説明

シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素およびこれを製造する方法

本発明は、DRIEプロセスおよびLIGAプロセスを組み合わせた、シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素(51)を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、一部(53)がシリコンから作製され、別の一部(41)が金属から作製されて、複合体マイクロメカニカル構成要素(51)が形成される、層を備えるマイクロメカニカル構成要素(51)に関する。
本発明は、時計ムーブメントの分野に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素およびこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンは、その低摩擦係数に関して、摩擦学において知られている。機械式時計製造の分野でシリコンを適用することは、とりわけ脱進装置について、さらに具体的にはガンギ車のカナにおいて有利である。しかし、シリコンは、その塑性変形域が低いことで、機械工学において知られている。シリコンは、このように脆性であるため、シリコンを、軸に対する駆動部品の通常の技術に対して適合させることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の1つの目的は、殆どの時計用途に容易に適合し得る複合体マイクロメカニカル構成要素を有利に製造することが可能な製造方法を提案することによって、前述の欠点の全てまたは一部を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明は、シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素を製造する方法であって、
a)間に中間シリコン酸化物層が延在する、上部シリコン層および下部シリコン層を備える基板を採用するステップと、
b)前記構成要素のシリコン部のパターンを画定するために、上部層中に少なくとも1つの空洞部を選択的にエッチングするステップと、
c)中間層中への前記少なくとも1つの空洞部のエッチングを継続するステップと
を含む方法において、
d)破壊応力から前記マイクロメカニカル構成要素のシリコン部を断絶させるために、前記構成要素の厚さ部分中に金属部を形成するために、前記少なくとも1つの空洞部の少なくとも一部分から金属層を成長させるステップと、
e)基板からシリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素を放出するステップと
をさらに含むことを特徴とする、方法に関する。
【0005】
この方法は、シリコンの摩擦特性と、金属の機械特性とを有する、単体構成要素を提供する点において、有利である。
【0006】
本発明の他の有利な特徴によれば、
− ステップd)は、
− 感光性樹脂により基板の上部を覆うステップと
− 金属部の所定のパターンにしたがって、前記樹脂を光造形するために、感光性樹脂に対して光造形を選択的に実施するステップと、
− 前記少なくとも1つの空洞部に対して垂直方向に位置する下部層の導電性上面から開始して、前記パターンに応じて金属部を形成するために光造形樹脂と中間層または上部層とのそれぞれの間に層を底部から前記少なくとも1つの空洞部中に成長させることにより、金属層を電気めっきによって堆積させるステップと
を含み、
− ステップe)は、光造形樹脂を除去することによって達成される。
− 前記少なくとも1つの空洞部に対して垂直方向に位置する下部層の前記導電性上面は、下部層をドーピングすることによって、および/または、導電性層の堆積によって、導電性になされ、
− 光造形ステップの際に、光造形樹脂は、基板の上部層から突出し、それにより、この層は、シリコン部の上方にマイクロメカニカル構成要素の第2の金属部を形成するために、光造形樹脂の少なくとも前記突出部分間に電気めっきを施すことによって、成長を継続させることが可能であり、
− この方法は、ステップd)の後に、金属層を前記光造形樹脂の上端部と同一の高さにするように、基板の上面を機械加工するステップを含み、
− 金属層は、ニッケルを含み、
− この方法は、放出ステップの前に、所定の厚さおよび形状にしたがってマイクロメカニカル構成要素中に第2のシリコン部を形成するために、基板の下部層中に少なくとも1つの空洞部を機械加工するステップおよびエッチングするステップを含み、
− この方法は、下部基板層を機械加工するステップと下部基板層をエッチングするステップとの間に、下部層の厚さ部分中に少なくとも1つの追加の金属部を形成するように、下部層の前記少なくとも1つの空洞部の少なくとも一部分中に電気めっきを施すことにより、第2の金属層を成長させるステップを含む。
− 成長ステップは、
− 感光性樹脂で基板の下部を覆うステップと、
− 金属部の所定のパターンにしたがって樹脂を光造形するために、感光性樹脂に対してフォトリソグラフィを選択的に実施するステップと、
− 前記パターンにしたがって金属部を形成するために、下部から金属層を成長させることにより、前記少なくとも1つの空洞部の底部から、電気めっきによってこの金属層を堆積させるステップと
− フォトリソグラフィ・ステップの際に、光造形樹脂が、基板の下部層から突出し、それによりこの層は、第2のシリコン部の下方にマイクロメカニカル構成要素の第2の追加金属部を形成するように、電気めっきによる成長を継続することが可能となる、ステップと、
− 放出ステップの前に、この方法は、金属部を前記光造形樹脂の下端部と同一の高さにするために、基板の下部表面を機械加工するステップを含む、ステップと、
− 第2の電気めっきされた金属層は、ニッケルを含む、ステップと、
− 複数のマイクロメカニカル構成要素が、同一の基板中において製造される、ステップと
を含む。
【0007】
さらに、本発明は、シリコン層へと形成される一部を含むシリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素において、前記シリコン部は、歯車またはカナを形成するための歯と、歯の厚さの少なくとも一部分にわたって、破壊応力からシリコン部を断絶させる6ミクロンを上回る厚さを有する金属部とを備えることを特徴とする、マイクロメカニカル構成要素に関する。
【0008】
したがって、単体構成要素は、シリコンの摩擦特性と、金属の機械特性とを有する。
【0009】
本発明の他の有利な特徴によれば、
− 金属部は、前記シリコン部の周囲壁部を覆うスリーブを形成し、
− 金属部は、中において駆動される枢動軸を受けるための、シリコン部中に作製された空洞部内にスリーブを形成し、
− 各スリーブは、ブリッジ状材料によってシリコン部の壁部に連結され、
− 各金属部は、シリコン部から突出する第2の金属部を、金属部の延在部分中に備え、
− 第2の金属部は、歯車またはカナを形成するための歯を備え、
− 各金属部は、ニッケルを備え、
− この構成要素は、第2の層から形成された第2のシリコン部を備え、
− この第2のシリコン部は、破壊応力から第2のシリコン部を断絶させるための追加の金属部を、第2のシリコン部の厚さ部分の少なくとも一部分にわたって備え
− 追加の金属部は、中において駆動される枢動軸を受けるための、第2のシリコン部中に作製された空洞部内にスリーブを形成し、
− 前記スリーブは、ブリッジ状材料によって前記空洞部の壁部に連結され、
− 追加の金属部は、第2のシリコン部から突出する第2の追加の金属部を、追加の金属部の延在部分中に備え、
− この第2の追加の金属部は、歯車またはカナを形成するための歯を備え、
− 第2のシリコン部は、中間シリコン酸化物層を介してシリコン部の上に設置され、
− 第2のシリコン部は、歯車またはカナを形成するための歯を備える。
【0010】
最後に、本発明は、計時器であって、先述の変形形態の中の1つによる少なくとも1つの複合体マイクロメカニカル構成要素を備えることを特徴とする計時器に関する。
【0011】
添付の図面を参照とすることにより、非限定的な例示として提示される以下の説明から、他の特徴および利点が明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図1b】図1の斜視図である。
【図2】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図3】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図4】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図5】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図6】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図7】本発明による製造方法の一局面における複合体マイクロメカニカル構成要素の断面図である。
【図8】本発明の方法による最終ステップの第1の例の図である。
【図9】本発明による最終ステップの第2の例の図である。
【図10】本発明による製造方法の流れ図である。
【図11】本発明による歯車列の斜視図である。
【図12】本発明により得られた針の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素51を製造する方法1に関する。図1から図7に図示されるように、方法1は、少なくとも1つの構成要素51、51’、51’’、51’’’を形成するための一連のステップを含む。これら構成要素51、51’、51’’、51’’’は、複合的なものであってよく、および/または、複数層にわたって、および/または複数の材料によって形成されてよい。方法1の目的は、少なくとも1つのシリコン部と、少なくとも1つの金属部とを含む、最少でも1つの構成要素を提供することからなる。
【0014】
第1のステップ11は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板3を得ることからなる。基板3は、単結晶シリコンまたは多結晶シリコンから作製される上部層5および下部層7を含む。アモルファス・シリコン酸化物(SiO2)から形成される中間層9が、上部層5と下部層7との間に延在する。
【0015】
ステップ11においては、基板3は、好ましくは、図1に図示されるように、上部層5および中間層9の高さが、最終のマイクロメカニカル構成要素51の一部分53の最終高さと合致するように、選択される。
【0016】
第2のステップ13においては、図1および図1bに図示されるように、空洞部37、45が、例えば上部シリコン層5中に、深堀り反応性イオン・エッチング(DRIE)法などにより選択的にエッチングされる。これら2つの空洞部37および45は、マイクロメカニカル構成要素51のシリコン部分53の内方輪郭および外方輪郭を画定するパターンを形成する。
【0017】
図1に図示される例においては、空洞部37は、空洞部45の各側部に存在する。これは、図1bに図示されるように、空洞部37が、実質的に環状であり、空洞部45を囲むためである。空洞部37の近位壁部は、好ましくは、部分53の周囲端部上に歯55を形成するように選択的にエッチングされる。空洞部45は、実質的には円盤形状断面を有するシリンダ形状であり、環状空洞部37と同軸である。
【0018】
第3のステップ15においては、ウェット化学エッチングおよびドライ化学エッチングを実施して、中間層9中に空洞部37および45を延在させ、それにより、部分53は、下部層7が部分的に露出されるまで、中間層9中に同一のパターンにしたがって形成される。
【0019】
本発明による方法1は、次いで、LIGAプロセス19の実施を含み、これは、光造形樹脂を使用して基板3の上面上にある特定の形状にて金属を電気めっきするための一連のステップ(17、21、および23)を含む。
【0020】
第4のステップ17においては、感光性樹脂57の層が、図2に図示されるように、基板3の上面上に堆積される。ステップ17は、鋳型鋳造法を利用して達成することが可能である。感光性樹脂57は、好ましくは、例えばMicrochem Corp社の「nano(商標)Su−8」製品などの、Su−8タイプのものである。
【0021】
第5のステップ21においては、フォトリソグラフィが実施され、すなわち、例えば図2に図示されるように、部分的に穿孔されたマスクMなどを使用して、放射線Rに対する選択的露光により前記樹脂中に跡が残される。次に樹脂57が現像され、すなわち、放射線Rに露光されなかった樹脂57部分が全て、除去される。このようにして光造形された樹脂71、73、および75は、所定の形状にしたがって、金属層を形成する。
【0022】
図3の例においては、光造形樹脂は、下部リング71、上部リング73、およびシリンダ75を備える。図3の例においては、下部リング71の形状は、空洞部37の形状に合致する。上部リング73は、下部リング71を覆い、基板3の上部層5を部分的に覆う。最後に、シリンダ75の高さが、リング71および73のスタックの厚さと実質的に均一になり、シリンダは、空洞部45内の中心に配置される。図1から図7に図示される例においては、上部リング73の内径は、歯59を備える。
【0023】
第6のステップ29においては、導電性固定層61が、好ましくは、図4に図示されるように、基板3の上面上に堆積される。このステップは、例えば、真空カソード・スパッタリングを利用して従来の金属被覆方法などにより達成されてよい。好ましくは、層61は、金を含み、すなわち、純金または金合金を含む。層61の厚さは、10から100nmの間から構成されてよい。
【0024】
第7のステップ23においては、基板3の上面を電気めっきすることにより、金属層の開始部分が作製され、すなわち金属層63が成長されて、マイクロメカニカル構成要素51の上に少なくとも1つの金属部分41が形成される。図5に図示される例においては、層63は、空洞部45によって露出された下部層7の上面上において実質的に起点となる。
【0025】
光造形樹脂シリンダ75の存在によって、金属層63が、シリンダ75と中間層9との間の連続環状リング内にて成長し、次いで、シリンダ75と基板3の上部層5との間にて成長する。この第1の電気めっき局面により、空洞部45の少なくとも一部分内に第1の金属部41が形成される。
【0026】
したがって、ここにおいて、マイクロメカニカル構成要素51が、シリコン/シリコン酸化部分53を含む層の上に形成されており、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41を含むことが、この第1の局面23より明らかである。
【0027】
図5に図示される例においては、電気めっきが継続されて、空洞部45内と言うのでなく基板3の上部層5の一部の上方さらにはその上に、層が形成される。次いで、これらの連続層が、もっぱら上部リング73と光造形樹脂シリンダ75との間のみに形成される。これにより、第2の局面において形成された層39が、実質的に環状の形状であること、および、前記層の外径部分が、光造形樹脂上部リング73の歯59のリバースである歯を備えることが、明らかである。ステップ23の終了時に、金属層63が、図5において分かるように、基板3の上面全体を覆って得られる場合もある。
【0028】
層63、すなわち特に金属部39および41は、好ましくは、ニッケルを含み、すなわちニッケルまたはニッケル合金を含む。電気めっきステップ23において必要な基板3の電位差は、好ましくは、基板3の下面上および/または上面上の接触部により実現される。
【0029】
第8のステップ25においては、基板3の上面が、例えばラッピングなどによって機械加工されて、ステップ23の前記第2の局面の際に得られた金属部39の高さを、図6に図示されるように光造形樹脂の上部リング73およびシリンダ75の厚さと水平にする。これにより、リバース歯(以降においては59として参照する)を備える第2の金属部39を、正確に画成することが可能となる。
【0030】
したがって、このステップ25においては、マイクロメカニカル構成要素51は、2つの層にわたって形成されていることが明らかである。この第1の層は、シリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41を備える。この第1の層の上方に形成された第2の層は、第2の金属部39を備える。
【0031】
図10における二重線によって示されるように、第9のステップ27および第10のステップ31においては、第2のシリコン部65が、基板3の下部層7中に形成される。ステップ27の際に、基板3の下面が機械加工されて、その厚さが、所望の最終下部層7の値になされる。ステップ31の際に、空洞部47、49が、例えばDRIE法などによって、下部シリコン層7中にエッチングされる。ステップ13および15におけるように、これら2つの空洞部47および49は、マイクロメカニカル構成要素51の第2のシリコン部65の形状を画定するパターンを形成する。
【0032】
図7に図示される例においては、空洞部49は、空洞部47の両側に存在する。これは、空洞部49が、実質的に環状であり、空洞部47を囲むためである。空洞部49の近位壁部は、好ましくは、第2の部分65の周囲端部上に歯67を形成するように、選択的にエッチングされる。空洞部47は、円盤形状断面を有する実質的にシリンダ形状であり、環状空洞部49と同軸である。
【0033】
ステップ27から31については好ましい順序はなく、したがって、これらのステップは、任意の順で実施されてよい。機械加工ステップ27は、好ましくは、化学的摩耗によるラッピングなどのメカノケミカルポリシングからなる。
【0034】
したがって、ステップ27および31の後には、マイクロメカニカル構成要素51は、3つの層にわたって形成されていることが明らかである。第1の層は、1つのシリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41を備える。第1の層の上方の第2の層が、第2の金属部39により形成される。第1の層の下方の第3の層は、第2のシリコン部65によって形成される。
【0035】
さらに、本発明による方法1は、図10において三重線により示されるように、光造形樹脂を使用して、基板3の下部層の上にある特定の形状で金属を電気めっきするための一連のステップ(17’、21’、および23’)を含む、新たなLIGAプロセス19’の実施を含む。
【0036】
第11のステップ17’においては、感光性樹脂の層が、例えば鋳型鋳造法などを利用して、基板3の下面上に堆積される。第12のステップ21’においては、フォトリソグラフィが実施されて、さらなる電気めっき用の成長パターンが作製される。
【0037】
第13のステップ29’においては、固定層が、好ましくは基板3の上に堆積される。このステップは、例えば、上述のように純金層または金合金層の真空蒸着などによって、達成され得る。
【0038】
第14のステップ23’においては、金属層が、基板3の下面の上に電気めっきされて、空洞部47の少なくとも一部分中にマイクロメカニカル構成要素51の少なくとも1つの追加金属部41’が形成される。
【0039】
したがって、この段階においては、マイクロメカニカル構成要素51は、依然として3つの層にわたって形成されることが明らかである。第1の層は、シリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41を備える。第1の層の上方の第2の層は、第2の金属部39によって形成される。第1の層の下方の第3の層は、第2のシリコン部65によって形成され、空洞部47の中の1つの少なくとも一部分が、追加の金属部41’を備える。
【0040】
電気めっきステップ23’が継続されて、空洞部47中にではなく空洞部47の下方に、および可能な場合には基板3の下面7の一部を覆って層を形成することが可能である。次いで、連続層が、もっぱらステップ21’の際に光造形された樹脂間のみに、第2の追加の金属部39’中に形成される。
【0041】
電気めっきされた金属層、すなわち追加の金属部39’および41’は、好ましくはニッケルを含み、すなわち、純ニッケルまたはニッケル合金を含む。
【0042】
第15のステップ25’においては、基板3の下面が例えばラッピングなどによって機械加工されて、第2の追加の金属部39’を正確に画成する。第2の部分39と同様の態様において、第2の追加の金属部39’もやはり、歯59’を備えることが可能である。
【0043】
したがって、この段階においては、マイクロメカニカル構成要素51が4つの層にわたって形成されていることが明らかである。第1の層は、シリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41を備える。第1の層の上方の第2の層は、第2の金属部39によって形成される。第1の層の下方の第3の層は、第2のシリコン部65によって形成され、空洞部47の中の1つの少なくとも一部分が、追加の金属部41’を備える。第3の層の下方の第4の層は、第2の追加の金属層39’によって形成される。
【0044】
当然ながら、この方法の利点は、この方法により、同一の基板3の上に複数のマイクロメカニカル構成要素51を作製することが可能となりやはり有利である点である。さらに、上述の説明、ならびに図10の単一線、二重線、および三重線の補助より、方法1は、その全てを実施すべきでないという点を、すなわち、製造されることとなるマイクロメカニカル構成要素51の複雑さに応じて、この構成要素は、例えばステップ25、31、または25’の後に完全に構築され得る点を、理解されたい。しかし、全ての構築変形形態に関して、方法1は、基板3からマイクロメカニカル構成要素51を放出することからなる最終ステップ33を含む。次に、例として、方法1の複数の実施形態および/またはマイクロメカニカル構成要素51を、説明する。
【0045】
第1の実施形態においては、方法1の放出ステップ33は、図10における単一線により表されるように、シリコン部53中に金属部41を構築するステップ25の後に行われる。このとき、放出ステップ33は、光造形樹脂および下部層7、または下部層7および中間層9の除去からなる。このようにして製造されたマイクロメカニカル構成要素51’’は、基板3の残りの部分から解放される。この構成要素は、図12に図示されるように、針の本体を形成するシリコン、またはシリコン/シリコン酸化物部53’’を含む単一層を含み、空洞部45’’の中の1つの少なくとも一部分が、スリーブを形成する金属部41’’を有する。図8に図示される第2の実施形態においては、例えば、方法1の放出ステップ33が、図10において二重線により示される第2のシリコン部65を構築するステップ31の後に実施されることが明らかである。このとき、放出ステップ33は、例えばエッチングおよび/または剥取りなどによって、光造形樹脂部71、73、および75を除去することからなる。このようにして製造されたマイクロメカニカル構成要素51は、基板3の残りの部分から解放される。したがって、マイクロメカニカル構成要素51は、3つの積層にわたって、第2の金属部39、シリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分が、金属部41および第2のシリコン部65を備える。
【0046】
上記で説明された、および、図1から図8および図10を参照とする、方法1の第2の実施形態により得られたマイクロメカニカル構成要素51は、歯59、55、および67を備える連続スタックの3つの歯車部分39、53、および65をそれぞれ、実質的に備える。この構成要素51は、好ましくは、同軸脱進機アンクルと協働するためのガンギ車を形成するように構成される。シリコン製歯55および67は、有利には、前記脱進機アンクルのツメ石と協働するための駆動歯を形成するために使用される。したがって、金属製歯59は、マイクロメカニカル構成要素51が属する計時器のムーブメントを調整するためのガンギ・カナとして使用される。
【0047】
図9に図示される第3の実施形態においては、例えば、方法1の放出ステップ33が、図10における三重線によって表される第2の追加の金属部39’を構築するステップ25’の後に行われることが分かる。このとき、放出ステップ33は、基板3の上部全体から光造形樹脂部71、73、および75を除去することだけでなく、前記基板の下部層の上に存在するものを除去することからなる。このように製造されたマイクロメカニカル構成要素51’は、基板3の残りの部分から解放される。
【0048】
このようにして、マイクロメカニカル構成要素51’は、図11に図示されるように、4つの積層にわたって、第2の金属部39、シリコン/シリコン酸化物部53を備え、空洞部45の中の1つの少なくとも一部分は、金属部41、第2のシリコン部65を備え、空洞部47の中の1つの少なくとも一部分は、追加の金属部41’および第2の追加の金属部39’を備える。
【0049】
上記で図1から図7および図9から図11を参照として説明された方法1の第3の実施形態により得られたマイクロメカニカル構成要素51’は、歯59、55、67、および59を備える連続スタックの4つの歯車層39、53、65、および39’をそれぞれ実質的に備える。
【0050】
これらの実施形態の全てにおいて、マイクロメカニカル構成要素51、51’、51’’は、シリコン部分53および65上において直接的に駆動されるのではなく、金属部39、39’、41、41’上において駆動される点において、有利である。金属部41の厚さは、好ましくは、金属部41がシリコン部53を十分に断絶するように、6ミクロンを上回る。実際に、この厚さを上回り、および理想的には10ミクロンから始まり、例えばニッケルなどの金属が、シリコン上に応力を進ませることなく、弾性的にまたは塑性的に応力を吸収することが可能である。
【0051】
図面のマイクロメカニカル構成要素51、51’、51’’が、単に例示の実施形態であり、これらは、方法1が、過度の複雑さを伴うことなく最大で4つの層(2つの層が金属を含み、2つの層がシリコンおよび金属を含む)のスタックを形成することが可能であることを実証するものであることを、上述の説明を読まれることから理解されたい。したがって、第1の実施形態の構成は、最も単純なマイクロメカニカル構成要素を構築することが可能であり、第3の実施形態は、高度に複合的な構成要素を構築することが可能である。
【0052】
図10における破線において表される変形形態では、ステップ21と23との間に行われ固定層61を堆積することからなるステップ29を、ステップ15と17との間に移動させることが可能であり、すなわち、中間層9のエッチングと、感光性樹脂層57の堆積との間に移動させることが可能である。この第1の変形形態においては、2つのシリコン層5および7は、好ましくはドーピングされることとなる。
【0053】
当然ながら、本発明は、図示される例に限定されず、当業者には明らかであろう種々の変形および変更をなすことが可能である。とりわけ、例えば金、アルミニウム、クロム、またはそれらの中の任意の合金など、他の金属層63を予期することが可能である。同様に、ガルバニック成長層63のために選択された金属に対して導電性であり、好ましくは接着される、他の固定層61を予期することが可能である。しかし、層61を堆積するステップ29は、シリコン層5および7が共にドーピングされる場合には、ガルバニック成長を適切に生じさせるために必須ではない点に留意されたい。
【0054】
同様に、フックまたはクリックなど、歯55、59、59’、および67とは異なるパターンをエッチングすることが可能である。さらに、例えば、歯55、59、59’、および67などの前記エッチングパターンに対して層63を作製することが可能である点に留意されたい。
【0055】
同様に、当然ながら、フォトリソグラフィにより、使用される光造形樹脂に応じて、または予期される用途に応じて、ネガ構造部およびポジ構造部を形成することが可能である。スプレー・コーティング法により、樹脂層57を堆積させることも可能である。
【0056】
最後に、金属層63は、シリコン部53および65の少なくとも一方の周囲壁部上におけるのと同様に、空洞部45の内方壁部部分上にも同様に作製されてよい。層63は、ブリッジ状材料を介して前記シリコン壁部に連結されるように構築されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
51 マイクロメカニカル構成要素;
55、67 シリコン製歯; 59 金属製歯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素(51、51'、51'')を製造する方法であって、
a)シリコン酸化物中間層(9)が相互間に延在する、上部シリコン層(5)および下部シリコン層(7)を備える基板(3)を採用するステップ(11)と、
b)前記構成要素のシリコン部(53、53'')のパターンを画定するために、前記上部層(5)中に少なくとも1つの空洞部(37、45、45'')を選択的にエッチングするステップ(13)と、
c)前記中間層(9)中への前記少なくとも1つの空洞部(37、45、45'')のエッチングを継続するステップ(15)と
を備え、さらに、
d)破壊応力から前記マイクロメカニカル構成要素の前記シリコン部(53、53'')を断絶させるために、前記構成要素の厚さ部分中に金属部(41、41'、41'')を形成するために、前記少なくとも1つの空洞部(37、45、45'')の少なくとも一部分から金属層(63)を成長させるステップ(17、21、23)と、
e)前記基板(3)から前記シリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素(51、51'、51'')を放出するステップ(33)と
を備える、ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ステップd)は、
感光性樹脂(57)により前記基板(3)の前記上部を覆うステップ(7)と
前記金属部(39、41)の所定のパターンにしたがって、前記樹脂を光造形する(71、73、75)ために、前記感光性樹脂(57)に対して光造形を選択的に実施する光造形ステップ(21)と、
前記パターンに応じて前記金属部(41、41'、41'')を形成するために、前記光造形樹脂(75)と前記中間層(9)または前記上部層(5)とのそれぞれの間に前記層(63)を底部から成長させることにより、前記少なくとも1つの空洞部(37、45、45'')に対して垂直方向に位置する前記下部層(7)の前記上部導電層から開始して、電気めっきによって金属層を堆積させるステップ(23)と
を含み、
前記ステップe)は、前記光造形樹脂(71、73、75)を除去すること(33)によって行われる
ことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの空洞部(37、45、45'')に対して垂直方向に位置する前記下部層(7)の前記上部導電性面は、前記下部層(7)をドーピングすることによって、および/または、導電性層(61)の堆積(29)によって、導電性になされる
ことを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記光造形ステップ(21)の際に、前記光造形樹脂(71、73、75)は、前記基板(3)の前記上部層(5)から突出し(73、75)、それにより、前記層(63)は、前記シリコン部(53)の上方に前記マイクロメカニカル構成要素(51、51')の第2の金属部(39)を形成するために、前記光造形樹脂(73、75)の少なくとも前記突出部分間に電気めっきを施す(23)ことによって、成長を継続させることが可能である
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ステップd)の後に、前記光造形樹脂(73、75)の前記上端部と同一の高さにまで前記金属層(63)を水平にさせるように、前記基板(3)の前記上面を機械加工するステップ(25)を含む
ことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属層(63、39、39'、41、41'、41'')は、ニッケルを含む
ことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記放出ステップ(33)の前に、所定の形状および厚さにしたがって前記マイクロメカニカル構成要素(51、51')中に第2のシリコン部(65)を形成するために、前記基板(3)の前記下部層(7)中に少なくとも1つの空洞部(47、49)を機械加工するステップ(27)およびエッチングするステップ(31)を含む
ことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記基板(3)の前記下部層(7)を機械加工するステップ(27)と前記基板(3)の前記下部層(7)をエッチングするステップ(31)との間に、放出ステップ(33)と、前記下部層(7)の厚さ部分中に少なくとも1つの追加の金属部(41')を形成するように、前記下部層(7)の前記少なくとも1つの空洞部(47)の少なくとも1つの部分中に電気めっきを施すことにより、第2の金属層(41')を成長させるステップ(17'、21'、23')とを含む
ことを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記成長ステップは、
感光性樹脂で前記基板(3)の前記下部を覆うステップ(17')と、
前記金属部(41')の所定のパターンにしたがって前記樹脂を光造形するために、前記感光性樹脂に対してフォトリソグラフィを選択的に実施するステップ(21')と、
前記パターンにしたがって前記金属部(41')を形成するために、前記下部から前記少なくとも1つの空洞部(47)中に金属層を成長させることにより、前記少なくとも1つの空洞部(47)の底部から開始して電気めっきによって前記金属層を堆積させるステップ(23')と
を含むことを特徴等する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記フォトリソグラフィ・ステップ(21')の際に、前記光造形樹脂が、前記基板(3)の前記下部層(7)から突出し、それにより前記層は、前記第2のシリコン部(65)の下方に前記マイクロメカニカル構成要素(51')の第2の追加金属部(39')を形成するように、電気めっき(23')による成長を継続することが可能となる
ことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記放出ステップ(33)の前に、前記光造形樹脂の下端部と同一の高さにまで前記金属部(39’)を水平にするために、前記基板(3)の前記下部表面(3)を機械加工するステップ(25')を含む
ことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2の電気めっきされた金属層(39'、41')は、ニッケルを含む
ことを特徴とする、請求項8から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
複数のマイクロメカニカル構成要素(51、51'、51'')が、同一の基板(3)中において製造される
ことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
シリコン層(5)へと形成される一部(53、53'')を含むシリコン/金属複合体マイクロメカニカル構成要素(51、51'、51'')において、前記シリコン部は、歯車またはカナを形成するための歯(55)と、前記歯(55)の少なくとも一部分にわたって、破壊応力からシリコン部(53、53'')を断絶させるために6ミクロンを上回る厚さを有する金属部(39、41、41'')とを備える
ことを特徴とする、マイクロメカニカル構成要素。
【請求項15】
前記金属部は、前記シリコン部の周囲壁部を覆うスリーブを形成することを特徴とする、請求項14に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項16】
前記スリーブは、ブリッジ状材料により前記周囲壁部に連結されることを特徴とする、請求項15に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項17】
前記金属部は、前記シリコン部から突出する第2の金属部を、前記金属部の延在部分中に備えることを特徴とする、請求項15または16に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項18】
前記金属部は、中において駆動される枢動軸を受容するように、前記シリコン部(53、53'')中に作製された空洞部(45、45'’)内にスリーブ(41、41'')を形成することを特徴とする、請求項14に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項19】
前記スリーブは、ブリッジ状材料により前記空洞部の壁部に連結されることを特徴とする、請求項18に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項20】
前記金属部(41)は、前記シリコン部(53)から突出する第2の金属部(39)を、前記金属部(41)の延在部分中に備えることを特徴とする、請求項18または19に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項21】
前記第2の金属部(39)は、歯車またはカナを形成するための歯(59)を備えることを特徴とする、請求項20に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項22】
各金属部(63、39、41、41'')は、ニッケルを含むことを特徴とする、請求項14から21のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項23】
第2の層(7)から形成された第2のシリコン部(65)を備えることを特徴とする、請求項14から22のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項24】
前記第2のシリコン部(65)は、破壊応力から前記第2のシリコン部(65)を断絶させるための追加の金属部(41')を、前記第2のシリコン部(65)の厚さ部分の少なくとも一部分にわたって備えることを特徴とする、請求項23に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項25】
前記追加の金属部は、中において駆動される枢動軸を受けるための前記第2のシリコン部(65)中に作製された空洞部(47)内にスリーブ(41')を形成することを特徴とする、請求項24に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項26】
前記スリーブは、ブリッジ状材料によって前記空洞部の前記壁部に連結されることを特徴とする、請求項25に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項27】
前記追加の金属部(41')は、前記第2のシリコン部(65)から突出する第2の追加の金属部(39')を、前記追加の金属部(41')の延在部分中に備えることを特徴とする、請求項24から26のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項28】
前記第2の追加の金属部(39')は、歯車またはカナを形成するための歯(59')を備えることを特徴とする、請求項27に記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項29】
各金属部(39'、41')は、ニッケルを含むことを特徴とする、請求項24から28のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項30】
前記第2のシリコン部(65)は、シリコン酸化物からなる中間層(9)を介して前記シリコン部(53)の上に設置されることを特徴とする、請求項24から29のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項31】
前記第2のシリコン部(65)は、歯車またはカナを形成するための歯(67)を備えることを特徴とする、請求項24から30のいずれかに記載のマイクロメカニカル構成要素。
【請求項32】
請求項14から31のいずれかに記載の少なくとも1つのマイクロメカニカル構成要素(51、51'、51'')を備えることを特徴とする、時計。

【図1】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−514846(P2011−514846A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533559(P2010−533559)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065347
【国際公開番号】WO2009/062943
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(599040492)ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム (33)
【Fターム(参考)】