説明

シャーシフレーム

【課題】曲げ剛性および捩れ剛性の高いシャーシフレームを提供すること。
【解決手段】間隔をおいて配置される一対のサイドレールとこれらのサイドレールを連結するクロスメンバで構成されるシャーシフレームにおいて、少なくともサイドレール2の一部または全部は、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記高ヤング率鋼板は、その圧延方向がサイドレール2の長手方向となるように配置され、上記クロスメンバ3に固着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材、自動車のシャーシフレームに使用される構造部材に関し、より詳しくは鋼材の寸法や板厚を増さずに、曲げ剛性あるいは捩れ剛性を向上させたシャーシフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図19に示すように、対象とするトラック等の自動車のシャーシフレーム10は、例えば、トラック等の車両幅方向に間隔をおいて平行に、車両長さ方向に延長するように配置される一対のサイドレール11と、サイドレール11に直行し各サイドレール11に結合されるクロスメンバ12とで構成される。サイドレール11とクロスメンバ12の両部材は、溶接、ボルトあるいはリベットなどで結合され、梯子状フレームの形態を有している。
【0003】
前記のサイドレール11あるいはクロスメンバ12は、プレス成形,ロール成形,ハイドロフォーミングなどで一体成形された、あるいは溶接やボルトなどで組立てて成形された棒状の部材である。前記サイドレール11あるいはクロスメンバ12は、製造性能,組立性能,構造性能の各観点から、材長方向に複雑に変化し、また所々にボルト孔,通風孔,水抜き孔など複数の孔や切り欠きを有するのが一般的であるが、それらの断面形状はコの字形や箱形を基本とするものが大半である。そのため、以下の説明では、図1および図2に示すような単純な断面コの字形および断面箱形で表現した図を利用して行うが、部材長方向に断面形状が複雑に変化したり、また複数の孔や切り欠きを有するサイドレールやクロスメンバーを用いる場合も本出願に含まれる。
さらに前記「断面コの字形」のサイドレール11あるいはクロスメンバ12については、図21(a)(b)に示すようなリップのあるもの、図21(c)(d)(e)に示すような折れ曲がり部が直角でなく鋭角や鈍角のもの、あるいは図21(f)(g)(h)に示すような断面コの字形を構成する辺が直線でないものや,リブが施されるものについても、幾何学的には「断面コの字形」と類似であり、図1に示す単純な断面コの字形部材を用いた場合と同じ性状を示す。
前記「断面箱形」のサイドレール11あるいはクロスメンバ12については,図22(a)(b)(c)に示す断面台形、断面平行四辺形、断面四辺形はもちろんのこと、図22(d)(e)に示す断面不等辺多角形(不直線部を有するものを含む)や、図22(f)に示すリブが施されるものについても、幾何学的には「断面箱形」と類似であり、図2に示す単純な箱形部材を用いた場合と同じ性状を示す。
【0004】
前記のようなシャーシフレーム10には、図20(a)に矢印で示すような曲げ力P1と、図20(b)に矢印で示す捩れ力P2、P3が作用し、これらの力に抵抗するための曲げ剛性および捩れ剛性を高めることが、トラック等の自動車の構造性能(積荷保護性、運転操作性、振動性など)の改善に直接的につながる。
【0005】
シャーシフレーム10の曲げ剛性および捩れ剛性を高める場合、従来は、部材の寸法を大きくしたり、板厚を厚くしたり、あるいはサイドレール11とクロスメンバ12との結合度を高めたりする改良手段により、シャーシフレーム10の曲げ剛性および捩れ剛性を高めてきた。
【0006】
前記のようなサイドレール11とクロスメンバ12に使用される部材は、ユニバーサル圧延機によりフランジとウェブが一体となって製造される場合、複数の鋼帯を溶接により組み立てて製造される場合、あるいはプレス成形やハイドロフォーミングによって製造される場合がある。本発明においてはいずれの製造法による部材も使用することができる。
【0007】
本発明が対象とするシャーシフレーム10を構成するサイドレール11とクロスメンバ12を、例えば、図20(c)(d)に断面形状を示すように、単純なコの字形断面を有する部材により構成する場合は、互いに対向する一対のフランジ13、14と、この一対のフランジを連設するウェブ15を備えた形態となる。図16に示すように、断面コの字形の断面重心73を通り、上下フランジと平行な強軸71あるいはこれに直行する弱軸72まわりの曲げ剛性EIを向上させ、シャーシフレームの寸法あるいは板厚を増やすことなく、曲げ剛性あるいは捻れ剛性を向上させるための技術を対象にしている。
【0008】
ここに示す曲げ剛性EIとは、部材の断面二次モーメントI(部材の断面形状寸法のみから一律に定められる物理定数であり、強軸71まわりに計算した値)と、鋼材ヤング率(縦弾性係数)Eを掛け合わせた結果として、すなわちEIで与えられる部材の曲げ性能を表す指標である。この曲げ剛性EIを向上させる手段としては、部材の高さ寸法や幅寸法を増したり、板厚を増したりして、断面二次モーメントIを向上させることは一般的に行われている。
【0009】
曲げ剛性EIのもうひとつの支配要因である鋼材ヤング率Eは、非特許文献1では、設計用の値として205GPa(=kN/mm2)と定められている。本発明は、鋼構造物にかかるものであるため、この205GPaという値を「基準値」と定義する。
【0010】
この基準値は、異方性のある鉄の結晶粒の方位が偏ることなく配列したときの安定的な状態に基づき定められたものであるが、実際にはこの値に対して±5%程度の偏りが存在することになる。そのため、一般的な鋼材のヤング率は195GPa以上215GPa以下の範囲の値にあると一般に考えられている。すなわち、一般的な鋼材のヤング率は、基準値の205GPaを超えることはあっても、215GPaを超えることはないといえる。
【0011】
曲げ剛性EIを向上させる手段として、この鋼材ヤング率Eを向上させ、215GPa超とすることを狙った取組も以前からなされている。ヤング率Eの理論上最大値は約290GPaとなることが知られている(非特許文献2参照)が、例えば特許文献1を始めとして、ヤング率Eを290GPaに近づけるための、幾つかの方法が提案されている。しかしこれらの提案はいずれも、鋼材の圧延直角方向のヤング率を向上させた鋼板(C方向高ヤング率鋼)の開示である。
【0012】
また、たとえば特許文献2において、部材長手方向のヤング率を向上させるために、圧延鋼板の圧延方向に対してヤング率が最大となる方向へ向けて鋼板を斜めに切り出し、その切り出し方向が鋼管の長手方向と一致するように成形することにより、長手方向のヤング率を向上させた鋼管(高剛性鋼管)が開示されている。
【特許文献1】特開平8−311541号公報
【特許文献2】特開2004−330242号公報
【非特許文献1】日本建築学会、鋼構造設計規準 -許容応力度設計法-、2005
【非特許文献2】桑村仁、鋼構造の性能と設計、共立出版株式会社、2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1に示されるC方向高ヤング率鋼については、鋼材C方向の長さが圧延ローラの寸法による制限を受け、最長でも1.4m程度となる。これに対し、シャーシフレームのサイドフレームに利用する場合には、8〜9mに及ぶ長さが必要になるため、1.4m程度では短く、適用することができない。勿論、C方向にヤング率の高い1.4m程度の長さの鋼材を溶接等でつなぎ合わせて延長することは技術的には可能であるが、製造コストの観点から、その実現は困難である。
【0014】
また、特許文献2に示される高剛性鋼管は、円形や角形のパイプであり、断面コの字形鋼など上下フランジおよびウェブを有する部材を製造することはできない。
本発明は、これらの問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、各部材の寸法や板厚を増さずに鋼材の剛性を高め、そのような鋼材を使用して剛性を高めたサイドレールあるいはクロスメンバを組み込んだシャーシフレームとすることにより、曲げ剛性および捩れ剛性の高いシャーシフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明のシャーシフレームでは、間隔をおいて配置される一対のサイドレールとこれらのサイドレールを連結するクロスメンバで構成されるシャーシフレームにおいて、少なくともサイドレールの一部または全部は、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記高ヤング率鋼板は、その圧延方向がサイドレールの長手方向となるように配置され、上記クロスメンバに固着されていることを特徴とする。
また、第2発明では、第1発明のシャーシフレームにおいて、クロスメンバは、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記ヤング率鋼板は、その圧延方向がクロスメンバの長手方向となるように配置され、上記サイドレールに固着されていることを特徴とする。
また、第3発明では、第1発明または第2発明のシャーシフレームにおいて、クロスメンバは、圧延直行方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記高ヤング率鋼板は、その圧延直行方向がクロスメンバの長手方向となるように配置され、上記サイドレールに固着されていることを特徴とする。
また、第4発明では、第1発明に記載のシャーシフレームにおいて、少なくともクロスメンバの一部が、ヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トラック車両等のシャーシフレームの曲げ剛性および捻れ剛性を同時に高めることができ、トラック車両等の構造性能や安全性を向上させることができる。また、サイドレールまたはクロスメンバの寸法や板厚を増さずに剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1(b)は、本発明のシャーシフレーム1におけるサイドレール2またはクロスメンバ3として使用する断面コの字形鋼4の構成図である。図1(a)には、前記の断面コの字形鋼4を使用したシャーシフレーム1が示されており、間隔をおいて並行して配置される一対のサイドレール2は、これに直角に配置されると共に、その長手方向に間隔をおいて並行にクロスメンバ3が配置されて、クロスメンバ3の端部取付け部がシャーシフレーム1に固着されてシャーシフレーム1が構成されている。
図2(b)は、本発明の他の形態のシャーシフレーム1におけるサイドレール2またはクロスメンバ3として箱形断面の部材5の構成図である。図2(a)には、前記の部材5または断面コの字形鋼4を使用したシャーシフレーム1が示されており、間隔をおいて並行して配置される一対のサイドレール2は、これに直角に配置されると共に、その長手方向に間隔をおいて並行にクロスメンバ3が配置されて、クロスメンバ3の端部取付け部がサイドレール2に固着されてシャーシフレーム1が構成されている。
【0019】
前記のサイドレール2あるいはクロスメンバ3用の部材として、一例として使用される前記のコの字形鋼4は、互いに対向する一対のフランジ13,14と、この一対のフランジ13,14の幅方向端部間を連設するウェブ15により断面がコの字形に形成されている。また、前記のサイドレール2あるいはクロスメンバ3用の部材として、一例として使用される前記の部材5は、互いに対向する一対のフランジ13,14と、この一対のフランジ13,14の幅方向端部間を接続する一対のウェブ15により断面が箱形に形成されている。そして、フランジ13,14並びにウェブ15が一体に屈折または屈曲連設されている。なお、フランジ13上面及びフランジ14下面にはウェブ15がそれぞれ溶接により固定する形態でもよく、固着の手段としては、溶接,ドリルねじ、ボルト、接着或いはリベット等によってもかまわない。
【0020】
本発明のシャーシフレーム1においては、サイドレール2における一部、好ましくは全体、例えば、サイドレール2を断面コの字形鋼4または部材5とする場合に、断面コの字形鋼4または部材5の一部または全体が高ヤング率鋼板とされる。断面コの字形鋼4等からなるサイドレール2またはクロスメンバ3の一部を鋼ヤング率鋼板とする場合、例えば、図18(b)に示すように、フランジ13,14を高ヤング率鋼板としたり、図18(a)に示すように、ウェブ15を高ヤング率鋼板としたり、あるいは同図(c)に示すように、これらを高ヤング率鋼板としたり、あるいはリップ部を備えている断面コの字形鋼4である場合には、フランジまたはウェブを高ヤング率鋼板としたり、リップ部を含めて高ヤング率鋼板とすることができる。クロスメンバ3を断面コの字形鋼とした場合には、前記のサイドレール2と同様に高ヤング率鋼板とすることができる。
【0021】
前記のように、サイドレール2あるいはクロスメンバ3に高ヤング率鋼板を使用したシャーシフレーム1とするのは、シャーシフレーム1に使用されるサイドレール2あるいはクロスメンバ3の鋼材の寸法や板厚を増やさずに、シャーシフレーム1の曲げ剛性あるいは捩れ剛性を向上させ、トラック等の自動車の構造性能(積荷保護性、運転操作性、振動性など)を向上するように改善するためである。
【0022】
前記の断面コの字形鋼4において、例えば、断面コの字形鋼4の一部を高ヤング率鋼板とする場合であって、例えば好ましい形態として、少なくともこれらフランジ13、14は、圧延方向(L方向)のヤング率が215GPa超290GPa以下であるL方向高ヤング率鋼板で構成され、このL方向高ヤング率鋼板は、その圧延方向(L方向)がフランジ13、14の長手方向となるように、またウェブ15を高ヤング率鋼板とする場合には、その圧延方向(L方向)がウェブ15の長手方向となるように、熱間圧延加工あるいは溶接による組立式の断面コの字形鋼とされる(図15参照)。
すなわち、上記高ヤング率鋼板は、その圧延方向がサイドレール2の長手方向となるように配置されて使用され、あるいは圧延方向がクロスメンバ3の長手方向となるように配置される。このように高ヤング率鋼板の圧延方向が部材の長手方向となるように、サイドレール2の一部または全部あるいはクロスメンバ3の一部または全部、好ましくは、サイドレール2の全部およびクロスメンバ3の全部に高ヤング率鋼板が使用される。
【0023】
サイドレール2およびクロスメンバ3に使用される鋼ヤング率鋼板は、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成されている。
【0024】
本発明では、サイドレール2およびクロスメンバ3に適用するL方向高ヤング率鋼におけるヤング率の範囲を上記の通り定めているが、本発明範囲の下限値(すなわち215GPa)は、一般的な鋼材におけるL方向ヤング率Eの最大値に基づき定めており、また、本発明範囲の上限値(すなわち290GPa)は、鋼材のヤング率の理論上の最大値に基づき定めている。
【0025】
しかし、製造難度、製造時間、製造コスト、あるいは材料の歩留り等を考慮すれば、図17に示すように、圧延方向(L方向)のヤング率は225GPa以上260GPa以下であることが好ましく、更にいえば、230GPa以上250GPaであることが最も好ましい。
【0026】
以下に、さらに添付図面を参照しながら、本発明に好適な実施の形態について詳細に説明する。
(実施例1)
L方向(圧延方向)にヤング率の高い鋼材(例えば、高ヤング率鋼板)は、素材の特性上、L方向と45°の角度をなすD方向のヤング率が低くなる傾向を示す。
図3は、L方向(圧延方向)からの角度(°)とヤング率の関係の一形態を示したものである(方位0°がL方向、方位45°がD方向,方位90がC方向(圧延直行方向)であり、図中では、L,D,Cと表記)が、図4〜図6に示す実施例1のシャーシフレーム1では、このL方向高ヤング率鋼を利用して構成したシャーシフレーム1の形状詳細と、定量的効果を説明する。
図4(a)は、長さ8400mm、幅850mm、高さ300mmのシャーシフレーム1の斜視図を示し、(b)は前記シャーシフレーム1を構成するサイドレール2およびクロスメンバ3の断面図である。サイドレール2、クロスメンバ3は、両者共に板厚7.0mmであり、図4(b)に示す□300×90(mm)の箱型断面を有する部材である。また各々の部材同士は、それぞれの接続部で溶接により接合されている。ここでは、溶接のほか、ボルト接合、ドリルねじ接合、リベット、接着などで接合した場合でも同じ効果が得られる。
シャーシフレーム1に作用する代表的な外力として、図5(a)から(c)に示す3種類の力(Pa,Pb,Pc)が加わったときの構造性能を、ヤング率が205GPaである一般的な鋼材を利用したシャーシフレーム10の場合と比較し、本実施例におけるシャーシフレーム1との構造的な改良効果を定量的に示す。ここで、図5の中で、(a)は曲げ剛性、(b)は捻れ剛性、(c)は曲げ捻れ剛性に関する性能を各々評価することができる。図5中、いずれのシャーシフレーム10,1の場合も、同図(a)の場合では、シャーシフレーム10,1の一端側よりの中間部におけるサイドレール2およびクロスメンバ3を、左右の拘束部材6、7で挟持するように拘束して支持し、他端側よりの中間部に、鉛直方向の力(荷重)PaおよびPbを負荷している。同図(b)では、他端側よりの中間部に、鉛直方向の力Paおよび方向の異なる力Pcを負荷している。同図(c)では、左右の拘束部材6、7の片側を設けないで、前記(b)と同様に他端側に方向の異なる鉛直力Pa,Pbを負荷している。図6には、力(荷重)Pa,Pb,Pcのシャーシフレーム10,1の作用位置が示されている。
それぞれのシャーシフレーム10,1の評価結果は、図7に示すとおりであり、同図(b)に示す捻れ剛性、同図(c)に示す曲げ捻れ剛性は僅かに低下するが、同図(a)に示す曲げ剛性を高めることができる。すなわち、本発明のシャーシフレーム1により、トラック車両構造で最重要とされるシャーシフレーム1の曲げ剛性を、フレーム重量を増加させずに高めることができる。
なお、図7では、ヤング率が205GPaの一般的な鋼材を用いたシャーシフレーム10の場合の結果を基準値(=1.0)とし、図中の白色棒グラフで示す。図3に示す特徴を有するL方向高ヤング率鋼を用いたシャーシフレーム1の場合を一般的な鋼材のシャーシフレーム10結果で基準化した比率を、図中の黒色棒グラフで、図10に示す特徴を有するL方向高ヤング率鋼を用いたシャーシフレーム10の場合を一般的な鋼材のシャーシフレーム10の結果で除して無次元化し基準化した比率を斜線付き棒グラフで示す。
【0027】
(実施例2)
実施例1で示したものと同じL方向高ヤング率鋼を、コの字形断面を有する部材にロール成形あるいはプレス成形により加工し、実施例1と同様の外形寸法および構成を有するシャーシフレーム1に適用した実施例2について説明する。
図8は、長さ8400mm、幅850mm、高さ300mmのシャーシフレーム10,1の斜視図である。サイドレール2、クロスメンバ3はいずれも図8(b)に示す⊂300×90(mm)のコの字形断面の部材である。また、サイドレール2およびクロスメンバ3の各々の部材同士は、それぞれの接続部で溶接により接合されている。
【0028】
シャーシフレーム10,1ヘの外力の負荷は、実施例1の場合で示した図5の場合と同じであり、曲げ剛性、捻れ剛性、曲げ捻れ剛性の各々を評価した。評価結果は、図9の通りであり、コの字形断面を有する部材を用いた場合では、ヤング率が205GPaである一般的な鋼材を利用した場合と比較して、曲げ剛性だけでなく、捻れ剛性も、曲げ捻れ剛性も同時に向上していることがわかる。
なお、図9では、ヤング率が205GPaの一般的な鋼材を用いたシャーシフレーム10の場合の結果を基準値(=1.0)とし、図中の白色棒グラフで示す。図3に示す特徴を有するL方向高ヤング率鋼を用いたシャーシフレーム1の場合を、一般的な鋼材のシャーシフレーム10の結果で除して無次元化し基準化した比率を図中の網目状黒色棒グラフで示す。
このように、コの字形断面のサイドレール2およびクロスメンバ3で構成されるシャーシフレーム1の場合では、曲げ剛性、捻れ剛性、曲げ捻れ剛性を同時に高めることができ、トラック車両の構造性能や安全性を、更に効率よく向上させることができる。
【0029】
(実施例3)
本願で対象とするL方向(圧延方向)にヤング率の高い鋼材は、板厚方向に全て均一なヤング率を有していなくても良く、L方向への板厚方向の平均化したヤング率が高ければ、板厚方向にヤング率が均一である場合と同等の効果が得られる。実施例3では、鋼材表層部のL方向ヤング率が特に高い、L方向高ヤング率鋼を利用して構成したシャーシフレーム1の形状詳細と、定量的効果を説明する。
図10に示す線図中(a)は、鋼材両面表層25%のヤング率の特性であり、図10中の(b)は、鋼材中心部50%のヤング率の特性である。L方向ヤング率は、図10の(a)に示す表層ヤンゲ率の方が、図10の(b)に示す中心層よりも高くなっている。また、図10中の(c)は、板厚方向に分布するヤング率の数値平均を示している。
この鋼材を利用して、実施例2と同様のシャーシフレーム(コの字形断面を有する部材を利用)を構成した場合の評価結果は、図11である。曲げ剛性、捻れ剛性、曲げ捻れ剛性ともに、実施例2の場合とほぼ同様であり、構造性能についても同じであるといえる。
なお、図11では、ヤング率が205GPaの一般的な鋼材を用いたシャーシフレーム10の場合の結果を基準値(=1.0)とし、図中の白色棒グラフで示す。図3に示す特徴を有するL方向高ヤング率鋼を用いたシャーシフレーム1の場合を、一般的な鋼材のシャーシフレーム10の結果で除して無次元化し基準化した比率を、図中の斜線付き棒グラフで示す。
さらに、図10に示す特性を有する高ヤング率鋼を用いて、図12に示すシャーシフレーム1を構成(コの字形断面を有する部材を利用)して、図13に示すように、拘束部材6,7から等距離に離れた位置における同じ垂直面において力(荷重)Pf,Pgを加えた場合の評価結果を図14に示す。評価は、ヤング率が205GPaである一般的な鋼材を利用した場合、および実施例1で利用したL方向高ヤング率鋼(図3に示す特性を有する)を利用した場合と対比させて行った。図14から、特に捻れ剛性については、図3に示すL方向高ヤング率鋼よりも、図10に示すL方向高ヤング率鋼の方がより高められていることが分かる。
このように、コの字形断面で構成されるシャーシフレーム1の場合では、鋼材表層のヤング率がより高いL方向高ヤング率鋼を利用することで、曲げ剛性、捻れ剛性、曲げ捻れ剛性を同時に高めることが出来ることに加え、図13に示すような断面コの字形鋼4の開口部近傍に力(荷重)Pf,Pgが作用する場合においては、性能向上効果をより大きくすることができる。
【0030】
シャーシフレーム1におけるサイドレール2あるいはクロスメンバ3の長手方向が鋼材の圧延方向となるように配置され、圧延方向(L方向)のヤング率が215GPa超290GPa以下となる高ヤング率鋼板としては、例えば、下記のような高ヤング率鋼板を使用するとよい。
【0031】
例えば、「質量%で、C:0.005〜0.200%、Si:2.50%以下、Mn:0.10〜3.00%、P:0.150%以下、S:0.0150%以下、Al:0.150%以下、N:0.0100%以下、Nb:0.005〜0.100%、Ti:0.002〜0.150%を含有し、下記(式1)を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板の表面からの板厚方向の距離が板厚の1/6である位置の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と<110><001>方位のX線ランダム強度比との和が5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上である特徴を有している高ヤング率鋼鈑を使用するとよい。
Ti−48/14×N>0.0005 ・・・ (式1)
ここで、Ti、Nは各元素の含有量[質量%]である。
【0032】
しかし、必ずしも前記成分および式により規定される高ヤング率鋼板に限定される訳ではなく、前記の鋼材の元素成分に加えてにさらに「質量%で、B:0.0005〜0.0100%を含有する」高ヤング率鋼板を使用するようにしてもよい。
【0033】
また、さらに、上述の各成分の鋼材の元素成分に加えて、下記の元素をさらに含有させた高ヤング率鋼板を使用することもできる。
「質量%で、Cr:0.01〜3.00%、W:0.01〜3.00%、Cu:0.01〜3.00%、Ni:0.01〜3.00%の1種又は2種以上を含有する高ヤング率鋼板」や、これらの鋼材にさらに「質量%で、Mo:0.01〜1.00%を含有する」高ヤング率鋼板を使用することもできる。
さらには、前記各成分に、「下記(式2)を満足する元素を含有することを特徴とする高ヤング率鋼板」を使用するようにしてもよい。
4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
・・・(式2)
ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。」
なおまた、前記元素成分に、「質量%で、Ca:0.0005〜0.1000%、Rem:0.0005〜0.1000%、V:0.001〜0.100%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする高ヤング率鋼板」を使用することもできる。
【0034】
前記のいずれかの成分による高ヤング率鋼板であって、鋼板の板厚方向の中央部の、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が15以下、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が5以上、かつ(B)/(A)<1.00を満足することを特徴とする高ヤング率鋼板を使用するようにしてもよい。
【0035】
静的引張法で測定された圧延方向のヤング率が220GPa以上の高ヤング率鋼板を使用するのがよい。
【0036】
また、これらの高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛メッキを施した溶融亜鉛メッキ鋼板、あるいは合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を使用するようにしてもよい。
【0037】
これらの高ヤング率鋼板は、圧延製造する場合に、例えば、次のような点を特徴とする方法により製造することが可能である。
前記のような各化学成分を有する鋼片に、1100℃以下、最終パスまでの圧下率を40%以上とし、下記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上である圧延を2パス以上とし、最終パスの温度をAr変態点以上900℃以下とする熱間圧延を施し、700℃以下で巻き取るようにして高ヤング率鋼板を得ることができる。
形状比X=I/h・・・・・(3)
ここで、I(圧延ロールと鋼板の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
:(hin−hout)/2
L :圧延ロールの直径
in :圧延ロール入側の板厚
out:圧延ロール出側の板厚
【0038】
前記の式3に規定する製造方法の場合に、熱間圧延の、少なくとも1パス以上の異周速率を1%以上とする高ヤング率鋼板の製造方法とするようにしてもよい。
【0039】
前記のような方法により製造された鋼板の表面に溶融亜鉛メッキを施して溶融亜鉛メッキ鋼板を製造したり、あるいは溶融亜鉛メッキを施した後、450から600℃までの温度範囲で10s以上の熱処理を行うことにより、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を製造して、これらの高ヤング率鋼板を使用するようにしてもよい。
【0040】
前記の各鋼板は、静的引張法で測定された圧延方向の静的ヤング率が向上した、高ヤング率鋼板である。
【0041】
前記の各高ヤング率鋼板の他にも、鋼材組成のいかんによらず「JISZ2280に準拠した常温での横共振法に基づき計測したL方向ヤング率の値、または静的引張試験法に基づき計測した圧延方向(L方向)のヤング率の値が215GPa超290GPa以下のあることが確認される鋼材」を用いた場合でも同等の効果が得られる。
【0042】
素材のヤング率の測定はJISZ2280に準拠した常温での横共振法、あるいは静的引張試験法に基づき実施する。
【0043】
横共振法では、試料を固定せずに振動を加え、発振機の振動数を徐々に変化させて一次共振振動数を測定して下式よりヤング率を算出する。
E=0.946×(l/h) ×m/w×f
ここで、E:動的ヤング率(N/m)、l:試験片の長さ(m)、h:試験片の厚さ(m)、m:質量(kg)、w:試験片の幅(m)、f:横共振法の一次共振振動数(s−1)、である。
【0044】
静的引張ヤング率試験法では、JISZ2201に準拠した引張試験片を用いて、素材降伏強度の1/2に相当する引張応力レベルまで5回繰り返し引張力を加え測定した応力−ひずみ線図の傾きに基づき算出する。測定のバラツキを排除するため、5回の計測結果のうちの最大値および最小値を除いた3つの計測値の平均値として算出した値を鋼材のヤング率とするのが一般的である。
【0045】
本発明におけるシャ−シフレーム1におけるサイドレール2あるいはクロスメンバ3においては、前記のような高ヤング率鋼板を使用するとよい。
【0046】
前記組成および製造法の高ヤング率鋼板は、本出願人によって既に出願されている発明の高ヤング率鋼板であり、その発明者らは、静的引張法で測定された圧延方向のヤング率が220GPa以上である高ヤング率鋼板を得るために検討を行った。その結果、圧延方向の静的ヤング率を向上させるには、Nbを添加し、TiとNを所定量含有させてオーステナイト相(以下、γ相という。)での再結晶を抑制することが重要であり、更にBを複合添加すると効果が顕著であること、また、熱間圧延においては、圧延温度と、圧延ロールの入側及び出側での板厚と圧延ロールの直径から求められる形状比が重要であり、これらを適正な範囲に制御することによって、鋼板の表面において剪断歪みを付与された層の厚みが増し、表面から板厚方向への距離が板厚の1/6である部位(1/6板厚部という。)の付近に形成される集合組織も最適化されることを新たに見出している。
また、熱間加工を受けるγ相の変形挙動に影響を及ぼす積層欠陥エネルギーと変態後の集合組織の間には相関があり、板厚方向の中央部(1/2板厚部という。)においても、圧延方向のヤング率が向上する方位を発達させた集合組織を得るには、γ相の積層欠陥エネルギーに影響を及ぼすMn、Mo、W、Ni、Cu、Crの関係を最適化することが重要であるという知見も得ており、これらの観点から研究されて新たに発明された鋼材である。
本発明のシャーシフレーム1は、このような高ヤング率鋼板も使用して、サイドレール2あるいはクロスメンバ3の全部あるいは一部に組み込み、これらの重量あるいは寸法を増加させないで、シャーシフレーム1の曲げ剛性あるいは捻れ剛性を高めることを主眼とした発明である。
【0047】
前記実施形態の組成の高ヤング率鋼板は、次のような知見に基づいて発明されている。
鋼板の板厚方向で集合組織が変化し、表層と板厚方向の中央部での集合組織が異なる場合、引張変形と曲げ変形では剛性、即ちヤング率が必ずしも一致しない。これは、引張変形の剛性が鋼板の板厚全面の集合組織に影響される特性であり、曲げ変形の剛性が鋼板の表層部の集合組織に影響される特性であることに起因する。
前記実施形態の高ヤング率鋼板は、表面から板厚方向への距離が板厚の1/6である部位までの集合組織を最適化した鋼板であり、表層だけでなく、1/6板厚部まで剪断歪みを導入することによって製造されるものである。前記実施形態の高ヤング率鋼板は、表層だけでなく、1/6板厚部までの圧延方向の静的ヤング率が高く、引張変形での剛性が高い。また、表層から1/6板厚部までの部位に、圧延方向のヤング率を高める方位を集積させると、ヤング率を低下させる方位の集積も抑制される。
以下、前記実施形態の高ヤング率鋼板のX線ランダム強度比とヤング率について説明する。
1/6板厚部における{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和:{100}<001>方位及び{110}<001>方位は、圧延方向のヤング率を著しく低下させる方位である。振動法で鋼板のヤング率を測定する場合には、最表層の集合組織の影響が大きく、板厚方向の内部の集合組織の影響は小さい。しかし、静的引張法で鋼板のヤング率を測定する場合には、表層だけでなく、板厚方向の内部の集合組織も影響を及ぼす。
引張法で測定されたヤング率を高めるためには、少なくとも表層から1/6板厚部までのヤング率を高めることが必要である。したがって、引張法で測定された圧延方向のヤング率を高めるためには、1/6板厚部での、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和を5以下にしなければならない。この観点では3以下であることがより好ましい。
なお、{100}<001>方位及び{110}<001>方位は、鋼板の表層のみに剪断歪みが付与された際に、1/6板厚部の近傍で発達しやすい。一方、剪断歪みを1/6板厚部の近傍にまで導入させると、この部位での{100}<001>方位及び{110}<001>方位の発達が抑制され、以下に説明する{110}<111>〜{110}<112>方位群と{211}<111>方位が発達する。
1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和:これらは圧延方向のヤング率を高めるために有効な結晶方位であり、熱延時に導入される剪断歪みによって発達する。1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上であることは、鋼板の表面から1/6板厚部まで、圧延方向のヤング率を高める集合組織が発達していることを意味する。これにより、引張法で測定された、圧延方向の静的ヤング率が220GPa以上となる。好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。
{100}<001>方位、{110}<001>方位、{110}<111>〜{110}<112>方位群及び{211}<111>方位のX線ランダム強度比は、X線回折によって測定される{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(rientation istribution unction、ODFという。)から求めればよい。なお、X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
1/6板厚部の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との合計が5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{112}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上である前記実施形態の高ヤング率鋼板は、熱間圧延において、鋼板の表層から少なくとも1/6板厚部までに剪断力を作用させることによって得られる。
熱間圧延の剪断力を鋼板の1/6板厚部まで作用させるためには、熱間圧延の全パス数のうち、少なくとも2パスで、次式で規定する形状比Xが2.3以上を満足する必要がある。形状比Xは、下記(式3)に示すように、ロールと鋼鈑の接触弧張と平均板厚の比である。この形状比Xの値が大きいほど、鋼板の板厚方向のより深い部分にまで、剪断力が作用することは、先の出願の発明者らが新たに得た知見である。
形状比X=l/h ・・・(式3)
ここで、l(圧延ロールと鋼鈑の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
:(hin+hout)/2
L :圧延ロールの直径
in:圧延ロール入側の板厚
out:圧延ロール出側の板厚
上記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上であるパス数が1パスでは、剪断歪みが1/6板厚部まで導入されない。そのため、剪断歪みが導入された層(剪断層という。)の厚みが不十分であり、1/6板厚部の近傍での集合組織も劣化し、静的引張法で測定されるヤング率が低下する。したがって、形状比Xが2.3以上であるパス数を2パス以上とすることが必要である。このパス数は多い方がより好ましく、全パスの形状比Xを2.3以上としても良い。剪断層の厚みを増加させるためには、形状比Xの値も大きい方が好ましく、2.5以上、より好ましくは3.0以上とする。
また、形状比Xが2.3以上である圧延は、高温で行うと、その後の再結晶によって、ヤング率を高める集合組織が破壊されることがある。そのため、形状比Xを2.3以上とするパス数を限定する圧延は、1100℃以下で行うことが必要である。また、圧延温度が低いほど、形状比の効果が顕著であるため、形状比Xが2.3以上である圧延を最終に近い圧延スタンドで行うことが好ましい。
以下、前記実施形態の高ヤング率鋼板において鋼組成を限定する理由についてさらに説明する。
Nbは本発明において重要な元素であり、熱間圧延において、γ相を加工した際の再結晶を著しく抑制し、γ相での加工集合組織の形成を著しく促す。この観点からNbは0.005%以上添加することが必要である。また、0.015%以上添加することが好ましい。しかしながらNbの添加量が0.100%を超えると圧延方向のヤング率が低下するため、上限は0.100%とする。Nbの添加によって圧延方向のヤング率が低下する理由は定かではないが、Nbがγ相の積層欠陥エネルギーに影響を及ぼしているものと推測される。この観点からは0.060%以下とすることが好ましい。
Tiも前記実施形態の高ヤング率鋼板において重要な元素である。Tiはγ相高温域で窒化物を形成し、熱間圧延において、γ相を加工した際の再結晶を抑制する。更に、Bを添加した場合にはTiの窒化物の形成によって、BNの析出が抑制されるため、固溶Bを確保することができる。これにより、ヤング率の向上に好ましい集合組織の発達が促進される。この効果を得るためには、Tiを0.002%以上添加することが必要である。一方、Tiを0.150%以上添加すると加工性が著しく劣化することからこの値を上限とする。この観点からは0.100%以下にすることが好ましい。更に好ましくは0.060%以下である。
Nは不純物であり、下限は特に設定しないが0.0005%未満とするにはコストが高くなり、それほどの効果が得られないため、0.0005%以上とすることが好ましい。また、Nは、Tiと窒化物を形成し、γ相の再結晶を抑制するため、積極的に添加しても良いが、Bの再結晶抑制効果を低減させることから0.0100%以下に抑える。この観点から好ましくは0.0050%、更に好ましくは0.0020%以下とする。
更に、TiとNは、下記(式1)を満足することが必要である。
Ti−48/14×N≧0.0005 ・・・ (式1)
これにより、TiN析出によるγ相の再結晶抑制効果が発揮され、かつB添加の場合にはBNの形成を抑制することができ、ヤング率の向上に好ましい集合組織の発達が促進される。
Cは、強度を増加させる元素であり、0.005%以上の添加が必要である。また、ヤング率の観点からは、C量の下限を0.010%以上とすることが好ましい。これは、C量が0.010%未満に低下するとAr変態温度が上昇し、低温での熱延が困難となり、ヤング率が低下することがあるためである。更に、溶接部の疲労特性の劣化を抑制するためには、0.020%以上とすることが好ましい。一方、C量が0.200%を超えると成形性が劣化するため、上限を0.200%以下とする。また、C量が0.100%を超えると溶接性を損うことがあるため、C量の上限を0.100%以下とすることが好ましい。また、C量が0.060%を超えると圧延方向のヤング率が低下することがあるため、上限を0.060%以下とすることが更に好ましい。
Siは脱酸元素であり、下限は規定しないが、0.001%未満とするには製造コストが高くなる。また、Siは、固溶強化により強度を増加させる元素であり、マルテンサイトやベイナイトさらには残留オーステナイト等を含む組織を得るためにも有効である。そのため、狙いとする強度レベルに応じて積極的に添加しても良いが、添加量が2.50%超となるとプレス成形性が劣化するため、2.50%以下を上限とする。また、Si量が多いと化成処理性が低下するので、1.20%以下とすることが好ましい。更に、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっき密着性の低下、合金化反応の遅延による生産性の低下などの問題が生ずることがあるため、Si量の上限を1.00%以下とすることが好ましい。ヤング率の観点からはSi量の上限を0.60%以下とすることがより好ましく、更に好ましくは0.30%以下である。
Mnは、本発明において重要な元素である。Mnは、熱間圧延時に高温に加熱された際、γ相からフェライト相に変態する温度であるAr変態点を低下させる元素であり、Mnの添加によって、γ相が低温まで安定になり、仕上圧延の温度を低下させることができる。この効果を得るには、Mnを0.10%以上添加することが必要である。また、Mnは、後述するように、γ相での積層欠陥エネルギーとの相関があり、γ相での加工集合組織形成及び変態時のバリアント選択に影響を与え、変態後に圧延方向のヤング率を高める結晶方位を発達させ、逆にヤング率を低くする方位の形成は抑制する効果がある。この観点からMnを1.00%以上添加することが好ましい。更に好ましくは1.5%以上添加する。一方、Mnの添加量が3.00%を超えても、著しいヤング率向上効果が得られないだけでなく、強度が高くなりすぎて延性が低下するため、上限を3.00%以下とする。また、Mn量が2.00%を超えると、亜鉛めっきの密着性が阻害されることがあるので上限を2.00%以下とすることが好ましい。
Pは不純物であるが、強度を増加する必要がある場合には積極的に添加しても良い。また、Pは熱延組織を微細にし、加工性を向上する効果も有する。ただし、添加量が0.150%を超えると、スポット溶接後の疲労強度が劣化し、降伏強度が増加してプレス時に面形状不良を引き起こす。さらに、連続溶融亜鉛めっき時に合金化反応が極めて遅くなり、生産性が低下する。また、2次加工性も劣化する。したがって、その上限値を0.15%とする。
Sは、不純物であり、0.0150%超では熱間割れの原因となったり、加工性を劣化させるので、これを上限とする。
Alは脱酸調製剤であり、下限は特に限定しないが、脱酸の観点からは0.010%以上とすることが好ましい。一方、Alは変態点を著しく高めるので、0.150%超を添加すると、低温でのγ域圧延が困難となるので、上限を0.150%とする。
更に、B、Cr、W、Cu、Ni、Mo、Ca、V、Remを添加しても良い。なお、以下に説明する好ましい範囲よりも少量の含有は、特に悪影響を及ぼすことはないので、不純物として許容できる。
BはNbと複合添加することによって再結晶を著しく抑制すると共に、固溶状態で焼き入れ性を高める元素であり、オーステナイトからフェライトへの変態時の結晶方位のバリアント選択性に影響を及ぼすと考えられる。したがって、ヤング率を上げる方位である{110}<111>〜{110}<112>方位群の発達を促すと同時に、ヤング率を下げる方位である{100}<001>方位や{110}<001>方位の発達を抑制すると考えられる。この観点から0.0005%以上添加することが好ましい。一方、Bを0.0100%超添加しても更なる効果は得られないため、上限を0.0100%以下とする。また、Bを0.005%超添加すると、加工性が劣化することがあるため、0.0050%以下が好ましい上限である。更に好ましくは0.0030%以下である。
Cr、W、Cu、Niは、それぞれ0.01〜3.00%の範囲で1種又は2種以上添加することが好ましい。Cr、W、Cu、Niは、Mnと同様にγ相での積層欠陥エネルギーを変えることで加工集合組織形成及び変態時のバリアント選択に影響を与え、変態後に圧延方向のヤング率を高める結晶方位である{110}<111>、{211}<111>を発達させ、ヤング率を低くする方位である{100}<001>や{110}<001>の形成を抑制する効果がある。この効果を得るには、Cr、W、Cu、Niの1種又は2種以上の下限を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr、W、Cu、Niの1種又は2種以上の上限は、加工性の観点から、3.00%以下とすることが好ましい。
Moも圧延方向のヤング率を高める効果を有するため、0.01%以上を添加することが好ましい。一方、Moの添加は、コストが高く、また強度を著しく上昇させ加工性を低減させることがあるため、1.00%を上限とすることが好ましい。この観点からは0.50%以下が好ましい。
また、Mnに加えて、Mo、W、Ni、Cu、Crの1種又は2種以上を複合添加する場合、下記(式2)を満足するように添加することが好ましい。
4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
・・・(式2)
ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。
なお、上記(式2)において、選択元素であるMo、W、Ni、Cu、Crが不純物である場合、即ち、各元素の添加量が好ましい下限未満である場合は0として計算する。
この、上記(式2)は、γ相を有するオーステナイト系ステンレスの積層欠陥エネルギーに及ぼす各元素の影響を数値化した式を基に、本発明者らが試験を行って更に検討を加え、修正したものである。この関係式の値が4未満では剪断層で圧延方向ヤング率を高める{110}<111>方位への集積度が下がり、圧延方向ヤング率を低くする{110}<001>方位への集積度が上がり、結果として圧延方向ヤング率が低下することがある。また、この値が大きくなるにつれヤング率は高くなることから、好ましくは4.5以上更に好ましくは5.5以上になるように添加する。ただし、式2の値が10を超えると機械的性質が劣化すると共に、板厚中心部の集合組織が劣化し、圧延方向の静的ヤング率が低下することから10以下にすることが望ましい。この観点からは8以下にすることがより望ましい。
Ca、Rem及びVは機械的強度を高めたり材質を改善する効果があるので、必要に応じて、1種又は2種以上を含有することが好ましい。Ca及びRemの添加量が0.0005%未満、Vの添加量が0.001%未満では十分な効果が得られないことがある。一方、Ca及びRemの添加量が0.1000%超、Vの添加量が0.100%超になるように添加すると、延性を損なうことがある。したがって、Ca、Rem及びVはそれぞれ、0.0005〜0.1000%、0.0005〜0.1000%及び0.001〜0.100%の範囲で添加することが好ましい。
【0048】
前記のようなに成分で製造された高ヤング率鋼板のヤング率としては、例えば、220GPa〜235GPaの高ヤング率鋼板を製作することができ、このような高ヤング率鋼板の圧延方向が、サイドレール2の長手方向あるいはクロスメンバ3の長手方向となるように配置して使用するとよい。
【0049】
(前記実施形態のポイント)
前記実施形態の組成の高ヤング率鋼板を使用したシャーシフレーム1では、次のような特徴を有している。
1)L方向(圧延方向)とC方向(圧延直行方向)のヤング率が一般鋼材よりも10〜15%程度高く、D方向(45度方向)のヤング率が一般鋼材より10〜15%程度低い、いわゆる面内弾性異方性を有する鋼材であり、これをシャーシフレーム1に効果的に利用すると、シャーシフレーム1の曲げ剛性および捻れ剛性を効率よく高めることができる。
2)590MPa級Nb−Ti−B添加鋼をベースに、Mo代替元素として、Cu,Cr等を添加する安価で加工性のよい鋼材を使用したサイドレール2およびクロスメンバ3を備えたシャーシフレーム1とすることができる。
3)前記のように、面内弾性異方性があり、D方向のヤング率が低い鋼材で、角パイプや丸パイプ(閉断面)を構成した場合、D方向のヤング率がパイプ捻れ剛性を支配するため、それらの捻れ剛性は向上しないが、断面コの字形部材などの開断面の場合で、部材の反りが卓越する場合では、L方向のヤング率が向上すれば、反り剛性も向上し、その結果として捻れ剛性も高めるようにできる。
4)L方向とC方向のヤング率を部材に巧みに組み込んだシャーシフレームとしている。
【0050】
前記各実施形態においては、シャーシフレーム1について説明したが、本発明は、サイドレール2をサイドフレームとして、クロスメンバ3をサイドフレーム相互を連結する連結材として、各種の寸法を設定することにより、各種の寸法のフレーム状構造材を構成することもでき、すなわち、本発明のシャーシフレーム1を各種用途の構造部材として、例えば各種印刷機用のフレーム材、各種の支持梁材、あるいはその他の建築部材を含むフレーム材等の構造部材として適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のシャーシフレームの第1形態を示すものであって、(a)はシャーシフレームの全体の概略斜視図、(b)はシャーシフレームにおけるサイドレールおよびクロスメンバの断面図である。
【図2】本発明のシャーシフレームの第2形態を示すものであって、(a)はシャーシフレームの全体の概略斜視図、(b)はシャーシフレームにおけるサイドレールおよびクロスメンバの断面図である。
【図3】本発明において使用する一形態の高ヤング率鋼板におけるL方向からの方位とヤング率との関係を示す線図である。
【図4】図2に示すシャーシフレームの各部の寸法を示すものであって、(a)は全体の寸法を示す図、(b)はサイドレールおよびクロスメンバの部材断面の寸法を示す図である。
【図5】(a)(b)(c)は図4に示すシャーシフレームの性能試験をする場合の拘束条件と載荷条件を説明するための説明図である。
【図6】(a)および(b)はシャーシフレーム断面内における荷重の載荷位置を示す説明図である。
【図7】一般的な鋼材によるシャーシフレームと図3に示すL方向高ヤング率鋼によるシャーシフレームとの剛性の比率と、曲げ、捻り、あるいは曲げ捻りとの関係を示す図である。
【図8】図1に示すシャーシフレームの各部の寸法を示すものであって、(a)は全体の寸法を示す図、(b)はサイドレールおよびクロスメンバの部材断面の寸法を示す図である。
【図9】一般的な鋼材によるシャーシフレームと図8に示すL方向高ヤング率鋼によるシャーシフレームとの剛性の比率と、曲げ、捻り、あるいは曲げ捻りとの関係を示す図である。
【図10】鋼板表層部または中心層部あるいはこれらを数値平均化した場合におけるL方向からの方位とヤング率との関係を示す線図である。
【図11】一般的な鋼材によるシャーシフレームと、図8に示すL方向高ヤング率鋼によるシャーシフレームと、図10に示すL方向高ヤング率鋼によるシャーシフレームとの剛性の比率と、曲げ、捻り、あるいは曲げ捻りとの関係を示す図である。
【図12】本発明の第2実施形態のシャーシフレームの各部の寸法を示すものであって、(a)は全体の寸法を示す図、(b)はサイドレールおよびクロスメンバの部材断面の寸法を示す図である。
【図13】(a)(b)は図12に示すシャーシフレームの性能試験をする場合の拘束条件と載荷条件を説明するための説明図である。
【図14】一般的な鋼材と、図3に示すL方向高ヤング率鋼と、図10に示すL方向高ヤング率鋼との、剛性の比率と、曲げ、捻り、あるいは曲げ捻りとの関係を示す図である。
【図15】高ヤング率鋼板を使用した断面コの字形鋼の一形態図である。
【図16】断面コの字形鋼における断面重心、強軸、弱軸の関係を示す図である。
【図17】従来の部材と本発明を適用した部材の相違を明確にするための図である。
【図18】断面コの字形鋼における高ヤング率鋼板とする部分の形態を示す図である。
【図19】従来のシャーシフレームの第1形態を示すものであって、(a)はシャーシフレームの全体の概略斜視図、(b)はシャーシフレームにおけるサイドレールおよびクロスメンバの断面図である。
【図20】(a)はシャーシフレームに曲げ力が作用した場合の変形形態を示す概略斜視図、(b)はシャーシフレームに捩れ力が作用した場合の変形形態を示す概略斜視図、(c)および(d)はサイドレールの基本断面形状を示す断面図である。
【図21】(a)〜(h)は、シャーシフレームにおけるサイドレールおよびクロスメンバの断面図を示し、断面コの字形と類似の幾何学特性を有する断面形状の例を示す図である。
【図22】(a)〜(h)は、シャーシフレームにおけるサイドレールおよびクロスメンバの断面図を示し、断面箱形と類似の幾何学特性を有する断面形状の例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 シャーシフレーム
2 サイドレール
3 クロスメンバ
4 断面コの字形鋼
5 部材
6 拘束部材
7 拘束部材
10 シャーシフレーム
11 サイドレール
12 クロスメンバ
13 フランジ
14 フランジ
15 ウェブ
71 強軸
72 弱軸
73 断面重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて配置される一対のサイドレールとこれらのサイドレールを連結するクロスメンバで構成されるシャーシフレームにおいて、少なくともサイドレールの一部または全部は、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記高ヤング率鋼板は、その圧延方向がサイドレールの長手方向となるように配置され、上記クロスメンバに固着されていることを特徴とするシャーシフレーム。
【請求項2】
クロスメンバは、圧延方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記ヤング率鋼板は、その圧延方向がクロスメンバの長手方向となるように配置され、上記サイドレールに固着されていることを特徴とする請求項1記載のシャーシフレーム。
【請求項3】
クロスメンバは、圧延直行方向のヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成され、上記高ヤング率鋼板は、その圧延直行方向がクロスメンバの長手方向となるように配置され、上記サイドレールに固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシャーシフレーム。
【請求項4】
少なくともクロスメンバの一部が、ヤング率が215GPa超290GPa以下である高ヤング率鋼板で構成されることを特徴とする請求項1に記載のシャーシフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−307979(P2008−307979A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156426(P2007−156426)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】