説明

シリコン層転写用基板及び半導体基板の製造方法

【課題】欠陥の少ない転写用シリコン層を有するシリコン層転写用基板を提供する。
【解決手段】第1の基板であるシリコン基板12と、前記シリコン基板上に配置された犠牲層であって、シリコンとゲルマニウム及び炭素から選ばれる少なくとも一種の元素との化合物からなる少なくとも1層のシリコン化合物層を有し、該犠牲層を構成する化合物層が全て臨界膜厚以下の厚みを有する犠牲層14と、前記犠牲層上に配置されたシリコン層であって、第2の基板に転写される転写用シリコン層16と、を備え、前記シリコン基板及び前記シリコン層の少なくとも一方に前記犠牲層に通じる溝又は穴が設けられているシリコン層転写用基板10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン層転写用基板及び半導体基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)基板上に形成したシリコン層を他の基板に転写してシリコン層を有する半導体基板を製造する方法がある。このように基板上に形成した単結晶シリコンを他の基板に転写する方法として、例えば、Si/SiGe/Si基板となる積層構造からSiGe層を犠牲層として剥離転写する方法がある。
【0003】
例えば、シリコン基板の上にSiGe層を設け、更に歪シリコン層を形成した基板から歪シリコン層を他の基板(シリコン基板)に転写する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
特許文献1では、多孔質なSiGe層を形成することが開示されている。
特許文献2では、水素のイオン注入を2度行い、第一のイオン注入ではSiGe層の歪緩和を行い、第二のイオン注入では基板剥離のための注入を行うことが開示されている。
特許文献3では、犠牲層となるSiGe層に溶液の浸入穴を形成し、エッチング液を供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−191457号公報
【特許文献2】特開2006−32968号公報
【特許文献3】特開2008−127274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、欠陥の少ない転写用シリコン層を有するシリコン層転写用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。
請求項1に係る発明は、
第1の基板であるシリコン基板と、
前記シリコン基板上に配置された犠牲層であって、シリコンと、ゲルマニウム及び炭素から選ばれる少なくとも一種の元素との化合物からなる少なくとも1層のシリコン化合物層を有し、該犠牲層を構成する化合物層が全て臨界膜厚以下の厚みを有する犠牲層と、
前記犠牲層上に配置されたシリコン層であって、第2の基板に転写される転写用シリコン層と、を備え、
前記シリコン基板及び前記シリコン層の少なくとも一方に前記犠牲層に通じる溝又は穴が設けられているシリコン層転写用基板。
請求項2に係る発明は、
前記シリコン化合物層が、シリコンと、ゲルマニウムと、炭素との化合物からなるシリコン化合物層である請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
請求項3に係る発明は、
前記犠牲層が、前記シリコン化合物層として、シリコンとゲルマニウムとの化合物からなる第1のシリコン化合物層と、シリコンと炭素との化合物からなる第2のシリコン化合物層とが交互に積層された積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
請求項4に係る発明は、
前記犠牲層が、シリコンとゲルマニウム又は炭素との化合物からなるシリコン化合物層と、前記転写用シリコン層とは別のシリコン層とが交互に積層されており、前記シリコン化合物層が前記転写用シリコン層と接触する積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
請求項5に係る発明は、
前記犠牲層が、シリコンとゲルマニウム又は炭素との化合物からなるシリコン化合物層と、化合物半導体層とが交互に積層されており、前記シリコン化合物層が前記転写用シリコン層と接触する積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
請求項6に係る発明は、
前記化合物半導体層が、ガリウム及び燐からなる化合物半導体層である請求項5に記載のシリコン層転写用基板。
請求項7に係る発明は、
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のシリコン層転写用基板を用意する工程と、
前記シリコン層転写用基板の転写用シリコン層に第2の基板を接着させて複合基板とする工程と、
前記犠牲層をエッチングするためのエッチング液を前記複合基板に接触させ、前記溝又は穴を通じて前記犠牲層の少なくとも一部を除去する工程と、
前記犠牲層の少なくとも一部を除去した前記複合基板から、前記転写用シリコン層が転写された前記第2の基板を分離する工程と、
を有する半導体基板の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
請求項1、2に係る発明によれば、上記犠牲層を構成する化合物層が臨界膜厚以上の厚みを有する場合に比べ、欠陥の少ない転写用シリコン層を有するシリコン層転写用基板が提供される。
請求項3、4、5、6に係る発明によれば、上記犠牲層が単層である場合に比べ、厚みが大きい犠牲層を有するシリコン層転写用基板が提供される。
請求項7に係る発明によれば、上記犠牲層を構成する化合物層が臨界膜厚以上の厚みを有するシリコン層転写用基板を用いる場合に比べ、欠陥の少ない転写用シリコン層を有する半導体基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の構成の一例を示す概略図である。
【図2】ゲルマニウムの組成比と臨界膜厚の関係を示す図である。
【図3】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図4】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図5】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図6】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図7】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図8】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図9】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図10】本実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成の一例を示す概略図である。
【図11】本実施形態に係る半導体基板の製造方法の一例について前半の工程を示す概略図である。
【図12】本実施形態に係る半導体基板の製造方法の一例について後半の工程を示す概略図である。
【図13】本実施形態に係る半導体基板の製造方法において、シリコン層転写用基板に設けるエッチング液浸入口の例を示す図である。(A)エッチング液浸入口がシリコン基板の表面まで達している形態 (B)エッチング液浸入口がシリコン基板の途中まで達している形態 (C)エッチング液浸入口が犠牲層の途中まで達している形態
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の機能を有する部材には、全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
【0010】
シリコン基板上に格子定数の異なるSiGeをエピタキシャル成長すると歪が生じる。結果的には、欠陥が生じ、SiGe層が緩和する。欠陥の生じたSiGe層上にSi層を形成すると、Si層にも欠陥が生じる。このSi層を他の基板に転写し、転写したSi層に素子を作製すると、Si層の欠陥がデバイス性能を悪化させてしまう。
この方法では、Geを含む層が犠牲層の役割をすることからGe濃度を下げることはエッチングレートを下げることでもあり、一定のGe濃度が必要である。
良好なSi層を得ることと一定以上のGe濃度の膜を犠牲層に使うことはトレードオフの関係にある。
【0011】
欠陥の少ない転写用シリコン層を得るには、Si基板と転写用シリコン層との間に介在する犠牲層は、Si基板表面とほぼ平行な方向の格子間隔がSi基板とほぼ同等に保った方がよいが、結果的に犠牲層は歪を持つ層になる。一方、表面のSi層は無歪状態であることが望ましい。
ここで、炭素(C)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)の各格子定数は以下の通りである。
C: 3.567オングストローム
Si:5.431オングストローム
Ge:5.658オングストローム
【0012】
本発明者は、犠牲層を構成する化合物層が臨界膜厚以下となるように構成すれば、犠牲層上に成長させたシリコン層に歪みが生じにくく、欠陥の少ない転写用シリコン層を有するシリコン層転写用基板が得られることを見出した。
本実施形態に係るシリコン層転写用基板は、第1の基板であるシリコン基板と、前記シリコン基板上に配置された犠牲層であって、シリコンと、ゲルマニウム及び炭素から選ばれる少なくとも一種の元素との化合物からなる少なくとも1層のシリコン化合物層を有し、該犠牲層を構成する化合物層が全て臨界膜厚以下の厚みを有する犠牲層と、前記犠牲層上に配置されたシリコン層であって、第2の基板に転写される転写用シリコン層と、を備え、前記シリコン基板及び前記シリコン層の少なくとも一方に前記犠牲層に通じる溝又は穴が設けられているシリコン層転写用基板である。
【0013】
−シリコン層転写用基板−
<第1実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板10では、第1の基板であるシリコン基板12と、シリコン基板12上に、犠牲層としてシリコンとゲルマニウムとの化合物からなるシリコン化合物層(SiGe層14)が配置されている。SiGe層の厚さは臨界膜厚以下となっている。SiGe層14上には転写用のシリコン層16が配置されている。
なお、本実施形態に係る犠牲層の一部をエッチングするためのエッチング液(エッチング液)の浸入口として、シリコン基板12及びシリコン層16の少なくとも一方に設けられ、犠牲層に通じる溝又は穴を有するが、図1では、かかるエッチング液浸入口は省略されている。後述する図3〜図10でもエッチング液浸入口は省略されている。
【0014】
本実施形態における臨界膜厚とは、結晶内で転位が発生して格子歪みが緩和する膜厚を意味し、格子整合し、良好な結晶でエピピタキシャル成長した層が得られる膜厚の上限である。なお、本実施形態でいう臨界膜厚は、Matthews-Blakesleeの理論値に基づくものである。
図2は、SiGe層におけるGe濃度(組成比)と臨界膜厚との関係を示している。例えば、SiGe層のGeの組成比が20%の場合、厚さが10nm程度であれば臨界膜厚以下であるため、このSiGe層上にSi層をエピタキシャル成長させても歪が生じにくく、欠陥の少ないSi層が形成される。一方、SiGe層の厚さが30nmになると臨界膜厚を超えるため、Si層をエピタキシャル成長したときに歪が生じて、欠陥が多いSi層が形成されてしまう。
【0015】
一方、SiGe層を犠牲層とした場合、Si層を他の基板に転写させる際、犠牲層の一部をエッチングによって除去するため、エッチングレートの関係上、膜厚を大きくする方が有利である。そこで、例えば、Geの組成比が1%となるSi0.99Ge0.01層を形成する場合、100nmの膜厚にしても臨界膜厚以下となり、その上にエピタキシャル成長させた表面Si層には貫通転位の発生が抑制され、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板が得られる。
【0016】
<第2実施形態>
図3は、第2の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板20では、犠牲層として、シリコンと炭素との化合物からなり、臨界膜厚以下のシリコン化合物層(SiC層24)が配置され、SiC層24上には転写用のシリコン層が配置されている。
本実施形態でも、SiC層24の厚さが臨界膜厚以下であるため、欠陥が少ない転写用Si層16を有するシリコン層転写用基板が得られる。また、先と同様にSiC層24におけるCの組成比が小さいほどSiC層24の臨界膜厚は大きくなるので、後工程のエッチングに有利な厚さ(例えば、100nm程度)のSiC層としてもよい。
【0017】
<第3実施形態>
図4は、第3の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板30では、犠牲層として、シリコンと、ゲルマニウムと、炭素との化合物からなるシリコン化合物層(SiGeC層34)が配置され、SiGeC層上には転写用のシリコン層16が配置されている。
本実施形態でもSiGeC層34を臨界膜厚以下にすることで、表面Si層16には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層16を有するシリコン層転写用基板30が得られる。
【0018】
<第4実施形態>
図5は、第4の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板40では、犠牲層が、シリコンとゲルマニウムとの化合物からなる第1のシリコン化合物層(SiGe層44)と、シリコンと炭素との化合物からなる第2のシリコン化合物層(SiC層46)とが交互に積層された積層構造を有し、犠牲層上に転写用のシリコン層16が配置されている。
本実施形態では、犠牲層を構成する各層(SiGe層44及びSiC層46)を全て臨界膜厚以下にすることで、表面Si層16には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板40が得られる。
【0019】
なお、図5では、犠牲層の最下層がSiGe層44、最上層がSiC層46で構成されているが、このような積層構造に限定されず、例えば、図6に示すシリコン層転写用基板50のように最下層がSiC層46、最上層がSiGe層44で構成してもよい。
このような積層構造を有する犠牲層とすれば、犠牲層全体の厚さを大きくし易く、エッチング液浸入口として、犠牲層に通じる溝又は穴の大きく形成することで、エッチング液が犠牲層に到達し易くなる。
【0020】
なお、犠牲層における積層数は特に限定されないが、生産性の低下を抑制するとともに、厚さを大きくする観点から、2層以上20層以下が望ましく、4層以上8層以下がより望ましい。
また、犠牲層全体の厚さは、生産性、エッチングなどの観点から、50nm以上3μm以下が望ましく、200nm以上1μm以下がより望ましい。
【0021】
<第5実施形態>
図7は、第5の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板60では、犠牲層が、シリコンとゲルマニウムとの化合物からなるシリコン化合物層(SiGe層44)と、転写用シリコン層16とは別のシリコン層(Si層48)とが交互に積層されており、SiGe層44が転写用シリコン層16と接触する積層構造を有している。
本実施形態では、犠牲層を構成するシリコン化合物層(SiGe層44)を全て臨界膜厚以下にすることで、表面Si層16には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板が得られる。
なお、犠牲層の積層数及び全体の厚さについては、第4実施形態と同様である。
【0022】
<第6実施形態>
図8は、第6の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板70では、犠牲層が、シリコンと炭素との化合物からなるシリコン化合物層(SiC層46)と、転写用シリコン層16とは別のシリコン層(Si層48)とが交互に積層されており、SiC層46が転写用シリコン層16と接触する積層構造を有している。
本実施形態でも、犠牲層を構成するシリコン化合物層(SiC層46)を全て臨界膜厚以下にすることで、表面Si層16には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板70が得られる。
なお、犠牲層の積層数及び全体の厚さについては、第4実施形態と同様である。
【0023】
<第7実施形態>
図9は、第7の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板80では、犠牲層が、シリコンとゲルマニウムとの化合物からなるシリコン化合物層(SiGe層44)と、ガリウム(Ga)とリン(P)の化合物半導体層(GaP層52)とが交互に積層されており、SiGe層44が転写用シリコン層16と接触する積層構造を有している。
本実施形態でも、犠牲層を構成するSiGe層44とGaP層52を全て臨界膜厚以下にすることで、表面Si層16には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板80が得られる。
なお、犠牲層の積層数及び全体の厚さについては、第4実施形態と同様である。
【0024】
<第8実施形態>
図10は、第8の実施形態に係るシリコン層転写用基板の層構成を概略的に示している。本実施形態に係るシリコン層転写用基板90では、犠牲層が、シリコンと炭素との化合物からなるシリコン化合物層(SiC層46)と、ガリウム(Ga)とリン(P)の化合物半導体層(GaP層52)とが交互に積層されており、SiC層46が転写用シリコン層16と接触する積層構造を有している。
本実施形態でも、犠牲層を構成するSiC層46とGaP層52を全て臨界膜厚以下にすることで、表面Si層には貫通転位が発生し難く、欠陥が少ない転写用Si層を有するシリコン層転写用基板90が得られる。
なお、犠牲層の積層数及び全体の厚さについては、第4実施形態と同様である。
【0025】
なお、第7実施形態及び第8実施形態では、犠牲層を構成する化合物半導体層として、GaP層を有する場合について説明したが、化合物半導体層はこれに限定されず、例えば、GaAs、InAs、GaSb、InSb、InP、GaAsSb、AlGaAs、AlN、InN、BN、GaNなどを形成してもよい。
【0026】
−半導体基板の製造方法−
次に、本実施形態に係るシリコン層転写用基板を用いて半導体基板を製造する方法について説明する。
図11及び図12は、本実施形態に係るシリコン層転写用基板を用いた半導体基板の製造方法の工程を概略的に示している。
【0027】
<シリコン層転写用基板を用意する工程>
前記いずれかの本実施形態に係るシリコン層転写用基板100を用意する。
まず、単結晶シリコン基板12を用意し、洗浄した後、シリコン基板12上に犠牲層を構成する化合物層が臨界膜厚以下となるように犠牲層104を形成する。犠牲層104を形成する方法としては、CVD法、MBE法、スパッタ法、真空蒸着法等が挙げられる。
次いで、犠牲層104上に転写用シリコン層16(単結晶、多結晶、又は非晶質)を形成する(図11(A))。
転写用シリコン層16は、例えばエピタキシャル成長法によって犠牲層104上に形成すればよい。転写用シリコン層16の厚さは、転写後の用途に応じて決めればよく、例えば、100nm以上1μm以下である。
【0028】
シリコン層転写用基板100には、犠牲層104に通じるエッチング液浸入用の溝又は穴(エッチング液浸入口18)を設ける(図11(B))。
エッチング液浸入口18は、シリコン基板12及びシリコン層16の少なくとも一方に設ければよい。なお、エッチング液浸入口18は、深さ方向に少なくとも犠牲層104まで達する必要があり、転写用シリコン層16側から浸入口18を設ける場合、シリコン基板12まで達してもよい。
具体的には、図13(A)に示すように転写用シリコン層16と犠牲層104を貫通してシリコン基板12の表面に達しているエッチング液浸入口18A、図13(B)に示すように転写用シリコン層16と犠牲層104を貫通し、さらにシリコン基板12の一部の深さまで達するエッチング液浸入口18B、あるいは、図13(C)に示すように転写用シリコン層16を貫通し、犠牲層104の一部の深さまで達するエッチング液浸入口18Cが挙げられる。
図13(B)に示すようにエッチング液浸入口18Bがシリコン基板12の途中まで達していれば、転写用シリコン層16と犠牲層104の厚みが薄い(例えば1μm未満)場合でも、浸入口18Bを通じて犠牲層104へのエッチング液の供給が円滑に行われる。
一方、図13(A)に示すようにエッチング液浸入口18Aがシリコン基板12の表面まで達した形態では、次の接着工程でシリコン層転写用基板100の転写用シリコン層16と該シリコン層16の転写先である第2の基板200を接着させる際、塗布精度の低い塗布技術を適用すると、接着剤が浸入口18Aの内部にはみ出して転写先の第2の基板12の表面まで達し、第1の基板であるシリコン基板と第2の基板とが接着し、その後のエッチング液による犠牲層除去工程及び分離工程に影響する可能性がある。しかし、図13(C)に示すようにエッチング液浸入口18Cが犠牲層104の途中まで達し、シリコン基板12には達していない場合、転写用シリコン層18から接着剤がはみ出してもシリコン基板12と第2の基板200とが接着することが回避される。そのため、次工程では犠牲層104がエッチングされ、シリコン層12が転写した第2の基板とシリコン基板12とが容易に分離される。
上記理由から、図13に示すエッチング液浸入口の3つの形態のうち、図13(B)に示すようにシリコン基板12の途中まで達するエッチング液浸入口18Bまたは図13(C)に示すように犠牲層104の途中まで達するエッチング液浸入口18Cを設けることが望ましい。
なお、図11及び図12に示す半導体基板の製造方法では、図13(C)に示す形態のエッチング液浸入口18を形成した場合について説明するが、図13(A)または図13(B)に示す形態のエッチング液浸入口18A,18Bを形成してもよい。
浸入口同士の間隔は、分離プロセスに必要な時間に関係し、特に規定しないが、間隔が狭い方が、後工程でのより分離プロセス時間が短く済む。エッチング液浸入口18を形成する方法としては、フッ硝酸によるウェットエッチングやAr、O、SFガスを用いたドライエッチングなどが挙げられる。
【0029】
ここで転写用シリコン層16に電気回路などのデバイスを作製してもよい。デバイス作製には、フォトリソグラフィ法など、通常のシリコンプロセスを用いる。電気回路は、トランジスタ、キャパシタ、抵抗、ダイオード等が組み合わさったものであるか、それぞれのデバイスのみでもよい。
エッチング液浸入口18の形成は、電気回路作製工程中のプロセスと兼ねてもよい。Geの融点が937℃であることから、937℃より低いプロセス温度であることが望ましい。
【0030】
<接着工程>
シリコン層転写用基板100の転写用シリコン層16に第2の基板200を接着させて複合基板とする(図11(C))。
第2の基板200は、シリコン層を転写した後の半導体基板の用途に応じて選択すればよく、例えば、PET、PEN、ポリイミドフィルムなどの樹脂基板、ガラス基板、シリコン基板、金属フィルム、配線を有する基板等が挙げられる。
接着は、水溶性、非水溶性、熱硬化、UV硬化等の接着剤又は両面粘着シート32を介して接着してもよいし、接着剤32を介さずに接着てもよい。
【0031】
<犠牲層除去工程>
接着工程後、犠牲層をエッチングするためのエッチング液を複合基板に接触させ、前記溝又は穴を通じて犠牲層の少なくとも一部を除去する(図12(D))。
エッチング液浸入口18からエッチング液が犠牲層に到達し、犠牲層を構成するGeまたはCを選択的に除去するエッチング液を用いる。例えば、過酸化水素水や水のように酸化させる溶液中に複合基板を浸漬して犠牲層104の一部を除去する。
犠牲層104のエッチングを促進させるため、エッチング液42は加温状態であってよい。なお、犠牲層104を完全に溶かして分離するまで溶液中に入れる必要はなく、例えば、基板平面方向にへき開して、転写用シリコン層16が接着した第2の基板200が、複合基板から分離する程度まで犠牲層104の一部を除去すればよい。
【0032】
<分離工程>
犠牲層104の少なくとも一部を除去した複合基板から、転写用シリコン層16が転写された第2の基板200を分離する。
例えば、前記したように接合基板を基板平面方向にへき開して、複合基板から転写用シリコン層16が接着した第2の基板200を分離する。これにより、第2の基板200上に欠陥の少ないシリコン層16を有する半導体基板300が得られる(図12(E))。
【0033】
なお、第2の基板200上にシリコン層16を転写した後は、このシリコン層16を加工して、配線、保護層の形成等を追加してもよい。また、転写したシリコン層16を、更に、第3の基板に転写をしても良い。
【実施例】
【0034】
以下実施例によって本発明を説明する。なお、本発明はこれらの実施例によってのみ限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
単結晶シリコン基板上に犠牲層として、分子線エピタキシー法(MBE法)によってSiGe層(Si:Ge=99:1、厚み:1μm)を形成した。
次いで、SiGe層上に、転写用シリコン層(厚み:500nm)をエピタキシャル成長によって形成した。
次いで、転写用シリコン層側に、フォトリソグラフィ法によってレジストマスクを形成する(レジストマスクのサイズ100μm×100μm)。フッ硝酸により転写用シリコン層を除去する。この溝が犠牲層のエッチング液浸入口となる。
次いで、厚さ1μmの接着層(京セラケミカル社製、商品名:CT4200H)を有するガラス基板を接着層を介して転写用シリコン層側に150℃で加熱接着して複合基板とした。
【0036】
この複合基板を、過酸化水素水を含むエッチング溶液(濃度:20%)に、6時間浸漬した。
次いで、複合基板を水平方向にへき開してガラス基板上にシリコン層を有する半導体基板を得た。
【0037】
(実施例2)
図3に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
ここで犠牲層としてSi0.990.01層(厚み:100nm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0038】
(実施例3)
図4に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
ここで犠牲層としてSiGeC層(Si:Ge:C=70:27:3、厚み:1μm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0039】
(実施例4)
図6に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
ここで犠牲層としてSiC層(Si:C=70:3、厚み:5nm)、SiGe層(Si:Ge=70:27、厚み:5nm)を形成しSiC層、SiGe層の順で積層し、これを10回繰り返したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0040】
(実施例5)
図7に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
ここで犠牲層としてSiGe層(Si:Ge=90:10、厚み:10nm)、Si層(厚み:30nm)を形成し、SiGe層、Si層の順で積層し、これを10回繰り返し、さらにSiGe層を1層形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0041】
(実施例6)
図9に示す層構成を有するシリコン層転写用基板を作製した。
ここで犠牲層としてSiGe層(Si:Ge=90:10、厚み:10nm)、GaP層(厚み:30nm)を形成し、これを5回繰り返し、さらにSiGe層を1層形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0042】
(比較例1)
犠牲層として、SiGe層(Si:Ge=90:10、厚み:400nm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0043】
(比較例2)
犠牲層として、SiGe層(Si:Ge=70:30、厚み:100nm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン層転写用基板を作製し、これを用いて半導体基板を作製した。
【0044】
上記作製した実施例及び比較例で作製した半導体基板の表面Si層の質と犠牲層の膜厚について以下の方法により評価した。
【0045】
−厚さ−
断面TEM観察によって犠牲層の膜厚を評価した。
【0046】
以下に評価基準を示す。
G1:500nm以上
G2:200nm以上500nm未満
G3:200nm未満
【0047】
−品質−
結晶品質の評価は貫通転位密度によって評価した。
Secco液(KCrとフッ酸と水の混合液)で表面を選択的にエッチング(Seccoエッチング)することによりピットとして検出が可能である。
【0048】
以下に評価基準を示す。
G1:10cm−2未満
G2:10cm−2以上10cm−2未満
G3:10cm−2以上10cm−2未満
G4:10cm−2以上
【0049】
結果を表1に示す。
【0050】
【表1】



【符号の説明】
【0051】
10 シリコン層転写用基板
12 シリコン基板(第1の基板)
14、24、34、44、46、48、52、104 犠牲層
16 転写用シリコン層
18、18A、18B、18C エッチング液浸入口(溝又は穴)
20、30、40、50、60、70、80、90、100 シリコン層転写用基板
32 接着層
200 第2の基板
300 半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板であるシリコン基板と、
前記シリコン基板上に配置された犠牲層であって、シリコンと、ゲルマニウム及び炭素から選ばれる少なくとも一種の元素との化合物からなる少なくとも1層のシリコン化合物層を有し、該犠牲層を構成する化合物層が全て臨界膜厚以下の厚みを有する犠牲層と、
前記犠牲層上に配置されたシリコン層であって、第2の基板に転写される転写用シリコン層と、を備え、
前記シリコン基板及び前記シリコン層の少なくとも一方に前記犠牲層に通じる溝又は穴が設けられているシリコン層転写用基板。
【請求項2】
前記シリコン化合物層が、シリコンと、ゲルマニウムと、炭素との化合物からなるシリコン化合物層である請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
【請求項3】
前記犠牲層が、前記シリコン化合物層として、シリコンとゲルマニウムとの化合物からなる第1のシリコン化合物層と、シリコンと炭素との化合物からなる第2のシリコン化合物層とが交互に積層された積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
【請求項4】
前記犠牲層が、シリコンとゲルマニウム又は炭素との化合物からなるシリコン化合物層と、前記転写用シリコン層とは別のシリコン層とが交互に積層されており、前記シリコン化合物層が前記転写用シリコン層と接触する積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
【請求項5】
前記犠牲層が、シリコンとゲルマニウム又は炭素との化合物からなるシリコン化合物層と、化合物半導体層とが交互に積層されており、前記シリコン化合物層が前記転写用シリコン層と接触する積層構造を有する請求項1に記載のシリコン層転写用基板。
【請求項6】
前記化合物半導体層が、ガリウム及び燐からなる化合物半導体層である請求項5に記載のシリコン層転写用基板。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のシリコン層転写用基板を用意する工程と、
前記シリコン層転写用基板の転写用シリコン層に第2の基板を接着させて複合基板とする工程と、
前記犠牲層をエッチングするためのエッチング液を前記複合基板に接触させ、前記溝又は穴を通じて前記犠牲層の少なくとも一部を除去する工程と、
前記犠牲層の少なくとも一部を除去した前記複合基板から、前記転写用シリコン層が転写された前記第2の基板を分離する工程と、
を有する半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−212840(P2012−212840A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167678(P2011−167678)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】