている。
【0019】
オイル排出チャンバは、例えば軸受ハウジングとシャフトの間のシールの間のシールギャップの形態に形成されている、第三の、中間のシールによって区画されている。更に、第三のシールと、第一の、回転ホイール側のシールとの間には、本発明によれば、ガス流出チャンバが設けられる。本発明によれば、第三のシールは、二つの媒体同士、つまり、オイル排出チャンバからのオイルと、ガス流出チャンバからのガスとをきれいに分離する。このことによって、オイル排出チャンバにおけるコークス化の危険性を最小にすることが可能である。何故ならば、二つの媒体は、同一の収集チャンバ内で互いにぶつからないからである。二つの媒体は、第三のシールによって、互いに分離されて、少なくとも二つの排出通路を通って、軸受ハウジングのプレナムへ脇へ逸らされる。
【0020】
更に、本発明に係るシャフトシールは、少なくとも一つの斜めに整列されたスプレー装置によって、能動的に冷却される。スプレーオイルが、排出チャンバに達することは意図されていない。シャフトシールは、構造上、以下のように、即ち、可能な限り多くのスプレーオイルが、軸受ハウジングの及び選択的なインサートの、及びインサートの中に組み込まれたピストンリングの材料温度を低く保ち、幾つかの排出チャンバにおけるオイルのコークス化を阻止する。
【0021】
選択肢として、本発明に基づいて形成されたシャフトシールの部分である、軸受ハウジングの領域は、インサートとして形成されていても良い。インサートは、運転による磨耗の際に、容易に交換されるが、しかし、例えば洗浄の目的で、短時間、軸受ハウジングから取り外されることが可能である。更に、このインサートのための材料としては、可能な限り高い熱伝導性を有する材料を選択することが可能である。
【0022】
選択肢として、シャフトの、本発明に基づいて形成されたシャフトシールの部分であって、自らの輪郭が、軸受ハウジングと共にオイル排出チャンバ及びガス流出チャンバを形成する、シャフトの領域は、シャフトと共に回転するスリーブ状のアタッチメントとして形成されていても良い。このアタッチメントをシャフト上で収縮接合し、ネジで取り付け、あるいは他の方法で、形状によりおよび/または力によってシャフトと結合することが可能である。選択肢として、アタッチメントは、シャフトの材料よりも改善された熱伝導性または増大した絶縁作用を有する材料で製造される。かようにして、オイル排出溝において起こり得るオイルのコーコス化を阻止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ラジアルコンプレッサ及びラジアルタービンを有する、従来の技術に基づく排気ガス・ターボチャージャの、部分的に切り開かれた図を示す。
【図2】図1に示す排気ガス・ターボチャージャの、本発明に基づいて形成された、タービン側のシャフトシールの、シャフトに沿って切られた断面図を示す。
【図3】図2に示すシャフトシールの、第二の実施の形態のハウジング部分を下から見た図を示す。
【図4】図3に示すハウジングの、IV−IVに沿って切った断面図を示す。
【図5】シャフトに収縮接合されたアタッチメントを有する、図2に示したシャフトシールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係るシャフトシールを詳述する。図1は、ラジアルコンプレッサ90及びラジアルタービン10を有する、従来の技術に基づく排気ガス・ターボチャージャを示す。図示された排気ガス・ターボチャージャのハウジングは、部分的に切り開いて示されている。その目的は、コンプレッサ・ホイール91と、シャフト20と、タービンホイール11とを有するロータを見ることを可能にするためである。空気流入口92からコンプレッサ・ホイール91を通って空気流出口93までの空気の流れ、並びにガス流入口12からタービンホイール11を通ってガス流出口13までの空気の流れは、太い矢印で示されている。シャフト20は、通常、二つのラジアル軸受及び少なくとも一つのアキシャル軸受によって、軸受ハウジング30に回転自在に取り付けられている。
【0025】
図2は、タービン側のラジアル軸受34の領域における、排気ガス・ターボチャージャまたはパワータービンを、拡大して示している。このラジアル軸受のタービン側には、即ち、ラジアル軸受の右側の描写には、本発明に基づいて三部構成に形成されたシャフトシールが設けられている。このシャフトシールは、軸受ハウジングの中の中空空間50を、タービンホイール11のホイール後方チャンバ15から分離する。本発明に基づいて形成されたシャフトシールの、図示された実施の形態では、軸受ハウジングは、シャフトシールの領域で、別個の構成部材として実現可能なインサート(シーリングブッシュ)31を有している。インサート31は環状に形成されており、ラジアル軸受34から径方向外側に遠心分離され且つ側方に放出されるスプレーオイルのための、径方向外側のオイル排出溝52を有している。
【0026】
インサートには、直接または間接に、スプレーオイルがスプレーされ、このことによって、インサートが能動的に冷却される。スプレーオイルは、オイルスプレー装置61によって、冷却される構成部材へ導かれる。オイルの供給は、タービン側の軸受フランジ62に形成されたオイル通路60を通ってなされる。オイルスプレー装置61は、図示した実施の形態では、スプレーオイルが軸受ハウジング30の領域で内郭63に当たり、且つインサートのオイル排出溝52の領域を濡らすように、孔として設計され且つ整列されている。スプレーオイルと、軸受34及びオイル排出溝51からのオイルとによって、インサートと、インサートの中にあるピストンリングと、シールと、排出チャンバとは、纏めて冷却され、コークス化が著しく阻止される。ピストンリング及び排出チャンバへの冷却作用を高めるために、インサート31が、選択肢として、可能な限り高い熱伝導性を有する材料で製造されている。
【0027】
更に、シャフトシールの構成要素31,30,41,42は、追加のヒートプレート70によって、高温のタービン後方チャンバ11及びホイール後方チャンバ15から分離されている。ヒートプレート70は、高温のタービン後方チャンバ11と、シャフトシールのインサート31との間のホイール後方チャンバ15の領域に設けられている。選択肢として、ヒートプレートは、インサート上に載っていてもよく、ヒートプレートの、径方向内側の領域71に、載置面71がある。このヒートプレート70によって、材料温度が、インサート31とピストンリング41,41との領域で、更に減じられる。このことは、同様に、コークス化の傾向を最小にする。オイル排出溝52は、軸方向に、径方向に引き出されたシールプレート32によって区画されている。シールプレート自体は、同様に、排出通路51の中のオイルによって冷却される。
【0028】
更に、インサートは、二つの直列に配列されたピストンリング41及び42を収容するためのリセスを有している。これらのピストンリングは、知られており、ピストンリングの機能方法は、冒頭に、従来の技術の項に記載されている。インサートは、更に、径方向内側にある領域で、オイル排出チャンバ53と、二つのピストンリング41及び42からのガス漏れのための別個のオイル流出チャンバ55と、このオイル排出チャンバ53及びガス流出チャンバ55を互いに分離するシールウェブ33とを有している。
【0029】
ラジアル軸受34とシールプレート32との間のオイル排出溝51は、ラジアル軸受から流出する軸受用オイルの第一の主排出通路を形成する。シールプレート32は、シャフト20の、径方向に向かい合う第一のウェブ21と共に、第一の径方向のシールギャップ43を形成する。シールギャップの故に、軸受用オイルの、オイル排出溝51からオイル排出チャンバ53への浸入が最小にされる。オイル排出チャンバ53の、回転するシャフトの輪郭(Wellenkontur)は、径方向内側にずれた排出溝を有する。このことによって、オイル排出チャンバ53の内側には、この溝の左右に二つの噴出エッジが生じる。噴出エッジを通って、オイル排出チャンバ53の、インサート31の溝によって形成された径方向外側の領域へ、遠心分離されたオイルが、オイル排出チャンバ53内の重力の故に、インサート31の輪郭に沿って下方へ流れる。軸受用オイルを、オイル排出チャンバ53から、軸受潤滑系統のオイル循環へ戻すことが可能であるように、オイル排出チャンバ53は、下方領域で、少なくとも一つのオイル排出通路54を有している。
【0030】
本発明に基づいて形成されたシャフトシールのインサート31は、オイル排出チャンバ53の脇に設けられたガス流出チャンバ55が設けられていることを特徴とする。ガス流出チャンバは、オイル排出チャンバ53から、環状のシールウェブ33によって区切られている。環状に形成されたガス流出チャンバ55は、ピストンリング41及び42を通って貫流する高温ガスを集めるために、用いられる。シールウェブ33は、シャフト20の、径方向に向かい合っている第二のウェブ22と共に、第二の径方向のシールギャップ44を形成する。本発明によれば、このシールギャップ44は、二つの媒体を分離し、即ち、オイル排出チャンバ53からのオイルを、ガス流出チャンバ55からのガスからきれいに分離する。
【0031】
ガス流出チャンバ55に溜められたガスは、同様に、インサート33内の少なくとも一つの別個のガス排出通路56を通って、且つオイル排出通路54とは別個に、軸受ハウジング内の中空空間50の共通の容量領域へ移される。二つの排出通路の適切な分離によって、二つの媒体の混合が、オイル排出チャンバ53の領域で阻止され、このことによって、シール結合体におけるコークス化の危険性が減じられる。更に、大きなオイル排出溝51及び第一のシール箇所即ちシールギャップ43によって、ラジアル軸受34から流出する軸受用オイルの主成分が、外側へ排出され、オイル排出溝52を通って、ピストンリングの箇所から遠ざけられる。
【0032】
図3及び図4に示すように、選択肢として、少なくとも一つのオイル排出通路54及びガス排出通路56の出口が周方向にずれて設けられている。図3は、シャフトを有しないインサート31及び隣接する複数のハウジング部分を下から見た図を示す。二つのオイル排出通路54及びガス排出通路56からなり、且つインサートから下方へ延び出ている開口部は、軸方向に及び特に周方向にずれている。図4は、IV−IVに沿って切った断面で、排出通路、及び径方向内側に突出しているシールプレート32、並びにガス排出通路56の領域で、同様に径方向内側に突出しているシールウェブ33を示す。複数のずれた通路出口は、インサートの強度の増大をもたらす。
【0033】
図示した実施の形態では、シール43及び44は、径方向のシールプレートとして設計されている。選択肢として、これらのシールは、ピストンリング・シールまたは他のシール要素で補うかまたは交換することが可能である。
【0034】
選択肢として、軸受ハウジングが、本発明に基づいて形成されたシャフトシールの領域に、別個のインサートを有することなく、形成されることが可能である。この場合、このような溝、シールプレート及びシールウェブは、直接に軸受ハウジングに入れられている。別個のインサートを有しない、一体的に形成された変形例と比較して、別個のインサートを有する、詳述された実施の形態は、インサートが、シール部分の冷却のために、良好な熱伝導性を有する材料(例えば、Ck45)で製造されることが可能であり、従って、用いられた軸受ハウジング用材料(例えばGGG40)に無関係であるという利点を有する。更に、インサートは、作動による損耗の際に、容易に交換され、しかし、例えば洗浄の目的で、短時間、軸受ハウジングから取り外されることが可能である。
【0035】
選択肢として、図5に示すように、タービンの、回転するシャフトの輪郭を、本発明に基づいて形成されたシャフトシールの領域で、スリーブ状のアタッチメント81によって設計することが可能である。アタッチメント81は、シャフト上のシート82に収縮接合され、シャフトに形成された縁部は、アタッチメントの軸方向ストッパ83として用いられる。アタッチメント並びにシャフトのシートは、熱の放出がオイルの冷却によって最大化され、且つ熱の供給が、シャフト上への焼き嵌めによって最小化されるように、設計されている。従って、アタッチメントは、良好に熱伝導する材料で製造される。アタッチメントの冷却によって、オイル排出溝が同様に冷却される。このことは、同様に、排出チャンバ53及び55におけるコークス化の危険性を最小にさせる。選択肢として、アタッチメント81を、他の方法でも、例えば、アタッチメントとシャフトの間のねじ結合手段(ネジ)によって、力による係合でおよび/または形状による係合で取り付けることが可能である。
【0036】
図示した実施の形態では、シャフトシールは、二つのピストンリング41及び42を有する。その代わりに、只一つのピストンリングが設けられていても良い。あるいは、シャフトシールの領域にまたはシャフトシールの他の位置に、更なるピストンリングが設けられていても良い。
【0037】
図示した且つ詳述した実施の形態は、排気ガス・ターボチャージャのまたはパワータービンのタービン側に、本発明に基づいて形成されたシャフトシールを示す。当然ながら、本発明に基づいて形成されたシャフトシールを、同様に、排気ガス・ターボチャージャのコンプレッサ側に、または任意の他の流体機関にも用いることも可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…タービン、11…タービンホイール、12…ガス流入口、13…ガス流出口、15…回転ホイールのホイール後方チャンバ、20…シャフト、21…シールウェブ、22…シールウェブ、30…軸受ハウジング、31…軸受ハウジングのインサート、32…シールプレート、33…シールウェブ、34…ラジアル軸受、41…回転ホイール側のシールのピストンリング、42…回転ホイール側のシールのピストンリング、43…径方向のシールギャップ、44…径方向のシールギャップ、50…軸受ハウジング内の中空空間、51…オイル排出溝、52…オイル排出溝、53…オイル排出チャンバ、54…オイル排出通路、55…ガス流出チャンバ、56…ガス排出通路、60…オイル通路、61…オイルスプレー装置、62…タービン側の軸受フランジ、63…軸受ハウジングの内郭、70…ヒートプレート、71…載置箇所、81…シャフトと共に回転するアタッチメント、82…シャフトシート、83…軸方向ストッパ、90…コンプレッサ、91…コンプレッサ・ホイール、92…空気流入口、93…空気流出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機関の、軸受ハウジング(30)内の中空空間(50)と、流体機関の回転ホイール(11)のホイール後方チャンバ(15)との間の、流体機関の、前記軸受ハウジング(30)に取り付けられたシャフト(20)のシャフトシールであって、
前記軸受ハウジング(30,31)と前記シャフト(20,21)との間の、回転ホイール側のシール(41,42)、並びに前記軸受ハウジング(30,31)と前記シャフト(20,21)との間の、軸受側のシール(43)を有し、回転ホイール側のシールと、軸受側のシールとの間には、オイル排出チャンバ(53)が設けられているシャフトシールにおいて、
前記オイル排出チャンバ(53)は、前記軸受ハウジング(30,31)と前記シャフト(20,22)との間の第三のシール(44)によって区画されていること、及び、
この第三のシールと、前記回転ホイール側のシールとの間に、ガス流出チャンバ(55)が設けられており、前記軸受ハウジングへは、前記オイル排出チャンバ(53)の径方向外側に、オイル排出溝(52)が形成されており、前記オイル排出溝(52)の領域には、前記オイル排出溝の領域にオイルをスプレーすることを可能にするために用いられる少なくとも一つのオイルスプレー装置(61)が設けられていること、
を特徴とするシャフトシール。
【請求項2】
前記オイル排出チャンバ(53)及び前記ガス流出チャンバ(55)は、夫々、少なくとも一つの別個の排出通路(54,56)を有する、請求項1に記載のシャフトシール。
【請求項3】
前記オイル排出チャンバ(53)の前記少なくとも一つに排出通路(54)と、前記ガス流出チャンバ(55)の前記少なくとも一つの排出通路(56)とは、互いに分離していて、前記軸受ハウジング(30)内の中空空間(50)に通じている、請求項2に記載のシャフトシール。
【請求項4】
前記オイル排出チャンバ(53)の前記少なくとも一つに排出通路(54)と、前記ガス流出チャンバ(55)の前記少なくとも一つの排出通路(56)とは、周方向にずれて、前記軸受ハウジング(30)内の前記中空空間(50)に通じている、請求項3に記載のシャフトシール。
【請求項5】
前記軸受ハウジングは、前記シャフトシールの領域に、インサート(31)を有し、このインサートには、複数のリセスが入れられており、これらのリセスは、前記オイル排出チャンバ(53)及び前記ガス流出チャンバ(55)を形成する、請求項1に記載のシャフトシール。
【請求項6】
前記シャフトは、前記シャフトシールの領域に、アタッチメント(81)を有し、このアタッチメントは、前記軸受ハウジングと共に前記オイル排出チャンバ(53)及び前記ガス流出チャンバ(55)を形成する輪郭を有する、請求項1に記載のシャフトシール。
【請求項7】
前記アタッチメント(81)は、前記シャフトの材料に比較してより高い熱伝導性を有する材料から製造されている、請求項6に記載のシャフトシール。
【請求項8】
前記軸受ハウジングは、前記シャフトシールの領域に、インサート(31)を有し、このインサートには、複数のリセスが入れられており、これらのリセスは、前記オイル排出チャンバ(53)及び前記ガス流出チャンバ(55)を形成する、請求項1に記載のシャフトシール。
【請求項9】
シャフト(20)上に設けられた少なくとも一つの回転ホイール(11)と、前記シャフト(20)が回転自在に取り付けられた軸受ハウジング(30)と、を備えた流体機関であって、
前記軸受ハウジング(30)と前記シャフト(20)との間に、請求項1から8の何れか1項に記載のシャフトシールが設けられている流体機関。
【請求項10】
シャフト(20)上に設けられた少なくとも一つのタービン用回転ホイール(11)と、前記シャフト(20)が回転自在に取り付けられた軸受ハウジング(30)と、を備えた排気ガス・ターボチャージャまたはパワータービンであって、
前記軸受ハウジング(30)と前記シャフト(20)との間に、請求項1から8の何れか1項に記載のシャフトシールが設けられているパワータービン。
【請求項11】
シャフト(20)上に設けられた少なくとも一つのタービン用回転ホイール(11)と、前記シャフト(20)が回転自在に取り付けられた軸受ハウジング(30)と、を備えた排気ガス・ターボチャージャであって、
前記軸受ハウジング(30)と前記シャフト(20)との間に、請求項1から8の何れか1項に記載のシャフトシールが設けられた排気ガス・ターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220338(P2011−220338A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87016(P2011−87016)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(501405177)アーベーベー ターボ システムズ アクチエンゲゼルシャフト (37)
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 71a, CH−5400 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】