説明

シリコン中の不純物の測定方法

【課題】調査されるべきシリコン中の不純物の測定を光ルミネッセンスもしくはFTIR又はその両方を用いて行うことを可能とするための、フロートゾーン法によるシリコン中の不純物濃度の希薄化を利用した測定方を提供する。
【解決手段】調査されるべきシリコンからゾーン引き上げによって単結晶ロッドを作成し、この単結晶ロッドを、少なくとも1回の希薄化工程で、規定の炭素濃度及びドーパント濃度を有する単結晶もしくは多結晶のシリコン製のスリーブ中に導入し、そして該ロッド及びスリーブからゾーン引き上げによって希薄化されたシリコン製の単結晶ロッドを作成し、その希薄化された単結晶ロッドをもとに、調査されるべきシリコン中の不純物の測定を光ルミネッセンスもしくはFTIR又はその両方を用いて行う、シリコン中の不純物の測定方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン中の不純物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的規模では、粗製シリコンは、二酸化ケイ素の炭素によるアーク炉中での温度約2000℃での還元によって得られる。
【0003】
その際、純度約98〜99%の、いわゆる冶金シリコン(Simg、"冶金級")が得られる。
【0004】
光電池及びマイクロエレクトロニクスで使用するためには、冶金シリコンを精製せねばならない。そのためには、例えばガス状の塩化水素を用いて300〜350℃で流動層反応器中で反応させてケイ素含有ガス、例えばトリクロロシランとする。それに引き続き、ケイ素含有ガスを精製するために蒸留工程が行われる。
【0005】
この高純度のケイ素含有ガスは、次いで高純度の多結晶シリコンの製造のための出発物質として用いられる。
【0006】
多結晶シリコン(しばしば短縮してポリシリコンとも呼ばれる)は、通常はシーメンス法によって製造される。その際、釣鐘状反応器("シーメンス反応器")においてシリコン製の細いフィラメント心棒は直接的な通電によって加熱され、ケイ素含有成分と水素とを含有する反応ガスがそこに導入される。
【0007】
シーメンス法では、前記フィラメント心棒は、通常は反応器底に存在する電極中に垂直に延びており、それらを介して電流供給への接続が行われる。2つのフィラメント心棒ごとに、1つの水平なブリッジ(同様にシリコン製)を介して接続されていて、それらがシリコン析出のための担体を形成する。ブリッジ接続によって、細いロッド(Duennstab)とも呼ばれる担体の典型的なU字形がもたらされる。
【0008】
加熱された心棒とブリッジには高純度のポリシリコンが析出し、それによってロッド直径は経時的に成長する(CVD=化学蒸着/気相析出)。
【0009】
析出が完了した後に、これらのポリシリコンロッドは、通常、機械的加工によって種々の寸法クラスの破砕破片へと再加工され、場合により湿式化学的清浄化に供され、最後に包装される。
【0010】
しかしながら、該ポリシリコンは、ロッドの形又はロッドの破片の形で再加工することもできる。それは、特にFZ(フロートゾーン)法でのポリシリコンの使用について当てはまる。
【0011】
反応ガスのケイ素含有成分は、一般に、一般組成SiHn4-n(式中、n=0、1、2、3;X=Cl、Br、I)のモノシラン又はハロゲンシランである。前記成分は、好ましくはクロロシラン、特に好ましくはトリクロロシランである。主に、SiH4又はSiHCl3(トリクロロシラン、TCS)は水素との混合物で使用される。
【0012】
その他に、小さいシリコン粒子を流動層反応器中で直接的にかかる反応ガスにさらすことも知られている。その際に生ずる多結晶シリコンは、造粒物の形で存在する(造粒ポリ(Granulat−Poly))。
【0013】
多結晶シリコン(略語:ポリシリコン)は、坩堝引き上げ(チョクラルスキー法もしくはCZ法)又は帯域溶融(フロートゾーン法もしくはFZ法)による単結晶シリコンの製造における出発材料として用いられる。この単結晶シリコンは、ウェハ(Wafer)へと切り分けられ、半導体産業における多数の機械的加工、化学的加工及び化学機械的加工の後に電子素子(チップ)の製造のために使用される。
【0014】
しかしながら特に、多結晶シリコンは、ますます大きな規模で、引き上げ法又は鋳造法による単結晶シリコン又は多結晶シリコンの製造のために必要とされ、その際、この単結晶シリコン又は多結晶シリコンは、光電装置用のソーラーセルの製造のために用いられる。
【0015】
ポリシリコンの品質要求は常に高くなっているので、一連のプロセス全体での品質コントロールは不可欠である。材料は、例えば金属又はドーパントによる汚染に関して調査されている。バルク中の汚染と、ポリシリコン破砕破片もしくはロッド破片の表面での汚染とは区別されるべきである。
【0016】
また通常は、生成されたポリシリコンは、品質コントロールの目的のために単結晶材料に変換される。この場合に、単結晶材料は調査される。ここでも、半導体産業における顧客のプロセスで特に重要とみなされる金属汚染が特別な役割を担う。しかしながら、シリコンは、炭素並びにアルミニウム、ホウ素、リン及びヒ素などのドーパントに関しても調査される。
【0017】
ドーパントは、SEMI MF 1398に従って、多結晶材料から作成されたFZ単結晶(SEMI MF 1723)で光ルミネッセンスを用いて分析される。選択的に、低温FTIR(フーリエ変換型赤外分光分析)が使用される(SEMI MF 1630)。
【0018】
FTIR(SEMI MF 1188、SEMI MF 1391)は、炭素濃度と酸素濃度の測定を可能にする。
【0019】
FZ法の基本事項は、例えばDE3007377号Aに記載されている。
【0020】
FZ法では、多結晶の供給ロッド(Vorratsstab)は、高周波コイルを用いて徐々に溶融され、そして溶融液状の材料は、単結晶種晶(Impflingskristall)でのシーディング(Animpfen)と、それに引き続く再結晶化によって単結晶に変換される。再結晶化では、生ずる単結晶の直径は、まず円錐形に拡大し(コーン形成)、それから所望の最終直径にまで達する(ロッド形成)。コーン形成の段階では、単結晶は、細い種晶の負担を和らげるために機械的にも支持されている。
【0021】
しかしながら、高い不純物濃度を有する多結晶シリコン並びにFZ単結晶に変換された高汚染された材料、例えば精錬された冶金シリコン("品質向上冶金級(upgraded metallurgical grade)"、UMG)は、光ルミネッセンスもしくはFTIRによって容易に分析できないことが示された。汚染は、光ルミネッセンスもしくはFTIRによって測定可能な範囲のためには高すぎる。ドーパントについては、pptaのオーダーの濃度は、PL(光ルミネッセンス)によって測定でき、ppbaのオーダーの炭素については、FTIRによって測定できる。
【0022】
DE4137521号B4は、シリコン粒子中の不純物の濃度の分析方法であって、粒状シリコンをシリコン製容器に入れ、その粒状シリコンとシリコン製容器をフロートゾーン(Schwebezone)で後処理して単結晶シリコンとし、そして該単結晶シリコン中に存在する不純物の濃度を測定する分析方法を記載している。
【0023】
サンプルが該方法によってごくわずかしか汚染されないことが、この方法では好ましいと見なされている。該粒状シリコンは、エレクトロニクス品質又は同等の品質を有するべきである。該粒状シリコンは、多結晶もしくは単結晶の粒子もしくは細片であってよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】DE3007377号A
【特許文献2】DE4137521号B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
調査されるべきシリコンが既にエレクトロニクス品質を有する場合に、先行技術で観察される問題は、光ルミネッセンス測定によっては示されない。それというのも、その汚染は十分に低い水準にあるからである。従ってここでは、かかる測定を実施しうるために、粒状シリコンに、フロートゾーン法によって別の形状、すなわちロッド形を与えることに主眼を置いている。
【0026】
該方法での欠点は、十分な熱伝導を保証するためには、粒子とシリコン容器との間に十分な接触が存在せねばならないということである。その際には、分析されるシリコンが汚染される危険性がある。
【0027】
前記の問題点から、本発明の課題が生まれた。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記課題は、シリコン中の不純物の測定方法であって、調査されるべきシリコンからゾーン引き上げによって単結晶ロッドを作成し、この単結晶ロッドを、少なくとも1回の希薄化(Verduennung)工程で、規定の炭素濃度及びドーパント濃度を有する単結晶もしくは多結晶のシリコン製のスリーブ(Huelse)中に導入し、そして該ロッド及びスリーブからゾーン引き上げによって希薄化されたシリコン製の単結晶ロッドを作成し、その希薄化された単結晶ロッドをもとに、調査されるべきシリコン中の不純物の測定を光ルミネッセンスもしくはFTIR又はその両方を用いて行う前記測定方法によって解決される。
【0029】
好ましくは、調査されるべきシリコンは、少なくとも1回の希薄化工程の前に、少なくとも1ppmaの炭素含量及び少なくとも1ppbaのドーパント含量を有する。
【0030】
好ましくは、少なくとも1回の希薄化工程の後に、更なる希薄化工程を、規定の炭素濃度とドーパント濃度を有する単結晶もしくは多結晶のシリコン製の更なるスリーブと、それぞれの先行する希薄化工程の後に得られる新たなシリコン製の単結晶ロッドとを用いて行って、希薄化された単結晶シリコンロッドが作成される。
【0031】
好ましくは、更なる希薄化工程は、希薄化されたシリコンロッドが1ppma未満の炭素含量と1ppba未満のドーパントの含量を有するまで行われる。
【0032】
本方法の出発点は、炭素及びドーパントで汚染された、精錬された冶金シリコン又は多結晶シリコンである。その材料は、不純物の測定が光ルミネッセンスによっては今のところ不可能である程度に炭素及び/又はドーパントで汚染されている。
【0033】
出発材料は、好ましくは、シーメンス反応器中でフィラメント心棒に析出させた後に生ずるような細いロッドの形で存在する。
【0034】
この細いロッドから、FZ(フロートゾーン)ゾーン引き上げによって単結晶ロッドが成長される。
【0035】
この単結晶ロッドは、円形断面を有し、好ましくは2〜35mmの直径を有する。
【0036】
FZ成長で2〜35mmの最終直径に達する前に、好ましくは、いわゆる細いネック(Duennhals)が引き出され、転位不含の成長が達成され、そして希薄化工程のためのスリーブの詰め物として好適なロッドが作り出される。
【0037】
出発材料から成長された単結晶ロッドは、引き続き単結晶もしくは多結晶のシリコン製のスリーブ中に導入される。
【0038】
シリコンスリーブ中に存在する単結晶(もしくは多結晶)のロッドは、次いでFZによって単結晶ロッドに変換される。ここでも、好ましくは、いわゆる細いネックが引き出されて、転位不含の成長が達成され、そして後続の希薄化工程のためのスリーブの詰め物として好適なロッドが作り出される。
【0039】
好ましくは、スリーブの内径は、前もって作成された単結晶ロッドの直径にほぼ相当する。
【0040】
しかしながら、ロッド直径がスリーブの内径よりも小さくてもよく、それは特に好ましいことである。
【0041】
つまり、スリーブの内壁と単結晶ロッドの側面との間に空所が存在する場合にも転位不含の成長が可能であることが示された。
【0042】
好ましくは、スリーブと円柱形結晶との間には接点は存在しない。かかる配置が欠陥不含の単結晶をもたらし、それが同時に更なる希薄化工程のために出発材料として利用できることは、驚くべきことである。
【0043】
スリーブと円柱形結晶との間に接点が存在しない場合に、さらに該円柱形結晶のあらゆる機械的加工を省くことができる。それは、とりわけ、かかる機械的加工が常に付加的な汚染の原因となりうるので好ましい。
【0044】
シリコンスリーブは、単結晶もしくは多結晶のロッドから穿孔によって作成することができる。
【0045】
元の単結晶(もしくは多結晶)のロッド及びシリコンスリーブから新たな単結晶のロッドを作成することによって、シリコン中の不純物濃度を希薄化することができる。
【0046】
スリーブの単結晶もしくは多結晶の材料は、定義された水準の炭素及びドーパントによる汚染を有している。シリコンスリーブ中の不純物の濃度は、理想的には、調査されるべきシリコン中の濃度よりも明らかに低い水準にある。
【0047】
ここで、スリーブと元のロッドからの新たなロッドの成長によって、不純物の希薄化が達成される。
【0048】
また、かかる希薄化工程を複数回行うことも好ましい。
【0049】
高く汚染された出発材料の場合には、光ルミネッセンスのために測定可能な範囲に進めるためには、かかる複数回の希薄化は必須である。
【0050】
それによって、第一の希薄化工程の後に得られる単結晶ロッドを再びシリコン製のスリーブ中に導入し、そしてロッド/スリーブを改めてFZ法に供するということを実行することができる。
【0051】
各々の追加の希薄化工程によって、不純物に関する濃度の更なる希薄化が達成される。
【0052】
第一の希薄化工程の後に、不純物の濃度が既に、濃度測定を光ルミネッセンスにより可能にする水準にある場合には、好ましくは、更なる希薄化工程は実施されない。
【0053】
不純物の濃度は、炭素含量が1ppma未満であり、かつドーパント含量が1ppba未満である場合に、濃度測定が光ルミネッセンスにより可能となる水準になる。
【0054】
光ルミネッセンスによる濃度測定に際しては、希薄化は当然のように考慮されるべきである。しかしながら、シリコンスリーブの材料の汚染の度合いは既知であり、従って光ルミネッセンスによって測定可能な範囲にあるので、(ロッド/スリーブ)から作成された単結晶中の不純物の濃度によって、もしくはn回の希薄化工程の後に、(ロッド/n*スリーブ)から作成された単結晶中の不純物の濃度によって、調査されるべきシリコン中の不純物の正確な濃度を出すことは、当業者に問題をもたらさない。
【0055】
10mm/分超の高い結晶成長速度では、それが好ましいが、その際には、高い偏折係数を生ずるので、第一の近似においては、偏折を無視することができる。好ましくは2〜35mmの結晶直径を有する、使用される円柱形単結晶は、好ましくは、かかる高い引き上げ速度で、かつ低い効果的な溶融物高さで製造される。ホウ素及びリンの場合には、その際、実質的に全く偏折効果を生じず、これは、先行技術においては偏折効果は常に考慮されるべきであった(SEMI MF 1723−1104)ので該方法にかかる費用をより少なくする。
【0056】
本方法はまた限りなく高いドーパント濃度でも、光ルミネッセンスの方法によってドーピング元素の定量を可能にすることが示された。
【実施例】
【0057】
多結晶シリコン製の及び冶金シリコン製のロッド形状のサンプルを調査した。
【0058】
それらのサンプルは、約5mmの直径を有する。
【0059】
前記サンプルから、FZによって約12mmの直径を有する単結晶ロッドを成長させた。
【0060】
スリーブとして、ドープされていない多結晶シリコンスリーブ(直径約19mm)を使用した。
【0061】
4回の希薄化工程を実施した。
【0062】
最初の3回の希薄化工程の後に、ホウ素とリンの濃度は測定可能な範囲にはなかった。
【0063】
4回目の希薄化工程の後には、ドーパントの濃度は測定可能な範囲にあった。
【0064】
そのために、定義された単結晶の場所で測定ディスクを取り出し、これを光ルミネッセンス測定に供した。
【0065】
79pptaのリンと479pptaのホウ素という結果であった。
【0066】
そこから、元のサンプルの濃度を測定することができた。1.0ppmaのリンと6.3ppmaのホウ素という結果であった。
【0067】
炭素に関しては、その濃度は、既に3回目の希薄化の後で測定可能な範囲にあった。それは87ppbaという結果であった。
【0068】
元のサンプルについて、833ppmaの炭素が算出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン中の不純物の測定方法であって、調査されるべきシリコンからゾーン引き上げによって単結晶ロッドを作成し、この単結晶ロッドを、少なくとも1回の希薄化工程で、規定の炭素濃度及びドーパント濃度を有する単結晶もしくは多結晶のシリコン製のスリーブ中に導入し、そして該ロッド及びスリーブからゾーン引き上げによってシリコン製の希薄化された単結晶ロッドを作成し、その希薄化された単結晶ロッドをもとに、調査されるべきシリコン中の不純物の測定を光ルミネッセンスもしくはFTIR又はその両方を用いて行う前記測定方法。
【請求項2】
調査されるべきシリコンが、少なくとも1回の希薄化工程の前に、少なくとも1ppmaの炭素含量及び少なくとも1ppbaのドーパント含量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1回の希薄化工程の後に、更なる希薄化工程を、規定の炭素濃度とドーパント濃度を有する単結晶もしくは多結晶のシリコン製の更なるスリーブと、それぞれの先行する希薄化工程の後に得られる新たなシリコン製の単結晶ロッドとを用いて行って、希薄化された単結晶シリコンロッドが作成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
希薄化工程を、希薄化されたシリコンロッドが1ppma未満の炭素含量と1ppba未満のドーパントの含量を有するまで行う、請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2012−102009(P2012−102009A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245758(P2011−245758)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】