説明

シリンジ包装用袋

【課題】滅菌済みのプレフィルド型シリンジを落としにくく、ガス滅菌性に優れるように設計されているシリンジ包装用袋を提供する。
【解決手段】透明な気密性樹脂フィルム104と、微生物バリア性を有する通気性樹脂フィルム106と、を備え、ピロー型のシリンジ包装用袋100の平面形状は略長方形状であり、略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に、ピロー型のシリンジ包装用袋100を開封するための開封開始部108が配置されており、通気性樹脂フィルム106は、シリンジ包装用袋100の表裏両面のうち任意の一面の平面形状において、略長方形状の長軸に沿うように帯状に配置されており、帯状の領域が、略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ略長方形の一対の長辺のうち開封開始部108に対向する側の一辺に近接して設けられている、シリンジ包装用袋100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ包装用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から医療業界で使われてきたアンプルやバイアルのように、使用の際に薬液を注射器に吸い上げる方式ではなく、あらかじめ薬液がシリンジの中に充填されたキット製剤をプレフィルド型シリンジという。プレフィルド型シリンジ製剤は、あらかじめ薬液が充填されているために医療事故のリスクを軽減するだけでなく、無菌性、安全性と作業性、そして経済性までをも兼ね備えている。しかしながら、プレフィルド型シリンジには、高度な製造技術が必要であり、さらに厳しい衛生管理の元で充填される必要がある。ここで、プレフィルド型シリンジ内に薬剤を充填する際のみならず、プレフィルド型シリンジを個別包装する際の衛生管理も同様に重要である。そのため、プレフィルド型シリンジを衛生的に個別包装するための技術について、様々な研究開発が行われている。
【0003】
例えば、包装容器に薬剤入り注射器を封入して成る注射剤パックであって、その包装容器は、透明性の樹脂によって細長の略器状に一体成形され且つ底面が開放された容器本体と、滅菌用ガスを透過可能なシート材から成り且つその容器本体の底面を封止する滅菌紙とから構成され、その容器本体は、薬剤入り注射器の注射筒の注射針取付部を収容する第1の膨出部と、薬剤入り注射器の略中央部を収容する第2の膨出部と、注射筒のフランジおよびピストンロッドの押し子を収容する第3の膨出部と、これらの膨出部を結合する2つのくびれ部とを備え、かつ、その第3の膨出部は、容器本体の長手側から側面視した場合、中央部が凹没した鞍部状に形成されているいわゆるブリスター型の包装容器が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、図3に示すように、透明な気密性の樹脂フィルム1と、通気性のある樹脂フィルム2を組み合わせ薬剤入り注射器3をピロー包装することにより、内容物の確認が容易で、且つ薬剤入り注射器を包装した後、ガス滅菌が可能で、嵩張らない包装が得られる旨記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−155948号公報
【特許文献2】特開2007−014610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0007】
第一に、特許文献1に記載のいわゆるブリスター型の注射剤パックは、一応、容器自体は透明性のある樹脂を利用しているものの、滅菌ガスの透過可能なシート剤が不透明であるため内容物の状態の視認性に劣ること、輸送時に嵩張ること等、必ずしも実用上満足できるものではなかった。
【0008】
第二に、特許文献2に記載のいわゆるピロー型の注射剤パックは、開封性の面でさらなる改善の余地があった。すなわち、この文献で用いられている通気性のある樹脂フィルム2が高密度ポリエチレン製不織布であり、この高密度ポリエチレン製不織布は一般的に切裂性に劣るため、高密度ポリエチレン製不織布の設けられている箇所とは逆の箇所から開封を行う必要がある。そして、透明な気密性の樹脂フィルム1がポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂であるため、開封のためにこの樹脂を切り裂こうとする際に力がこもって手元が狂い、包装されていた薬剤入り注射器3を床等に落としてしまい、せっかく滅菌した薬剤入り注射器3の滅菌性が失われてしまうと言う問題があった。
【0009】
また、この図3に記載のピロー型の注射剤パックでは、過酸化水素ガスなどでガス滅菌をした場合に、ピロー型の注射剤パック内部に過酸化水素水が凝集してしまい、ガス滅菌後にピロー型の注射剤パック内部の気体を空気に置換しても過酸化水素水が残存してしまうケースがあった。そして、過酸化水素が残存した場合、開封時に過酸化水素ガスを吸入する可能性があるなど、安全面で改善の余地があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、内容物の状態の視認性に優れ、輸送時に嵩張りにくく、力を入れなくても容易に開封できるとともに、開封の際に内容物である滅菌済みのプレフィルド型シリンジを落としにくい構造でありながら、ガス滅菌が可能であるように設計されているシリンジ包装用袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、プレフィルド型シリンジの包装のための内部滅菌可能なピロー型のシリンジ包装用袋であって、透明な気密性樹脂フィルムと、微生物バリア性を有する通気性樹脂フィルムと、を備えるシリンジ包装用袋が提供される。そして、このシリンジ包装用袋では、ピロー型のシリンジ包装用袋の平面形状は略長方形状であり、略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に、ピロー型のシリンジ包装用袋を開封するための開封開始部が配置されており、通気性樹脂フィルムは、包装用袋の表裏両面のうち任意の一面の平面形状において、略長方形状の長軸に沿うように帯状に配置されており、帯状の領域が、略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ略長方形の一対の長辺のうち開封開始部に対向する側の一辺に近接して設けられている。
【0012】
この構成によれば、シリンジ包装用袋の表裏両面のうち一方の面には透明な気密性樹脂フィルムが配置されているため、内容物の状態の視認性に優れている。また、平面形状が略長方形状のピロー型のシリンジ包装用袋であるため、輸送時に嵩張りにくい。さらに、略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に、ピロー型のシリンジ包装用袋を開封するための開封開始部が配置されているため、力を入れなくても容易に開封できる。そして、一般的に切裂困難な材質からなる通気性樹脂フィルムが配置されている帯状の領域が、略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ略長方形の一対の長辺のうち開封開始部に対向する側の一辺に近接して設けられているため、このシリンジ包装用袋を開封しても帯状の領域で切り裂きがストップすることとなり、開封の際に内容物である滅菌済みのプレフィルド型シリンジがその帯状の領域の付近でシリンジ包装用袋に引っかかって落としにくい。また、シリンジ包装用袋の内外の気体が通気性樹脂フィルムを介して連通できるので、外部から過酸化水素などの殺菌性ガスを導入することによって、シリンジ包装用袋の内部に包装されているプレフィルド型シリンジの外部を滅菌することができる。そのため、このシリンジ包装用袋によれば、優れた視認性・輸送性・開封性を実現しながら、包装されたプレフィルド型シリンジの外部のガス滅菌も可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明な気密性樹脂フィルムおよび微生物バリア性を有する通気性樹脂フィルムを開封開始部に対して上手く配置しているため、内容物の状態の視認性に優れ、輸送時に嵩張りにくく、力を入れなくても容易に開封できるとともに、開封の際に内容物である滅菌済みのプレフィルド型シリンジを落としにくい構造でありながら、ガス滅菌が可能であるように設計されているシリンジ包装用袋が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
<シリンジ包装用袋>
図1は、実施の形態に係るシリンジ包装用袋を説明するための平面図である。
本実施形態に係るシリンジ包装用袋100は、プレフィルド型シリンジ102の包装のための内部滅菌可能なピロー型のシリンジ包装用袋100であり、図1に示すように、透明な気密性樹脂フィルム104と、微生物バリア性を有する通気性樹脂フィルム106とを備えている。そして、このピロー型のシリンジ包装用袋100の平面形状は略長方形状であり、その略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に、ピロー型のシリンジ包装用袋100を開封するための開封開始部108が配置されている。また、通気性樹脂フィルム106は、シリンジ包装用袋100の表裏両面のうち任意の一面の平面形状において、略長方形状の長軸に沿うように帯状に配置されており、この帯状の領域が、略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ略長方形の一対の長辺のうち開封開始部108に対向する側の一辺に近接して設けられている。
【0016】
本実施形態に係るシリンジ包装用袋100は、このようにシリンジ包装用袋100の表裏両面のうち一方の面には透明な気密性樹脂フィルム104が配置されているため、内容物の状態の視認性に優れている。また、平面形状が略長方形状のピロー型のシリンジ包装用袋100であるため、輸送時に嵩張りにくい。さらに、略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に、ピロー型のシリンジ包装用袋100を開封するための開封開始部108が配置されているため、力を入れなくても容易に開封できる。そして、一般的に切裂困難な材質からなる通気性樹脂フィルム106が配置されている帯状の領域が、略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ略長方形の一対の長辺のうち開封開始部108に対向する側の一辺に近接して設けられているため、このシリンジ包装用袋100を開封しても帯状の領域で切り裂きがストップすることとなり、開封の際に内容物である滅菌済みのプレフィルド型シリンジ102がその帯状の領域の付近でシリンジ包装用袋100に引っかかって落としにくい。また、シリンジ包装用袋100の内外の気体が通気性樹脂フィルム106を介して連通できるので、外部から過酸化水素ガスを導入することによって、シリンジ包装用袋100の内部に包装されているプレフィルド型シリンジ102の外部を滅菌することができる。そのため、このシリンジ包装用袋100によれば、優れた視認性・輸送性・開封性を実現しながら、包装されたプレフィルド型シリンジ102の外部のガス滅菌も可能である。
【0017】
ここで、シリンジ包装用袋100の表裏両面のうち一面の平面形状において、帯状の領域は、略長方形の面積の1/3以下の面積を占めるように配置されていることが好ましい。すなわち、シリンジ包装用袋100の内外の気体を連通する通気性樹脂フィルム106がシリンジ包装用袋100の表裏両面の面積のうち占める割合は1/6以下となることが好ましい。また、この帯状の領域は、略長方形の面積の1/4以下の面積を占めるように配置されていることがより好ましく、1/5以下の面積を占めるように配置されていることがさらに好ましい。この帯状の領域の面積が狭くなればなるほど、透明フィルム部分を多く取り、開封時に有効部分が多くなるような形態にすることもできる。さらに、印刷部分も裏面に多くとれ、透明部が多い事から内容物を確認可となるメリットもある。
【0018】
一方、シリンジ包装用袋100の表裏両面のうち一面の平面形状において、帯状の領域は、略長方形の面積の1/10以上の面積を占めるように配置されていることが好ましい。また、この帯状の領域は、略長方形の面積の1/9以上の面積を占めるように配置されていることがより好ましく、1/8以上の面積を占めるように配置されていることがさらに好ましい。この帯状の領域の面積が広くなればなるほど、過酸化水素ガスなどを用いた滅菌の際、シリンジ包装用袋100の内部には比較的素早く滅菌ガスが進入していくことになるため、ガス滅菌(過酸化水素滅菌)を生産性よく、迅速に実施することができる。
【0019】
また、シリンジ包装用袋100の表裏両面のうち一面の平面形状において、帯状の領域は、開封開始部108に対向する側の一辺から0mm超かつ10mm以下の距離だけ離れて配置されていることが好ましい。また、この帯状の領域は、開封開始部108に対向する側の一辺から1mm以上の距離だけ離れて配置されていることがより好ましく、2mm以上の距離だけ離れて配置されていることがさらに好ましい。この距離が大きくなればなるほど、通常の包装装置を用いた場合にもいわゆる“遊び”の領域を確保できるため、密封性および生産性よく、迅速にプレフィルド型シリンジ102を包装することができる。
【0020】
一方、この帯状の領域は、開封開始部108に対向する側の一辺から8mm以下の距離だけ離れて配置されていることがより好ましく、5mm以下の距離だけ離れて配置されていることがさらに好ましい。この距離が小さくなればなるほど、シリンジ包装用袋100の片方の略長方形の面において、中央部分に透明性に優れた領域を確保できるため、シリンジ包装用袋100の内部を肉眼によって確認することが容易になる。さらに、この距離が小さくなればなるほど、シリンジ包装用袋100の片方の略長方形の面において、開封開始部108が配置されている側に切裂容易な領域を大きく確保できるため、シリンジ包装用袋100の開封が容易になる。
【0021】
よって、具体的には、通気性樹脂フィルム106として、タイベック(登録商標、高密度ポリエチレン製)を用いる場合には、通気性樹脂フィルム106のシール幅;5±1mm、通気幅;4±1mmとして、開封開始部108に対向する側の一辺から2mm〜5mm離れた位置に設けることが好ましい。この範囲内であれば、通常の包装装置を用いた場合にもいわゆる“遊び”の領域を確保できるため、密封性および生産性よく、迅速にプレフィルド型シリンジ102を包装することができる。また、この範囲内であれば、シリンジ包装用袋100の片方の略長方形の面において、中央部分に透明性に優れた領域を確保できるため、シリンジ包装用袋100の内部を肉眼によって確認することが容易になる。さらに、この範囲内であれば、この距離が小さくなればなるほど、シリンジ包装用袋100の片方の略長方形の面において、開封開始部108が配置されている側に切裂容易な領域を大きく確保できるため、シリンジ包装用袋100の開封が容易になる。そして、この範囲内であれば、十分な面積のタイベック(登録商標、高密度ポリエチレン製)からなる通気性樹脂フィルム106によって、シリンジ包装用袋100の内外の気体を連通可能な領域を確保できるため、シリンジ包装用袋100によって包装されたプレフィルド型シリンジ102外部のガス滅菌性が良好になる。
【0022】
<通気性樹脂フィルム>
本実施形態で用いる通気性樹脂フィルム106は、特に限定されず、ある程度の強靱さおよび気密性を有する樹脂フィルムであり、過酸化水素ガスなどによるガス滅菌に対する耐性を有していれば任意の樹脂フィルムを用いることができるが、例えば、微生物バリア性および通気性が優れているタイベック(登録商標)を用いることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、通気性樹脂フィルム106は、シリンジ包装用袋100の内外の気体を連通可能に設けられており、シリンジ包装用袋100によるプレフィルド型シリンジ102の包装後に外部から導入した過酸化水素ガスによって、シリンジ包装用袋100の内部およびプレフィルド型シリンジ102の外部を滅菌可能である。このような、通気性樹脂フィルム106としては、良好な通気性および微生物バリア性を有するタイベック(登録商標)を用いることが好ましい。このような良好な通気性および微生物バリア性を有するタイベック(登録商標)の位置や面積を上述のように規定すれば、シリンジ包装用袋100の優れた視認性・輸送性・開封性を実現しながら、包装されたプレフィルド型シリンジ102の外部のガス滅菌も好適に維持できる。
【0024】
また、このように通気性樹脂フィルム106がシリンジ包装用袋100の片方の面における所定の位置に配置されているために、通常の包装装置を用いた場合にもいわゆる“遊び”の領域を確保でき、密封性および生産性よく、迅速にプレフィルド型シリンジ102を包装することができる。また、このように通気性樹脂フィルム106の占める面積が比較的少なく、しかもシリンジ包装用袋100の片方の面における所定の位置に配置されているために、シリンジ包装用袋100の片方の略長方形の面において、中央部分に透明性に優れた領域を確保できるため、シリンジ包装用袋100の内部を肉眼によって確認することが容易になる。さらに、このように通気性樹脂フィルム106の占める面積が比較的少なく、しかもシリンジ包装用袋100の片方の面における所定の位置に配置されているので、開封開始部108が配置されている側に切裂容易な領域を大きく確保でき、シリンジ包装用袋100の開封が容易になる。そして、このように通気性樹脂フィルム106の占める面積が比較的少ないとはいえ、ある程度の面積のタイベック(登録商標、高密度ポリエチレン製)からなる通気性樹脂フィルム106によって、シリンジ包装用袋100の内外の気体を連通可能な領域を確保できるため、シリンジ包装用袋100によって包装されたプレフィルド型シリンジ102外部のガス滅菌が可能である。
【0025】
また、通気性樹脂フィルム106は、気密性樹脂フィルム104よりも切裂困難な材質からなることが好ましい。例えば、タイベック(登録商標)部分は切り裂きがし難いため、通気性樹脂フィルム106として好適に使用しうる。このようにすれば、気密性樹脂フィルム104を切り裂いても通気性樹脂フィルム106の帯状領域で切り裂きが止まってしまうため、開封時に中のプレフィルド型シリンジ102の落下を防止させることができる。なお、この際、開封時に中のプレフィルド型シリンジ102の落下を防止する効果を高めるために、密性樹脂フィルム104または通気性樹脂フィルム106に、落下の防止を促すための注意書きが記されていてもよい。
【0026】
<気密性樹脂フィルム>
図2は、実施の形態に係るシリンジ包装用袋の気密性樹脂フィルムを説明するための断面図である。図2に示すように、本実施形態で用いる気密性樹脂フィルム104は、特に限定されず、ある程度の強靱さおよび気密性を有する樹脂フィルムであり、過酸化水素ガスなどによるガス滅菌に対する耐性を有していれば任意の樹脂フィルムを用いることができるが、例えば、一方向に切裂容易な横一軸延伸樹脂フィルム114を含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルムであることが好ましい。横一軸延伸樹脂フィルム114は、一方向に切裂容易な性質を有するため、横一軸延伸樹脂フィルム114を含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルム自体も一方向に切裂容易な性質を有することになる。その結果、開封開始部108から切り裂き始めるシリンジ包装用袋100の開封も同様に一方向に切裂容易になるからである。
【0027】
その際、横一軸延伸樹脂フィルム114は、切裂容易な一方向がピロー型のシリンジ包装用袋100の略長方形の平面形状の長軸方向に略直交するように配置されていることが好ましい。このような配置を採用すれば、開封開始部108からシリンジ包装用袋100の開封をはじめた場合に、開封開始部108からまっすぐに横一軸延伸樹脂フィルム114が切り裂かれ、その切り裂きに沿って横一軸延伸樹脂フィルム114を含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルム自体も一方向にまっすぐに切り裂かれる。そのためこのシリンジ包装用袋100の開封者は、大きな力をかけることなく容易にピロー型のシリンジ包装用袋100の略長方形の平面形状の長軸方向に略直交する方向にシリンジ包装用袋100を切り裂くことができる。
【0028】
この気密性樹脂フィルム104は、より具体的には、図2に示すように、ポリエチレン樹脂フィルム110、ポリエチレン樹脂フィルム110よりも外側に設けられている横一軸延伸樹脂フィルム114、および横一軸延伸樹脂フィルム114よりも外側に設けられているポリエチレンテレフタレートフィルム118を内側から順に積層してなる積層フィルムであることが好ましい。この際、ポリエチレン樹脂フィルム110および横一軸延伸樹脂フィルム114は、例えばポリエチレン系接着剤112によってドライラミネートすることができる。また、横一軸延伸樹脂フィルム114およびポリエチレンテレフタレートフィルム118は、ポリスチレン系接着剤116によってドライラミネートすることができる。ここで、この気密性樹脂フィルム104は、横一軸延伸樹脂フィルム114として、横一軸延伸ポリエチレンを用いることが特に好ましく、とりわけ一方向にまっすぐに切り裂かれる特性から、電気化学工業株式会社製のカラリヤンY(登録商標)を用いることが好ましい。このようにカラリヤンY(登録商標)を使用した多層フィルムであれば、少ない力によって容易に横一方向に正確に切り裂くことが可能になる。
【0029】
このような構成を採用することによって、中間層として横一軸延伸フィルム114を使用することで切り裂きの方向性を出し、開封時に中のプレフィルド型シリンジ102の落下を防止させることが可能になる。また、裏層としてポリエチレン樹脂フィルム110を用いることによって、気密性樹脂フィルム104をシールする際の熱溶着性を向上することができる。さらに、表層としてポリエチレンテレフタレートフィルム118を用いることによって、気密性樹脂フィルム104にガスバリア性を持たせ、印刷性を比較的良好にすることができる。すなわち、このような3層構造にすることによって、裏層、中間層、表層にそれぞれ異なる特性を付与して、気密性樹脂フィルム104全体としてこれらの3つの特性をバランスよく兼ね備えた性質を付与することが可能になる。
【0030】
<開封開始部>
ここで、開封開始部108は、略長方形の一の長辺の略全長にわたって気密性樹脂フィルム104を貫通しないように設けられている切込加工であることが好ましい。このように、袋の開け口付近において気密性樹脂フィルム104の表層(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム118層)に断続的な切れ込みを付ける加工(PAL加工)を行うことによって、容易に開封開始部108をつくることができる。しかも、このPAL加工は気密性樹脂フィルム104を貫通しないように設けられているため、気密性樹脂フィルム104の密封性を損なうことがない。
【0031】
このとき、後述するように、通気性樹脂フィルム106を、横一軸延伸樹脂フィルム114を含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルムとすれば、このPAL加工が気密性樹脂フィルム104を貫通しない状態であっても、少ない力で気密性樹脂フィルム104はまっすぐに一方向に切り裂けるため好ましい。また、通気性樹脂フィルム106を、横一軸延伸樹脂フィルム114を含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルムとすれば、このPAL加工が気密性樹脂フィルム104同士を貼り合わせたのりしろ(封止部)を水平方向に貫通する必要もなくなる。なぜなら、ほんのわずかに気密性樹脂フィルム104同士を貼り合わせたのりしろ(封止部)を切り裂くことができれば、その後は少ない力で気密性樹脂フィルム104はまっすぐに一方向に切り裂けるためである。このように、PAL加工が気密性樹脂フィルム104同士を貼り合わせたのりしろ(封止部)を水平方向にも貫通しないように設ければ、さらに一層気密性樹脂フィルム104の密封性を損なうことがないため好ましい。
【0032】
なお、このシリンジ包装用袋100は三方シール袋であり、略長方形の一対の長辺のうち開封開始部108に対向する側の一辺において折り曲げられてなる構造を有することが好ましい。このように、三方シール袋とすることで、シリンジ包装用袋100を低コストかつ製造容易で汎用性の高い構造とすることができる。すなわち、このような構造とすれば、一般的な三方シール包装機を用いて簡便にシリンジ包装用袋100中にプレフィルド型シリンジ102を包装することが可能である。
【0033】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0034】
例えば、上記実施の形態では気密性樹脂フィルム104を、図2に示すように、ポリエチレン樹脂フィルム110、ポリエチレン樹脂フィルム110よりも外側に設けられている横一軸延伸樹脂フィルム114、および横一軸延伸樹脂フィルム114よりも外側に設けられているポリエチレンテレフタレートフィルム118を内側から順に積層してなる3層構造の積層フィルムとしたが、特に限定する趣旨ではない。例えば、4層構造または5層構造からなる積層フィルムとしてもよい。この場合でも、中間層として横一軸延伸樹脂フィルム114(例えば電気化学工業株式会社製のカラリヤンY(登録商標))を用いれば、3層構造の場合と基本的には同様の利点が得られる。
【0035】
また、上記実施の形態では開封開始部108を、略長方形の一の長辺の略全長にわたって気密性樹脂フィルム104を貫通しないように設けられている切込加工であるとしたが、特に限定する趣旨ではない。例えば、気密性樹脂フィルム104を貫通しないように気密性樹脂フィルム104の表層に断続的な切れ込みを付ける加工(PAL加工)を行う代わりに、気密性樹脂フィルム104を貫通して三角形または直線の切れ込みを入れるノッチ加工を行ってもよい。この場合には、より少ない力で切り裂きの方向性の誘導性を高めた切り裂きを形成できるメリットがある。ただし、ノッチ加工の場合には、気密性樹脂フィルム104を貫通するため、シリンジ包装用袋100の密封性を損なわないためには、開封開始部108が配置されている長辺に設けられているシール領域全体を横切らないように、切れ込みの長さを小さくすることが好ましい。また、PAL加工およびノッチ加工の両方の加工を行ってもよい。例えば、片側側面全体にPAL加工を入れつつ、一カ所にノッチ加工を入れれば、PAL加工されている場所であればどこでも開封可能だが、ノッチ加工部から開封すればより開封しやすい形態とすることができる。
【0036】
また、このようなPAL加工またはノッチ加工のいずれでも、そのような切れ込みは略長方形の一の長辺の略全長にわたって形成されている必要はなく、一部または一箇所または数カ所だけ形成されていてもよい。この場合には、開封開始部108を開封者が自己の都合に応じて選択できる余地が狭まるが、それ以外の利点は特に失われることはないためである。また、一部または一箇所または数カ所だけ切れ込みが設けられている場合には、シリンジ包装用袋100の機械的強度自体は向上することが多いためむしろ好ましいとも考え得る。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
実施例1として、図1および図2に示した構造からなるシリンジ包装用袋100を製造した。シリンジ包装用袋100の平面上の形状としては、折り曲げ前で縦370mm×横300mmの気密性樹脂フィルム104を途中で折り曲げて表裏貼り合わせた長方形状とした。この気密性樹脂フィルム104の断面形状は、外側から順にポリエチレンテレフタレート12μm厚/ドライラミネート(ポリスチレン系接着剤)2μm厚/横一軸延伸ポリエチレン(カラリヤンY2(登録商標)18μm厚)/ドライラミネート(ポリエチレン系接着剤)2μm厚/リニアローデンシティーポリエチレン40μmとした。その長方形状の片面の大きさは縦370mm×横150mmのフィルムとなった。そして、通気性樹脂フィルム106としては、タイベック155μm厚を用い、そのサイズとしては幅28mm/シール部;5±1mm×2、通気部;18±1mmとし、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離をとって配置した。このとき、タイベックからなる帯状領域は、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離に配置されることになり、縦370mm×横150mmの長方形状の長軸方向の中心軸を含まず、長方形状の一対の長辺のうち開封開始部108の反対側の長辺に近接して配置されることになった。なお、開封開始部108としては、長方形状の一つの長辺の略全長にわたってシール部の一部に密封性を損なわないようにノッチ加工を形成した。
【0039】
<実施例2>
実施例2として、図1および図2に示した構造からなるシリンジ包装用袋100を製造した。シリンジ包装用袋100の平面上の形状としては、折り曲げ前で縦185mm×横150mmの気密性樹脂フィルム104を途中で折り曲げて表裏貼り合わせた長方形状とした。この気密性樹脂フィルム104の断面形状は、外側から順にポリエチレンテレフタレート6μm厚/ドライラミネート(ポリスチレン系接着剤)2μm厚/横一軸延伸ポリエチレン(カラリヤンY2(登録商標)18μm厚)/ドライラミネート(ポリエチレン系接着剤)2μm厚/リニアローデンシティーポリエチレン40μmとした。その長方形状の片面の大きさは縦185mm×横75mmのフィルムとなった。そして、通気性樹脂フィルム106としては、タイベック155μm厚を用い、そのサイズとしては幅14mm/シール部;5±1mm×2、通気部;4±1mmとし、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離をとって配置した。このとき、タイベックからなる帯状領域は、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離に配置されることになり、縦185mm×横75mmの長方形状の長軸方向の中心軸を含まず、長方形状の一対の長辺のうち開封開始部108の反対側の長辺に近接して配置されることになった。なお、開封開始部108としては、長方形状の一つの長辺の略全長にわたってシール部の一部にPAL加工を形成した。
【0040】
<実施例3>
実施例3として、図1および図2に示した構造からなるシリンジ包装用袋100を製造した。シリンジ包装用袋100の平面上の形状としては、折り曲げ前で縦185mm×横150mmの気密性樹脂フィルム104を途中で折り曲げて表裏貼り合わせた長方形状とした。この気密性樹脂フィルム104の断面形状は、外側から順にポリエチレンテレフタレート12μm厚/ドライラミネート(ポリスチレン系接着剤)2μm厚/横一軸延伸ポリエチレン(カラリヤンY2(登録商標)18μm厚)/ドライラミネート(ポリエチレン系接着剤)2μm厚/リニアローデンシティーポリエチレン30μmとした。その長方形状の片面の大きさは縦185mm×横75mmのフィルムとなった。そして、通気性樹脂フィルム106としては、タイベック155μm厚を用い、そのサイズとしては幅14mm/シール部;5±1mm×2、通気部;4±1mmとし、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離をとって配置した。このとき、タイベックからなる帯状領域は、開封開始部108の反対側の長辺から3mmの距離に配置されることになり、縦185mm×横75mmの長方形状の長軸方向の中心軸を含まず、長方形状の一対の長辺のうち開封開始部108の反対側の長辺に近接して配置されることになった。なお、開封開始部108としては、長方形状の一つの長辺の略全長にわたってシール部の一部にPAL加工を形成し、さらにPAL加工が施されている長辺の一カ所にノッチ加工を形成した。
【0041】
<比較例1>
実施例1と基本的には同様の構造であるが、図3に示すように、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルムが形成する片面の長辺から60mmの距離をとって真ん中にくるように設けた。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0042】
<比較例2>
実施例1と基本的には同様の構造であるが、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルム104が形成する片面の長辺から3mmの距離に設け、タイベックの幅を実施例1の2倍(56mm)にした。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0043】
<比較例3>
実施例2と基本的には同様の構造であるが、図3に示すように、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルムが形成する片面の長辺から30mmの距離をとって真ん中にくるように設けた。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0044】
<比較例4>
実施例2と基本的には同様の構造であるが、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルム104が形成する片面の長辺から3mmの距離に設け、タイベックの幅を実施例1の2倍(28mm)にした。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0045】
<比較例5>
実施例3と基本的には同様の構造であるが、図3に示すように、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルムが形成する片面の長辺から30mmの距離をとって真ん中にくるように設けた。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0046】
<比較例6>
実施例3と基本的には同様の構造であるが、通気性樹脂フィルム106としては、タイベックを気密性樹脂フィルム104が形成する片面の長辺から3mmの距離に設け、タイベックの幅を実施例1の2倍(28mm)にした。このとき、気密性樹脂フィルム104には横一軸延伸ポリエチレンを積層せず、単なるポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンの一種以上を積層した樹脂を用いた。
【0047】
<滅菌結果1>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジを格納して、シリンジ包装用袋の開口部を密封した後に、(i)60℃×15分、湿度2.5RH%以下の条件でコンディショニングを行い、(ii)H濃度4000ppm以上、滅菌時間0.9〜1.2時間の条件で過酸化水素ガスによる滅菌を行い、(iii)滅菌後にシリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスを、常温、エア量300〜400mの条件でエア置換した。その後、チオシアン酸アンモニウムを用いた滴定法で、シリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいても過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存は無いことが確認された。また、過酸化水素滅菌確認用のバイオロジカルインジケーターを用いた評価、および10個の芽胞菌(G. stearothermophilus)を直接塗布してチャレンジ試験を実施して、シリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面の滅菌具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいてもシリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面に微生物が生着していないことが確認された。また、常圧条件で滅菌を行ったため、滅菌前に比べてガスケットの位置がずれることはなく、プレフィルド型シリンジ102の品質安定性の面でのリスクを回避することができた。
【0048】
<滅菌結果2>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジを格納して、シリンジ包装用袋の開口部を密封した後に、(i)40℃×30分、湿度5RH%以下の条件でコンディショニングを行い、(ii)H濃度2000ppm以上、滅菌時間1.75〜2.5時間の条件で過酸化水素ガスによる滅菌を行い、(iii)滅菌後にシリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスを、常温、エア量200〜300mの条件でエア置換した。その後、チオシアン酸アンモニウムを用いた滴定法で、シリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいても過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存は無いことが確認された。また、過酸化水素滅菌確認用のバイオロジカルインジケーターを用いた評価、および10個の芽胞菌(G. stearothermophilus)を直接塗布してチャレンジ試験を実施して、シリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面の滅菌具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいてもシリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面に微生物が生着していないことが確認された。また、常圧条件で滅菌を行ったため、滅菌前に比べてガスケットの位置がずれることはなく、プレフィルド型シリンジ102の品質安定性の面でのリスクを回避することができた。
【0049】
<滅菌結果3>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジを格納して、シリンジ包装用袋の開口部を密封した後に、(i)30℃×45分、湿度7.5RH%以下の条件でコンディショニングを行い、(ii)H濃度1000ppm以上、滅菌時間3.5〜5.0時間の条件で過酸化水素ガスによる滅菌を行い、(iii)滅菌後にシリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスを、常温、エア量100〜200mの条件でエア置換した。その後、チオシアン酸アンモニウムを用いた滴定法で、シリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいても過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存は無いことが確認された。また、過酸化水素滅菌確認用のバイオロジカルインジケーターを用いた評価、および10個の芽胞菌(G. stearothermophilus)を直接塗布してチャレンジ試験を実施して、シリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面の滅菌具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいてもシリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面に微生物が生着していないことが確認された。また、常圧条件で滅菌を行ったため、滅菌前に比べてガスケットの位置がずれることはなく、プレフィルド型シリンジ102の品質安定性の面でのリスクを回避することができた。
【0050】
<滅菌結果4>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジを格納して、シリンジ包装用袋の開口部を密封した後に、(i)コンディショニングを行わず(すなわち、温度および湿度を調整せず)、(ii)70kPaまで減圧して過酸化水素ガスを含むエアーで常圧に戻す作業を25回繰り返す減圧条件・復圧条件、最大H濃度2000ppm、滅菌時間2.25時間の条件で過酸化水素ガスによる滅菌を行い、(iii)滅菌後のエア置換を特に行わなかった。その後、チオシアン酸アンモニウムを用いた滴定法で、シリンジ包装用袋内の過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいても過酸化水素ガスおよび過酸化水素溶液の残存は無いことが確認された。また、酸化水素滅菌確認用のバイオロジカルインジケーターを用いた評価、および10個の芽胞菌(G. stearothermophilus)を直接塗布してチャレンジ試験を実施して、シリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面の滅菌具合を評価した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜6のいずれにおいてもシリンジ包装用袋内面およびプレフィルド型シリンジ外面に微生物が生着していないことが確認された。しかしながら、減圧条件で滅菌を行ったため、滅菌前に比べてガスケットの位置が若干ずれており、プレフィルド型シリンジ102の品質安定性の面で若干の不安が残った。
【0051】
<開封結果>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋100内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジ102を格納して、電気化学工業株式会社内の研究者からなるパネリスト20名を集めて、プレフィルド型シリンジ102を取り出してもらう試験を行った。その結果、実施例1〜3のシリンジ包装用袋100では、切り裂き面がまっすぐに走ってタイベックの帯状領域にぶつかってとまった結果、開封の際に誰一人プレフィルド型シリンジ102を床に落下させなかったが、比較例1〜6のシリンジ包装用袋100では、切り裂き面が斜めに走ったり、途中で曲がったりした結果、数回ではあるがプレフィルド型シリンジ102を床に落下させるケースが発生した。また、真ん中にタイベックの帯状領域を配置した比較例1、3、5では、十分に広い切裂部(開封部)が得られないため、シリンジ包装用袋100内に指を突っ込んでプレフィルド型シリンジ102を引っ張り出さざるを得ないため、プレフィルド型シリンジ102を取り出すのが難しいという問題があった。
【0052】
<視認結果1>
上記の開封結果の評価前に、電気化学工業株式会社内の研究者からなるパネリスト20名に、実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋100内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジ102を格納したサンプルについて、実施例1〜3および比較例1〜6をそれぞれ10サンプルずつ、シリンジ包装用袋100内のプレフィルド型シリンジ102の確認のしやすさについて以下の5段階で評価をさせた。
5:大変見やすい
4:かなり見やすい
3:普通(透明性の樹脂によって一体成形されたブリスター包装品を、5段階評価の「3:普通」の基準として用いた)
2:かなり見にくい
1:非常に見にくい
その結果、実施例1〜3および比較例1〜6について、それぞれの評価結果の平均値は、以下の表1の通りになった。
【0053】
【表1】

【0054】
<視認結果2>
実施例1〜3および比較例1〜6のシリンジ包装用袋100内に1%ヒアルロン酸溶液を薬剤として注入したプレフィルド型シリンジ102を格納して、電気化学工業株式会社内の品質検査担当者からなるパネリスト5名を集めて、プレフィルド型シリンジ102を100本/1分〜50本/1分の速度で製造ライン上を移動させ、シリンジ包装用袋100内に異物が混入していないかどうかの品質検査を行う試験を行った。その結果、実施例1〜3のシリンジ包装用袋100では、以下の表2のとおり100本/1分の速度で移動させても問題なく品質検査ができたが、比較例1〜6のシリンジ包装用袋100では、以下の表2のとおり20〜50本/1分の速度で移動させなければ十分な品質検査ができなかった。そのため、実施例1〜3のシリンジ包装用袋100では、比較例1〜6のシリンジ包装用袋100に比べて、検査効率が向上することが明らかになった。
【0055】
【表2】

【0056】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0057】
たとえば、上記実施例では、ガス滅菌の際に過酸化水素ガスを用いたが、特に限定する趣旨ではない。例えば、過酸化水素ガスの代わりにエチレンオキサイドガスを用いて滅菌してもよい。この場合も、上記実施例1のシリンジ包装用袋を用いる限り、同様に優れた滅菌性および滅菌ガスの残存の抑制効果が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態に係るシリンジ包装用袋を説明するための平面図である。
【図2】実施の形態に係るシリンジ包装用袋の気密性樹脂フィルムを説明するための断面図である。
【図3】従来のピロー型の注射剤パックを説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 透明な気密性の樹脂フィルム
2 通気性のある樹脂フィルム
3 薬剤入り注射器
100 シリンジ包装用袋
102 プレフィルド型シリンジ
104 気密性樹脂フィルム
106 通気性樹脂フィルム
108 開封開始部
110 ポリエチレン樹脂フィルム
112 ポリエチレン系接着剤
114 横一軸延伸樹脂フィルム
116 ポリスチレン系接着剤
118 ポリエチレンテレフタレートフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な気密性樹脂フィルムと、
微生物バリア性を有する通気性樹脂フィルムと、
を備え、
平面形状が略長方形状のピロー型であり、
前記略長方形状の一対の長辺のうち任意の一辺に開封のための開封開始部が配置されており、
前記通気性樹脂フィルムは、前記略長方形状の表裏両面のうち任意の一面において、前記略長方形状の長軸に沿うように帯状に配置されており、
前記帯状の領域が、前記略長方形の長軸方向の中心軸を含まず、かつ前記略長方形の一対の長辺のうち前記開封開始部に対向する側の一辺に近接して設けられている、
プレフィルド型シリンジの包装のための内部滅菌可能なピロー型のシリンジ包装用袋。
【請求項2】
前記シリンジ包装用袋は、三方シール袋であり、前記略長方形の一対の長辺のうち前記開封開始部に対向する側の一辺において折り曲げられてなる構造を有する、請求項1記載のシリンジ包装用袋。
【請求項3】
前記シリンジ包装用袋の表裏両面のうち一面の平面形状において、前記帯状の領域は、前記略長方形の面積の1/3以下の面積を占める、請求項1または2記載のシリンジ包装用袋。
【請求項4】
前記通気性樹脂フィルムは、前記気密性樹脂フィルムよりも切裂困難な材質からなる、請求項1乃至3いずれかに記載のシリンジ包装用袋。
【請求項5】
前記気密性樹脂フィルムは、一方向に切裂容易な横一軸延伸樹脂フィルムを含む複数の樹脂フィルムが積層してなる積層フィルムであり、前記横一軸延伸樹脂フィルムは、前記切裂容易な一方向が前記ピロー型のシリンジ包装用袋の略長方形の平面形状の長軸方向に略直交するように配置されている、請求項4記載のシリンジ包装用袋。
【請求項6】
前記気密性樹脂フィルムは、ポリエチレン樹脂フィルム、前記ポリエチレン樹脂フィルムよりも外側に設けられている前記横一軸延伸樹脂フィルム、および前記横一軸延伸樹脂フィルムよりも外側に設けられているポリエチレンテレフタレートフィルムを内側から順に積層してなる積層フィルムである、請求項5記載のシリンジ包装用袋。
【請求項7】
前記開封開始部は、前記略長方形の一の長辺の略全長にわたって前記気密性樹脂フィルムを貫通しないように設けられている切込加工である、請求項1乃至6いずれかに記載のシリンジ包装用袋。
【請求項8】
前記通気性樹脂フィルムは、前記シリンジ包装用袋の内外の気体を連通可能に設けられており、前記シリンジ包装用袋によるプレフィルド型シリンジの包装後に外部から導入した過酸化水素ガスによって、前記シリンジ包装用袋の内部および前記プレフィルド型シリンジの外部を滅菌可能に構成されている、請求項1乃至7いずれかに記載のシリンジ包装用袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−136981(P2010−136981A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318019(P2008−318019)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】