説明

シリコンウェーハ及びその製造方法

【課題】 本発明は、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明では、CZ法により育成された無欠陥シリコン単結晶からシリコンウェーハを製造する方法であって、
前記無欠陥シリコン単結晶からスライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハを準備した後に、
前記鏡面研磨されたシリコンウェーハを、500℃以上600℃以下の温度で、4時間以上6時間以下の時間で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後のシリコンウェーハを、研磨量が1.5μm以上となるように再研磨する再研磨工程とを行うことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面のLPD(Light Point Defect)を極限まで低減したシリコンウェーハ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子製造の材料として用いられるシリコンウェーハには、Czochralski(CZ)法、特に磁場を印加しつつ結晶を製造するMagnetic field applied Czochralski(MCZ)法にて育成されたシリコン単結晶よりスライスされ、表面を研磨された基板が用いられる。近年では半導体素子の製造におけるデザインルールの微細化に伴いかかるウェーハの表面品質としてわずかな凹凸もないウェーハが必要となってきた。これは、素子製造の配線のサイズが微細化し、わずかな凹凸による断線や素子製造工程の異物のモニタリングのために、ますます重要な品質項目となってきている。このようなシリコンウェーハ表面の品質評価にはレーザー式パーティクルカウンターが用いられ、素子のデザインルールの微細化に伴いパーティクルの検出サイズが45nm以下と微細化が進んでいる。そのため、ウェーハ表面の鏡面加工(polishing)工程における加工起因の微小欠陥や、その後工程であるウェーハ洗浄において微小な異物や不純物を防止することが行われている。
【0003】
一方、シリコンウェーハ表面に結晶欠陥としてCOP(非特許文献1)が存在し、ウェーハ表面に凹状の窪みが形成されると、レーザーパーティクルカウンターにてLPDとして測定されることがよく知られている。つまり、実際の異物ではないものがパーティクルとして検出される場合がある。これらの結晶欠陥は結晶成長中の温度勾配(G)と成長速度(V)に応じて形成されることが報告されている(非特許文献2)。また、これらG、Vを制御した製造方法、例えば特許文献1ではシリコン単結晶の成長速度を低下させることにより結晶欠陥の形成を制御する方法が報告されている。さらに、特許文献2ではシリコン単結晶の固相/液相における境界領域の温度勾配(G)にほぼ比例する単結晶の最大引き上げ速度を超えない速度(V)で引き上げることにより実質的にCOPのない無欠陥結晶が得られることが報告されている。
【0004】
また、ウェーハを鏡面加工する工程において、その研磨時の残渣の影響として形成されるPID(Process Induced Defect)がシリコンウェーハのLPDとして検出されることも開示されている(特許文献3)。これに起因するLPD(PID)は研磨時に使用する薬液や洗浄工程により改善されることが報告されている。
【0005】
しかし、特許文献2のような製造方法により育成した、COPの存在しない無欠陥シリコン単結晶より切り出したシリコンウェーハであって、かつ、研磨工程におけるPIDが発生しない工程を経て製造されたシリコンウェーハであっても、レーザー式パーティクルカウンターにてパーティクルの検出サイズを45nmと微細化した場合においてはLPDが検出される場合が生じてきた。つまり、実際にウェーハ表面に異物がなく、かつCOP及びPIDの存在しないウェーハでもパーティクル測定の検出サイズを微細化して品質検査を行った場合にはLPDが高密度に検出され、ウェーハの検査工程及び出荷段階において不良となり、歩留まりが低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−56588号公報
【特許文献2】特開平7−257991号公報
【特許文献3】WO2010/140671A1号公報
【特許文献4】特開平9−64052号公報
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys.,29(1990),L1947−L1949
【非特許文献2】日本結晶成長学会 vol.25 No.5,(1998)
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys.,31(1990),L1947
【非特許文献4】最新シリコンデバイスと結晶技術、リアライズ社、平成17年12月26日発行 P.171
【非特許文献5】ULSI製造のための分析ハンドブック、リアライズ社、平成6年7月29日発行、P.115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら微小なLPD形成原因は、ウェーハへの重金属汚染が原因であると報告されている。例えば、代表的な重金属汚染は銅(Cu)による汚染であり、ウェーハを作製する研磨工程、洗浄工程あるいは熱処理工程等で生ずる。銅汚染が起こりやすいのは他の重金属と比較して銅の拡散速度が速いことに起因する。そこで、シリコンウェーハを600℃以下で熱処理した後に洗浄することで銅汚染を回避することが報告されている(特許文献4)。このようなウェーハの表面の洗浄には、例えば、HF溶液、HF/H溶液、HCl溶液、HCl/H溶液、HCl/HF溶液、SC1溶液、HSO/H溶液等が用いられる。これらの処理により重金属が低減されることが開示されている。
【0008】
しかし、ウェーハ作製工程での重金属汚染を十分に管理して作製されたウェーハであっても、まだLPDが高い場合があった。また、このようなウェーハでは、600℃以下の熱処理後にかかる洗浄を施したとしてもLPDが低減できない場合がありウェーハの検査工程及び出荷段階において不良となり、歩留まりが低下する場合があった。さらに、シリコン単結晶育成中に微量の重金属で汚染された場合には、特許文献4に記載されたように、熱処理を施した後にウェーハを洗浄してもLPDは増加する一方であり、低減させることはできなかった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、CZ法により育成された無欠陥シリコン単結晶からシリコンウェーハを製造する方法であって、微小なLPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できる方法、及びそれにより作製されたシリコンウェーハであって、パーティクルカウンターにて測定を行った場合にLPDが極限まで低減された高品質なシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、CZ法により育成された無欠陥シリコン単結晶からシリコンウェーハを製造する方法であって、
前記無欠陥シリコン単結晶からスライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハを準備した後に、
前記鏡面研磨されたシリコンウェーハを、500℃以上600℃以下の温度で、4時間以上6時間以下の時間で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後のシリコンウェーハを、研磨量が1.5μm以上となるように再研磨する再研磨工程とを行うことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0011】
このように、重金属、特にCu、Niのシリコン単結晶中における拡散速度が速いことを利用して、比較的低温の熱処理工程を行うことで、LPDの原因となる重金属を鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させることができ、その後、再研磨工程によりこれを除去することにより、LPDを低減させることができる。そのため、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できるシリコンウェーハの製造方法となる。
【0012】
特に、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、LPDの発生原因となる重金属の種類にかかわらず、従来は取り除くことのできなかった、サイズが45nm程度の微小LPDを極限まで低減することが可能である。
【0013】
また、前記熱処理工程及び前記再研磨工程を行うことによって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下の前記シリコンウェーハを製造することができる。
【0014】
このように微小なLPDが低減されれば、検査工程及び出荷段階で不良品発生率がより低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できるシリコンウェーハの製造方法となる。
【0015】
さらに、前記スライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハとして、直径300mm以上のシリコンウェーハを準備することが好ましい。
【0016】
このような最先端用として用いられる大直径ウェーハにおいて、熱処理工程及び再研磨工程を行うことで微小なLPDが確実に低減されたシリコンウェーハを作製することができる。
【0017】
また、前記シリコンウェーハの製造方法によって作製されたシリコンウェーハを提供する。
【0018】
このようなシリコンウェーハは、もとの無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低く、半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハとなる。
【0019】
さらに、本発明では、鏡面研磨されたシリコンウェーハを熱処理して再研磨したシリコンウェーハであって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下であるものを提供する。
【0020】
このような、シリコンウェーハであればLPDが極限まで低減されているため、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低く、半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に適したシリコンウェーハとなる。
【0021】
また、前記シリコンウェーハの直径が300mm以上であることが好ましい。
【0022】
このような最先端用として用いられる大直径ウェーハであれば、より最先端の半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハとなる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のシリコンウェーハの製造方法であれば、熱処理工程を行うことで、LPDの原因となる重金属を鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させ、再研磨工程によりこれを除去することにより、LPDを低減させることができるので、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できるシリコンウェーハの製造方法となる。
【0024】
特に、本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、従来は取り除くことのできなかった、サイズが45nm程度の重金属起因の微小LPDを極限まで低減することが可能である。
【0025】
また、本発明のシリコンウェーハであれば、パーティクルカウンターにて測定を行った場合にLPDが極限まで低減された高品質なシリコンウェーハであって、半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実験例1の鏡面研磨ウェーハIの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【図2】実験例2の鏡面研磨ウェーハIIの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【図3】実験例3の鏡面研磨ウェーハIIIのCOP形状である。
【図4】実験例4の鏡面研磨ウェーハIVのPID形状である。
【図5】実験例5の鏡面研磨ウェーハVの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【図6】実験例6の鏡面研磨ウェーハVIの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【図7】実験例7の鏡面研磨ウェーハVIIの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【図8】実験例8の鏡面研磨ウェーハVIIIの(a)LPDマップ、及び(b)LPD形状である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。前述の通り、COPの存在しない無欠陥シリコン単結晶からスライスされたシリコンウェーハであって、且つ研磨工程におけるPIDが発生しない工程を経て製造されたシリコンウェーハであっても、パーティクルカウンターで検出サイズを小さくした場合に重金属由来のLPDが高密度に検出されることが問題となっており、またこれらLPDは簡単に除けないことが問題となっていた。そのため、重金属由来のLPDを極限まで低減できるシリコンウェーハの製造方法の開発、及びLPDが極限まで低減されたシリコンウェーハの開発が望まれていた。
【0028】
本発明者らは上記のように鋭意検討を重ね、無欠陥シリコン単結晶からスライスされたシリコンウェーハのLPD形成原因は、引き上げ中に微量に混入した重金属、特にCu及びNiであることを突き止めた。これらは、シリコン単結晶製造中の熱履歴により集合し微小なサイズに成長する。本発明者らは、これらが研磨工程において、Cuの場合には選択的にエッチングされて微小なピットを形成し、Niの場合にはエッチングが遅くなり微小なヒロック(凸形状)を形成することを見出し、これらの形状がレーザー式のパーティクルカウンターにてLPDとして検出されることを見出した。そして、比較的低温の熱処理工程を行うことで、Cu及びNiを鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させることができ、更に、再研磨工程によりこれを除去することにより、LPDを低減させることができることを見出して、本発明を完成させた。以下、詳細に説明する。
【0029】
〔実験例1〕
まず、LPDの発生原因を突き止めるために、直径810mmの石英ルツボに多結晶シリコンを410kg充填し、溶融後に特許文献2に開示されたようにシリコンの固層/液層境界領域の温度勾配(G)と成長速度(V)を制御することにより直径300mmの無欠陥シリコン単結晶を育成した。この際、比抵抗は10Ω・cmとなるようにボロンをドープし、結晶軸方位は成長軸方向と垂直な面が<100>であるようにした。この無欠陥シリコン単結晶に工業的に一般に適用されるスライス、ラッピング、エッチング、鏡面研磨等を施し鏡面研磨ウェーハIを作製した。この鏡面研磨ウェーハIをパーティクルカウンター(KLA Tencor社 モデル名=SP2 検出粒径サイズは0.037μm以上)にて測定した。ウェーハ面内のLPDマップの検出結果を図1(a)に示した。
【0030】
図1(a)に示されるように、無欠陥シリコン単結晶より切り出したシリコンウェーハであるにもかかわらず、LPDが検出された。そこで、検出されているLPDの実態を調査するために、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて鏡面研磨ウェーハIの表面の観察を行った。観察された代表的な欠陥形状の6個の観察結果を図1(b)に示した。図1(b)に示されるように、観察されたLPDの形状はピット状の欠陥であることがわかった。
【0031】
〔実験例2〕
次に、前記実験例1と同様にして異なる石英ルツボで作製した無欠陥シリコン単結晶から鏡面研磨ウェーハIIを作製し、LPDを調査した。検出されたウェーハ面内のLPDマップを図2(a)に示し、鏡面研磨ウェーハIIの表面のSEMによる観察結果を図2(b)に示した。図2(a)に示されるように、鏡面研磨ウェーハIIの表面にLPDが発生していることが確認できた。また、図2(b)に示されるように、この際に検出されたLPDの形状は凸状のヒロックであることがわかった。この形状の違いより鏡面研磨ウェーハIIのLPDの形成原因は鏡面研磨ウェーハIとは異なる事がわかった。
【0032】
〔実験例3:COPの形状〕
結晶欠陥はLPDとして検出されることが知られている。COP(Crystal Originated Particle)は八面体の空洞欠陥として検出されることが報告されている(非特許文献3)。鏡面研磨ウェーハI及びIIにおいて検出された欠陥形状がCOPと関係しているか確認するために、COPが発生するように結晶成長速度を2倍にして直径300mmのシリコン単結晶を育成した。他の育成条件は実験例1と同一の条件とした。このシリコン単結晶からスライスされ、鏡面研磨された鏡面研磨ウェーハIIIのLPDの形状をSEMにより観察した結果を図3に示した。図3に示されるように、COP起因の欠陥は、一辺が[110]方向に囲まれた2つの欠陥が一部重なった、いわゆるツインピットと呼ばれる空洞欠陥であった。これにより明らかに鏡面研磨ウェーハI及びIIの欠陥はCOPとは異なることがわかった。
【0033】
このツインピットは、実験例1及び実験例2において、成長速度を高速化して育成したシリコン単結晶から切り出したウェーハのいずれの場合も観察された。このことからも、鏡面研磨ウェーハI及びIIの欠陥はCOPとは異なることがわかった。
【0034】
〔実験例4:PIDの形状〕
LPDは鏡面研磨工程によっても形成されることが知られている。特に鏡面研磨工程によって形成される欠陥はPID(Polished Induced Defect)と呼ばれ、無欠陥シリコンウェーハで顕著に検出される(非特許文献4)。また、特許文献3ではPIDが鏡面研磨の際の残渣により形成されることが開示されている。鏡面研磨ウェーハI及びIIで検出された欠陥形状がPIDと関係しているのか調査するために、あらかじめ実験例1及び実験例2に示すような無欠陥シリコン単結晶からスライスしたウェーハを選定し、一般的に行われている鏡面研磨工程中に故意にNiおよびCuを混入させて研磨し、鏡面研磨ウェーハIVを得た。鏡面研磨ウェーハIVに形成された代表的なPIDのSEMによる観察結果を図4に示した。図4に示されるように、PIDの形状は細長い線状であった。これより明らかに鏡面研磨ウェーハI及びIIの欠陥はPIDとは異なることがわかった。
【0035】
〔実験例5:鏡面研磨ウェーハIの再研磨〕
実験例1の鏡面研磨ウェーハIに形成されたLPDは、SEMによる詳細な形状観察より、実験例3で示した空洞欠陥(COP)とは明白に異なる。また、実験例4で示した研磨工程の影響によるPIDとも異なる欠陥形状を示した。更に、研磨工程によるLPDへの影響を再度確認するために、鏡面研磨ウェーハIを再研磨して鏡面研磨ウェーハVとし、鏡面研磨ウェーハVのLPDの再測定を行った。再研磨は研磨量1.5μmとした。再研磨後のLPDマップを図5(a)に示し、SEMによるLPDの形状の確認結果を図5(b)に示した。図5(a)、図5(b)に示されるように、鏡面研磨ウェーハVには鏡面研磨ウェーハIと同一の不定形のピット状の欠陥が見られ、このピット状の欠陥は研磨工程によるものではないことが確認できた。
【0036】
〔実験例6:鏡面研磨ウェーハIIの再研磨〕
実験例2の鏡面研磨ウェーハIIに形成されたLPDは、SEMによる詳細な形状観察より、実験例3で示した空洞欠陥(COP)とは明白に異なる。また、実験例4で示した研磨工程の影響によるPIDとも異なる欠陥形状を示した。実験例5と同様に、更に、研磨工程によるLPDへの影響を再度確認するために、鏡面研磨ウェーハIIを再研磨して鏡面研磨ウェーハVIとし、鏡面研磨ウェーハVIのLPDの再測定を行った。再研磨は研磨量1.5μmとした。再研磨後のLPDマップを図6(a)に示し、SEMによる欠陥形状の確認結果を図6(b)に示した。図6(a)、図6(b)に示されるように、鏡面研磨ウェーハVIには鏡面研磨ウェーハIIと同一の不定形の凸状のヒロックが見られた。これより鏡面研磨ウェーハIIのPLD欠陥は研磨工程によるものではないことが確認できた。
【0037】
〔鏡面研磨ウェーハIの不純物測定〕
再研磨によっても同一の欠陥形状を示したことからピット状のLPDは研磨工程に由来する欠陥ではないことが確認できた。欠陥の形成原因を更に調査するために実験例1の鏡面研磨ウェーハIについて不純物測定を行った。測定法は、ウェーハ表面の不純物測定において一般的に用いられているWSA(Wafer Surface Analysis)(非特許文献5)法であり、不純物を含む回収液を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)にて検出した。実験例1の鏡面研磨ウェーハIを分析した結果、不純物は検出限界以下であった。そのため、バルク不純物をウェーハ表面に移動させる目的で熱処理を行った。熱処理雰囲気は窒素雰囲気中で、熱処理温度は1000℃、時間は60分とした。熱処理した鏡面研磨ウェーハIを再度WSA法にて不純物測定を行って、正常品と比べたときの結果を表1に示した。各種の重金属不純物の中でCuが約1桁高濃度に検出された。表1中NDは検出限界以下であることを示す。
【0038】
【表1】

【0039】
〔鏡面研磨ウェーハIIの不純物測定〕
実験例2の鏡面研磨ウェーハIIでSEMにより観察できた欠陥は、COP、PID及び実験例1の鏡面研磨ウェーハIのLPDとはまったく異なる形状であった。そこで、前記と同様に鏡面研磨ウェーハIIを1000℃、60分で熱処理した後、WSA法による不純物分析を実施した。分析結果を表2に示した。表2より各種の重金属不純物の中でNi濃度が高いことがわかった。表2中NDは検出限界以下であることを示す。
【0040】
【表2】

【0041】
〔実験例7:鏡面研磨ウェーハIの熱処理と再研磨〕
実験例1の鏡面研磨ウェーハIのLPDは、COP、PIDが原因ではないことが確認できた。しかしパーティクルカウンターで測定した場合には微小なピット状の欠陥が形成され、このウェーハはCu濃度が通常より高いものであった。以上の結果より、ピット状の欠陥はシリコン単結晶育成時に微量に混入したCuが原因であり、結晶育成中の熱履歴により凝集し欠陥を形成したことが考えられる。
【0042】
そこで、シリコン中のCuは拡散速度が速いので、熱処理により鏡面研磨ウェーハIの表面にCuを凝集させそれを研磨することにより、鏡面研磨ウェーハIのLPDを改善させる方法が考えられる。実験例1の鏡面研磨ウェーハIを窒素雰囲気中にて500℃、6時間の熱処理を行った。その後、表面を1.5μm再研磨して鏡面研磨ウェーハVIIを作製し、パーティクルカウンターにてLPD測定を行った。この際のLPD測定結果を図7(a)に、SEMによる欠陥観察結果を図7(b)に示した。図7(a)よりLPDは図1(a)と比較し大幅に低減した。また、図7(b)に示されるように、ピット欠陥が消滅していることが確認できた。すなわち、鏡面研磨ウェーハIで検出されたピット状のLPDはシリコン単結晶育成中に微量に混入したCuに起因するものであることがわかった。
【0043】
〔実験例8:鏡面研磨ウェーハIIの熱処理と再研磨〕
同様に、実験例2の鏡面研磨ウェーハIIのLPDも、COP、PIDが原因ではないことが確認できた。しかしパーティクルカウンターで測定した場合には微小なヒロック状の欠陥が形成され、このウェーハはNi濃度が通常より高いものであった。以上の結果より、ヒロック状の欠陥はシリコン単結晶育成時に微量に混入したNiが原因であり、結晶育成中の熱履歴により凝集し欠陥を形成したことが考えられる。
【0044】
そこで、実験例7と同様に実験例2に示したシリコンウェーハに窒素雰囲気中にて500℃、6時間の熱処理を行った。その後、表面を1.5μm再研磨して鏡面研磨ウェーハVIIIを作製し、パーティクルカウンターにてLPD測定を行った。LPD測定結果を図8(a)に、SEMによる欠陥観察結果を図8(b)に示した。図8(a)に示されるように、LPDは図2(a)と比較し大幅に低減した。また、図8(b)よりヒロック状の欠陥が消滅していることが確認できた。すなわち、鏡面研磨ウェーハIIで検出されたヒロック状のLPDはシリコン単結晶育成中に微量に混入したNiに起因するものであることがわかった。
【0045】
〔実験例9:熱処理温度を変化させた場合のLPD低減効果〕
実験例7及び実験例8より、シリコン単結晶育成中に微量に混入した重金属不純物(特にCu、Ni)を起因とするLPDは、ウェーハを熱処理し、再研磨することにより低減できることが確認できた。そこで、実験例1及び実験例2の鏡面研磨ウェーハを用い、熱処理温度を変化させた場合のLPD低減効果を確認した。熱処理時間は4時間、再研磨量は1.5μmとし、熱処理温度を400℃、500℃、600℃、700℃の4水準とした。熱処理工程及び再研磨工程後の各鏡面研磨ウェーハのLPDの個数の測定結果を表3に示した。
【0046】
【表3】

【0047】
表3に示されるように、実験例2の鏡面研磨ウェーハIIの場合には、500℃の熱処理温度ではLPDが十分低減したが、400℃の熱処理温度の条件ではLPDの個数が102個/waferとなりLPD低減効果が不十分な結果であった。これは、シリコンウェーハ中のNiの拡散速度が比較的遅く、500℃未満の熱処理温度ではシリコンウェーハ表面に十分に移動できなかったことと考えられる。実験例1の鏡面研磨ウェーハIの場合には、熱処理温度が400℃であっても熱処理、再研磨後はLPDが6個/waferと十分に低い値となった。これは、Cuのシリコンウェーハ中の拡散速度が非常に速く、シリコンウェーハ表面に移動しやすく、再研磨により除去できたことが考えられる。
【0048】
以上より、仮に400℃の熱処理温度で熱処理を行った後に、Niに起因する欠陥があると分かったときには、更に手直しとして高温度の熱処理が追加として必要となりスループットの低下などを招くことがわかる。つまり、重金属汚染の状態がわからないウェーハのLPDを低減するためには、400℃の熱処理温度では不十分である。そのため本発明では、再度の熱処理および再研磨を避けるために熱処理温度は500℃以上とする。一方、600℃より高温の熱処理温度では熱処理中のウェーハ支持部からの熱応力によるスリップ転位の発生の可能性や、高温熱処理に起因する不良項目が増大し、歩留まりが低下する。そのため本発明では、これらを避けるために熱処理温度を600℃以下とする。
【0049】
〔実験例10:熱処理時間を変化させた場合のLPD低減効果〕
次に、実験例1及び実験例2の鏡面研磨ウェーハを用いて、熱処理時間を変化させた場合のLPD低減効果を確認した。熱処理温度は500℃、再研磨量は1.5μmとし、熱処理時間を3時間、4時間、6時間、8時間の4水準とした。熱処理工程及び再研磨工程後の各鏡面研磨ウェーハのLPDの個数の測定結果を表4に示した。表4に示されるように、実験例2の鏡面研磨ウェーハIIでは4時間以上、8時間までの熱処理時間にてLPDが十分低減したが、3時間の熱処理時間の条件ではLPDの個数が68個/waferとLPD低減効果が不十分となる結果であった。また、実験例1の鏡面研磨ウェーハIでは熱処理時間が3時間であっても、LPDは4個/waferと低い値であった。
【0050】
【表4】

【0051】
これは、実験例9と同様、Cuの方がNiよりも拡散速度が速いことに起因するものである。重金属汚染の状態がわからないのが通常であるため、本発明では再度の熱処理及び再研磨の必要のないように、熱処理時間を4時間以上とする。一方、6時間を越える熱処理時間では工程時間が長くなり製造効率が低下する。更に、熱処理時間が6時間より長い場合にはシリコンウェーハ中の格子間酸素の析出特性に多大な影響を及ぼす。つまり、BMD(Bulk Micro Defect)特性に悪影響を及ぼす。酸素析出の過多によりウェーハ表面付近にBMDが形成されると、その後に半導体素子形成工程でリークなどの原因ともなるので、本発明ではこれらの弊害を避けるため熱処理時間を6時間以下とする。
【0052】
〔実験例11:再研磨量を変化させた場合のLPD低減効果〕
最後に、実験例1及び実験例2の鏡面研磨ウェーハを用いて、再研磨量を変化させた場合のLPD低減効果を確認した。熱処理温度は500℃、熱処理時間は4時間とし、再研磨量を0.5μm、1.0μm、1.5μm、2.0μmの4水準とした。熱処理工程及び再研磨工程後の各鏡面研磨ウェーハのLPDの個数の測定結果を表5に示した。表5に示されるように、再研磨量が1.5μm以上の場合には実験例1及び実験例2の鏡面研磨ウェーハのLPDが十分に低減したが、再研磨量が1.0μmの場合には実験例2の鏡面研磨ウェーハのLPDは低減しなかった。したがって、本発明では、追加して再研磨する必要のないよう再研磨量を1.5μm以上とする。
【0053】
【表5】

【0054】
以上説明したように、熱処理工程を行うことで、歩留まりを低下させることなく重金属を鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させ、再研磨工程によりこれを除去することにより、LPDを低減させることが可能となる。特に、このような方法はLPDの発生原因となる結晶成長時の重金属汚染に起因し、従来は取り除くことのできなかった、サイズが45nm程度の微小LPDを極限まで低減することが可能である。
【0055】
本発明者らは、上記の結果から、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できるシリコンウェーハの製造方法を見出した。以下、本発明について説明する。
【0056】
本発明は、CZ法により育成された無欠陥シリコン単結晶からシリコンウェーハを製造する方法であって、
前記無欠陥シリコン単結晶からスライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハを準備した後に、
前記鏡面研磨されたシリコンウェーハを、500℃以上600℃以下の温度で、4時間以上6時間以下の時間で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後のシリコンウェーハを、研磨量が1.5μm以上となるように再研磨する再研磨工程とを行うことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法である。
【0057】
〔無欠陥シリコン単結晶〕
本発明において無欠陥シリコン単結晶はCZ法により育成し、特に磁場を印加したMCZ法により育成することができる。また、本発明において無欠陥シリコン単結晶とは、ボイド型欠陥もOSFも転位クラスターもない全面N−領域からなるシリコン単結晶をいう。一般的にシリコン単結晶には、シリコン原子の不足から発生する空孔型の点欠陥が過剰にあるV−領域、シリコン原子が余分に存在することにより発生する格子間型シリコン点欠陥が過剰にあるI−領域、そしてV−領域とI−領域の間に、原子の不足や余分が無い(少ない)N−領域が存在する。そして、VやIが過飽和な状態の時に、グローンイン欠陥(FPD、LSTD、COP等)が発生する。
【0058】
この両点欠陥の濃度は、CZ法における結晶の引上げ速度(成長速度)Vと結晶中の固液界面近傍の温度勾配Gとの関係から決まることが知られている。V/Gというパラメータが点欠陥のトータルな濃度を決定するので、V/Gが所定の値になるように引上げ速度を調節することでN−領域が横全面に広がった結晶が製造でき、このN−領域が横に広がった時の引上げ速度を維持して引上げることで全面N−領域の結晶を長さ方向へ拡大することができることが知られている。本発明における無欠陥シリコン単結晶とは、このようにして育成された全面N−領域のシリコン単結晶である。
【0059】
〔シリコンウェーハの準備〕
本発明では、無欠陥シリコン単結晶を少なくともスライスし、スライスされたウェーハを鏡面研磨してシリコンウェーハを準備する。このウェーハ加工工程は特に制限されず、一般的に行われている工程のいずれをも適用できる。特に、スライスの後、面取り、ラッピング、エッチング、鏡面研磨するのが典型的であるがその他の工程としてもよい。また、特に制限されないが、スライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハとして、直径300mm以上のシリコンウェーハを準備することが好ましい。このような最先端品に用いられる大直径ウェーハであっても、本発明の熱処理工程及び再研磨工程を行うことでLPDが低減された高品質のシリコンウェーハを作製することができる。
【0060】
〔熱処理工程〕
本発明の熱処理工程では、鏡面研磨されたシリコンウェーハを、500℃以上600℃以下の温度で、4時間以上6時間以下の時間で熱処理する。このように、重金属、特にCu、Niのシリコン単結晶中における拡散速度が速いことを利用して比較的低温の熱処理工程を行うことで、Cu及びNiを鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させることができる。用いる熱処理炉についても特に制限されず、縦型あるいは横型のバッチ炉を用いれば効率がよい。
【0061】
ここで、熱処理温度は、どの重金属で汚染されているか汚染状態が不明であることを考慮して、追加熱処理の必要のないように500℃以上とし、また、熱処理中のウェーハ支持部からの熱応力によるスリップ転位の可能性や熱処理に起因する不良項目が増大し、歩留まりが低下することを回避するために600℃以下とする。また、熱処理時間は、汚染状態が不明であることを考慮して、追加熱処理の必要のないように4時間以上とし、また、製造効率の低下及びBMD特性等に悪影響を及ぼさないように6時間以下とする。
【0062】
〔再研磨工程〕
本発明の再研磨工程では、熱処理工程後のシリコンウェーハを、研磨量が1.5μm以上となるように再研磨する。このように、再研磨工程によりシリコンウェーハの表面近傍に集合した重金属、特にCu、Niを除去することにより、LPDの発生原因となる重金属を除くことができる。これにより重金属起因の微小なLPDを低減させることができる。ここで、再研磨量は、追加して再研磨する必要のないよう1.5μm以上とする。研磨方法としては、一般的にシリコンウェーハに行われているいずれの研磨方法によることができ、特に制限されない。例えば、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMPを行うことができる。
【0063】
以上、熱処理工程及び再研磨工程を行うことによって、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、シリコンウェーハの製造の際の検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低くなり、歩留まりの良いシリコンウェーハの製造方法となる。
【0064】
また、熱処理工程及び再研磨工程を行うことによって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下の前記シリコンウェーハを製造することができる。このように、LPDが低減されれば検査工程及び出荷段階で不良品発生率がより低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造することができる。
【0065】
〔シリコンウェーハ〕
また、前記シリコンウェーハの製造方法によって作製されたシリコンウェーハは、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低くなり、最先端の半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハとなる。
【0066】
さらに、本発明では、鏡面研磨されたシリコンウェーハを熱処理して再研磨したシリコンウェーハであって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下であるシリコンウェーハを得ることができる。このような、シリコンウェーハであれば、LPDが極限まで低減されているため、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低くなり、最先端の半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に適したシリコンウェーハとなる。
【0067】
また、前記シリコンウェーハの直径が300mm以上であることが好ましい。このような最先端用の大直径ウェーハであれば、半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハとなる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例および比較例をあげてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
直径810mmの石英ルツボに多結晶シリコンを410kg充填し、シリコンの固層/液層境界領域の温度勾配(G)と成長速度(V)を制御することにより直径300mmの無欠陥シリコン単結晶を育成した。この際、比抵抗は10Ω・cmとなるようにボロンをドープし、結晶軸方位は成長軸方向と垂直な面が<100>であるようにした。この無欠陥シリコン単結晶にスライス、面取り、ラッピング、エッチング、鏡面研磨を施し鏡面研磨ウェーハを作製した。この鏡面研磨ウェーハを熱処理温度500℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、その後、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。熱処理、再研磨後のシリコンウェーハのLPDをパーティクルカウンター(KLA Tencor社 モデル名=SP2 検出粒径サイズは0.037μm以上)にて検出した。結果を表6に示す。
【0070】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度600℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0071】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度500℃、熱処理時間6時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0072】
(実施例4)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度500℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、再研磨量2.0μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0073】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度400℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度700℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0075】
(比較例3)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度500℃、熱処理時間3時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0076】
(比較例4)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度500℃、熱処理時間8時間で熱処理をし、再研磨量1.5μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0077】
(比較例5)
実施例1と同様にして作製した鏡面研磨ウェーハを、熱処理温度500℃、熱処理時間4時間で熱処理をし、再研磨量1.0μmとして再研磨を行ってシリコンウェーハを作製した。LPDの検出結果を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
以上に示されるように、熱処理温度が低い比較例1では十分にLPDの原因となる不純物が表面に拡散しないためLPDが低減できず、熱処理温度が高い比較例2では熱処理による良品率の低下が生じた。また、熱処理時間が短い比較例3では十分にLPDの原因となる不純物が表面に拡散しないためLPDが低減できず、熱処理時間が長い比較例4では全体の工程の長時間化によるスループットの低下が生じた。さらに、再研磨量の少ない比較例5では十分にLPDの原因のなる不純物を取り除くことができずLPDがあまり低減できないことが示された。
【0080】
これに対して、本発明の実施例1〜4では、重金属、特にCu、Niのシリコン単結晶中における拡散速度が速いことを利用して比較的低温500〜600℃、4〜6時間の熱処理工程を行うことで、重金属を鏡面研磨後のシリコンウェーハの表面近傍に集合させることができ、更に、研磨量1.5μm以上の再研磨工程によりこれを除去することにより、LPDを低減させることができることが示された。
【0081】
以上説明したように、本発明のシリコンウェーハの製造方法であれば、無欠陥シリコン単結晶が育成時に重金属で汚染されていたとしても、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低いシリコンウェーハを、歩留まり良く製造できる方法となることが示された。
【0082】
また、本発明のシリコンウェーハであれば、LPDが極限まで低減され、検査工程及び出荷段階で不良品発生率が低く、最先端の半導体素子作製工程に用いられる工程確認用のウェーハや高集積の半導素子の製造に最適なシリコンウェーハとなる。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法により育成された無欠陥シリコン単結晶からシリコンウェーハを製造する方法であって、
前記無欠陥シリコン単結晶からスライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハを準備した後に、
前記鏡面研磨されたシリコンウェーハを、500℃以上600℃以下の温度で、4時間以上6時間以下の時間で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後のシリコンウェーハを、研磨量が1.5μm以上となるように再研磨する再研磨工程とを行うことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程及び前記再研磨工程を行うことによって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下の前記シリコンウェーハを製造することを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記スライスされ、鏡面研磨されたシリコンウェーハとして、直径300mm以上のシリコンウェーハを準備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法によって作製されたシリコンウェーハ。
【請求項5】
鏡面研磨されたシリコンウェーハを熱処理して再研磨したシリコンウェーハであって、パーティクルカウンターで検出される、粒径サイズ37nm以上120nm以下のLPDが10個/wafer以下であることを特徴とするシリコンウェーハ。
【請求項6】
前記シリコンウェーハの直径が300mm以上であることを特徴とする請求項5に記載のシリコンウェーハ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4825(P2013−4825A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135891(P2011−135891)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】