説明

シリコーンエラストマー組成物

【課題】硬化物が柔軟であり、熱エージングによっても硬度変化が小さいシリコーンエラストマーを与え、他のシリコーンエラストマーに対する接着性が高く、優れた硬化特性を備えるシリコーンエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(アルケニル基の含有量は0.2質量%未満)、
(B)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン((A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が2.5〜10モルとなる量)、
(C)白金族金属系触媒(所定量)、および、
(D)フタロシアニン化合物((C)成分中の白金族金属1モルに対して5〜50モルとなる量)、
を含むシリコーンエラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化によって接着性シリコーンエラストマーを形成するシリコーンエラストマー組成物に関する。また、本発明は、前記シリコーンエラストマー組成物を用いて得られるシリコーンエラストマー積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発熱性素子を搭載した電子部品、高温に曝される車載用電子部品等に、熱伝導性、応力緩和特性等、並びに、用途に応じた絶縁性、半導電性又は導電性を付与するため、シリコーンエラストマーが使用されている。しかし、シリコーンエラストマー、特にヒドロシリレーション反応を利用した付加反応硬化型のシリコーンエラストマーは基材及び他のシリコーンエラストマーに対する接着性が乏しく、複合一体化物又はシリコーンエラストマー積層体とする場合には、基材のプライマー処理、シリコーン系接着剤の使用等が必要であった。
【0003】
ところが、従来のシリコーン系接着剤を硬化して得られる接着層は高硬度であるため柔らかいシリコーンエラストマー積層体を得ることが困難であり、特に、熱エージングにより接着層の硬度が更に上昇して柔軟性が更に失われたりするという問題があった。したがって、接着層は例えば100μm以下の厚みまで薄くせざるを得ず、弾性層としての機能を発揮することが困難であった。
【0004】
また、従来のシリコーン系接着剤は、一旦硬化して接着層を形成した後は、該接着剤層上に新たに設けられるシリコーンエラストマーに対してもはや接着性を有さなかった。
【0005】
特開平03−146560号公報には、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサン、白金系触媒およびフタロシアニン化合物からなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物が記載され、該組成物を硬化してなるオルガノポリシロキサンゴムの圧縮永久歪が小さいことが記載されている。しかし、シリコーンエラストマーに対する接着性については記載も示唆も無い。
【0006】
特開平07−196918号公報には。特定の重合度のポリオルガノシロキサン、導電性付与剤、フタロシアニン化合物、有機過酸化物からなるシリコーンゴム組成物が記載されている。しかし、ヒドロシリレーション反応を利用した付加反応硬化型のシリコーンエラストマー組成物、並びに、シリコーンエラストマーに対する接着性については記載も示唆も無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−146560号公報
【特許文献2】特開平07−196918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、硬化物が柔軟であり、熱エージングによっても硬度変化が小さいシリコーンエラストマーを与え、他のシリコーンエラストマーに対する接着性が高く、優れた硬化特性を備えるシリコーンエラストマー組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、基材のプライマー処理が不要で、良好な接着性乃至一体性を示し、柔軟性又は弾性に富むシリコーンエラストマー積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、
(A)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(アルケニル基の含有量は0.2質量%未満)、
(B)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン((A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が2.5〜10モルとなる量)、
(C)白金族金属系触媒((A)成分及び(B)成分の合計量に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01〜1000ppmとなる量)、および、
(D)フタロシアニン化合物((C)成分中の白金族金属1モルに対して5〜50モルとなる量)、
を含むシリコーンエラストマー組成物によって達成される。
【0011】
前記シリコーンエラストマー組成物は、更に(E)硬化遅延剤を含むことができる。
【0012】
前記シリコーンエラストマー組成物は、更に(F)シリカ微粉末を含有することができる。
【0013】
前記シリコーンエラストマー組成物は、接着剤として使用することができる。
【0014】
前記シリコーンエラストマー組成物又は前記接着剤は、硬化によりシリコーンエラストマーを与える。前記シリコーンエラストマーは、JIS K7312に規定されたタイプC硬さ試験機を用いて測定した硬さが5〜35であることが好ましい。
【0015】
本発明の他の目的は、前記シリコーンエラストマーからなる接着層を介して基材及びシリコーンエラストマーが積層されたことを特徴とするシリコーンエラストマー積層体、或いは、前記シリコーンエラストマーからなる接着層を介して複数のシリコーンエラストマーが積層されたことを特徴とするシリコーンエラストマー積層体によって達成される。
【0016】
本発明のシリコーンエラストマー積層体は、
工程1:前記シリコーンエラストマー組成物又は前記接着剤をシリコーンエラストマー表面に塗布し、硬化させて接着層を形成する工程;及び
工程2:前記接着層の表面にシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマーを積層する工程
を備える製造方法によって得ることができる。
【0017】
また、本発明のシリコーンエラストマー積層体は、
工程1:前記シリコーンエラストマー組成物又は前記接着剤を硬化して接着層を形成する工程、
工程2:前記接着層の少なくとも一方の表面にシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマー積層体を製造する工程。
を備える製造方法によっても得ることができる。
【0018】
そして、本発明のシリコーンエラストマー積層体は、前記シリコーンエラストマー組成物又は前記接着剤を複数のシリコーンエラストマーの間で硬化させて接着層を形成する工程を備える製造方法によっても得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシリコーンエラストマー組成物は、柔軟性又は弾性が高く、熱エージングによっても硬度変化が小さいシリコーンエラストマーを与えることができる。したがって、前記シリコーンエラストマーは弾性層を兼ねた接着層になりうる。なお、前記接着層の厚みを薄くする必要はない。また、本発明のシリコーンエラストマー組成物は、優れた硬化特性を示し、他のシリコーンエラストマーに対して優れた接着性を示す硬化物を形成することができる。なお、前記硬化物は金属に対して離型性があるために本発明のシリコーンエラストマー組成物を用いて金型での成形が可能である。しかも、前記硬化物は圧縮永久歪みが小さく優れたエラストマー特性を示すことができる。
【0020】
また、本発明のシリコーンエラストマー積層体は、良好な接着性乃至一体性を示し、柔軟性又は弾性に富む。そして、本発明のシリコーンエラストマー積層体の製造方法は、基材のプライマー処理が不要であり、また、他の接着剤を使用することなく、当該積層体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明のシリコーンエラストマー組成物を詳細に説明する。
【0022】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の主剤であり、1分子中にケイ素原子結合アルケニル基を平均2個以上有することを特徴とする。但し、アルケニル基の含有量は(A)成分全体の0.2質量%未満であり、0.15質量%以下が好ましい。(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基が例示され、好ましくは、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基であり、特に好ましくはビニル基又はアリル基である。前記アルケニル基のケイ素原子への結合位置は特に限定されず、分子鎖末端及び/又は分子鎖側鎖である。また、(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の有機基又は水酸基を有していてもよく、該有機基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフロロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等の、通常、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、好ましくはメチル基又はフェニル基である。
【0023】
(A)成分の分子構造は特に制限されないが、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐鎖を有する直鎖状、樹枝状(デンドリマー状)が例示される。(A)成分は直鎖状の重合体、一部分岐を有する単一の重合体、これらの分子構造からなる共重合体のいずれでも良く、2種類以上の重合体の混合物であってもよい。
【0024】
(A)成分の25℃における粘度は特に制限されないが、得られるシリコーンエラストマー組成物の硬化作業性が良好であり、また得られるシリコーンエラストマーの物理特性が良好であることから、50〜1,000,000mPa・sであることが好ましく、さらには、200〜500,000mPa・sであることが好ましく、特には、1,000〜100,000mPa・sであることが好ましい。これは、25℃における粘度が上記範囲の下限未満であると、得られるシリコーンエラストマーの物理特性が著しく低下し、一方、上記範囲の上限を超えると、得られるシリコーンエラストマー組成物の取扱作業が著しく低下するおそれがあるからである。取り扱い性の点で、(A)成分は液状乃至ペースト状であることが好ましい。
【0025】
このような(A)成分としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、式:(CH3)3SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:CH3SiO3/2で表されるシロキサン単位と式:(CH3)2SiO2/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体が例示される。
【0026】
(B)成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の架橋剤であり、1分子中にケイ素原子結合水素原子を平均2個以上有するオルガノポリシロキサンである。(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の結合位置は特に限定されず、分子鎖末端、分子鎖側鎖、又は、分子鎖末端及び分子鎖側鎖である。また、(B)成分中の水素原子以外のケイ素原子結合基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基が例示され、好ましくは、アルキル基、アリール基であり、特に好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0027】
(B)成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられる。(B)成分はこれらの分子構造を有する単一重合体、これらの分子構造からなる共重合体、またはこれらの混合物である。
【0028】
(B)成分の粘度は限定されないが、25℃における粘度が1〜100000mPa・sであることが好ましく、さらには、1〜10000mPa・sであることが好ましく、特には、1〜5000mPa・sであることが好ましい。
【0029】
このような(B)成分としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、式:(CH3)3SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH3)2HSiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO4/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン、テトラ(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シラン、メチルトリ(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シランが例示される。
【0030】
本組成物において、(B)成分の含有量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が2.5〜10モルとなる量であり、好ましくは、2.5〜8モルとなる量であり、特に好ましくは、2.8〜6モルとなる量である。これは本成分の含有量が上記範囲の下限未満となる量であると、得られるシリコーンエラストマー組成物のシリコーンエラストマーに対する接着性が十分でなくなり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られるシリコーンエラストマーから水素ガスが発生するからである。したがって、前記(A)成分100質量部に対する前記(B)成分の相対量は、この関係が維持されるように、例えば、1〜1000質量部の範囲で適宜決定されることが好ましい。
【0031】
(C)成分の白金族金属系触媒は、本組成物の硬化を促進するための触媒である。(C)成分としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、四塩化白金、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末等の白金系触媒;式:[Rh(O2CCH3)2]2、Rh(O2CCH3)3、Rh2(C8152)4、Rh(C572)3、Rh(C572)(CO)2、Rh(CO)[Ph3P](C572)、RhX3[(R)2S]3、(R'3P)2Rh(CO)X、(R23P)2Rh(CO)H、Rh224、HfRhg(En)hCli、またはRh[O(CO)R]3-j(OH)jで表されるロジウム系触媒(式中、Xは水素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、Yはメチル基、エチル基等のアルキル基、CO、C814、または0.5C812であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘプチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;またはフェニル基、キシリル基等のアリール基であり、R'はメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコシ基;またはフェノキシ基等のアリロキシ基であり、Enは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン等のオレフィンであり、fは0または1であり、gは1または2であり、hは1〜4の整数であり、iは2、3、または4であり、jは0または1である。);式:Ir(OOCCH3)3、Ir(C572)3、[Ir(Z)(En)2]2、または[Ir(Z)(Dien)]2で表されるイリジウム系触媒(式中、Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、またはメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基であり、Enは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン等オレフィンであり、Dienはシクロオクタジエンである。)が例示される。
【0032】
本組成物において、(C)成分の含有量は(A)成分及び(B)成分の合計量に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01〜1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1〜500ppmとなる量である。これは、本成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られるシリコーンエラストマー組成物が十分に硬化しなくなり、一方、上記範囲の上限を超える量を配合しても、得られるシリコーンエラストマー組成物の硬化速度は著しく向上しないからである。
【0033】
(D)成分のフタロシアニン化合物は、熱エージングによっても硬度変化が小さいシリコーンエラストマーを与えるための成分であり、一般に、フタロシアニン化合物は、ポルフィラジン環の中心に金属が存在しないメタルフリーフタロシアニンと、ポルフィラジン環の中心に金属が存在する金属フタロシアニンに大別できるが、本発明においては、その両者とも使用することができる。金属フタロシアニンには、金属の種類によって、共有結合性又はイオン結合性のものがあるが、両者とも使用することができる。
【0034】
したがって、フタロシアニン化合物としては、例えば、下記式:
【化1】

及び
【化2】

(式中、
Xは、水素原子、又は、ハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子又は臭素原子であり;
Mは、金属原子であり、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金等が挙げられる)
で表されるものが挙げられる。
【0035】
なお、金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、水銀、バナジウム、亜鉛、アルミニウム等も使用することができる。
【0036】
本組成物において、(D)成分の含有量は、(C)成分中の白金族金属1モルに対して5〜50モルとなる量である。これは、本成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、熱エージングによる硬度変化が大きくなり、一方、上記範囲の上限を超える量を配合すると、硬化特性が影響されるからである。したがって、(D)成分は、この関係が維持されるように、例えば、(A)成分100質量部に対する(D)成分の相対量が、0.0001〜1質量部の範囲で適宜決定されることが好ましく、0.001〜0.02質量部の範囲がより好ましく、0.001〜0.01質量部の範囲が更により好ましい。
【0037】
本組成物は、当該組成物の硬化速度を調節し、取扱作業性を向上させるため、2−メチル−3−ブチン−2−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のアセチレン系化合物;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエン−イン化合物;その他、ヒドラジン系化合物、フォスフィン系化合物、メルカプタン系化合物等の硬化遅延剤(E)を含有することが好ましい。この硬化反応抑制剤の含有量は限定されないが、(A)成分100重量部に対して0.0001〜1.0重量部であることが好ましい。
【0038】
また、本組成物は、当該組成物の硬化物の補強材として、シリカ微粉末(F)を含有することが好ましい。すなわち、本発明の組成物は好ましくは型内成形材料として使用されるが、その場合は、脱型時の破損を回避するために高い引張強度並びに伸びが特に求められる。そこで、本発明の組成物においては、シリカ微粉末を補強材として使用することにより、このような強度特性を満足する硬化物を形成することができる。(F)成分としてのシリカ微粉末は、BET法で測定した比表面積が50m/g以上であることが好ましく、100〜300m/gであることがより好ましい。比表面積が50m/g未満では、満足するような強度特性を付与できないおそれがある。
【0039】
シリカ微粉末としては、例えばヒュームドシリカ等の乾式シリカや、湿式シリカ等の合成シリカが使用される。これらのシリカは表面に多量のシラノール基を有しているために、例えばハロゲン化シラン、アルコキシシラン、各種シラザン化合物(例えば、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジビニルジシラザン)等のシリル化剤により表面処理されたいわゆる疎水性シリカとして使用することもできる。なお、疎水性シリカを使用する代わりに、(A)成分のオルガノポリシロキサンとシリカ微粉末と前記シリル化剤とを混合して得られたマスターバッチを使用することも可能である。シリカ微粉末の配合量は、本発明の組成物の1〜10質量%の範囲が好ましく、1〜8質量%の範囲がより好ましく、1〜6質量%の範囲が特に好ましい。この配合量が組成物の10質量%を超えると組成物の成形作業性が損なわれるおそれがある。
【0040】
本組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他の任意成分として、各種の添加剤、例えば、ヒュームド酸化チタン等の補強充填剤;珪藻土、アスベスト、アルミノ珪酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等の非補強充填剤;酸化アルミニウム、溶融シリカ、銀粉末などの熱伝導性充填剤;これらの充填剤をオルガノシラン、ポリオルガノシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理したもの;アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを配合してもよい。また必要に応じて顔料、染料、耐熱剤、難燃剤、内部離型剤、可塑剤、無官能のシリコーンオイル等のシリコーンエラストマー組成物に汎用される添加剤を配合してもよい。
【0041】
本組成物は、上記(A)〜(D)成分、好ましくは上記(A)〜(D)並びに(E)及び/又は(F)成分、或いは、これらに必要に応じて上記の各種添加剤を配合した組成物を公知の混合手段により均一に混合することにより容易に製造することができる。ここで使用する混合手段としてはホモミキサー、パドルミキサー、ホモディスパー、コロイドミル、真空混合攪拌ミキサー等が例示されるが、少なくとも(A)〜(D)成分を均一に混合できるものであれば特に限定されるものではない。なお、(F)シリカ微粉末を配合する場合は、予め、(A)成分の一部と(F)シリカ微粉末とを配合したシリカマスターバッチを調製した後、残余の(A)成分と他の成分を混合することが好ましい。
【0042】
本組成物は、そのままで、或いは、更に他の任意の成分を配合して、接着剤として使用することができる。したがって、本発明は、前記シリコーンエラストマー組成物からなる接着剤にも関する。前記接着剤は、シリコーンエラストマーに対して接着性を示し、特に、ヒドロシリレーション反応を利用した付加反応硬化型のシリコーンエラストマーに対して優れた接着性を示す。したがって、シリコーンエラストマーからなる基材に使用する場合に、当該基材に予めプライマー処理を施す必要がない。
【0043】
本組成物又は本組成物からなる接着剤は、加熱されることにより、硬化物を形成する。硬化温度は特に限定されず、一般に、室温〜220℃で良好に硬化させることができる。シリコーンエラストマー間、或いは、基材との密着がより強固になることから、60〜180℃で硬化させることが好ましく、80〜150℃で硬化させることがより好ましい。更に、まず室温〜100℃、好ましくは60〜80℃で加熱し、その後、80〜180℃、好ましくは100〜150℃で加熱するステップキュアを行うと、シリコーンエラストマー間、或いは、基材との密着性が向上する場合があるので、好ましい。硬化終了後、少量ないし微量の揮発性成分を除去するために、150〜250℃で10分間〜2時間程度の二次硬化(熱エージング)を行うことが好ましい。
【0044】
本組成物の硬化物は、5〜35の範囲のアスカーC硬さを有することが好ましい。アスカーC(Asker C)硬さとは、JIS K7312に規定される、主に軟質エラストマーに適用される硬度である。本発明においてアスカーC硬さとは、JIS K7312に規定されたタイプC硬さ試験機による測定値を示し、例えば、アスカーC硬さが20の場合、前記試験機で測定した値が20であることを意味する。アスカーC硬さは、数字が大きいほど「硬い」ことを意味する。アスカーC硬さが35を越えると硬化物の柔軟性が悪化するので、アスカーC硬さは35以下が好ましく、10〜30がより好ましく、10〜25が更により好ましい。本組成物の硬化物の架橋密度を低下させることによって、硬化物の硬度を適切な範囲とする場合は、ケイ素原子結合アルケニル基含有量の少ない(A)成分、ケイ素原子結合水素原子含有量の少ない(B)成分、又は、両方を使用することができる。
【0045】
前記硬化物は、柔軟性又は弾性が高く、低い永久圧縮歪みを有するシリコーンエラストマーである。また、二次硬化を経ても硬度変化が小さい。また、前記硬化物は、他のシリコーンエラストマーに対して優れた接着性を示す。なお、前記硬化物は金属に対して離型性を有するので、金型を用いて前記硬化物の形状を任意にデザインすることができる。
【0046】
本発明は、前記シリコーンエラストマーからなる接着層を介して基材及びシリコーンエラストマーが積層されたシリコーンエラストマー積層体にも関する。次に、本発明のシリコーンエラストマー積層体及びその製造方法を詳細に説明する。
【0047】
前記基材の材質及び形状は特に制限されるものではなく、基材は金属、ガラス、石英等の各種無機物質、並びに、エラストマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の各種有機物質、或いは、織布、不織布又は多孔体等の各種構造体から構成されることができ、また、基材は板状、棒状、半球状、球状等の各種形状とすることができる。
【0048】
前記基材はシリコーンエラストマーであることが好ましく、特に、ヒドロシリレーション反応を利用した付加反応硬化型のシリコーンエラストマーであることが好ましい。したがって、本発明では、前記シリコーンエラストマーからなる接着層を介して複数のシリコーンエラストマーが積層されたシリコーンエラストマー積層体を好ましく形成することができる。
【0049】
本発明のシリコーンエラストマー積層体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0050】
(1)硬化したシリコーンエラストマー上に前記シリコーンエラストマー組成物を塗布して硬化させることを特徴とする下記工程1及び工程2を含む方法

工程1:本発明のシリコーンエラストマー組成物又は本発明の接着剤をシリコーンエラストマー表面に塗布し、硬化させて接着層を形成する工程;及び
工程2:前記接着層の表面にシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマーを積層する工程
【0051】
(2)硬化したシリコーンエラストマー組成物上に未硬化の他のシリコーンエラストマーを塗布して硬化させることを特徴とする下記工程1及び工程2を含む方法

工程1:本発明のシリコーンエラストマー組成物又は本発明の接着剤を硬化して接着層を形成する工程、
工程2:前記接着層の少なくとも一方の表面に他のシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマー積層体を製造する工程
【0052】
前記(2)の方法では、前記接着層の両面に他のシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させることが好ましい。
【0053】
(3)硬化したシリコーンエラストマー間に前記シリコーンエラストマー組成物を塗布して硬化させることを特徴とする下記工程を含む方法

工程:本発明のシリコーンエラストマー組成物又は本発明の接着剤を複数のシリコーンエラストマーの間で硬化させて接着層を形成する。
【0054】
上記の各製造方法で得られるシリコーンエラストマー積層体は、良好な接着性乃至一体性を示し、柔軟性又は弾性に富む。そして、上記の各の製造方法は、基材のプライマー処理が不要であり、また、他の接着剤を使用することなく、シリコーンエラストマー積層体を容易に得ることができる。
【0055】
なお、本発明のシリコーンエラストマー積層体の表面には必要に応じてアクリル樹脂層やフッ素樹脂層等の各種付加層を設けることが可能である。
【0056】
本発明のシリコーンエラストマー積層体を構成する各層のそれぞれの厚みは特に制限されるものではなく、例えば、前記接着層は100μm、更には500μm、更には1mmを超える厚みとすることができる。したがって、本発明では、接着層が弾性層を兼ねることができる。また、各層の厚みは互いに同一であっても又は異なってもよい。
【0057】
本発明のシリコーンエラストマー積層体はそれ自体で各種の電気・電子部品或いは包帯等の医療用製品として使用することが可能であり、また、金属基板、金属酸化物基板、ガラス基板又はプラスチックフィルム等の各種基材と組み合わせて使用することができる。
【0058】
建築分野では、内装・加工用材料、電気カバー、シート、ガラス中間膜、ガラス代替品、太陽電池周辺材料に利用可能である。農業用では、例えば、ハウス被覆用フィルムに利用可能である。
【0059】
次世代の光・電子機能有機材料としては、有機EL素子周辺材料、有機フォトリフラクティブ素子、光−光変換デバイスである光増幅素子、光演算素子、有機太陽電池周辺の基板材料、ファイバー材料、素子の封止剤等に利用可能である。
【0060】
また、発熱性素子を搭載した電子部品、高温に曝される車載用電子部品等にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより詳細に例証するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、下記において「%」は、特に断らない限り、質量%を表す。
【0062】
(シリカベースの調製)
100gのオルガノポリシロキサン(両末端ビニルポリマー;粘度40,000mPa・s、ビニル基含有量0.09%)、2gの水、7gのヘキサメチルジシラザン、及び、40gのヒュームドシリカ(比表面積200m/g)をニーダーミキサーに投入して室温にて1時間攪拌し、次に、170℃で2時間真空下攪拌し、室温に冷却しつつ1時間攪拌を継続して、シリカベースを調製した。
【0063】
(実施例1〜8及び比較例1〜5)
下記表1及び表2に示す成分を均一に混合して、実施例1〜8及び比較例1〜5の付加硬化型液状シリコーンエラストマー組成物を得た。
【0064】
実施例1〜8及び比較例1〜5の各組成物について、下記の特性を測定した。結果を表1及び2に併せて示す。
【0065】
(アスカーC硬度1)
120℃で10分加熱硬化後、JIS K7312に規定されたタイプC硬さ試験機により硬度を測定した。
【0066】
(アスカーC硬度2)
200℃で4時間加熱硬化後、JIS K7312に規定されたタイプC硬さ試験機により硬度を測定した。
【0067】
(アスカーC硬度差)
アスカーC硬度2−アスカーC硬度1によりアスカーC硬度差を得た。
【0068】
(硬化特性)
キュラストメーターを使用して硬化特性を測定した。具体的には、130℃で3分経過時のトルクを100とし、その10%のトルクに達する時間を測定した。
【0069】
(圧縮永久歪み)
JIS K6262に従って、圧縮永久歪みを測定した。具体的には、180℃で22時間、厚みの25%に相当する圧縮歪みを与えて、その30分後の厚みを測定し、式:圧縮永久歪み(%)={(t−t)/(t−t)}×100 (t:試験片の元の厚み、t:試験片を圧縮装置から取り出して30分後の試験片の厚さ、t:圧縮歪みを加えた状態での試験片の厚さ)によって圧縮永久歪みを得た。
【0070】
(接着性)
10gの前記シリカベース(ビニル基含有量0.064%)、3gの疎水性酸化鉄{100gのオルガノポリシロキサン(両末端ビニルポリマー;粘度10,000mPa・s、ビニル基含有量0.13%)及び40gのバイエル製パイフェロックス130M(酸化鉄)を混合・混練したもの(ビニル基含有量0.072%)}、50gの結晶性シリカ(クリスタライトVX−S2((株)龍森製、平均粒径5μm)、83gのオルガノポリシロキサン(側鎖ビニルポリマー;粘度7,000mPa・s、ビニル基含有量0.30%)、0.2gの白金触媒(白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液)、0.04gの硬化遅延剤(エチニルシクロヘキサノール)、及び、1.4gの両末端及び側鎖SiH硬化剤{MHD12DH3MH(但し、MH:Me2HSiO1/2、D:Me2SiO2/2、DH:MeHSiO2/2、Me:CH3);粘度10mPa・s、SiH含有量0.39%}をニーダーミキサーに投入して室温で30分攪拌して、被接着組成物1(SiH/Viモル比=0.6)を得た。
【0071】
次に、得られた被接着組成物1を120℃で15分間プレスキュアした後、200℃で4時間オーブン中でポストキュアーして、被接着組成物1の硬化体(円筒形)を2つ得た。密度は1.27g/cm、硬度は6(JISタイプA)であった。
【0072】
2つの前記円筒形硬化体の間に、実施例1〜8及び比較例1〜5の各組成物を塗布し、200℃で4時間加熱して、当該組成物を硬化させた。各組成物の硬化物を前記硬化体から剥離して、剥離面が凝集破壊を示す場合に○、剥離面が界面剥離を示す場合にXとした。
【0073】
【表1】

【0074】
オルガノポリシロキサン1:分子鎖両末端トリメチルシリル基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(粘度;40,000mPa・s、ビニル基含有量;0.12%)
結晶性シリカ:クリスタライトVX−S2((株)龍森製、平均粒径5μm)
酸化鉄:バイエル製バイフェロックス130M(平均粒径0.17μm)
フタロシアニン化合物:フタロシアニンブルー(東洋インキ(株)製Lionol Blue FC-7330)
白金触媒:白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液
硬化遅延剤:エチニルシクロヘキサノール
MD5DH5M:側鎖SiH硬化剤(粘度;5mPa・s、SiH含有量;0.74%)
MD7DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;10mPa・s、SiH含有量;0.33%)
MD15DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;15mPa・s、SiH含有量;0.21%)
MD27DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;25mPa・s、SiH含有量;0.13%)
但し、
M:Me3SiO1/2
MH:Me2HSiO1/2
D:Me2SiO2/2
DH:MeHSiO2/2
Me:CH3
【0075】
【表2】

【0076】
オルガノポリシロキサン1:分子鎖両末端トリメチルシリル基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(粘度;40,000mPa・s、ビニル基含有量;0.12%)
オルガノポリシロキサン2:分子鎖両末端トリメチルシリル基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(粘度;40,000mPa・s、ビニル基含有量;0.50%)
結晶性シリカ:クリスタライトVX−S2((株)龍森製、平均粒径5μm)
酸化鉄:バイエル製バイフェロックス130M(平均粒径0.17μm)
フタロシアニン化合物:フタロシアニンブルー(東洋インキ(株)製Lionol Blue FC-7330)
白金触媒:白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液
硬化遅延剤:エチニルシクロヘキサノール
MD5DH5M:側鎖SiH硬化剤(粘度;5mPa・s、SiH含有量;0.74%)
MD7DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;10mPa・s、SiH含有量;0.33%)
MD15DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;15mPa・s、SiH含有量;0.21%)
MD27DH3M:側鎖SiH硬化剤(粘度;25mPa・s、SiH含有量;0.13%)
但し、
M:Me3SiO1/2
MH:Me2HSiO1/2
D:Me2SiO2/2
DH:MeHSiO2/2
Me:CH3
【0077】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜8は熱エージングによる硬度変化が小さく、且つ、柔軟なシリコーンエラストマーを与える。また、他のシリコーンエラストマーに対して良好な接着性を発揮する。
【0078】
一方、比較例1及び2は、フタロシアニン化合物を欠くために、熱エージングによる硬度変化が大きい。また、熱エージング後の硬化物自体の硬度も高く、柔軟性に乏しい。更に、圧縮永久歪みが大きく、エラストマーとしての特性に劣る。
【0079】
また、比較例3及び4は、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が2.5未満であるために、他のシリコーンエラストマーへの接着性に劣る。そして、硬化特性も実施例1〜8に対して劣る。
【0080】
比較例5は、アルケニル基含有量が0.2質量%を超える側鎖ビニルポリマー(オルガノポリシロキサン2)を含むため、硬化物の硬度が高く、また、他のシリコーンエラストマーへの接着性に劣る。
【0081】
[各種のシリコーンエラストマーへの接着性評価]
実施例1〜8を代表して、実施例2のエラストマー組成物について、各種のシリコーンエラストマーへの接着性を更に評価した。まず、被接着組成物2〜4を以下のように調製した。
【0082】
(被接着組成物2)
60gの前記疎水性酸化鉄、250gのアルミナ粉末((株)昭和電工製、平均粒径2μm、加熱減量0.18wt%)、及び、64gのオルガノポリシロキサン(側鎖ビニルポリマー;粘度7,000mPa・s、ビニル基含有量0.30%)、をニーダーミキサーに投入して170℃で1時間攪拌後、室温に冷却した。その後、0.5gのテトラ(n−プロポキシシラン)、0.5gの白金触媒(白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液)、0.15gの硬化遅延剤(エチニルシクロヘキサノール)、0.6gの側鎖SiH硬化剤{MD5DH5M(但し、M:Me3SiO1/2、D:Me2SiO2/2、DH:MeHSiO2/2、Me:CH3);粘度5mPa・s、SiH含有量0.74%}、及び、2.9gの両末端SiH硬化剤{MHD14MH(但し、MH:Me2HSiO1/2、D:Me2SiO2/2、Me:CH3);粘度10mPa・s、SiH含有量0.14%}をニーダーミキサーに投入して室温で30分攪拌して、被接着組成物(SiH/Viモル比=1.0)を得た。
【0083】
(被接着組成物3)
28gの前記シリカベース(ビニル基含有量0.064%)、45gの結晶性シリカ(クリスタライトVX−S2((株)龍森製、平均粒径5μm)、16gのオルガノポリシロキサン(側鎖ビニルポリマー;粘度40,000mPa・s、ビニル基含有量0.50%)、64gのオルガノポリシロキサン(側鎖ビニルポリマー;粘度7,000mPa・s、ビニル基含有量0.30%)、0.25gの白金触媒(白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液)、0.06gの硬化遅延剤(エチニルシクロヘキサノール)、0.7gの側鎖SiH硬化剤{MD5DH5M(但し、M:Me3SiO1/2、D:Me2SiO2/2、DH:MeHSiO2/2、Me:CH3);粘度5mPa・s、SiH含有量0.74%}、及び、4.1gの両末端SiH硬化剤{MHD14MH(但し、MH:Me2HSiO1/2、D:Me2SiO2/2、Me:CH3);粘度10mPa・s、SiH含有量0.14%}をニーダーミキサーに投入して室温で30分攪拌して、被接着組成物3(SiH/Viモル比=1.0)を得た。
【0084】
(被接着組成物4)
120gの前記シリカベース(ビニル基含有量0.064%)、15gのオルガノポリシロキサン(両末端ビニルポリマー;粘度40,000mPa・s、ビニル基含有量0.09%)、0.1gの白金触媒(白金金属含有量5%イソプロピルアルコール溶液)、0.02gの硬化遅延剤(エチニルシクロヘキサノール)、0.7gの側鎖SiH硬化剤{MD5DH5M(但し、M:Me3SiO1/2、D:Me2SiO2/2、DH:MeHSiO2/2、Me:CH3);粘度5mPa・s、SiH含有量0.74%}をニーダーミキサーに投入して室温で30分攪拌して、被接着組成物4(SiH/Viモル比=1.5)を得た。
【0085】
(ケース1)
次に、得られた被接着組成物2〜4を120℃で15分間プレスキュアした後、200℃で4時間オーブン中でポストキュアーして、被接着組成物2〜4の硬化体(円筒形)を2つ得た。密度はそれぞれ2.25g/cm、1.23g/cm、及び、1.13g/cmであり、硬度はそれぞれ32、32、及び、36(JISタイプA)であった。2つの前記円筒形硬化体の間に、実施例2の組成物を塗布し、200℃で4時間加熱して、当該組成物を硬化させた。各組成物の硬化物を前記硬化体から剥離して、剥離面が凝集破壊を示す場合に○、剥離面が界面剥離を示す場合にXとした。結果を表3に示す。
【0086】
(ケース2)
次に、実施例2の組成物を120℃で15分間プレスキュアした後、200℃で4時間オーブン中でポストキュアーして、円筒形の硬化体を2つ得た。次に、2つの前記円筒形硬化体の間に、被接着組成物2〜4の各組成物を塗布し、200℃で4時間加熱して、当該組成物を硬化させた。密度はそれぞれ2.25g/cm、1.23g/cm、及び、1.13g/cmであり、硬度はそれぞれ32、32、及び、36(JISタイプA)であった。各組成物の硬化物を前記硬化体から剥離して、剥離面が凝集破壊を示す場合に○、剥離面が界面剥離を示す場合にXとした。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3から明らかなように、本発明のエラストマー組成物は他の様々なシリコーンエラストマーに対して良好な接着性を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(アルケニル基の含有量は0.2質量%未満)、
(B)1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン((A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が2.5〜10モルとなる量)、
(C)白金族金属系触媒((A)成分及び(B)成分の合計量に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01〜1000ppmとなる量)、および、
(D)フタロシアニン化合物((C)成分中の白金族金属1モルに対して5〜50モルとなる量)、
を含むシリコーンエラストマー組成物。
【請求項2】
更に(E)硬化遅延剤を含むことを特徴とする、請求項1記載のシリコーンエラストマー組成物。
【請求項3】
更に(F)シリカ微粉末を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーンエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンエラストマー組成物からなる接着剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンエラストマー組成物又は請求項4記載の接着剤を硬化して得られるシリコーンエラストマー。
【請求項6】
JIS K7312に規定されたタイプC硬さ試験機を用いて測定した硬さが5〜35であることを特徴とする、請求項5記載のシリコーンエラストマー。
【請求項7】
請求項5又は6記載のシリコーンエラストマーからなる接着層を介して基材及びシリコーンエラストマーが積層されたことを特徴とするシリコーンエラストマー積層体。
【請求項8】
請求項5又は6記載のシリコーンエラストマーからなる接着層を介して複数のシリコーンエラストマーが積層されたことを特徴とするシリコーンエラストマー積層体。
【請求項9】
工程1:請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンエラストマー組成物又は請求項4記載の接着剤をシリコーンエラストマー表面に塗布し、硬化させて接着層を形成する工程;及び
工程2:前記接着層の表面にシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマーを積層する工程
を備えるシリコーンエラストマー積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で得られるシリコーンエラストマー積層体。
【請求項11】
工程1:請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンエラストマー組成物又は請求項4記載の接着剤を硬化して接着層を形成する工程、
工程2:前記接着層の少なくとも一方の表面にシリコーンエラストマー組成物を塗布し、硬化させてシリコーンエラストマー積層体を製造する工程。
を備えるシリコーンエラストマー積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法で得られるシリコーンエラストマー積層体。
【請求項13】
請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンエラストマー組成物又は請求項4記載の接着剤を複数のシリコーンエラストマーの間で硬化させて接着層を形成する工程を備えるシリコーンエラストマー積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法で得られるシリコーンエラストマー積層体。

【公開番号】特開2011−132376(P2011−132376A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293392(P2009−293392)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】