説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】 CZ法による無欠陥シリコン単結晶の製造方法において、双晶欠陥が抑制された良質なシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 CZ法によってチャンバ内でシリコン単結晶をシリコン融液から引上げて製造する方法において、双晶欠陥のない無欠陥結晶を得るために、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で、かつ、OSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲内で制御し、前記シリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造に用いられるCZ法(以下、MCZ法含む)によるシリコン単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造に用いられるシリコン単結晶の製造方法として、チャンバ内の石英ルツボに収容されたシリコン融液からシリコン単結晶を成長させつつ引き上げるチョクラルスキー法(CZ法)が広く実施されている。
CZ法は、不活性ガス雰囲気下で石英ルツボ内のシリコン融液に種結晶を浸し、該石英ルツボ及び種結晶を回転させながら引き上げることにより所定のシリコン単結晶を育成するものである。更に、結晶の大型化に伴い、充填するシリコン多結晶の重量が増大している。そのためシリコン融液に磁場を印加し熱対流を抑制する方法(MCZ法)が開示されており、直径300mm以上のシリコン単結晶の製造には広く適応されている。
【0003】
一方、近年、半導体素子の高集積化とそれに伴う微細化の進展によりシリコンウェーハ内の成長欠陥(grown−in欠陥)が問題となってきた。CZ法により製造されたシリコン単結晶中の成長欠陥としては、空孔の凝集体である八面体のボイド状欠陥(非特許文献1参照)や、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター(非特許文献2参照)などが知られており、これらは半導体素子の特性を劣化させる要因となる。
【0004】
これらの欠陥の種類及び濃度は、シリコン単結晶の引き上げ速度V及び固液界面近傍の結晶温度勾配Gの比、V/Gによって決定されることが知られている(非特許文献3参照)。
【0005】
図10は、V/Gと欠陥分布の関係の一例を示している。単結晶育成時の引き上げ速度V(mm/min)を変化させることによって、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度分布の平均値G(℃/mm)との比であるV/Gを変化させた場合のものである。
【0006】
まず、図10の単結晶インゴットの縦割りサンプルの概略図に示すように、引き上げ速度Vが比較的高速な領域ではベーカンシー(以下、Vaともいう)と呼ばれる点欠陥である空孔が凝集したボイドと考えられているCOPやFPDと呼ばれる空孔型のgrown−in欠陥が存在し、V−Rich領域(V領域)と呼ばれている。
【0007】
これより引き上げ速度Vが少し遅くなると、結晶周辺からOSFがリング状に発生し(OSF領域)、引き上げ速度が低下するに従ってOSFは中心に向ってシュリンクしていき、ついには結晶中心でOSFは消滅する。
さらに引き上げ速度Vを遅くすると、ベーカンシーやインタースティシャルシリコン(以下、Iともいう)と呼ばれる格子間型の点欠陥の過不足が少ないニュートラル(以下、Nともいう)領域が存在する。このN領域は、VaやIの偏りはあるが飽和濃度以下であるため、凝集した欠陥としては存在しないか、あるいは現在の欠陥検出方法では欠陥の存在が検出できないほど小さいことが判明してきた。
このN領域は、空孔が優勢なNv領域と、格子間シリコンが優勢なNi領域に分別される。
【0008】
引き上げ速度Vを更に遅くすると、Iが過飽和となり、その結果、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスターが発生し、この領域はI−Rich領域(I領域)と呼ばれる。
【0009】
これらのような結晶欠陥の領域の判定に関しては、例えば、N領域とV領域の判定については、セコエッチング後の光学顕微鏡によるFPD密度の観察とOSF熱処理後のOSF密度を併用することにより決定することができる。
また、I領域とN領域の判定については、I領域に観察される転位クラスターがセコエッチング後にピットとして観察されることから判別することができる。
【0010】
近年、全面N領域(成長欠陥フリー領域)結晶、即ち無欠陥結晶の要求が増えており、特許文献1には、無欠陥シリコン単結晶の製造方法について、成長欠陥が成長界面における結晶の温度勾配とシリコン単結晶の成長速度により導入量が決まることを利用し、シリコン単結晶の成長速度を低めることが開示されている。
特許文献2ではシリコン単結晶の固相/液相における境界領域の温度勾配にほぼ比例する単結晶の最大引き上げ速度を超えない速度で引き上げることが開示されている。さらに結晶成長中の温度勾配Gと成長速度Vに着目した改善CZ法などが報告されている(非特許文献4参照)。このV/Gの比が一定のときに無欠陥結晶が得られるとされている。
【0011】
しかし、このような無欠陥結晶を製造した場合、新たに双晶欠陥の発生があり、製造したシリコン単結晶には品質不良部が発生する場合があり、そのために製品歩留まりが低下する問題が生じた。ここで、双晶とは例えば、シリコン単結晶の成長方向に垂直な面の方位<111>とした場合に同一結晶中に異なる面方位の<511>面が形成される欠陥であることが報告されている(非特許文献5参照)。
また、この双晶欠陥の形成要因として、シリコン単結晶の引き上げ時にシリコン融液から蒸発するSiOが炉内の上部に設置した低温部にて析出し、これらが剥離してシリコン融液に落下することにより、シリコン単結晶の結晶方位が変化してしまうことが知られている。
【0012】
特許文献3には、このような双晶欠陥の改善策として、単結晶製造装置内の不活性ガスの流れを、結晶の周囲に配置した整流筒を用いて制御する技術が開示されている。つまり、双晶欠陥は、シリコン融液表面に浮遊するシリコン単結晶のマトリクスと異なる異物が、結晶成長界面に付着することにより生ずる格子ひずみを緩和するために、それまで成長した面方位から異なる結晶方位の領域が成長することにより発生すると考えられていた。ここで、半導体素子向けのシリコン単結晶では、面方位は最も重要な特性であり重大な特性である。
【0013】
しかし、微細化した半導体素子向けの無欠陥結晶の製造において、従来双晶欠陥の原因と考えられていたシリコン融液のSiO酸化物などの異物の付着がない状態で結晶を製造したとしても、双晶欠陥が発生し、製品歩留まりが低下する場合が見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6−56588
【特許文献2】特開平7−257991
【特許文献3】特開昭63−50391
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Analysis of side−wall structure of grown−in twin−type octahedral defects in Czochralski silicon, Jpn. J.Appl. Phys. Vol.37(1998)p−p.1667−1670
【非特許文献2】Evaluation of microdefects in as−grown silicon crystals, Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol.262(1992) p−p51−56
【非特許文献3】The mechanism of swirl defects formation in silicon, Journal of Crystal growth,1982,p−p625−643
【非特許文献4】日本結晶成長学会 vol.25 No.5,1998
【非特許文献5】シリコン 結晶成長とウェーハ加工 培風館
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、CZ法(MCZ法を含む)による無欠陥シリコン単結晶の製造方法において、双晶欠陥が抑制された良質なシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明では、CZ法によってチャンバ内でシリコン単結晶をシリコン融液から引上げて製造する方法において、双晶欠陥のない無欠陥結晶を得るために、前記シリコン単結晶の引き上げ速度(以下、成長速度ともいう)Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で、かつ、OSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲内で制御し、前記シリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0018】
このように、CZ法によってチャンバ内でシリコン単結晶をシリコン融液から引上げて製造する方法において、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、無欠陥結晶を得るためにOSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲とし、かつ、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域(I−Rich領域)と格子間シリコン優勢の無欠陥領域(Ni領域)の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい値の範囲とすることによって、格子間シリコン濃度が過剰である格子間シリコン優勢領域(格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域近傍の格子間シリコン優勢の無欠陥領域)を除く結晶品質で無欠陥結晶を製造することができる。
即ち、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きいV/G値の範囲で無欠陥結晶を製造することにより、過剰な格子間シリコンの濃度を下げることができ、従って、双晶欠陥の原因となる積層欠陥の形成を抑制することができ、双晶欠陥の発生が抑制された良質なシリコン単結晶、特には、双晶欠陥の発生が抑制された格子間シリコン優勢領域を含む良質な無欠陥結晶を製造することができる。
【0019】
またこのとき、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値の制御を、前記結晶温度勾配Gを一定とし、前記引き上げ速度Vを、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることによって行うことができる。
【0020】
このように、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で制御する方法としては、結晶温度勾配Gを一定とし、引き上げ速度Vを、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることによって行うことができる。
【0021】
またこのとき、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値の制御を、前記引き上げ速度Vを一定とし、前記結晶温度勾配Gを、前記チャンバを格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.2〜0.5%小さい結晶温度勾配となるチャンバ内構造とすることによって行うことできる。
【0022】
このように、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で制御する方法としては、引き上げ速度Vを一定とし、前記結晶温度勾配Gを、チャンバを格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.2〜0.5%小さい結晶温度勾配となるチャンバ内構造とすることによっても行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のシリコン単結晶の製造方法によれば、無欠陥結晶(特に、格子間シリコン優勢領域を含む無欠陥結晶)の育成において、双晶欠陥の発生が抑制され、高品質なシリコン単結晶の製造が可能となる。特に、無欠陥結晶における双晶欠陥の幅は非常に狭く、検出することが困難な場合において、品質判定のコストが省け、品質安定化に多大な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシリコン単結晶製造方法において制御するV/G値と欠陥分布の関係を示す説明図である。
【図2】従来の製造方法により得られた無欠陥結晶から採取したシリコンウェーハのパーティクル測定装置による観察結果である。
【図3】無欠陥結晶の断面方向のサンプルの透過型電子顕微鏡による観察結果である。
【図4】双晶欠陥の透過型電子顕微鏡による観察図(a)、及びこの模式図(b)である。
【図5】本発明のシリコン単結晶製造方法で用いることができるシリコン単結晶製造装置の一例を示す。
【図6】比較例1及び実施例1における単結晶育成中の成長速度を示す図である。
【図7】実施例1と比較例1の双晶欠陥の発生率を比較した図である。
【図8】比較例1と比較例2の双晶欠陥の発生率を比較した図である。
【図9】比較例1と実施例2の双晶欠陥の発生率を比較した図である。
【図10】V/G値と欠陥分布の関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、微細化した半導体素子向けの無欠陥結晶の製造において、シリコン融液のSiO酸化物などの異物がない状態で結晶を製造したとしても、双晶欠陥が発生し、製品歩留まりの低下する問題が生じていた。
【0026】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく、以下のように双晶欠陥の詳細を調査したところ、双晶欠陥は一般に領布された文献(非特許文献5)とは異なる原因によっても形成されることを見出した。
【0027】
従来のシリコン単結晶の製造方法を用いて製造した面方位<100>、比抵抗が10Ω・cmのボロンドープ無欠陥結晶から採取し、表面研磨により仕上げた直径300mmのシリコンウェーハの面内マップを、パーティクル測定装置(KLA Tencor社 モデル名=SP2 粒径サイズは0.037μm up)にて観察した結果を図2に示す。尚、このシリコンウェーハを採取した無欠陥結晶を製造する際に用いた装置は、Arガスの遮蔽筒は具備しており、融液表面からのSiOの蒸発による酸化物の炉内部品への付着、メルト表面への落下はいずれも問題ない構造である。
【0028】
図2より、ウェーハ表面全体にまばらにパーティクルが付着した点が観察されるが、右下に長さ22mmの線状の欠陥が観察された。このウェーハを、通常のウェーハのクリーニングに用いられる、フッ化水素酸及び過酸化水素水の混合液と、塩酸及び過酸化水素水の混合液で洗浄した後に、本ウェーハを測定しても、ウェーハ右下に確認できた長さ22mmの線状の欠陥は変化しなかった。つまり、表面の欠陥がウェーハ表面にわずかな凹凸を形成し、レーザー式のパーティクルカウンターにより擬似的にパーティクルとして観察されたものであることが判った。
【0029】
上記の擬似的にパーティクルとして観察された長さ22mmの線状の欠陥の実態を調査するために、該当領域より、表面を含む断面方向のサンプルを採取した。本サンプルの透過型電子顕微鏡による観察結果を図3に示した。本観察は<110>方向からの観察結果であるが、図3より幅9.5nmの非常に狭い領域にて方位の変わった領域が観察できた。つまり、パーティクルカウンターにより観察された長さ22mmの欠陥は双晶であることが確認された。
【0030】
この双晶欠陥の原因を調査するために、双晶欠陥の起点部の調査を行った。分析には高分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた。サンプルは未熱処理であり、図4(a)にTEM写真の結果を、図4(b)に模式図を示した。これらの結果より、積層欠陥の終端部より双晶が形成されていることが確認できた。
【0031】
ここで、一般にシリコンウェーハ中の積層欠陥は、ウェーハの状態にて熱酸化処理をすることにより、格子間シリコンがシリコンウェーハ表面の酸化膜界面よりウェーハ内に拡散し、積層欠陥の核となる欠陥に格子間シリコンが集合して余剰な格子面を形成することに起因することが開示されている(シリコンの酸化と格子欠陥、応用物理第46巻 第11号、1977年 p1056、又はCZシリコンウェーハ中のリング状分布積層欠陥、応用物理 第57巻 第19号、1988年 p1542)。
【0032】
しかし、本サンプルには、熱処理を施していない。つまり、熱処理による格子間シリコンの供給がないにもかかわらず、積層欠陥の形成が見られる。
これより、無欠陥結晶の育成時、特に格子間シリコン優勢な領域を育成中に余剰の格子間シリコンが集合して積層欠陥を形成し、この形成された積層欠陥より引き続き、双晶欠陥が連続的に形成されたと推察された。
即ち、上記サンプルで観察された双晶は、一般に開示されている結晶成長界面への異物の付着により形成される双晶とは異なることが判った。
【0033】
上述したように、無欠陥結晶には、空孔優勢な無欠陥領域(以下、Nv領域ともいう)、格子間シリコンが優勢な無欠陥領域(以下、Ni領域ともいう)の2つが存在することが知られている(Advanced Czochralski Single Crystal Growth、結晶成長学会誌 vol27、No.2)。このうち、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域(I−rich領域)近傍の格子間シリコンが優勢な領域(Ni領域)にて結晶育成を行うと、育成界面で積層欠陥を形成し、その終端部より、双晶構造が形成される。形成された双晶は<111>面に沿って成長を続け、結晶側面の外周に抜け正常な方位の結晶成長となる。つまり、本発明者は、無欠陥結晶の双晶欠陥の発生の起点は、優勢な格子間シリコンの濃度を下げるために形成された積層欠陥(SF:Stacking Fault)であることを見出した。
【0034】
そして、このような双晶欠陥の発生を抑制するためには、優勢な格子間シリコンの濃度を下げ、積層欠陥の形成を抑制することが重要であることが判り、この知見を基に本発明を完成させた。
【0035】
即ち、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、CZ法によってチャンバ内でシリコン単結晶をシリコン融液から引上げて製造する方法において、双晶欠陥のない無欠陥結晶を得るために、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で、かつ、OSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲内で制御し、シリコン単結晶を製造することを特徴とする。
【0036】
無欠陥結晶は、V/Gの比を一定にすることにより達成されるが(日本結晶成長学会 vol.25 No.5,1998)、このV/Gの値が大きくなると空孔優勢領域(Nv領域)側の結晶品質となり、逆にV/Gの値が小さくなると格子間シリコン優勢領域(Ni領域)側の結晶品質となる。
つまり、本発明では、V/Gの値を、無欠陥結晶を得るためにOSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲で、かつ、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域(I−rich領域)と格子間シリコン優勢の無欠陥領域(Ni領域)の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲とすることにより、優勢な格子間シリコン濃度が多い領域(格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域近傍の格子間シリコン優勢の無欠陥領域)を含まない無欠陥結晶として、格子間シリコンの濃度を軽減することで、積層欠陥の発生を抑制し双晶欠陥の発生率を改善することができる。
【0037】
V/Gの値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より大きくする割合が0.2%未満である場合、格子間シリコンの濃度の低下が不十分であり、積層欠陥の発生を完全に抑制することができず、即ち、双晶欠陥の発生を抑制することができない。また、0.5%より大きい場合には、無欠陥結晶となる製造マージンが低下し、結晶育成における製品歩留まりが低下し、効率的な生産ができないという問題が生ずる。
【0038】
ここで、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲とするには、結晶温度勾配Gを決定するチャンバ内の構造を変化させずに、結晶温度勾配Gを一定とし、引き上げ速度Vを、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることによって行うことができる。
【0039】
即ち、図1に示すように、無欠陥結晶を得るためのシリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値の制御を、結晶温度勾配Gは変化させずに、引き上げ速度Vを格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることによって行うことができる。
【0040】
本発明のシリコン単結晶の製造方法においては、従来一般的に用いられている、図5に示すような単結晶引き上げ装置10を用いることができる。
図5に示すように、単結晶引上げ装置10は、チャンバ1内で、シリコン融液2を収容する石英ルツボ3と、この石英ルツボ3を保護する黒鉛ルツボ4とが、ルツボ駆動機構(不図示)によって自在に回転・昇降する保持軸で支持されており、またこれらのルツボ3、4を取り囲むように加熱ヒーター5と断熱材6が配置されている。さらに、チャンバ1の内部には整流筒7が設けられており、この整流筒7の下部に熱遮蔽材8が設置されている。
このような装置を用い、チャンバ1内の石英ルツボ3に収容されたシリコン融液2からシリコン単結晶9を成長させつつ引き上げる。
【0041】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、具体的には、予めシミュレーションとして、上述したようなシリコン単結晶の引き上げ装置を用いてシリコン単結晶の成長に伴い引き上げ速度Vを漸減させることにより格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度を求める。そして、シミュレーションで用いたシリコン単結晶引き上げ装置のチャンバ内構造は変化させずに結晶温度勾配Gを一定として、引き上げ速度Vをシミュレーションで求めた最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることで行うことができる。
【0042】
このように、無欠陥結晶のウェーハ面内において非常に狭い領域に形成される双晶欠陥の発生を抑制することにより、高品質シリコン単結晶の製品歩留まりが向上する。更に、品質評価のための分布判定(パーティクル測定)が不要となり、ウェーハ製品の品質判定での検査コストの削減、ひいては、高品質シリコンウェーハ用結晶の更なる品質安定化に効果的である。
【0043】
また、本発明の他の実施形態としては、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きくするために、引き上げ速度Vを一定とした場合、V/Gの値が大きくなるように結晶温度勾配Gを制御すれば良いこととなる。
【0044】
即ち、引き上げ速度Vを一定とし、結晶温度勾配Gを、チャンバを格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.2〜0.5%小さい結晶温度勾配となるチャンバ内構造とすることによって、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きくすることができる。
尚、結晶温度勾配を変えるには、例えば結晶周囲に配置した熱遮蔽材の先端からシリコン融液との間隔を広くする条件とすることにより達成することができる。
【0045】
なお、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、特定の結晶口径を有する単結晶の製造に限定されるものではなく、結晶口径が450mmの単結晶の製造等、適時な展開が可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明のシリコン単結晶の製造方法をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(比較例1)
図5に示したような、Arガスを整流するための整流筒、整流筒の先端に結晶を冷却するために熱輻射を制御する熱遮蔽材が具備された装置を用いた。
この単結晶製造装置を用い、直径81cmの石英ルツボに原料多結晶シリコンを380kg充填し、結晶方位<100>の直径300mmのボロンドープシリコン単結晶(P型、比抵抗10Ω・cm)を育成した。この際、図6に示すような成長速度でシリコン単結晶の製造を行った。
比較例1の成長条件では、双晶欠陥の発生率は結晶成長方向の長さ比が0.2から0.4の位置にて高かった。これは、図5に示した通り、炉内の熱輻射を制御するための熱遮蔽材は、設置上の制約よりシリコン融液に直接つけることができない。そのためにシリコン融液から熱遮蔽材までの区間では結晶を冷却できない領域がある。この結晶成長方向の長さ比が0.2から0.4の範囲は、整流筒先端に具備した熱遮蔽材に結晶が差し掛かる領域で、急激な結晶中の温度勾配の変化が生ずる部分である。そのために格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域になりやすい領域、即ち、転位クラスター領域が出現する最高成長速度の領域となる。
【0048】
(実施例1)
上記比較例1と同様のチャンバ内構造を有する装置を用い、比較例1において成長方向に無欠陥結晶が得られている成長速度プロファイルに対し、0.4%高速化した条件にてシリコン単結晶を育成した。成長速度の違い以外は、比較例1と同様の条件とした。
【0049】
図7に実施例1と比較例1の双晶欠陥の発生率を比較した結果を示す。引き上げ速度Vを、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.4%高速化することにより双晶発生不良率を改善することができた。これにより、育成した高品質シリコン単結晶の製品歩留まりが向上し、効率的に無欠陥結晶を得ることができた。
【0050】
尚、比較例1において成長方向に無欠陥結晶が得られている成長速度プロファイルに対し、0.2%高速化した条件とした場合、更には、0.5%高速化した条件とした場合も双晶発生不良率を改善することができた。
しかし、比較例1において成長方向に無欠陥結晶が得られている成長速度プロファイルに対し、0.1%高速化した条件とした場合は、格子間シリコンの濃度低下が不十分であり、双晶欠陥の発生を抑制することができなかった。また、比較例1において成長方向に無欠陥結晶が得られている成長速度プロファイルに対し、0.6%高速化した条件とした場合は、無欠陥結晶の製造歩留まりが低下し、無欠陥結晶の効率的な生産ができないという問題が生じた。
【0051】
(比較例2)
エピタキシャルウェーハ用として、上記比較例1と同様のチャンバ内構造を有する装置を用いて、比較例1において成長方向に無欠陥結晶が得られている成長速度プロファイルに対し、約2倍の引き上げ速度で引き上げて空孔優勢領域にて製造した高速成長結晶から得られるウェーハの双晶欠陥を調べた。
図8に、比較例1と比較例2の双晶欠陥の発生率の比較図を示す。図8により、高速成長結晶(比較例2)から得られるウェーハにおいては、双晶欠陥の発生が見られず、無欠陥結晶製造の際に双晶発生不良率が高いことが確認された。
【0052】
(実施例2)
結晶温度勾配を制御することにより格子間シリコンの濃度を低減するために、図5に示した装置において結晶温度勾配を小さく、つまりV/Gの値を大きくした。具対的には、熱遮蔽材の先端からシリコン融液との間隔を1mm広くした条件にて直径300mmのシリコン単結晶を育成した。
このときの結晶温度勾配は格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.4%低い値である。前記に示した条件以外は実施例1の従来の成長条件と同一とした。
【0053】
図9に比較例1及び実施例2の双晶欠陥の発生率を比較した結果を示す。
シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.4%大きくすることによって、即ち、引き上げ速度Vは変化させずに、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.4%小さい結晶温度勾配Gとなるようにチャンバ内構造を調整することにより、双晶発生不良率を改善することができた。これにより、育成した高品質シリコン単結晶の製品歩留まりが向上し効率的な製造方法であることが確認できた。
【0054】
また、同様に、引き上げ速度Vは変化させずに、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.2%小さい、また、0.5%小さい結晶温度勾配Gとなるようにチャンバ内構造を調整することにより、双晶発生不良率を改善することができた。
一方、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.1%小さい結晶温度勾配Gとなるようにチャンバ内構造を調整した場合には、双晶欠陥の発生を抑制することができず、0.6%小さい結晶温度勾配Gとなるように調整した場合には、無欠陥結晶の製造歩留まりが低下し、無欠陥結晶の効率的な生産ができないという問題が生じた。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0056】
1…チャンバ、 2…シリコン融液、 3…石英ルツボ、 4…黒鉛ルツボ、 5…加熱ヒーター、 6…断熱材、 7…整流筒、 8…熱遮蔽材、 9…シリコン単結晶、 10…単結晶引き上げ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法によってチャンバ内でシリコン単結晶をシリコン融液から引上げて製造する方法において、双晶欠陥のない無欠陥結晶を得るために、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値を、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域と格子間シリコン優勢の無欠陥領域の境界V/G値より0.2〜0.5%大きい範囲で、かつ、OSF領域が出現するV/G値よりも小さい範囲内で制御し、前記シリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値の制御を、前記結晶温度勾配Gを一定とし、前記引き上げ速度Vを、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現する最高成長速度より0.2〜0.5%高速とすることによって行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vと結晶温度勾配Gの比のV/G値の制御を、前記引き上げ速度Vを一定とし、前記結晶温度勾配Gを、前記チャンバを格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター領域が出現するチャンバ内の最低結晶温度勾配より0.2〜0.5%小さい結晶温度勾配となるチャンバ内構造とすることによって行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−225409(P2011−225409A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99093(P2010−99093)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】