説明

シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造

【課題】シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間のシール面に隙間が生じることを防止し、均一にシールできるようにする。
【解決手段】シリンダヘッド132Aとヘッドカバー133Aとの間の締結面79に介設されたガスケット82を備え、ボルト85の締め付け力によりガスケット82がシリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に押し付けられると共に、ガスケット82に設けた突部82Bと、ヘッドカバー133Aに形成した突部82Bが嵌合する凹溝91とから成り、締結面79の一部がヘッドカバー133A側に突出した膨出部86を有するシリンダヘッド132Aとヘッドカバー133Aとのシール構造において、膨出部86に対応するガスケット82の厚さまたは凹溝91の深さを調整して、締結面79に加わる締め付け荷重に対するガスケット82の変形量が同一になるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間にガスケットを設けて締結するシール構造において、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間の締結面が、平らな平面部と、シリンダヘッドカバー側に傾斜して膨出する膨出部とを有するものがあった(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、上記膨出部の形状に整合する形状のガスケットを用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60−188854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造では、締結面の形状に起因して、上記膨出部と上記平面部とでガスケットに作用する締め付け力が異なるため、膨出部のシール面に隙間ができ易く、均一にシールすることに課題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間のシール面に隙間が生じることを防止し、均一にシールできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、シリンダヘッドに締結具により締結されたシリンダヘッドカバーと、前記締結具の締め付け方向で前記シリンダヘッドと前記シリンダヘッドカバーとの間の締結面に介設されたガスケットとを備え、前記締結具の締め付け力により前記ガスケットがシリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に押し付けられると共に、前記ガスケットに前記シリンダヘッド側または前記シリンダヘッドカバー側のどちらか一方に設けた突部と、前記シリンダヘッドまたは前記シリンダヘッドカバーに形成した前記突部が嵌合する凹溝とから成り、前記締結面の一部が前記シリンダヘッド側または前記シリンダヘッドカバー側のどちらか一方に突出した膨出部を有するシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造において、前記膨出部に対応する前記ガスケットの厚さまたは前記凹溝の深さを調整して、前記締結面に加わる締め付け荷重に対する前記ガスケットの変形量が同一になるようにしたことを特徴とする。
この構成によれば、膨出部に対応するガスケットの厚さまたは凹溝の深さを調整することで、締結面の一部が突出した膨出部においても、締結面に加わる締め付け荷重に対するガスケットの変形量が他の締結面と同一になるため、シリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に隙間が生じることを防止でき、均一にシールすることができる。
【0006】
また、上位構成において、前記凹溝の深さは全周で同一とし、前記ガスケットの厚さを変化させても良い。
この場合、凹溝の深さが全周で同一であるため、凹溝を容易に加工できる。
また、前記ガスケットの前記突部の高さを一定とし、前記シリンダヘッドカバーの前記凹溝の深さを調整しても良い。
この場合、ガスケットの突部の高さが一定であるため、ガスケットの成形が容易である。
【0007】
さらに、前記突部の高さは前記締結面に加わる締め付け荷重の前記締結面に垂直な分力に比例して、その高さが低く形成されていても良い。
この場合、突部の高さを変えるだけでガスケットの厚みを調整できるので、ガスケットの成形が容易である。また、締結部に垂直な分力に比例して突部の高さを低く形成するため、締結面の荷重に合わせてガスケットの変形量を適切に設定でき、シリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に隙間が生じることを防止できる。
【0008】
さらにまた、前記ガスケットは、前記シリンダヘッド側シール面と前記シリンダヘッドカバー側シール面とに接する一定高さの基部と、前記基部から突出して前記凹溝に嵌合する前記突部とから形成され、前記突部の高さは前記締結面に加わる締め付け荷重の前記締結面に垂直な分力に比例して、その高さが低く形成されていても良い。
この場合、ガスケットの基部の高さを一定とし、突部の高さを低く形成するため、シリンダヘッド側シール面とシリンダヘッドカバー側シール面との間の距離を、基部によって一定にできると共に、突部の高さを変えるだけでガスケットの厚みを調整できるので、ガスケットの成形が容易である。
【0009】
また、前記膨出部の形状は底辺が上辺より長い台形形状であっても良い。
この場合、膨出部の上辺の締結面が直線で形成されており、ガスケットに生じる荷重が上辺の締結面と底辺側の直線の締結面とで同一になり、ガスケットの厚みを同一にできるため、ガスケットの成形が容易である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造では、膨出部に対応するガスケットの厚さまたは凹溝の深さを調整することで、締結面の一部が突出した膨出部においても、締結面に加わる締め付け荷重に対するガスケットの変形量が他の締結面と同一になるため、シリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に隙間が生じることを防止でき、均一にシールすることができる。
また、凹溝の深さが全周で同一とすることで、凹溝を容易に加工できる。
また、ガスケットの突部の高さを一定とすることで、ガスケットの成形を容易にできる。
【0011】
さらに、突部の高さを変えるだけでガスケットの厚みを調整できるので、ガスケットの成形が容易である。また、締結部に垂直な分力に比例して突部の高さを低く形成するため、締結面の荷重に合わせてガスケットの変形量を適切に設定でき、シリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に隙間が生じることを防止できる。
また、膨出部の上辺の締結面が直線で形成されており、ガスケットに生じる荷重が上辺の締結面と底辺側の直線の締結面とで同一になり、ガスケットの厚みを同一にできるため、ガスケットの成形が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造を適用した自動二輪車を示す右側面図である。
【図2】エンジンの内部構造を側方から見た図である。
【図3】図2の前バンクの内部構造を拡大して示す図である。
【図4】エンジンを上方から見た横断面図である。
【図5】前バンクの上部の右側面図である。
【図6】ヘッドカバーを上方から見た平面図である。
【図7】膨出部の近傍の断面図である。
【図8】図7における膨出部の締結面近傍の拡大図である。
【図9】ガスケットの平面図である。
【図10】ガスケットを膨出部の側の側面から見た側面図である。
【図11】ガスケット斜面部の断面を示す図10のXI−XI断面図である。
【図12】ガスケット平面部の断面を示す図10のXII−XII断面図である。
【図13】ガスケットをセンサ側膨出部の側の側面から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右及び上下といった方向の記載は、車体に対してのものとする。
図1は、本発明の実施の形態に係るシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造を適用した自動二輪車を示す右側面図である。この自動二輪車10は、車体フレーム11と、車体フレーム11の前端部に取り付けられたヘッドパイプ12に回動自在に支持された左右一対のフロントフォーク13と、フロントフォーク13の上端部を支持するトップブリッジ14に取り付けられた操舵用のハンドル15と、フロントフォーク13に回転自在に支持された前輪16と、車体フレーム11に支持された内燃機関としてのエンジン17と、エンジン17に排気管18A,18Bを介して連結された排気マフラー19A,19Bと、車体フレーム11の後下部のピボット20に上下に揺動自在に支持されたリアスイングアーム21と、このリアスイングアーム21の後端部に回転自在に支持された後輪22とを備え、リアスイングアーム21と車体フレーム11との間にリアクッション23が配設される。ハンドル15には、操縦者が操作するスロットル15Aが設けられ、スロットル15Aの操作によりエンジン17がコントロールされる。
【0014】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ12から後下がりに延びるメインフレーム25と、メインフレーム25の後部に連結される左右一対のピボットプレート(センターフレームとも言う)26と、ヘッドパイプ12から下方に延びた後に屈曲して延びてピボットプレート26に連結されるダウンチューブ27とを備えている。メインフレーム25を跨ぐように燃料タンク28が支持され、メインフレーム25後方が後輪22上方まで延びてリアフェンダ29が支持され、このリアフェンダ29上方から燃料タンク28までの間にシート30が支持される。なお、図1中、符号31はダウンチューブ27に支持されたラジエータ、符号32はフロントフェンダ、符号33はサイドカバー、符号34はヘッドライト、符号35はテールライト、符号36は乗員用ステップである。
【0015】
メインフレーム25、ピボットプレート26及びダウンチューブ27によって囲まれる空間にはエンジン17が支持される。エンジン17は、シリンダ(気筒)がV字状に前後にバンクした前後V型の2気筒水冷式4サイクルエンジンである。エンジン17は、車体に対してクランクシャフト105が左右水平方向に指向するように複数のエンジンブラケット37(図1では一部のみを図示)を介して車体フレーム11に支持される。エンジン17の動力は後輪22左側に配設されたドライブシャフト(不図示)を介して後輪22に伝達される。
【0016】
エンジン17は、シリンダを各々構成する前バンク110Aと後バンク110Bとの挟み角度(バンク角度とも言う)は90度より小さい角度(例えば、52度)で形成されている。各バンク110A,110Bの動弁装置はともに、4バルブのダブルオーバーヘッドカムシャフト(DOHC)方式に構成されている。
前バンク110Aと後バンク110Bとの間に形成されるV字状のVバンク空間Kには、エンジンの吸気系を構成するエアクリーナ41及びスロットルボディ42が配設される。スロットルボディ42は、エアクリーナ41で浄化された空気を前バンク110A及び後バンク110Bに供給する。また、各バンク110A,110Bには、エンジン排気系を構成する排気管18A,18Bが接続され、各排気管18A,18Bが車体右側を通ってその後端に排気マフラー19A,19Bが各々接続され、これら排気管18A,18B及び排気マフラー19A,19Bを介して排気ガスが排出される。
【0017】
図2はエンジン17の内部構造を側方から見た図であり、図3は、図2の前バンク110Aの内部構造を拡大して示す図である。
図2において、エンジン17の前バンク110A及び後バンク110Bは略同一の構造である。図2中、前バンク110Aはピストン周辺を示し、後バンク110Bはカムチェーン周辺を示している。また、図2において、符号121は中間シャフト(後側バランサシャフト)を示し、符号123はメインシャフトを示し、符号125はカウンタシャフトを示している。クランクシャフト105を含むこれらシャフト121,123,125は、車体前後方向及び上下方向にずらして互いに平行に配置され、これらシャフトを支持するクランクケース110C内には、クランクシャフト105の回転を、中間シャフト121、メインシャフト123及びカウンタシャフト125の順に伝達する歯車伝達機構が構成されている。
【0018】
図2に示すように、エンジン17のクランクケース110C上面には、前側シリンダブロック131A及び後側シリンダブロック131Bが車体前後に所定の挟み角度をなすように配置され、これらシリンダブロック131A、131Bの上面にシリンダヘッド132A、シリンダヘッド132Bが各々結合され、さらに各シリンダヘッド132A,132Bの上面にはヘッドカバー133A,133B(シリンダヘッドカバー)が各々装着されて前バンク110A及び後バンク110Bが構成される。
【0019】
各シリンダブロック131A,131Bには、シリンダボア135が各々形成され、各シリンダボア135にはそれぞれピストン136が摺動自在に挿入され、各ピストン136は、コンロッド137を介してクランクシャフト105に連結される。
各シリンダヘッド132A,132Bの下面には、ピストン136上方に形成される燃焼室140の天面を構成する燃焼凹部141が形成され、各燃焼凹部141には、点火プラグ142がその先端を臨ませて配置される。この点火プラグ142は、シリンダ軸線Cと略同軸に設けられる。
【0020】
エンジン17は、各燃焼凹部141に設けられたインジェクタ143から燃焼室140に直接燃料を噴射する筒内噴射式エンジンである。各インジェクタ143は、各シリンダヘッド132A,132BのVバンク内側側面から挿入され、その先端を各燃焼凹部141に臨ませて配置される。インジェクタ143は、シリンダ軸線Cに対して寝かせた状態で取り付けられる。
シリンダヘッド132Aの上部には、燃料ポンプ144が設けられ、燃料ポンプ144から燃料配管144Aを介して各インジェクタ143に燃料が供給される。
【0021】
各シリンダヘッド132A,132Bには、一対の開口部145Aによって各燃焼室140にそれぞれ連通する前吸気ポート301及び後吸気ポート302と、一対の開口部146Aによって各燃焼室140に連通する排気ポート146(シリンダヘッド132Bの排気ポートは不図示)とが形成されている。前吸気ポート301及び後吸気ポート302は、シリンダ軸線Cとインジェクタ143との間に配置される。
【0022】
前吸気ポート301と後吸気ポート302とは吸気チャンバ43で合流しており、この吸気チャンバ43はスロットルボディ42に連結される。シリンダヘッド132Aの排気ポート146は、排気管18A(図1参照)に連結されており、シリンダヘッド132Bの排気ポートは、排気管18B(図1参照)に連結されている。
【0023】
シリンダヘッド132A,132Bには、前吸気ポート301及び後吸気ポート302の各開口部145Aを開閉する一対の吸気弁147と、排気ポート146の各開口部146Aを開閉する一対の排気弁148とがそれぞれ配置される。吸気弁147及び排気弁148は、弁ばね149,149で各ポートを閉じる方向に各々付勢されている。各弁体147,148は、開閉のタイミングやリフト量等のバルブ作動特性を変更可能な動弁装置50によって駆動される。動弁装置50は、シリンダヘッド132A,132Bに回転可能に支持され、クランクシャフト105の回転に連動して回転する吸気側と排気側のカムシャフト151,152を備える。ここで、カムシャフト151,152は、図2及び図4中の反時計回転方向にそれぞれ回転する。
【0024】
カムシャフト151には、吸気カム153が一体に形成されている。吸気カム153は、円形のカム面を形成するベース円部153Aと、ベース円部153Aから外周側に突出したカム面を形成するカム山部153Bとを備えている。また、カムシャフト152には、排気カム154が一体に形成されている。排気カム154は、円形のカム面を形成するベース円部154Aと、ベース円部154Aから外周側に突出して山形のカム面を形成するカム山部154Bとを備えている。
【0025】
図2に示すように、シリンダヘッド132A,132Bの幅方向の一端側には、中間軸158が回転可能に支持され、この中間軸158に中間スプロケット159,160が固定される。カムシャフト151の一端側には被動スプロケット161が固定され、カムシャフト152の一端側には被動スプロケット162が固定され、クランクシャフト105の両端側には駆動スプロケット163が固定される。これらスプロケット159,163間には第1カムチェーン164が巻回され、スプロケット160〜162間には第2カムチェーン165が巻回される。これらスプロケット159〜163及びカムチェーン164,165は、各バンク110A、110Bの一端側に形成されたカムチェーン室166に収容される。
【0026】
駆動スプロケット163から被動スプロケット161,162への減速比は2に設定され、クランクシャフト105が回転すると、クランクシャフト105と一体に駆動スプロケット163が回転し、カムチェーン164,165を介して被動スプロケット161,162がクランクシャフト105の半分の回転速度で回転される。そして、被動スプロケット161,162と一体に回転するカムシャフト151,152のカムプロフィールに従って吸気弁147及び排気弁148が前後吸気ポート301,302及び各バンク110A、110Bの排気ポート146を各々開閉させる。
【0027】
クランクシャフト105の左端部には図示しない発電機が設けられ、クランクシャフト105の右端部には、上記右側の駆動スプロケット163の内側(車体左側)に駆動歯車(以下、クランク側駆動歯車という)175が固定される。このクランク側駆動歯車175は、中間シャフト121に設けられた被動歯車(以下、中間側被動歯車という)177と噛み合い、クランクシャフト105の回転を等速で中間シャフト121に伝達し、クランクシャフト105と同速かつ逆向きで中間シャフト121を回転させる。
【0028】
中間シャフト121は、クランクシャフト105の後側下方かつメインシャフト123の前側下方に回転可能に支持されている。
この中間シャフト121の右端部には、オイルポンプ用駆動スプロケット181と、上記中間側被動歯車177と、この被動歯車177より小径の駆動歯車(以下、中間側駆動歯車という)182とが順に取り付けられている。
オイルポンプ用駆動スプロケット181は、中間シャフト121の後側であって、メインシャフト123下方に配置されたオイルポンプ184の駆動軸185に固定された被動スプロケット186に伝動チェーン187を介して該中間シャフト121の回転力を伝達し、オイルポンプ184を駆動させる。
【0029】
また、中間側駆動歯車182は、メインシャフト123に相対回転自在に設けられた被動歯車(以下、メイン側被動歯車という)191に噛み合い、中間シャフト121の回転を減速してクラッチ機構(不図示)を介してメインシャフト123に伝達する。すなわち、中間側駆動歯車182及びメイン側被動歯車191の減速比によって、クランクシャフト105からメインシャフト123までの減速比、つまり、エンジン17の1次減速比が設定される。
【0030】
メインシャフト123は、クランクシャフト105の後側上方に回転可能に支持され、メインシャフト123の略後方には、カウンタシャフト125が回転可能に支持される。メインシャフト123とカウンタシャフト125には、図示しない変速歯車群が跨って配置され、これらによって変速装置が構成される。
カウンタシャフト125の左端部は、車体の前後方向に延びるドライブシャフト(不図示)に連結される。これによって、カウンタシャフト125の回転がドライブシャフトに伝達される。
【0031】
動弁装置50は、図3に示すように、シリンダ軸線Cを中心として吸気側と排気側とに独立して対称に設けられている。前バンク110A及び後バンク110Bの動弁装置50は略同一構造であるため、本実施の形態では、前バンク110Aの吸気側の動弁装置50について説明する。
【0032】
図4は、エンジン17を上方から見た横断面図である。なお、図4では、前後バンク110A,110Bは、エンジン17の上方からシリンダ軸線C(図2参照)に沿って見た図が示されている。
図3及び図4に示すように、動弁装置50は、カムシャフト151(排気側ではカムシャフト152)と、カムシャフト151と一体回転する吸気カム153(排気側では排気カム154)と、吸気弁147(排気側では排気弁148)を開閉するロッカアーム51と、カムシャフト151に相対回転可能に支持され、ロッカアーム51を介して吸気弁147を開閉する動弁カム52と、カムシャフト151の周りを揺動自在なホルダ53と、ホルダ53に揺動可能に支持され、吸気カム153の弁駆動力を動弁カム52に伝達し、動弁カム52を揺動させるリンク機構56と、ホルダ53を揺動させる駆動機構60(図4参照)とを備えている。また、リンク機構56は、ホルダ53に連結されるサブロッカアーム54と、サブロッカアーム54と動弁カム52とを揺動可能に連結するコネクトリンク55とを備えている。
【0033】
ロッカアーム51は幅広に形成されており、1つのロッカアーム51によって一対の吸気弁147を開閉する。ロッカアーム51は、一端部において、シリンダヘッド132Aに固定されるロッカアームピボット51Aに揺動可能に支持される。ロッカアーム51の中央部には、動弁カム52に接触するローラ51Cが回転可能に支持されている。
【0034】
図4に示すように、車幅方向に延在するカムシャフト151には、一端側に被動スプロケット161が固定され、カムシャフト151の軸方向中間部には、吸気カム153及び、吸気カム153に隣接する動弁カム52が設けられている。動弁カム52は、吸気弁147を閉弁状態に維持するベース円部52Aと、吸気弁147を押し下げて開弁させるカム山部52Bとを有し、カムシャフト151に対して相対回転可能に軸支されている。また、動弁カム52は、リンク機構56を介してホルダ53に連結されており、駆動機構60によってホルダ53がカムシャフト151に対して相対回転されると、カムシャフト151に対して相対回転する。さらに、動弁カム52には、動弁カムリターンスプリング57(図4参照)が連結されており、動弁カム52は、動弁カムリターンスプリング57によってカム山部52Bがロッカアーム51のローラ51Cから離れる方向に回転するように付勢されている。
【0035】
ホルダ53は、吸気カム153及び動弁カム52を挟んでカムシャフト151の軸方向に所定の間隔を空けて配置される第1,第2プレート53A,53Bと、第1,第2プレート53A,53Bをカムシャフト151の軸方向に連結する連結部材59とを備えている。サブロッカアーム54の一端は、連結部材59に回動自在に連結されている。
また、第2プレート53Bには、ホルダ53を駆動機構60に連結する連結リンク部材63が接続されている。
【0036】
サブロッカアーム54は、第1,第2プレート53A,53B間に吸気カム153及び動弁カム52と共に配置されており、その一端部において連結部材59に回転可能に支持され、連結部材59を中心として揺動するようになっている。サブロッカアーム54の中央部には、吸気カム153に接触してベース円部153A及びカム山部153Bを押圧するローラ54Aが回転可能に支持されている。サブロッカアーム54の他端部には、コネクトリンク55が連結され、コネクトリンク55の他端には、動弁カム52が揺動可能に連結されている。
また、サブロッカアーム54は、連結部材59の円筒状の収容部74に収容されたサブロッカアームリターンスプリング58により付勢されており、サブロッカアーム54のローラ54Aは常に吸気カム153に押し付けられている。
【0037】
ホルダ53を揺動させる駆動機構60は、車両の電子制御ユニットとしてのECU(不図示)に接続された電動アクチュエータ70と、カムシャフト151,152に直交して前後に延在するボールねじ61と、ボールねじ61上を軸方向に移動可能な2つのナット62を備えて構成されている。各ナット62は、各連結リンク部材63(図4参照)を介して吸気側及び排気側の動弁装置50の各ホルダ53に連結されている。電動アクチュエータ70の駆動によってボールねじ61が回転されると、各ナット62がボールねじ61上を移動し、各ナット62と各ホルダ53とを連結する連結リンク部材(不図示)を介して各ホルダ53が揺動される。
【0038】
駆動機構60は、シリンダヘッド132Aの一側面に沿って設けられ、電動アクチュエータ70は、シリンダヘッド132Aの外側側面に固定され、シリンダヘッド132Aの側壁の内外に亘って設けられる歯車列70Aを介してボールねじ61を駆動する。
また、ボールねじ61の端部には、ボールねじ61の回転量を検出するセンサ76が設けられている。センサ76は、シリンダヘッド132AのVバンク空間K内に位置する側壁部に固定されている。
駆動機構60は、上記ECUによって制御され、エンジン17の運転状態に応じてホルダ53を揺動させることで、吸気弁147及び排気弁148の開閉のバルブ作動特性を変更し、所望の燃焼条件を実現する。
【0039】
ここで、動弁装置50の開弁及び閉弁の動作を説明する。
上記のように構成された動弁装置50において、図3を参照し、カムシャフト151が図中の反時計方向に回転されると、カムシャフト151と一体に回転する吸気カム153のカム山部153Bにより、サブロッカアーム54がローラ54Aを介して押し上げられて連結部材59を中心として揺動し、これに伴い、コネクトリンク55を介して動弁カム52がカムシャフト151を中心として図3中の時計回りに回転する。そして、動弁カム52の回転によりカム山部52Bがローラ51Cを介してロッカアーム51と共に吸気弁147を押し下げ、吸気弁147が開弁される。
また、カムシャフト151がさらに回転されて吸気カム153のベース円部153Aがローラ54Aに当接する状態では、サブロッカアーム54がサブロッカアームリターンスプリング58により押し下げられると共に、動弁カム52が動弁カムリターンスプリング57より図3中の反時計回りに回転させられてベース円部52Aがローラ51Cに当接する。これにより、吸気弁147は弁ばね149により押し上げられて閉弁される。
【0040】
次に、動弁装置50におけるバルブ作動特性の変更動作について説明する。
図3に示すように、ホルダ53は、駆動機構60の駆動によって図3中の矢印A方向または矢印B方向に移動される。
ホルダ53が矢印AまたはBの方向に揺動すると、リンク機構56がカムシャフト151を中心にそれぞれ揺動する。リンク機構56の位置が変化することにより、ローラ54A及び動弁カム52は、カムシャフト151を中心にそれぞれ揺動し、カムシャフト151に対して周方向に位置が変位されて、吸気カム153の回転に対する動弁カム52の揺動の位相、及び、揺動の初期位置が変更される。ここで、動弁カム52の揺動の初期位置とは、ローラ54Aが吸気カム153のベース円部153Aに当接しており、サブロッカアーム54がカム山部153Bによって押し上げられていない状態における動弁カム52の揺動位置を指している。
このように、吸気カム153に対する動弁カム52の揺動の位相及び揺動位置を変化させることで、動弁カム52のカム山部52Bがローラ51Cに当接する時期、期間、及び、カム山部52Bがローラ51Cを押し下げる量を変更できるため、吸気弁147の開閉時期、開弁期間、及び、リフト量を変更することができる。
【0041】
図5は、前バンク110Aの上部の右側面図である。図6は、ヘッドカバー133Aを上方から見た平面図である。図6においては、図中の上方向が車両の前方向に相当する。
図5及び図6に示すように、ヘッドカバー133Aは、一面が開口した箱型に形成されたカバーであり、略矩形の天面80と、天面80の縁部から立設された側壁81とを有している。ヘッドカバー133Aの側壁81の下面は枠状に形成され、ヘッドカバー133Aは、上記枠状の下面をシリンダヘッド132Aの上面に合わせるようにして被せられることで、シリンダヘッド132Aに搭載された動弁装置50を覆っている。
【0042】
シリンダヘッド132Aとヘッドカバー133Aとの間の締結面79には、シリンダヘッド132Aとヘッドカバー133Aとの間を密閉状態にシールする枠状のガスケット82が介設されている。ここで、ガスケット82は、二トリルゴムやアクリルゴム等の弾性材料により構成されている。
また、ガスケット82は、ヘッドカバー133Aによって形成されるシリンダヘッド132A上部の空間を密閉するものであり、ヘッドカバー133Aの内側と外側とではそれほど大きな圧力差は生じず、ヘッドカバー133A内の動弁装置50等に供給される潤滑油が外側に漏れないようにシールできれば良い。
シリンダヘッド132Aの上面には、ガスケット82に当接する枠状のシリンダヘッド側シール面83が形成され、ヘッドカバー133Aの側壁81の下面には、ガスケット82に当接する枠状のヘッドカバー側シール面84(シリンダヘッドカバー側シール面)が形成されている。
【0043】
ヘッドカバー133Aは、天面80に設けられてシリンダヘッド132Aに締結される複数のボルト85(締結具)によってシリンダヘッド132Aに固定され、ガスケット82は、ボルト85の締結力によって、ヘッドカバー側シール面84とシリンダヘッド側シール面83との間に挟まれて押し付けられることで変形し、締結面79をシールする。ボルト85は、ヘッドカバー133Aの四隅近傍の4箇所の座部78にそれぞれ設けられ、平面視においてシリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84の外縁よりも内側に配置される。このように、ボルト85がヘッドカバー133Aの四隅近傍の4箇所に設けられているため、締結面79の全周に亘って均一に締結力を作用させることができる。
また、天面80には、点火プラグ142が挿入されるプラグ穴65、及び、燃料ポンプ144が固定されるポンプ固定部66が設けられている。
【0044】
図4及び図5に示すように、シリンダヘッド132Aの右側面には、電動アクチュエータ70が設けられており、シリンダヘッド132Aの上部において電動アクチュエータ70が固定される部分は、シリンダヘッド132A側の締結面79を構成する壁部の一部がヘッドカバー133A側に突出した膨出部86となっている。膨出部86には、車幅方向外側に突出した取付部87が形成されており、電動アクチュエータ70は、取付部87に固定されている。
【0045】
膨出部86は、前後方向ではシリンダヘッド132Aの右側面の前部から前後の中間部まで延在し、上下方向には天面80の近傍まで延びている。膨出部86は台形形状に形成され、上記台形形状の底辺部86A(底辺)は、天面80近傍の上辺部86B(上辺)よりも長く形成されている。また、膨出部86の底辺部86Aと上辺部86Bとの間は、底辺部86Aから上辺部86Bまで先細りとなるように傾斜して延びる斜面部86Cによって繋がれている。詳細には、斜面部86Cと上辺部86Bとの間は、曲面部86Dによって滑らかに繋がれている。そして、上辺部86B、斜面部86C、及び、曲面部86Dは、シリンダヘッド132Aの上面に形成されたシリンダヘッド側シール面83の一部を構成している。
【0046】
また、図4及び図5に示すように、シリンダヘッド132AにおけるVバンク空間K側の側壁には、センサ76が設けられており、シリンダヘッド132Aの上部においてセンサ76が固定される部分は、シリンダヘッド132Aの壁部の一部がヘッドカバー133A側に膨出したセンサ側膨出部88となっている。センサ76はヘッドカバー133Aの高さの中間部に位置し、センサ側膨出部88はセンサ76の僅かに上方まで延びている。センサ側膨出部88の上縁部は、シリンダヘッド側シール面83の一部を構成している。
膨出部86の上辺部86B及び斜面部86C、及び、センサ側膨出部88以外のシリンダヘッド側シール面83は、ヘッドカバー側シール面84の下面に沿って平らに延びる平面部83Aとなっている。
【0047】
ヘッドカバー133Aの側壁81において膨出部86に対応した位置には、組み付けられた状態において膨出部86に整合し、締結面79をシールできるように形成された凹状部90が形成されている。凹状部90は、膨出部86の上辺部86B、斜面部86C、及び、曲面部86Dにそれぞれ対応するカバー側上辺部90B、カバー側斜面部90C、及び、カバー側曲面部90Dを有している。
また、ヘッドカバー側シール面84の下面は、シリンダヘッド側シール面83の平面部83Aに対応するカバー側平面部84Aとなっている。
【0048】
図7は、膨出部86の近傍の断面図である。ここで、図7では、電動アクチュエータ70及び取付部87の図示を省略している。
図7に示すように、膨出部86では、ガスケット82は、シリンダヘッド側シール面83の上辺部86Bとヘッドカバー側シール面84のカバー側上辺部90Bとの間に設けられている。また、膨出部86及びセンサ側膨出部88(図5参照)以外の部分では、ガスケット82は平面部83Aとカバー側平面部84Aとの間に設けられている。
【0049】
図8は、図7における膨出部86の締結面79近傍の拡大図である。図9は、ガスケット82の平面図である。
図8に示すように、ガスケット82は、板状の基部82Aと、基部82Aからヘッドカバー側シール面84の側に突出する突部82Bとを有している。突部82Bは、基部82Aの幅方向中央に立設されている。また、基部82Aは、突部82Bと反対側にシリンダヘッド側シール面83側に突出する凸部82Cを有している。凸部82Cは、基部82Aの幅方向に複数並んで形成され、凸部82Cの突出量は突部82Bの突出量よりも小さくなっている。図9に示すように、ガスケット82は枠状に連続して形成され、その枠形状の何れの断面においても図8に示す基部82A、突部82B及び凸部82Cを有している。
【0050】
図8に示すように、シリンダヘッド側シール面83は平坦に形成されており、その枠形状の全周に亘って平坦になっている。一方、ヘッドカバー側シール面84には、ガスケット82側とは反対側に凹んだ凹溝91が形成されており、凹溝91にはガスケット82の突部82Bが嵌合される。凹溝91は、枠形状に形成されたヘッドカバー側シール面84の全周に亘って形成されている。
【0051】
凹溝91の深さは、ヘッドカバー133Aに組み付けされる前の自然状態の突部82Bの突出量よりも小さく設定されており、組み付けられた状態では、突部82Bは凹溝91によって基部82Aの側に圧縮されて縮んだ状態となる。また、凹溝91の深さは、全周に亘って同一に形成されているため、凹溝91の加工が容易である。ここで、ガスケット82の自然状態とは、ガスケット82が組み付けされておらず、ガスケット82が圧縮されていない状態を指している。
また、基部82Aは、組み付けられた状態では、シリンダヘッド側シール面83とヘッドカバー側シール面84との両方に当接して挟まれ、圧縮されて縮んだ状態となる。このように、ガスケット82の基部82A及び突部82Bが圧縮された状態で締結面79がシールされるため、締結面79を確実にシールできる。
【0052】
図10は、ガスケット82を膨出部86の側の側面から見た側面図である。
図5及び図10に示すように、ガスケット82は、シリンダヘッド側シール面83の形状に整合するように屈曲して形成されており、膨出部86に当接するガスケット膨出部92、センサ側膨出部88に当接するセンサ側ガスケット膨出部93、及び、シリンダヘッド側シール面83の平面部83Aに当接するガスケット平面部94を有している。
詳細には、ガスケット膨出部92は、膨出部86の上辺部86Bに当接するガスケット上辺部92B、斜面部86Cに当接するガスケット斜面部92C、及び、曲面部86Dに当接するガスケット曲面部92Dを有している。
【0053】
ここで、ヘッドカバー133Aが組み付けられる際のガスケット82の変形状態について説明する。
ヘッドカバー133Aがシリンダヘッド132Aに組み付けられると、図10に示すように、ボルト85の締結によって、ヘッドカバー133Aには、ボルト85の締め付け方向と平行な締め付け力F(締め付け荷重)がその全周に亘って略均一に作用し、ガスケット82は、ヘッドカバー側シール面84を介してシリンダヘッド側シール面83に押し付けられる。
【0054】
そして、シリンダヘッド側シール面83の平面部83Aに当接するガスケット平面部94の面には、カバー側平面部84Aを介して締め付け力Fがそのまま垂直に作用する。また、膨出部86の上辺部86Bに当接するガスケット上辺部92Bの面にも、カバー側上辺部90Bを介して締め付け力Fがそのまま垂直に作用する。
一方、膨出部86の斜面部86Cに当接するガスケット斜面部92Cにおいては、カバー側斜面部90Cを介して締め付け力Fがガスケット斜面部92Cに作用するが、斜面部86Cの面は締め付け力Fの方向に対して垂直でなく傾斜しているため、ガスケット斜面部92Cの面には締め付け力Fの大きさはそのまま作用しない。斜面部86Cにおいては、ガスケット斜面部92Cは、締め付け力Fの分力の内、斜面部86Cの面に対して垂直に作用する分力C1によって変形させられる。この分力C1は、斜面部86Cの面に対して垂直にガスケット斜面部92Cを圧縮変形させる締め付け力である。
【0055】
このように膨出部86を含むと、ガスケット平面部94、ガスケット上辺部92B、ガスケット斜面部92C、及び、ガスケット曲面部92Dに対し、作用する荷重の大きさが異なるため、この実施の形態では、例えば、ガスケット平面部94、ガスケット上辺部92B、ガスケット斜面部92C、及び、ガスケット曲面部92Dの厚さを異なる厚さに設定する。
本実施の形態では、ボルト85の締め付け方向と平行な締め付け力F(締め付け荷重)に対するガスケット82の各部の変形量が略同一になるように、ガスケット82の各部の厚さが設定されている。
【0056】
上述した分力C1は、ガスケット斜面部92C(斜面部86C)のガスケット平面部94に対する傾斜角度をA1とした場合、FcosA1で求められる。すなわち、ガスケット斜面部92Cの傾斜角度A1が大きくなる程、分力C1は小さくなる。このため、ガスケット斜面部92Cの面に対する垂直締め付け荷重は、ガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bの面に対する垂直締め付け荷重よりも小さくなる。
【0057】
図11は、ガスケット斜面部92Cの断面を示す図10のXI−XI断面図である。図12は、ガスケット平面部94の断面を示す図10のXII−XII断面図である。なお、図11及び図12では、組み付けられて変形した状態のガスケット82を2点鎖線で示している。
この構成では、締結面79に対する垂直締め付け荷重の大きさに応じてガスケット82の各部位での厚さを変えてガスケット82を成形しておくことで、組み付け状態におけるガスケット82の各部位での潰し量(変形量)を変化させている。
図11に示すように、ガスケット斜面部92Cにおける基部82Aの自然状態の厚さTaは、図12に示すガスケット平面部94での基部82Aの基準厚さを基準厚さT1、ガスケット平面部94での基部82Aの潰し量を潰し量E1とした場合、例えば下記式(1)に示すように、所定の演算式によって決定される。
Ta=T1+E1cosA1…(1)
また、ガスケット斜面部92Cにおける突部82Bの厚さTb(図11参照)は、ガスケット平面部94での突部82Bの基準厚さを基準厚さT2(図12参照)、ガスケット平面部94での突部82Bの潰し量を潰し量E2とした場合、例えば下記式(2)に示すように、所定の演算式によって決定される。
Tb=T2+E2cosA1…(2)
【0058】
ここで、基準厚さT1、T2は、ガスケット82が締結面79に組み付けられて圧縮された状態の厚さであり、自然状態のガスケット82の厚さから潰し量を差し引いた厚さである。また、厚さTa、T1、Tb、T2及び潰し量E1、E2の単位は厚さ(mm)であり、傾斜角度A1の単位は角度(°)である。
そして、ガスケット斜面部92Cの厚さは、式(1)及び式(2)で算出された基部82Aの厚さTaと突部82Bの厚さTbとを足し合わせた厚さである。
【0059】
上記式(1)、(2)から分かるように、ガスケット斜面部92Cでの潰し量は、ガスケット平面部94での潰し量E1、E2を基準として、傾斜角度A1に起因して小さくなった分力C1の締め付け力Fに対する割合に対応して、潰し量E1、E2よりも小さな潰し量に設定されている。そして、基部82Aの厚さTa及び突部82Bの厚さTbは、ガスケット平面部94での基準厚さT1、厚さT2に、分力C1に対応して設定された潰し量をそれぞれ足し合わせることで決定される。すなわち、基部82A及び突部82Bの高さ(厚さ)は、斜面部86Cに垂直な分力C1に比例してその高さがガスケット平面部94よりも低く形成される。また、基部82A及び突部82Bの高さは、斜面部86Cに垂直な分力C1に比例して低く形成されるが、締結面79をシールするガスケットとしての機能を保持可能な厚さは維持される。
なお、ここでは、図10左側のガスケット斜面部92Cについて説明したが、図10中右側のガスケット斜面部92Cについても、このガスケット斜面部92Cとガスケット平面部94の傾斜角度A1に基づいて上記式(1)、(2)によって基部82A及び突部82Bの高さが設定される。
【0060】
次に、ガスケット82の厚さの一例を示す。
例えば、基部82Aの基準厚さT1が2.0(mm)、突部82Bの基準厚さT2が3.0(mm)であり、ガスケット平面部94での潰し量E1が0.5(mm)、潰し量E2が0.6(mm)で設定された場合、ガスケット平面部94の厚さは、これらを足し合わせて求められ、6.1(mm)となる。そして、ここでは、一例として、傾斜角度A1は70(°)であり、ガスケット斜面部92Cでの潰し量は、E1cosA1及びE2cosA1の関係によってそれぞれ求められ、基部82Aで0.17(mm)、突部82Bで0.21(mm)である。ガスケット斜面部92Cの厚さは、基準厚さT1、基準厚さT2及びガスケット斜面部92Cでの潰し量を足し合わせて求められ、5.38(mm)となる。
なお、ガスケット82の潰し量は、例えば上記の値の少数点2位を四捨五入して、基部82Aで0.2(mm)、突部82Bで0.2(mm)としても良い。
【0061】
ガスケット82はボルト85の締め付け力によって締結面79に狭持されて組み付けられ、この状態では、ガスケット82の厚さはその枠形状の全周に亘って基準厚さT1、T2になり、上記ガスケット82では、基部82Aが2.0(mm)まで圧縮され、突部82Bが3.0(mm)まで圧縮される。このように、組み付け状態ではガスケット82の厚さが全周に亘って一定の基準厚さになるため、ヘッドカバー133Aが締結面79に対して傾いて固定されることがなく、確実にシールできる。
【0062】
本実施の形態では、締め付け力Fの大きさに対する分力C1の大きさの割合と、ガスケット平面部94での潰し量E1、E2に対するガスケット斜面部92Cでの潰し量の割合とが等しく設定されており、締結面79に対して垂直に加わる締め付け荷重に対するガスケット82の変形量の割合が、ガスケット82の全周に亘って同一になるようにガスケット82の厚さが設定されている。これにより、締結面79の一部が突出した膨出部86の斜面部86Cにおいても、分力C1に対するガスケット斜面部92Cの変形量の割合が、平面部83A及び上辺部86Bの締め付け力Fに対するガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bの変形量の割合と同一になるため、シリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に隙間が生じることを防止でき、均一にシールすることができる。ここでは、分力C1に対するガスケット斜面部92Cの変形量の割合が、平面部83A及び上辺部86Bの締め付け力Fに対するガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bの変形量の割合と同一になるものとして説明したが、これら変形量の割合は完全に同一である必要はなく、ガスケット82や凹溝91の寸法精度や精度設定により変更されても良く、略同一であっても良い。
また、動弁装置50の電動アクチュエータ70及びセンサ76がそれぞれ取り付けられる膨出部86及びセンサ側膨出部88の締結面79を、ガスケット82によって確実にシールでき、電動アクチュエータ70及びセンサ76をシリンダヘッド132Aの外側に配置できる。このため、エンジン17の組立て性及びメンテナンス性を向上できる。
【0063】
本実施の形態では、上述のように、ガスケット斜面部92Cでの突部82Bの潰し量は0.21(mm)に設定されているが、例えば、この潰し量が分力C1の大きさに対応して設定されずにガスケット平面部94と同じ0.5(mm)で設定された場合、斜面部86Cに加わる分力C1に対するガスケット斜面部92Cの変形量の割合が、他の締結面79の締め付け力Fに対するガスケット82の変形量の割合よりも大きくなり、ガスケット82が潰れきれずに、組み付け性に問題が生じたり、シール性能が低下したりする恐れがある。
【0064】
また、図10に示すように、ガスケット82はガスケット曲面部92Dを有し、このガスケット曲面部92Dにおいては、基部82A及び突部82Bの厚さは、ガスケット斜面部92Cからガスケット上辺部92Bにかけて連続的に厚くなるように滑らかに繋がれている。このため、ガスケット曲面部92Dに加わる締め付け力によるガスケット曲面部92Dの変形量の割合が、他の締結面79の締め付け力Fに対するガスケット82の変形量の割合と略同一になるため、シリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に隙間が生じることを防止でき、均一にシールすることができる。
【0065】
図13は、ガスケット82をセンサ側膨出部88の側の側面から見た側面図である。図13では、シリンダヘッド側シール面83の輪郭線を2点鎖線で示している。
図5及び図13に示すように、センサ側膨出部88は、天面80の側に上方へ向かって先細りとなるように突出し、上部に形成された円弧状曲面部88A、及び、円弧状曲面部88Aとガスケット平面部94とを繋ぐセンサ側斜面部88Bを有している。
ガスケット82のセンサ側ガスケット膨出部93は、センサ側膨出部88の輪郭に沿って設けられ、円弧状曲面部88Aに沿うガスケット円弧状曲面部93Aと、センサ側斜面部88Bに沿うガスケット斜面部93Bとを有している。
【0066】
ガスケット斜面部93Bは、ガスケット平面部94に対して傾斜角度A2だけ傾いて設けられており、傾斜角度A2はガスケット斜面部92Cの傾斜角度A1よりも大きい角度である。このため、ガスケット斜面部93Bにおける基部82A及び突部82Bの厚さは上記式(1)、(2)に基づいて、ガスケット斜面部92Cよりも小さく設定されている。また、ガスケット円弧状曲面部93Aの頂部93Cは、締め付け力Fに対して垂直な面であるため、頂部93Cの厚さはガスケット平面部94と同一に設定されている。
【0067】
ガスケット円弧状曲面部93Aでは、基部82A及び突部82Bの厚さは、ガスケット斜面部93Bの上端から頂部93Cにかけて連続的に厚くなるように滑らかに繋がれている。このため、ガスケット円弧状曲面部93Aに加わる締め付け力によるガスケット円弧状曲面部93Aの変形量の割合が、他の締結面79の締め付け力Fに対するガスケット82の変形量の割合と略同一になるため、シリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に隙間が生じることを防止でき、均一にシールすることができる。
なお、図13では、ガスケット82及びシリンダヘッド側シール面83を示す線の重複を避けるためにシリンダヘッド側シール面83の輪郭線をガスケット82の下方に離して示したが、シリンダヘッド側シール面83はガスケット82に沿って形成されている。
【0068】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、膨出部86の斜面部86Cに対応するガスケット斜面部92Cにおける基部82A及び突部82Bの厚さを調整し、ガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bでの基部82A及び突部82Bの厚さよりも薄くすることで、シリンダヘッド132Aとヘッドカバー133Aとの間の締結面79の一部が突出した膨出部86においても、締結面79に加わるボルト85による締め付け力Fの分力C1に対するガスケット斜面部92Cの変形量の割合が、他の締結面79の締め付け力Fに対するガスケット82の変形量の割合と同一になる。このため、ガスケット82が全周に亘って安定的に変形し、シリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に隙間が生じることを防止できるため、締結面79を均一にシールすることができる。
【0069】
また、ガスケット斜面部92Cでは、ガスケット斜面部92Cの面に垂直に作用する締め付け力Fの分力C1に比例させて、ガスケット斜面部92Cの突部82Bの高さを、締め付け力Fが垂直に作用するガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bの突部82Bよりも低く形成するため、締結面79に加わる締め付けの荷重に合わせてガスケット82の変形量を適切に設定できる。このため、シリンダヘッド側シール面83及びヘッドカバー側シール面84に隙間が生じることを防止できる。また、突部82Bの高さを変えるだけでガスケット82の厚みを調整できるので、ガスケット82の成形が容易である。
さらに、膨出部86の上辺部86Bが直線で形成されており、ガスケット82に生じる締め付け力Fが上辺部86Bと底辺側の直線のガスケット平面部94とで同一になり、ガスケット82の厚みを同一にできるため、ガスケット82の成形が容易である。
【0070】
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されない。
上記実施の形態においては、ヘッドカバー133A側に設けたガスケット82の突部82Bがヘッドカバー133A側の凹溝91に嵌合するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、シリンダヘッド132Aに設けたガスケット82の突部を、シリンダヘッド132A側に形成した凹溝に嵌合させても良い。
また、上記実施の形態では、膨出部86は、シリンダヘッド132A側の締結面79を構成する壁部の一部がヘッドカバー133A側に膨出したものであるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、膨出部は、ヘッドカバー133A側の締結面79を構成する壁部の一部がシリンダヘッド132A側に膨出したものであっても良い。
【0071】
さらに、上記実施の形態では、ガスケット82の突部82Bの厚さを調整するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、突部82Bの厚さをガスケット82の全周に亘って一定とし、突部82Bが嵌合する凹溝91の深さを調整、すなわち、ガスケット斜面部92Cの突部82Bが嵌合する部分の凹溝91の深さを、ガスケット平面部94及びガスケット上辺部92Bの突部82Bが嵌合する部分の凹溝91の深さよりも浅く形成することで、締結面79に加わる締め付け荷重に対するガスケット82の変形量の割合が同一になるようにしても良い。この場合、ガスケット82の突部82Bの厚さを一定にできるため、ガスケット82の成形が容易になる。
また、上記実施の形態では、ガスケット82の基部82A及び突部82Bの高さ(厚さ)をガスケット斜面部92Cで低く形成するものとして説明したが、これに限らず、基部82Aの高さをガスケット82の全周に亘って一定高さとし、突部82Bの高さのみをガスケット斜面部92Cにおいて低く形成しても良い。この場合、基部82Aの高さを一定とし、突部82Bの高さを低く形成するため、シリンダヘッド側シール面83とヘッドカバー側シール面84との間の距離を、基部82Aによって一定にすることが可能であると共に、突部82Bの高さを変えるだけでガスケット82の厚みを調整できるので、ガスケット82の成形が容易である。
また、上記実施の形態では、膨出部86は、シリンダヘッド132A側の締結面79を構成する壁部の一部がヘッドカバー133A側に膨出したものであるとして説明したが、これに限らず、膨出部は、シリンダヘッド132Aとは別の部品をシリンダヘッド132Aに一体的に設けたものであっても良い。
また、自動二輪車10のその他の細部構成についても任意に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
79 締結面
82 ガスケット
82A 基部
82B 突部
83 シリンダヘッド側シール面
84 ヘッドカバー側シール面(シリンダヘッドカバー側シール面)
85 ボルト(締結具)
86 膨出部
86A 底辺部(底辺)
86B 上辺部(上辺)
91 凹溝
132A シリンダヘッド
133A ヘッドカバー(シリンダヘッドカバー)
C1 分力
F 締め付け力(締め付け荷重)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに締結具により締結されたシリンダヘッドカバーと、前記締結具の締め付け方向で前記シリンダヘッドと前記シリンダヘッドカバーとの間の締結面に介設されたガスケットとを備え、前記締結具の締め付け力により前記ガスケットがシリンダヘッド側シール面及びシリンダヘッドカバー側シール面に押し付けられると共に、前記ガスケットに前記シリンダヘッド側または前記シリンダヘッドカバー側のどちらか一方に設けた突部と、前記シリンダヘッドまたは前記シリンダヘッドカバーに形成した前記突部が嵌合する凹溝とから成り、前記締結面の一部が前記シリンダヘッド側または前記シリンダヘッドカバー側のどちらか一方に突出した膨出部を有するシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造において、
前記膨出部に対応する前記ガスケットの厚さまたは前記凹溝の深さを調整して、前記締結面に加わる締め付け荷重に対する前記ガスケットの変形量が同一になるようにしたこと、
を特徴とするシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。
【請求項2】
前記凹溝の深さは全周で同一とし、前記ガスケットの厚さを変化させたこと、
を特徴とする請求項1記載のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。
【請求項3】
前記ガスケットの前記突部の高さを一定とし、前記シリンダヘッドカバーの前記凹溝の深さを調整したこと、
を特徴とする請求項1記載のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。
【請求項4】
前記突部の高さは前記締結面に加わる締め付け荷重の前記締結面に垂直な分力に比例して、その高さが低く形成されていること、
を特徴とする請求項2記載のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。
【請求項5】
前記ガスケットは、前記シリンダヘッド側シール面と前記シリンダヘッドカバー側シール面とに接する一定高さの基部と、前記基部から突出して前記凹溝に嵌合する前記突部とから形成され、前記突部の高さは前記締結面に加わる締め付け荷重の前記締結面に垂直な分力に比例して、その高さが低く形成されていること、
を特徴とする請求項2記載のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。
【請求項6】
前記膨出部の形状は底辺が上辺より長い台形形状であること、
を特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−127455(P2011−127455A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284419(P2009−284419)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】